02. 保険会社の経営分析

公表逆ざや額の限界

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すでに発表されている第一生命と大同生命の「逆ざや額」をみると、
数字が極端に悪化しています。

 第一生命 2007年度= 11億円の順ざや → 2008年度= 648億円の逆ざや
 大同生命 2007年度=217億円の順ざや → 2008年度=1298億円の逆ざや

この結果、大同生命は基礎利益が赤字となってしまいました。
これだけみると、逆ざや額を保険関係の差益でカバーできていないことになります。

しかし、超長期の負債に対し、長期の資産で運用する生保にとって、
実質ベースの逆ざやが短期間でここまで極端に動くことはありません。
指標が実態を表していないことがわかります。

大同生命の2008年度の公表逆ざや額が膨らんだ理由は、
含み損となった投信の解約に伴う多額の損失が反映されたためです。
第一生命の場合は、詳細は不明ですが、2007年度までの逆ざや額が
何らかの要因により実態よりも小さくなっていたようです。

いずれのケースでも、公表逆ざや額が実態をうまく反映していないので、
この数字をそのまま使うのはやめたほうがいいと思います。

※写真は飯山の古い雁木(がんき)です。

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

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損保の決算発表

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5/20(水)は主要損保の決算発表集中日でした。
決算発表に関する翌日の報道をみると、

「金融危機の直撃で全社が経常赤字に転落、損害保険ジャパンなど四社が
 最終赤字となった」(日経)
「有価証券の損失が拡大するなどし、税引き後利益は損害保険ジャパンなど
 3社が赤字、東京海上ホールディングスなど2社が減益」(読売)
「6社合計の金融危機関連損失は7697億円に達し、08年9月中間期時点の
 約4倍に膨らんだ」(朝日)

など、損益に関する記述が中心でした。
損保にかぎらず、決算記事はたいていP/L中心の記述となりますよね。

地方紙の一部で私のコメントが掲載されたようですが(共同発)、
これも損益に関するものでした↓

「国内部門の収支改善を進めなければ、再編してもいずれ苦しくなる」

ただ、金融危機の影響ということであれば、
黒字か赤字かということよりも、B/Sに注目です。

P/Lは有価証券評価損の計上ルールによって結果が大きく変わります
(上場損保は「30%ルール」なので赤字になりやすいのです)が、
B/Sへの影響はニュートラルです。

各社の純資産(価格変動準備金を含む)をみると、
大手3社は1年間で4割超の減少、富士火災は6割超も減りました。
大手は会社価値を1年間で、それぞれ5000億円~9000億円も
減らしてしまったことになります。ものすごい金額です。

大手損保の場合、まだ健全性が揺らぐような事態ではないとはいえ、
経営者はこれを株主や契約者にどう説明していくのでしょうか?

 

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ハートフォード生命が新規取り扱いを休止

「変額年金大手のハートフォード生命が、すべての保険商品の
 販売を6月から休止」という発表には驚きました。

三井生命も変額年金から撤退しましたが、主力は営業職員チャネルによる
保障性商品の販売です。
ハートフォード生命の場合、金融機関チャネルの専門会社なので、
今回の決定は日本市場からの撤退に近いでしょう。

親会社のハートフォードグループの2009年1-3月期決算(4/30発表)は、
変額年金関連の損失がかさみ、3四半期連続の赤字となりました。
最低保証の負担よりも、過去に計上した繰延新契約費の償却負担と、
保有債券価格の下落による影響が大きいようです。

日本法人の売り上げも落ち込んでいます。
2008年7-9月期までは1000億円以上だった収入保険料は
10-12月期が322億円、2009年1-3月期は208億円です。
主力商品3WINが運用停止になったことによる混乱に加え、
グループの信用力低下もあり、金融機関が販売を避けているのでしょう。

ただ、銀行はこのところ保険・年金商品をリテール戦略の基軸に据え、
体制整備を進めています。今回の件がどう影響するか注目です。

なお、Bloombergに私のコメントが載ったので、ご紹介します。
「(植村アナリストは)『昨秋の金融危機以降、変額年金事業の環境は激変した』
 と指摘。運用低迷や、元本を保証する商品などのコスト上昇、米保険最大手
 AIGの公的管理を受けた保険会社の信用不安などが背景にあるという」

 

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生保の逆ざや

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15日の朝日、16日の日経と、生保の逆ざやの記事が出ました。
内容は両紙とも概ね次の通りです。

「大手生保9社のうち、日本、第一、大同は逆ざやを解消していたが、
 09年3月期には全社が逆ざやになる見込み」
「昨秋以降の金融危機で運用環境が急速に悪化し、
 逆ざやの拡大が再び始まった」
「これまでと違い、各社とも増配は不可能な状況」

金融危機で運用環境が悪化し、解消していた逆ざやが
再び拡大したというのは、実は私の認識とはかなり異なります。

私の認識は、
・依然として予定利率の高い契約を抱えているため、
 そもそも逆ざやは実質的には解消していなかった。
・それでも平均予定利率は徐々には下がってきた。
・他方、金利水準は1年前とあまり変わっていない。
・以上から、足元で逆ざやは拡大していない。
というものです。

朝日と日経が間違っているというわけではありません。
両紙と私の違いは、逆ざやのとらえかたにあります。
言い換えれば、公表逆ざや額は実態を必ずしも反映していない
という話です。

公表される逆ざや額の計算では、利息配当金収入をベースとした
運用利回り(基礎利回りと言います)を使います。
ところが、この中には投信の配当損益など、
キャピタル損益とすべきものも含まれているのです。

もし、逆ざやをキャピタル損益を含めた利回りで計算すべきと言うならば
(それも一理あります)、株価や為替相場などの変動を反映した
時価利回りで逆ざやを計算すべきです。
もっとも、毎年利回りが大きく変動することになるでしょう。

私は資産を全て円金利資産で運用した場合の利回り
(リスクフリーレートのイメージ)が、逆ざや負担を見る観点からは
妥当ではないかと思っています。

 

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大和生命の保険金削減案

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4/11の各紙に、破綻した大和生命の保険金削減モデルが
掲載されています。

「終身年金(逓増型)で最大80%の削減」とあるように、
加入時の予定利率が高い貯蓄性商品で、
満期・終期までの期間が長いものほど大きく削減されています。

予想された事態ですが、二度目の破綻となった旧大正生命契約では、
1992年に加入した30歳女性の一時払い終身保険で87%の削減、
同じ条件の終身年金(逓増型、65歳開始)で約7割の削減と、
削減率が一段と大きくなっています。

ただ、どうしても削減の大きいモデルに目が行ってしまいますが、
その対象となる契約者はおそらく例外的な存在でしょう。
全体としてみれば、過去の破綻事例と比べて契約者負担が
際立って大きいということはなさそうです。

例えば、大和生命の予定利率は1%に下げられますが、
もともと平均予定利率が3%台まで下がっていました
(過去の事例では4%以上でした)。

責任準備金の明細を見ると、予定利率の高い契約は
すでに個人保険分野の半分以下に減っています
(日本生命で6割、朝日生命で7割です)。

大幅削減の可能性が高い個人年金のウエートも
他社に比べて小さいということもあります
(日本生命24%、朝日生命31%、大和生命12%)。

さらに、保険契約とともに優先的更生債権である労働債権は
24.8%の削減です(千代田生命では25.27%)。

もちろん、だからといって契約者負担が決して小さいわけではなく、
契約者保護のためには、やはり破綻を避けることが重要だと
あらためて確認できました。

※写真は昨年行った奈良公園です。

 

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大和生命の更生計画案

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東京地裁への提出は23日ですが
大和生命の更生計画案が固まったようです。

報道によると、債務超過額が当初(2008/9末)の
140億円から643億円に拡大しました。
これを埋めるために、責任準備金の削減で333億円、
保護機構の資金援助が278億円、残りは営業権32億円
として計上し、今後の利益で償却していきます。

2008/9末の責任準備金は2600億円なので、
1割カットだと260億円にしかならないはず。
削減額が333億円なのは、補償される責任準備金が
おそらく「全期チルメル式」だからです。

営業権32億円はジブラルタ生命が負担するのではなく、
予定利率の引き下げなどで収益性を改善し、
そこから償却することになります。
つまり、32億円は既契約者の負担となります。

ただ、大和生命は費差損構造だったようなので、
逆ざや負担がなくなったとしても、コストを相当下げないと
収益性は改善しません。
契約者には買い手がついてよかったと思います。

 

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日米欧保険会社の決算

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日米欧の保険会社の決算が概ね出揃いました(日本は4-12月期)。
米国ではハートフォードとプルデンシャルが2四半期連続で赤字、
メットライフやアフラックは黒字ですが、多額の含み損を抱えています。
欧州勢も、アクサは下半期が赤字。アリアンツやINGは通期で赤字でした。

10年前の日本の「生保危機」は国内生保の一人負けだったため、
外資系や損保系には追い風でした。
今回は欧米勢の厳しさが目立つので、外資系には逆風となっています。

経営悪化の中身は日本勢と欧米勢ではかなり違うようです。
日本勢では保有株式の価格が下落した影響が大きいのに対し、
欧米勢では不動産関連投融資の悪化や企業等の信用スプレッド拡大、
あるいは変額年金事業(主に米国)の赤字が業績を圧迫しています。

確かに、高格付け債券の価格がここまで下がってしまうとは、
おそらく誰も想像できなかったでしょう。
他方、日本勢の株式保有リスクはある意味わかっていた話なので、
非常に残念です。

あとはAIGの決算ですね。
政府の対応を含め、来週の発表(たぶん)に注目です。

 

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有価証券評価損

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12月期決算発表を前に、富士火災、損保ジャパン、あいおい、日本興亜と、
上場損保各社の有価証券評価損の発表が続いています。
金額の大きさから、市況悪化の影響の大きさが伺えます。

ただ、気をつけなければいけないのは、評価損の大きさ、イコール
市況悪化が経営に与えた影響ではないということです。
それなりに連動しますが、かなり異なることもあります。

例えば、上場損保では、保有する有価証券の時価が
取得価額を3割以上下回った場合に評価損を計上しています。
このため、評価損が大きくなる一方、含み損として残る部分は限られます。

他方、多くの会社では原則適用、つまり5割以上で評価損を計上し、
3~5割の部分は会社の判断で決めるという方法です。
上場損保がこの方式だったとしたら、評価損がここまで膨らむことはなく、
損益計算書への影響はもっと軽かったはずです。
その一方で、有価証券含み損が膨らむことになります。

いずれの方式を採用したとしても、市況悪化が会社価値に与える影響は
原則同じです(税効果はやや微妙ですが)。

したがって、有価証券評価損の大きさだけではなく、
純資産や含み損益、ソルベンシー・マージンなどがどうなったのかを
合わせて判断する必要があるというわけです。

※写真は東京国際フォーラムです

 

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損保業界の再編について

前回、損保再編についてややネガティブなコメントを紹介しました
(あくまで一般論としてですが)。

アナリストの観点から日本の大手・中堅損保の経営の特徴を3つ挙げると、
次のようになります。

 ①市場の寡占化が進んでいる。
 ②規模の小さい専業代理店をたくさん抱えている。
 ③企業代理店と政策保有株式の存在。

いずれも規制時代、すなわち料率競争がなく、規模イコール利益という時代に
培われてきた特徴です。株価も基本的に右肩上がりでした。

ところが規制緩和が進んだ現在、少なくとも②と③はマイナス面のほうが
目立つようになってきました。
経営を安定させるには、代理店の数よりも生産性や効率性が重要になります。
企業向けの料率が下がる一方、株価下落がしばしば経営体力を圧迫しています。

つまり、今の時代に合ったビジネスモデル構築が求められているわけですが、
前回の業界再編はむしろビジネスモデルの見直しを遅らせたと見ています。
合併を成功させるため、規模が小さく自立していない代理店が温存されました。
政策保有株式の削減もあまり進みませんでした。

その結果、一時的なコスト削減効果は見られたものの、
自動車保険市場の低迷が保険引受収支を圧迫することになり、
足元の株価下落が企業価値の低下につながっています。

業界再々編を全面的に否定するつもりはないですが、
過去の再編を総括すると、再編のメリットよりもデメリットのほうが
大きいように感じてしまいます。

もし再々編が現実のものとなるのであれば、
経営者は全てのステークホルダーに対し、デメリットを上回る
メリットがあることを説明する必要があるのでしょうね。

 

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増資の理由

25日の日経に小さな記事で「I生命が増資」という記事があり、
「法人向け保険や変額年金保険の販売が拡大していることから、
 財務基盤を強化する」とのこと。ちょっと首をかしげました。

 

というのも、今の状況で増資が必要なほど法人向け保険が
爆発的に売れている会社があるとは思えませんし、
変額年金も10月以降、銀行の消極姿勢が目立ちます。
しかも、I社は変額年金の最低保証リスクを再保険で移転しており、
日本法人にはこの影響もないはずです。

そこで中間決算を見ると、外国公社債が含み損となっており、
ソルベンシー・マージン比率や実質資産負債差額を
押し下げていることがわかりました。
外国公社債の平均残存期間が長そうなので、ALM目的なのでしょう。
おそらく10月以降の金融市場混乱で時価がさらに下がり、
今回の対応につながったのではないかと想像できます。

ちなみに会社の発表文は、次の通りです。

「今回の資金調達は、業容拡大に伴う今後の資金ニーズに対応するためにも、
 財務基盤を強化することにより経営健全性の維持向上を図ることを
 主たる目的としています」

難しい日本語ですが、よく見ると「業容拡大のため」とは書いてありませんでした
(業容拡大は今後の話なのですね)。

 

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