15. 執筆・講演等のご案内

ディスクロージャー誌の公表(活用編)

今週のInswatch Vol.1102(2021.9.13)に掲載されたものです。生命保険協会のサイトは何とかしていただきたいですね。ご参考まで。
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前回(8月9日号)に続いてディスクロージャー誌に関する話です。
私は以前から、生保決算報道の定番となっている「保険料等収入」という指標は、事業会社の売上高にあたるものではないし、生保の経営情報を必要とする消費者(現在および将来の契約者)に伝えるべき情報として適当ではないと主張してきました。今回はその理由を、公表されたディスクロージャー誌を使って説明してみましょう。

保険料収入の多くは既契約によるもの

一部の会社を除いて、保険料収入の多くを占めているのは次年度以降保険料、つまり、当年度よりも前に獲得した契約から得られた保険料です。
論より証拠。ディスクロージャー誌に掲載されている日本生命と第一生命の数字を見てみましょう
(2020年度の個人保険・個人年金保険の合計。単体ベース)。

<日本生命> 
初年度保険料   0.5兆円
次年度以降保険料 2.5兆円
合計       3.0兆円

<第一生命> 
初年度保険料   0.1兆円
次年度以降保険料 1.4兆円
合計       1.5兆円

こうした数値は決算発表時点では入手できません。保険料収入は当年度に保険料として入ってきたお金というだけなので、業績や販売力を示すものではないことがよくわかります。各社のその年度の業績を知りたいのであれば、保険料収入ではなく、新契約年換算保険料のほうがより適切だと言えます。

預かり資産の受け入れは売上高なのか

こちらの数字もご覧ください。20年度における大手4社(日本、第一、住友、明治安田)合計の保険料収入の内訳です。この数字も各社のディスクロージャー誌で入手しました。カッコ内は19年度との差額です。

保険料収入  11.1兆円(▲0.6兆円)
 個人分野   7.9兆円(▲0.4兆円)
 うち一時払  0.8兆円(▲0.4兆円)
 団体年金   2.2兆円(▲0.2兆円)

ディスクロージャー誌で確認すれば、20年度に保険料収入が減少したのは個人分野(個人保険、個人年金)の一時払保険料が減ったことと、団体年金保険の保険料が減ったことだと説明できます。
一時払の生命保険は貯蓄性の極めて強い商品ですし、団体年金は企業年金向けの資産運用商品です。したがって、20年度に保険料収入が減ったのはコロナ禍で販売が制約されたからというよりは、低金利などの影響で受け入れた額(≒貯蓄保険料)が減ったためだとわかります。
銀行の決算発表で、預金の残高を示すことはあっても、当年度の預金受け入れ額を示し、前年度と比べて増えた、減ったと一喜一憂するようなことはありません。同じように生保の決算でも、保険料収入は貯蓄保険料の増減で数値が大きく変わってしまうので、顧客基盤の大きさの手掛かりにも、成長性を表すことにもなりません。預かり資産の規模が重要というのであれば、総資産を見るべきです。

誰が保険料収入にこだわっているのか

調査したところ、全国紙では15年以上もの間、生保決算の主要指標として「保険料等収入」を掲載しています。これだけ続くということは、大手をはじめとした生保業界がこの状況を許容しているのでしょう。実のところ、金融庁も半期ごとに公表している決算概要のなかで「保険料等収入」を掲載し、動向を説明しています。

もしかしたら、会計(損益計算書)の一項目だから数値が信頼できる、比較可能性があると皆さん考えているのでしょうか。
しかし、いくら「数値が信頼できる」「比較可能性がある」といっても、その数値が表している内容に意味がなければ指標として不適切です。ディスクロージャー誌を活用することで「保険料等収入」がどのような指標なのかご理解いただけたと思います(ちなみに「等」は再保険収入です)。会計上の「保険料等収入」を重要指標としてそのまま使い続けるのは、そろそろ終わりにしたほうがいいのではないでしょうか。

なお、ディスクロージャー誌(名称は「○○生命の現状」「アニュアルレポート」「統合報告書」など)は各社のサイトのほか、生命保険協会のサイトにも一括掲載されています。後者は大変便利なのですが、執筆にあたり確認したところ、なぜか肝心のデータ編が掲載されていない会社もあるようなので、その際には個社サイトへのアクセスが必要です。
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※佐賀県小城市は「羊羹王国」なのだそうです。

 

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ディスクロージャー誌の公表

今週のInswatch Vol.1097(2021.8.9)では保険会社のディスクロージャー誌について書きました。ご参考までにブログでもご紹介します。
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前回は1回目のワクチン接種(モデルナ)での副反応についてお伝えしましたが、2回目ではちょうど24時間後に微熱が出て、それが9時間くらい続きました。熱があっても体調は良好で、食欲もあります。接種した左腕の筋肉痛のほか、なぜか腰の右側が痛くて、これらはまだ数日続きそうです。副反応は個人差が大きいですね。ご参考まで。

生損保がディスクロージャー誌を公表

早いもので、今年も保険会社のディスクロージャー誌が出揃う時期となりました(会社によっては「統合報告書」となっています)。さっそく、いくつかの会社のディスクロ誌をざっと確認したところ、近年のコーポレートガバナンス改革の一環として上場会社が情報開示の拡充を求められていることなどを踏まえ、前半の「本編」の記述を大幅に見直した会社があるようです(例えば明治安田生命など)。
ただし、後半の「データ編」の記述には大きな変化はなさそうです。こちらは新たなソルベンシー規制の導入(2025年の予定)とともに掲載内容の充実が図られることを期待することにします。

なぜ経営情報が必要なのか

そもそも保険会社の経営情報が市場関係者だけでなく、保険の利用者にもなぜ必要とされているのか、改めて考えてみましょう。
事業会社の場合、その会社の商品やサービスの利用者だからといって、それを提供する会社の経営内容を知る必要はあまりありません。会社の経営内容が悪化すると、商品やサービスの内容や品質が悪化する可能性もありますが、あくまでも間接的な影響です。ですから、事業会社の経営情報を必要としているのは専ら株主などの市場関係者となります。
これに対し、保険会社の場合、会社の経営内容はいわば商品・サービスの一部となっています。もし、保険会社の経営が傾けば、将来の保障(補償)が危うくなり、破綻した場合には利用者が損失を被ります。さらに、有配当契約であれば、利用者は保険会社の経営内容に応じた配当を期待できます。ですから保険会社の経営情報を必要としているのは市場関係者だけでなく、利用者(現在および将来の保険契約者)にも必要なのです。
だからこそ、保険業法第111条で経営情報の公衆縦覧が規定され、毎年ディスクロージャー誌が公表されています。

経営情報はどう伝わるか

とはいえ、平時に保険会社の経営内容に関心を寄せる利用者は少ないのではないでしょうか。保険の利用者は保障(補償)を得るために保険会社と契約しているので、株主などの市場関係者と違い、保険会社の経営情報を自ら得ようという動機に乏しく、平時であれば、おそらく保険会社の信用リスクを負っているという意識もありません。この20年間、個人分野の配当が低く抑えられてきたこともあり、配当を期待して生命保険に加入した人もごくわずかでしょう。
メディアによる情報伝達も20年前に比べるとかなり減っていて、かつ、画一的なものとなっています。保険会社の決算発表を継続して報道している全国紙の記事を確認したところ、近年の生保決算は「保険料等収入」と「基礎利益」、損保決算は「正味収入保険料」と「当期純利益」を報じるパターンが圧倒的に多く、情報源として不十分な状態が続いています。

ディスクロージャー誌の分量は多く、読みこなすのは大変です。しかも、経営データとして十分な内容かといえば、特に生保については外部環境や経営実態等の変化に開示項目が追いついていないと感じます。
とはいえ、保険の利用者にとって有用な情報が掲載されているのは間違いありません。例えば「業績ハイライト(主要な経営指標を掲載)」「直近5事業年度における主要業務の状況」をフォローすれば、その会社の大まかな経営内容がつかめますし、会社によってはESR(経済価値ベースの健全性を示す指標)や「重要リスク」などの情報も公表しています。保険販売に関わるかたは、平時からこれらの情報に接しておくべきではないでしょうか。
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※写真は福岡・篠栗町にある山王寺です。

 

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法人税のいびつな構造

今回のブログはインシュアランス生保版(2021年8月号第1集)に執筆したコラムのご紹介です(見出しはブログのオリジナルです)。
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国の税収が過去最高を更新

財務省によると、2020年度の国の税収総額が前の年度を4%上回り、過去最高を更新した。コロナショックの影響で名目GDPが4%も減ったにもかかわらず、法人税は増え、19年10月の税率引き上げ効果もあって消費税も増えた。もっとも、一般会計の歳出はコロナ対応もあって税収の2倍に膨れ上がっていて、増収効果は霞んでしまっている。

名目GDPが減っても法人税が増えたのは、「携帯電話やゲーム、自動車、食品といった産業の業績が好調」「米国や中国などの景気回復の恩恵もあり、製造業を中心に業績は底堅い」(いずれも日本経済新聞より引用)とのこと。08年のリーマンショック後には法人税が大きく落ち込んだのとは対照的である。新型コロナの影響で観光業や飲食業を中心に売り上げが大きく落ち込み、各種の中小企業支援策が実行されている状況なのに、「業績が底堅い」とはどういうことなのか。
推測を含むが、今回のコロナショックで影響を受けた中小企業は、もともと法人税をあまり納めていなかったので、税収への影響が小さかったと考えると、納得がいく。

誰が法人税を納めているか

最近公表された国税庁による令和元年度分の会社標本調査によると、利益計上法人は全体(274万社)の38%にすぎず、6割以上が欠損法人である。しかも、当年度の法人税11兆円のうち、会社数では0.6%にすぎない資本金1億円超の法人が約5割を負担し、資本金5千万円超(会社数では2.5%)まで広げると約6割を負担している。つまり、法人税の多くを負担しているのは少数の大企業であり、中小企業は法人税をあまり納めていないという実態が浮かび上がる。

このところ欠損法人の割合は年々下がっている。12年度には70%だったものが、19年度は61%となった。ただし、この間の変化は景気回復による業績の改善を示しているというよりは、高齢化に伴う廃業のほか、国税庁の尽力により、節税対策が年々難しくなってきたことも大きいように思う。経営者の皆さんにも心当たりがあるかもしれない。それでも6割の企業が法人税を納めていないというのはまともな状態ではない。

適切な支援のあり方は

こうした法人税のいびつな構造を踏まえると、政府が税収を増やすには中小企業への補助金的な支援ではなく大企業の生産性向上を支援し、かつ、消費税を支払う消費者を支援するのが合理的という結論になる。おそらく財務省はそんなことはわかっているのだろうけど、政治からの要請もあり、何かあると「中小企業支援」となってしまうのだろう。
見込みを上回った税収も、経済対策として多くが中小企業向けに使われてしまいかねない(国債の償還財源となる分を除く)。給与天引きによって確実に税金を徴収される勤め人のひがみに聞こえるかもしれないが、実際に誰が税金を納めているかを明確に示し、そのうえで税金の使い道を議論してほしい。
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※写真はハウステンボスの夜景です

 

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なぜ「他社の経営経験」なのか

7月16日(金)に日本代協 阪神ブロックWebセミナーで講師を務めました。
演題は「2020年度決算にみる大手損保グループの経営戦略」で、大手損保グループの経営が依然として市場環境の変動によって大きく振れることや、損保4社の各種指標の違いなどをご覧いただいたうえで、中期経営計画の注目点をお話ししました。いかがでしたでしょうか。

阪神ブロックといってもzoomを使ったセミナーだったので、私は福岡でスピーチを行いましたし、おそらく参加者の皆さんも各地に広がっていたのではないかと思います。懇親の場がなく、参加者の反応がわからないのは残念ですが、便利な時代になりました。

社外取締役の要件

最近、授業でコーポレートガバナンスの話をしていて、改めて気になったことがあります。
現在のコーポレートガバナンス・コードの補充原則4-11①の最後に、「独立社外取締役には、他社での経営経験を有する者を含めるべきである」とあるのをご存じでしょうか。2021年6月の改訂時に加わった文言です。
CGコード(修正履歴付きPDF)

改訂について議論したフォローアップ会議の資料によると、「独立社外取締役には、企業が経営環境の変化を見通し、経営戦略に反映させる上で、より重要な役割を果たすことが求められるため、他社での経営経験を有する者を含めることが肝要」なのだそうです。
しかし、そもそも日本のコーポレートガバナンス改革は、会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上を目指すものであり、その背景には日本企業の経営陣が適切なリスクテイクをせず、株主に求められる資本コストを上回るリターンを総じて稼げておらず、世界に差をつけられてしまっていることがあります。それなのに「他社の経営経験を有する者を含めるのが肝要」とはどういうことでしょうか。
他社の経営経験者となると、多くの場合、日本企業の社長OBなどが候補になることを想定しているのでしょう(CEO等の経験者に限られるという趣旨ではないとはありますけど…)。しかし、過去30年間の日本の経営が総じてうまくいかなかったから、政府がガバナンス改革を進めているのですよね。どうしてこのような改訂になったのでしょうか。

なお、ガバナンス特集を組んだ週刊東洋経済(2021年7月10日号)のインタビュー記事で、東レの日覺社長は「(企業によって事業や状況は全く異なるので)よその経営経験者に社外取をお願いして経営方針を相談し、「いい意見をもらった」と喜ぶトップがいるのならば、そのトップはすごくレベルが低いから今すぐ辞めたほうがいい」と語っていました。
日覺社長は「会社の大事なことは社外の人間ではなく、事業をよく理解している社内の人間で話し合って決めるべきだ」とも語っていて、私の問題意識とはやや異なるようですが、社外取締役に何を期待するのかを考えると「他社の経営経験を有する者を含めるのが肝要」という結論にならない点は同じでした。

※15分の船旅を楽しみました。

 

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火災保険の元受保険料と出再保険料

今週のInswatch Vol.1093(2021.7.12)では火災保険の出再保険料について書きました。ご参考までにブログでもご紹介します。
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幸いにも大学の集団接種枠を活用できたので、さっそく1回目のワクチン接種(モデルナ)をしたところ、夜になって微熱が出たり、体がだるくなったりしました。微熱はすぐに下がり、体のだるさも翌朝にはなくなりましたが、接種した左腕の筋肉痛は終日続きました。
接種会場で医師から、「2回目の後は症状が出ることが多いので、予定を入れないほうがいいですよ」と言われました。しかし、1回目でもこうした反応が出ることもありますので、ご参考にしてください。

火災保険の収益改善が進むか

6月25日のinswatchプロフェッショナルレポートでは、大手損保グループの20年度決算について、独自の視点でご紹介しました。そこでは触れなかったのですが、このところ大手損保では、総じて火災保険の元受保険料の伸びを上回るペースで出再保険料が増える傾向が見られます。20年度の各社の元受保険料に占める出再保険料の割合は次のとおりです。

東京海上日動 39.7%(前期比+0.6ポイント)
三井住友海上 43.6%(前期比△2.8ポイント)
あいおいND 42.5%(前期比+1.3ポイント)
損保ジャパン 42.8%(前期比+0.5ポイント)

この背景には、日本の自然災害発生だけでなく、数年前から世界の再保険市場が料率上昇トレンド(いわゆるハードマーケット)になっていることが挙げられます。ハードマーケットで日本の保険会社が前年度と同じ再保険カバーを購入するには、前年度よりも高い再保険料を支払う必要があります。それが嫌だったら再保険カバーを縮小し、自らリスクを引き受ける部分を増やすしかありません。開示情報からは各社の対応状況を正確につかむことはできませんが、出再を抑えた会社もあるように見えます。
世界的には、ハードマーケットは損害保険会社の収益改善が進む経営環境と見られています。原油価格が上がればガソリン代が上がるのと同じように、再保険市場がハード化すれば元受の保険料率も上がるのは本来の市場の姿です。ところが日本では保険料は公共料金のような扱いを受けたり、企業との長期的な関係を意識したりするあまり、価格転嫁が難しい状況が続いてきました。各社とも火災保険の収益が低迷しているのは大規模な自然災害の発生というだけではなく、リスクに見合った保険料を得られていないためと考えられます。
ERM経営を標榜する各社がリスクに応じたプライシングをどこまで追求できるのか、今年度以降の火災保険の収益に注目しましょう。

元受保険料の多くを出再する会社もある

ところで、外資系の損害保険会社では、元受保険料に比べて正味収入保険料が極端に小さい会社がしばしば見られます。例えば、AIG損保の火災保険の正味収入保険料は19年度も20年度も元受保険料の約17%、チャブ損保も約19%です(19年度)。アリアンツやチューリッヒのように火災保険の元受保険料の大半を出再しているところもあります。
これらの会社は多くの場合、同じグループ内の保険会社に出再し、グループ全体で再保険管理を行っていると考えられます。グローバル保険グループとしての引き受け規律を求めるため、国内勢に比べ、総じて市場原理をより意識した引き受けとなる傾向が強いようです。ただし、これだけ出再割合が大きいと、もし何かの理由でグループからの規律が緩んだ場合、日本の会社としての引き受け規律が働くのかと、少し心配になります。
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※梅雨明けしました。キャンパスも暑いです。

 

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金融庁が新規制の検討状況を公表

金融庁の事務年度は7月から6月なので、6月末にいろいろと公表されています。そのなかに「経済価値ベースのソルベンシー規制等に関する検討状況について」がありました。
全部で143ページもの資料で、技術的な内容を多く含んでいますが、「はじめに」のところに「2022年に制度の基本的な内容を暫定的に決定することを目標に、検討を継続していく予定である」とあります。昨年6月公表の有識者会議報告書(PDF)を受けて、経済価値ベースのソルベンシー規制導入に向け、金融庁はスケジュール感を持って動いていることが示されました。

第2の柱、第3の柱に関する記述が相変わらず少ないのはやむを得ない(第1の柱の標準モデル検討を優先)のかもしれません。
しかし、少し気になったところもあります。今回の「検討状況」には第2の柱について、有識者報告書の「標準モデルにおいて十分にカバーされていないリスクの捕捉」についての記述はあるのですが、「ERMやORSAの枠組みに関する一定の目線を定め、実態把握に基づいて改善・高度化を促していく」についての記述が見当たりません。
有識者報告書では第1の柱と第2の柱をセットでとらえ、第1の柱を「最大公約数的」「政策措置あり」としたうえで、第2の柱でリスク管理の高度化を促す、こうした規制を想定していると読めます。ですから、技術的な検討とは別に、第2の柱を具体的にどう機能させるのかといった議論が必要であり、今後の課題なのだと理解しました
(もしかしたら別のレポートで何か示されるのかもしれませんが…)。

関連情報(私の備忘録?)として、6月28日付けで日本アクチュアリー会が保険負債検証レポートに関する資料を公表しています(資料の日付は3月5日となっていますね)。
もっとも、検討の背景や検討項目、結果の概要などを一般に示していないので、これだけ見てもよくわからないかもしれません。

執筆のご案内

最後にご案内です。大手損保グループの2020年度の決算発表を踏まえ、今年もInswatch週刊金融財政事情に寄稿しました。もし両媒体を目にする機会がありましたら、ご覧いただけるとうれしいです。
過去10年間に自動車保険の保険料シェアがどう変わったのかを確認しようとしたところ、分母の業界全体の数値が途中で変わってしまい、補正でもしないと実態がよくわからないことが(今さらですが)わかりました。合併によって取れない数値があることも判明し、こういうときにAIだったらどう対応するのだろうなんて余計なことも考えてしまいました。
火災保険の元受保険料に占める出再保険料の割合が4割前後まで高まっているのにも注目すべきかと思います。

※RINGの会オープンセミナーが2年ぶりに開催されました(オンライン開催)。

 

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損保系生保の現状

今週のInswatch Vol.1089(2021.6.14)では大手損保グループの決算をもとに、損保系生保の現状について書きました。ご参考までにこちらでもご紹介します。
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3メガ損保グループの2020年度決算が出ましたので、投資家・アナリスト向けの説明資料から、生損クロスセルを主要なビジネスモデルとしている生命保険3社(あんしん生命、MSA生命、ひまわり生命)の現状を探ってみました。

企業価値に大きく貢献

損保決算と言えば、自然災害による影響や海外保険事業の拡大に注目が集まり、各社の経営陣も国内生保事業の現状をあまりアピールしていない印象があります(あくまで個人の印象です)。
1996年の設立から25年がたち、各社のEVはいずれも1兆円前後に達しました。EVというと皆さん電気自動車を思い起こすかもしれませんが、生命保険会社のEV(エンベディッド・バリュー)は企業価値を表す指標の一つです。各グループの時価総額が1.5~3.5兆円、中核損害保険会社(東京海上日動、三井住友海上、あいおいニッセイ同和、損保ジャパン)の純資産が1.5~3兆円(MS&ADは2社合算)であることを踏まえると、1兆円前後のEVは決して小さい数値ではありません。EVを見るかぎり、生保事業への進出は大成功だったと言えるでしょう。

クロスセル率はじわじわと上昇

各社は生損クロスセルを主要なビジネスモデルとしているとみられます。しかし、公表データが少ないため、損保代理店による生保販売が各社の成長にどの程度貢献しているのか、実のところよくわかりません。
参考として、SOMPOグループが公表したひまわり生命の新契約年換算保険料のチャネル別構成比(2019年度)によると、損保代理店が61%となっていました。ただし、保険ショップでの販売や経営者向け保険(生保プロが主な担い手)の動向などにより、構成比は年度によってかなり異なるのではないかと思います。

クロスセルの現状はどうなっているのでしょうか。MS&ADグループは生保併売率(MSA生命の保有契約者数および損保第三分野の長期契約を、中核損保2社の自動車・火災保険契約者数と対比)を公表し、2020年度には17.6%に達したとのことでした。東京海上グループは生損保一体型の「超保険」をクロスセル推進に活用しており、2020年度の生保・第三分野の付帯率は26.5%だったそうです。
釈迦に説法ではありますが、自動車保険や火災保険の既存顧客に新たな生命保険ニーズがあるとは限りませんし、ニーズ顕在型で毎年の契約更改がある損害保険と、ニーズを掘り起こす必要がある長期の生命保険とでは、マーケティング方法も異なります。生損クロスセルというビジネスモデルは世界的に見て、そう一般的なものではないのかもしれませんが、設立当初からウォッチしてきた目線からすると、一定の成果が出ていると評価すべきなのでしょう。

リスクベース経営

今回の決算発表では、3グループともに生保事業のリスクとリターンに関する説明が目立ちました。
東京海上グループとSOMPOグループは、いずれも主力商品のリスク・リターンのイメージを示しました。両社は保障性商品を中心とした商品戦略により高い収益性を確保していく方針です(あんしん生命は変額保険にも注力)。MSA生命は2020年度に金利リスクを削減し、経済価値ベースのソルベンシー規制やIFRS(国際会計基準)の導入を見据えた取り組みを実施しています。
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※週末に浜辺でビーチラグビーをやっていました。

 

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なぜ海外から観光客が殺到していたのか

最初にお知らせです。保険代理店の情報交流組織であるRINGの会(私は会のアドバイザーを務めています)が、2年ぶりにオープンセミナーを開催します。
7月3日(土)午後のライブ配信方式で、メインテーマは「実践DX」。デジタル化を実践する保険代理店が登場します。参加費は3,830円です。
保険流通の最新動向に触れたいかたは、ぜひお見逃しなく。申し込みはこちらです。

さて、今回はインシュアランス生保版(2021年5月号第2集)に執筆したコラムをご紹介します(見出しはブログのオリジナルです)。
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世界が「安いニッポン」を発見

新型コロナ感染症で厳しい入国制限が敷かれ、日本を訪れる海外からの観光客が消えた。観光関連業をはじめ、インバウンド需要の恩恵を受けていた業種や地域は、深刻な打撃を受けている。
ここで改めて考えてみたいのは、そもそもなぜ日本を訪れる海外からの観光客が急増していたのかである。ビザの免除・発給要件緩和や海外プロモーションなど、政府による観光立国推進の効果もあったと考えられるが、何より「安いニッポン」が発見され、観光客を引き寄せたことが大きい。日本で生活しているとピンとこないが、欧米ばかりでなく、アジアを含めた海外から見ると、日本の商品・サービスは質の割に安いのである。

100円均一は日本だけ

最近読んだ「安いニッポン『価格』が示す停滞」(2021年3月刊行、日経BP・日本経済新聞出版本部)は、日本経済新聞の連載記事「安いニッポン」をベースに、担当記者の1人だった中藤玲さんが新たな取材を加えて書き下ろしたもの。日本経済の長期停滞を理解するのに格好の書籍である。
失われた20年、いや30年と言われても、(非正規雇用は増えたが)町に失業者があふれていたり、多くの人が極端に貧しくなったりしたわけではなく、読者の皆さんも、厳しいながらも安定した生活を送っているかたが多数ではないだろうか。そのような私たちにとって不都合な真実、すなわち、世界の成長に取り残されてしまった日本の姿を本書は見事に示している。
日本に住む私たちからすると高価なレジャーである東京ディズニーランドは世界で最も安いディズニーランドだというし、ダイソーの商品が100円均一なのも日本だけとのこと(海外はもっと高い)。かつてと違い、このところ海外のどこに行き、何を買っても安いと感じることがなくなっていたが、100円ショップまでもが世界最安値水準とは知らなかった。

安いニッポンは暮らしを豊かにしない

安いニッポンが私たちの暮らしを豊かにしてくれるのであればいい。ところが日本の実質賃金はこの20年間増えていない。賃金が増えないから消費も盛り上がらず、企業は前向きな投資よりもコスト抑制を選び、結果として消費者の低価格志向が続く。この悪循環は日銀の異次元緩和でも変わらず、財政規律の緩みと異常な株式保有構造だけが残った。今後は人手不足を海外から補おうとしても、優秀な人材はだんだん日本の賃金では来てくれなくなるだろう。私たちが強みと考えてきた日本の高品質も、このままでは維持できなくなるかもしれない。
大震災の発生や感染症の拡大、あるいは金融危機のような突発的な事象に対しては、事態の深刻さを共有しやすく、対応方針も定まりやすい。これに対し、真綿で首を絞められるような変化には、そもそも事態を把握するのが難しく、コンセンサスを得にくいが、事態は一段と深刻になっているようだ。
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損保の専業代理店

今週のInswatch Vol.1084(2021.5.10)では損保の専業代理店チャネルについて寄稿しました。ご参考までにこちらでもご紹介します。
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依然として事業規模は小さい

前回、生保の営業職員チャネルを取り上げたのに続き、今回は損保の専業代理店のデータを確認してみましょう。
今から20年前、2001年に発刊した拙著『損保が変わる-問われる信用力』のなかに、「(代理店数全体に占める構成比で)15%の専業代理店が(扱い保険料全体の)34%の保険料を扱う一方、2割弱の特級や上級代理店が8割以上の保険料を稼いでいる」という記述があります。副業代理店にはあまり保険料を稼がない代理店が非常に多い一方で、専業・副業あわせた少数の代理店が大半の保険料を稼いでいて、専業代理店(当時は7万店)の多くは事業規模が極めて小さいことを示しました。

20年後の現在はどうなっているのでしょうか。
日本損害保険協会の統計(2019年度末時点)によると、18%の専業代理店の扱い保険料は全体の約4割で、当時とあまり変わっていません。ただし、統廃合などにより専業代理店の数は約3万店に減り、1店あたり扱い保険料は年間約8千万円と、当時の3、4千万円程度(旧大蔵省の資料から推定)に比べると事業規模はだいぶ大きくなりました。

もっとも、扱い保険料が年間8千万円ということは、仮に代理店手数料を2割とすると、手数料収入は1600万円にすぎず、ここから人件費や物件費が出ていきます。専業代理店の多くは生命保険の販売も行っているので生保の手数料収入もあるでしょう。しかし、他方で保険ショップや直資型をはじめ、少数ながら事業規模の大きい専業代理店も存在します。
2001年に業界共通の代理店制度が廃止となって以降、「特級」「上級」といった代理店の属性を示すデータが公表されなくなったものの、大型化が進んだとはいえ、総じて専業代理店の事業規模は依然として非常に小さいことがうかがえます。

3者間スキームの影響も

ところで、損保協会の統計を時系列で追うと、2014年度末をピークに専業代理店の数が減り、1店あたりの扱い保険料が急速に増えていることがわかります。これは専業代理店の再編が加速しているというのではなく、委託型保険募集人制度の廃止が影響しているとみています。
金融庁が保険会社に対し、委託型募集人の是正を求めたのが2014年です。委託型募集人には委託元の代理店の役員や従業員となる、あるいは、3者間スキームを活用して代理店になるといった選択肢がありましたが、数字を見るかぎり、いったんは代理店に転換した募集人が目立ったようです(専業代理店の募集従事者数はむしろ減っています)。
しかし、その後の推移を見ると、代理店に転換しても長続きはせず、多くは統廃合の道をたどったものと考えられます。

最後にお知らせ

先月末のプロフェッショナルレポートで、拙著『利用者と提供者の視点で学ぶ 保険の教科書』の業界人にとっての読みどころをご紹介しました。ところが、連休中にアマゾンや楽天のサイトでの定価購入が難しくなっていて、皆さまにご迷惑をおかけしたようです(数人のかたからご連絡をいただきました)。
有力サイトでの在庫管理はサイト自身に委ねられているとのことなので、今後も在庫切れでご不便をおかけすることがあるかもしれません。版元の中央経済社のサイトでは購入できます(送料が必要です)ので、あわせてご検討いただければ幸いです。
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※写真は大学内の英国庭園です。学生の姿はありません。

 

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日経フィナンシャルに寄稿しました

日本経済新聞社が昨年立ち上げた金融専門デジタルメディア「NIKKEI Financial(日経フィナンシャル)」に生命保険会社の契約者配当について寄稿しました。タイトルは「生保、不透明な配当 企業価値を反映させよ」で、23日にアップされています。
有料媒体なので見出しだけ紹介しますと、「個人向け配当総額、非公表が多い」「利益と配当、連動しているように見えず」「1990年代後半以降、内部留保を充実」となっています。

以下では少しだけ補足を。

まず、第一生命だけが個人向け配当総額を公表していると書きましたが、決算資料のなかに「財務・業績の概況(PDF)」という資料があり、このなかで配当準備金繰入額の内訳を公表しています。
この資料は元々は記者クラブ向けに作られたものだと思いますが、第一生命HDは上場会社なので、同じものを投資家向けにも公表しているのでしょう。

生保のディスクロージャー誌のデータ編には「配当準備金明細表」があり、保険種類別の「配当金支払による減少」が載っています。2期前のデータとはいえ、ここから団体保険と団体年金保険の配当総額をつかむことができます。
このデータは配当に割り当てた額ではなく、あくまでその期に配当金として支払った額です。団体保険と団体年金保険の配当は現金で行われますし、配当金の割り当てと実際の支払いはほぼずれません。しかし、個人向けの場合、配当の割り当てと実際の支払いのずれが場合によっては大きいため、ここに載っている「配当金支払」が必ずしも配当に割り当てた金額とは言えないのです。
ですから、記事のなかでお示しした個人向けの配当総額はディスクロ誌の「配当金支払による減少」をそのまま使ったものではなく、配当準備金繰入額をベースに推計しました(団体保険と団体年金保険の「配当金支払による減少」を控除)。

2021年3月期決算では各社の個人向け配当はどうなるでしょうか。配当原資が三利源または利差ということであれば、利息配当金収入は減っているかもしれませんし、単年度で大きく動くことは考えにくいです。ただ、企業価値ということであれば、株高も超長期金利の上昇も大きくプラスに効いているでしょうし、昨年度は新型コロナ対応の副産物として死亡者数が減り、病院の患者数も減った模様です。
一時的な企業価値の拡大をただちに還元することはできないとしても、生保(とりわけ相互会社)は少なくとも何がどうなれば個人向けの配当総額が決まるのかといった目安を出していく必要があると思います。

執筆のご案内といえば、週刊金融財政事情の2021年4月20日号に書評「一人一冊」が載りました。
今回は戸田山和久先生の「『科学的思考』のレッスン 学校で教えてくれないサイエンス」を取り上げました。学生向けかもしれませんが、社会人にもおすすめです。

※写真は福岡・能古島の花畑です(パーク内)。息をのむ美しさでした。

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

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