05. 金融・経済全般

生損保のガバナンス報告書

 

先日ブログでみずほフィナンシャルグループの
ガバナンス報告書についてコメントしましたが、
大手保険グループの報告書が徐々に出てきているので、
ざっと比べてみました。

現時点でコーポレートガバナンス・コードを反映した
報告書を公表しているのは、第一生命、MS&AD HD、
SOMPO HD、そして住友生命の4社です。

最後の「住友生命」はあれ?っていう感じですよね。
相互会社形態なのでコードの適用対象外なのですが、
コーポレートガバナンスは会社形態に関わらず
共通のものという認識のもと、任意対応したそうです。

同じく相互会社形態の明治安田生命も7月下旬に
ガバナンス報告書を公表する予定としています。

中身のほうも見てみましょう。

東証の記載要領には、コードの各原則のうち、
実施しないものがある場合には理由を記載すると
なっています。

4社のうち、SOMPOは「全てを実施」とあり、
第一生命は記載なし(おそらく「全てを実施」なのでしょう)。

他方、MS&ADは補充原則4-11③(取締役会の実効性)
について、「今後実施します」とありました。

住友生命も4-1③について「現時点では実施していない」
「結果の概要の開示等について検討を行う」とありました
(住友生命は4-1③についても記述あり)。

ちなみに第一生命は「ホームページにて開示」とあり、
確認すると、自己評価アンケートが公表されていました。
第一生命のサイトへ

第一生命は他の開示項目も「ホームページにて開示」と、
報告書そのものにはあまり記述が見られないのですが、
この自己評価アンケートはなかなか興味深いです。

政策保有株式(原則1-4)についても確認しました。
損保の場合、みずほや三井住友トラストのような、
「原則として保有しません」という記載は見られません。

 「発行体の財務状況、ガバナンス、株価、株式の流動性、
  取引状況等を総合的かつ慎重に判断します」
 「保有する銘柄の投資効率及び信用・市場リスク等を
  適切に管理します」
 【MS&AD】

 「毎年、取締役会において保有を継続する経済合理性が
  あるかどうかの検証を行います」
 「検証に際しては、保険取引やアライアンス強化など
  保有目的に基づく将来性、株価上昇による含み益形成や
  株式としての長期的展望に加え、保険引受および株式の
  リターンとリスクを定量的に評価する指標も活用しています」
 【SOMPO】

と、政策株式の保有を前提にした記載でした。

なお、第一生命と住友生命も「政策保有を行う」ですが、
第一生命が制定したガバナンス基本方針によると、

 「業務提携による関係強化等、純投資以外の
  グループ戦略上重要な目的を併せ持つ株式」

とあり、有価証券報告書の開示内容も踏まえると、
保有株式の多くは純投資という位置付けのようです
(住友生命は不明)。

コードを反映したガバナンス報告書の締め切りは
12月なので、東京海上HDをはじめ、他社の報告書も
しばらくしたら公表されるものと思います。

※成田のソフィア保険事務所を訪問しました。
 駅前広場に面した好立地で、オフィスから新勝寺が見えます。

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

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ガバナンスコード適用開始

 

コーポレートガバナンス・コードが6月から適用となりました。
すでに東証に報告書を提出した会社もみられます。

大手金融機関では、みずほフィナンシャルグループが
適用初日に報告書を東証に提出しました。
みずほFGのサイトへ

注目の「政策保有株式」(原則1-4)に関しては、
「その保有の意義が認められる場合を除き、保有しない」
という基本方針が示されました。

同社では、個別銘柄ごとに定期的かつ継続的に
保有の意義を検証するのだそうです。

また、取締役会の実効性評価(補充原則4-11③)については、
「(ガバナンス改革について)順調にスタートできたものと評価」
「取締役会が自己評価を絶えず行い、(中略)現時点において、
 第三者評価は必要ないものと考えております」
という記載でした。

これだけでも前進とは思いつつ、期待外れの感も否めません。

今回のガバナンスコードは「基本原則」「原則」「補充原則」の
三層構造になっているのですが、東証の記載要領は、

 ・コードの各原則を実施しない理由
 ・コードの各原則に基づく開示

を新たに求めるだけなので、ガバナンスコードのうち、
明確に開示が求められているいくつかの項目
(1-4、1-7、3-1、4-1①、4-8、4-9、4-11①②③、
 4-14②、5-1)だけに対応すればOKという感じです。

しかし、コードを読むと、基本原則の具体的な項目として
原則や補充原則があるのではなく、いずれについても
実施していることを示さなければならないはずなのです。

例えば、基本原則3には、

「会社の財政状態・経営成績等の財務情報や、経営戦略・
 経営課題、リスクやガバナンスに係る情報等の非財務
 情報について(中略)主体的に取り組むべきである」

とあり、開示内容は限定されていません。
ところが、東証の記載要領は基本原則3ではなく、
「開示すべき」となっている原則3-1のみ意識しています。

このため、原則3-1に列挙された項目だけ開示すればOK
となってしまい。そもそもの基本原則3はどうなのか、
甚だ心もとない状況となっています。

コーポレートガバナンス・コード制定の趣旨からすれば、
開示項目だけ満たせばいいというのはおかしな話でして、
基本原則3の内容も実行する必要があるはずです。

ということで、これから出てくるガバナンス報告書に加え、
有価証券報告書やアニュアルレポートなどを見て、

「ひな型的な記述や具体性を欠く記述となっており
 付加価値に乏しい場合が少なくない、との指摘もある」
(ガバナンスコード第3章より引用)

が少しでも改善するかどうか、注目する必要がありそうです。

 

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資金循環統計から

 

資金循環統計(2014年第4四半期速報)の参考図表には
興味深い情報がいろいろ載っていますので、ご紹介です。
日本銀行のサイトへ

最も注目されたのは、個人金融資産が1694兆円と
過去最高を更新したことかもしれません。
資金の流入(主に投信)と時価上昇(株式と投信)で、
9月末と比べて40兆円増加しました。

「部門別の資金過不足」の推移もあります。
資金余剰主体である家計が、資金不足の一般政府を
賄っているという構図に変化はありません。

ただ、資金余剰が続いていた民間非金融法人企業が
この四半期は資金不足となっていました。
今後のトレンドに注目です。

「国債等の保有者別内訳」にも注目しましょう。
中央銀行(=日銀)の構成比が25%となりました。
異次元緩和を続けているので当然の動きですが、
現在の政策が続くかぎり、構成比は一段と高まります。

なお、「日銀が国債をどこまで買えるか」というタイトルの
面白い記事を見つけましたので、ご参考まで。

※久しぶりにつくしを摘みました。春ですね。

 

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CGコード原案

 

今週の週刊金融財政事情(2015.2.16号)は
「リスクテイクのための企業統治論」特集でした。

昨年末に東証と金融庁を共同事務局とする有識者会議が
「コーポレートガバナンス・コード原案」を公表しました。
金融庁のサイトへ

特集では、次の4名のかたが寄稿しています。

・金融庁・総務企画局長の池田唯一さん
・日本経済団体連合会・常務理事の阿部泰久さん
・三菱UFJフィナンシャルグループ副社長の田中正明さん
・ガバナンス・フォー・オーナーズ・ジャパン代表取締役の
 小口俊朗さん

このなかで、ガバナンス・コードの必要性について、
金融庁の池田さんと経団連の阿部さんの主張が対照的なので、
ちょっと長い引用ですみませんがご紹介します。

池田さん
「諸外国では、企業家精神が旺盛すぎた経営者も多く、昨今、
 行き過ぎがないようにコーポレートガバナンスでそれをコン
 トロールするという傾向の議論が通例のように思われる。
 これに対し、わが国のコードは、諸外国とはベクトルの向きが
 逆かもしれないが、企業が適切なリスクテイクによって資本
 効率を高め、持続的に企業価値を向上させる、その際の説明
 責任の履行に資するような、『攻めのガバナンス』機能の発揮
 を目指すことで、上場会社の経営者の企業家精神の発揮を
 後押しするという考え方に立っているということがまずもって
 認識されるべきである」

阿部さん
「日本企業の『稼ぐ力』を高めるために、なぜコーポレートガバナ
 ンス・コードが必要であるのかは定かではない。もともと、コー
 ポレートガバナンス体制の構築は、不祥事の未然防止や、短期
 的利益の獲得を狙った経営陣の暴走を抑制するために必要と
 されてきたものである。いわばマイナスの未然防止策であり、
 いかに優れたコーポレートガバナンスの仕組みを整えたとしても、
 ただちに企業の収益性向上につながることはないはずであること
 をまず指摘しておきたい」

いかがでしょうか。
ガバナンス体制の整備と企業価値の関係についての議論は、
本来、アカデミズムにおける議論なども踏まえるべきなのでしょう。

ただ、企業価値を評価するのは第一義的には投資家ですので、
ガバナンス改革を求める投資家が多いという認識のもとでは、
政府主導で指針を作ろうというのは私には理解できます。

もちろん、形ではなく中身が重要なのは言うまでもありません。

※写真はある韓流スターの実家なのだそうです。

 

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ある種の保険をかける

 

日銀の追加緩和に驚いていたら、今度は衆院解散とか。
今回のバズーカ砲は消費税の再引き上げをサポートする
のだと思っていましたが、どうも違うみたいです。

仮に解散・総選挙となった場合、消費税を予定通り
引き上げるべきと主張する政党はあるのでしょうか。

しかも、出口どころか、さらなる日銀バズーカ砲の可能性も
高まったように思います。
保険会社にとっても、悩ましい日々が続きそうです。

ところで、日銀のホームページで、追加緩和を決めた
10月末の金融政策決定会合で反対した佐藤健裕委員の
講演(ロンドンでの講演の邦訳)を見つけたので紹介します。
日銀HPへ

「マクロプルーデンス政策と日本銀行の取り組み」なので、
主にマクロプルーデンス政策について述べたものですが、
今回の追加緩和についても簡単に触れられています。

 「私自身はこの決定に反対票を投じたことから、
 この政策変更について話すには微妙な立場にある」

としたうえで、

 「短期的とはいえ、現在の物価下押し圧力が残存する場合、
 これまで着実に進んできたデフレマインドの転換が遅延する
 リスクがある」

 「日本銀行としては、こうしたリスクの顕現化を未然に防ぎ、
 好転している期待形成のモメンタムを維持するため、
 ある種の保険をかける意味で、ここで『量的・質的金融緩和』を
 拡大することが適当と判断した」

という政策変更の説明がありました。「ある種の保険」ですか…

ちなみに黒田総裁は、「デフレという慢性疾患を完全に克服する
ためには、薬は最後までしっかりと飲み切る必要があるのです」
と病気の治療にたとえた説明もしています
(11/5のきさらぎ会における講演より引用)。

保険にしても薬にしても、わかったようなわからないような。
無視できないリスクがあるから保険に入るのでしょうし、
いくら薬を飲んでも、安静にして体力をつけなければ、
なかなか治らないと思います。

佐藤さんの講演に戻ると、それではなぜ反対したのか、
そこまでは書いてありませんが、次のような記述がありました。

 「私としては、消費者物価指数が前年比2%に達すれば、
 この政策はその使命を果たしたことになると単純に考えている
 わけではない」

 「日本銀行が目指す『物価の安定』とは、本来、全般的な経済状況
 が実体経済・資産市場ともに良好に推移するなかで、賃金の改善
 とともにバランスよく物価が上がっていく姿である筈」

 「人々の中長期的な予想物価上昇率のリアルタイムでの計測手法
 に決め手がない以上、政策の継続の必要性については、
 毎回の金融政策決定会合で政策委員会が改めて『判断』」して
 いくべきものと考えている」

予想や期待に働きかける政策というのは、実施の判断基準にしても、
政策効果の測定にしても、極めてアートの色彩が強いということが
うかがえますね。

※いつものように個人的なコメントということでお願いします

※写真は11月限定の「築地丼 特別弁当」。
 築地市場の老舗の食材を使った楽しい弁当でした。

 

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「賢い支払い術」に学ぶ

 

先日あるカード会社からDM(ダイレクトメール)が来ました。

 お得なキャンペーン実施中!
 今ならギフトカード1万円分が当たるチャンス!

とあり、カードの賢い支払い術を指南するとのこと。
中面を見ると、リボ払い・分割払いの勧誘でした。

今月の支払いに不安を感じたAさんに対し、
助っ人が「リボ払い・分割払いへの変更」を伝授し、
Aさんの不安が解消されるというストーリー。

ただ、支払い方法をリボ払い・分割払いに変更すると、
当然ながら手数料(利息)が発生しますよね
(私の場合、リボ払いだと実質年率15%かかるはず)。

そんなことは裏面にいかないと書いてありませんし、
説明文の字が小さく、かつ、私にはわかりにくかったです。

このような勧誘がカード業界では行われているんだなあと
思いつつ、せっかくなのでDMを大学生の息子に見せ、
金利やリボ払い、カード会社の収益源について解説しました
(ちゃんと聞いていたかどうかは疑問ですが...)。

もっとも、カード会社がリボ払いなどの普及に務めているとはいえ、
調べてみると、依然としてカード支払い方法の90%以上は
利息のかからない非割賦方式(一括払い、ボーナス払いなど)
なのですね。

割賦方式(リボ払い・分割払い)も伸びてはいるものの、
むしろ非割賦方式のほうがより伸びているようです。

さらに改めてわかったことは、そもそも日本ではいまだに、
個人消費に占める決済手段の5割以上が現金だということ。
クレジットカードは全体の13%を占めるにすぎません
(クレディセゾンのIR資料から引用。データは2012年)。

米国と違い、一括払いが中心で利息が発生しないので、
日本のカード会社は加盟店手数料を下げられず、
その結果、加盟店が増えず、カード利用の裾野が広がらない...

あるいは、日銀券への信認の厚さもあるのかもしれませんし、
文化的な要素もありそうです。例えば、結婚式など冠婚葬祭には
現金を持っていきますよね。

とはいえ、今年からパスモをオートチャージにして以降、
個人的には現金を使う機会をかなり減らしています。
例えば5000円以上の支払いはクレジットカードを使い、
小口の買い物は、パスモが使えればそれで決済。
年々増えているネット通販も、決済はカードが中心です。

カード会社にとって悪いお客さんではないと思うのですが^^

※私の父と娘の誕生会をしました♪

 

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「公的年金運用を考える」

 

先週の日経「経済教室」(4/24、25)をご覧になったでしょうか。

テーマは年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の資産運用。
24日は伊藤隆敏先生による「債券減らし 分散投資急げ」、
25日は玉木伸介先生による「リスク投資 国民の理解を」でした。

どちらの論文も、昨年11月に公表された有識者会議の報告書
(伊藤先生はこの会議の座長ですね)を踏まえたものだったので、
この分野にはあまり明るくないものの、改めてこの報告書を読んでみました。
有識者会議報告書(PDF)へ

有識者会議の主な提言は次のようなものです。
 ・国内債券を中心とする現在のポートフォリオを見直す
 ・運用対象の多様化を図り、分散投資を進める
 ・ガバナンスやリスク管理の見直し

最初に「国内債券を中心とするポートフォリオの見直し」、
つまり、国内債券の比率を引き下げろということなのですが、
報告書にはその理由として、次のようにあります。

「デフレからの脱却を図り、適度なインフレ環境へと移行しつつある
 我が国経済の状況を踏まえれば、収益率を向上させ、金利リスクを
 抑制する観点から、見直しが必要」

これって、要は相場観ですよね。

私が最も気になるのは、有識者会議の報告書を見ても、
経済教室の両論文でも、公的年金の財政や負債特性について
あまり考慮されていないように思えることです。

例えば、経済教室の伊藤論文には、次のようにあります。

「毎年5%の利回りを確保すれば、元本を減らすことなく
 毎年6兆円の取り崩し要請に応えていけるが、利回り0.6%台の
 国債の大量保有に固執していれば、6兆円の取り崩しの継続で
 元本はどんどん減少していく」

今の年金財政の検証では積立金を取り崩さないどころか、
後述する「マクロ経済スライド」まで見込んでいるのですが...

それはそうとして、現役人口が減っていくため、保険料収入と
年金給付のバランスが悪化していくのはほぼ間違いありません。

しかし、その際の選択肢は「リスクをとった運用」だけなのでしょうか。

確かに資産ポートフォリオのリスクを高めれば、高いリターンが
期待できるものの、大きな損失が出る可能性も高まります。
リスクをとらず、保険料をさらに上げるという方法もあるでしょう。

選択肢を示さないということはく、初めから運用リスクの拡大
(というか債券から株式へのシフト)ありきに見えてしまうのですね。

先に触れたとおり、今の公的年金には「マクロ経済スライド」、
すなわち、給付削減の仕組みが採り入れられています。

例えば前回の財政検証結果をみると、100年間のシミュレーションを行い、
約20年間のマクロ経済スライドの実施により、財政均衡を図っています。
H21年の財政検証要旨(PDF)

つまり、制度としてはすでに給付削減を組み込んでいる中で、
財政バランスをどのようにしてとるべきかという話をすべきであって、
単に「国債を減らせ」「運用の専門家を置け」という議論ではないはず。

ちなみに、伊藤先生が挙げている「海外の先進的な年金基金」
の代表例が新聞掲載の「ノルウェー」「オランダ」等だとすると、
「ノルウェー政府年金基金グローバル」をネットで調べてみたところ、
これはノルウェーの石油・ガス収入を積み立てているものなのですね。
「オランダ公務員総合年金基金」は文字通り公務員のための年金です。

GPIFが運用する資金は基本的に国民からの保険料と税金ですし、
給付を受けるのも公務員ではなく一般の国民です。
資金の性格はかなり異なると思います。

なお、公的年金には定額部分と報酬比例部分があり、
負債特性が異なるはずですが、今回はスルーさせて下さい。

※お花がきれいな時期になりましたね。ハナミズキとチューリップです。
RINGの会 オープンセミナー

 

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事業会社の経営管理

ある会合で、事業会社の経営管理の問題点について
スピーチを聞く機会がありました。
中小企業ではなく、大企業を念頭に置いた話です。

・自己資本比率が高ければ財務の健全性が高いのか?

・無借金経営(実質を含む)が望ましい経営なのか?

・「営業利益」で部門別の損益管理をしていていいのか?

当然ながら、いずれも企業価値の拡大という観点からは
誤りです。

経営リスクに見合う自己資本が重要なのであって、
自己資本比率だけを見ても意味はありません。
それに、自己資本のコストは非常に高いので、
「自己資本が多いほどいい」なんてことはありえません。

また、営業利益で損益管理を行っているということは、
借入利息も資本コストも見ていないということです。
これでは企業価値への貢献度はわかりません。

この15年間、専ら保険会社や銀行を対象にしており、
たまに先進的な事業会社の例を勉強する程度だったので、
上記のような問題提起はちょっとしたショックでした。

「資本コスト」「エコノミックキャピタル」といった概念は、
事業会社では一部の財務スペシャリストだけにしか
浸透していないのでしょうか。

※某大学の光景です。私たちの時代には「資格取得」よりも
 「合宿免許」「海外旅行」だったように思います...

 

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金融システムレポート

 

17日に日本銀行が「金融システムレポート」を公表しています。
日銀のHPへ

今回のレポートは「基本的に2013年3月末までの情報」
による分析とあるので、先般の量的・質的金融緩和については
織り込まれていません。

「はじめに」を見ると、

「この政策は、長めの金利や資産価格などを通じる波及ルートに加え、
 市場や経済主体の期待を抜本的に転換させる効果が期待できる」

「この政策のもとで、金融システムにおける資金の流れや金融機関、
 投資家の行動にどのような変化が生じていくかを分析していく」

と述べられていますので、次回以降に期待しましょう。

今回のレポートでは、金融機関の経営課題として真っ先に、
「収益力の向上を図る必要がある」と指摘しています。
とりわけ地域金融機関は収益環境は厳しさを増しているようです。

その一方で、銀行・信用金庫の金利リスク量(=金利上昇を想定)
が総じて増加方向にあることも示されています。

すなわち、地域金融機関は低下する収益力を補うために
債券投資を増やし、残存期間を延ばしている姿が伺えます。

そこにきて、今回の量的・質的金融緩和です。

人口の減少や高齢化の進行に伴う資金需要の低迷に対し、
金融緩和によって状況が改善に向かうでしょうか?
他方、日銀の思惑通りにイールドカーブが潰れれば、
地域金融機関の債券投資に伴う収益は確実に低下します。

収益を維持したければ、投資のボリュームを増やすか、
もしくは残存期間を一段と延ばすか、となるのでしょう。
いずれにしても、金利リスク量をさらに増やすことになりますね。
うーん。大丈夫でしょうか。

あるいは、レポートで「ひとつの選択肢となりうる」としている
合併などを通じた経営効率の改善が加速するかもしれません。

もっともレポートでは、1991年度以降に合併した信用金庫のうち、
合併後に基礎的な収益力が改善したのは6割だったという
分析結果が示されています。これをどう見るか...

なお、このところ保険会社の分析が充実する傾向にあったので、
楽しみにしていたのですが、今回はかなり控えめだったようです。
こちらも次回以降のお楽しみといたしましょう。

それにしても、日銀の発表によると、5月から超長期債の買入額が
さらに増える可能性があるようです。日銀HPへ(PDF)
いよいよ生保と日銀で超長期債の奪い合い、でしょうか?

※日比谷公園の松本楼でランチ。18日は20回目の結婚記念日でした。

 

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債券市場はどうなる?

 

日銀の量的・質的金融緩和により、債券市場が混乱模様です。
5日の市場では、10年国債利回りが0.315%まで下がった後、
午後になると一転して0.62%まで急騰しました。

相場のことは相場に聞けと言われるとおり、
今後の展開はだれにもわかりません。

ただ、日銀は「イールドカーブ全体の低下を促す」としており、
具体的な金融緩和策を打ち出しているわけです。

 消費者物価上昇率「2%」を「2年程度」で実現するため、
 長期国債・ETFの保有額を「2年間で2倍」に拡大し、
 長期国債買い入れの平均残存期間を「2倍以上」にする...
 日銀の公表文(PDF)

「日銀の金融緩和が財政赤字の穴埋めだと見なされれば、
 金利上昇のリスクが顕在化する」(5日の日経)

という声は根強いものの、物価2%というハードルが高いなかで、
日銀がそう簡単に長期金利の大幅な上昇を許容するはずはなく、
場合によっては米FRBのようなツイストオペ(短期売り・長期買い)
なども駆使してイールドカーブを抑えにかかるだろうと思います。

もし、金利上昇に賭けて(?)資産・負債をミスマッチ
(負債よりも資産のポジションを短く)していた場合、
これはしばらく厳しいかもしれませんね。
反対に、資産の長期化を進めてきた会社にとっては、
リスクヘッジが功を奏したということになります。

くれぐれも債券の含み益だけで生保を評価しないようにしましょう
(特にメディアの皆さん!)。

それにしても、超長期債の買入額には驚きました。
生損保が主な買い手となってきた超長期国債市場において、
日銀は毎月0.8兆円、年間だと9.6兆円もの国債を購入するとか。

長期国債の平均残存期間を2倍以上にするには
超長期国債の買入額を増やすのは自然といえば自然なのですが、
そんなに買えるものなのでしょうか。

今年度の10年超の国債発行予定額は22.8兆円です。
これに対し、従来は年1.2兆円買っていた主体が、
いきなり年9.6兆円を買い入れるというのです。

もちろん、発行市場だけではなく、流通市場も見るべきですが、
ALM目的で保有する生損保が大量に売却するとは考えにくく、
流通市場を考慮しても、「池のなかの鯨」状態でしょう。

市場流動性の低下が価格(利回り)にどう影響を与えるか、
いろいろと心配になります。

※写真は大人気の沖縄美ら海水族館です。

 

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