今週のInswatch Vol.1071(2021.2.8)に寄稿したものです。
今週号の松本一成さんの記事を拝読して、「リスク選好」をリスクコントロール対策の1つとして捉える考え方もあるのだと知りました。同じ用語でも私とは別の概念なのかもしれませんが…ご興味のあるかたは本誌をご覧ください。
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学生の成績評価や入学試験の監督など、このところ大学教員ならではの業務に追われています。5年前とは大きな変化です。
歴史的低金利が長期化
早いもので2016年1月のマイナス金利政策導入から5年が経ちました。この政策は同年9月に「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」に修正され、長期金利の極端な低下には歯止めがかかったものの、短期金利はマイナス、超長期金利は1%を下回る低位で推移し、現在に至っています。
もともと大胆な金融緩和は短期決戦だったはずなのですが、2%の物価安定の目標には一向に到達せず、いつの間にか長期戦となってしまいました。日銀は現在、金融緩和政策の「点検」を行っていて、3月に結果を公表するとみられます。新型コロナウイルス感染症の影響もあり、足元の物価はむしろ低下傾向にありますので、今の枠組みが大きく変わることはない、というのが専門家の見方のようです。
外貨建資産へのシフトが進む
筆者は2016年当時、東洋経済オンラインに「生保、マイナス金利でリスクテイクが困難に」という記事を執筆し、金利水準の低下が多くの生命保険会社のバランスシートに悪影響を与えることや、日銀が期待する大規模なポートフォリオ・リバランス(国債投資から株式、外貨建て資産への投資にシフト)は実現しないと述べました。
現行のソルベンシー・マージン比率は金利低下の影響を適切に反映しないので、一見すると平穏な5年間だったと思われるかもしれません。しかし、この5年間に国内系生保による資本(劣後債務)調達が相次いだことからしても、マイナス金利政策を受けて圧迫された財務健全性の回復を各社が何とかして図ろうとしてきた姿が見てとれます。
ただし、この5年間に9社のうち5社が10年超の国債の残高を減らしたのは予想外でしたし、外貨建資産への投資も増え続けています。経営体力が圧迫されているなかで、資本調達をしてまで新たなリスクテイクを行うという経営判断を、どう考えたらいいのでしょうか。
「定期化」が進む?
同じ記事のなかで筆者は、国内系生保は銀行窓販を除き、すでに予定利率による影響を受けにくい商品に注力してきたことに触れたうえで、魅力ある貯蓄性商品の提供が一層難しくなっており、新たな長期保障を提供する取り組みが求められていると述べました。
新たな長期保障を提供する取り組みとしては「トンチン年金」が登場しています。とはいえ、顧客の理解を得るのが難しいためか、普及には時間がかかっているようです。その一方で、銀行窓販をはじめ、貯蓄性商品の主力は顧客が為替リスクを負う外貨建てとなりました(終身保険では低解約返戻金型も増えました)。
今の金利水準では利率保証のある長期の円建て貯蓄性商品を提供するのは難しいとみられます。ワクチン普及などにより対面営業の制約が薄れても、価格競争の進展や新たな健全性規制の導入をにらみつつ、全体としては期間限定の保障を提供する「定期化」が進んでいくのではないでしょうか。
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※近所の護国神社です。