01. 保険経営全般

生保の上半期報告

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こちらも正確には「平成21年度第2四半期(上半期)報告」だそうです。

報道は概ね「増収だが、実質的に減益」といったものが多く、
それはその通りかと思います。

他方、3月末に比べて株価が2割近く上がり、健全性については
あまり注目されなかったようですが、私は今回の生保決算では、
失った体力をどれだけ回復したかという点に注目していました。

主要生保9社は2008年度に内部留保を約2兆円取り崩しています
(これとは別に、大手4社は追加責任準備金を5000億円積んでいます)。

ざっと計算したところ、この上半期では内部留保は3000億円しか
増えていませんでした。
議論が分かれるところですが、追加責任準備金を入れると
5000億円強なので、結構いいペースと言うこともできます。
しかし、失った2兆円を取り戻すには、だいぶ時間がかかりそうです。

個社別に見ると状況はかなりまちまちです。
大手3社(日本、第一、住友)が、昨年度に取り崩した
危険準備金や価格変動準備金などの回復を図っているのに対し、
内部留保があまり増えていない会社も散見されます。

もちろん、この上半期報告だけでは判断できませんし、
すでに十分な体力があれば、あえて積み増しを加速しなくても
問題はないわけです。内部留保を増やすのではなく、
会社の経営リスクを抑えるという方向もあります。

ただ、2000年代前半よりも収益面は厳しいようですので、
今後の回復ペースは、個社によって相当違ってくるのではないでしょうか。

※イチョウ並木の第3弾は丸の内です。
  なお、前回は慶大日吉キャンパスでした。

 

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T&Dの決算電話会議

保険会社の第2四半期決算の発表が本格化しています。
昨日(11/19)は主要損保とT&Dでした。

T&Dホールディングスは今回、9月末のEEVを初めて公表しました。
2009/9末のEEVは1.1兆円で、3月末から2700億円も増えています。
ざっくり言って、増加の半分は株価回復によるもの、
残り半分は長期金利(=スワップレート)上昇によるものです。

他方、決算発表後に開かれた電話会議では、
普通株による公募増資計画(上限1200億円)について
アナリスト・投資家から質問が集中しました。

T&D決算電話会議のHPへ

ちなみに、3月末のEEVが半減した際には、株価が急落しています。
EEVの急増と公募増資計画(後者はすでに発表済みでしたが)を受けて
市場はどう判断するのか楽しみです。

損保についてはまた別の機会に。

※写真はある大学のキャンパスにあるイチョウ並木です。
 正解は次回に。

 

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統合損保の事業計画

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次のうち保険グループではないのはどれでしょう?(答えは一番下に)

 1. NKSJ
 2. T&D
 3. MS&AD
 4. MUFG

9/30に発表された損保3社(三井住友海上、あいおい、ニッセイ同和)統合の
基本戦略に続き、10/30には損保2社(損保ジャパン、日本興亜)統合の
事業計画が発表されました。

いずれも12/22の臨時株主総会の承認と関係当局の認可等を経て
経営統合が実現します。

両陣営の利益目標は次の通りです。

MS&AD=1500億円(国内損保1000億円、国内生保150億円、海外300億円)
NKSJ  =1600億円(国内損保900億円、国内生保500億円、海外160億円)
※MS&ADは2013年度、NKSJは2014年度

NKSJは国内生保の貢献度が大きく見えますが、
これは生保の「利益」の違いも影響しているようです。
MS&ADの生保利益が会計上の利益を修正したものなのに対し、
NKSJはEV増加額を修正したものを使っています。

ROEの見込みも同じ7%となっていますが、
分母となる「純資産」はMS&ADが連結純資産なのに対し、
NKSJは異常危険準備金や生保EVなどを加味したものなので
単純に比べることはできません。

経営統合に伴い、両者ともシステムを一元化するため、
いずれの計画でもシステム対応にかなりの時間とお金が
かかることがわかります。
NKSJの場合、2011年までは統合コストがシナジー効果を上回る見込みです。
MS&ADでも一時的なコストとして総額700億円を見込んでいます
(年間の統合効果は500億円)。

二つの統合計画を比べると、現時点で最も違うのは損保事業でしょうか。
MS&ADが統合後の損保事業再編(合併を含む)を検討するのに対し、
NKSJはあくまで「傘下に併存」「共通化/共有・高度化」です。
もちろん、最終的にどうなるかはわかりませんが。

解答は「4.MUFG」。
統合損保はそれぞれ何グループと呼んだらいいのでしょうか。

 

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INGの事業再編

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オランダを本拠とする大手金融グループINGは26日、
保険事業を売却すると発表しました。

日本のアイエヌジー生命のHPでは、

「ING の経営戦略の一環として、2013 年までに、銀行部門と
 保険部門(資産運用含む)の経営を分割することを決定しました」

「INGグループが世界で展開する保険事業を
 ひとつのグループ会社として上場する方法や、売却、または
 その組み合わせによるさまざまな選択肢を検討しております」

とありますが、これは保険事業をグループから切り離すという意味です。

投資家向け資料によると、2010年から売却の準備を始め、
遅くとも2013年までにはグループから保険事業を
完全に切り離す計画とのこと。
ちょうどAIGグループにおけるアリコと同じ状況になったと言えるでしょう
(株主が変わるだけで、契約条件などは変わりません)。

資料には、保険事業の売却代金を、オランダ政府が保有する
コアTier1証券の買い戻し、つまり、公的資金の返済にあてる
という説明もありました。

実のところ、今回の決定はある程度予想されていた事態でした。
先月のヨーロッパ便りで触れたとおり、公的資金を受け入れた
金融機関は欧州委員会から大規模なリストラを求められていたためです。

2009/9/8のブログへ

それにしても、シティグループ、クレディスイス、アリアンツなど
かつては保険事業を含む金融コングロマリットがいくつかありましたが、
これで大手銀行と大手保険事業の両方を抱えるグループは
ほぼなくなりました。

すべての金融商品を自前で提供するメリットよりも、
グループ経営が複雑になりすぎる弊害が大きかったのでしょうか。
今後の研究テーマになりそうですね。

※写真は武蔵大学です。1コマだけ講師を務めました。

 

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日系生保の中国ビジネス

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日本生命が中国での合弁生保のパートナーを変更したと発表しました。
これまでのパートナーだった上海広電が経営危機に陥ったこともあり、
中国農業銀行(中国4大銀行の一つ)系の金融サービス会社である
長城資産管理公司を新たな合弁相手として再出発するそうです。

合弁相手の経営危機がきっかけですが、合弁相手の変更により
従来のエージェントを通じたビジネス中心から銀行窓販中心へと
ビジネスモデルも大きく変わるのではないでしょうか。

中国の保険市場の規模はまだまだ小さいものの、
経済成長とともに高成長が続いています。

ただ、外資の実質的な参入規制はかなり厳しいです。
例えば生保の場合、外資の出資制限は50%となっており、
外資系企業として50%出資の合弁会社を設立するか、
あるいは中国系企業に部分出資するかしかありません。

地域制限や種目もあります。外資系企業への免許は通常、
地域限定免許かつ種目制限付きです。
もっとも、今回の日本生命のリリースには、
「中国全土における事業展開を目標」とあるので、
もしかしたらハードルを越えることができているのかもしれません
(あくまで想像ですが…)。

参入規制が厳しいのは、商品・サービスで見劣りする
中国系企業を守るためと言われています。
最初に上海に進出したAIG(100%出資)が短期間のうちに
市場シェアを獲得したため、という話も耳にしたことがあります。

他方、東京海上や住友生命のように、部分出資で中国企業として
参入したケースでは、成長は速いものの、今度は当初の出資比率を
維持できないという問題が発生するようです(一般論として)。

中国は日本の大手として無視できる市場ではありませんが、
成長の果実を得られるのはいつになるのでしょうか。

 

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個人年金市場への新規参入

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ソニー生命と、オランダに本拠を置くエイゴングループの合弁会社
「ソニーライフ・エイゴン生命保険」が生命保険業の免許を取得しました。
金融庁HPへ

準備会社の設立が2007年8月ですから、免許を取得するまでに
かなりの時間がかかりました。これも金融危機の影響なのでしょうか。

変額年金市場では、資産残高で上位5社のうち2社が撤退、
1社が主力商品の販売を停止するという異常事態が生じています。
他方、三井住友海上メットライフ生命やT&Dフィナンシャル生命、
第一フロンティア生命などのように健闘している会社もあります。

最低保証リスクの管理がきちんとできるのであれば(ここが重要)、
競争状況が緩んだため、残存者メリットがありそうです。
高かった代理店手数料の引き下げも可能でしょう。
この時期の新規参入は、実はそれほど悪くないのかもしれません。

日本ほどではありませんが、米国でも販売シェアがかなり動いています。
LIMRAによると、INGやAIG、ハートフォードがシェアを落とす一方、
メットライフやプルデンシャルは、むしろ昨年を上回る勢いです。

 

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相互会社が見直されている?

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7/2(木)に大手生保(第一生命を除く)の社員総代会があり、
いくつかのメディアから取材がありました。
どこかの媒体でコメントが出るかもしれません。

聞くところによると、AIGの経営危機などを踏まえ、
「相互会社に比べ、株式会社は株主からの圧力でリスクを取った経営になりがち」
という声があるようです。

確かに米国では、数少なくなった相互会社形態の大手生保が
高い信用力を維持しているのに対し、公的資金が入ったAIGにしても
ハートフォードにしても、株式会社形態です。

ただ、米国では相互会社形態を維持している大手生保の経営戦略が、
株式会社の大手生保とはかなり違っているのに対し、
日本の生保は相互会社も株式会社もほとんど変わらないように見えます。

相互会社の保険料が実質的に安いわけではなさそうですし、
「5年利差のみ配当商品」が主流というのも変な話です。
変額年金事業や海外保険事業も手掛けていますし、
保有株式を考えれば、リスク抑制的な経営とも言えません。

ですから、米国で相互会社形態が見直されているとしても、
日本の現状を踏まえると、あまり説得力がないように思います。

会社形態の違いが経営に反映されていると感じるのは
協同組合である大手共済です。
実質的な掛け金をできるだけ抑え、商品内容はシンプルで、
資産運用リスクもほとんどとっていないなど、
保険会社の経営とはかなり違いますね。

※広島に続く夏の出張第二弾は大阪でした。

 

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第一生命の最後の総代会

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6/30(火)の総代会を前に、第一生命が組織変更計画案と
株式の割当て状況を発表しました。

 第一生命のニュースリリース

これによると、1株以上の割当てがある社員(≒契約者)は306万人。
全体の37%です。整数株式を受け取り株主になることも、
株式相当の金銭を受け取ることもできます
(端数部分は金銭を受け取ることになります)。

1株未満の割当てがある社員は全体の53%(432万人)。
こちらもいくらかの金銭を受け取ることができます。

そして全く割当てのない社員は10%だけでした。
これは大同生命の26%、太陽生命の30%、三井生命の36%に比べ、
かなり小さい数字です。
社員権の喪失に対し何の補償もなくていいのかという疑問もありますが
(第一生命のせいではなく、そのような制度になっているのです)、
予定利率の高い、いわゆる「お宝契約」であるはずです。

「第一生命の契約者であると同時に社員である」という意識を持った
加入者は、おそらくほとんどいないと思います。多くの契約者にとって、
株式割当て(または金銭受け取り)は「たなぼた益」でしょう。

気になるのはその金額ですが、これは上場直前までわかりません。
ただ、第一生命のEVは1.5兆円、修正純資産だけでも1兆円強あります。
仮に1兆円を1000万株に分けるとしたら、1株当たり10万円です。

1株未満の割当てがある社員432万人には182万株の割当てですから、
平均すると1人当たり0.4株となり、4万円となりますね。

今後の経済・金融情勢にもよりますが、何らかの割当てのある
720万人にとっては、ちょっとした臨時ボーナスとなりそうです。

※写真は小雨に煙るランドマークタワーです。

 

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日本興亜損保の統合反対事件

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損保ジャパンとの経営統合計画を進めている日本興亜損保に対し、
前社長などが統合計画に反対する文書を送付したとのこと。

OBが現在の経営陣に注文をつけるというのは、日本ではよく聞く話ですが、
このような形で外部に明らかになるのは異例のことでしょう。

「親密金融グループが離反する」「日本興亜の文化の破壊」など
気持ちはわかりますが、現在の経営陣の決断に対し、
OBが揺さぶってどうしようというのでしょう。

しかも、この統合計画ではまだ統合比率(株式交換比率)が
決まっていません。

「対等の精神」とはいえ、損保ジャパンの株主からすれば、
日本興亜損保をいくらで買うかという話です
(本来は統合計画発表と「いくらで買う」はセットだと思いますが...)。

買い値をこれから決めようというこの時期に、おそらく株主でもあるOBが
自ら価値を下げるような行動をとるとは、私にはまったく理解できません。

3月の統合計画発表以降、日本興亜の株価は低迷していますが、
果たして7月にも発表される統合比率がどうなるか注目です。

※写真は多摩川から見た川崎のビル群です。

 

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かんぽ生命のがん保険

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かんぽ生命のがん保険販売に対し、米国生命保険協会が反対しています。
ただ、かんぽの宿問題とは違い、総務相はこちらは認める方向のようです。

かんぽの契約は、すでに政府保証はなくなっているわけですし、
海外からの圧力に負けず、このまま認めてほしいですね。

そういえば少し前、某国大使館のパーティーにお呼ばれした際に、
米国とカナダの経済担当者がこの件について叫んでいたのを思い出しました。
でも、根拠は「日本政府が株式を100%保有している」ということだけです。

かんぽ生命が郵便局を独占しているのであれば別ですが、
民間にも広く解放しています。
そのようななかで、政府が株式を全て手放さないと
かんぽ生命は新しい事業ができないなんて、かなり無理がある話です。
それじゃあAIGはどうなんだ、ということにもなりますよね。

結局、郵便局チャネルを外資系生保で押さえたいという話なのでしょう。

※出張で沖縄に来ています。暖かくていいですよ。

 

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