01. 保険経営全般

生命保険会社の異業種買収

日本生命によるニチイ学館グループの買収、第一生命によるベネフィット・ワン買収と、大手生命保険グループによる異業種の買収発表が相次ぎました。これをどう考えるべきか。
このようなお題を「日経モーニングプラス(BSテレ東・2月26日放送)」からいただいたので、次のようにまとめてみました。

背景として「人口減少によって国内の保険市場の縮小が見込まれる」(2023年12月8日のNHKニュース「生命保険大手 異業種の企業買収の方針を発表 収益基盤を強化へ」)と言ってしまえばそれまでですが、自分がコメントするとしたら次の2点を挙げたいです。

1つは、大手生保グループが金融市場に影響を受けやすい現在の経営構造を見直そうとしていることが挙げられます。
伝統的な生命保険では将来にわたり予定利率を保証しており、ヘッジが不十分であれば金利リスクを抱えます。しかも、大手生保は多額の株式を保有していますし、最近まで外貨建資産を増やしてきました。その結果、経営リスクの多くが金融市場関連という状況にあるとみられ、例えば第一生命グループはこうしたリスク構造の見直しを図るとしています。

もう1つは、人口動態の変化を受け、死亡保障ニーズが急速に縮小するなかで、保険会社が長生きリスクへの備えに活路を見出そうとしていることです。
この30年間に、かつて多数派だった「夫婦&未婚の子ども」世帯の割合は大きく下がり、単身世帯と夫婦のみ世帯の割合が増えました。しかも、かつて多かった「専業主婦」は今や少数派です。こうした変化を受けて、すでに各社は長生きリスクへの備えとして医療保険や長寿対応の保険を提供しており、「異業種」とはいえ、介護サービスや福利厚生サービスもその延長線上にあると考えられます。買収によって介護サービスや健康関連のデータにアクセスできるのであれば、その価値は大きいでしょう。

人口減少と言ってしまえば何でも説明できるとはいえ、もう少し踏み込んで考えてみました。

※福岡からのリモート出演でした。

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

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政策保有株式の売却

既報のとおり、SOMPOホールディングスは2月15日のIR説明会「次期中期経営計画の方向性」のなかで、政策保有株式の削減ペースを加速し、最終的に保有残高ゼロを目指すという方向性を打ち出しました。

損保グループ各社はこれまでも資本効率向上の観点から政策保有株式の削減を進めてきました。削減を加速する背景には、金融庁が企業保険分野における適正な競争を妨げる要因の1つに政策保有株式の存在があると認識したことがあります。
鈴木大臣は13日の会見で、「政策保有株式の売却の加速は重要であると考えておりまして、現在、大手損保4社に対して、今月末までに提出を求めている業務改善計画が、そのような観点も含めたものとなるよう、各社との対話を進めているところです」と話しています。そうである以上、おそらく行政処分を受けた他の損保グループも同じような動きになる可能性が高そうです。

企業保険分野における適正な競争という観点からすると、政策保有株式や本業支援の問題は確かに大きいと思います。さらに言えば、例えば「従業員向けの火災保険・自動車保険で収益を上げているので、管財物件の料率が取れていなくてもOK」という発想(慣行)にもメスを入れる必要がありそうです。

短くてすみませんが、とりあえずコメントまで。

※大阪での会合の後、久しぶりに奈良に行きました。

 

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SOMPO報告書の低評価

金融庁によるSOMPOグループに対する行政処分に関してメディアにコメントが載ったので、備忘録としてご紹介します。
金融庁サイト(行政処分について)
SOMPOホールディングスのサイト

Bloomberg(1月26日)

SOMPO桜田氏が引責辞任、『痛恨の極み』と謝罪-不正請求問題」のなかで、次のコメントが載りました。
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福岡大学の植村信保教授は「ビッグモーターの保険金不正請求問題の被害者は、自動車保険の加入者すべて。損害額を判断しにくい立場にある加入者と保険会社との信頼関係で成り立つ保険の仕組みを揺るがすような深刻で大きな問題だ」と指摘。「個社の問題で終わらせず、代理店との関係など保険全体の仕組みを業界挙げて見直していく必要がある」との見方を示した。
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個社だけではなく「業界を挙げて」というコメントです。
そうは言っても実際に対応するのは個社なのですが、SOMPOグループが公表した再発防止策の方向性にある「代理店管理態勢の強化」として何をしていくのかが示されていないのは、ちょっと気になるところです。

産経新聞(1月26日)

ガバナンス機能不全で経営陣を刷新 SOMPO、問われる信頼回復」の最後にちょっとだけコメントが出ています。
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福岡大の植村信保教授は「失った信頼を回復するにはやれることはすべてやらないといけない」と指摘する。
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何だかよくわからないコメントですね(すみません)。
企業文化全般について話をしたのではなく、今回発覚した自動車関連業の保険代理店との不適切な取引慣行に関して、再発防止につながることを実行すべしという趣旨のコメントでした。

ところで、SOMPOホールディングスが設置した社外調査委員会の調査報告書(中間報告書を含む)について、弁護士、ジャーナリストから成る「第三者委員会報告書格付け委員会」が評価を公表し、委員8名のうち4名がD(最低評価)、4名がF(不合格)という低い評価をしました。

Fとした委員の個別評価を見ると、「事実認定の正確性・深度に重大な疑義がある上に、原因分析に関する説得力が不足している」「SJ、SHD の BM 対応は、損害保険そのものへの信頼を大きく貶めた。にもかかわらず、報告書ではそれに対する SJ、SHD の組織的な問題点追及が浅く、具体的かつ説得力のある改善策、再発防止策を提示しておらず、社会の損害保険への信頼回復につながっていない」などなど。
委員の中で最も保険業界に詳しいとみられる野村修也委員(評価D)は、「調査委員会の中に保険に関する専門性の高い委員を配置しなければ、SHDないしSJから提供される情報のバイアスに気づかない危険性が高い」「誰を調査対象にしてどのような調査が行われたかに関する部分が『別紙』とされ、非公表になっている」「本件の真因を考えるに当たっては、『修理』という保険事故及び損害査定に深く関わる業者が同時に保険代理店を兼ねるといった構造的問題と、その種の保険代理店との向き合い方に潜む歪みを分析することが何より重要であった(=なされていない)」「再発防止策は、本件に特有な事実認定や真因分析と必ずしもリンクしておらず、どんな不祥事でも書けるような内容にとどまっており、教訓を得にくい内容になっている。」などと厳しいコメントをしています。

近年、不祥事が起きた会社では社外委員からなる調査委員会を設置し、調査報告書の公表をもって一件落着という流れがあるように思います。本件を含め、こうした調査報告書には役に立つ情報も多く、私もしばしば活用しているのですが、以前このブログでも書いたように、原因究明が不十分なものもあると考えておくべきでしょう。

※福岡県代協でスピーチをしました。

 

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保険料調整行為の調査結果

保険代理店向けメールマガジンInswatch Vol.1216(2024.1.15)に寄稿した記事を当ブログでもご紹介します。
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新年にあたり、自分がいつから本誌への寄稿を始めたのか調べてみたところ、初回は2001年4月でした。ざっと確認すると、外部寄稿者のなかで3番目に長く連載を続けているようです。とりあえず休載の予定はありませんので、本年も引き続きよろしくお願いいたします。

金融庁による行政処分

既報の通り、金融庁は昨年12月26日に大手損害保険会社4社に対し、行政処分(業務改善命令)を出しました。保険料調整行為など独占禁止法に抵触すると考えられる不適切行為等について、業務改善計画の策定・提出・実行を求めるというものです。
金融庁は行政処分とともに、「大手損害保険会社の保険料調整行為等に係る調査結果について」という資料を公表しました。大手損保各社はそれぞれ調査委員会を設置し、不適切な行為について調査を行っていて、今回の公表によって調査結果(の一部)が初めて明らかになりました。
金融庁のサイトへ

広範囲かつ継続的

まず、不適切な行為が例外的なものではなく、広範囲かつ以前から行われてきたことが示されています。金融庁が4社からの報告を集計したところ、不適切行為等があるとされた保険契約者は576先に上り、その半数以上は2020年以前から続いているとわかりました。
とりわけ自然災害の多発などにより料率引き上げが急務となった2018年あたりから、不適切行為等が始まった案件が増えています。

調査によると、不適切行為等の目的として最も多かったのが「現状維持(幹事、シェア等)」で、全体の50%を占めました。他社からの打診に応じたというのも39%あり、この2つが主要な行動類型となっています。
なお、企業保険の入札では複数の保険種目を対象にすることが多いという理由から、種目別のデータは示されていません。そもそも企業がどのような保険に加入しているかというデータがないのは、ちょっと残念です。

多くは「不適切」認識なし

問題となった契約について違法だという認識は7%、違法ではないが不適切だと認識していたケースは26%でした。裏を返せば、67%の取引は不適切という認識がなかったということです。他社からの打診に応じたというケースであっても、「悪いことだと認識していたが応じた」という回答はかろうじて過半数(53%)にとどまっています。
これらを踏まえると、「不適切だとわかっていても、やむを得ない」というよりは、シェアを維持するための通常の行動として保険料調整が行われてきたことがうかがえます。

企業向け保険に関する公開情報は非常に少なく、今回の調査では保険会社側の取引実態の一端が示されたにすぎません。企業側はどのような部門がどのようなスキルを持って担当しているのか、保険会社による株式保有や営業協力が取引にどのような影響を与えているのかなど、取引慣行の適正化を図るには、実態をさらに明らかにすることが必要だと思います。
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※写真は宇都宮のLRT(路面電車)です。

 

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最近のインタビュー記事

2023年もあっという間に過ぎつつあります。
個人的にはこれだけメディアに登場したのは、2000年代前半の生保危機以来かもしれません。
長年の保険業界ウォッチャーとしては、物事の表面をなぞるのではなく、より本質に迫る解説やコメントを心がけていく所存です(機会があれば)。

年末にインタビュー記事がいくつか出ていますので、こちらでご紹介します。

1.産経新聞「損保大手4社の事前価格調整、水面下で横行 信頼回復に道険しく」(12月26日)

金融庁が26日に大手損害保険会社に対する行政処分と保険料調整行為等に係る調査結果を公表したのを受けたものです。
この調査結果は予想通りの結果とはいえ、組織的かつ法令違反の自覚がないまま不適切な取引が継続的に行われていたことが示されています。

2.日経フィナンシャル「経営理解する社外取締役を 金融庁も体制強化必要」(12月28日)

有料媒体なので購読者限定ですが、先日寄稿した日経新聞・経済教室「曲がり角の損保経営 収入・シェア偏重体質改めよ」をさらに深掘りしたようなインタビュー記事になっています。
経済教室では「社内で当然視される取引慣行に疑問を投げかけるのは執行への過剰干渉ではなく、社外取締役の重要な役割だ」と書きました。こちらのインタビュー記事では最近のガバナンス研究を踏まえ、社外の目を機能させるには人選が重要になるとも述べています。

3.日刊自動車新聞「指針 流通・アフター業界 ビッグモーター問題をみる」(12月20日)

こちらも有料記事です。「損保の営業支援 政府で議論を」という副題が付いています。

以上になります。それでは皆さま、来年もよろしくお願いいたします。

※今年も家族みんなで栗きんとんを作りました

 

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曲がり角の損保経営

すでにご覧になったかたも多いかもしれませんが、11月23日の日経『経済教室』に「曲がり角の損保経営~収入・シェア偏重体質改めよ(有料会員限定)」という論稿が載りました。

『経済教室』への寄稿は3回めとなります。1回めは2001年11月20日の「生保契約者の保護充実を」、2回目は2008年8月22日の「生保経営統治向上急げ」で、いずれも格付投資情報センター(R&I)のアナリスト時代に書いたものです。2001年当時は保険会社への調査でも取材を受ける時でも自分が年下ということが圧倒的に多かったのですが、それから22年たったいま、相手が年下のほうが多いかもしれませんね。

さて、改革の方向性として、経済教室では次のように述べています。

・筋論からすると、保険金をビジネスとして受け取る会社に保険代理店を委託してはならない

・加入者のいまの利便性を今後も維持すべきだと考えるならば、保険会社の営業部門と損害調査部門の壁を高くしたり、損害調査の透明性を高めたりすることで、信頼回復に努めるほかない

・保険会社は代理店政策のダブルスタンダードを改め、大型兼業代理店やインハウス代理店にも保険業務の専門性を求め、それを公に示すことが不可欠

・社外の目を活用し、経営内部に染み付いた不適切なコンダクトを発見し、是正できる体制を構築

「筋論を通すと大きな混乱が生じる」と書いたものの、あくまで「当面は」という話です。利便性に関しても、考えてみればそれほど不便にはならないかもしれません。実は19日の産経新聞「「兼業代理店」は利益相反か ビッグモーター問題で〝不正の温床〟と指摘」のなかで、「(自動車関連業者への代理店委託を禁止すると)顧客が不便になる可能性がある」とコメントしてしまったものの、自賠責保険はどの保険会社でも共通なので、例えば保険業界がスマホアプリなどで加入者への支援を行えば、それほど不便を強いることにはならないでしょう。任意保険の加入率維持は課題となりそうですが、こちらもDXの出番かもしれません。

それでも筋論を通すのが難しいとなると、なかなか決定打はなく、信頼回復のためにできることは何でもやるという姿勢が必要でしょう。それくらい深刻な問題だと私は考えています。

保険会社の営業部門と損害調査部門の壁を高くする一環として、保険事故の損害調査を行うアジャスターに期待する声も耳にします。ただし、どうやって保険会社におけるアジャスターの地位と権限を高めればいいか、かなり工夫が必要だと思います。
業界ウォッチャーの方々と意見交換していたら、損害調査の透明性を高めるために作業現場を可視化するというアイディアが出てきました。具体的には保険事故に関する作業をすべて保険会社が録音・録画するというもので、警察による取り調べの可視化と同じ発想です。近年の日本社会はプライバシーよりも記録を通じた安心を優先するようになっていますし、自動車関連でもドライブレコーダーが急速に普及しています。まじめに仕事をしている修理工場を守ることにもなりますので、DXの活用という意味でも検討に値するかもしれません。

※このところ順調です。

 

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「リスク」と「損失」を分けて考える

インシュアランス生保版(2023年10月号第1集)に寄稿したコラムをご紹介します。
文中に「2026年」とありますが、台湾では2026年にIFRS17号とICS(経済価値ベースのソルベンシー規制)が同時に導入される予定となっています。
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アジア生命保険振興センター(OLIS)が4年ぶりに開催した海外セミナーの講師を務めるため、8月下旬に台湾を訪問した。OLISは1967年から国内外での研修・セミナーなどを通じてアジア諸国の生命保険事業の発展に尽くしてきた財団で、アジアの生命保険会社の経営陣や監督官庁にはOLISセミナーの卒業生が数多く存在する。今回の台湾でも、セミナー後の懇親会には大手生保の経営トップが何人も集まり、保険行政の責任者との意見交換を行うこともできた。こうした人的つながりはOLISの長年にわたる継続的な取り組みの賜物であろう。

さて、懇親会で大手生保のトップどうしが中国語で真剣に意見を交わしていたので、気になってたずねてみると、IFRSとICSへの対応をどうするか、つまり、2026年に予定されている経済価値ベースに基づく新たな会計基準と健全性規制の導入に向けてどう対応するかという話だった。保険行政との意見交換でも、課題として真っ先に上がったのがIFRS・ICSの導入支援だった。
近年、台湾生保の主力商品は外貨建ての貯蓄性商品となっている。とはいえ、既存の保険負債には現地通貨建てが多く、かつ、過去に獲得した高利率契約も残っている。これに対し、台湾でも低金利が長く続き、各社は運用利回りの向上を図るため、外国公社債への投資を進めてきた。この状態のままで経済価値ベースの会計・規制を導入すると、おそらく保険負債が膨らみ、金利などのリスク評価も厳格に行われることから、資本増強が必要となるのかもしれない。

話をしていて気がついたのは、「リスク」と「損失」が混在していることだった。外国公社債への積極的な投資の理由を尋ねると、「逆ザヤとならないように」という答えが返ってくる。だが、低金利下における過去に獲得した高利率の契約は、経済価値ベースで見ればすでに損失が発生している状態であり、もはやリスクではない。そのなかで外国公社債への投資を増やすのは、損失を抱えつつ新たに外国公社債のリスクをとるという行動なので、資本への負荷が一層かかってしまう。現地通貨建ての長期債市場が非常に小さいという事情を踏まえても、損失を損失と認識しなかった結果が、バランスシートの6割前後を外国公社債が占めるという現状につながっているのではないだろうか。

日本の生命保険会社は30年前から主力商品の保障性シフト、短満期シフトを進めてきた。過去に獲得した高利率契約を抱えつつも、内部留保によって支払余力を増やし、超長期債の購入によって金利リスクを減らしてきた。とはいえ、この10年間の外貨建て資産の動向を見ると、いまだに単年度の逆ザヤをリスクとして意識しているようにも見える。果たして「リスク」と「損失」を分けて考えることができているのだろうか。
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※福岡大学でライトアップのイベントがありました。

 

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イタリア生保の経営危機

ニッセイ基礎研究所の中村亮一さんによる8月9日のレポート「金利の急激な上昇やインフレが保険会社の解約率等に与える影響-欧州の保険監督当局等による報告書からの流動性リスク分析結果-」を拝読して、金利上昇局面でイタリアの生命保険会社ユーロヴィータ(Eurovita)が経営危機に陥り、監督当局が同社を特別管理下に置いたということを知りました。

レポートによると、「Eurovitaは、すでに脆弱だった財務基盤が、2022 年の金利上昇等の市場の動きに伴って、さらに悪化し、資本増強が求められていたが、Cinvenが十分な資金を注入することが出来ず、業界によって救済されることになった」ということです。
Cinvenとは英国のPE(プライベートエクイティ)会社で、2016年にミュンヘン再保険グループの保険会社ERGOのイタリア事業を買収し、その後も買収により規模を拡大させていました。

生命保険会社の経営にとって金利上昇はプラスに働くことが多いはず。Eurovitaはなぜ経営危機に陥ってしまったのでしょうか。

日本とは違い、イタリアの生命保険市場では、主力商品が一時払いの貯蓄性商品(定額タイプ、期間10年以内)となっています。また、主力の販売チャネルが銀行や金融系アドバイザーというのも特徴です。近年は変額タイプの商品も一定のシェアを占め、保障性商品の提供に力を入れる会社もあったようですが、報道によると、Eurovitaは伝統的な定額タイプの貯蓄性商品の提供に集中し、マイナス金利時代に新たな株主(Civen)のもとで急速に成長した会社のようです。

2021年まではイタリアの10年国債利回りは概ね1%を下回っていました。しかし、2022年には利回りが4%台まで上昇し、保有資産(公社債)の価格が急激に下がりました。そこでEurovitaが直面したのが解約の増加です。もともと預金よりも有利ということで契約を獲得していたとみられ、金利上昇を受けて解約が増え、含み損を抱えた資産を売却せざるを得なくなった模様です。
解約ペナルティや保険商品に有利な税制の存在などが制約にならなかったのか、よくわからないところもあるのですが、金利上昇時の解約リスクを軽視していたと言うべきなのでしょう。

もっとも、Eurovitaは金利水準がまだ低かった2021年末の時点で、すでに規制が求める資本の水準が十分ではなく、監督当局(IVASS)が介入していたと報じられています。もともと財務基盤がぜい弱なところに金利上昇に伴う資金流出が生じ、株主からの十分な支援も得られず、経営危機に陥りました。
したがって、Eurovitaはかなり特異な事例であって、イタリアの生命保険会社が連鎖的に経営危機に陥るような状況ではなさそうです。とはいえ、中村レポートの次の記述は目を引きました。

「IVASSの報告書によれば、保険料収入に対する解約返戻金の割合は2022年3月の53%と比較して、2023年3 月には平均85%に達しており、特に2023年に入ってからの3か月で急激に上昇している。また、これを販売チャネル別に見た場合、(保険料収入による影響もあるが)銀行・金融アドバイザー・ブローカーを通じて販売された保険契約の数値は、保険代理店・郵便局チャネル等を通じて販売された保険契約の数値の2倍以上になっており、顕著な差異が見られている」

元の図表(PDF、36ページ)も確認しましたが、おそらく販売チャネルによって商品も加入目的も違うので、解約状況に大きな差が出たのでしょう。同じ保険事業でも、ビジネスモデルによって経営リスクが異なることがよく理解できます。

※夏はかき氷ですね!サイズが昨年より小さくなった気もしますが…

 

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「質疑ゼロ」の生保総代会

14日の保険毎日新聞に「生損保決算を読み解く」というインタビュー記事が掲載されました。今回が生命保険会社だったようなので、おそらく明日にでも損害保険会社に関するコメントが出るのではないかと思います。

さて、7日の日経記事「『質疑ゼロ』の生保総代会 配当に透けるガバナンス不全(有料会員限定)」をご覧になったでしょうか。相互会社各社が7月上旬に総代会を開催したタイミングをとらえ、「金融庁が株主のいない相互会社形態をとる生命保険会社のガバナンスに厳しい目を向けている」と報じました。記者さんがんばっていますね。

この記事が引用した契約者配当に関する記述や図表は、金融庁が6月末に公表した「2023年 保険モニタリングレポート」本文の27~29ページのものです。
記事では日本生命や住友生命の総代会で総代から(事前質問はあったものの)当日の質問・意見がなかったことを問題視しているようですが、金融庁はレポートで「総代会等における質疑応答が少ないこと自体が問題ではない」としています。
ただし、次のようにも述べています。

「健全性向上のための経営努力の成果として、相互会社において内部留保が積み上がっていく中で、配当政策に関する分かりやすい丁寧な説明とともに、保険契約者等のステークホルダーとの間で活発な対話が行われることは、相互会社のガバナンス向上の観点からも望ましい」

「相互会社における保険契約者への契約者配当に関する情報提供のあり方や、資本の維持と契約者配当のバランスを取ることを通じたガバナンス向上の重要性について、相互会社と建設的な対話を行っていく」

つまり、相互会社では配当政策について、経営陣が保険契約者等のステークホルダーに対して十分な情報提供を行っておらず、ステークホルダーとの活発な対話も行われていないのは、ガバナンスの面で問題であると指摘しているように読めます。

このところ保険会社のガバナンスに関する研究を進めていることもあって、上場株式会社と相互会社を比べてみたところ、内部留保の増減トレンドは明らかに違っていて、相互会社は総じて右肩上がりです。他方で上場株式会社(第一生命HD、T&D HD)の株主還元(現金配当と自己株式取得)が増加トレンドなのに対し、相互会社による契約者還元は横ばいから微減となっています。
しかも、日経記事や金融庁レポートが掲載した配当準備金繰入額の多くは団体保険と団体年金の配当所要額で、個人向けは全体の1/4程度というイメージで、こちらも増加トレンドではなさそうです。もっとも、総代会の議案書などを探しても、配当割り当て方法の詳細な説明はあっても、個人向けにいくら割り当てるかという配当総額の情報は見当たりません。団体保険・団体年金の配当は実質的に裁量の余地がないので、個人向けでどの程度配当するのかという情報は極めて重要だと思うのですが。

保険会社にとって資本がどれだけ必要なのかという議論は、現在抱えているリスクに対してどの程度まで備えておくか、つまり、どの程度の損失まで見込んでおくかという議論に終始しがちです。しかし本来は、リスクをどこでどの程度とるべきかという議論が先にあって、その次にそのリスクに対してどの程度備えるかという議論があるはずです。

こうした議論がステークホルダーとできているかどうか。金融庁がそこまで指摘しているかどうかはともかく、ガバナンスが効いた状態とは、経営陣が決めたリスクのとり方や内部留保・社外還元のあり方について、透明性と説明責任が果たされている状態だと思います。それにはこれらを議論できるだけの情報が提供され、かつ、議論ができる「監督者」が存在して初めて成り立つのではないでしょうか。
この「監督者」の役割を現在の総代に求めるのはなかなか難しそうですが、少なくとも社外取締役には担っていただきたいものです。あるいは、新たな工夫を考えてもいいのかもしれません。

資本の有効活用は近年、上場株式会社が株主等から強く求められるようになっていることです。相互会社でも同じではないかと思います。

※15日のRINGの会オープンセミナーは大盛況だったようですね。
 RING会員の皆さん、お疲れさまでした。

 

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大手損保のカルテル事件

私のゼミでは年に数回、金融・保険分野の実務家をゲストとしてお招きしています。
先週(22日)は福岡財務支局の永松さんに金融リテラシー向上をテーマにした授業をお願いしました。その様子がニッキンオンラインで紹介されています(こちら)。
グループワークには福岡信用金庫の若手職員にも加わっていただき、中身の濃い授業になりました。関係者の皆さま、ありがとうございました。

さて、東急向けの保険契約で保険料の調整行為が行われていたというカルテル事件が発覚しました。
幹事会社である東京海上日動をはじめ、共同保険に関わっていた保険会社が関与を認め、リリースを公表しました
三井住友海上あいおいニッセイ同和損保ジャパン)。

共同保険とは、複数の保険会社が分担してリスクを引き受けるもので、保険会社は引受割合に応じて責任を負います(連帯責任ではありません)。顧客の意向で入札が行われるのが一般的で、本件では顧客が入札時の保険料水準に疑念を持った(4社の保険料が同水準だった)ことを契機にカルテルが発覚したそうです。

東京海上日動によると、複数の社外弁護士を起用した特別調査委員会を設置し、事実関係の確認に努めているとのことです。
現時点でわかっていることとして、4社とも東急の株式を政策目的で保有し、最も保有数が多い東京海上日動が主幹事を務めているという話があります。ただし、上位10社を占めるほどの大株主ではありません。

東京海上日動 4,388,338株(2023/3末)
三井住友海上 1,467,105株(2022/3末)
あいおいND   913,814株(2022/3末)
損保ジャパン 3,235,785株(2023/3末)

ところで、各社のリリースにも報道にも「代理店」が出てこないのはどうしてなのでしょうか。
一般的には大企業向け保険の多くが直扱い、すなわち、保険会社が企業に直接販売する、というのではなく、企業がグループ内に設立した企業代理店(機関代理店)を通した契約となっています。東急グループにも東急保険コンサルティングという専業保険代理店があり、2022年3月期の売上高は17.4億円に上ります。
保険料率が自由化される以前であれば、大企業といえども保険会社と価格交渉する余地がなかったので、企業は代理店を作り、保険会社から代理店手数料を受け取るのが合理的だったのかもしれません。しかし、料率が自由化された今では、価格交渉によって保険料が減ると、企業代理店の収入も減ってしまいます。もちろん企業からすれば、優先すべきは自らのリスクマネジメントを効率的に行うことであり、そのための専門人材(リスクマネジャー)も必要なのですが、他方で企業代理店は総じて企業OBの受け皿となっていて、専門的な仕事は保険会社の営業担当社員や保険会社からの出向者が行っていたりします(東急グループの話ではなく、あくまで一般論です)。
このような市場慣行があるなかで今回の件が生じたのかどうかはわかりません。ただ、大企業向け損害保険の世界は外部から見て謎が多いのは確かです。

※写真は東京・新橋駅です。

 

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