金融市場の動揺

このブログのインフラ面を支えていただいているウィズハートの木代さんが、保険代理店業務のほうで「ウクライナ支援付き保険」の販売を始めました。まずは妊婦さん向け医療保険(アイアル少短、エクセルエイド少短)の代理店手数料の50%をウクライナに寄付するというもので、今後さらに他の保険にも広げていくのだそうです。こうした取り組みもあるのですね。

さて、今週のInswatch Vol.1128(2022.3.14)に寄稿した記事をご紹介します。
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期末の市場価格が決算を左右

ウクライナ危機で金融市場が動揺しています。株式リスクや信用リスクの大きい保険会社、あるいは金融市場に連動する保険契約を多く抱える保険会社では、3月末の市場価格によって2022年3月期決算の内容が大きく変わってきます。
ちなみに株式保有と決算の関係ですが、2019年7月に公表された会計基準では、それまであった「期末の貸借対照表価額に期末前1か月の市場価格の平均に基づいて算定された価額を用いることができる」という規定がなくなりました。基準を適用した会社では、3月末の株価が会計上の純資産やソルベンシー・マージン比率に直接反映されます(減損の判断基準としては引き続き平均価額を使えるようです)。

どの程度の影響なのか

昨年6月に金融庁が公表した「経済価値ベースのソルベンシー規制等に関する検討状況について」には、新規制導入のためのフィールドテストの結果として、2020年3月末時点における生命保険会社および損害保険会社のESR(経済価値ベースのソルベンシー比率、単体ベースの全社単純合算)とともに、所要資本(リスク量)の構成比が掲載されていました。
所要資本に占める市場リスクと信用リスクの割合は次の通りです。市場リスクによる影響、すなわち、市場価格の変動が保険会社の経営に与える影響は非常に大きいことが改めて確認できます。

 市場リスク  生保:52% 損保:59%
  うち株式  生保:28% 損保:58%
  うち金利  生保:31% 損保: 3%
  うち為替  生保:25% 損保:21%
 信用リスク  生保: 9% 損保: 4%

約2年前の数値ではありますが、その後の資産構成の変化などを踏まえても、傾向として大きく変わっていないと考えられます。ただし、ここでの株式リスクには子会社・関連会社株も含まれているので、特に損保では過大評価となっている可能性がある点にご留意下さい。

上場会社と非上場会社の情報格差は大きい

保険会社のステークホルダーが知りたいのは全社の合算値ではなく、個々の会社の経営リスクでしょう。市場リスクのうち株式リスクであれば、昨年12月末時点の株式保有残高はわかるので、株価下落の影響をある程度つかむことができます。ところが、株式以外の市場リスクや信用リスクに関する情報は非常に少ないのです。金利も為替もクレジット投資も外部からわかることは限られています。
その点、上場会社(持株会社グループなど)は投資家・アナリスト向けに任意の情報開示を行っていて、誰でも各社のサイトからアクセス可能です。例えば第一生命の場合、昨年12月末時点におけるオープン外債(為替リスクのある外債)は一般勘定資産の4.4%を占め、保有する外債の約8割がヘッジ付きであり、外債のうちBBB格のものは外債全体の約10%、といった情報を得ることができます。

各社の経営姿勢が問われる

保険業界には「上場会社はディスクロージャーが進んでいて当然」という感覚があるかもしれません。しかし、保険会社が提供する商品・サービスは自らの経営内容が直接的に影響するという点を忘れてはなりません。もし保険会社の経営が傾けば、将来の 保障(補償)が危うくなりますし、有配当契約の場合には、業績が順調であれば契約者は配当還元を期待できます。1年契約が主流の損害保険であっても、経営内容は引受方針や契約更改時の保険料率に影響を与えます。
ですから、保険会社は法令や業界基準として決められた項目を淡々と開示すればいいのではなく、契約者に有益と考えられる情報を積極的に出していく経営姿勢が求められています。いくらディスクロージャー誌のページ数が多くても、肝心のときに知りたい情報を得られないのであれば、保険業界は情報開示に後ろ向きと言われても仕方がありません。
顧客本位の経営とは保険販売や保険金・給付金の支払いに関することだけではないと思うのですが、いかがでしょうか。
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※写真は特急ゆふいんの森。念願の展望車です。

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

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