15. 執筆・講演等のご案内

保険市場のダイナミズムはどこへ

今週のInswatch Vol.1045(2020.08.10)に寄稿したものです。
再編が進み、過去の話はどこまで語り継がれているのでしょうか。
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自動車保険の取り組み姿勢の違い

九條守氏の著書『保険業界戦後70年史』に、1970年代の話として、自動車保険の販売戦略の違いによって(収入保険料で見た)業界順位が大きく変わったという記述がありました。
本書によると、「整備工場とタイアップしたり、西日本での販売を控えたりする等、事故率を抑える工夫を凝らしてメリハリを利かせて積極的な募集を展開した」会社が順位を上げ、「自動車保険は損害率が高く収益性が悪いという懸念から、経営を危うくしかねないとの判断で、自動車保険の販売に慎重な姿勢を示す会社」が順位を下げたとのことです。
自動車保険だけを見れば収益性が悪くても、多種目販売を積極的に展開すれば、経営を危うくすることにはならず、増収による規模拡大がはかれるという戦略があったと本書は述べています(その戦略が適切かどうかはとりあえず脇に置いておきます)。

ちなみに、私がかつて所属していた会社も、当時、大手のなかで自動車保険に最も積極的に取り組んだ会社であり、積極経営によって業界地位が高まったという話を何度も耳にしました。業界地位とは市場シェアだけでなく、業界での発言力、影響力なども含まれていたようです。
積極経営はその後の積立保険の販売でも見られ、こんどは大手他社も同じように積極的に「年金払積立傷害保険」などを高い予定利率で提供しました。1990年前後のことです。残念ながら当時の保険負債は、その後の低金利でいまだに経営の重荷として残っています。

現在はどうか

当時の損害保険会社の経営環境は現在とは全く違います。カルテル保険料率だったので料率競争はありませんし、護送船団行政ですから、いわば監督官庁が経営リスクを引き受けていました。経営指標として重視されていたのは収入保険料と市場シェア、それと他社比〇〇という数字で、損益は二の次という雰囲気でしたが、それでも自動車保険という成長分野に対する取り組み姿勢には会社により大きな違いがあったということです。

今はどうでしょうか。3メガ損保グループが国内損害保険市場の大半を分け合うようになって久しく、少なくとも国内事業においては、どの会社の経営戦略も大きな違いがないように見えます。
さすがに市場シェア10%を超える会社では、公共的使命という観点から、かつての某社のように(損害率の高い)西日本での販売を控えるといった戦略を打ち出すのは現実的ではないと思います。ただ、もしかしたら成長分野かもしれないサイバーリスクに注力している会社があるとも聞きませんし、コロナ禍での現場対応も似たり寄ったりに見えます。メリハリというよりは総花的と言えるでしょうか。

規制が厳しかった時代に比べ、規制緩和が進んだ(ただし、寡占化も進んだ)現在のほうが市場のダイナミズムが見られると言えないところが、経済政策の難しさを感じます。
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写真(上)の斤券(きんけん)は炭鉱札の一種で、説明によると、「毎日の賃金支払いに通貨(現金)の代わりに支払われた」「実際にはなかなか(通貨に)交換してもらえず、炭鉱内の売勘場(売店)や炭鉱指定店の中だけで通用していた」「急に現金を必要とする場合は納屋頭や炭鉱指定店、高利貸から両替してもらったが、2割から5割の高い割引料をとられることもあった」とのこと。炭鉱労働の厳しさは事故の危険だけでなく、こんなところにもあったのですね。明治から大正にかけてのことです。

 

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過去20年の寄稿から見えるもの

保険ジャーナリスト森田直子さんが直近のinswatch Professional Reportのなかで、この20年間の原稿執筆依頼の変化から保険の販売チャネルの動向が見えるという興味深い記事を書いていました。なるほどと思い、自分の場合はどうだろうと、さっそく過去に新聞や経済誌に寄稿した文章をリストアップして、タイトルを眺めてみました
(ご参考までに最後にリストを載せています…私の備忘録ですね)。

東洋経済の保険特集号に1999年から2017年まで寄稿していた(一時中断あり)こともあり、この20年間、ありがたいことに保険関係の論考をほぼ途切れることなく寄稿してきました。しかし、ここから保険業界の変化が感じとれるかといえば、そうでもなさそうです。

寄稿の特徴としては、

・保険会社の経営分析が多い(「アナリスト」を名乗っているので当然ですね)
・内外の健全性規制の解説も多い
・最も多いのは経営改革を求めるもの

の3点でしょうか。私の求められる役割がこの3点だと言えばそれまでですが、変化というよりは、むしろ一貫して「保険会社の経営改革」を訴え続けてきたということになりそうです。
逆に言えば、20年前も今も「ガバナンス」「リスクマネジメント」「販売至上主義からの脱却」が保険会社の課題であり続けている(少なくとも私にはそう見える)ということですね。

もちろん、保険会社の経営が20年前から全く変わっていないというのではなく、変化はしているのだけど、求められる水準が上がっている、あるいは、事業の多角化などにより、求められる内容も変わってきているのだと思います。

【新聞・経済誌への主な寄稿】
 <格付アナリスト(R&I)>
「生保の予定利率引き下げ」2001.8.20 読売新聞『けいざい講座』
「生保契約者の保護充実を」2001.11.20 日本経済新聞『経済教室』
「経営戦略の『リセット』へ 株式会社化のお勧め」2003.8 週刊東洋経済臨時増刊『生保・損保特集』
「国内生保の経営改革始まる」2004.7 週刊東洋経済臨時増刊『生保・損保特集』
「生保危機は去ったのか?求められる社会保障の補完的役割」2005.9 週刊東洋経済臨時増刊『生保・損保特集』
「顧客に合わせた経営スタイルを構築せよ」2006.8 週刊東洋経済臨時増刊『生保・損保特集』
「保険不払い、どう考える」2007.5.6 朝日新聞『耕論』
「金融庁が求める基準見直しの狙い」2007.6.26 週刊エコノミスト
「今度こそ『販売至上主義』から『顧客重視』経営への転換を」2007.10 週刊東洋経済臨時増刊『生保・損保特集』
「生保経営統治向上急げ」2008.8.22 日本経済新聞『経済教室』
「破綻危機は去ったのか? なお潜伏する経営リスク」2008.10 週刊東洋経済臨時増刊『生保・損保特集』
「特集 共済vs.生保-【4 共済の実態】格付けアナリストが深層に迫る-大手共済徹底分析」2008.11.29 週刊東洋経済
「AIGショックに揺れる米国生保 不安視される日本の生保事業の行方」2009.1.31 週刊ダイヤモンド
「保険危機再来に問う『ガバナンスは万全か』」2009.4.18 週刊東洋経済
「2008年度の生保決算分析」2009.8.17 週刊金融財政事情
「ポスト金融危機の保険経営」2009.10 週刊東洋経済臨時増刊『生保・損保特集』
「金融危機と保険会社のリスク管理態勢」2009.12.21 週刊金融財政事情

 <金融庁>
「保険会社に対する健全性規制の最近の動向」2011.4.18 週刊金融財政事情

 <キャピタス>
「注目が集まるERM経営」2013.3.9 週刊ダイヤモンド
「異次元緩和下における生保のリスクマネジメント」2013.10 週刊東洋経済臨時増刊『生保・損保特集』
「4大共済の実力分析」2013.8.24 週刊東洋経済
「主要生損保のリスク戦略」2014.10 週刊東洋経済臨時増刊『生保・損保特集』
「進む保険の国際規制改革」2015.1.17 週刊ダイヤモンド
「大型M&Aがゴールではない 海外展開で問われるERM経営」2015.10 週刊東洋経済臨時増刊『生保・損保特集』
「高騰する地震保険料 広がる都道府県の格差」2016.1.16 週刊東洋経済
「マイナス金利政策の導入で問われる生保経営の成熟度」2016.4.23 週刊ダイヤモンド
「未曽有の利回り曲線平坦化に生保経営はどう対応するのか」2016.10 週刊東洋経済臨時増刊『生保・損保特集』
「保険会社による適切なリスクテイクとは」2017.10 週刊東洋経済臨時増刊『生保・損保特集』
「超低金利と技術革新が迫るチャネル戦略の再構築」2018.6.18 週刊金融財政事情
「主要生保経営の現状と課題を探る」2019.2.4 週刊金融財政事情
「最高益は見せ掛けにすぎない 生保経営の真実に迫る」2019.6.15 週刊ダイヤモンド

 <福岡大学>
「大手損保グループの2020年3月期決算分析」2020.7.6 週刊金融財政事情

※写真は筑豊電鉄です。
 終点・直方のアーケード街は閑散としていました。

 

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有価証券報告書の新たな開示

inswatch Vol.1041(2020.7.13)に寄稿した記事のご紹介です。
定性的な開示は定量的な開示と合わせて見ることで理解が深まりますね。

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上場会社の有価証券報告書に「事業等のリスク」という項目があります。従来の記載は、いわば「考えられるリスクの羅列」となっていて、あまり参考にならなかったのですが、昨今のコーポレート・ガバナンス改革の一環として次年度から開示の充実が求められるようになり、前倒しで記載内容を見直す動きがあります。
主な上場保険グループの「事業等のリスク」を確認してみましょう。

東京海上ホールディングス

従来とは異なり、最初にグループ経営におけるリスク管理の考え方(リスクベース経営)を説明したうえで、定性的リスク管理と定量的リスク管理に分け、それぞれ図表を使って具体的な取り組みを紹介しています。
なかでも定性的リスク管理では、これまでのリスクの羅列ではなく、経営レベルで論議し、特定した11の「重要なリスク」と、それぞれにおける主な想定シナリオを示しています。

MS&ADインシュアランスグループホールディングス

前半でリスク管理方針とその体制、ERMをベースにしたグループ経営について説明し、後半でグループの主要なリスクを紹介しています。
定量的な記載が少ないという感もありますが、後半の主要なリスクでは、経営が管理すべきリスクとしてとらえている「グループ重要リスク」に加え、経営が認識すべき「グループエマージングリスク」についての言及もありました。

SOMPOホールディングス

従来のリスクの羅列から記載内容が一変しました。最初にリスク管理の全体像(戦略的リスク経営)を示し、次に、具体的にどのようなリスクコントロールを行っているかを説明しています。自己資本管理についてはコントロール手法だけでなく、実際の管理状況も数値で示しています(決算説明資料でも開示)。
主要なリスクの記載も充実しました。「重大リスク」を示すだけでなく、ヒートマップ(発生可能性・影響度)を使ったリスクの評価を行ったうえで、対応状況の説明があり、さらに新型コロナ関連の記載も別途見られます。

第一生命ホールディングス

経営に重要な影響を及ぼす可能性のある予見可能なリスクとして選定した「重要なリスク」とその選定プロセスの説明が加わりましたが、従来の記載内容と大きく変わってはいません。
他方で第一生命ホールディングスは、決算説明会で定量的なリスクプロファイルや今後のリスクテイク方針の詳細な説明を行っており(説明資料は同社サイトで公表)、次年度は有価証券報告書の記載内容もさらに充実するのではないでしょうか。

T&Dホールディングス

もともと他社よりも記載内容が充実しており、中核生保子会社の事業基盤や収支構造、規制内容に関する具体的な説明までありました。
今回はリスク管理体制に関する説明を加え、あとは従来のものをやや簡素化したという内容です。おそらく次年度にはより充実した記載内容となることが期待されます。

ソニーフィナンシャルホールディングス

記載の形式は従来どおり、リスクを羅列していくものでした。ただし、新型コロナ関連に加え、ソニーによる完全子会社化が計画されているため、記載内容にはかなりの変化が見られました。

かんぽ生命保険

今回から主なリスクを「最も重要なリスク」「重要なリスク」「上記以外のリスク」に分けて開示するようになりました。
記載内容には一定の役職以上の執行役に対するアンケート結果や、リスク管理委員会・経営会議での協議結果などが反映されているとのことで、全部で21ページにも及びます。

いかがでしたでしょうか。せっかく上場会社がコストをかけて開示を充実しても、利用されなければ意味がありません。保険会社のステークホルダーは投資家だけでなく、保険販売にかかわる皆さんも、保険会社の従業員も含まれますので、これらの情報を保険会社(特に経営者)との対話に使ってみてはいかがでしょうか。
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※大学の周辺には池がいくつもあります。

 

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最近の執筆・取材対応など

備忘録をかねて、最近発表された論文や記事をまとめてご紹介します
(全文を公表するわけにはいかないので、要点のみ)。

生損保決算に関するもの

保険毎日新聞「生損保決算を読み解く」

7月1日に生保決算、3日に損保決算のインタビュー記事が出ました。
このうち生保ではトップラインの動向のほか、6月7日のブログにも書きましたが、決算対応の売却益計上について、「もしかしたら業界人には違和感がないのかもしれないが、機関投資家である本来の生命保険会社の投資行動としては疑問に感じる」などと述べています。
取材は6月18日にzoomで行われました。

週刊金融財政事情(2020.7.6)「大手損保グループの2020年3月期決算」

「再保険市場ハード化のなか、リスクベース経営の浸透がカギに」という副題が付いています。
後述するInswatch Professional Reportとの違いを出すため、こちらでは出再保険の回収状況や出再保険料の規模などを示しつつ、今後の収支動向に注目としています。記事には書きませんでしたが、データを見ると、東京海上日動と他の大手3社の出再戦略はかなり異なるようです。
なお、きんざいもオンライン版を始めたそうです
(私の記事は有料となります)。

Inswatch Professional Report「2019年度決算発表から-3メガ損保を中心に」

同じ損保決算でも、Inswatchでは新型コロナ関連支払い(見込み)の「内外格差」を多少深掘りしてみました。
おそらく、日本は経済規模の割に企業向け保険が普及していないということは言えるのでしょう。ただ、改めて数字を確認すると、この10年間で新種保険の収入保険料は市場全体を上回るペースで成長しており、企業のリスクマネジメント意識の高まりとともに、さらなる成長が期待できそうです。

論文発表

「保険市場の変化--過去10年と今後の展望」『保険学雑誌』 第649号(2000年6月)
(令和元年度日本保険学会大会シンポジウム「保険法10年の経験と今後の課題」)

「低金利下における生命保険会社の金利リスク対応--日本・台湾・ドイツ・韓国の事例から考える」『生命保険論集』(2020年6月20日発行)

前者は昨年の日本保険学会大会で登壇者の1人として発表したもので、法律の専門家に混じり、保険法制定後の保険市場において象徴的と考えられる動きをいくつか紹介しました。
後者は1月に韓国・釜山で発表したものの日本語版です。次に韓国に行けるのは果たしていつになるのでしょうね。

※NHKに行ったのは出演のためではなく、みずほ銀行のATMを使わせてもらいました^^

 

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コロナ禍での生保販売動向

inswatch Vol.1036(2020.6.8)に寄稿した記事のご紹介です。
3社の決算は本日(6月10日)もまだ発表されていません。

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2019年度決算はまだ出そろっていません(6月5日時点でアクサ生命、エヌエヌ生命、メットライフ生命などが未公表)が、公表された会社のデータを使い、新型コロナの影響が出始めた1-3月期の各社販売動向を確認してみました。

保険料収入は既契約の影響が大きい

メディアでは生保決算について「保険料等収入」「基礎利益」の動きを説明するものが多く、私は毎度のように「保険料等収入は売上高には当たらない」「基礎利益は本業の儲けを示していない」と指摘しています。決算データから何を知りたいのかという視点が抜け落ちていて、定例の作業となってしまっているのでしょう。
その点、今回の日経新聞の生保決算報道は、保険料等収入とともに新契約年換算保険料を載せ(6月3日付)、基礎利益だけでなく最終利益の推移を示す(5月29日付)など、定型パターンではなくてよかったと思います。

例えば1-3月期のデータを見ると、営業自粛が続くかんぽ生命の保険料収入は前年同期比で25%の減少と、それほど落ち込んでいるようには見えません。しかし、新契約年換算保険料は前年同期の1%以下の水準です。かんぽ生命の販売の現状を示しているのはどちらでしょうか。
第一フロンティア生命のように、一時払いの貯蓄性商品を主力としている会社では、保険料収入と新契約年換算保険料が同じような動きをします。逆に言えば、保険料収入は貯蓄性商品(特に一時払い)の販売動向に大きく左右されるということで、これを事業会社の売上高になぞらえるのは無理があります。

コロナ禍の影響は

政府による緊急事態宣言の発令は4月になってからですが、思い起こせばすでに3月には活動自粛モードが強まっていました。私は2月下旬からテレワークを本格的に始めています。保険の対面販売活動にもかなりの影響があったと考えられます。
とはいえ、1-3月の業績動向を確認しても、新契約がここで大きく落ち込んだという会社はほとんど見られませんでした。前年同期比で年換算保険料や販売件数が2桁のマイナスという会社はいくつも見られます。しかし、多くの場合、1-3月だけでなく、昨年4月からその傾向が続いています。これは経営者保険の販売停止・見直しをはじめ、新型コロナとは別の要因が強く影響していると見るべきでしょう(コロナ禍対応で海外金利が下がり、外貨建て保険が売れなくなったということはありそうです)。

4-6月は対面販売の自粛や停止により、新契約の落ち込みが予想されます。ただ、もしかしたら保険ショップや一般代理店を主力チャネルとする会社に比べ、営業職員を主力とする会社(特に伝統的な国内系生保)の業績はそれほど落ち込まないかもしれません。
というのも、彼らは新契約の大半を既契約市場で獲得しているので、顧客を訪問できない時期が続いても、ベテラン営業職員であればそう簡単に顧客との繋がりがなくなったりはせず、常に見込み客を確保できる状況にあるからです。1-3月の契約動向にもこうしたチャネル特性が反映されているのでしょう。
もちろん、採用活動の難しさなどから、会社全体としては先細りとなる恐れはあります。でも、伝統チャネルの底力を軽視はできないでしょう。

極論すれば、今後はオンラインをフル活用した、新たな時代のビジネスモデルを築いた販売組織か、あるいは、すでに揺るぎのない顧客基盤を築いている募集人でなければ、生き残るのが難しい時代となるのかもしれません。今後の業績データに注目したいと思います。
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※大学近くのラーメン店なので「初心者」が多いのかもしれません

 

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対面販売の自粛を活かす

インシュアランス生保版(2020年5月号第4集)に執筆したコラムです。
東日本大震災の時も感じましたが、非常時には元々抱えていた経営課題も浮き彫りになります。
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非対面販売の活用

新型コロナ対応で保険営業の対面販売の自粛が続くなか、営業職員による訪問販売を主力とする大手生保が、既契約者とその家族に限り、一部の商品について非対面での加入解禁に踏み切るとのこと。代理店に対しても、限定的にではあるが、非対面による加入を認める動きが徐々に広がりつつあるようだ。
対面での営業活動を、オンライン営業を含めた非対面に置き換えるのはそう簡単ではない。zoomなどを使ったオンライン営業であれば、対面とほぼ同じことができるとはいえ、相手のネット環境にも左右されるうえ、長時間になるとリアルな打ち合わせよりも集中力がなくなってしまいがちだ。

しかし、特効薬が登場するまで、ウイルスとの共存を余儀なくされるのであれば、対面販売を再現するという発想ではなく、非対面ならではの販売モデル確立に向けて、いち早く動くべきではないかと考える。
オンライン営業を含めた非対面販売には、移動時間がかからない、証拠を残しやすい、同じ場所に集まらなくても打ち合わせができる、などの特徴がある。消費者としては、これまでは家庭や職場で営業パーソンから一対一で話を聞いていたものが、オンラインであれば他の家族にも打ち合わせに加わってもらいやすくなるし、保険に詳しい知人に同席してもらうのもハードルが低くなる。個人的な感覚かもしれないが、セールスを受けているという圧迫感もオンラインのほうが弱い。

職人芸からの脱却を図る

何よりも、これまで営業パーソンの「職人芸」に頼っていた営業活動を共有化することで、組織としてのマーケティング活動ができることが大きい。とりわけ伝統的な生保の営業職員チャネルでは、そもそも新型コロナ以前からビジネスモデルの賞味期限が取りざたされていた。かつてに比べればやや改善したとはいえ、大量採用・大量脱落の構造は今も残り、顧客開拓からクロージングまで、基本的に個人のスキルにかかっている。
今回の対面販売の自粛がなくても、こうしたモデルの限界は意識されていたことだろう。この機会に、例えばデータサイエンスを全面的に用いるなどして、新しい時代に合った販売モデルを模索すべきである。

保険販売、特に生命保険は訪問販売でなければ売れないという声も根強い。確かに、ニーズが顕在化している自動車保険などに比べると、生命保険(死亡保険)は自らが保険金を受け取ることはなく、遺族保障の必要性を想像してもらわなければならない。各種の保障を組み合わせた商品も多く、業界以外の人は説明を受けても理解するのが難しい(業界人は、例えば携帯電話の説明を受けたときのことを思い出してほしい)。
ただ、せっかく新型コロナ禍で家族のきずなが強まり、保障に対する人々の意識も変化していると思われるのに、一歩踏み出さなければ、みすみすその機会を逃すことになりかねない。もはや危機対応の段階から、新たなビジネスモデルを模索する段階にきているのではないか。
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※写真は福大オリジナルクッキーです

 

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生命保険会社の会社数の推移

inswatch Vol.1032(2020.5.11)に寄稿した記事のご紹介です。

【5月14日訂正】生命保険会社の会社数は42社でした(チューリッヒ生命のカウント漏れ)。大変失礼いたしました。

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テレビのニュースもネットの見出しも新型コロナ関連の話ばかりなので(私も先月のinswatchで取り上げました)、今回は全く違うテーマを取り上げてみましょう。

日本に生命保険会社は何社あるか

正解は41社です(2020年5月1日現在)。日本では保険業は免許制(少額短期保険業は届出制)なので、金融庁から免許を取得している生命保険会社が41社あるということになります。

意外に多いと感じるかもしれませんし、「生保は大手銀行や損保に比べると再編が進んでいない」と言われることもあります。確かに大手生保(4社または5社が大手とされる)の市場シェアは圧倒的というほど高くはありません。
ただ、日本の生命保険市場が世界第2、3位の規模という巨大なマーケットであることを踏まえれば、会社数が多すぎるという指摘は当たらないようにも思います。

ご参考までに、損害保険会社は53社(同)あります。3メガ損保グループが収入保険料の8割超を占める超寡占市場なのに、どうして会社数が多いのかというと、3グループともに機能・役割の異なる保険会社を複数持っているうえ、規模が小さく、特定の分野に特化した会社が数多く存在するからです。
また、このなかには再保険会社も含まれていて、生命再保険を主力とする会社でも、損害保険会社の免許を取得することになります。

「増加」から「横ばい」へ

次に会社数の推移を見てみましょう。
生命保険協会が「生命保険の動向」という資料の中で、「生命保険協会加盟会社数の推移」というグラフを掲載しています。生命保険協会には全ての生命保険会社が加盟していますので、これが会社数の推移を示したものです
(損害保険会社には日本損害保険協会の会員ではない会社があります)。

グラフをご覧いただくと、過去50年間のトレンドは概ね右肩上がりに見えます。もっとも、2000年代以降だけで見れば、横ばいと言うべきかもしれません。
50年前の20社から外資や異業種からの参入により会社数が徐々に増え、1996年度には損保による生保子会社の設立で会社数が一気に増えました。その後、2000年の49社をピークに減少に転じ、一時は40社を割り込んだものの、新規参入もあり、現在に至っています。

生保は人口減少や高齢化の進展などから衰退産業と揶揄されることもありますが、再編による会社数の減少もあるなかでの41社ですから、新規参入者には依然として魅力ある市場に映っているのでしょう。

外資系生保の存在感

外資の存在感が高いことも、日本の生保市場の特徴と言えるでしょう。
規制緩和が進み、日本の金融・保険市場が閉鎖的と言われることはほとんどなくなりました。それでも日本の市場が外資系に席巻されることはなく、特に個人分野では圧倒的に国内系が顧客基盤を確保しています。銀行もそうですし、証券も損害保険もそうです。

ところが生命保険だけは、外資系が市場を席巻するとまではいかないにしても、一定の存在感を確保していると言えるでしょう。2000年前後に起きた中堅生保(いずれも国内系)の相次ぐ経営破綻のほか、国内系とは異なるビジネスモデルを採用してきたことが結果として顧客の支持につながり、現在の地位を築いていると考えられます。
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※大分県に行ったのではなく、近所に「別府」という地名・駅があるのですね。

 

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新型コロナウイルスと保険会社経営

inswatch Vol.1028(2020.4.13)に寄稿した記事のご紹介です。

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4月から東京を離れ、福岡市にある福岡大学商学部で研究および教育活動を行うことになりました。主に「保険論」「リスクマネジメント論」の講義を受け持ちます。キャピタスコンサルティングにも非常勤として残るので、福岡と東京の二重生活となる予定です。

とはいえ、福岡にも非常事態宣言が出され、東京に戻るどころか、大学への立ち入りも原則として禁止です。新生活のスタートがこのようなものになるとは全く予想していませんでしたが、ネット環境が快適とは言えないまでも、何とかこちら(福岡の自宅)で仕事をできるようにはなりました。IT技術の進展はありがたいです。

昨年度決算はそれほど深刻なものではなさそう


さて、本年度もしばらく生保経営に関する話を続けることにしましょう。

4月となり、保険会社では昨年度決算の取りまとめが行われているところです。非常事態宣言が出るようななかで、作業は例年よりも大変だと思いますが、おそらく保険引受面での影響はほとんどありません(インフルエンザの発生が少なかったというプラス要因もあります)。
2月下旬からの株価急落には肝を冷やしましたが、通期で見れば、株価指数は10%程度の下落にとどまりました。主要通貨も豪ドルを除き、総じてやや円高といった程度なので、ソルベンシーマージン比率などの健全性指標がひどく悪化するようなことはなさそうです。

景気低迷による保険需要の減退


もちろん、今後の金融市場の動きは予断を許しませんし、日本銀行がマイナス金利の深掘りをしてしまい、超長期金利の水準が一段と下がるという悪夢のシナリオも否定はできません。
とはいえ、金融市場の急激な変動はリーマンショックで経験済みですし、海外事例を見ても、新型コロナの死亡者数が日本全体で数十万人に達するとは考えにくく(保険会社はその程度のシナリオまで想定して経営しています)、今のところ財務面の心配はそれほどしなくても大丈夫かと思います。

これに対し、営業面には深刻な影響が出るかもしれません。
パンデミックの発生が特定地域ではないため、ほぼ全国で営業活動に支障があります。会社専属の営業職員チャネルを主力とする会社でも、独立チャネルを中心に展開する会社でも、対面販売ができないのは非常に厳しく、事態がいかに早く収束に向かうかにかかっています。

新型コロナが人々の行動を変える


もし事態が収束に向かったとしても、単にそれ以前の状態に戻るということはないと思います。
2011年に発生した東日本大震災の後、対面販売チャネル、とりわけ顧客のもとに足を運ぶ訪問販売が再評価されました。ネット生保の苦戦もそのようななかで起きました。

今回はどうでしょうか。新型コロナの感染者数が頭打ちになっても、顧客が来訪者を気軽に受け入れるには、よほど親しくないかぎり、相当な時間を要するかもしれません。
ネット環境も一段と身近なものとなります。半ば強制的にとはいえ、テレワークやオンライン会議が日常となった顧客が、保障を得たいと思ったときに、どのようなチャネルを選ぶでしょうか(単純にネット生保に移行するということではないかもしれませんが)。

東日本大震災の後で人々の行動が変化したように、ポスト新型コロナの世界でも、人々の行動が変わることは間違いなさそうですし、それに応じたビジネスモデルの見直しが求められることでしょう。
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※週末にミートソースを作りました。
 30分以上も煮込んだ力作(?)です。

 

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超低金利が浮き彫りにする金融機関経営の課題

インシュアランス生保版(2020年3月号第3集)にコラムを執筆しました。
タイトルが長くなってしまい、編集者にご迷惑をかけたかもしれません。
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金融関係者が集まる会合で話をする機会があり、超低金利の継続が銀行と生命保険会社の経営に及ぼす影響について解説した。
日本銀行のマイナス金利政策による副作用として銀行の収益悪化が挙げられている。多くの生命保険会社にとっても、金利水準の低下は経営を圧迫する要因だ。しかし、低金利が銀行にも生命保険会社にも悪影響を及ぼすとは、考えてみれば不思議ではないか。

低金利と銀行経営

かつて銀行はむしろ金利低下の恩恵を受けていた。銀行は預金などの短期調達と、貸出金などの長期運用の利ザヤが主要な収益源の1つであり、イールドカーブ(利回り曲線)が右肩上がりであれば、比較的容易に収益を稼ぐことができた。しかも、金利低下に合わせて預金金利を下げれば、貸出金が折り返しとなるまで利ザヤは拡大する。バランスシートで説明するならば、金利低下で資産価値が高まるのに対し、負債(預金)の価値はあまり変わらないため、純資産(資産-負債)は増加する。ところがマイナス金利政策で、短期金利から10年金利までほぼ0%となり、イールドカーブが右肩上がりでなくなってしまった。これでは長短金利差に起因する利ザヤを稼ぐことはできない。

伝統的な銀行ビジネスの利ザヤの源泉は長短金利差と、貸出先の信用リスクである。マイナス金利政策で利ザヤが稼げなくなったのは、イールドカーブの平坦化以前の問題として、信用リスクに応じた貸出が質、量ともにできていなかったためだ。個人だけでなく、企業も資金余剰主体となって久しく、特に地方部では人口減少の影響も資金需要に影響を及ぼしている。ただ、あえて厳しい言いかたをすれば、これらは20年以上前からわかっていた話であり、銀行経営者は金利低下の恩恵を受けていた時期にビジネスモデルの修正を行うべきだったのだろう。

低金利と生保経営

生命保険会社はどうか。銀行になぞらえれば、多くの生保は保険販売による超長期調達(しかも固定金利)と、有価証券を中心とした長期運用という資金構造であり、金利水準が下がると固定金利の保険負債が重荷となる。2000年前後に中堅生保の経営が相次いで破綻したのは、1990年代前半からの金利低下に耐えられなかったことが一因だ。その後も金利水準は下がり続け、ついにマイナス金利となっても今の生保が一定の健全性を確保できているのは、株式などの資産運用リスクを減らし、保障性商品の販売に力を入れることで、資産運用以外でリターンを上げるビジネスモデルを構築・維持してきたためだ。

もっとも、マイナス金利政策以降の生保経営には首をかしげることも多い。経営リスクを保険引き受けではなく、外国証券など資産運用によるリスクテイクに配分する行動が目立ち、その一方でコストのかさむハイブリッド調達(劣後債発行など)を積極的に行っている。こうした姿を見ると、生保のビジネスモデルの持続性にも危うさを感じる。地域金融機関の苦境は対岸の火事ではない。
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※写真は桜島です。福岡から鹿児島まで新幹線で1時間ちょっとなのですね。

 

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日本の保険会社はどこで資本を使っているか

inswatch Vol.1023(2020.3.9)に寄稿した記事をご紹介します。
金融市場の混乱で株安、円高、金利低下となっているので、まさにリスクテイクが裏目に出ている状況で決算期末を迎えそうです。
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経営リスクの数値化

保険会社のリスクマネジメント手法の1つに、経営リスクを数値で示し、自己資本等と対比するというものがあります。
保険会社の抱える経営リスクのすべてを数値化することはできないにしても、保険引受に伴うリスクや株価下落に伴うリスクなど、主要なリスクカテゴリーに関しては、リスクを1年間に一定の確率で発生しうる損失額として数値(金額)で示す実務が普及しています。
これらを自己資本等と対比することで、経営として抱えているリスクが経営体力の範囲内に収まっているかどうかを確認できます。

資本の活用

同じ話を資本の出し手(株式会社の株主や相互会社の社員)から見るとどうなるでしょうか。
資本の出し手が保険会社に出資しているのは、保険会社の経営者がリスクを引き受けることでリターンを上げ、そこからの還元を受けるためです。リスクを引き受けるとは、すなわち資本を使うということ。だからこそ、リスクのことを「所要資本」とも言います。資本の出し手としては、出資した資本を有効に使ってもらいたいので、保険会社が実際にどこでどれだけ資本を使っているかは重要な情報です。
多くの上場保険グループが内部管理として計測したリスクと自己資本等を公表しているのは、このような背景があります。

どこで資本を使っているか

昨年12月に金融庁が公表した資料「2019年フィールドテストの結果概要」の7、8ページに、金融庁が指定した手法により計測した保険会社の経営リスク(所要資本)の内訳が載っています。
有識者会議の資料(PDF)

<生命保険会社(単体ベース:41社計)>
・保険リスク 34%(解約・失効リスクが最も大きい)
・市場リスク 54%(株式、金利、為替のリスクが大きい)

<損害保険会社(単体ベース:51社計)>
・保険リスク 36%(巨大災害リスクが最も大きい)
・市場リスク 58%(株式リスクが大きい)

いかがでしょうか。PDFファイルで元の図表をご覧いただいたほうが、より明らかなのですが、日本の保険会社は保険引受に伴うリスクよりも、市場リスク、つまり金融市場の変動に伴うリスクのほうがずっと大きいことがわかります。保険会社なのに不思議に思えますよね。

資本の使い方は適切なのか

資金の出し手からすると、保険会社の経営者は資本をいわば「本業」である保険引き受けではなく、主に資産運用でリターンを上げるために使っているという現状をどう考えるかということになります。
もし、日本の保険会社が資産運用に強みを持ち、中長期的に高いリターンを上げることが期待できるというのであれば、適切な資本の使い方をしていると言えるでしょう。ただ、過去のトラックレコードからすると、必ずしも結果が出ていないようにも見えます。
保険会社の経営者は今の資本の使い方について、資本の出し手が納得できるような説明をする必要があります。相互会社であれば、説明の相手は契約者です。
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※写真は早稲田大学です。授業開始は4月20日以降だそうです。

 

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