01. 保険経営全般

不払い問題の収束

 

金融庁は16日、生保10社への不払い問題に関する
業務改善命令を解除しました。
金融庁のHPへ

2005年からの保険金不払い・支払漏れ問題という
「事件」はこれで一応の収束となりますが、
事件前と後で保険業界はどう変わったのでしょうか。

日本の保険業界が今後どのような経営を行い、
どのような商品・サービスを提供していくのか、
引き続き注目したいと思います。

ところで報道によると、このところ米国の生保業界でも
保険金支払いに関する問題が持ち上がっているようです。

米国では従来、保険会社は契約者からの死亡通知を受け、
死亡保険金を支払ってきました。通知がない場合には、
被保険者が100歳+αになるまで保険会社が管理し、
その後は未請求の財産として州当局に移すのだそうです。

ただ、米国には公的な社会保障データベースがあります。
保険会社はこれを年金保険の支払い管理のために活用し、
被保険者の死亡がわかりしだい、年金の支払いを止めているとか。

このような死亡保険と年金保険の取り扱いの違いが
最近になって問題視されました。

すなわち、年金保険では社会保障データベースを確認して
年金の支払いを速やかに止めているのだから、
死亡保険でもデータベースを確認し、被保険者の死亡がわかれば
保険金を速やかに支払うべき、という話なのでしょう。

詳細はよくわかりませんが、ニュースを見る限りでは、
そのように言われても仕方がないように思います。

※恒例の町内会もちつき大会に行ってきました。

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

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自然災害の保険カバー率

 

ミュンヘン再保険によると、東日本大震災による
経済損失は2100億ドル(約16兆円)に達するのに対し、
保険による支払額は約300億ドル、カバー率は14%だそうです
(17日の日経など)。

確かに、米国ハリケーン・カトリーナ(2005年)の約5割、
同じく米国のノースリッジ地震(1994年)の35%、
今年発生したニュージーランド地震の約5割に比べると、
日本の保険カバー率は低いと言えそうです
(ちなみに阪神大震災のカバー率は約3%です)。

もっとも、なぜか再保険会社からの言及がないのですが、
同じ自然災害でも台風による風水害のカバー率は
日本がそれほど低いわけではなさそうです。

例えば東京海上研究所の資料によると、
1991年台風19号のカバー率は5割以上、
2004年台風18号でも4割以上となっています。
東京海上研究所HPへ

かつては火災しか担保しなかった火災保険が
段階的に風水害を担保するようになり、
今や実質的に「風水害保険」となっているためでしょう。

つまり、保険カバー率が低いのは地震災害なのですね。

地震リスクのうち家計向け地震保険については
阪神大震災後に徐々に普及が進み、現在では、
火災保険加入者の約半数が地震保険に入っています。

しかし、統計がないので詳細はわかりませんが、
家計向け地震保険の金額に制限があることに加えて、
おそらく企業向けの地震保険があまり普及していないため、
地震災害の保険カバー率が海外に比べて低水準なのでしょう。

この背景には企業のリスクマネジメント意識が低かったことと、
損害保険会社が地震リスクの引き受けに慎重だったことが
あると思います。

地震リスクは低頻度・高損害かつ集積リスクなので、
保険会社がそう簡単に引き受けを増やせないのは理解できます。

ただ、保険会社の存在意義を考えると、今のリスクプロファイル
(大手損保の最大リスクは国内株式ですよね)でいいとは
とても考えられないのですが、いかがでしょうか。

 

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台北の旅(その2)

 

プライベートの旅でしたが、せっかくですので
保険アナリストらしい話もしましょう。

2008年の金融危機以降、台湾では外資系生保の
撤退が相次いでいます。

発表順にING、英プルデンシャル、エイゴンと続き、
今年に入ってからもAIG(南山)、メットライフが
撤退を発表しています。
AIGは2009年の売却計画が台湾当局から却下され、
売却先を変えて交渉中です。

AIGやINGのように、グループの経営危機により
撤退を余儀なくされたところもありますが、
メットライフまでが撤退するところを見ると、
外資系にとって難しいマーケットなのでしょう。

日本に比べ、危険差益を上げにくいのかもしれません。
2009年に台湾を訪れた際、台湾の大手生保から
「日本ではなぜ高水準の危険差益を得られるのか」
と驚かれたのを覚えています。

台湾の大手生保でも、過去の高利率契約が
低金利のなかで経営の重荷となっています。

もし経済価値ベースで負債を評価すると、
危険差益が薄いためか、多額の責任準備金を
積み増す必要が生じるとの懸念が業界大手から
出ている模様です。

 

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こんな公表がありました

 

今回はいろいろ気になる公表等があったので、そのご紹介です。
それぞれコメントしたいところですが、諸般の事情によりご容赦下さい。

1・経済価値ベースのソルベンシー基準についての検討体制強化について
  (日本アクチュアリー会)
 日本アクチュアリー会のHPへ

HPによると、より専門性の高い課題を集中的に検討するために、
4つの特別課題WGを新設しています。
また、金融庁との連携による定期的な検討会である
「ソルベンシー・ジョイント・スタディ・グループ」についての記述もあります。

2.「金融検査結果事例集」の公表等について(金融庁)
 金融庁のHPへ

毎年このような事例集が公表されているようです。
本編のP113からが保険会社です。

3.委託調査に係る報告書の公表について(金融庁)
 金融庁のHPへ

保険関連では「主要国の保険制度に関する調査」があります
(すみません、まだ目を通していません)。

4.東日本大震災に係る地震保険金が総額1兆円超に
  (日本損害保険協会)
 損保協会のHPへ

6/21についに1兆円に達しました。
阪神大震災では783億円であり、その後の普及率上昇を踏まえても、
あらためて今回の震災による影響がいかに大きかったのかがわかります。

5.なぜ今「ぶつからない」クルマが増えているのか(日経)
 日経新聞のHPへ

ネットで見つけた気になる特集記事です。
損害率上昇に悩む損保にとって朗報なのでしょうか。
それとも保険が要らなくなるという話なのでしょうか。

写真の列車(フランスで乗りました)も実は気になる存在でして、
パンタグラフがあるのに架線がないところを走るので変だなあと思い、
あとで調べてみたら、2007年に登場した「ハイブリッド列車」でした。
電化区間は電車、非電化区間はディーゼルカーとして走るのだそうです。

 

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特別勘定の運用利回り

 

大手生保6社の団体年金特別勘定の運用利回りが
2010年度は▲2.64%と、前年度(+18.59%)から
大幅に悪化したそうです(10日の日経)。

国内株式の下落(インデックスでは▲9%)と円高が
主な要因と思われます。

過去5年分の運用利回りは、次の通りです。

 2006年度 + 5.18%
 2007年度 ▲14.81%
 2008年度 ▲22.41%
 2009年度 +18.59%
 2010年度 ▲ 2.64%

参考までに、R&I年金ユニバース・パフォーマンス
(厚生年金基金、企業年金基金等の時間加重収益率)
の推移も見てみましょう。

 2006年度 + 4.55%
 2007年度 ▲ 9.74%
 2008年度 ▲17.02%
 2009年度 +14.18%
 2010年度 ▲ 0.60%

生保特別勘定ほどではないにせよ、こちらも乱高下の激しい
運用成果です。

この記事の見出しには、

 「株価下落、生保離れ加速も」

とありますが、さすがにこれは証拠不十分でしょう。
運用の巧拙を判断するのは意外に?難しいものです。

生保各社はグループ内に投資顧問会社を持っているので、
そこと利回りを比べてみたら面白かったかもしれませんね。

※こいのぼり2題。左は松崎の花畑、右は三鷹台です。

 

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スカンディアの決断

週刊東洋経済4月2日号の日本国債特集のなかで、
次のような記述がありました。

「スウェーデンでは94年、同国最大手の生保スカンディアの社長が、
 『政治家が真剣に財政赤字削減に着手すると確信できないかぎり、
 スウェーデン国債を買わない』と公言。これを契機に国債利回りが急騰、
 通貨クローナが急落した。危機感を抱いた政府は歳出削減や増税など
 の財政再建計画を拡充し、やっと通貨安が収まったという経緯がある。」

なかなかすごい話ですね。

スカンディアのCEOが1994年7月に国債購入の停止を決めたことは
学術誌にも掲載されています。
 The Geneva Papers on Risk and InsuranceのPDFファイル

もう少し掘り下げてみると、スカンディアはこの時期、
ビジネスモデルの大変革に取り組んでいたことがわかります。

伝統的な生損保を主体とした総合保険グループだった
スカンディアは1990年代に入り、ユニットリンク保険、
つまり変額商品に経営の軸足を移していきます。
損保事業や再保険事業もグループから切り離しました。

しかも、自前チャネルではなく外部チャネルを活用し、
資産運用も外部の専門家に委ね、自らは商品・システム開発と
販売支援に特化するという革新的なビジネスモデルでした。

この大変革の結果、スカンディアは変額商品で世界有数の
保険グループに成長しました。

ですから、おそらく経営が会社価値の向上を真剣に考えた結果が
ビジネスモデルの変革であり、国債購入の停止だったのではないかと
思えてなりません。

ただし、この話には続きがあります。

2000年代初頭のITバブル崩壊の影響を強く受け、
米国スカンディアの売却など、スカンディアはグループ展開の
縮小を余儀なくされます(日本法人も売却しましたね)。
さらに経営陣のボーナスや住宅をめぐる問題なども発生し、
ついに2006年にはオールドミューチュアルの傘下に入りました。

これをもって、「ビジネスモデルを見直すべきではなかった」と
考えるべきかどうか。なかなか興味深いテーマですね。

※井の頭公園の「自粛」ポスターです。
 「天罰」と口走った人が「被災者へ配慮」だなんて。

 

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自然災害リスク分析会社

 

「米リスク管理会社AIRワールドワイドの13日時点の試算によると、
 11日に起きた東北地方太平洋沖地震で150億~350億ドル
 (約1兆2200億~2兆8600億円)相当の損害保険対象資産に
 被害が出たもようだ。(14日 WSJ日本版)」

「米災害リスク評価会社EQECAT(カリフォルニア州)は16日、
 保険会社や再保険会社が東日本大震災に関連して120億~
 250億ドル(約9600億~2兆円)の損失を受けるとの見通しを
 明らかにした。(18日 SankeiBiz)」

「米リスク分析モデル会社RMSは21日、東日本大震災による
 日本の経済的損失について、暫定試算値で最大3000億ドル
 (総生産の約5%相当)になると推定した。
 損失額は2000億─3000億ドルの間となり、保険でカバーされる
 損失額の評価は時期尚早としながらも、保険でカバーされるのは
 『わずかな比率』にとどまると予想している。(21日 朝日新聞)」

東日本大震災の損害額に関する記事にしばしば登場する
「AIR」「EQECAT」「RMS」は、一般にはなじみのない名前ですが、
損保(特に再保険)では重要な役割を果たしています。

というのも、この3社の自然災害リスク評価モデルが
ある種の「共通言語」のような存在になっているからです。

多くの保険会社や再保険会社では再保険取引等の際に、
RMSなどのモデルを活用し、参考にしているようです。

ただし、記事にある試算値は、一定の前提を置いたうえで
モデルによりざくっと計算したものだと思いますので、
あくまでも参考程度に見ておくべきなのでしょうね。

※いつもの通り、個人的なコメントということでお願いします。

※節電のため、東横線は全て各駅停車となっています。
 私は特急・急行の停まらない駅に住んでいるので、
 むしろありがたいかも^^

 

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保険に入るということは

 

前回はリース契約について書きましたが、
保険契約でも同じようなことが言えそうです。

生命保険など長期の保険契約を結ぶということは、
長期間の保障と引き換えに、保険会社に何十年間も
お金(保険料)を支払い続ける契約を結ぶということです。

例えば、保険料が月2万円で終身払いの保険に入ると、
仮に50年間だとして、総支払額は合計1200万円にもなります。
金利で割り引いて考えたほうがいいでしょうから、
実質的には700万円程度といったところでしょうか。
いずれにせよ、かなり大きな金額です。

保障を得た代償として、現在の資産と将来の収入のうち
700万円もの金額が固定されてしまうわけですから、
保険料の総支払額と受け取る保険金の損得だけではなく、
保険料の分だけ家計の自由度が下がっていることも
理解しておくべきでしょう。

ただ、保険契約が先のリース契約と決定的に違うのは、
契約者が一方的に解約できる点です。

問題となったリース契約では、自販機を手放すだけではなく、
多額の違約金を支払わなければリース債務が消えないようです。
しかし、保険契約を解約しても保障がなくなるだけで、
多額の違約金支払いなどはありません
(契約初期には一定の解約控除が発生します)。

半面、保険会社からすると、いつ解約されるかわからない
契約をたくさん抱えているということになりますね。
契約者が常に合理的に行動するとは限らないため、
実のところ、きちんと管理するのは結構大変な話です。

※左は姨捨の棚田、右は稲荷山の町並みです。

 

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老後の不安

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もうすぐ70歳になる私の母(元気です)が突然、
「医療保険に入ろうかしら」と言い出したのでびっくりしました。

私 「健康保険に入っているのに?」

母 「病気をすると何かとお金がかかるでしょ。将来不安よねぇ。
   年金生活だから苦しいと思うわ」

私 「高齢者の自己負担は少ないし、貯金もあるでしょ。
   病気になっても収入が途絶えることはないんだし」

母 「でも、貯金は使いたくないわ。いろいろ宣伝してるじゃない」

私 「民間の保険は単に病気になっただけではお金はもらえないよ。
   それに毎月保険料を払うと、それこそ家計の負担になるけど。
   保険料を払うつもりで貯金するのがいいんじゃない?」

こんな会話をしたところ、日曜日(14日)の日経15面に
「退職後の医療保険、加入すべき?」というコラムが載っていて、
FPの藤川太さんが答えていました。

結論は私とほぼ同じとはいえ、さすがプロのアドバイスです。

・老後の医療費は公的な「高額療養費」の活用と貯蓄で
 十分賄えるので、民間医療保険への加入は不要。

・保険料相当額は定期預金など別口座で管理。
 医療だけでなく、様々な事態に備えるお金として生かせる。

・それでも不安が残るなら、リスクの対象をがんに絞ったらどうか。

藤川さんは、こうも書いています。

「漠然とした不安に駆られ、十分な金融資産を持っている人ほど、
 保険に加入する傾向が強くあります」

合理的に考えれば、現在の医療保険ではどうかなと思うのですが、
一般に「老後は経済的に不安」「貯金は取り崩したくない」
という強い意識があるなかで、保険への期待は大きいようです。

願わくは不安に乗じたビジネス(今がそうだという意味ではありません)
ではなく、双方が経済的にも利点があるような保険がいいですね。
今後のイノベーションに期待しましょう。

 

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大阪府民共済の退職金問題

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都道府県民共済グループの大阪府民共済が、
退任した前理事長への退任慰労金2.5億円を、
総代会の明確な議決なしに支払った問題について。

以前、週刊東洋経済の企画で4大共済を取材した際に、

「理事長の不正などを未然に防ぐ仕組みは、
 少なくとも連合会ベースではかなり整備されている」
(週刊東洋経済2007.11.10から引用)

としたものの、共済のガバナンス構造については
やや弱いと見ていたのですが、今回の件は残念でした。

各県の共済(単位生協)は連合会の下にあるように見えます。
しかし、ガバナンス構造は逆で、単位生協のほうが上です。
連合会の組合員は単位生協なので、連合会が単位生協を
コントロールする構造にはなっていません
(共済事業を通じてのコントロールはあります)。

また、単位生協の組合員は一般の共済加入者です。
共済を利用するために加入した人が大半なので、
単位生協の運営に関心を持つ組合員はほとんどいません。

このようなガバナンス構造の弱点をカバーできる唯一の砦が、
「組合員の相互扶助」という理念です。
ところが、報道から判断するかぎり、前理事長やその周囲の役員は
理念にかなった行動をとったとは言えないでしょう。
金額の問題ではありません。

長年経営に関わってきた役員に対し、周囲が何も言えなくなる。
ガバナンスの問題は頭が痛いです。

※写真はどこだかわかりますか。
 ちなみに上記の件とは全く関係ありません
 (この件で大阪に向かったわけではありません^^)

 

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