15. 執筆・講演等のご案内

営業職員チャネルの改革

今週から拙著「利用者と提供者の視点で学ぶ 保険の教科書(中央経済社)」が店頭に並び始めたようです。週末に大きな本屋さんに行って確かめてきます^^

※15日現在、アマゾンでは定価で買えないようなので、お求めのかたは中央経済社のサイトなどでお願いします。

福岡大学の授業も今週からスタート。キャンパスが賑やかになりました。ただ、大阪では行政が対面授業の中止を要請するとのことで、福岡もこの後どうなるか、いろいろと心配です。


さて、少し遅くなりましたが、今週のInswatch Vol.1080(2021.4.12)では生保の営業職員チャネルについて寄稿しましたので、ご紹介いたします。
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採用後2年で半数が退職

営業職員チャネルを主力とする大手生命保険会社が、評価制度や採用基準の見直しなどに動いている模様です。コロナ禍で対面チャネルのあり方が問われていることもありますが、大量採用・大量脱落のターンオーバー問題の改善は長年の経営課題となっています。

2005年に発覚した保険金不払い問題を経て、在籍する営業職員の3分の1が毎年入れ替わるといった極端なターンオーバーは過去のものとなっています(現在の退職者数は在籍者数の2割を下回っています)。新契約に過度に偏った営業活動を改め、顧客訪問活動など既契約を重視する営業に舵を切ったことや、採用後の教育を重視し、早期退職の減少に取り組んだことなどが一定の効果を上げたと考えられます。
3月31日の日本経済新聞に載った大手生保の営業職員の在籍率は2年目(13月目)で7割前後、3年目(25月目)で5割前後でした。20年ほど前の25月目在籍率は2割程度だったので、実はこれでもかなり改善しています。ただ、採用しても2年で半数が退職してしまうようなチャネル運営でいいのかという疑問は残ります。

ターンオーバーの何が問題なのか

厳しい営業職なので、100人採用しても2年後には50人しか残らないのは仕方がないという考え方もあるでしょう。今のビジネスモデルでは、顧客開拓からクロージングまで、基本的に個人のスキルにかかっているからです。
ただし、100人を採用し、営業職員として育てるには、会社として多額のコストがかかっています(例えば近年、保険会社は新人層の固定給を増やしています)。短期間で半数が退職してしまうのは、いわばコストを無駄にかけているようなものです。

問題はそれだけではありません。早期に退職した職員の獲得した契約は、退職後に解約となってしまう傾向があります。優先順位の低い保険にいわば義理・人情で入っていた顧客も不幸ですし、保険会社にとっても解約は企業価値を減らす要因です。
さらに言えば、早期に退職した職員やその顧客が、その保険会社にいい印象を持つとは思えませんので、保険会社は自らブラックなイメージを世間に広めてしまっていることになります。

超厳選採用かマニュアル化か

明治安田生命は営業職員の固定給制度(1年間の活動内容に応じ、翌年の給与を固定給として支払う)の導入など、チャネル改革を進めていく方針を社長インタビューなどで示しています。また、第一生命ホールディングスは先日公表した中期経営計画で、「過去の成功モデルや量的拡大にこだわらず、真にお客さま満足を高めることができる『高能率層』の拡大に重点を置いた運営に大きく舵を切り、従来の大手社のイメージからは一線を画した水準」を目指すとしています。

もっとも、採用した職員の在籍率を一段と高めるには、採用を3割減らすといったレベル感ではなく、応募者100人のうち営業センスのある1、2人しか採用しないくらいの超厳選採用に踏み切る必要があるのかもしれません。あるいは、業務を徹底的にマニュアル化して、誰もが標準活動を行う固定給のチャネルとすることも考えられます。
どちらも同じ業界に成功例がありますし、少なくとも現在の延長線上では「改革」を繰り返すことになってしまいそうです。
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※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

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『保険の教科書』刊行のご案内

新刊のご案内です。この4月に中央経済社から書籍「利用者と提供者の視点で学ぶ 保険の教科書」が出ることになりました(4月9日発売と聞いています)。単著としては実に2008年以来となります。

保険論は歴史のある学問ですので、保険理論に関する書籍は数多くあります。しかし、昨年から大学で本格的に教えるようになって、保険と保険産業の全体像をわかりやすく記述した初学者向けの書籍が意外にも見当たらないことに気づきました(特に保険産業について)。保険を学ぶのであれば、それを提供している保険産業がどうやってリスクを引き受けているのかも知る必要があると思うのですね。
そこで、出版社と相談したうえで、初めて保険を学ぶ学生のほか、保険産業(保険会社、保険代理店など)で働く若手社員をはじめ、保険に関心を持つ皆さんに向けた入門書を思い切って執筆した次第です。報道関係の皆さんにもぜひ手に取ってほしいです。

当初は前期の「保険論」「保険論入門」の講義と並行して執筆を進める計画でした。ところが、実際はオンライン対応などで7月まではとても執筆にあてる時間をとれるような状況ではなく、夏休みを返上して泣く泣く原稿書きに勤しみ、なんとか4月刊行に滑り込むことができました(中央経済社のHさん、ご尽力ありがとうございました)。

保険は身近な存在であるにもかかわらず、わかりにくいとされる商品・サービスの典型です。保険を提供する保険会社の経営内容はさらに理解されていないと感じます。本書が少しでも「利用者」と「提供者」のギャップを埋めるのに役立つことを願っています。

※写真は岡山県の倉敷です。

 

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生保決算報道の分析

13日に福岡大学で開催された日本保険学会・九州部会で、久しぶりにリアルな場での研究報告を行いました
(正確にはリアルとオンラインのハイブリッド開催でした。伊藤先生をはじめ役員の皆さま、お疲れさまでした)。

私の報告は「マスメディア(新聞)は生命保険会社の決算をどう報じてきたか」です。
(レジュメは次の情報がアップされるまでこちらからアクセスできます)。

ソルベンシー規制の第3の柱、すなわち情報開示による市場規律は、主に株主やアナリストなどの市場関係者を念頭に置いたものだと考えられますが、消費者(契約者)も本質的には保険会社の経営情報を必要としており、市場規律の担い手と言えるでしょう。そして、保険会社の経営情報が消費者にどのように伝わるかを考えた際、メディアによる伝達を無視することはできません。

そこで、2001年から2020年の20年間の新聞(日経、朝日、読売)による生保決算報道を調べてみたところ、継続的に報道がなされているとはいえ、メディアにはメディアが考える「ニュースバリュー」があり、それは必ずしも消費者のニーズに合致しているとは限らないことが見えてきました。
特に近年の画一的な報道には、メディア独自のニュースバリューのほか、日本特有の「記者クラブ制度」「(短期間での)ローテーション人事」も報道内容に影響している可能性がありそうだとわかりました。
このまま2025年に経済価値ベースのソルベンシー規制が導入されると、もしかしたらメディアは相変わらず保険料等収入と会計利益を報じるだけで、経営内容を正しく伝えようとはしないおそれもあると、あらためて認識した次第です。

保険会社のディスクロージャーについての研究はいくつか見かけますが、保険会社のディスクロージャーを伝えるメディアについての研究は見当たりませんでしたので、皆さんに興味深くご覧いただけるのではないかと思います。
もっとも、今回の研究報告は途中経過に近いものなので、さらに調査分析を進める予定です。関係者の皆さまには引き続きご支援のほど、よろしくお願いいたします。

※写真は古賀市筵内(むしろうち)地区の菜の花です。

 

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事業会社のリスク情報

今週のInswatch Vol.1075(2021.3.8)に寄稿したものをご紹介いたします。
写真は以前訪れた武雄市図書館です。盛況も納得の楽しい図書館でした。
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リスク情報の開示を充実する動き

昨年7月の本誌では、上場保険グループの「事業等のリスク」を取り上げました。「事業等のリスク」は上場会社が有価証券報告書に記載することになっている項目です。従来はリスクの羅列となっていて、あまり参考にならなかったものが、昨今のコーポレート・ガバナンス改革により内容が充実してきたとお伝えしました。
こうしたリスク情報の開示や内容の充実を求められているのは保険会社だけではなく、すべての上場会社が対象となっています。金融庁は情報開示の充実を促すためにサイトで具体的な事例を公表していて、2月16日に「事業等のリスク」の開示例を追加しました。

リスクの重要度合いを示す

金融庁が2020年度の「事業等のリスク」の好事例として取り上げたのは11社で、東京海上とSOMPOの保険グループ2社のほかは事業会社でした(コニカミノルタ、エヌ・ティ・ティ・データ、J.フロント、LIXIL、ヤマハ、不二製油、味の素、ソニー、三菱商事)。
事業会社における取り組みとして目立つのは、重要と考えるリスクをどう特定し、どのように対応しているかを示したものです。
例えばいくつかの会社では、リスクの重要性を判断するために、縦軸を影響度、横軸を発生可能性としたリスクマップを作成し、活用しているという記載がありました。別の会社では、特定した重要リスクそれぞれについて対応の方向性を示しているほか、そのリスクを誰が管掌しているかという情報も載せ、責任の所在を明らかにしていました。

事業会社のリスク認識が変わる

有価証券報告書のリスク情報は主に投資家やアナリストに向けたものですが、誰でも簡単に入手し、活用することができます(私がアナリストを始めたころは紙ベースのものしかなかったので、今はいい時代になりました)。
上場会社は必ずしも日本を代表する少数の大企業だけではなく、第一部に限っても2194社もあります(2月26日時点)。これらはグループベースですので、実際の会社の数となるとさらに多くなります。
リスク情報の開示は、単なるリスクの羅列であれば担当者の作文でも済んでしまいますが、開示を充実させるとなると、経営者はいよいよリスクと正面から向き合い、リスクマネジメントに真剣に取り組む必要が生じます。企業のリスクマネジメントを支援する保険産業にとっては追い風です。
まともな経営者であれば、リスクマネジメントへの取り組みのなかで、保険の出番も増えるはず。保険の手配は総務部か人事部の仕事という時代がようやく終わるかもしれません(期待を込めて)。
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生命保険会社の決算報道

インシュアランス生保版(2021年2月号第2集)に執筆したコラムをご紹介します(見出しはブログのオリジナルです)。
生保各社の4-12月期決算は2月12日に公表されましたが、これを報じた全国紙は日経だけ。その日経も「基礎利益が主要9社のうち6社で減った」という、いわゆるベタ記事でした。

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本稿が掲載されるのはおそらく生命保険会社の4-12月期決算発表の前後であろう。
マスメディアは生保決算をどう報じてきたか。大学のデータベースで確認できた経済紙(日経)および一般紙(朝日、毎日、読売)の決算報道を確認すると、例えば2020年4-9月期には、いずれも主要生保の個人分野の新契約年換算保険料と保険料等収入、基礎利益の動きを伝えていた。

「保険料等収入」「基礎利益」を伝えればいいのか

切り口が横並びなのは、どのメディアも主に記者クラブ主催の会見と報道向け資料をもとに記事を作成しているからであろう。直近で新契約年換算保険料を取り上げているのは、新型コロナウイルスの影響で数値が大きく落ち込むという目立った事象への対応であり、ここ数年は「売上高にあたる保険料等収入」「本業のもうけを示す基礎利益」の2つを伝えることをもって、各紙は生保決算というネタを画一的に「処理」してきた。
日経だけでなく、一般紙も概ね半年ごとに一定の紙面を生保決算報道にあててきたことを踏まえると、読者に保険契約者が多いというだけでなく、少なくとも生命保険という産業が日本の経済・社会において無視はできないレベルの存在感があり、ニュースバリューがあると考えているのだろう。ただ、もしメディアが、生保の決算報道には事業会社と決定的な違いがあることを十分理解しているのであれば、生保の経営内容を示すのに適切とは言えない「保険料等収入」「基礎利益」の動きを伝えておしまいとはならないはずだ。

生命保険は経営内容で価値が左右される商品

事業会社の場合、その会社の商品・サービスの利用者だからといって、その会社の経営内容を知る必要はない(知りたくなることはあるかもしれないが)。ところが保険会社の場合には、会社の経営内容もいわば商品・サービスの一部となっている。会社の経営が傾けば将来の保障が危うくなるし、業績が順調であれば(有配当契約の場合)配当還元を期待できる。つまり、生命保険は保険会社の経営内容によってその価値が左右される商品・サービスなのである。
貯蓄性の強い一時払い商品の販売に左右される保険料等収入や、外国証券等の利息配当金収入や団体保険の死差益で「かさ上げ」される基礎利益を報じるだけでは、メディアは社会から期待されている役割を果たしていないどころか、間違ったメッセージを与えているのだと自覚してほしい。

「増減収」「増減益」報道に惑わされないで

本誌の読者の皆さんにも僭越ながらお願いしたい。「保険料等収入でA生命がB生命を〇年ぶりに抜いた」「4社のうちC生命だけが減益だった」といった報道に接しても、決して惑わされないでほしい。メディアで報道されるからといって、毎期の保険料等収入や基礎利益の拡大を競う経営を行うと、かえって企業価値を損ない、契約者をはじめとしたステークホルダーに迷惑をかけることになりかねないためである。
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※動物園に行ってきました♪

 

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マイナス金利政策の導入から5年

今週のInswatch Vol.1071(2021.2.8)に寄稿したものです。
今週号の松本一成さんの記事を拝読して、「リスク選好」をリスクコントロール対策の1つとして捉える考え方もあるのだと知りました。同じ用語でも私とは別の概念なのかもしれませんが…ご興味のあるかたは本誌をご覧ください。
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学生の成績評価や入学試験の監督など、このところ大学教員ならではの業務に追われています。5年前とは大きな変化です。

歴史的低金利が長期化

早いもので2016年1月のマイナス金利政策導入から5年が経ちました。この政策は同年9月に「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」に修正され、長期金利の極端な低下には歯止めがかかったものの、短期金利はマイナス、超長期金利は1%を下回る低位で推移し、現在に至っています。
もともと大胆な金融緩和は短期決戦だったはずなのですが、2%の物価安定の目標には一向に到達せず、いつの間にか長期戦となってしまいました。日銀は現在、金融緩和政策の「点検」を行っていて、3月に結果を公表するとみられます。新型コロナウイルス感染症の影響もあり、足元の物価はむしろ低下傾向にありますので、今の枠組みが大きく変わることはない、というのが専門家の見方のようです。

外貨建資産へのシフトが進む

筆者は2016年当時、東洋経済オンラインに「生保、マイナス金利でリスクテイクが困難に」という記事を執筆し、金利水準の低下が多くの生命保険会社のバランスシートに悪影響を与えることや、日銀が期待する大規模なポートフォリオ・リバランス(国債投資から株式、外貨建て資産への投資にシフト)は実現しないと述べました。
現行のソルベンシー・マージン比率は金利低下の影響を適切に反映しないので、一見すると平穏な5年間だったと思われるかもしれません。しかし、この5年間に国内系生保による資本(劣後債務)調達が相次いだことからしても、マイナス金利政策を受けて圧迫された財務健全性の回復を各社が何とかして図ろうとしてきた姿が見てとれます。
ただし、この5年間に9社のうち5社が10年超の国債の残高を減らしたのは予想外でしたし、外貨建資産への投資も増え続けています。経営体力が圧迫されているなかで、資本調達をしてまで新たなリスクテイクを行うという経営判断を、どう考えたらいいのでしょうか。

「定期化」が進む?

同じ記事のなかで筆者は、国内系生保は銀行窓販を除き、すでに予定利率による影響を受けにくい商品に注力してきたことに触れたうえで、魅力ある貯蓄性商品の提供が一層難しくなっており、新たな長期保障を提供する取り組みが求められていると述べました。
新たな長期保障を提供する取り組みとしては「トンチン年金」が登場しています。とはいえ、顧客の理解を得るのが難しいためか、普及には時間がかかっているようです。その一方で、銀行窓販をはじめ、貯蓄性商品の主力は顧客が為替リスクを負う外貨建てとなりました(終身保険では低解約返戻金型も増えました)。
今の金利水準では利率保証のある長期の円建て貯蓄性商品を提供するのは難しいとみられます。ワクチン普及などにより対面営業の制約が薄れても、価格競争の進展や新たな健全性規制の導入をにらみつつ、全体としては期間限定の保障を提供する「定期化」が進んでいくのではないでしょうか。
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※近所の護国神社です。

 

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ベテラン営業職員の不祥事

今週のInswatch Vol.1067(2021.1.11)に寄稿したものです。
今後の展開を注視したいと思います。
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第一生命が報告書を公表

昨年12月22日に第一生命保険が「元社員(特別調査役)による金銭の不正取得」に関する調査報告書(PDF)を公表し、同じ日に稲垣社長が記者会見を行いました。報告書は同社サイトにアップされています。
元社員が、複数の顧客に対して架空の金融取引を持ち掛け、金銭を不正に取得していたというこの事件、会社自らによる調査に加え、「第三者の立場からの客観的な評価を受けることよって、より実効的な検討・対応を進める必要がある」との認識から、社外(法律事務所)にも分析・調査を依頼し、発生原因を探りました。

企業風土・体質にも言及

報告書では、単に元社員に問題があり、かつ、組織として監督が十分に行き届かなかったというだけではなく、企業風土・体質にも言及しています。例えば、

「西日本マーケット統括部においては、元社員に関する事項について、穏便に収めたい、余り関わりたくない等の意識がありました。そのような意識が生じた背景には、元社員が『特別調査役』として特別な地位にあり、しばしば当社の役員等との親密さを吹聴していた元社員への遠慮が存在していたと考えております」

「(お客さまを第一に考える思考が不十分であった)背景には、お客さまの信頼がなければ多くのお客さまから新契約をお預かりすることができないとの思考に重点を置き、新契約実績には表れないお客さまを第一に考える行動に対する評価が不十分であったと考えております」

などです。新たに発覚した和歌山県、福岡県、神奈川県の事案についても、「お客さまを第一に考える思考が不十分であったことに起因している」と分析しています。

「お客さま第一」で解決するか

2005年の保険金不払い問題以降、営業職員チャネルを主力とする生命保険会社では、新契約に過度に偏重した営業活動を改め、顧客訪問活動など既契約を重視する営業活動に舵を切ったはずでした。その結果、営業職員の大量採用、大量脱落構造はかなり緩和し、15年前には4割前後だった在籍数に占める年間退職者の割合は、足元で2割を下回っています。
他方で現場には営業目標があり、営業拠点の運営はベテラン営業職員による契約獲得に依存し、ベテランの報酬が結果として歩合給中心という基本的な構造は変わっていません。厚生労働省の令和元年賃金構造基本統計調査によると、経験年数15年以上の保険外交員(女性)の「年間賞与その他特別給与額(≒歩合給)」は「所定内給与額(≒固定給)」の2.5倍で、全体(1.8倍)を大きく上回っています。

販売勧誘ルールの見直しで保険募集人に新たな規制が導入されたとはいえ、一社専属の営業職員チャネルの業務は乗合代理店に比べれば大きな変化はありませんでした。しかも、金融庁はかつてのような3、4年ごとの立入検査を実施しなくなり、ヒアリング主体の水平的レビューとなっています。
こうしたなかで発覚したベテラン職員による不祥事です。個社に特有の問題とは考えにくく、営業職員チャネルを主力とする会社は実態調査を行うだけではなく、報酬体系を含めたチャネルのあり方を真剣に検討する時期に来ているのではないでしょうか。
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※3連休の外出は初詣だけにしました。十日恵比須神社です。

 

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3メガ損保グループのIR説明会から

今週のInswatch Vol.1063(2020.12.14)に寄稿したものです。
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今回は生命保険会社ではなく、3メガ損保グループが先月下旬に開催した投資家・アナリスト向け説明会を取り上げます。
各社とも5月と11月の決算発表後にIR説明会を行っています。以下ではそのごく一部を紹介しますが、投資家やアナリストではなくても、各社のサイトに行けば、説明会の様子を動画で観たり、説明資料や質疑応答を確認したりできます。

時間をかけて各業務を説明:東京海上

東京海上グループはいつもと違い、3時間半におよぶミーティングを実施しました。最初にグループ戦略の全体像をホールディングスの小宮社長が説明し、続いて国内事業戦略、海外事業戦略、資産運用戦略について、それぞれの責任者が説明するというものでした。
国内事業戦略では、東京海上日動の広瀬社長、あんしん生命の中里社長ともに強調していたのが、デジタルを高度に活用し、ビジネスモデルを進化(深化)させるというもの。生保ではデジタル募集の取り組みを加速し、損保ではさらなる事業効率の向上を図るとしています。

CSV×DXで成長を:MS&AD

MS&ADグループの説明会ではホールディングスの原社長が、同社が中期経営計画で掲げている、CSC(Creating Shared Value、社会との共通価値の創造)をデジタル・トランスフォーメーション(DX)による既存ビジネスの変革で進めていくことを改めて強調していました。とりわけ商品・サービス面では、請求を受けて支払うだけの保険から、DX等により事故の発生を未然に防ぎ、発生してしまった場合の影響も小さくする保険へと、保険の役割を変えるという説明がありました。
国内損害保険事業では、これまで進めてきたビジネススタイル改革による事業費削減を、オンラインシステムの刷新やリモートワークによって確実なものにするとのことでした。

リアルデータの活用:SOMPO

SOMPOホールディングスの櫻田社長からは、安心・安全・健康のテーマパークの構築は不変としたうえで、基本3戦略の1つに「新たな顧客価値の創造~テーマパークの具現化~」を掲げ、リアルデータの獲得とデータ解析により新たなソリューションを生み出す「リアルデータプラットフォーム構想」に取り組むという話がありました。その具体例として、グループの介護事業が持つリアルデータを組み合わせ、解析することで、新たな介護ビジネスモデルの実現を目指しているそうです。
国内損保事業に関しては、次期中期経営計画でも料率適正化と事業費削減を柱とする収益構造改革を一段と進めます。

問われる営業支援体制

新型コロナ禍が日本企業のデジタル化を加速させるというのは、3メガ損保グループにも当てはまるようですが、気になったのは、国内事業でデジタル化が進んだ結果、販売チャネルはどうなるのかという点です。
保険会社は新しい技術を駆使した営業支援をどんどん開発していくので、デジタル社会に適用しようと考えている代理店にはいい時代になりそうです。他方で、これまで代理店の営業支援を行っていた保険会社の社員はどうなっていくのでしょうか。
今回のパンデミックによって、顧客との接点を何らかのかたちで確保できるのであれば、保険会社による接触型営業支援がなくても現場には大きな問題がないことが明らかになりました。二重構造問題は長年の課題であり、保険会社が語る「付加価値の高い業務への挑戦」「デジタル人財の育成」がそう簡単に成果をあげられるとは考えられません。浮いた人材をどうするかは保険会社にとって大きな課題となっています。
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※写真は晴れていますが、福岡でも雪が舞いました。

 

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「国際的に活動する保険グループ」の指定

今週のInswatch Vol.1058(2020.11.09)に寄稿しました。
このような話も進んでいるという情報提供です。
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保険数理の専門家が集まる日本アクチュアリー会の年次大会がありました(6日)。例年であれば東京駅周辺の会場で行うのですが、今年はライブ配信を中心としたオンラインでの開催となり、ありがたいことに福岡から参加できました。

保険の国際規制

さて、今回は国際的な規制の話です。
3メガ損保グループをはじめ、大手保険グループは近年、海外での保険事業を拡大してきました。保険会社がグローバル化する一方、各国の規制当局は法域を超えた監督・規制を行うことが実質的にできませんので、国際的な連携が不可欠となります。
そこで、日本の金融庁もメンバーとなっている保険監督者国際機構では、資本規制を含む新たな監督・規制の枠組みを整備してきました。具体的には、各国の規制当局がその国に本拠を置く保険グループのうち、国際的に活動するグループ(IAIG)を指定し、IAIGを中心に追加的な対応を行うというもので、先月末に金融庁が日本のIAIGを初めて公表しました。

日本のIAIGは4グループ

金融庁が指定したIAIGは次の4グループです。

・第一生命ホールディングス株式会社
・東京海上ホールディングス株式会社
・MS&ADインシュアランス グループ ホールディングス株式会社
・SOMPOホールディングス株式会社

IAIGに指定する定量基準は、「3以上の法域で保険料を計上」かつ「本拠法域外のグロス計上保険料が、グループ合計のグロス計上保険料の10%以上」という国際的な活動状況と、「総資産が500億米ドル以上」または「総グロス計上保険料が100億米ドル以上」(いずれも3年移動平均)というものです。加えて、各国の当局が必要と判断すれば、これらの基準に合わないグループもIAIGに指定できます。

3メガ損保グループのIAIG指定は定量基準から順当です。
他方で大手生保5社のうち、今回指定されたのは第一生命グループだけでした。金融庁は定量基準に合ったグループのみを指定し、規模の大きい日本生命や住友生命、明治安田生命、かんぽ生命は指定外としました。

指定による制約は限定的か

IAIGに指定された保険グループは、ストレス発現時の再建計画の策定や国際資本基準(ICS)の遵守が求められ、海外当局と連携した「監督カレッジ」によるモニタリングを受けます。
もっとも、監督指針の改正案(10月末公表)によると、金融庁はIAIG以外にも必要に応じて再建計画の策定を求めるようなので、IAIGに指定されなかったとしても、おそらく大規模で複雑な業務を行う保険グループはIAIGと同じ対応が求められます。
また、2025年の導入が見込まれている新たなソルベンシー規制はICSをベースとしたものとなる見込みなので、IAIG指定で競争上不利になることはなさそうです。

なお、一部は非公表ですが、アクサや米プルデンシャルといった日本で活動する外資系保険グループの多くもIAIGに指定されているとみられますので、国内勢だけが新たな規制を受けるのではありません。
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※カナダとUSAに行ってきました^^v

 

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新型コロナ禍は次のステージへ

今週のInswatch Vol.1054(2020.10.12)に寄稿したものです。
7-9月期の対面販売の数字はまずまずだったようですが、楽観視できないかもしれません。
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4-6月期の結果は異常値だが...

先月のInswatchでお伝えしたように、対面販売を主体とする生命保険会社では4-6月期に新規契約の獲得が極端に落ち込みました。7月の新規契約件数も前年同期に比べて45%の減少となりました(個人保険、生保42社合計)。
もっとも、4-6月期は緊急事態宣言が出され、営業活動を自粛していた期間だったため、落ち込みは当然の結果と受け止めることもできます。自動車保険の損害率が極端に改善したのも、経済・社会活動の自粛が強く影響していますので、これらは「異常値」と言えそうです。
社会から保険需要が消えてしまったわけではなく、むしろ不安心理の高まりが保険需要を掘り起こしている面もあるので、以前と同じような営業活動さえ再開できれば、業績は自ずと回復するはず。一時的ショックであれば、このように考えるのが自然です。

一時的ショックにとどまらない兆しも

期待に水を差すようで申しわけありませんが、新型コロナウイルスの感染拡大から半年ちょっと経ち、残念ながら一時的なショックでは済まない兆しが少しずつ見えてきました。
夏ごろまでは、活動自粛の直撃を受けた飲食業や旅行業など一部の業種を除き、新型コロナ禍でビジネスが蒸発するという状況ではなかったように思います。ところが、経済・社会活動の制限が一時的なものではなく、コロナ前の状態には当面戻れそうにないことがわかってきました。いったん感染が収まっても、しばらくすると再び感染が増え、活動を抑えざるをえなくなります。有効なワクチンが広く普及するまではその繰り返しです。
このため、影響は一部の業種だけではなく、全般的な個人所得の低迷や設備投資の減退などにつながる可能性が高まっています。そうなると、当然ながら保険需要も影響を受けるでしょう。

1日に発表された9月の日銀短観(全国企業短期経済観測調査)では、最も注目される「業況判断」が改善したため、景況感の悪化に歯止めがかかったという見方も出ているようです。しかし、同じ短観の「設備投資額(2020年度)」を見ると、製造業、非製造業ともに計画が下方修正され、全規模・全産業ではマイナスとなりました。設備投資の落ち込みは経済全体に波及しますので、要注意です。

金融市場の動向も安心できない

多くの生命保険会社は保険引受リスクよりも、金融市場の変動が経営に最も影響を与えるリスク要因となっています。
3月に新型コロナの感染拡大で金融市場が動揺したものの、その後は比較的安定しています(ただし、金利水準は世界的に極めて低い水準のままで、回復していません)。しかし、新型コロナ禍の影響が実体経済にどのような形で波及するかは不透明であり、金融市場が再び大きく動くこともありえます。保険会社はあらためて自社のリスクの取りかたを考え、必要な見直しを行う局面だと思います。

※出張で京都に来ています。

 

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