07. 規制・会計基準

ソルベンシー・マージン比率の見直し案公表

null null

総選挙は自民党の歴史的な敗北となりました。
民主党政権になって何が変わるのでしょうか。
せっかく単独過半数をおさえたのですから、
単なる人気取りだけは勘弁してほしいです。

さて、金融庁は28日に保険会社の健全指標の一つである、
ソルベンシー・マージン比率(SMR)の見直し案を公表しました。

金融庁HPへ

もともと金融庁は2007年4月の検討チーム報告書を受けて、
2008年2月に見直し案を公表し、意見募集を行っていました。
しかし、その後の金融危機発生や大和生命破綻を踏まえ、
当初の見直し案を修正し、再度、意見募集を行うことにしたものです。

今回の修正見直し案は、概ね当初の案に沿ったものですが、
証券化商品や金融保証保険のリスク認識強化は当然として、
「全期チルメル式責任準備金超過部分」+「劣後特約付き債務」に
中核的支払余力の範囲内という算入限度が設けられたのは
ちょっと驚きました。

各社のSMRの内訳をみるとわかりますが、「全期チルメル式云々」は
かなりの金額を占めており、中核的支払余力の取り崩しが相次いだ
2009/3末時点では、いくつかの国内系生保で限度額を超えています。
何らかの要因でさらに中核的支払余力を取り崩すとなると、
同時に「全期チルメル式云々」も算入できなくなるため、
SMRが大きく下がることになりそうです。

今回の見直し案が実現すれば、大手生保のSMRは現行の半分程度、
大手損保は3割程度下がるとのことです。
ただ、国際的にはより厳しい規制見直しが進んでおり、
今回の見直しはそこに至るまでの暫定措置にすぎません。

朝日と日経に私のコメントが載っていますので、ご紹介します。

「今回の改定は、比率の信頼性を高めるための第一歩。
 上位生保の経営方針を変えるほどのインパクトはまだないが、
 金融危機で体力を失った生保ほど厳しい経営環境に
 なっていくのは間違いない」(朝日)

「保険会社はこれまで以上に身の丈に合った経営を迫られる」(日経)

※写真はアトランタです。噴水でちびっこたちが遊んでいました。

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

ブログを読んで面白かった方、なるほどと思った方はクリックして下さい。

金融商品会計の見直し案

null null

7/14(火)に国際会計基準の金融商品会計(IAS39)の
見直し案が発表されました。
G20から「わかりやすく見直しを」と求められていたものです。

日本は現在、国際会計基準(IFRS)を採用しているわけではありません。
ただ、ここ数年、IFRSに沿った会計の見直しを進めてきました。
さらに、2012年にはIFRS採用の是非を決断することになっています。

現在の基準では、価格変動の影響が次のように示されます。
 「満期保有」→ 取得原価で評価。B/S、P/Lは基本的に動かない
 「売買可能」→ 時価評価。B/Sに資本直入(P/Lは減損のみ反映)
 「トレーディング」→ 時価評価。P/Lが変動

日本の財務会計は、おおむねIFRSと同じです。
「売買可能」は日本では「その他有価証券」区分です
(もっとも、保険会社だけが使える「責任準備金対応債券」という
 日本独自の区分もありますね…)。

見直し案では区分を2つに集約するようです。
 「取得原価」= 債券は基本的にこちら。B/S、P/Lは基本的に動かない
 「時価評価」= 株式は基本的にこちら。P/Lが変動
          (正確にはP/Lまたは「包括利益」に計上)

これまで株式は「売買可能(=P/Lは減損のみ)」が認められていました。
しかし、見直し案ではそもそもこの区分がなくなります。
戦略株式のための区分も別途設けられるようですが、こちらでは
時価変動だけではなく、配当も売買損益も反映しないそうです。

新聞や雑誌には「持ち合い株式を抱える日本企業に大きな影響」
「株式売却で利益を捻出できなくなる」などとありますが、
保険会社の経営にどの程度の影響があるのかはよくわかりません。
ただ、株式含み益に依存した経営が一段と難しくなるのは確実ですし、
株式を持ちにくくなるような感じもします。

重要なのは、日本をはじめ従来の会計が「繰延アプローチ」
つまり期間損益を重視しているのに対し、
IFRSは「資産・負債アプローチ」を採用している点です。

 資産の増減 - 負債の増減 = サープラスの増減 = 期間損益

という考え方で、B/Sの変化が期間損益、というものです。
株価の変動はそのまま期間損益につながりますし、
減損や益出しといった発想はありません。

従来の会計基準とIFRSでは、そもそもの考え方が根本的に違うということと、
日本も無関係ではないということだけでも押さえておいたほうがいいと思います。

ご参考までに、今週の週刊ダイヤモンドはIFRS特集です。
まだ読んでないので中身はわかりません…m(_ _)m

※写真は台湾の市場です。

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

ブログを読んで面白かった方、なるほどと思った方はクリックして下さい。

連邦規制は実現するか(米国)

null

オバマ大統領が17日に発表した金融規制改革案のなかに
「連邦レベルの保険規制当局の設置」があります。

そうです。米国の保険監督は州レベルで行われていて、
州によって規制がバラバラなのです。
そのような状態がもう135年も続いています。
NAICという組織がありますが、あくまで州当局の横のつながりであって、
全米を代表する規制主体ではありません。

昨年9月にAIGが経営危機に陥った際、
「某国の保険監督当局がAIG危機を受け、米国と連絡を取ろうとした時に、
 いったい誰に連絡すればいいのかわからなくて困った」
「IAISが(AIG本社のある)NY州の保険監督当局に連絡したところ、
 『CDSの問題は英国の話なのでここではわからない』と突き放された」
などといった話が伝わっています。

金融危機の再発防止に向けて、連邦レベルの保険規制当局を設けるのは、
ごく自然な流れのように思えます。
ところが、これがそう簡単ではないのです。

まず政治家が反対します。各州の保険庁には何百人もの職員がいるうえ、
州規制に対応するために作られた保険会社がたくさんあるためか、
州規制の見直しは雇用問題や税収の問題に直結するからです。

大手保険会社も規制改革にそれほど積極的ではなさそうです。
各州の監督を受けるコストは非常に大きいと思うのですが、
規制の緩い州に名目的な本社を置くなど、メリットもあるためでしょうか。

「連邦規制への移行」はこれまで何十年も議論され、実現せずにきました。
今回はAIG問題で州規制の欠点が国際的にも露呈したわけですが、
果たして連邦レベルの保険監督当局は実現するでしょうか。

※横浜線シリーズ第3弾は中山駅。
 ここから市バスでズーラシアに向かいます。

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

ブログを読んで面白かった方、なるほどと思った方はクリックして下さい。

監督指針の改正案

先日のブログでも触れましたが、金融庁は本日(4/23)、
「保険会社向けの総合的な監督指針」の改正案を公表しました。

金融庁のHPへ

改正案は金融安定化フォーラム報告書やG20行動計画を踏まえているため、
金融危機の反省に立った項目が目立ちます。例えば、

・(出再先の)財務状況について、できる限り詳細に把握する
 必要があること
・(支店形態の場合)当該支店を対象としたストレステストの実施を
 行っているか
・統計的なリスク計測手法には限界があることを踏まえ、
 多様なリスク計測手法を活用(後略)
・(金融保証保険やCDS取引などに関して)担保の提供を想定した
 流動性の管理を行っているか

といった具合です。

リスク管理のところでは「統合リスク管理」が新設されています。
このなかで、取締役会等が報告を受けるべきものとして、
「経済価値評価に基づく保険会社独自の必要資本の充足状況」
とあり、目を引きました。

ストレステストについては、ヒストリカルシナリオだけでは不十分で、
仮想のストレスシナリオによる分析も求めています。さらに、
「相関関係が崩れるような事態も含めて検討」
「保有する資産の市場流動性が低下する状況を勘案」
などとあります。

ただ、ストレステストの結果をどう活用すべきなのかは
「具体的な判断に活用される態勢が整備されているか」
としか書いてありません。
ストレステストのうち、最悪の結果になるような事態に備えた
バッファーを持つべきということなのでしょうか。

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

ブログを読んで面白かった方、なるほどと思った方はクリックして下さい。

保険課長のインタビュー記事

null

4/16のインシュアランス損保版に、金融庁の
長谷川靖保険課長のインタビューが掲載されました。

まず目を引いたのは、
「VaRに基づくリスク管理では必ずしも十分とは言えない」
「相関関係を無視して厳しいストレステストを実施し、その結果、
 資本が不十分と判明したら直ちに迅速な対応を」
というくだりです。

確かに今回の金融危機では保有資産の分散効果が効きませんでした。
ですが、ここまでスパッと言い切るとはちょっと驚きでした。
ストレステストはシナリオ次第で厳しくも緩くもなりますよね。
果たして金融庁はどのようなストレスシナリオを想定しているのでしょうか。
監督指針の改正案に注目しましょう。

もう一つは、比較情報の提供についてです。
「様々なツールを使い、比較情報の提供が促進されることが望ましい」
「今後、各社にさらに積極的に取り組むことを期待したい」
ということで、どうやら金融庁は何もしないスタンスのようです。

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

ブログを読んで面白かった方、なるほどと思った方はクリックして下さい。

ロンドン金融サミット

null

日本縦断ツアーの疲れからか、風邪を引いてしまいました。
南→北ではなく、北→南のほうがよかったのかもしれません^^

ロンドンで開かれたG20首脳会議(金融サミット)は
残念ながら大きな成果を上げることができませんでした。

「自由貿易の堅持」ではとりあえず合意できたものの、
足もとの危機対応という点では、ほとんど見るべき成果が
なかったように思います。

やはりG20になって、各国の利害を調整するのが
一段と難しくなっているのでしょう。

個人的には、国際的な金融規制・監督を強化するための
「金融安定理事会(FSB)」(旧金融安定化フォーラムを改組)
に注目しています。
FSBの動きが保険監督にも影響を与えることになるでしょう。

もちろん、こちらもG20ベースなので、同じ問題はありますね。

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

ブログを読んで面白かった方、なるほどと思った方はクリックして下さい。

世界の保険監督官の会合

保険の勉強会で大阪に来ています。
とりあえず私のスピーチは終わったのですが、どうだったでしょうか?

今週は国際的な保険監督官の会合(IAISの関係です)に
オブザーバー参加する機会がありました。

テーマは保険会社がグローバルに展開するなかで、
保険会社の健全性をどう確保するかというもの。
保険監督は基本的にローカルベースなので、今回の金融危機で、
国境を越えて活動する保険企業への対応が課題として浮上したためです。

個人的に興味深かったのがバミューダです。
税制メリットから保険会社はたくさんあるのですが、
規模の大きい監督組織があるとは知りませんでした。
何でもアクチュアリーが100人以上いるとのこと。
主に損保のリスクを見ている感じでした。

米国の影が薄いのも保険監督者の集まりならではかもしれません。
米国は州規制なので、全体を代表する組織としてNAICがあるものの、
日本の金融庁などとは性格が全く違います。
それに州の監督官にグローバルな規制を求めるというのも
かなり無理があるように感じました。

※写真は奈良公園です。ホルンを吹くと鹿さんがたくさん走ってきます。

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

ブログを読んで面白かった方、なるほどと思った方はクリックして下さい。

「巨大保険会社 国際監督に穴」

null

けさ(22日)の朝日新聞6面に興味深い記事がありました。
AIGの経営危機をきっかけに、国際的に活動する保険会社の
監督体制の不備が浮き彫りになったというものです。

例としてハートフォードの最低保証リスクの話が挙がっています
(記事にはそう書いてありませんが、最低保証リスクの話です)。
再保険を通じて、規制の厳しいところから緩いところへリスクが移るという、
古くて新しい問題です。

また、規制・監督は国ごとなので、グループ全体がどうなっているかは
当局が把握することはできません(格付け会社や市場は見ていますが)。
こちらは保険会社に限った話ではありませんが、
銀行には国際監督基準があり、一定の役割を果たしています。

記事にある、「(米国への出再は)単なる引き当ての節約が目的だろう」
という専門家の指摘はかなり乱暴だと思いますが
(日米まとめて管理したほうが効率的でしょう)、
リスクが見えにくくなっているのは確かです。

記事は「ソルベンシー規制の国際基準が必要」という趣旨ですが、
あわせて情報開示の国際基準も必要ですね。

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

ブログを読んで面白かった方、なるほどと思った方はクリックして下さい。

もう一つの共済問題

週刊東洋経済2008.11.29の共済特集「共済vs.生保」で
保険ジャーナリストの石井さんが取り上げていましたが、
12/1に公益法人制度改革法が施行となり、
公益法人が行う共済事業も保険業法の規制対象になりました。

http://www.fsa.go.jp/ordinary/ins_koueki/index.html

現行の公益法人は今後5年以内に新法人(一般または公益)に
移行する必要があります。しかし、共済事業をそのまま続けると、
無認可の保険事業者として保険業法違反になってしまいます。
新法人に移行するまでに、保険会社(少額短期事業者を含む)になるか、
共済事業を縮小・譲渡・廃止するか決めなければなりません。

石井さんによると、公益法人のうち共済を主目的に運営しているところが
990法人もあるそうです。おそらく規模の小さいところが多いのでしょうが、
「あんしん財団(旧KSD。会員事業所は24万件)」や
「日本フルハップ(関西ではCMで有名。加入者数は54万人)」
といった中小企業向けに広く共済事業を展開しているところもあり、
今後の動向が注目されます。

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

ブログを読んで面白かった方、なるほどと思った方はクリックして下さい。

米国生保への資本注入はどうなる?

null

FRBがゼロ金利政策に突入しました。
ついにここまできたかという感じですが、信用収縮が起きているときに
金利を引き下げても効果はあまり期待できない、というのが
日本の経験からの教訓でしょうか。

ここ数日、米国生保の原稿を書いていて思うのですが、
米国政府の対応にはやっぱり頭を抱えてしまいます。

例えば11月以降、CMBS(商業用不動産担保証券)の価格が急落しました。
これには政府の方針変更が一役買っています。
米財務省の金融安定化策が、当初の不良資産買い取りから
資本注入プログラムに変わってしまったためです。

この資本注入プログラムは保険会社も対象になっていて、
ハートフォードやプルデンシャルといった大手保険会社も参加を表明しています。
ところが、本当に資本注入されるのか、されない会社があるのか...
といった宙ぶらりんの状態が続いており、市場の疑心暗鬼は晴れません。

新政権に多くを期待するのはどうかと思いますが、
少なくとも現政権のレームダック状態が終わる点はプラスでしょう。

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

ブログを読んで面白かった方、なるほどと思った方はクリックして下さい。