「生保の資産運用方針」

インシュアランス生保版(2021年11月号第4集)に執筆したコラムです。「主張」という名前のコラム欄なので、毎回できるだけ何かを主張するようにしています。
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毎年4月下旬と10月下旬になると、国内系の主要な生命保険会社の資産運用方針に関する記事が出る。直近では「主な生命保険会社による2021年度下期(2021年10~22年3月)の運用計画が27日、出そろった。米国を中心により高い利回りが見込める社債を計6200億円程度、積み増す計画だ」(10月27日の日経電子版より引用)といった記事があった。この報道によると、下期は外国社債投資を増やす会社が目立つとのことだ。

不思議なことに、報道される各社の資産運用方針は一部の報道機関にしか公表されず、契約者をはじめ一般には示されていない。この10月には少なくとも日本生命、第一生命、住友生命、明治安田生命、太陽生命、かんぽ生命が資産運用説明会を開催した模様だが、そこでどのような情報が示されたのかは報道を通じてしか知ることができない。決算発表前のこの時期に、主要生保はなぜメディアに限定した情報開示を行うのだろうか。

疑問は他にもある。生保各社は何のため、誰のために資産運用方針をメディアに公表しているのだろうか。
もし自社の経営内容を伝えるためだとしたら、受け手としては情報の取り扱いに気を付けなければならない。なぜなら、会社によって足元の支払余力の余裕度も、リスクテイク方針も異なるはずなので、例えば同じ「オープン外債を○○億円増やす」という内容でも、その意味は違ってくるからだ。
個社情報の伝達ではなく、金融市場参加者に向けたマーケット情報として資産運用方針を説明しているのかもしれない。そうだとしたら、個社の運用方針の違いに意味はない。全体としてどのような資産を増やす/減らすのかが伝わるような情報提供を行うべきだ。

困ったことに、報道された生保の資産運用方針の実行状況を後から確認しようとしても、決算発表資料やディスクロージャー誌ではわからないことも多い。例えば各社が外国社債への投資を増やす方針だとして、実際どうだったのかを調べようとしても、一部の会社を除き、信用格付け別の開示はないし、そもそも外国社債の残高が公表されていない。為替ヘッジの状況はデリバティブ取引の時価情報でかろうじて推測できるものの、外貨建負債(公表されていない)が少ないことが前提である。先に引用した日経記事に「30年物を軸に超長期の日本国債を買い入れる動きも続く」とあるが、決算発表資料等には「10年超」というくくりの開示しかなく、本当に30年債を軸に購入したのか確認しようがない。

生命保険会社は資産運用方針を一部報道機関のみに説明するのではなく、決算発表時でいいので一般にも公表すべきである。そして少なくともその説明が確認できるような情報開示が必要だ。メディアも単に保険会社が説明する資産運用方針を報じるだけでは、仕事をしたことにはならない。
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※友泉亭公園は黒田藩の別荘だったところです。

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

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