07. 規制・会計基準

FRBのストレステスト

米FRBは13日、大手銀行に実施したストレステストの結果を
公表しました。
一般に「ストレステスト」と言われていますが、正式名称は
「Comprehensive Capital Analysis and Review 2012」です。
FRBのニュースリリースへ

対象となった大手19グループのうち、15グループは
FRBが定めた仮想ストレスシナリオのもとでも、
ベンチマークとなる規制資本を維持できるという結果でした。

ただ、「不合格」となった4グループのなかに、
大手生保メットライフが入っていて、ちょっと驚きました。
コアTier1比率は5.1%と、基準である5%を上回ったものの、
Total Risk-Based Capital Ratioが6%でした(基準値は8%)。

今回のテストでメットライフが「不合格」となった
主なリスク要因は何だったのでしょうか。
このメットライフのコメントを見てもよくわかりません。
メットライフのHPへ

FRBの公表資料を見ると、ストレスシナリオによる損失が
どこで発生しているか、グループごとに示されています。

これによると、Wells Fargoのような銀行中心のグループでは
損失の大半はローンの引き当てによるものです。
CitigroupやJPMorgan Chaseでは引き当てのほかに
Trading and Counterparty Lossesが大きくなっています。

他方、メットライフの場合にはこれらの損失がほとんどなく、
有価証券の実現損が損失の大半を占めていました。

ストレステストではグループによるリスク・プロファイルの違いが
浮き彫りになるといいますが、まさにその通りの結果です。
もっとも、商業銀行や投資銀行と保険会社ですから、
損失の発生源が違うのは当たり前かもしれません。

なお、ストレスシナリオは、これまでよりも厳しいという印象です。
失業率は13%まで上がり、住宅価格が2割下落します。
株価は50%も下がり、長期金利も下がるというものです。

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

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法人税率引下げで減益

 

恥ずかしながらインフルエンザにかかってしまい、
ブログを更新できないまま、2月になってしまいました。
ようやく通常の生活に戻れます。

法人税率の引き下げが決まり、業績予想の下方修正が
保険会社でも数社で発表されていますね。
税率が下がった分だけ繰延税金資産を取り崩すため、
当期純利益が一時的に減る要因となります。

31日の日経によると、大手生保の「損失額」は
次の通りだそうです。

 日本生命 = 1800億円程度、
 第一生命 = 700~900億円
 住友生命 = 約450億円
 明治安田 = 約900億円

このこと自体は極めてテクニカルな話で、
減益だからどうということはないと思います。

ただ、そもそもこのようなことが起こるのは、
バランスシートに繰延税金資産が計上されているからですよね。
すなわち、繰延税金資産の分だけ純資産が大きくなっている
とも言えます(それが税効果会計と言われればそれまでですが)。

保険会社の繰延税金資産は各種準備金の有税繰り入れ
によるものが多く、銀行とは異なります。
ただ、銀行の自己資本規制では、繰延税金資産の算入に
かなり制約があることは、知っておいたほうがいいのかもしれません。

※写真は高知の面白い駅名、「ごめん」と「和食」です。

 

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大学生と保険行政

 

ある大学の保険の授業で次のような課題が出ました。

「あなたが金融庁で保険行政を担当しているとします。
 最近の金融情勢を踏まえたうえで、
 いま行政官として何をするのが望ましいと思いますか。
 あなたの考えを自由に述べなさい。」

「最近の金融情勢を踏まえて」とあり、かつ、授業の内容に
どうしても影響されるので、「経営破綻を防ぐ」とか
「保険会社の監視を強める」といった回答が多いのは予想通りです。
ただ、なかには具体的なものもあり、なるほどと思いました。

・保険会社の経営者を、企業経営・経済学などの
 幅広い学習ができるスクールに参加させる。
 >>保険の知識だけでは不十分ということなのでしょうね

・経営者だけではなく、会社の内面をよく知っている従業員や
 関係者にインタビューして、会社をより理解する。
 >>経営者から話を聞くだけでは不十分との指摘でしょうか

・投資家と協力して保険会社のガバナンスを強化する。
 >>確かに行政と市場のコラボはもっとあっていいかもしれません

・保険会社への検査の頻度を増やす。あるいは、
 検査を第三者機関に委託する。
 >>たぶん今のままではダメという、なかなか厳しい意見です

あと、「若い世代が積極的に払うような年金制度を作る」
「高齢社会に合わせた年金商品の拡充を指導する」といった
年金に関する回答も目立ち、このテーマへの関心の高さが伺えます。

 

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欧州のストレステスト

 

近ごろ話題の「ストレステスト」といえば、
首相の指示で実施が決まった原発の耐性試験のことですが、
欧州の銀行を対象にしたストレステストも注目を集めています。

欧州銀行監督機構(EBA)は現地時間の15日に
テストの結果を公表する予定となっています。
欧州の91の銀行が対象で、不合格となった銀行は
資本増強を求められることになると言われています。

ところで、ご存じのかたも多いとは思いますが、
同じ欧州で保険会社を対象にしたストレステストが行われ、
4日に結果が公表されています。
EIOPA(欧州保険年金監督機構)のHPへ

欧州銀行のストレステストとは違い、ソルベンシーⅡ、
つまり、これから導入される規制をベースにしたテストで、
足元で資本不足かどうかを判定するためのものではありません。

発表によると、テストには221の保険グループ・会社
(グループを1社とすると129社で、市場の約6割をカバー)
が参加し、最も厳しいシナリオでは13社がMCR
(ソルベンシーⅡの最低所要資本)を維持できない
という結果になりました。

ただし、より注目されている所要資本であるSCRについては
記載が見当たらず、足元で最も懸念されているソブリン問題は、
Sovereign Stress Scenarioとして別途テストを行っています
(6社がMCRを維持できないという結果でした)。

このような、当局等がシナリオを決め、業界全体で行う
ストレステストについては、別の機会にでも、
もっと考えてみたいと思います。

 

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IFRS適用時期の見直し

 

自見庄三郎金融相は21日の記者会見で、
国際会計基準(IFRS)の強制適用時期について、

「少なくとも 2015 年 3 月期についての強制適用は
 考えていない」
「仮に強制適用する場合であっても、その決定から
  5-7 年程度の十分な準備期間の設定を行う」

と発表しました。 金融庁HPへ

2010年以降の国内外の様々な変化、とりわけ、
東日本大震災の発生と、産業界からの要望などが
大きかったと報じられています。

ただ、国内事情もさることながら、個人的には他国の状況、
特に米国の姿勢が全面採用から後退していることが
大きいように感じます。

会計でも保険規制でも、「国際化」を進めようとする欧州と、
自国ルール重視の米国、という構図が鮮明です。
金融危機の発生から3年がたち、ここにきて米国は
一段とその姿勢を強めているように見えます。

日本は欧州と米国の間にいて、見方によっては
いいポジションと言えるのかもしれません。
IFRS財団初のサテライトオフィスが北京でなく
東京に置かれることになったのも、このような状況が
影響しているのでしょう。

しかし、中国やインドの台頭もあり、単なる先送りは
かえって日本の立場を弱くするだけになってしまいます。
会計基準統一の方向性自体が変わらないのだとしたら、
やるべきことは「いかに発言力を高めるか」ではないでしょうか。

※写真はスイス・チューリヒです。

 

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バーゼルⅢ

 

バーゼルⅢについて話を聞く機会がありました。

昨年11月のソウルG20サミットによる大筋合意と、
12月の自己資本規制案などの公表などで、
バーゼルⅢの全貌が明らかになりつつあります。

残る注目点はSIFIs(システム上重要な金融機関)
に関する議論あたりでしょうか。

改めて12月の規制案をみると、段階的導入とはいえ、
最終的に銀行が必要な資本水準は大幅に高まります。

しかも、金融危機の反省から「損失吸収力」が注目され、
Common Equity、つまり普通株と利益剰余金重視の
制度となります。
最終的に求められるCommon Equity比率は4.5%で、
これに何種類かの資本バッファーが加わる見込みです。

さらに、総資産と自己資本を比べただけの
「レバレッジ比率」や、新たな流動性基準などもあります。

こうなってくると、銀行は普通株による調達に走る、
毎期の利益をためこむ、リスクアセットを圧縮する、
といった行動に向かわざるをえないでしょう
(あくまで一般論ですが)。

気になるのは、厳しい規制でリターンを上げにくくなった
銀行の普通株を誰が買うのか、という点です。

投資家は規制に協力するために株式を買うのではなく、
投資先の価値が高まると期待して購入するはずですよね。
銀行はどのようなビジネスモデルで株主の期待に
応えるのでしょうか。

また、これだけ資本規制・流動性規制が強化されると
「3本柱アプローチ」はどうなってしまったのかという
疑問も出てきますよね(形は残っているとしても)。

特に第2の柱については、機能しなかったと総括するのは
ちょっと早すぎるのではないでしょうか。

 

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保険検査マニュアル改定案

 

金融庁が保険検査マニュアルの改定案を公表しました。
金融庁HPへ

保険検査マニュアルは、検査官が保険会社を
検査する際に用いる手引書です。

改定案の内容ですが、主な特徴としては、

・「経営レベル」「管理者レベル」「個別の問題点」の三層構造
・PDCAサイクル
・「統合的リスク管理態勢」の新設
・保険募集人の属性に応じた管理態勢の検証

などでしょうか。詳しくはHPをご覧下さい。

個人的なコメントといっても、さすがにこれ以上はやめておきます。

 

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金融システムと保険会社②

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先日(11/13)のブログでは、頭の体操として、
日本の保険会社の経営危機が金融システムに
どのような影響を与えうるか整理してみました。

しかし、経営危機時に限らなくても、保険会社が
金融システムに影響を与えうるケースはいくつか考えられます。

例えば、多くの保険会社が同じようなモデルに基づいて
資産運用リスクの管理を行っていた場合には、
何かのきっかけで保険会社が一斉にアクションを起こし、
金融市場に影響を与えることがありえます。

2003年の債券市場では、金利水準の上昇を受け、
計測していたリスク量が、設定していたリスク上限を
超えてしまった金融機関が一斉に債券を売却し、
結果として金利水準がさらに急騰するという、
いわゆる「VaRショック」が発生しています。

個々の金融機関にとっては合理的な行動でも、
マクロ的に見ると、金融システムを動揺させてしまう。
合成の誤謬(ごびゅう)と言うのでしょうか。難しい問題です。

他には、会計や規制などの変化に伴う影響もありえます。

例えば、わずかな周知期間で自己資本規制を厳しくすると、
多くの金融機関がリスクの高い資産を投げ売りしたり、
反対に特定の資産に買いが殺到したりすることになりがちです。

個々の金融機関への健全性規制を強めることで、
金融システムを強化しようとした結果、一時的とはいえ、
かえって金融システムを不安定にしてしまうわけです。

やはり合成の誤謬といった感じがしますが、
こちらは、変化に伴うショックをなくすことはできないにせよ、
できるだけ抑える工夫は可能かもしれません。

なお、最近の「きんざい」(11/15号)で、明治大学の松山直樹さんが
保険会社の健全性規制導入が金融市場に与える影響について
書かれています。ご参考まで。

※いつものように、個人的なコメントということでお願いします。

※写真は秋の横浜(日本大通りと横浜海岸教会)です。

 

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金融システムと保険会社

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ソウルで開かれたG20首脳会議でバーゼルⅢが承認されたのを受けて、
金融安定理事会(FSB)はシステム上重要な金融機関(SIFIs)に対する
追加的な規制の提言と作業スケジュールを公表しました。

提言は、SIFIsのなかでもグローバルにシステム上重要である金融機関
(G-SIFIs)にバーゼルⅢよりも高い損失吸収力を求めるというものです。
今後はG-SIFIsの基準と具体的な規制内容が議論されることになります。

G-SIFIsに保険会社が含まれることになるかどうかはわかりません。
ただ、FSBにはIAIS(保険監督者国際機構)も参加していますし、
保険会社は無縁と考えるべきではないでしょう。

頭の体操として、日本の保険会社の経営危機が金融システムに
どのような影響を与えうるか考えてみました。

まず、保険会社は社会のセーフティネットの役割を果たしているので、
大規模な破綻は、直接的な金融システムへの影響はともかく、
個人や企業の活動を委縮させることで、悪影響を与えます。

次に、巨大機関投資家としての役割があります。
短期資金への依存度が高い銀行に比べれば、
一般に保険会社の流動性リスクは小さいでしょう。
ただ、信用不安時や金利上昇時などには、流動性を確保するため、
国債や株式など金融市場への影響が出るかもしれません。

さらに、日本特有の話として、保険会社と銀行による
資本等の相互持ち合いがあります。

大手再保険会社への集中なども、システミックリスクとして
意識しなければいけないのかもしれません。

あくまで頭の体操ということですが...

※いつもの通り、個人的なコメントということでお願いします。

※週末の横浜は厳戒体制です。
 中心部には近づかず、浜通りをサイクリングしました。

 

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国際会計基準への危惧

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7/27の日経「大機小機」です。
国際会計基準(というか時価評価)への反対論なのですが、
「またか」と思いつつ、つい反応してしまいます。

コラムの要旨は次の通り。

・この会計基準の基本思想は製造業や商業の会計の
 基本思想と合わないため、企業経営にゆがみが生じる。

・国際会計基準の利益(包括利益)は純資産の増加額。
 資産の時価評価を基本とした利益であり、短期志向の
 投資家の発想である。

・投資資産の時価がどれだけ上昇するかではなく、
 資産が企業の将来損益にどれだけ寄与するかをもとに
 投資判断を行うべき。

・金融監督当局がここまでコミットしてしまった段階では
 もう後には戻れないが、被害を最小化する努力は必要。
 導入に意味がないと考える企業には強要すべきではない。

「おバカな金融監督当局のせいで、産業界も金融界も困っている」
という主張のようですが、このようなコラムが載るところをみると、
時価評価へのアレルギーは相変わらず根強いものがあるのでしょうか。

もちろん、時価評価が万能だとは思いません。
何を持って時価とするべきかは、難しい問題です。

でも、会社価値の拡大を達成するのが経営の仕事ととらえると、
簿価会計よりも時価会計のほうが目標管理がしやすいです。
時価評価は必ずしも短期投資家の発想ではありません。

加えて、リスクを評価する際には、計量化しているかどうかは別として、
時価を意識してリスクの大きさを認識しているのではないでしょうか。
リスクは時価ベースでみて、対する純資産や収益は簿価ベースというのは
整合的ではありません。

そもそも損益計算を中心とした会計では経営はゆがまないのでしょうか。
売却損益や評価損益、償却損などで損益はいくらでもゆがみます。
その反省から時価評価を基本とした会計にシフトしようとしているのでしょう。

どちらのほうがマシかと聞かれれば、このコラムとは違い、
多くの人は時価評価と答えるのではないでしょうか。

※「大倉山」のふもとにある野菜スタンド。
 ここで買ったもぎたてトマトが実においしかったです。

 

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