02. 保険会社の経営分析

生損保決算から(その2)

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今回は生保の話を。
国内大手生保9社のソルベンシー・マージン比率(SMR)は
朝日生命が小幅低下となったほか、8社で上昇しています。

株価が約11000円から9000円台まで15%も下がったのに、
SMRはむしろ改善しているなんて、不思議に思いませんか?
そう思ったかたは、アナリストに向いているかも^^

SMRは分子のソルベンシー・マージン総額(支払余力)と
分母のリスク合計額で計算します。
2010年9月末は、分子が9社単純合計で▲800億円、
分母が同▲1700億円と、分母の減少が大きかったため、
各社のSMRが概ね上昇しました。

分母の減少は、「株価下落で資産運用リスクが減った」で
ほぼ説明できます。
いくつかの会社では株式の売却も行っているようです。

他方、分子では、株価下落の影響が▲1.5兆円もありました。
これをカバーしたのが内部留保の積み上げ(5000億円強)と、
公社債含み益の拡大(約6600億円)、
外国証券含み益の拡大(約3100億円)でした。

それでは、この上半期に国内主要生保の健全性は、
SMRが示すように高まったのでしょうか。

注目すべきは、公社債含み益の拡大が
支払余力を下支えしている点です(その他有価証券区分のみ)。

この上半期には長期金利がかなり下がりました。
9月末の10年国債利回りは0.93%です(期首は1.39%)。
例外を除き、主要生保が持つ公社債の残存期間は長いため、
金利低下が公社債価格の上昇につながったというわけです。

しかし、これはあくまで現行会計ベースの話。
会社価値という観点からすると、超長期の負債を抱える生保には、
長期金利の低下は大きなダメージとなります。

これは、第一生命やT&DのEEV(特に保有契約価値)を見れば、
金利低下の影響がいかに大きいかわかります。

報道では「増収・増益」「逆ざやが改善」などとありましたが、
株安と金利低下、ついでに円高のトリプルパンチですから、
当の生保はそんな状況ではないと思っていることでしょう。

 

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

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生損保決算から

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主要生損保の4-9月期決算が出そろいました。

格付会社のアナリストをしていた昨年までは、
決算発表の集中日となると、データ収集&分析をしつつ、
緊急対応(格付け見直し)やメディア対応に追われていました。

今は仕事が変わり、落ち着いて分析できると思いきや、
なかなかそうもいきません。
このところ時間管理がますます重要になってきました。

それはそうと、少しはアナリストらしい話をしましょう。

大手損保の4-9月期決算で私が注目していたのは
自動車保険の損害率の動向でした。

発表されたデータは次の通りです(損調費を含むE/Iベース)。

           2009/4-9   2010/4-9
 東京海上日動   67.1% →  69.5%(+2.4ポイント)
 三井住友海上   69.3% →  74.5%(+5.2ポイント)
 あいおい損保    64.8% →  66.7%(+1.9ポイント)
 ニッセイ同和    74.0% →  84.9%(+10.9ポイント)
 損保ジャパン    68.4% →  70.8%(+2.4ポイント)
 日本興亜損保   63.8% →  71.1%(+7.3ポイント)

E/Iベースは既経過保険料と発生保険金で計算します。
正味損害率(正味収入保険料と正味支払保険金等で計算)と違い、
収入と支払の期間が対応しているというメリットがあります。

7-9月に交通量が増えた影響も大きいようですし、
会社によっては特殊要因があるかもしれません。
とはいえ、ここまで高くなると、多少料率を引き上げたくらいでは
焼け石に水という感じもします。

さりとて料率を急激に引き上げるのは現実には難しいでしょうし、
引受面や支払面で大手が思い切った対策をとるわけにもいかず、
残るはコスト面での対応となるのでしょうか?

※いつもの通り、個人的なコメントということでお願いします。

 

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生損保の4-6月期決算

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予告通り(?)今回は生損保の4-6月期決算について。
もちろん個人的なコメントということでお願いします。

新聞(日経など)をみると、生保は保険料等収入と基礎利益、
損保は正味収入保険料と当期純利益が示されています。

決算発表のたびに保険会社担当の記者さんが
どの指標を掲載すべきか悩んでいるのは承知していますし、
おそらく今回は私でも同じような指標を選んだでしょう
(「売上高」と「利益」ですから無難ですよね)。

ただ、冷静に考えてみると、生保の保険料等収入は
一時払商品が売れたかどうかで大きく振れてしまい、
何を示しているのかわかりません
(一部の生保では再保険の影響も大きいようです)

基礎利益や当期純利益はさらに難しいです。
季節要因が大きいだけではありません。
例えば変額年金では株安の影響が損益に直接反映されますが、
保有株式の評価損は一定以上の株安でないと計上されません。
必ずしも「赤字だから他社よりも厳しい」ではありません。

また、販売好調な会社ほど初期コストが利益を圧迫します。
もちろん年度決算でも同じことですが、四半期決算では
いっそう目立ってしまいます。

だからといって、四半期決算が役立たずなわけではありません。
注目すべきは貸借対照表(資産構成や純資産等)の変化です。

この4-6月期で言えば、債券価格の上昇に打ち消されているとはいえ、
やはり株安の影響はそこそこ大きかったようです。
加えて、4-6月期の大手生保の株式運用が、
会社によってかなり違っていたこともわかります
(第一と明治安田は売却、住友はもともと他社より少ない)。

足元では株安と円高が一段と進んでいるため、
引き続き四半期ごとのバランスシートの動向から目が離せません。

※同じホテルに泊まるのであれば、ビルしか見えない
 左の部屋よりも右の部屋に泊まりたいですよね。

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

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長期金利の低下

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サッカー日本代表の活躍に気を取られているうちに
金融市場が大変なことになっています。

とりわけ10年国債利回りは1.08%と7年ぶりの低水準です。
20年債も1.8%、30年債も1.9%割れという水準に下がっています。

資産・負債のフル・マッチングをしていない生保にとって、
長期金利の低下は深刻です。
単年度の決算では運用利回りの低下としか表れませんが、
会社の価値には大きなダメージとなります。

会社価値の参考としてEV(エンベディッド・バリュー)を
開示している第一生命や大同生命の金利感応度を見ると、
リスクフリーレートが50bp下がると、第一生命のEVは2.8→2.4兆円、
大同生命は0.8→0.7兆円と、いずれも大きく減ることがわかります
(2010/3末時点の分析結果による)。
両社とも株式・不動産価値の10%下落よりも、影響が大きいのです。

どうしてもEVを開示している会社が目立ってしまいがちですが、
開示していない国内系生保も状況は概ね似たようなものと思われます。
日本の生保にとって厳しい経営環境です。

※毎度のことながら、コメントは個人的なものです
 (そのように書かない時も含めて)。ご理解下さい。

※写真は箱根です。アジサイを見に行ったところ、
 今年は天候不順でいまいちでした。
 代わりに(?)温泉に入ってきました^^

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

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主要生保の決算発表から

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先週末に主要生保の決算が出そろいました。
銀行窓販をはじめ、貯蓄性商品へのニーズの強さが
改めて浮き彫りになったように思います。

新聞に出ているようなことをコメントしてもつまらないので、
四半期ごとの契約動向について何点かご紹介しましょう。

大手4社の新契約の推移を見ると、傾向の違いがわかります。

日本=転換純減が続くなかで、下半期は純新規Sが好調。
    また、今年に入り第三分野が増加している。
    個人年金は引き続き慎重姿勢のようにうかがえる。

第一=転換純減が比較的少なく、1件当りSを維持。
    他方、第三分野の保険料は前年割れが続いている。
    第一フロンティアの年金販売は今年に入り抑制した模様。

住友=昨年秋以降、銀行窓販の中心が個人年金から個人保険に
    シフトしたことがデータにも表れている。
    第三分野が堅調に推移。

MY =個人保険(貯蓄性商品)、個人年金とも高水準の販売が続く。
    転換純減が続くなかで、第三分野の保険料が減り続けているのが
    やや気になるところ。

ちょっと意外に思えるかもしれないのがアフラックです。
個人保険の新契約ANPは前年を大きく上回って推移しているのですが、
第三分野は新商品を投入した10-12月期を除き、前年割れでした。
米国の決算データによると、がん保険の落ち込みが効いているようです。

アリコの新契約ANPの推移にも注目です。
個人保険では顧客情報流出問題がクローズアップされたこともあり、
下半期は上半期よりも減っています。
それでも、AIGショックに見舞われた前年よりは高い水準です。
他方、個人年金の回復ペースは遅く、以前の1/4程度にとどまっています。

保険会社の四半期開示はB/S関連を除き、活用が難しいですが、
各社の販売戦略の手掛かりにはなりそうです。
もちろん、いつものように個人的なコメントということでご理解願います。

※娘の宿題のため、ごはんミュージアムに行きました。
 お米やごはんに関するパンフレットやゲーム、ショップがあり、
 意外に楽しめますよ。
 

 

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3メガ損保の決算発表

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先週20日に大手損保の決算が発表されました。

本業に近づいてしまうのでコメントしにくいテーマですが、
「保険アナリスト」のブログで全く触れないというのも
それはそれでどうかと思うので、ちょっとだけコメントします。
もちろん、仕事とは一切関係ありません。

さて、3グループに集約されてから初の決算発表ということで、
新聞の扱いはかなり大きかったように感じました。
全紙を確認したわけではありませんが、
朝日や日経は図表(複数)・写真入りでした。

今回の決算がよかったのか、悪かったのかと聞かれれば、
純資産や最終利益が改善していることもあり、
前年度に比べればよかったということになるのでしょう。

しかし、特殊要因が残る自賠責を除くベースで見た
単体の正味収入保険料は、主要8社のうち7社で減収です
(増収はニッセイ同和のみ)。
同じベースで収支残が改善したといえそうなのは、
事業費率を下げることができた東京海上と富士火災くらい。
自動車保険の収支残となると、なんと全社がマイナスでした。

このようにみると、海外事業や運用環境改善などを除けば、
実質的には相当厳しい決算だったのではないでしょうか。

※写真は近所のバス通りなのですが、最近になって、
 川が流れていた名残(欄干だけ残った)と知りました。
 地元に長く住んでいても知らないことはたくさんありますね。

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

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個人向け1000兆円割れ

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生命保険協会が発表した2月の事業概況によると、
個人向け保険(個人保険、個人年金保険)の保有契約高が
約20年ぶりに1000円兆円の大台を割り込んだそうです。

個人向け保険の保有契約高のピークは1997年度で
1500兆円以上ありました。今はピーク時の約6割の水準です。

そんなに減ったの!という感じですが、
大手生保の顧客数がこんなに減ったのかといえば
必ずしもそうではありません。

例えば、日本生命の個人保険保有契約高は
この5年間で23%も減りました。
しかし、契約者数は12%減にとどまっています。
保有契約の減少が比較的少なかった第一生命(16%減)では、
契約者数は6%減です。

何が変わったのかというと、平均保険金が激減しています。
日本生命の保有契約の平均保険金1600万円に対し、
新契約の平均保険金は1300万円(いずれも2008年度)、
第一は保有ベースで1400万円に対し、新規は1200万円です。
住友や明治安田は新契約の平均保険金が1000万円を下回っています。
死亡保障がかなり小口化している様子が伺えますね。

※コメントはあくまで個人の見解で、仕事とは一切関係ありません。

 

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生保の業績報告

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生保の第3四半期(10-12月期)業績報告の発表がありました。

日本の四半期開示は4-12月累計で発表されます。
年度決算の姿を予想しやすいというメリットがある半面、
足元の変化をとらえにくいというデメリットもあるようです。

そこで主要生保(大手4社とかんぽ、ソニー、アリコ、アフラック)の
契約動向を四半期ごとに並べてみました。

四半期ごとに見ると、例えば住友が個人年金の販売を抑えたことが
確認できます、第一(フロンティア生命)は高水準を維持しています。
同じ大手でも、第三分野の年換算保険料の推移などから、
住友(第三分野に積極的)と他の3社で商品・販売戦略の違いが伺えます。

アリコジャパンにも注目です。1年前のAIGショック以降、
個人年金販売は引き続き低水準です。
ただ、個人保険分野では、第三分野の好調さに支えられ、
何とか踏ん張っているようです。

かんぽ生命の動向も興味深いです。
この四半期は個人保険の回復基調にややブレーキがかかる一方、
個人年金の販売を伸ばし続けています。
あまりいい傾向ではないかもしれません。

※きょう(14日)はバレンタインデーですね。
 写真の手作りチョコは果たしていずこへ?

 

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第一生命がEEVを公表

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第一生命グループは14日、2009年9月末のEEV
(ヨーロピアン・エンベディッド・バリュー)を開示しました。
上半期末のEVを開示したのはT&D保険グループに続き2例目です。

ニュースリリースへ

第一生命は2010年4月に株式会社化&上場を控えています。
EVは生命保険会社の株主価値を試算したものなので、
投資家にとって非常に重要な指標と位置付けられています。

2009年3月末は株価が低く、市場のボラティリティも高まっていたため、
市場が落ち着いた9月末のEVは確かに参考になると思います。

3月末に比べて修正純資産が5085円増加した(1.8兆円)のは
株価上昇による影響が大きいです。
保有契約価値が2387億円増えた(0.7兆円)のは、
主にリスクフリーレートの上昇によるとのことです
(15年以上の超長期ゾーンが上昇しました)。

ただ、新契約価値(上半期に獲得した契約の価値)は
前年度の4割にとどまっています。

新契約価値についてもリスクフリーレートの上昇が
プラスに効いているはずなのですが、
第一フロンティア生命の変額年金が4787億円も売れたので、
最低保証オプションの負担が足を引っ張ってしまったようです。
同社が下半期に販売を抑制する方向で検討するというのも
理解できる話ですね。

※写真は日本橋三越の巨大ツリーです。

 

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変額年金の資産残高

今さらではありますが、生保の上半期報告のデータをみると、
変額年金の資産残高が過去最高となったことを発見しました。
主要12社の残高合計は16.7兆円で、この半年で18%増えています。

もちろん、時価が10%近く増えた影響もあるのですが、
住友、第一フロンティア、T&Dフィナンシャルなどの売り上げが
寄与しているようです。
銀行の手数料ニーズもあるとはいえ、貯蓄性商品へのニーズは
依然として根強いと言えそうです。

別件ですが、セミナーのご案内です。
クリスマスイブに金融財務研究会主催のセミナーで
スピーチをする予定です。
有料セミナーですが、ご関心のあるかたはどうぞ。
自分で言うのもなんですが、今回は面白いと思いますよ。

金融財務研究会のHPへ

※写真は横浜港の風力発電(風車)です。
 気がついたら風車がありました^^

 

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