01. 保険経営全般

ソニーが金融事業を分離

ソニーグループは18日、完全子会社であるソニーフィナンシャルグループを2、3年後に分離独立させるという構想を発表しました。
Bloombergの記事
NHKの記事

18日の経営方針説明会で、十時COO兼CFOは次のようにコメントしています。

「金融事業には成長投資とともに、財務の健全性も強く求められ、多くの資本を必要とします。ソニーグループ全体のキャピタルアロケーションという観点では、拡大していくエンタテインメント、イメージセンサー事業などへの投資との両立は容易ではありません」

「(パーシャル・スピンオフにより)金融各社の社名、ブランド、グループ内での位置付けなどを変えることなく、金融事業を上場し、独自の資金調達能力を備えて、中長期でのさらなる成長を指向することができると考えています」

ソニー生命の手掛ける生命保険事業が多くの資本を必要とするのは、2020年に約4000億円かけて完全子会社とした際にもわかっていたことだと思います。財務の健全性が強く求められるというのもそうです。

そう考えると、あくまで推測ですが、グループとして株主が期待する高い資本効率を達成するにはソニー生命の資本対比リターンをより高める必要があるものの、それにはソニー生命のビジネスモデルを見直さなければならず、それは困難だと判断したのではないでしょうか。
過去には「(金融事業が)リーマンショック以降のソニーが最も苦しかった時期にグループを支えた」(吉田CEOのコメント)ということはあったにせよ、それはあくまで経営陣の目線であって、株主からするとそのような「保険」はいらないということなのかもしれません。

ところで、私は本件で読売新聞の電話取材を受けまして、19日の朝刊に次のコメントが載りました。

「福岡大の植村信保教授(保険論)は『上場にあたっては経営の透明性が一段と求められる。遠藤氏(元金融庁長官の遠藤俊英氏)を起用する理由をステークホルダー(利害関係者)に、より丁寧に説明する必要がある』と指摘している」

スピンオフを中心にいろいろとコメントしているのですが、使われたのはこの部分でした。
とはいえ、スピンオフの結果、遠藤さんが上場会社のCEOとして株主と対峙し、自社の成長戦略や資本効率について説明することになるかもしれないのですね。
保険アナリストとしては、上場生保グループが増え、かつ、IFRSで決算を行うというところにも注目したいです。

※今年もきれいに咲きました!

 

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外資系生保のガバナンス

インシュアランス生保版(2023年3月号第4集)に寄稿したコラムをご紹介します。3月13日にInswatchに寄稿したコラムと同じく、外資系生保のガバナンスについて書きました。
他の視点として、グループの採用する統治スタイル(中央集権型/分権型)も関係してくると思います。
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2013年以降、政府が成長戦略の一環として進めてきた日本のコーポレートガバナンス改革は、主として上場会社を対象にしている。
日本では支配株主を有する上場会社も少なくないとはいえ、総じて言えば、上場会社では所有(株主)と経営が分かれており、経営が株主の期待どおりに行動しないという問題(狭い意味でのエージェンシー問題)を解消するため、社外取締役の活用や指名委員会等の設置など、ガバナンスを強める取り組みを行ってきた。上場会社が取り組むべき行動原則を取りまとめた「コーポレートガバナンス・コード」では、会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の創出には従業員や顧客、取引先、債権者、地域社会といった様々なステークホルダーとの適切な協働が不可欠としているものの、基本的には株主からの経営への規律付けを念頭に置いている。

ところで生命保険業界に目を転じると、株主のいない相互会社は5社に限られる一方、全28社・グループのうち、実に20社・グループが特定の親会社・グループの傘下にあり、支配株主を持たない保険会社の数は少ない。親会社の傘下にある保険会社では、経営は親会社の選んだ経営者が担うので、所有と経営が実質的に分かれておらず、前述のような狭義のエージェンシー問題は生じにくい。
事業会社に比べると、保険会社など金融機関のガバナンスには大きな特徴がある。それは、株主以外からの経営規律が働きにくいことである(規制当局を除く)。事業会社の債権者といえば銀行や社債の投資家だが、保険会社の債権者の多くは契約者であり、単なる顧客ではない。だからこそ、保険会社の経営が破綻してしまうと、契約者が損失を被ることになるのだが、経営危機時を除き、契約者は通常、加入している保険会社経営への関心は低く、情報も劣位にある。

こうした特徴は支配株主の有無とは関係がない。ただし、親会社を持つ保険会社では、親会社である株主からの規律が働きやすいがゆえに、かえって契約者の利益が守られにくい面もあるのではないか。
グループにおける当該事業の重要性によって、子会社の経営に求める管理水準には違いが見られる。例えば、日本の事業がグループの中核を占めるほど重要であれば、子会社の持続的な成長には契約者をないがしろにするような経営は本来ありえないはず。しかし、それほどの重要性がなく、関心も低ければ、グループとしては一定の数字さえ出してくれれば十分であり、そうなると子会社の経営者は求められた数字を出すことに集中する。最近、外資系生保が相次いで行政処分を受けたのは、背景にこのような構図がある。

上場会社や相互会社のガバナンスだけではなく、親会社を持つ保険会社のガバナンスを強めるにはどうしたらいいかも真剣に考える必要がありそうだ。
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※東京の桜もきれいでした。

 

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ガバナンスの死角

今週のInswatch Vol.1176(2023.3.13)に寄稿した記事をご紹介します。保険会社のコーポレートガバナンスに関するものです。
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外資系生保への行政処分

昨年7月のマニュライフ生命保険に続き、金融庁は2月17日にエヌエヌ生命保険に対する行政処分(業務改善命令)を出しました。
本誌2月20日号が報じたとおり、両社への業務改善命令は「節税保険」に関するものです。ただし、金融庁は両社において、保険本来の趣旨を逸脱した商品開発や募集活動そのものだけではなく、これらが経営陣の関与(または黙認・看過)のもとで行われてきたことを問題視しています。背景には営業を優先し、コンプライアンスやリスク管理、内部監査等を軽視する企業文化を醸成してしまったことがあるとも指摘しています。
つまり、不適切な商品開発や保険募集の推進はあくまでも結果であって、根本的な問題は経営管理(ガバナンス)にあるという判断です。

ガバナンス強化に努めていたはずだが

両社の組織形態を確認すると、マニュライフ生命は指名委員会等設置会社、エヌエヌ生命は監査等委員会設置会社でした。
マニュライフ生命は国内の生命保険会社として初めて、2003年7月に委員会等設置会社に移行しました(現在の指名委員会等設置会社)。経営の執行と監督が明確に分離された形態で、従来の監査役会設置会社に比べるとガバナンス強化に有効とされています。しかし、金融庁は「取締役会傘下の監査委員会は基本的な役割および責任を十分果たしていない」などと厳しく評価しました。
エヌエヌ生命も監査・監督機能およびガバナンス強化のため、2016年6月に監査等委員会設置会社に移行しましたが、金融庁から今回、「経営体制の見直しを含む経営管理(ガバナンス)態勢の抜本的な強化」を求められています。
2015年に発覚した東芝の不祥事と同じく(東芝は委員会等設置会社でした)、いくら形式面を整えても、ガバナンス強化につながるとは限らないという事例になってしまいました。

ガバナンスの死角

ガバナンスがうまく機能しなかったのは、外資系の金融機関に固有の統治構造があるのかもしれません。
外資系のように支配株主が存在している会社では、教科書的に言えば、所有(株主)と経営が分かれていないので、経営が株主の期待どおりに行動しないという問題は本来生じにくいはずです。ところが、その事業が現在または将来のグループ利益成長に不可欠というほどの存在ではない場合、グループ本社(または地域統括会社)としては、とりあえず一定の数字(≒利益)さえ出してくれれば十分であり、日本のビジネスモデルがどうなっているか、どうやって業績をあげたか、といったところまでは関心を持たないことも十分ありえます。そうなると経営は株主から評価されるために、株主が求める目先の数字をあげることに集中しがちです。
日本の保険会社でも、例えば、数千億円かけて買収した米国の子会社と、規模が小さく成長性もあまり見込めない海外子会社を、おそらく同レベルの経営資源を使って管理しようとはしないでしょう。

このような構図は保険会社に特有のことではありません。とはいえ、事業会社とはちがい、金融機関の顧客(保険契約者や銀行預金者)は単なる顧客ではなく、金融機関の債権者なので、経営危機の影響を直接受けてしまいます。それにもかかわらず、顧客には通常、自らが保険会社や銀行の債権者であるという自覚はないので、経営への規律付けに多くを期待できません(事業会社の代表的な債権者は銀行であり、規律が働きやすい)。いわば「ガバナンスの死角」というべき状況が生じやすいと考えられます。今回の行政処分のように、監督当局による経営への規律付けが最後の砦となるのかもしれません。
もっとも、金融庁が監督権限を持っているのは日本の保険会社に対してなので、所属するグループの本社や地域統括会社に有効な対応を求めることが実質的にできるのかといった、なかなか悩ましい問題もありそうです。
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※写真は京都のシェアショップ(昼はカフェ、夜はレストラン)です。

 

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健全性と契約者配当

9月30日に金融庁が2021事務年度のモニタリングの結果等について、2022年 保険モニタリングレポートを公表しました。すでに公表した「金融行政方針」を補足する資料という位置付けで、昨年から作成・公表しています。

詳細はレポートをご覧いただくとして、私が気になったのは巻末のコラムのうち、コラム④「生命保険会社の健全性と契約者配当について」です。コラムは全部で5つあり、他の4つはいずれも金融庁の取り組みを紹介しているのに対し、このコラムだけはそうした記述がありません。
あえて金融庁の意図を読むとするならば、「生命保険会社の健全性は十分な水準に近づきつつあると言える」「生命保険会社が適切に契約者配当を行っていくことが、より重要となっていく」という記述があることから、本事務年度の方針には挙がっていないとはいえ、有配当契約のあり方に強い関心を持っていることがうかがえます
(あるいは、すでに何らかのやり取りを業界と行っているのかもしれません)。

コラムでは各準備金の残高が年々増え続ける一方、毎期の配当準備金繰入額が概ね横ばいで推移している図表が載っています。ストックとフローの数字を同時に示されても困ってしまうと思いつつ、配当準備金繰入額の約8割は団体保険と団体年金の配当なので、個人契約者への還元はさらに低水準なのですから、金融庁の言いたいことは理解できます。
あとは、現行会計等の制約があるなかで、経済価値ベースの評価を踏まえた還元方針をどうしていくかでしょうね。

※宇治の平等院鳳凰堂です。

 

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『生活に活かす共済と保険』

米山高生先生(東京経済大学教授)の最新刊『生活に活かす共済と保険』を読みました。「共済と保険はどこが同じで、何が違うのか?」をテーマにした著作で、共済のみならず、保険や保険会社について考えるための材料もたくさんありました。

保険会社のビジネスモデルに関する本書の記述は明快です。

「消費者からみれば、保険は現在のキャッシュと将来のキャッシュを交換する『金融商品』である。これを保険会社からみれば、約束した将来のキャッシュを確実に支払うという義務を負うものといえる」(50ページ)。

「他の金融商品と比べて保険商品の特別なことが二つある。第一に、将来のキャッシュ支払いが確率論的に決定されること、そして第二に、消費者のリスクを保険者が引き受けることである。保険会社のビジネスモデルの特徴を形成しているのは、この二つの要素であるといっても過言ではない」(同)

保険会社は約束した将来のキャッシュを確実に支払うという義務を負っているのだから、経営者が最優先すべきはその義務を確実に履行するための経営ということになります。

米山先生はこうも語っています。

「保険には、他の金融商品とはどこか違った『何か』がある。(中略)困った人のためにみんながおカネを拠出し、困った人を助けようという仕組みによって運営されているという面がある」(76ページ)。

「しかし自助の手段として保険・共済という『金融商品』を消費者として合理的に選択しているのなら、『たすけあい』もいいが、契約者保護をより確実なものとしてほしいというのが(消費者の)本音だと思う」(79ページ)。

この「たすけあい」についても深い考察がなされています。
本書では「たすけあい」のうち、リスクプーリングによって結果として生じるものを「たすけあいI」、団体内での内部補助によるものを「たすけあいII」として区別しました。そして前者は保険と共済が共有する機能で、後者は共済においてのみ存在しうると整理しています。

共済に「たすけあいII」が組み込まれやすいのはどうしてなのか。私自身はまだきちんと理解できていないところがあるとはいえ、人間が利他的な行動に対して価値を置くことを踏まえると、団体内での内部補助を(それを構成員が理解したうえで)許容する場があるのは不思議ではないのかもしれません。

※写真のC-3PO ANA JETに乗りました。

 

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自然災害と損保経営

今週のInswatch Vol.1144(2022.7.11)に記事を寄稿しました。こちらでもご紹介いたします。
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今年も台風の季節になりました。2018年度や19年度のような大規模な自然災害が発生しないことを願っています。

火災保険は赤字基調が続く

昨年度(21年度)の大手損害保険グループの決算は、自然災害関連の正味支払額が過去10年間で最も少ない水準だったこともあり、国内損保事業の修正利益(異常危険準備金の繰入・戻入などを調整した利益)はいずれも増益となりました。
もっとも、自然災害による支払いが少なかったにもかかわらず、火災保険のコンバインドレシオが100%を下回ったのは東京海上日動だけで、他の3社は引き続き100%を上回る水準でした。大手損害保険会社はこれまで少なくとも2回にわたり個人向け火災保険の料率引き上げを行いましたが、大規模な自然災害がなくても火災保険の収支はなお赤字基調ということで、さらなる対応が必要な状況です。
21年度の保険会社の決算分析については、今月末のプロフェッショナルレポートでもお伝えする予定です。

損保ビジネスは不安定なのか

ところで損害保険ビジネスは、自然災害に左右される不安定なものと思われがちです。過去の決算報道を見ても、大規模な自然災害が発生しなければ「好決算」、発生したら「厳しい決算」という扱いです。しかし、本当にそう考えるべきなのでしょうか。
保険会社は自然災害リスクを勘と度胸で引き受けているのではありません。工学的な知見に基づき、外部ベンダーまたは自社が開発したモデルを使った定量的なリスク評価を行い、再保険戦略を含めた引受方針を定めたうえで、自然災害リスクを引き受けています。気候変動の影響が懸念されるとはいえ、やみくもにリスクを引き受けているわけではありません。
ですから、自ら決めたリスクの引受方針次第で、同じ自然災害が発生しても正味支払額は違ってきます。例えば、過去最高の支払額となった18年度決算において、損保ジャパンでは自然災害に伴う元受保険金の約7割を再保険で回収したのに対し、東京海上日動では約3割の回収だったため、両社の支払額が元受ベースと正味ベースで逆転していました(東京海上の正味支払額が大きかった)。だからといって、東京海上日動がリスク管理に失敗したとは言えません。ここからわかるのは両社の保有・出再戦略が異なっていたというだけで、中長期的に見て、各社がリスクに応じた保険料(出再コストを含む)を獲得できているかを把握しなければ、各社のパフォーマンスを評価できません。

リスク情報の開示を

ただし、再保険に関して言えば、両社の保有・出再戦略にここまで違いがあるとわかったのは、たまたま18年度と19年度に大規模な自然災害が発生したからであって、それ以前の開示情報だけでは外部からはわかりませんでした。再保険に限らず、外部ステークホルダーにとって、リスク引受方針をはじめ、リスクに応じた保険料を獲得できているかをつかむための手掛かりは、まだまだ少ないのが現状です。
もし損害保険会社の経営陣が外部から正当に評価されたいと考えているのであれば、より踏み込んだリスク関連情報の開示が必要だと思います。
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※写真は三角西港です。明治時代の港がそのまま残っています。

 

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保険代理店と保険会社

週末(18日)のRINGの会オープンセミナーでは、無事インタビュアーを務めることができました。
Inswatchによると、セミナーの参加者は約1000人(うちオンライン視聴者が約500人)に達したようです。ハイブリッド開催で、かつ、RING主催の懇親会もありませんでしたが、それにもかかわらず500人もの来場者が集まったのですね。大学のハイブリッド授業とは大違いです(笑)

今回のセミナーのテーマは「NEXT MOVE ~新たな時代に次の一手を~」でした。ただ、個人的には、今回の特徴として挙がっていた「(保険代理店が)保険会社と共に考える事」について、より考えさせられるセミナーでした。

登壇した第1部の参考として、事前に保険代理店および損害保険会社の営業担当社員に、「(withコロナで)日々の業務での不安や、不便に感じていること」を聞いていただいたところ、両者の回答に際立った違いがありました。代理店からは、withコロナでも「保険会社との関係」を不安視する回答がほとんどなかった一方で、保険会社社員からの回答で最も多かったのは「(同僚や代理店との)コミュニケーション」という回答だったのです。
第2部でも登壇者のお一人が代理店と保険会社のすれ違いを端的に表すアンケート結果を示しており、withコロナで両者が別の方向を向いていることが改めて見えてしまったのかもしれません。

第3部ではRINGメンバーの代理店経営者が登壇し、代理店の視点から保険会社と共に発展していくための提言もありました。保険会社からの参加者がどの程度いたのかがやや不安ではありますが、代理店からの片思いに終わらず、両者のすれ違いが少しでも解消されることを期待したいです。

 

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人口減少と生保経営

先週の週刊金融財政事情(2022.3.22)は「激動の生保業界」という名の特集で、インタビュー記事2本(住友生命・高田社長、金融庁・池田保険課長)と、経済価値ベースのソルベンシー規制に関する論考(あずさ監査法人の高橋隆司さん)、営業職員チャネルのデジタル化と新規制対応(編集部)、そして金融庁による外貨建て保険の共通KPIの解説という構成でした。
(先ほどようやく読みました ^^;)。

インタビュー記事のなかでは、いずれも人口減少と生保経営が取り上げられていたのですが、へそ曲がりな私にはどこかしっくりきませんでした。

人口減少によるマーケット縮小への対策として、住友生命の高田社長は「人口減少の局面においてもマーケットの広がりは一定期間見込めるだろう」としたうえで、「保険ビジネスと親和性がある新規事業や海外の保険事業など、将来的な収益源を補う収益事業の展開についても検討している」「(長期的な経営戦略について)当社としては国内事業を盤石にし、相互にシナジーを生み出せる企業や国があれば、出資を検討していくスタンスだ」と述べています。
株式会社の経営者であれば、こうしたコメントに違和感はありません。ただし、住友生命は相互会社です。会社価値の拡大を強く求めるであろう株主は存在しません。海外事業などでリスクを取って成長を追求するような経営戦略をとるのであれば、さまざまな考え方があるなかで、なぜこうしたスタンスをとるのかを語っていただきたかったですし、新たな収益事業の果実を既契約者にどう還元するかについても話してほしいです。

他方、金融庁の池田課長は、「とりわけ人口減少への対応に注目している」と述べ、「人口減少問題を経営レベルで真剣に議論している生命保険会社は少ない印象だ」「(中略)従来の中期経営計画のタイムスパンを超えた、もっと長期のメガトレンドを踏まえて、『いまからどんな手を打っていくべきか』を真剣に議論してほしい」と語っています。
確かに生命保険会社の経営者であれば、長期のメガトレンドを踏まえて自分たちが長期的にどうありたいかを考えるべきだと思います。しかし、それはあくまで経営の話であって、契約者の保護や、(保険業法にはありませんが)金融システムの安定という観点からも重要というのであれば、その説明が必要だと思います。

生命保険は公的年金のような賦課方式ではなく、責任準備金をきちんと積み立てていれば、新契約が細っても経営が揺らぐことはありません。金融庁では大数の法則が効きにくくなるほどの人口減少を想定しているのでしょうか。
仮に人口がイタリア並みの6千万人になれば、今のプレーヤーが全て生き残っているとは考えにくい(だからこそ経営者としては長期戦略が重要)ですが、金融庁にとって重要なのは保険会社ではなく契約者なので、会社の数が減っても、契約者が不利益を被らなければ問題ないはずです。
もしかしたら、金融庁は契約者への還元重視に監督の軸足を変えたのでしょうか。産業としての生命保険業が縮小すると、契約者への還元も期待できなくなるので、それなら理解できなくもありません。

せっかくのインタビューなのですから、金融庁として「とりわけ人口減少への対応に注目している」と言うのであれば、単に人口が減るから経営を真剣に考えろというのではなく、どうして金融庁がそのような問題意識を持つに至ったのか、なぜ金融庁と保険会社の温度差があるのかを語っていただきたかったです。

※福岡の桜はほぼ満開です。

 

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保険会社経営の方向性

日本共済協会の月刊誌「共済と保険」に、昨年9月の講演内容が掲載されました。
講演では大手生損保グループの2020年度決算を解説したうえで、私が注目している保険会社経営の方向性として、次の3点についてお話ししました。

(1) 足元の経営課題への対応
(2) 外部ステークホルダーを重視する経営へ
(3) デジタル社会への対応

ごく簡単に紹介しますと、まず(1)の足元の経営課題としては、生命保険会社では「出口が見えない超低金利下での商品戦略」、損害保険会社では「火災保険の収益改善」を挙げました。
次に(2)では、株主や契約者、その他債権者に対して経営戦略をきちんと説明できるような経営を指向する動きが見られるとして、具体的には第一生命ホールディングスと明治安田生命の事例を取り上げました。
最後の(3)では、同じデジタル化でも「デジタイゼーション」と「デジタライゼーション」では違うことを説明し、後者のデジタライゼーションでは保険ビジネスがこれまでと全く違うビジネスモデルになるかもしれないという話をしました。

ところで、同じ号に「業績回復で明暗分かれた生損保 ー2021年度上半期決算より-」というジャーナリスト高見和也氏の記事があり、何をもって明暗が分かれたとしているのか興味を持ちました。
読んでみると、高見氏は「業績」という言葉をかなり柔軟に使っていることがわかりました。生保では新契約年換算保険料の数字をもとに「4グループのなかでは国内での業績の回復が最も早い」「本体の業績がまだ戻りきってはいません」などと書いている一方で、損保では各社が正味収入保険料や純利益などの予想を変更したことをもって「3メガ損保グループは2021年度末の業績予想を変更」と書いています。実質的に違うものを比べて「明暗が分かれた」と言われても、読者としてはとまどってしまいますね。

上場企業が業績を上方修正したといえば、まずは利益指標の上方修正を指すのが一般的です。売上高を含むことがあっても、業績イコール売上高という人はほとんどいないと思います。
しかし、生保業界では基礎利益が登場するまで利益指標をみる習慣がほとんどなかったためか、業績という言葉が新契約など契約動向を示す言葉として使われてきたという経緯があり、それが混乱のもととなっているのではないかと思います。

※博多の櫛田神社にお参りしました。

 

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保険モニタリングレポート

金融庁は10日、「2021年 保険モニタリングレポート」を公表しました。
8月31日に公表した「2021事務年度 金融行政方針」の補足資料と重複するところもありますが、金融庁が保険行政において何を課題と考え、どのような対応をしているのか(あるいは、しようとしているのか)を知る手掛かりとなりますので、こうした取り組みは大歓迎です。

せっかくなので、2つほど紹介しましょう。

自然災害の多発・激甚化への対応

金融庁はここ数年、大規模自然災害を踏まえた損害保険会社の対応状況について毎年対話を行ってきたそうで、本事務年度も「損害保険会社において、経営レベルでの論議に基づきどのようなリスク管理を行っているか引き続き注視する」とのことです。
やや引っかかるのは、「資本・リスク・リターンのバランスを踏まえ、再保険によるリスク移転の最適化等を行う統合的リスク管理態勢(ERM)を高度化する」のが重要と考えているにもかかわらず、資本(支払余力)全体ではなく、その一部にすぎない異常危険準備金の残高に強い関心を持っているように見えることです。税金関係を除けば、異常危険準備金は会計損益のスムージングに効果を発揮するというだけで、多額の支払いが発生してしまえば、準備金の取り崩しがあってもなくても実質的な損益は同じはず。ERMの高度化を進める保険会社と当局の間にすれ違いがないといいのですが。

基礎利益の見直し

見直しを行うという話は出ていましたが、新たな計算方式の概要が初めて一般に公表されました。

・為替に係るヘッジコストを含める
・投資信託の解約損益を除外
・有価証券償還損益のうち為替変動部分を除外
・既契約の出再に伴う損益を除外
・基礎利益以外の損益と対応する再保険に関する損益を除外

2022事業年度より反映とのことで、おそらく早期に公表する会社が出てくるものと予想(期待)しています。
もっとも、「ERM視点に基づき、経営レベルで資本・リスク・リターンのバランスを図る」には、新しい基礎利益でも役に立たないのは同じです。基礎利益には資産運用リスクをとった結果のうち、利息配当金収入の部分しか反映されないですし、危険差益はほぼ既契約によるもの。営業活動の成果はプラスには反映されず、保険が売れるほど基礎利益は悪化します。
ただし、本事務年度には「経済価値ベースのリスク管理との整合性や財務会計に関する見直しの動向等も踏まえ、様々な監督会計のあり方について検討を行う」(37ページ)とありますので、ずっとこのままということはないのかもしれません(期待を込めて)。

※写真は唐津城からの眺めです。城内には入れませんでした。

 

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