02. 保険会社の経営分析

生保の逆ざや

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15日の朝日、16日の日経と、生保の逆ざやの記事が出ました。
内容は両紙とも概ね次の通りです。

「大手生保9社のうち、日本、第一、大同は逆ざやを解消していたが、
 09年3月期には全社が逆ざやになる見込み」
「昨秋以降の金融危機で運用環境が急速に悪化し、
 逆ざやの拡大が再び始まった」
「これまでと違い、各社とも増配は不可能な状況」

金融危機で運用環境が悪化し、解消していた逆ざやが
再び拡大したというのは、実は私の認識とはかなり異なります。

私の認識は、
・依然として予定利率の高い契約を抱えているため、
 そもそも逆ざやは実質的には解消していなかった。
・それでも平均予定利率は徐々には下がってきた。
・他方、金利水準は1年前とあまり変わっていない。
・以上から、足元で逆ざやは拡大していない。
というものです。

朝日と日経が間違っているというわけではありません。
両紙と私の違いは、逆ざやのとらえかたにあります。
言い換えれば、公表逆ざや額は実態を必ずしも反映していない
という話です。

公表される逆ざや額の計算では、利息配当金収入をベースとした
運用利回り(基礎利回りと言います)を使います。
ところが、この中には投信の配当損益など、
キャピタル損益とすべきものも含まれているのです。

もし、逆ざやをキャピタル損益を含めた利回りで計算すべきと言うならば
(それも一理あります)、株価や為替相場などの変動を反映した
時価利回りで逆ざやを計算すべきです。
もっとも、毎年利回りが大きく変動することになるでしょう。

私は資産を全て円金利資産で運用した場合の利回り
(リスクフリーレートのイメージ)が、逆ざや負担を見る観点からは
妥当ではないかと思っています。

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

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大和生命の保険金削減案

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4/11の各紙に、破綻した大和生命の保険金削減モデルが
掲載されています。

「終身年金(逓増型)で最大80%の削減」とあるように、
加入時の予定利率が高い貯蓄性商品で、
満期・終期までの期間が長いものほど大きく削減されています。

予想された事態ですが、二度目の破綻となった旧大正生命契約では、
1992年に加入した30歳女性の一時払い終身保険で87%の削減、
同じ条件の終身年金(逓増型、65歳開始)で約7割の削減と、
削減率が一段と大きくなっています。

ただ、どうしても削減の大きいモデルに目が行ってしまいますが、
その対象となる契約者はおそらく例外的な存在でしょう。
全体としてみれば、過去の破綻事例と比べて契約者負担が
際立って大きいということはなさそうです。

例えば、大和生命の予定利率は1%に下げられますが、
もともと平均予定利率が3%台まで下がっていました
(過去の事例では4%以上でした)。

責任準備金の明細を見ると、予定利率の高い契約は
すでに個人保険分野の半分以下に減っています
(日本生命で6割、朝日生命で7割です)。

大幅削減の可能性が高い個人年金のウエートも
他社に比べて小さいということもあります
(日本生命24%、朝日生命31%、大和生命12%)。

さらに、保険契約とともに優先的更生債権である労働債権は
24.8%の削減です(千代田生命では25.27%)。

もちろん、だからといって契約者負担が決して小さいわけではなく、
契約者保護のためには、やはり破綻を避けることが重要だと
あらためて確認できました。

※写真は昨年行った奈良公園です。

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

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大和生命の更生計画案

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東京地裁への提出は23日ですが
大和生命の更生計画案が固まったようです。

報道によると、債務超過額が当初(2008/9末)の
140億円から643億円に拡大しました。
これを埋めるために、責任準備金の削減で333億円、
保護機構の資金援助が278億円、残りは営業権32億円
として計上し、今後の利益で償却していきます。

2008/9末の責任準備金は2600億円なので、
1割カットだと260億円にしかならないはず。
削減額が333億円なのは、補償される責任準備金が
おそらく「全期チルメル式」だからです。

営業権32億円はジブラルタ生命が負担するのではなく、
予定利率の引き下げなどで収益性を改善し、
そこから償却することになります。
つまり、32億円は既契約者の負担となります。

ただ、大和生命は費差損構造だったようなので、
逆ざや負担がなくなったとしても、コストを相当下げないと
収益性は改善しません。
契約者には買い手がついてよかったと思います。

 

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日米欧保険会社の決算

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日米欧の保険会社の決算が概ね出揃いました(日本は4-12月期)。
米国ではハートフォードとプルデンシャルが2四半期連続で赤字、
メットライフやアフラックは黒字ですが、多額の含み損を抱えています。
欧州勢も、アクサは下半期が赤字。アリアンツやINGは通期で赤字でした。

10年前の日本の「生保危機」は国内生保の一人負けだったため、
外資系や損保系には追い風でした。
今回は欧米勢の厳しさが目立つので、外資系には逆風となっています。

経営悪化の中身は日本勢と欧米勢ではかなり違うようです。
日本勢では保有株式の価格が下落した影響が大きいのに対し、
欧米勢では不動産関連投融資の悪化や企業等の信用スプレッド拡大、
あるいは変額年金事業(主に米国)の赤字が業績を圧迫しています。

確かに、高格付け債券の価格がここまで下がってしまうとは、
おそらく誰も想像できなかったでしょう。
他方、日本勢の株式保有リスクはある意味わかっていた話なので、
非常に残念です。

あとはAIGの決算ですね。
政府の対応を含め、来週の発表(たぶん)に注目です。

 

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有価証券評価損

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12月期決算発表を前に、富士火災、損保ジャパン、あいおい、日本興亜と、
上場損保各社の有価証券評価損の発表が続いています。
金額の大きさから、市況悪化の影響の大きさが伺えます。

ただ、気をつけなければいけないのは、評価損の大きさ、イコール
市況悪化が経営に与えた影響ではないということです。
それなりに連動しますが、かなり異なることもあります。

例えば、上場損保では、保有する有価証券の時価が
取得価額を3割以上下回った場合に評価損を計上しています。
このため、評価損が大きくなる一方、含み損として残る部分は限られます。

他方、多くの会社では原則適用、つまり5割以上で評価損を計上し、
3~5割の部分は会社の判断で決めるという方法です。
上場損保がこの方式だったとしたら、評価損がここまで膨らむことはなく、
損益計算書への影響はもっと軽かったはずです。
その一方で、有価証券含み損が膨らむことになります。

いずれの方式を採用したとしても、市況悪化が会社価値に与える影響は
原則同じです(税効果はやや微妙ですが)。

したがって、有価証券評価損の大きさだけではなく、
純資産や含み損益、ソルベンシー・マージンなどがどうなったのかを
合わせて判断する必要があるというわけです。

※写真は東京国際フォーラムです

 

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損保業界の再編について

前回、損保再編についてややネガティブなコメントを紹介しました
(あくまで一般論としてですが)。

アナリストの観点から日本の大手・中堅損保の経営の特徴を3つ挙げると、
次のようになります。

 ①市場の寡占化が進んでいる。
 ②規模の小さい専業代理店をたくさん抱えている。
 ③企業代理店と政策保有株式の存在。

いずれも規制時代、すなわち料率競争がなく、規模イコール利益という時代に
培われてきた特徴です。株価も基本的に右肩上がりでした。

ところが規制緩和が進んだ現在、少なくとも②と③はマイナス面のほうが
目立つようになってきました。
経営を安定させるには、代理店の数よりも生産性や効率性が重要になります。
企業向けの料率が下がる一方、株価下落がしばしば経営体力を圧迫しています。

つまり、今の時代に合ったビジネスモデル構築が求められているわけですが、
前回の業界再編はむしろビジネスモデルの見直しを遅らせたと見ています。
合併を成功させるため、規模が小さく自立していない代理店が温存されました。
政策保有株式の削減もあまり進みませんでした。

その結果、一時的なコスト削減効果は見られたものの、
自動車保険市場の低迷が保険引受収支を圧迫することになり、
足元の株価下落が企業価値の低下につながっています。

業界再々編を全面的に否定するつもりはないですが、
過去の再編を総括すると、再編のメリットよりもデメリットのほうが
大きいように感じてしまいます。

もし再々編が現実のものとなるのであれば、
経営者は全てのステークホルダーに対し、デメリットを上回る
メリットがあることを説明する必要があるのでしょうね。

 

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増資の理由

25日の日経に小さな記事で「I生命が増資」という記事があり、
「法人向け保険や変額年金保険の販売が拡大していることから、
 財務基盤を強化する」とのこと。ちょっと首をかしげました。

 

というのも、今の状況で増資が必要なほど法人向け保険が
爆発的に売れている会社があるとは思えませんし、
変額年金も10月以降、銀行の消極姿勢が目立ちます。
しかも、I社は変額年金の最低保証リスクを再保険で移転しており、
日本法人にはこの影響もないはずです。

そこで中間決算を見ると、外国公社債が含み損となっており、
ソルベンシー・マージン比率や実質資産負債差額を
押し下げていることがわかりました。
外国公社債の平均残存期間が長そうなので、ALM目的なのでしょう。
おそらく10月以降の金融市場混乱で時価がさらに下がり、
今回の対応につながったのではないかと想像できます。

ちなみに会社の発表文は、次の通りです。

「今回の資金調達は、業容拡大に伴う今後の資金ニーズに対応するためにも、
 財務基盤を強化することにより経営健全性の維持向上を図ることを
 主たる目的としています」

難しい日本語ですが、よく見ると「業容拡大のため」とは書いてありませんでした
(業容拡大は今後の話なのですね)。

 

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主要生保の中間決算(続き)

前回のブログで、
「他の金融セクターに比べ、生保は9月時点では金融危機の影響は
 一部に限られていた」
と書きました。
しかし、外資系生保の決算を見ると、そうでもない会社が散見されます。

例えばアリコジャパンでは、保有するAIG株式が暴落したというだけではなく、
証券化商品(CMBSやRMBSなど)でも多額の含み損を抱えています。
アフラックの有価証券含み損も2000億円に達しており、保有する高格付けの外債
(為替リスクはとっていない)の価格下落が大きかったようです。

いずれもハイリスク投資で失敗したわけではなく、金融市場の混乱により
高い格付けの債券でも価格が大きく下がってしまった影響と考えられます。
先日の出張でも感じましたが、米国では市場と実態のギャップが
考えられないほど大きくなっているのです。

生保は負債が長期にわたるので、一部の証券化商品を除けば、
高格付けの債券が次々にデフォルトする(=その可能性は極めて低いと思います)
事態にでもならないかぎり、満期まで持ち続ければ全額返ってくるはずです。
株式だと、こうはいきませんよね。

 

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主要生保の中間決算(上半期報告)

主要生保の中間決算が出そろいました。

多くの新聞では、
「米国発の金融危機が生保の経営基盤を直撃」
「金融危機に伴う株価急落で含み益が大幅に減少」
「金融不安に伴う運用環境の悪化で業績低迷」
と、金融危機の影響を強調していますが、ちょっと無理がある感じ。

他の金融セクターに比べ、生保は9月時点では金融危機の影響は
一部に限られていたというのが正しそうです。

もちろん、外貨建資産のウエートが高いD社やF社、国内RMBS以外の
証券化商品が比較的多そうなm社ではそれなりに損失が出ていますが、
農林中金のように含み損が一気に拡大したり、大手損保のように
金融保証や信用保険で多額の損失が出たりするようなことはありませんでした。
銀行と違い、不良債権の拡大も見られません。
要するに、他の金融セクターとはリスクの取りかたが違っていたわけです。

ただ、10月以降は景色が変わってしまいました。
何といっても株価急落の影響は大きいです。
中間決算ではまだこのあたりの状況が反映されていないため、
霧が晴れない、もどかしい感じの決算発表でした。

 

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