01. 保険経営全般

プライム市場と流通株式

本題の前にいくつかご案内です。

損保総研のセミナー

1月26日(火)の夜に損保総研の特別講座で講師を務めます。
演題は「新たな健全性規制下における保険経営のあり方 ~アカデミズムの視点も含めて~」で、今回はweb配信のみとなっています。19:00から1時間お話しして、その後質疑応答とのこと。ご関心のあるかたは(有料ですが)ぜひご参加ください。1月19日締め切りだそうです。

保険毎日新聞のインタビュー記事

業界紙・保険毎日新聞に2020年4-9月期決算についてのインタビュー記事が載りました。14日が主要生保、15日が3メガ損保グループです。
それぞれ見出しだけご紹介すると、主要生保では「金融市場の回復が追い風に」「価格変動リスクを抑える動きも」「コロナ禍で各社の強み問われる状況に」、3メガ損保では、「海外事業を国内事業がカバー」「コロナ禍の活動制限がプラスに作用」「余剰人員の活用が今後の課題に」となっています。

さてさて、本題はこちらです。
昨年末に東京証券取引所から、取引所の市場区分を見直し、現在の市場第一部、市場第二部、マザーズ、JASDAQ(スタンダード・グロース)の5区分を改め、「スタンダード市場」「プライム市場」「グロース市場」の3区分に再編するという案の発表がありました。
詳しくはこちら(市場区分の見直しに向けた上場制度の整備について(第二次制度改正事項))をご覧ください。

市場区分の見直しとともに、東証は市場における流動性(=売買実績)を確保するために「流通株式」の定義を見直し、銀行や保険会社、事業法人等が持つ株式を、保有割合に関わらず流通株式から除くことにしました(現在は上場株式数の10%以上を所有する場合に除くルール)。
プライム市場の上場基準となる流通株式比率は35%以上(スタンダードとグロースは同25%以上)なので、銀行や保険会社、事業法人が安定株主となっている銘柄はプライム市場に上場しにくく、この基準によって政策株式の売却を加速させる狙いがあるのかもしれません。

ただし、所有目的が「純投資」であれば、銀行や保険会社が保有していても流通株式として取り扱うそうです。
3メガ損保グループが保有する株式は大半が政策保有株式なので流通株式から除く一方、大手生保の保有する株式は多くが「純投資」とされているため、流通株式として扱われます。結果として、生保の株式保有が増えるなんてことにならないかどうか、注目していく必要がありますね。

※この週末の福岡は好天で何よりでした。

 

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MYミューチュアル配当

12月1日に明治安田生命から新たな社員配当「MYミューチュアル配当(PDF)」を創設するという発表がありました。内部留保への貢献度に応じた配当還元の仕組みは、生保業界初とのことで、興味深い取り組みだと思います。

公表資料によると、明治安田生命は2021年10月以降、これまで内部留保の積み立てに貢献してきた(かつ、今後も貢献が想定される)商品の契約者に対し、従来の社員配当に加えて、内部留保の一部を新たな配当として支払います。
2001年発売の「ライフアカウントL.A.」など、過去20年間くらいに発売した保障性商品が対象で、加入後20年目に最初の配当の支払いがあり、その後は10年ごととなります。

ただし、内部留保の一部を支払うといっても、蓄積してきた内部留保を取り崩すのではなく、その期に内部留保の積み立てにあてる金額の一部を新配当に回すしくみです。例えば、明治安田生命はここ数年、毎年1000億円を上回る内部留保を行ってきましたが、このうち100億円程度を配当するというイメージです。
内部留保を取り崩すのではなく、積み立てのペースを落とす(しかも控えめに)ということなので、経営陣は現状では内部留保の増強がまだ必要だと判断していることがうかがえます。相互会社の契約者としては、どの程度必要と考えているのかを知りたいところでしょう。

なお、明治安田生命が2019年度に支払った個人向け商品の配当(従来のもの)は約300億円だったそうです。決算発表の際に、団体保険や団体年金を含めた「配当準備金繰入額」しか公表していない相互会社もあり、この点に限らず、上場株式会社や一部の大手共済事業者に比べると、会社のオーナー(=社員たる契約者)に向けた情報開示には改善の余地が大きいと思います。

※博多駅です。夜はきれいなのでしょうね。

 

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千代田生命の破綻から20年

9日の日経に、明治安田生命が国際会計基準(IFRS)を採用する方針という記事が出ました。
日経新聞のサイト(有料版)へ

会社自体は今のところ何も発表していないので、真偽のほどはわかりません。ただ、記事では「(新)契約が減ると費用の計上が少なくなるので、増益要因となることが多い」「金利の動きも(IFRSでは)これまでより決算に反映される」など、現行の会計基準では生保の経営実態がわかりにくいことを示していて、これはその通りです。

実態がわかりやすく示されれば、経営破綻を回避できるとまで言い切れないにしても、経営に対する規律が効きやすくなるのは確かでしょう。

ちょうど20年前の10月に、千代田生命保険と協栄生命保険が相次いで経営破綻し、大きなニュースとなりました。特に千代田生命は大手生保の一角を占めていたこともあり、各方面に大きな衝撃を与えました。
拙著「経営なき破綻 平成生保危機の真実」では両社の破綻について検証を行いましたが、このタイミングで千代田生命の関係者のかたがご自身のブログに「千代田生命破綻の真相」をつづっていますので、ご紹介します。内容についてはコメントしませんので、ご覧いただければと思います。

文面によると、「危機を訴えたために左遷させられ」という経験をお持ちのかたのようですね。拙著でも「財務(資産運用)部門でA氏に意見を言った社員は人事で飛ばされたり、担当を外されたりした。(中略)バックに神崎社長がいて、実際に反対した数人が外されると、もう誰も止めに入らなかった」という証言を載せています。

それにしても、あれから20年ですか。月日がたつのは早いものです。

※写真は大牟田です。

 

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ところ変われば

26日の日経に「生保解約 コロナで急増(有料会員限定)」という記事が出ていました。経営者保険などを中心に生命保険の解約が増えているとのこと。
確かにエヌエヌ生命では4-6月期の解約返戻金が前年同期より27%増えているのですが、業界全体では4-6月期は1-3月期よりも解約返戻金が少なく、一部を除けば「コロナで急増」という状況ではなさそうです。
中小企業の資金繰りということであれば、保険約款貸付に注目してもよかったかもしれません。大同生命とエヌエヌ生命は増加が顕著ですし、大手4社では日本生命の増加が目立ちます
(中小企業とは関係なさそうですが、かんぽ生命も増えていますね)。

財務部門とは

ところで、どの業界にも、その業界でしか通じない用語ってありますよね。
業界外で通じないだけならいいのですが、同じ用語を別の意味で使っていることもあり、混乱のもととなってしまいます。

保険業界で典型的な事例は「財務」「財務部門」でしょうか。
私は最初の就職先が損害保険会社の財務部門だったので、財務と言えば資産運用でした。
しかし、財務といえば資産運用なのはおそらく保険業界だけで、多くの場合、財務部門は主に資金調達を担当する部門です。私がそれを知ったのは就職してしばらくしてのことでした。
保険会社は先にお金(保険料)が入ってきて、後からお金(保険金)が出ていく事業なので、事業のために外部から資金を調達する必要がありません。だから他の産業と「財務」の意味が違うのでしょう。

支社と支店

生保と損保でも違いは結構ありますね。
これも私の経験で恐縮ですが、損害保険会社(大手)では「〇〇支店××支社」なので、支店長は支社長の上司です。ところが後に生命保険会社を担当するようになって、生保では支店の代わりに「〇〇支社」となっているのに気が付きました。同じ「支社長」でも生保と損保で社内の地位が全然違います。

不思議なことに、大手損保には「本店営業〇部」「本店損害サービス〇部」はありますが、全体としては「本店」ではなく「本社」です。このあたりは歴史的な経緯もあるのでしょうね。

保険料の支払い方法も、生保の「平準払い」のことを、損保はかつて「回払い」と呼んでいました(積立保険が開店休業中なので、今はどうなのかわかりません)。
他方で「占率(せんりつ)」「P免」などは生保の用語ですね。損保でも通じるのでしょうか?

※近くにスーパーが複数あるのは便利です。

 

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2020年の生保総代会

今回のALS患者嘱託殺人はいろいろと考えさせることが多い事件だとは思います。さらに、医師免許の不正取得なんて話も飛び出しました。
ただ、この事件に限らず、捜査関係者から情報がポロっ、ポロっと出てくるのは、何だかすっきりしません。かんぽ生命の入検情報を漏らすのはダメで(絶対ダメだと思いますが)、同じく公務員である捜査関係者がメディアに情報を漏らすのはOKとされているのは、どうしてなのでしょうか。

委任状による出席が大半

さて、国内系生保のうち6社は相互会社で、いずれも7月2日に総代会を開いています。
相互会社には株主が存在せず、株主総会にあたるのが、社員(契約者)のなかから選ばれた総代が構成する総代会です。総代会では剰余金の処分、定款の変更、取締役の選任などを決議します。

6社の議事録や質疑応答の要旨が公表されたので、確認してみました。
まず例年と大きく異なるのは、リアルな主席者の数です。

日本生命 出席198名(うち委任状141名)
住友生命 出席175名(うち委任状121名)
明治安田生命 出席218名(うち委任状213名)
朝日生命 出席148名(うち委任状138名)
富国生命 出席115名(うち委任状86名)

これを見ると、明治安田生命ではリアルな出席者は5名だったということですね。
日本生命の場合、「委任状による出席者のうち、117名については、支社または東京本部(丸の内ビル)等にて、社内衛星放送を通じ総代会の審議等の状況を確認し、質問等もできる環境で参加していた」とのこと。他社にはそのような記述がないので、前向きな対応ととらえるべきなのかもしれません。ただ、ガバナンスという点では、委任状を出した後での質問にどのような意味があるのかとも思ってしまいます。

質問内容はどうか

質疑応答の要旨を見ると、どの会社でも、新型コロナウイルス感染症に関するものが非常に多かったようです。
特に6社はいずれも営業職員組織による対面販売を主力としているので、「今後の顧客対応をどう考えているか」「対面営業が難しいなか、今後の対応の方向性を説明してほしい」といった質問が相次いだ模様です。

他方で、毎回感じるのですが、社員たる契約者の関心事項であろう経営の健全性や、社員還元に関する質問は必ずしも多くはありません(なぜか商品に関する質問が多いです)。どの質問も広い意味では経営に関することなのですが、実際の数字を踏まえた損益・財務に関する質問は少ないですし、上場生保の大株主のような、経営者の姿勢を問うような厳しい質問もほとんど見かけません。

ちなみに、次のような質問や意見はありました。

「わが国では着実に高齢化が進む中で、海外で社員や契約を増やしたり、あるいは利益を得て国内に還元する戦略や取組みは極めて重要と考えます。今後もそのことを重視した経営をお願い致します」【住友生命】

「損益状況の推移について。保険料等収入が減少しているものの、保険金等支払金も減っているため、経常利益が増えていると理解しています。この収益構造に問題点や課題はないのでしょうか」【朝日生命】

詳しくは各社のサイトをご覧ください。
日本生命
住友生命
明治安田生命
朝日生命
富国生命

※海からの風で松が何となく傾いています。

 

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有識者会議の報告書

経済価値ベースのソルベンシー規制の導入などについて検討を行ってきた有識者会議の報告書が公表されました。
「ソルベンシー規制の今後あるべき姿として、経済価値ベースで保険会社のソルベンシーを評価する方法を目指すべきである(5ページ)」と提言した2007年4月の報告書(PDF)の公表から10年以上がたち、「保険会社の内部管理において経済価値ベースの考え方を取り入れる動きが進む一方、保険監督者国際機構(IAIS)における国際資本基準(ICS)をはじめとする国際的な動向の進展もみられた」(報告書1ページより)なかで出されたものです。

個人的な注目点をいくつか取り上げてみましょう。

検討タイムラインの設定

2007年の報告書にも「平成22年(2010年)を見据えて不断の作業を進める」とありましたが、今回の報告書では2025年の導入を前提に、より具体的なタイムラインが示されました。

・2022年頃 制度の基本的な内容を暫定的に決定
・2024年春頃 基準の最終化
・2025年4月より施行

まずは2022年をターゲットに、金融庁が来月からの2事業年度で制度の基本的な内容を詰めていくことになります。

第1の柱と第2の柱の関係

報告書では「保険会社の内部管理のあり方も踏まえた多面的な健全性政策」を念頭に、新たな健全性政策の内容を「3つの柱」の考え方に即して整理しています。

・第1の柱(ソルベンシー規制)
・第2の柱(内部管理と監督上の検証)
・第3の柱(情報開示)

第1の柱と第2の柱のバランスは結構難しくて、第1の柱のあり方によって、報告書でも懸念する意見があるように、保険会社のリスク管理の高度化が停滞する可能性があります。さりとて「第2の柱で見ればいい」となってしまうと、監督介入が遅れたり、恣意的なものとなったりしてしまいます。

「経済価値ベースの第1の柱は2025 年に導入することを前提として検討を進めていくべきである。一方、それまでに保険会社の内部管理態勢及び金融庁の監督態勢の双方を高度化し、経済価値ベースの制度への円滑な移行を促す観点からは、第2の柱に関する取組みは、第1の柱の導入を待たずに早期に開始することが適当である」(33ページ)

「リスクとソルベンシーの自己評価(ORSA)上では、割引率につき標準モデル上の手法(終局金利(UFR)に基づく補外等)以外の手法も用いて評価を行うことや、自社の保険契約・運用資産のポートフォリオの特性を反映した粒度の高いデータに基づく、より精緻なリスク計測手法を用いること等も視野に入りうる」(35ページ)

報告書のこうした記述を見るかぎりでは、第1の柱はあくまで「最大公約数」であり、リスク管理の高度化を促すフェーズでは、第2の柱が重要という整理のようです。

「厳格化」には触れず

2007年4月の報告書(PDF)では、ソルベンシー・マージン比率の信頼性を向上させて行く努力が必要として、次の記載がありました。

「段階的な取組みの一歩として、例えば95%程度を信頼水準引上げの目標とするのであれば、保険会社に対する財務上の影響や、健全性評価に対する信頼性の向上の両面からみて適当ではないかと考えられる。(中略)そして、経済価値ベースのリスク評価への移行を前提とした上で、国際的な動向も見据え、更に信頼水準を引き上げていくことが適切である」

所要資本(リスク量)の計算を90%から95%へ引き上げるのはあくまで段階的な取り組みの一歩であり、経済価値ベースの規制に移るとともに、さらにハードルを上げることが提案されていました。

今回の報告書には、第1の柱における信頼水準について記載がありません。
ただ、「国内規制における標準モデルについては、ICSと基本的な構造は共通にしつつ検討を進めていくことが適当である」(14ページ)とあり、これまでの国内フィールドテストでもICSを参照してきたことから、普通に考えればICSの「99.5%」がそのまま採用されるのでしょう。
20年に1回から200年に1回の水準に上がるので、前回の変化よりも大きそうですね。

※宮崎県産の完熟マンゴーと福岡県産のブルーベリーです♪

 

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対面販売の自粛を活かす

インシュアランス生保版(2020年5月号第4集)に執筆したコラムです。
東日本大震災の時も感じましたが、非常時には元々抱えていた経営課題も浮き彫りになります。
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非対面販売の活用

新型コロナ対応で保険営業の対面販売の自粛が続くなか、営業職員による訪問販売を主力とする大手生保が、既契約者とその家族に限り、一部の商品について非対面での加入解禁に踏み切るとのこと。代理店に対しても、限定的にではあるが、非対面による加入を認める動きが徐々に広がりつつあるようだ。
対面での営業活動を、オンライン営業を含めた非対面に置き換えるのはそう簡単ではない。zoomなどを使ったオンライン営業であれば、対面とほぼ同じことができるとはいえ、相手のネット環境にも左右されるうえ、長時間になるとリアルな打ち合わせよりも集中力がなくなってしまいがちだ。

しかし、特効薬が登場するまで、ウイルスとの共存を余儀なくされるのであれば、対面販売を再現するという発想ではなく、非対面ならではの販売モデル確立に向けて、いち早く動くべきではないかと考える。
オンライン営業を含めた非対面販売には、移動時間がかからない、証拠を残しやすい、同じ場所に集まらなくても打ち合わせができる、などの特徴がある。消費者としては、これまでは家庭や職場で営業パーソンから一対一で話を聞いていたものが、オンラインであれば他の家族にも打ち合わせに加わってもらいやすくなるし、保険に詳しい知人に同席してもらうのもハードルが低くなる。個人的な感覚かもしれないが、セールスを受けているという圧迫感もオンラインのほうが弱い。

職人芸からの脱却を図る

何よりも、これまで営業パーソンの「職人芸」に頼っていた営業活動を共有化することで、組織としてのマーケティング活動ができることが大きい。とりわけ伝統的な生保の営業職員チャネルでは、そもそも新型コロナ以前からビジネスモデルの賞味期限が取りざたされていた。かつてに比べればやや改善したとはいえ、大量採用・大量脱落の構造は今も残り、顧客開拓からクロージングまで、基本的に個人のスキルにかかっている。
今回の対面販売の自粛がなくても、こうしたモデルの限界は意識されていたことだろう。この機会に、例えばデータサイエンスを全面的に用いるなどして、新しい時代に合った販売モデルを模索すべきである。

保険販売、特に生命保険は訪問販売でなければ売れないという声も根強い。確かに、ニーズが顕在化している自動車保険などに比べると、生命保険(死亡保険)は自らが保険金を受け取ることはなく、遺族保障の必要性を想像してもらわなければならない。各種の保障を組み合わせた商品も多く、業界以外の人は説明を受けても理解するのが難しい(業界人は、例えば携帯電話の説明を受けたときのことを思い出してほしい)。
ただ、せっかく新型コロナ禍で家族のきずなが強まり、保障に対する人々の意識も変化していると思われるのに、一歩踏み出さなければ、みすみすその機会を逃すことになりかねない。もはや危機対応の段階から、新たなビジネスモデルを模索する段階にきているのではないか。
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※写真は福大オリジナルクッキーです

 

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日産生命破綻処理に関する覚書き

保険会社の2019年度決算発表が始まりました。
まずは上場生命保険会社グループということで、15日に第一生命ホールディングス、T&Dホールディングス、日本郵政・かんぽ生命の決算発表がありまして、今週は損保決算、(非上場の)生保決算と続きます。

政府の緊急事態宣言が出たのは4月上旬なので、今回の決算発表では対面販売自粛の影響は営業数値にほとんど出てこないのではないかと思います。
他方で、非対面での保険販売を主力とするライフネット生命は4月の業績速報(PDF)で、新契約業績が過去最高を更新したことを明らかにしました。アドバンスクリエイトも4月の業績概要(PDF)で、保険代理店事業において、対面販売が落ち込む一方、通信販売が急増したことを示しています。

予定利率の引下げ

さて、タイトルは「日産生命破綻処理に関する覚書き」でしたね。
生命保険経営学会の機関誌「生命保険経営」最新号(第88巻第3号)に、明治安田生命保険の佐藤元彦さんによる同名の論文が掲載されました。

1997年4月に破綻した日産生命の破綻処理は、その後も相次いだ生保破綻の処理に大きな影響を与えました。
なかでも、「既契約の予定利率引下げ」と「早期解約控除の設定」は、次の東邦生命(1999年破綻)をはじめ、全ての破綻処理で採用されています。

論文によると、保護基金の発動、イコール契約条件の変更ということではなかったそうです。しかし、「収支上の必要性から予定利率引下げは余儀ないものだった」(論文より引用)。論文の注記には、「資金援助上限額2000億円だけで処理が可能だったとしたら、予定利率は引下げなかったであろう」とありましたが、資金不足が大きく、そうもいかなかったようです。

数年後にアクサが日本団体生命を買収し、破綻後ではないので、当然ながら高利率の契約もそのまま引き受けています。当時のアクサがどう判断したのかはわかりませんが、もし将来収支がマイナスでも、顧客基盤や新契約獲得能力など(いわゆる「のれん」ですね)に大きな価値があると判断すれば、条件変更なしでの破綻処理もありえたのかもしれません。
もっとも、破綻により日産生命の事業基盤はダメージを受けており、のれんを高く見積もることもできず、予定利率の引下げはやむを得なかったということなのでしょう。

新日産生命構想

「新日産生命構想」は本当にあったのですね。
破綻した日産生命の既契約の受け皿会社を、日立・日産グループ各社の共同出資で新設するというもので、既契約の維持管理だけでなく、新契約の獲得も行う保険会社を新たに立ち上げる構想でした。日産生命の欠損額が大きく、保護基金の資金援助2000億円では賄いきれないので、「残りの欠損額については、新日産生命の営業力と予定利率引下げ後の既契約の収益力を評価し、営業権として資産計上することで補う」(論文より引用)というスキームです。

残念ながら日立・日産グループからの出資を得られず、新日産生命構想は頓挫しました。論文には早期解約控除についての言及がなく、日立・日産グループの信用が拠りどころということで、出資者としては再破綻の可能性を意識したのかもしれません。

早期解約控除

最終的に日産生命の破綻処理は、生命保険協会の100%出資により、既契約の維持管理のみを行う受け皿会社(あおば生命)を新設し、そこに日産生命の契約を移転するスキームとなりました。既契約に対しては予定利率引下げなど基礎率の変更を行い、さらに、ここで「早期解約控除」が出てきます。

早期解約控除とは、業務再開後の数年間は、通常の解約控除に加え、一定額の解約控除を上乗せするというものです。
初年度の控除率を15%としたのは、「(保護基金からの)資金援助がなされない場合、およそ15%程度の積立金毀損が発生する」との見解を佐藤さんは示しています。この15%が妥当だったのかどうかはわかりませんが、あおば生命の経営を安定させるのに寄与したのは間違いないでしょう。後に生保協会があおば生命を売却できたのも、「既契約の予定利率引下げ」「早期解約控除の設定」をセットで実施したからだと思います。

会員以外のかたが論文を読めるようになるのは2022年1月になってからですが、破綻処理策の原案作成者による覚書きは貴重だと思いまして、ブログで紹介しました。

※緑が濃くなりましたね。

 

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新型コロナウイルスと保険会社経営

inswatch Vol.1028(2020.4.13)に寄稿した記事のご紹介です。

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4月から東京を離れ、福岡市にある福岡大学商学部で研究および教育活動を行うことになりました。主に「保険論」「リスクマネジメント論」の講義を受け持ちます。キャピタスコンサルティングにも非常勤として残るので、福岡と東京の二重生活となる予定です。

とはいえ、福岡にも非常事態宣言が出され、東京に戻るどころか、大学への立ち入りも原則として禁止です。新生活のスタートがこのようなものになるとは全く予想していませんでしたが、ネット環境が快適とは言えないまでも、何とかこちら(福岡の自宅)で仕事をできるようにはなりました。IT技術の進展はありがたいです。

昨年度決算はそれほど深刻なものではなさそう


さて、本年度もしばらく生保経営に関する話を続けることにしましょう。

4月となり、保険会社では昨年度決算の取りまとめが行われているところです。非常事態宣言が出るようななかで、作業は例年よりも大変だと思いますが、おそらく保険引受面での影響はほとんどありません(インフルエンザの発生が少なかったというプラス要因もあります)。
2月下旬からの株価急落には肝を冷やしましたが、通期で見れば、株価指数は10%程度の下落にとどまりました。主要通貨も豪ドルを除き、総じてやや円高といった程度なので、ソルベンシーマージン比率などの健全性指標がひどく悪化するようなことはなさそうです。

景気低迷による保険需要の減退


もちろん、今後の金融市場の動きは予断を許しませんし、日本銀行がマイナス金利の深掘りをしてしまい、超長期金利の水準が一段と下がるという悪夢のシナリオも否定はできません。
とはいえ、金融市場の急激な変動はリーマンショックで経験済みですし、海外事例を見ても、新型コロナの死亡者数が日本全体で数十万人に達するとは考えにくく(保険会社はその程度のシナリオまで想定して経営しています)、今のところ財務面の心配はそれほどしなくても大丈夫かと思います。

これに対し、営業面には深刻な影響が出るかもしれません。
パンデミックの発生が特定地域ではないため、ほぼ全国で営業活動に支障があります。会社専属の営業職員チャネルを主力とする会社でも、独立チャネルを中心に展開する会社でも、対面販売ができないのは非常に厳しく、事態がいかに早く収束に向かうかにかかっています。

新型コロナが人々の行動を変える


もし事態が収束に向かったとしても、単にそれ以前の状態に戻るということはないと思います。
2011年に発生した東日本大震災の後、対面販売チャネル、とりわけ顧客のもとに足を運ぶ訪問販売が再評価されました。ネット生保の苦戦もそのようななかで起きました。

今回はどうでしょうか。新型コロナの感染者数が頭打ちになっても、顧客が来訪者を気軽に受け入れるには、よほど親しくないかぎり、相当な時間を要するかもしれません。
ネット環境も一段と身近なものとなります。半ば強制的にとはいえ、テレワークやオンライン会議が日常となった顧客が、保障を得たいと思ったときに、どのようなチャネルを選ぶでしょうか(単純にネット生保に移行するということではないかもしれませんが)。

東日本大震災の後で人々の行動が変化したように、ポスト新型コロナの世界でも、人々の行動が変わることは間違いなさそうですし、それに応じたビジネスモデルの見直しが求められることでしょう。
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※週末にミートソースを作りました。
 30分以上も煮込んだ力作(?)です。

 

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保険会社は契約者に何を提供しているのか

inswatch Vol.1014(2020.1.6)に寄稿した記事をご紹介します。
現場のかたを念頭に、保険会社が経済的にみて何を提供しているのかという話を書いたのですが、ご理解いただけたでしょうか?
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将来のキャッシュフローを提供

新年ということもあり、今回はそもそも保険とは何かについて、改めて考えてみたいと思います。

読者の皆さんは保険流通に関わっているかたが多いでしょうから、保険会社が契約者に何を提供しているのかと聞かれると、「安心」「万一への備え」あるいは「愛情」といった答えが返ってきそうです。それはその通りなのですが、もう少し本質的に考えてみると、「キャッシュフロー」という言葉が浮上します。
保険会社は契約者から保険料を受け取り、将来、死亡や事故などのイベントが発生したら、契約者との間で予め決めておいた保険金額(査定による決定額を含む)を支払います。つまり、保険会社は契約者から取得したキャッシュフローをもとに、将来のキャッシュフローを提供しているのです。これは生保でも損保でも同じです。

生保と損保の経営リスクの違い

ただし、生保と損保では一般に契約期間が異なります。生保の契約期間は非常に長く、キャッシュフローの提供がかなり先になることが多いので、保険会社の経営リスクとして最も重要なのは、この間に経済環境や金融市場が大きく変動することです。死亡率や疾病の発生率もそれなりに変化するとはいえ、損保に比べれば限られています。
他方で、損保の契約期間は1年であることが多く、キャッシュフローを提供するまでの期間は短いのですが、事故の内容によって保険金の支払額が大きく変動するため、保険引受リスクの管理が重要となります。

原材料を仕入れる前に価格が上昇

保険が通常の商品と違うのは、原材料を仕入れなくても商品を提供できてしまうところです。
それでも損保の場合には、前述のように保険引受リスクの管理が重要なので、企業物件を中心に、保険会社が引き受け可能と判断した範囲内で保険を提供するのが以前から一般的な実務となってきました。

ところが生保の場合には、原材料を仕入れずに商品を大量に提供してしまったため、後になって困るということが起きています。

保険会社が将来のキャッシュフローを提供するためには、原材料として金融市場からキャッシュフローを仕入れてこなければなりません。原材料の価格は金利水準によって変わり、金利が上がると原材料が安くなり、金利が下がると原材料の価格が上がります(公社債の価格をイメージしていただければいいと思います)。
それを、「今は原材料価格が高いから、後で調達しよう」「そもそも日本では原材料を仕入れるのが難しい」などと後回しにしていたら、金利水準が一段と下がってしまい、仕入れる前に原材料の価格が上がってしまいました。これが今の生保が直面している現状です。

こうした現状は、現在公表されている基礎利益やソルベンシーマージン比率を見てもわかりません。
金融庁が経済価値ベースのソルベンシー規制を導入しようというのは、今の規制や会計の枠組みでは把握できない、保険会社が直面している現状を把握しようという取り組みなのです。
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※私の母が孫娘の着付けをしました。

 

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