02. 保険会社の経営分析

火災保険の元受保険料と出再保険料

今週のInswatch Vol.1093(2021.7.12)では火災保険の出再保険料について書きました。ご参考までにブログでもご紹介します。
——————————
幸いにも大学の集団接種枠を活用できたので、さっそく1回目のワクチン接種(モデルナ)をしたところ、夜になって微熱が出たり、体がだるくなったりしました。微熱はすぐに下がり、体のだるさも翌朝にはなくなりましたが、接種した左腕の筋肉痛は終日続きました。
接種会場で医師から、「2回目の後は症状が出ることが多いので、予定を入れないほうがいいですよ」と言われました。しかし、1回目でもこうした反応が出ることもありますので、ご参考にしてください。

火災保険の収益改善が進むか

6月25日のinswatchプロフェッショナルレポートでは、大手損保グループの20年度決算について、独自の視点でご紹介しました。そこでは触れなかったのですが、このところ大手損保では、総じて火災保険の元受保険料の伸びを上回るペースで出再保険料が増える傾向が見られます。20年度の各社の元受保険料に占める出再保険料の割合は次のとおりです。

東京海上日動 39.7%(前期比+0.6ポイント)
三井住友海上 43.6%(前期比△2.8ポイント)
あいおいND 42.5%(前期比+1.3ポイント)
損保ジャパン 42.8%(前期比+0.5ポイント)

この背景には、日本の自然災害発生だけでなく、数年前から世界の再保険市場が料率上昇トレンド(いわゆるハードマーケット)になっていることが挙げられます。ハードマーケットで日本の保険会社が前年度と同じ再保険カバーを購入するには、前年度よりも高い再保険料を支払う必要があります。それが嫌だったら再保険カバーを縮小し、自らリスクを引き受ける部分を増やすしかありません。開示情報からは各社の対応状況を正確につかむことはできませんが、出再を抑えた会社もあるように見えます。
世界的には、ハードマーケットは損害保険会社の収益改善が進む経営環境と見られています。原油価格が上がればガソリン代が上がるのと同じように、再保険市場がハード化すれば元受の保険料率も上がるのは本来の市場の姿です。ところが日本では保険料は公共料金のような扱いを受けたり、企業との長期的な関係を意識したりするあまり、価格転嫁が難しい状況が続いてきました。各社とも火災保険の収益が低迷しているのは大規模な自然災害の発生というだけではなく、リスクに見合った保険料を得られていないためと考えられます。
ERM経営を標榜する各社がリスクに応じたプライシングをどこまで追求できるのか、今年度以降の火災保険の収益に注目しましょう。

元受保険料の多くを出再する会社もある

ところで、外資系の損害保険会社では、元受保険料に比べて正味収入保険料が極端に小さい会社がしばしば見られます。例えば、AIG損保の火災保険の正味収入保険料は19年度も20年度も元受保険料の約17%、チャブ損保も約19%です(19年度)。アリアンツやチューリッヒのように火災保険の元受保険料の大半を出再しているところもあります。
これらの会社は多くの場合、同じグループ内の保険会社に出再し、グループ全体で再保険管理を行っていると考えられます。グローバル保険グループとしての引き受け規律を求めるため、国内勢に比べ、総じて市場原理をより意識した引き受けとなる傾向が強いようです。ただし、これだけ出再割合が大きいと、もし何かの理由でグループからの規律が緩んだ場合、日本の会社としての引き受け規律が働くのかと、少し心配になります。
——————————

※梅雨明けしました。キャンパスも暑いです。

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

ブログを読んで面白かった方、なるほどと思った方はクリックして下さい。

損保系生保の現状

今週のInswatch Vol.1089(2021.6.14)では大手損保グループの決算をもとに、損保系生保の現状について書きました。ご参考までにこちらでもご紹介します。
——————————
3メガ損保グループの2020年度決算が出ましたので、投資家・アナリスト向けの説明資料から、生損クロスセルを主要なビジネスモデルとしている生命保険3社(あんしん生命、MSA生命、ひまわり生命)の現状を探ってみました。

企業価値に大きく貢献

損保決算と言えば、自然災害による影響や海外保険事業の拡大に注目が集まり、各社の経営陣も国内生保事業の現状をあまりアピールしていない印象があります(あくまで個人の印象です)。
1996年の設立から25年がたち、各社のEVはいずれも1兆円前後に達しました。EVというと皆さん電気自動車を思い起こすかもしれませんが、生命保険会社のEV(エンベディッド・バリュー)は企業価値を表す指標の一つです。各グループの時価総額が1.5~3.5兆円、中核損害保険会社(東京海上日動、三井住友海上、あいおいニッセイ同和、損保ジャパン)の純資産が1.5~3兆円(MS&ADは2社合算)であることを踏まえると、1兆円前後のEVは決して小さい数値ではありません。EVを見るかぎり、生保事業への進出は大成功だったと言えるでしょう。

クロスセル率はじわじわと上昇

各社は生損クロスセルを主要なビジネスモデルとしているとみられます。しかし、公表データが少ないため、損保代理店による生保販売が各社の成長にどの程度貢献しているのか、実のところよくわかりません。
参考として、SOMPOグループが公表したひまわり生命の新契約年換算保険料のチャネル別構成比(2019年度)によると、損保代理店が61%となっていました。ただし、保険ショップでの販売や経営者向け保険(生保プロが主な担い手)の動向などにより、構成比は年度によってかなり異なるのではないかと思います。

クロスセルの現状はどうなっているのでしょうか。MS&ADグループは生保併売率(MSA生命の保有契約者数および損保第三分野の長期契約を、中核損保2社の自動車・火災保険契約者数と対比)を公表し、2020年度には17.6%に達したとのことでした。東京海上グループは生損保一体型の「超保険」をクロスセル推進に活用しており、2020年度の生保・第三分野の付帯率は26.5%だったそうです。
釈迦に説法ではありますが、自動車保険や火災保険の既存顧客に新たな生命保険ニーズがあるとは限りませんし、ニーズ顕在型で毎年の契約更改がある損害保険と、ニーズを掘り起こす必要がある長期の生命保険とでは、マーケティング方法も異なります。生損クロスセルというビジネスモデルは世界的に見て、そう一般的なものではないのかもしれませんが、設立当初からウォッチしてきた目線からすると、一定の成果が出ていると評価すべきなのでしょう。

リスクベース経営

今回の決算発表では、3グループともに生保事業のリスクとリターンに関する説明が目立ちました。
東京海上グループとSOMPOグループは、いずれも主力商品のリスク・リターンのイメージを示しました。両社は保障性商品を中心とした商品戦略により高い収益性を確保していく方針です(あんしん生命は変額保険にも注力)。MSA生命は2020年度に金利リスクを削減し、経済価値ベースのソルベンシー規制やIFRS(国際会計基準)の導入を見据えた取り組みを実施しています。
——————————

※週末に浜辺でビーチラグビーをやっていました。

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

ブログを読んで面白かった方、なるほどと思った方はクリックして下さい。

ガバナンス2題(備忘録)

保険毎日新聞の見出しを眺めていたら、「ムーディーズ 大手生保4社20年度業績でリポート、運用実績で収益性に差」とありました。気になったので記事を見たところ、「大手生保4社の基礎利益にばらつきが見られ、各社の運用実績の差を反映している」とありました。
保険毎日新聞が基礎利益の動向に着目し、該当する個所だけを引用したのかと思い、ムーディーズのサイト(PDF)を確認したところ、確かに公表されている文章にはほぼ基礎利益に関する記述しかなく、しかも要点の1つとして「生命保険会社の業績の差は、投資運用戦略の違いによって運用収益に大きな幅があったことを反映している」とありました。

2021年3月期決算における第一生命の順ざやの増加は、2022年3月期決算予想のなかで「投信関連の収入減少に伴う順ざやの減少」という説明があることなどから、投信の値上がり益が利息配当金等収入に計上されたためと考えられます(利息配当金等収入の増加が外国証券とその他の証券によるとも示されています)ので、たまたま配当収入として計上されたということであって、運用戦略を反映したと言うのはかなり無理があります。投資運用戦略の成果を見るのであれば、利息配当金等収入だけではなく、全体の時価利回りなどを見るべきではないでしょうか。
基礎利益や利差損益の増減を説明するのをおかしいというつもりはありませんし、まさか権威ある格付会社が利息配当金等収入で資産運用収益を評価しているとも思えません。しかし、公表文のなかで、単年度の利差損益の増減をもって「投資運用戦略の違い」と言ってしまうのは、社会的な影響を考えると、さすがにミスリードだと思いました。

ガバナンス2題

10日に公表された東芝の調査報告書(PDF)をご覧になったでしょうか。
大株主であるエフィッシモの調査要請が3月の臨時株主総会で可決され(会社は反対していた)、実現したものです。100ページ以上ある報告書ですが、報道などのとおり、いわゆる圧力問題などについて生々しい記述があり、日本企業のガバナンスに関心があるかたには一読をおすすめします。

翌11日には東京証券取引所が改訂コーポレートガバナンス・コードを、金融庁が投資家と企業の対話ガイドライン(改訂版)をそれぞれ公表しています。独立社外取締役の新たな選任基準や管理職の多様性、サステナビリティなどが示されていますが、東芝の報告書を読んだ後では、政府によるコーポレートガバナンス改革が岐路に立っているのではないかと考えざるを得ませんでした。

大学教員としては、ネタが増えてありがたいのですけどね。

※福岡大学にはA棟はあっても、B棟やC棟はありません^^

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

ブログを読んで面白かった方、なるほどと思った方はクリックして下さい。

大手生保の決算報道

生保の決算も概ね出そろいましたね。
まだまだ数字を確認できていないのですが、決算報道があまりにさびしかったので、少しだけコメントします。

以前にも書いたとおり、大手メディアはここ数年、生保決算として「保険料収入」「基礎利益」を伝えてきました。今回も見事に踏襲されていて、次のような見出しが並んでいます(本文は有料が多いです)。

大手生保4社の決算 対面営業の自粛などで減収【NHK】
生保大手、7社が減収 コロナで営業自粛響く 3月期決算【朝日(有料版)】
生保大手4社 減収 3月期 対面営業自粛で【読売(有料版)】
大手生保、8社が減収=上期の営業活動自粛響く【時事】
生保、デジタル移行遅れ 対面営業の限界 鮮明【日経(有料版)】

いずれも「コロナで営業活動が制限された」「(基礎利益を報じたメディアは)保有契約があるので基礎利益は大きく減らないが、減益」と、総じてパッとしない内容だったと伝えています(日経は保険料収入ではなく新契約年換算保険料で業績を語り、資産運用面の好調さにも触れています)。

しかし、EVなど企業価値の手掛かりとなる指標を公表している会社の数値を見ると、ものすごく増えています。

 第一生命HDのEEV +13,492億円
 住友生命のEEV   + 9,050億円
 明治安田生命    +13,200億円
 (グループサープラスを開示)
 かんぽ生命のEEV + 7,019億円

そうした手掛かりのない日本生命にしても、連結決算の包括利益は2019年度の▲6,305億円から、2020年度は2.8兆円と、まさにV字回復です。
昨年度は株価が大きく上がり、超長期金利も上昇(豪ドルも対円で大きく上昇)、死亡率や発生率は改善と、大手生保の主なリスクテイクがほぼすべてプラスに働きました。

ソフトバンクグループの決算は「好決算」と伝えるのに、同じように企業価値を高めた大手生保の決算をパッとしないトーンで報じるのはおかしいと、多くのかたに気づいてほしいです。

ソフトバンクG 最終利益4兆9879億円 東証上場の日本企業で最高【NHK】

※赤いアジサイもきれいですね。

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

ブログを読んで面白かった方、なるほどと思った方はクリックして下さい。

3メガ損保グループの決算

生損保の2021年3月期決算が出そろいつつあります。
オンライン授業の対応などに追われ、ちらっとしか見ることができていないとはいえ、せっかくなので3メガ損保グループについて少しだけコメントしましょう。

コロナ関連の保険金支払いは海外事業が中心で、各社とも上振れはなかった模様です。三井住友海上が52億円、あいおいニッセイ同和が167億円となっていますが、海外受再などが中心のようです。
国内事業でのコロナ関連支払いは3グループともに少なく、むしろ自動車事故の減少で収支にはプラスに効いています。

「大手損保、3社中2社が増益」という型どおりの報道もあり(時事通信など)、確かに連結純利益はそうなっています
IR資料を見ると、東京海上はコロナの影響(海外)や異常危険準備金繰入などにより減益。MS&ADはコロナの影響(海外)等を国内生保の増益がカバーし、ほぼ横ばい。SOMPOもコロナの影響(海外)はあったものの、自動車事故の減少などにより16%の増益。そのような説明ができそうです。

しかし、今回見るべきはこちらの数字ではないでしょうか(記載がないかぎり2020年3月末との対比)。

<包括利益>
 東京海上    27億円 ⇒ 4,650億円
 MS&AD △1,572億円 ⇒ 7,539億円
 SOMPO  △778億円 ⇒ 5,124億円

<連結純資産(経済価値ベース)>
 東京海上 3.1兆円 ⇒ 3.6兆円 ※2020年9月末との対比
 MS&AD  4.4兆円 ⇒ 5.4兆円
 SOMPO  2.7兆円 ⇒ 3.4兆円

いずれも相当な改善でして、なかでもMS&ADは純資産が1兆円も増えました。株価上昇、金利上昇といった市場変動によるところが大きいとみられます。3メガ損保グループともに、いかに市場変動の影響を大きく受けるかがわかります。

※アジサイがもう咲き始めましたね。

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

ブログを読んで面白かった方、なるほどと思った方はクリックして下さい。

第一生命グループの新中計

3月31日に第一生命ホールディングスが新たな中期経営計画を公表しました。
メディアで報道されたのは主に「元営業職員の金銭詐取事件(=第一生命が全額補償すると同じ日に公表)」のほうでしたし、株式市場では自己株式取得(=上限2000億円の取得を決定)が好感された模様ですが、新中計の中身も注目に値するものだと思います。
第一生命HDのサイトへ

これまでの中計は、つまるところ「グループ修正利益(=会計ベース)をいかに高めるか」を最も重視していたように見えました。もちろん、生保事業の新契約価値を高める取り組みも行ってきているのですが、こちらはグループ修正利益をただちに増やす効果はないので、外国証券の利息配当金を増やすなど、修正利益への即効性の高い資産運用に依存することとなり、結果として金融市場の変動に左右されやすいリスクプロファイルがずっと変わりませんでした。

これに対し、新中計は「ありたい自分」を見据えたうえで策定され、重要経営指標(KPI)は利益の絶対額ではなく、資本効率やリスク削減目標など、企業価値や資本コストを強く意識した、これまでにないものとなりました。グループ修正利益の絶対額は想定レンジを置いただけです
(事業規模の指標としては「お客さま数」を掲げています)。
資本充足率(ESR)のターゲット水準に加え、資本政策の考え方も示しました。

競合する大手他社が総じて保険料や基礎利益を目標とするなかで、今回の第一生命グループの新中計は経営の変化を感じさせるものでした。あとは、株主やメディアなど外部ステークホルダーの理解を得るために、説明を重ねていく必要があるのでしょうね。

<参考>
日本生命グループの中計(2021-2023)のKPI
・お客様数(国内)
・保有年換算保険料(国内)
・基礎利益(グループ)
・自己資本(グループ)

住友生命グループの中計(2020-2022)のKPI
・保有契約件数(国内)
・保有契約年換算保険料(国内)
・うち生前給付保障+医療保障等(国内)
・基礎利益(国内)
・基礎利益(海外)

※福岡の桜はほぼ散ってしまいましたが、せっかくなので先週の写真を。

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

ブログを読んで面白かった方、なるほどと思った方はクリックして下さい。

生保の超長期国債購入

総務省と農水省の幹部職員が相次いで国家公務員倫理規程違反で処分されるというのは、短期間ながら中央官庁での勤務経験者としては、残念かつ不思議でなりません。
両省は先週、処分とともに再発防止策を打ち出しました。ただ、「認識が甘かったので、研修で徹底させる」「届け出に関する新たなルールを作る」というのが本当に防止策になるのでしょうか。倫理研修は今でも定期的にやっているでしょうし、届出ルールも存在していますので、これ以上、研修や届出ルールを整備しても、屋上屋にしかなりません。
現場の職員が委縮して外部との接触を避けるほどのルールがあり、知識としてはみんな知っているのに、なぜ幹部職員が率先してルールを守らなかったのかという根本的な原因を探らなければ、再発防止策にはならないと思います。

生保の超長期国債購入

先週の金融市場では、生命保険会社による超長期国債の購入が話題になっていたようです。例えばロイターは、1月に生損保が超長期債を8年ぶりの高水準となる約1兆円買い越したと伝えました(ニュースはこちら)。

記事だけだとわかりませんが、生保はここにきて急に超長期債の購入を増やしたのではなく、2019年10月あたりから購入が目立っています。これは日本証券業協会の統計だけでなく、主要生保の決算データからも確認できます。

主要生保の決算データを見ると、マイナス金利政策が導入された2016年1月以降、超長期債の購入をしばらく中断していました(残高を増やさなかった)が、2017年度半ばあたりから姿勢がやや変わり、2019年10-12月期からは残高の積み増しが続いているのがわかります。
ただし、過去のブログでもお伝えしたように、会社によって動きが異なるのが最近の特徴かもしれません。

過去のデータを見ると、日本証券業協会の統計は、なぜか保険会社の決算データの動きと合わないこともあるようです。例えば、マイナス金利政策導入後、日本証券業協会の統計は決算データと違い、それなりに買い越しが続いていました。
加えて、月次の統計は振れやすいので、まずは金利水準がさらに上がった2月の数値(3月22日公表)に注目しましょう。

※写真は北九州市の木屋瀬(こやのせ)です。宿場町として賑わいました。

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

ブログを読んで面白かった方、なるほどと思った方はクリックして下さい。

ソニーがIFRSを任意適用へ

ソニーが連結決算で適用する会計基準を、従来の米国会計基準(US-GAAP)から国際財務報告基準(IFRS)に替えるという発表がありました。2021年度の決算(第1四半期)からIFRSによる開示が始まります(2021年度って、この4月からですよね!)。
ソニーのニュースリリースはこちら(PDF)です。

ソニーがIFRSを任意適用するということは、昨年ソニーの完全子会社となったソニーフィナンシャルホールディングス傘下のソニー生命も、連結決算のためにIFRSによる決算対応を行うことになります。グループがIFRSを適用している生命保険会社にはアクサ生命や楽天生命などいくつかありますが、ここに資産規模が10兆円を超えるソニー生命が加わります。3メガ損保など上場保険グループは今後どう対応するのでしょうか。

IFRS17号(保険契約)の発効は2023年なので、早期適用が可能とはいえ、この4月からは暫定基準のIFRS4号を使うことになるのでしょうか。そうだとすると、US-GAAPと日本基準の違いである繰延新契約費(新契約コストを繰延資産として計上)がIFRSでも受け継がれ、これまでとあまり変化はないのかもしれません。
ただ、遅くとも2年後のIFRS17号適用となると、保険負債の評価が大きく変わり、毎期の損益もだいぶ違うものとなりそうです。もっとも、契約上のサービスマージン(CSM)の残高と取り崩し方法、あるいは割引率の設定方法しだいという気もします。

過去の決算データを確認すると、ソニーのセグメント別利益のなかで、金融はこれまで安定的に利益を計上してきました。2016年3月期のように超長期金利が低下し、MCEVが大きく減っても、他のセグメントでしばしば見られるような損益の大きな落ち込みはありませんでした。
これは、ソニー生命が金利以外の資産運用リスクをできるだけ抑えてきたことと、US-GAAPも日本基準と同様に責任準備金がロックイン方式なので、金利変動による負債面の影響をほとんど反映していなかったことが大きいと考えられます。

※福岡・愛宕神社からの景色です。

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

ブログを読んで面白かった方、なるほどと思った方はクリックして下さい。

3メガ損保グループのIR説明会から

今週のInswatch Vol.1063(2020.12.14)に寄稿したものです。
——————————
今回は生命保険会社ではなく、3メガ損保グループが先月下旬に開催した投資家・アナリスト向け説明会を取り上げます。
各社とも5月と11月の決算発表後にIR説明会を行っています。以下ではそのごく一部を紹介しますが、投資家やアナリストではなくても、各社のサイトに行けば、説明会の様子を動画で観たり、説明資料や質疑応答を確認したりできます。

時間をかけて各業務を説明:東京海上

東京海上グループはいつもと違い、3時間半におよぶミーティングを実施しました。最初にグループ戦略の全体像をホールディングスの小宮社長が説明し、続いて国内事業戦略、海外事業戦略、資産運用戦略について、それぞれの責任者が説明するというものでした。
国内事業戦略では、東京海上日動の広瀬社長、あんしん生命の中里社長ともに強調していたのが、デジタルを高度に活用し、ビジネスモデルを進化(深化)させるというもの。生保ではデジタル募集の取り組みを加速し、損保ではさらなる事業効率の向上を図るとしています。

CSV×DXで成長を:MS&AD

MS&ADグループの説明会ではホールディングスの原社長が、同社が中期経営計画で掲げている、CSC(Creating Shared Value、社会との共通価値の創造)をデジタル・トランスフォーメーション(DX)による既存ビジネスの変革で進めていくことを改めて強調していました。とりわけ商品・サービス面では、請求を受けて支払うだけの保険から、DX等により事故の発生を未然に防ぎ、発生してしまった場合の影響も小さくする保険へと、保険の役割を変えるという説明がありました。
国内損害保険事業では、これまで進めてきたビジネススタイル改革による事業費削減を、オンラインシステムの刷新やリモートワークによって確実なものにするとのことでした。

リアルデータの活用:SOMPO

SOMPOホールディングスの櫻田社長からは、安心・安全・健康のテーマパークの構築は不変としたうえで、基本3戦略の1つに「新たな顧客価値の創造~テーマパークの具現化~」を掲げ、リアルデータの獲得とデータ解析により新たなソリューションを生み出す「リアルデータプラットフォーム構想」に取り組むという話がありました。その具体例として、グループの介護事業が持つリアルデータを組み合わせ、解析することで、新たな介護ビジネスモデルの実現を目指しているそうです。
国内損保事業に関しては、次期中期経営計画でも料率適正化と事業費削減を柱とする収益構造改革を一段と進めます。

問われる営業支援体制

新型コロナ禍が日本企業のデジタル化を加速させるというのは、3メガ損保グループにも当てはまるようですが、気になったのは、国内事業でデジタル化が進んだ結果、販売チャネルはどうなるのかという点です。
保険会社は新しい技術を駆使した営業支援をどんどん開発していくので、デジタル社会に適用しようと考えている代理店にはいい時代になりそうです。他方で、これまで代理店の営業支援を行っていた保険会社の社員はどうなっていくのでしょうか。
今回のパンデミックによって、顧客との接点を何らかのかたちで確保できるのであれば、保険会社による接触型営業支援がなくても現場には大きな問題がないことが明らかになりました。二重構造問題は長年の課題であり、保険会社が語る「付加価値の高い業務への挑戦」「デジタル人財の育成」がそう簡単に成果をあげられるとは考えられません。浮いた人材をどうするかは保険会社にとって大きな課題となっています。
——————————

※写真は晴れていますが、福岡でも雪が舞いました。

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

ブログを読んで面白かった方、なるほどと思った方はクリックして下さい。

生保の資産運用動向

国内系生保の4-9月期決算が出そろったので、資産運用の動向をざっと確認してみました。
経済価値ベースのソルベンシー規制導入が見えてきたなかで、何か変化が見られるでしょうか。

金利リスク

ソルベンシーマージン比率が経済価値ベースになると、これまでほとんど反映されていなかった金利リスク(資産および負債)が反映されるようになります。
10年超の国内公社債や責任準備金対応債券の残高などを確認したところ、次のように分類できました。

 増加が続く:日本、太陽、大同、ソニー

 増加に転じた:第一、明治安田

 減少が続く:住友、朝日、富国

 概ね横ばい:大樹

リスクの現状も支払余力の状況も会社によって違うということを踏まえたうえで、金利リスクへの対応状況にはバラつきがあるとわかります。

金利以外の市場リスク

一方、この半年の国内株式(取得原価)の動きを確認したところ、次のとおりでした。

 増加傾向:住友、朝日、太陽、富国

 減少傾向:日本、第一、明治安田、大樹、大同

 その他:ソニー(ほぼ保有せず)

外国公社債についても同じように取得原価を確認してみました。

 増加傾向:第一、住友、富国、ソニー(外貨建て負債見合いとみられる)

 減少傾向:日本、明治安田、朝日、大同

 ほぼ横ばい:大樹、太陽

こうしてみると、全般的にリスク抑制を強めている会社もあれば、リスクをとる方向で動いている会社、金利リスクを抑制し、他の市場リスクを増やしている会社など、現時点ではリスクテイクの姿勢に個別性が強まっているようです。
なお、信用リスクなど、他の資産運用リスクについても確認したいのですが、上場会社のような追加的な開示がないと、分析が難しそうです。

※写真は筑前の小京都・秋月です。

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

ブログを読んで面白かった方、なるほどと思った方はクリックして下さい。