07. 規制・会計基準

金融システムと保険会社

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ソウルで開かれたG20首脳会議でバーゼルⅢが承認されたのを受けて、
金融安定理事会(FSB)はシステム上重要な金融機関(SIFIs)に対する
追加的な規制の提言と作業スケジュールを公表しました。

提言は、SIFIsのなかでもグローバルにシステム上重要である金融機関
(G-SIFIs)にバーゼルⅢよりも高い損失吸収力を求めるというものです。
今後はG-SIFIsの基準と具体的な規制内容が議論されることになります。

G-SIFIsに保険会社が含まれることになるかどうかはわかりません。
ただ、FSBにはIAIS(保険監督者国際機構)も参加していますし、
保険会社は無縁と考えるべきではないでしょう。

頭の体操として、日本の保険会社の経営危機が金融システムに
どのような影響を与えうるか考えてみました。

まず、保険会社は社会のセーフティネットの役割を果たしているので、
大規模な破綻は、直接的な金融システムへの影響はともかく、
個人や企業の活動を委縮させることで、悪影響を与えます。

次に、巨大機関投資家としての役割があります。
短期資金への依存度が高い銀行に比べれば、
一般に保険会社の流動性リスクは小さいでしょう。
ただ、信用不安時や金利上昇時などには、流動性を確保するため、
国債や株式など金融市場への影響が出るかもしれません。

さらに、日本特有の話として、保険会社と銀行による
資本等の相互持ち合いがあります。

大手再保険会社への集中なども、システミックリスクとして
意識しなければいけないのかもしれません。

あくまで頭の体操ということですが...

※いつもの通り、個人的なコメントということでお願いします。

※週末の横浜は厳戒体制です。
 中心部には近づかず、浜通りをサイクリングしました。

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

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国際会計基準への危惧

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7/27の日経「大機小機」です。
国際会計基準(というか時価評価)への反対論なのですが、
「またか」と思いつつ、つい反応してしまいます。

コラムの要旨は次の通り。

・この会計基準の基本思想は製造業や商業の会計の
 基本思想と合わないため、企業経営にゆがみが生じる。

・国際会計基準の利益(包括利益)は純資産の増加額。
 資産の時価評価を基本とした利益であり、短期志向の
 投資家の発想である。

・投資資産の時価がどれだけ上昇するかではなく、
 資産が企業の将来損益にどれだけ寄与するかをもとに
 投資判断を行うべき。

・金融監督当局がここまでコミットしてしまった段階では
 もう後には戻れないが、被害を最小化する努力は必要。
 導入に意味がないと考える企業には強要すべきではない。

「おバカな金融監督当局のせいで、産業界も金融界も困っている」
という主張のようですが、このようなコラムが載るところをみると、
時価評価へのアレルギーは相変わらず根強いものがあるのでしょうか。

もちろん、時価評価が万能だとは思いません。
何を持って時価とするべきかは、難しい問題です。

でも、会社価値の拡大を達成するのが経営の仕事ととらえると、
簿価会計よりも時価会計のほうが目標管理がしやすいです。
時価評価は必ずしも短期投資家の発想ではありません。

加えて、リスクを評価する際には、計量化しているかどうかは別として、
時価を意識してリスクの大きさを認識しているのではないでしょうか。
リスクは時価ベースでみて、対する純資産や収益は簿価ベースというのは
整合的ではありません。

そもそも損益計算を中心とした会計では経営はゆがまないのでしょうか。
売却損益や評価損益、償却損などで損益はいくらでもゆがみます。
その反省から時価評価を基本とした会計にシフトしようとしているのでしょう。

どちらのほうがマシかと聞かれれば、このコラムとは違い、
多くの人は時価評価と答えるのではないでしょうか。

※「大倉山」のふもとにある野菜スタンド。
 ここで買ったもぎたてトマトが実においしかったです。

 

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新基準で影響度調査

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17日(木)の日経新聞に、
「保険会社の財務健全性 新基準で影響度調査」
という記事が載りました。

これは16日に金融庁が発表した
経済価値ベースのソルベンシー規制の導入に係る
 フィールドテストの実施について

を取り上げたものです。
わかりにくいのでちょっとだけ解説を。

保険会社の健全性規制(ソルベンシー・マージン規制)
の見直しは2段階に分けて行われています。

「新基準」というと、今年度末から試行(正式導入は来年度末)される
ソルベンシー・マージン比率の見直し(金融庁HPへ
と紛らわしいですが、こちらが1段階めの見直しです。
今回のフィールドテストは2段階めの見直しに向けたステップと言えるでしょう。

記事には、

「現在はこの比率(ソルベンシー・マージン比率=植村注)を
 算出する際の分子に当たる純資産は時価評価しているが、
 分母に当たる負債は固定されている」

とありますが、正確には資産(金融商品)は時価評価、
負債(責任準備金)は取得原価というミスマッチです。
これでは保険会社の財務状況の実態をうまく把握できないので、
経済価値ベースで資産・負債を一体的に評価しようという話になっています。

なお、「損保は基本的に1年契約だからあまり関係ない」
という声も聞こえてきそうですが、日本の損保は積立型の保険や、
超長期の火災保険(住宅ローンにかかるもの)を扱っているので、
生保だけに影響する話ではないと私自身は思っています。

※「河口から0.0キロメートル」なのですが、
 この先にも埋立地が広がっているので、海はもう少し先です。

 

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国際会計基準に関する誤解

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金融庁がHPで「国際会計基準(IFRS)に関する誤解」という資料を
公表しています。よくありがちな誤解の事例集だそうです。

「国際会計基準(IFRS)に関する誤解」の公表について

「正確性よりもわかりやすさに重点を置いて作成」とのことですが、
このような取り組みが継続的に必要なのでしょうね。

個人的には事例集のうち、全般的事項の2番目に取り上げられている、
「非上場の会社(中小企業など)にもIFRSは適用されるのか」
に注目しています。

ご参考までに、事例集には次のような記載がありました。

○非上場の会社(中小企業など)に対するIFRSの強制適用は、
 将来的にも全く想定されていない。

(注)上場会社の連結財務諸表にIFRSを適用する場合、
 当該会社の非上場の連結子会社等は親会社に対し、
 親会社がIFRS適用のために必要な情報を提供する必要があるが、
 その場合であっても、当該連結子会社等が作成する財務諸表に
 IFRSの適用を強制することはない。

○国際的な資金調達等を行わない非上場の会社(中小企業など)には、
 必ずしもIFRSとのコンバージェンス(収れん)を積極的に進める必要は
 ないとの見解もあるところ。
 民間の会計関係者により、「非上場会社の会計基準に関する懇談会」
 が設置され、非上場会社向けの会計基準の議論開始。

※例年よりも少し寒いですが、それでも外出すると
 いろいろな花が咲いていて春を感じますね。

 

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米国の州保険監督体制

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直近のニッセイ基礎研REPORT(2010年3月号)に掲載された
「米国の州保険監督体制」(松岡博司さん執筆)によると、
各州の保険監督局で働く職員は1万人以上に上るそうです。

ニッセイ基礎研REPORTのHPへ

「財務健全性監督部門」「販売行動監督部門」「免許部門」だけでも
約3500人となる計算です。
もっとも、米国には保険会社だけで数千社ありますし、
この記事によると、監督対象は保険会社だけではないそうです。

他方、日本の金融庁は1462人(2009年度の定員)です。
このうち監督局が273人、検査局が430人となっています。
ただし、保険監督だけではなく、銀行や証券を含めた全体の数字です。

保険だけのデータは見つかりませんでしたが、
監督、検査、企画合わせても60~70人程度ではないでしょうか。
監督対象となる保険会社は意外に多く、100社を超えています。

日米の保険監督体制は規模だけ見ても相当違うことが伺えます。
米国ではこれだけ多くの監督官が働いているわけですから、
連邦規制がなかなか導入されないのも理解できます(是非はともかく)。

※宮島の表通りを一本裏に入ると、懐かしい町並みがありました。

 

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バーゼル委の規制見直し案

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クリスマス前に風邪をひいてしまい、ようやく復活しつつあります。
とんだプレゼントでした。

恥ずかしながら自分で見つけたのではなく、教えてもらった話ですが、
17日に公表されたバーゼル銀行監督委員会の規制見直し案
(市中協議文書)のなかに、資本持ち合い規制の強化がありました。
これが結構厳しい内容です。

バーゼル委の市中協議文書(金融庁HP)

具体的には次の通りです。

①他の金融機関への出資比率が10%以上の場合、
 出資額と同額を当該銀行のコア資本から控除する
②他の金融機関への出資合計がコア資本の10%を超えている場合、
 超えた部分を当該銀行のコア資本から控除する

ここでいう「他の金融機関」には銀行のほか、保険会社なども入ります
(おそらくノンバンクも)。
①は、例えば三井住友銀行は三井生命に14.23%出資(普通株のみ)
しているので、この出資分が全額控除対象となります。
②は「出資合計」ですから、もっと影響が広範囲に及ぶと思われます。
コア資本が3兆円の銀行の場合、3000億円が上限です。

この案がそのまま新しい規制となるわけではなく、
何回か市中協議文書が公表されることになるのでしょうし、
「グランドファザリング(既存の取扱いを一定期間認める措置)」や
「段階的な実施」を十分長期にわたり設定するとのことです。

ただ、このような規制の方向性は押さえておいたほうがいいかと思います。

※サンタさんは娘には「人生ゲーム」をプレゼントしてくれました。
 かさばるので運ぶのが大変だったでしょうね^^

 

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連邦規制は実現するか(続き)

以前このブログでも取り上げた米国の金融改革ですが、
どうやら「連邦レベルの保険規制当局」は実現しなさそうです。

連邦規制は実現するか(6/23のブログ)

正確に言うと、連邦レベルの保険当局は設立されるものの、
州単位の免許制度はそのままで、新たな保険当局は
モニタリングと国際問題への対応などを行います。

やはり州の影響力(というか政治力)は強いのですね。
米国が基本的に内向きな国であることを改めて認識しました。

そういえば自国の大統領が提唱してできた国際連盟にも
米国は加盟しませんでしたね。90年も前の話ですが。

 

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パブコメの募集期間

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金融庁が中小企業金融円滑化法の政令案、内閣府令等案、監督指針等案、
金融検査マニュアル案を公表したのは11月30日午後でした。

ところが、同時に求めたパブリックコメントの締め切りは、
政令案が12月1日(つまり翌日)の11:00、内閣府令等案は同じく1日の18:00、
監督指針等案は2日の18:00だったと知って驚きました。

金融庁のHPへ

企業の資金繰りが厳しくなりがちな年末に対応した動きだとは思うのですが、
せめて1週間程度のパブコメ期間を設けることはできなかったのでしょうか。

HPには、「本件は、年末の中小企業金融の円滑化等に万全を期すため、
いただいたご意見を検討した上で速やかに決定する必要があり、
行政手続法第40条第1項で定める『三十日以上の意見提出期間を
定めることができないやむを得ない理由があるとき』に該当する」とありますが、
それにしても、という感じがします。

政治主導はいいのですが、この数年せっかく改善してきたプロセスの透明性を
後退させてほしくないですね。

※写真は絵本の「ちいさいおうち」みたいですが、
 東横線・田園調布駅の旧駅舎です。

 

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SMR見直しのパブコメ

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金融庁が8月末に公表したソルベンシー・マージン比率の見直し案について、
あくまで個人的にではありますが、コメントを出しました
(なお、コメントの募集は29日の夕方に締め切られています)。

内容は二つ。
一つは責任準備金の一部(保険料積立金等余剰部分)に
算入制限を設けることについてです。
全く算入しないというのであれば、それはそれで理屈がつくのですが、

「期限付劣後ローン等の負債性資本調達手段等と合算して、
 中核的支払余力(コア・マージン)を限度とする」

という案が示されています。そうすると、

・トータルバランスシートアプローチ(=支払い余力を確保するにあたり、
 負債でも純資産でも同列に扱う)ではないということか?
 すなわち、負債中のサープラスは重視されないということか?
 経済価値ベースのソルベンシー規制に移行した際はどうなるのか?

・標準責任準備金(=純保険料式)の達成よりも、コア・マージンを
 優先すべきなのか?
 いわゆる純保行政との決別なのか、それとも両方求めるのか?

・経済価値ベースの負債評価やリスク管理を促す一方で、
 会計上の純資産をあまりに重視すると混乱を招かないか?

などの疑問が浮かんできます。このあたりを確認してみました。

もう一つは実施時期の問題です。
2012年3月期からの導入となっていますが、少し遅いのではないでしょうか。

EUで経済価値ベースのソルベンシー規制(=ソルベンシーⅡ)が
導入されるのが2012年。IAISもグローバル規制の実現に向けて
精力的に動いています。
日本のこの動きを無視することはできないはずですが、
この見直し案の実施直後に新たな見直しが可能なのでしょうか。

健全性規制に明るくないかたには、ややわかりにくかったかもしれません。
ご容赦下さい。

※写真は伊勢・おかげ横丁です

 

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IASBの円卓会議

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7/16のブログで書いた金融商品会計の見直し案について
IASB(国際会計基準審議会)が東京で円卓会議を開いたので
私も出席してきました
(FASB=米国財務会計基準審議会との合同開催)。

IASBのHPへ

現在の保有区分は主に「満期保有目的」「売買可能」「トレーディング」です。
これをIASBは「公正価値/純利益」「取得原価」の2区分に集約する案を、
FASBは基本的に「公正価値/包括利益(売買目的、株式は純利益)」にする案を
それぞれ出しています。

円卓会議は午前、午後の2回開かれました。
午前の参加者は20人程度で、このうちアナリスト関係が6人、
コンサルタントが3人程度、銀行・生保関係が4人、メーカーが2人、
ASBJ=日本の企業会計基準委員会から3人、といったところでしょうか。
海外からの参加者もいました(韓国、香港、シンガポールなど)。

加えて、オブザーバーがたくさん。50人くらいいたでしょうか。
これは私には想定外でした。

会議では参加者がIASB/FASBのメンバーに対し、質問やコメントをしました。
名札を縦にすると、順番に発言の機会が与えられるスタイルでした。

やはり一番多かったのが、いわゆる持ち合い株式の評価についての発言でした。
IASB案では例外として、公正価値でも包括利益でOKという案を出しています。
ただ、売却益や配当収入が純利益に反映されないため、
多くの参加者からこの点についてコメントがありました。

IASBからは「例外の例外を作ろうというのだから、単なる要望ではなく、
そうするべき明確な理由を提案してほしい」とのこと。
そうでなければ動けないという感じでした(あくまで個人的な印象ですが)。

私はと言えば、発言者のなかで最もつたない英語で次のようなコメントをしました。

・FASBの「公正価値/包括利益/売買損益を純利益に反映」を支持
 IASB案では現行の「満期保有」よりも自由度が高くなってしまうのが難点
・保険負債が公正価値になると、保険会社は資産・負債が時価・時価に、
 他方、銀行は資産・負債とも償却原価が大半となると見られ、
 両者を比べるのが難しくなる
・分析上、純利益をそれほど重視していない。ただ、多くの人が参考にしているので、
 「純利益に反映」ではなく、「包括利益/売買損益を純利益に反映」が妥当

2時間はあっという間でしたが、かなり疲れました(TT)

※写真は大倉山「ピオン」のケーキです

 

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