なぜ「他社の経営経験」なのか

7月16日(金)に日本代協 阪神ブロックWebセミナーで講師を務めました。
演題は「2020年度決算にみる大手損保グループの経営戦略」で、大手損保グループの経営が依然として市場環境の変動によって大きく振れることや、損保4社の各種指標の違いなどをご覧いただいたうえで、中期経営計画の注目点をお話ししました。いかがでしたでしょうか。

阪神ブロックといってもzoomを使ったセミナーだったので、私は福岡でスピーチを行いましたし、おそらく参加者の皆さんも各地に広がっていたのではないかと思います。懇親の場がなく、参加者の反応がわからないのは残念ですが、便利な時代になりました。

社外取締役の要件

最近、授業でコーポレートガバナンスの話をしていて、改めて気になったことがあります。
現在のコーポレートガバナンス・コードの補充原則4-11①の最後に、「独立社外取締役には、他社での経営経験を有する者を含めるべきである」とあるのをご存じでしょうか。2021年6月の改訂時に加わった文言です。
CGコード(修正履歴付きPDF)

改訂について議論したフォローアップ会議の資料によると、「独立社外取締役には、企業が経営環境の変化を見通し、経営戦略に反映させる上で、より重要な役割を果たすことが求められるため、他社での経営経験を有する者を含めることが肝要」なのだそうです。
しかし、そもそも日本のコーポレートガバナンス改革は、会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上を目指すものであり、その背景には日本企業の経営陣が適切なリスクテイクをせず、株主に求められる資本コストを上回るリターンを総じて稼げておらず、世界に差をつけられてしまっていることがあります。それなのに「他社の経営経験を有する者を含めるのが肝要」とはどういうことでしょうか。
他社の経営経験者となると、多くの場合、日本企業の社長OBなどが候補になることを想定しているのでしょう(CEO等の経験者に限られるという趣旨ではないとはありますけど…)。しかし、過去30年間の日本の経営が総じてうまくいかなかったから、政府がガバナンス改革を進めているのですよね。どうしてこのような改訂になったのでしょうか。

なお、ガバナンス特集を組んだ週刊東洋経済(2021年7月10日号)のインタビュー記事で、東レの日覺社長は「(企業によって事業や状況は全く異なるので)よその経営経験者に社外取をお願いして経営方針を相談し、「いい意見をもらった」と喜ぶトップがいるのならば、そのトップはすごくレベルが低いから今すぐ辞めたほうがいい」と語っていました。
日覺社長は「会社の大事なことは社外の人間ではなく、事業をよく理解している社内の人間で話し合って決めるべきだ」とも語っていて、私の問題意識とはやや異なるようですが、社外取締役に何を期待するのかを考えると「他社の経営経験を有する者を含めるのが肝要」という結論にならない点は同じでした。

※15分の船旅を楽しみました。

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

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