大手生保の課税所得が赤字に

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5/27、28の各紙(日経、朝日、中日、フジサンケイBなど)に、
大手生保4社の課税所得が赤字になるという記事が載りました。
ただ、各紙が何を伝えようとしたのか、今一つわかりにくかったという印象です。

ある新聞は「黒字なのに法人税がゼロになるのは異例」というものでした
(→けしからんということでしょうか?)。
また、別の新聞は「実質赤字なのに黒字化して契約者に配当するのは
健全性の面でいかがなものか」という趣旨に読めました。

今回のケースは有税で積み立てていた各種準備金を取り崩した結果、
会計上は黒字でも課税所得は赤字となるわけで、
「黒字なのに税金を払わずにけしからん」という話ではありません。

他方、「契約者への配当を減らせば、その分、財務上の余力を
確保できる」というのは確かにその通りです。
黒字とはいえ、あれだけ有価証券関連の損失が出れば、
課税所得を持ち出すまでもなく、「実質赤字」に違和感はありません
(「キャピタル損益を含む基礎利益は軒並み赤字のはずです」)。

ただ、報道によると、第一生命の減配額は40億円です(個人向け)。
内部留保の取り崩し額や含み損益の減少額などと比べると、
ほとんど象徴的な意味しかありません。

仮に、朝日生命のように個人向けの配当をやめたとしても、
過去のディスクロ誌などから推測すると、大きく見積もっても
せいぜい300~400億円しか浮かないとみられ、
ソルベンシー・マージン比率を高める効果はほとんどありません。

課税所得に着目するのであれば、繰延税金資産の妥当性について
突っ込んだ取材をしていただきたいです。
ご参考までに、医療保険が好調なオリックス生命は
2008年度決算で繰延税金資産を全額取り崩したようです。

※写真は飯山城址から見た千曲川です

 

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公表逆ざや額の限界

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すでに発表されている第一生命と大同生命の「逆ざや額」をみると、
数字が極端に悪化しています。

 第一生命 2007年度= 11億円の順ざや → 2008年度= 648億円の逆ざや
 大同生命 2007年度=217億円の順ざや → 2008年度=1298億円の逆ざや

この結果、大同生命は基礎利益が赤字となってしまいました。
これだけみると、逆ざや額を保険関係の差益でカバーできていないことになります。

しかし、超長期の負債に対し、長期の資産で運用する生保にとって、
実質ベースの逆ざやが短期間でここまで極端に動くことはありません。
指標が実態を表していないことがわかります。

大同生命の2008年度の公表逆ざや額が膨らんだ理由は、
含み損となった投信の解約に伴う多額の損失が反映されたためです。
第一生命の場合は、詳細は不明ですが、2007年度までの逆ざや額が
何らかの要因により実態よりも小さくなっていたようです。

いずれのケースでも、公表逆ざや額が実態をうまく反映していないので、
この数字をそのまま使うのはやめたほうがいいと思います。

※写真は飯山の古い雁木(がんき)です。

 

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損保の決算発表

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5/20(水)は主要損保の決算発表集中日でした。
決算発表に関する翌日の報道をみると、

「金融危機の直撃で全社が経常赤字に転落、損害保険ジャパンなど四社が
 最終赤字となった」(日経)
「有価証券の損失が拡大するなどし、税引き後利益は損害保険ジャパンなど
 3社が赤字、東京海上ホールディングスなど2社が減益」(読売)
「6社合計の金融危機関連損失は7697億円に達し、08年9月中間期時点の
 約4倍に膨らんだ」(朝日)

など、損益に関する記述が中心でした。
損保にかぎらず、決算記事はたいていP/L中心の記述となりますよね。

地方紙の一部で私のコメントが掲載されたようですが(共同発)、
これも損益に関するものでした↓

「国内部門の収支改善を進めなければ、再編してもいずれ苦しくなる」

ただ、金融危機の影響ということであれば、
黒字か赤字かということよりも、B/Sに注目です。

P/Lは有価証券評価損の計上ルールによって結果が大きく変わります
(上場損保は「30%ルール」なので赤字になりやすいのです)が、
B/Sへの影響はニュートラルです。

各社の純資産(価格変動準備金を含む)をみると、
大手3社は1年間で4割超の減少、富士火災は6割超も減りました。
大手は会社価値を1年間で、それぞれ5000億円~9000億円も
減らしてしまったことになります。ものすごい金額です。

大手損保の場合、まだ健全性が揺らぐような事態ではないとはいえ、
経営者はこれを株主や契約者にどう説明していくのでしょうか?

 

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EVショック

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T&Dホールディングスの2009/3期決算発表を受けて
翌日の株価が急落しました。発表後2日間で15%超の下落です。

株式アナリストではないので断言はできませんが、
EV(エンベディッド・バリュー)が予想以上に減ってしまったことが
影響したのではないかと思います。

EVは株主から見た生命保険会社の価値を示すものです。
年度末の純資産に、保有契約が将来生み出す利益を加えたもので、
会計情報を補うものとして活用されています。

T&Dが発表した2009/3末のEVは8665億円と、
前期に比べ7551億円の減少となりました。
株価下落などにより純資産が5218億円減ったうえ、
金利低下などにより保有契約価値も2333億円減ったためです。

株価下落などによる影響はともかく、金利低下による影響が
これほど大きいとは意外でした。

長期の国債利回りは1年前に比べ、それほど下がっていません。
ところが、T&Dが計算で使っている金利スワップレートは
おそらく金融市場混乱の影響で国債利回りを大きく下回ってしまい、
結果的にEVを1000億円単位で押し下げてしまいました。

多くの会社が発表しているEV(トラディッショナルなEV=TEVと言います)
とは違い、T&DのEVは「EEV」といって、できるだけ恣意性を排除し、
市場整合的な評価となるように工夫されたものです。

それでも今回のように市場が異常な動きを示すと、
「市場整合的な」評価であるEEVにも影響してしまうわけですね。
難しいものです。

EVに関してはT&D以外でも、次のような不思議な?動きがあります。
今後解読していきたいと思います。

・新契約ANPが前期比18%増、新契約高も増えたにもかかわらず、
 EVの新契約価値は前年の37億円から2億円に減少
 (東京海上日動あんしん生命)

・資産運用以外の前提条件が変わった(詳細不明)ことにより、
 EVの保有契約価値が1904億円→1820億円と減少
 (損保ジャパンひまわり生命)

・新契約ANPでも新契約高でも、第一生命はソニー生命の数倍規模ですが、
 新契約EVはあまり変わりません。
 もちろんEVは単純比較できないのですが、これをどう解釈するべきか。

・T&Dフィナンシャル生命や東京海上日動フィナンシャル生命、
 第一フロンティア生命といった変額年金を主軸とする会社の
 新契約EVがマイナスとなっているのですが、どう見るべきか。

 

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週刊金融財政事情に執筆しました

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今週号(2009.5.18号)は保険窓販特集です。
といっても記事は3つで、このうち1つが私のものです。

冒頭の要約部分をご紹介しましょう。

・金融危機に伴う運用環境の悪化等により、商品を提供する保険会社、
 販売の担い手である金融機関の両者とも、想定外の事態に直面している。
・だが、今後の金融機関経営にとって、保険・年金商品の重要性は
 ますます高まっていく方向にある。
・今回の危機を奇貨として、過度な商品開発・代理店手数料の競争が
 是正され、金融機関と保険会社の関係が正常化されることを期待したい。

今回の特集は「保険窓販はリテールの主柱たりうるか」という題名ですが、
依頼があった時点では「窓販全面解禁について書いてほしい」という
リクエストだったように思います。

たぶん、私と三井住友銀行コンサルティング事業部長・奥敦之さんの原稿
「平準払保険等の積極推進でトータル・コンサルティング・ビジネスを実現」
を見て、編集部はより踏み込んだ題名にしたのでしょう。

詳しくは本誌をご覧下さい。

※写真は長野・善光寺です。

 

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「なぜ世界は不況に陥ったのか」

これも主に連休中に読みました。
慶応大学の池尾先生と上武大学の池田先生の対談という形で
今回の金融危機について議論が進められています。

対談形式がこれほどわかりやすいとは新たな発見でした。
池尾先生はかなり高度な話をしているのですが、
池田さんがメディア出身のためか、どんどん読み進めていくことができました
(なかには議論がかみ合っていないところもありますが…)。

私が印象に残ったのは、次のような話でした。

「適正価格が見いだせないという問題が(米金融危機の)本質」
「グローバルモデレーション(大平穏)とグローバルインバランスの急拡大」
「短期的な症状を緩和する政策/中期的に制度を立て直す政策」
「結局、1980年代に直面した問題と基本的に同じような問題に再び直面」

 

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今月のスピーチから

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今月に入り、外部でスピーチをする機会が何回かありました。
このうち二つはいずれも「金融危機と今後の保険業界」というテーマ。
でも、話の内容はかなり違ったものとなりました。

一つは損害保険代理店の同業者組合(=東京代協です)でした。
出席者の大半が保険代理店だったので、AIGショックや
損保再々編、保険流通の変化を中心にスピーチしました。

人数がそこそこ多かったにもかかわらず、
質問が途切れなかったうえ、懇親会でもたくさん質問をいただきました
(再編関連、通販、時価会計、金融危機と格付け、などなど)。
温度差はあるのでしょうけれど、熱心なかたが多かったという印象です。

もう一つは某大手証券主催の投資家向け保険セミナーでした。
生損保の経営分析のほか、保険会社の「経営の質」、
ソルベンシー規制と保険経営への影響、といった話をしました。

この「投資家向け」セミナーはクレジット投資の機関投資家が対象でした。
ところが、メインテーマである大手・中堅生保の経営分析に加え、
意外にも(?)変額年金への関心が高かったようです。
投資対象ではなさそうなのですが、理由はよくわかりません。

原稿執筆やテレビ出演と違い、スピーチはお客さんの反応を
直接感じることができるので、ありがたいです。
失敗して凹むこともありますが...

 

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変額年金事業はどうなる?

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ハートフォード生命に続き、今度は住友生命が年金原資保証タイプの
変額年金(一時払い)の販売休止を発表しました。

もともと住友生命は変額年金事業でも大手でしたが、
昨年のAIGショックやハートフォードショック(=運用停止)、
三井生命の撤退といった競合他社の動きを受け、
市場シェアが数%から4、5割まで急激に高まってしまったとのこと。

他方で過去に販売した変額年金の最低保証対応として、
住友生命は2008年度決算で1638億円もの責任準備金を
積み増すわけですから、今回の決断は理解できる話です。

主に預金代替商品として急成長してきた日本の変額年金事業が
曲がり角にあるのは間違いありません。

「高い代理店手数料」と「最低保証」「値上がり期待」の両立は
もともと無理があったようにも思えます。
しかし保険会社の新規参入が相次ぐなかで、市場は銀行主導で動いてきました。
今回の金融危機は製販の関係を正常化するいいチャンスかもしれません。

私は、銀行が個人のライフサイクルに合わせたリテールビジネスを
確立するうえで、保険・年金商品は不可欠な存在だと考えています。
しばらくは悪い話ばかりが目立つと思いますが、
数年タームで見ていく必要がありそうです。

 

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RINGの会オープンセミナー

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意識の高い保険代理店の集まりであるRINGの会が
今年も横浜でオープンセミナーを開きます。7/11(土)です。

RINGの会オープンセミナーHPへ

HPをご覧いただければわかるとおり、今回は業界再編をテーマに
3つのパネルディスカッションを行います。
この日は朝から晩(懇親会)まで保険漬けです。

このうち私は第一部「金融危機と保険大再編」で登場する予定です。
第二部は消費者にとって、第三部は代理店にとっての再編がテーマです。

土曜日の横浜にもかかわらず、前々回、前回ともに
1000人入る会場が満員になりました。
こうした保険会社経由ではない情報収集の機会は
おそらく貴重なのでしょうね。

※写真は神田紺屋町のおみこしです。
 この週末は神田祭の見物に行きました。

 

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「巨大銀行の消滅」

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GW中に読んだ本です。
副題は「長銀『最後の頭取』10年目の証言」。

本書は日本長期信用銀行(長銀)がなぜ破綻に至ったのか、
その原因や経緯についての当事者からの報告です。
いろいろ感想はあるかと思いますが、当事者による証言は
やはり貴重なものです。

私が最も印象に残ったのは、次のところです。
「結果論だが、長銀にとっては、このとき(1980年代半ば)が、
 『名誉ある合併』の好機だったのだろう。
 しかし、長銀の自尊心はその発想すら奪っていた。」

1980年代半ばといえば、長信銀制度の存立意義が失われ、
収益も低迷していた時期です。
その後長銀は不動産関連融資で資産規模を拡大し、
バブル崩壊による不良債権問題に苦しむことになります。

筆者はSBCとの「不平等条約」締結について、
「視点を変えて問題提起するという取締役の役割を果たし得なかった」
「担当セクションの判断を尊重する縦割りの思考に、私自身、
 どっぷりと浸かっていたことが悔やまれる」
と述べています。
これは当時の長銀だけではなく、今日的な教訓だと思います。

それにしても、長銀破綻で行政(大蔵省)の果たした役割は
中堅生保の破綻事例以上に大きかったように感じました。

 

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