「なぜ世界は不況に陥ったのか」

これも主に連休中に読みました。
慶応大学の池尾先生と上武大学の池田先生の対談という形で
今回の金融危機について議論が進められています。

対談形式がこれほどわかりやすいとは新たな発見でした。
池尾先生はかなり高度な話をしているのですが、
池田さんがメディア出身のためか、どんどん読み進めていくことができました
(なかには議論がかみ合っていないところもありますが…)。

私が印象に残ったのは、次のような話でした。

「適正価格が見いだせないという問題が(米金融危機の)本質」
「グローバルモデレーション(大平穏)とグローバルインバランスの急拡大」
「短期的な症状を緩和する政策/中期的に制度を立て直す政策」
「結局、1980年代に直面した問題と基本的に同じような問題に再び直面」

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

ブログを読んで面白かった方、なるほどと思った方はクリックして下さい。

今月のスピーチから

null

今月に入り、外部でスピーチをする機会が何回かありました。
このうち二つはいずれも「金融危機と今後の保険業界」というテーマ。
でも、話の内容はかなり違ったものとなりました。

一つは損害保険代理店の同業者組合(=東京代協です)でした。
出席者の大半が保険代理店だったので、AIGショックや
損保再々編、保険流通の変化を中心にスピーチしました。

人数がそこそこ多かったにもかかわらず、
質問が途切れなかったうえ、懇親会でもたくさん質問をいただきました
(再編関連、通販、時価会計、金融危機と格付け、などなど)。
温度差はあるのでしょうけれど、熱心なかたが多かったという印象です。

もう一つは某大手証券主催の投資家向け保険セミナーでした。
生損保の経営分析のほか、保険会社の「経営の質」、
ソルベンシー規制と保険経営への影響、といった話をしました。

この「投資家向け」セミナーはクレジット投資の機関投資家が対象でした。
ところが、メインテーマである大手・中堅生保の経営分析に加え、
意外にも(?)変額年金への関心が高かったようです。
投資対象ではなさそうなのですが、理由はよくわかりません。

原稿執筆やテレビ出演と違い、スピーチはお客さんの反応を
直接感じることができるので、ありがたいです。
失敗して凹むこともありますが...

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

ブログを読んで面白かった方、なるほどと思った方はクリックして下さい。

変額年金事業はどうなる?

null

ハートフォード生命に続き、今度は住友生命が年金原資保証タイプの
変額年金(一時払い)の販売休止を発表しました。

もともと住友生命は変額年金事業でも大手でしたが、
昨年のAIGショックやハートフォードショック(=運用停止)、
三井生命の撤退といった競合他社の動きを受け、
市場シェアが数%から4、5割まで急激に高まってしまったとのこと。

他方で過去に販売した変額年金の最低保証対応として、
住友生命は2008年度決算で1638億円もの責任準備金を
積み増すわけですから、今回の決断は理解できる話です。

主に預金代替商品として急成長してきた日本の変額年金事業が
曲がり角にあるのは間違いありません。

「高い代理店手数料」と「最低保証」「値上がり期待」の両立は
もともと無理があったようにも思えます。
しかし保険会社の新規参入が相次ぐなかで、市場は銀行主導で動いてきました。
今回の金融危機は製販の関係を正常化するいいチャンスかもしれません。

私は、銀行が個人のライフサイクルに合わせたリテールビジネスを
確立するうえで、保険・年金商品は不可欠な存在だと考えています。
しばらくは悪い話ばかりが目立つと思いますが、
数年タームで見ていく必要がありそうです。

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

ブログを読んで面白かった方、なるほどと思った方はクリックして下さい。

RINGの会オープンセミナー

null

意識の高い保険代理店の集まりであるRINGの会が
今年も横浜でオープンセミナーを開きます。7/11(土)です。

RINGの会オープンセミナーHPへ

HPをご覧いただければわかるとおり、今回は業界再編をテーマに
3つのパネルディスカッションを行います。
この日は朝から晩(懇親会)まで保険漬けです。

このうち私は第一部「金融危機と保険大再編」で登場する予定です。
第二部は消費者にとって、第三部は代理店にとっての再編がテーマです。

土曜日の横浜にもかかわらず、前々回、前回ともに
1000人入る会場が満員になりました。
こうした保険会社経由ではない情報収集の機会は
おそらく貴重なのでしょうね。

※写真は神田紺屋町のおみこしです。
 この週末は神田祭の見物に行きました。

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

ブログを読んで面白かった方、なるほどと思った方はクリックして下さい。

「巨大銀行の消滅」

null

GW中に読んだ本です。
副題は「長銀『最後の頭取』10年目の証言」。

本書は日本長期信用銀行(長銀)がなぜ破綻に至ったのか、
その原因や経緯についての当事者からの報告です。
いろいろ感想はあるかと思いますが、当事者による証言は
やはり貴重なものです。

私が最も印象に残ったのは、次のところです。
「結果論だが、長銀にとっては、このとき(1980年代半ば)が、
 『名誉ある合併』の好機だったのだろう。
 しかし、長銀の自尊心はその発想すら奪っていた。」

1980年代半ばといえば、長信銀制度の存立意義が失われ、
収益も低迷していた時期です。
その後長銀は不動産関連融資で資産規模を拡大し、
バブル崩壊による不良債権問題に苦しむことになります。

筆者はSBCとの「不平等条約」締結について、
「視点を変えて問題提起するという取締役の役割を果たし得なかった」
「担当セクションの判断を尊重する縦割りの思考に、私自身、
 どっぷりと浸かっていたことが悔やまれる」
と述べています。
これは当時の長銀だけではなく、今日的な教訓だと思います。

それにしても、長銀破綻で行政(大蔵省)の果たした役割は
中堅生保の破綻事例以上に大きかったように感じました。

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

ブログを読んで面白かった方、なるほどと思った方はクリックして下さい。

ハートフォード生命が新規取り扱いを休止

「変額年金大手のハートフォード生命が、すべての保険商品の
 販売を6月から休止」という発表には驚きました。

三井生命も変額年金から撤退しましたが、主力は営業職員チャネルによる
保障性商品の販売です。
ハートフォード生命の場合、金融機関チャネルの専門会社なので、
今回の決定は日本市場からの撤退に近いでしょう。

親会社のハートフォードグループの2009年1-3月期決算(4/30発表)は、
変額年金関連の損失がかさみ、3四半期連続の赤字となりました。
最低保証の負担よりも、過去に計上した繰延新契約費の償却負担と、
保有債券価格の下落による影響が大きいようです。

日本法人の売り上げも落ち込んでいます。
2008年7-9月期までは1000億円以上だった収入保険料は
10-12月期が322億円、2009年1-3月期は208億円です。
主力商品3WINが運用停止になったことによる混乱に加え、
グループの信用力低下もあり、金融機関が販売を避けているのでしょう。

ただ、銀行はこのところ保険・年金商品をリテール戦略の基軸に据え、
体制整備を進めています。今回の件がどう影響するか注目です。

なお、Bloombergに私のコメントが載ったので、ご紹介します。
「(植村アナリストは)『昨秋の金融危機以降、変額年金事業の環境は激変した』
 と指摘。運用低迷や、元本を保証する商品などのコスト上昇、米保険最大手
 AIGの公的管理を受けた保険会社の信用不安などが背景にあるという」

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

ブログを読んで面白かった方、なるほどと思った方はクリックして下さい。

「ビッグスリー凋落の理由」

null

米ビッグスリーの一角を占めるクライスラーが、ついに法的破綻です。
GMはどうなるのでしょうか。

ところで、4/29(水)の日経マーケット面のコラム・大機小機
「ビッグスリー凋落の理由」を読んで、ちょっと違和感を覚えました。

記事の内容は、次のようなものです。
・米企業の経営者には、車を「どれくらい売るか」ほどの執念を
 「どうつくるか」には感じられなかった。
・ビッグスリーが日独の有力メーカーに後れを取ったのは
 経営者が現場を見ずに利を追った側面が大きい。
・GMのトップは4人中3人が財務部門の出身。
 ホンダは歴代社長全員が技術研究所のトップ経験者だ。
・GMとクライスラーの再生には現場に精通したトップの起用が不可欠だ。

このような論調は日本人(特に財界)にとって耳触りがいいようです。
それではなぜ「技術の日産」は10年前に経営危機に陥り、
「世界のトヨタ」は足元で大赤字になり、「大政奉還」に追い込まれたのでしょうか。

保険会社にも、「現場(=営業)を知らないと出世できない」
という文化が非常に色濃く残っています。
でも、営業出身でなければ経営ができないなんてことはあるのでしょうか。
営業出身の社長が専門家を排除した結果、会社が傾いたというケースも
結構あります(→拙著「経営なき破綻」をご参照下さい)。

米ビッグスリーの経営が傾いたのは、財務部門出身のトップが続いたから、
あるいは、研究開発部門や生産現場の経験のないトップが続いたから、
と言い切るのは、あまり論理的・科学的ではないですよね。

※写真は三ツ沢陸上競技場です。部活の応援に行きました。

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

ブログを読んで面白かった方、なるほどと思った方はクリックして下さい。

Googleブック検索訴訟

新聞等でも報道されているとおり(4/25の日経など)、
私のところにも「Google(グーグル)ブック検索」和解に関する案内が
各出版社から来ました。

Googleブック検索和解契約へ

米グーグルは数年前から書籍のデータベース化を進めてきましたが、
著作権者の許諾を得ずに行ってきたため、米出版界と訴訟になりました。
ところが、その訴訟が和解にいたった結果、国際条約の関係で、
日本の著者や出版社も当事者になってしまい、困惑しているというわけです。

送られてきた案内によると、私の選択肢は次の5つだそうです。

・和解に参加する(自動)
・和解への参加を拒否する(グーグル社に通知)
・米国裁判所に異議を申し立てる
・和解に参加したあと、使用制限を求める
・和解に参加したあと、データベースからの削除を求める

5/5(火)が期限とのことでしたが、9/4(金)に延びたようです。

私は書籍のデータベース化そのものについて異論はないのですが、
カラオケのように、二次利用の際には著作権者にもそれなりの
収入が入ってくる仕組みを確立してほしいものです。

ネットの時代になって、このブログのように情報発信が簡単になる一方で、
それなりの情報が無料で手に入るため、新聞・出版のビジネスモデルが
崩れつつあります。テレビは「安かろう悪かろう」の悪循環です。

でも、本当はコストをかけなければ、まともな情報発信などできません。
どのようなビジネスモデルを構築できるのか、悩ましい限りです。

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

ブログを読んで面白かった方、なるほどと思った方はクリックして下さい。

主要生保の資産運用計画

null

4/26(日)の日経ヴェリタスにコメントが載りました。

株式保有にジレンマという記事の中で、
「(保険契約者に保険金を確実に支払うという視点から、)
 経営体力以上に価格変動リスクが高い株式を保有するのは疑問」
というものです。

当たり前ではないかというお叱りを受けそうですが、
次のようなコメントを要約したものとしてご覧下さい。

・生保は予定利率を保証しており、このような固定金利の負債には
 固定金利の資産を持つのが基本。株式では負債の金利リスクに対応できない。
・生保は資産と負債の金利変動リスクと株式保有リスクを抱えている。
 経営体力とのバランスを考えると、二つのリスクを今のまま抱え続けるのは困難。
・自己資本運用のうち一部(全部ではない)を株式で運用するのは理解できる。

記事の言う「ジレンマ」とは、株式を持つと価格下落リスクがある一方、
持たなければ運用競争で負ける恐れがあるというもの。
私は、運用競争よりも健全性の確保が先だと思うのですが…

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

ブログを読んで面白かった方、なるほどと思った方はクリックして下さい。

社会保障の勉強会

FPの内藤眞弓さんのお誘いで、日本の社会保障についての
勉強会に出席しました。

内藤さんは、フリーライターの早川幸子さんとともに
「日本の医療を守る市民の会」を主催しており、私は初出席でした
日本の医療を守る市民の会HPへ

今回の講師は都留文科大学の後藤道夫さん。
貧困の急増、労働市場の激変などが詳細なデータで示され、
福祉国家型の大きな政府にしなければどうにもならない、
というお話でした。

結論部分にはいろいろと議論の余地がありそうです。ただ、
この10年間に社会構造の大きな変化が起きたのは間違いなさそうです。

例えば、派遣・契約社員の数が増えたのはよく知られた話ですが、
若年層を中心に年収の低い正規労働者がかなり増えているのですね
(コンビニやファーストフードの店長などが典型的な例です)。

そして、終身雇用が崩壊する一方、日本の社会保障は
年金や医療保障に比べて失業時の生活保障が弱いうえ、
教育費や住宅費といった社会サービスのコストが高いため、
収入が減ると、ただちに貧困状態に陥りやすいのだそうです。
確かに言われてみればその通りかもしれません。

かつての終身雇用・年功序列には魅力を感じませんし、
そもそも前提が変わったため、戻ることはできないでしょう。
しかし、全体の2割が貧困世帯(貧困の定義にもよりますが)というのは、
やはり健全な社会ではないですよね。

いろいろ考えさせられる勉強会でした。

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

ブログを読んで面白かった方、なるほどと思った方はクリックして下さい。