15. 執筆・講演等のご案内

リスクと保険を学ぶ大学生の全国大会を開催

今週の保険代理店向けメールマガジンInswatch Vol.1208(2023.11.13)に寄稿したものを当ブログでもご紹介します。今回は12月のRIS2023についてです。
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今年は福岡大学で開催

久しぶりに大学関係の話を書かせていただきます。

来月12月2日(土)の午後から3日(日)にかけて、全国12の大学の「リスクと保険」を学ぶ大学生が福岡大学に集まり、日ごろの研究成果を報告するという大会(RIS2023)を開催します。
RISは全国学生保険学ゼミナールの通称で、2004年度から始まり、今回は20回目の大会となります。参加しているのは保険論関係のゼミナールが中心ですが、報告テーマは幅広く、保険やリスクマネジメントのほか、金融、ファイナンス、社会保障、経営戦略までカバーしています。ご参考までに、昨年度は下記のような報告がありました(全25報告の一部です)。

「食品ロスのリスク」
「男性の育児休業の関する考察」
「自動運転化社会の将来展望-コミュニティバスの自動運転化へ」
「テレワークに関するリスクマネジメント」
「環境規制というリスクが産業に与える影響」
「日本の生命保険会社が中国事業を継続する要因」

ちなみに昨年度の植村ゼミの報告は「地震保険の加入動向」「コロナで苦しむ学生向けの保険」の2つでした。今年度は3つの班があおり運転や対面販売、物流問題について報告を行う予定です。

実務家の参加も多い

こうした大学の枠を超えたゼミナール活動の背景には、少子化が進むなかでの将来の保険研究・教育の衰退に対する危機感があります。
日本人にとって保険は身近な存在ですし、昨年度のコロナ保険の給付金、今年度のBM社による保険金不正請求事件など、保険に関する出来事は大きなニュースとして扱われることが多いと感じます。さらに言えば、保険会社(特に大手)は大学生にとって人気の就職先となっています。ところが大学では、保険関連の講座は縮小傾向にあり、この分野に関心を持つ若い世代を育てるのが徐々に難しくなりつつあるのです。
そこで、何かの縁があってリスクと保険を学ぶことになった大学生に向けて、RISは大学の枠を超えて切磋琢磨できる機会を用意し、大きな舞台で報告や交流を行うことを通じて彼らの成長を促そうとしています。それは保険業界の将来にとっても有益な取り組みではないかと自負しています。

RISの大会は大学生と教員だけで閉じられたものではありません。毎年多くの実務家にご参加いただき、報告への質問・コメントをいただいています。今回は福岡での開催(オンライン参加はありません)ですが、土曜日の夕方には懇親会もありますので、リスクと保険を学ぶいまの大学生に触れる貴重な機会となるかもしれません。
現在、RISのサイトから大会参加の申し込みを受け付けていますので、ご興味のあるかたはぜひご参加いただければ幸いです。
RISのサイトへ

リアルな交流を重視

今回のRIS2023は、福岡という首都圏や関西圏から遠く離れた開催地にもかかわらず、対面参加のみとしました。それには対面・オンライン併用が物理的に難しい(同時に最大4教室で報告がある!)というだけではなく、大学生にリアルな緊張感や交流を体験してもらうためです。

コロナ禍で私たちはzoomをはじめ、オンラインミーティングの便利さを知りました。私自身も、福岡にいながらにして保険会社の本社スタッフへのインタビューができたり、大学の研究室からテレビに出演したりと、多くの恩恵を受けています。
その一方で、私たちは対面のありがたさや、対面でなければ難しいことがあるのにも改めて気付きました。オンラインミーティングは効率的な半面、対面よりも情報が少ないというか、どこか平坦なやり取りになってしまいます。新たに人間関係を構築するのは至難の業ですし、会話のなかで気付きを得られる機会が少ないように思います。
特に若い世代にとって、RISは同年代との交流だけではなく、皆さまのような社会人とリアルに話ができる貴重な機会です。そこで今回は利便性よりも対面参加のメリットを優先させていただきました。
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※福岡も一気に冬の寒さとなりました。

 

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「ソウル おとなの社会見学」

10月31日の週刊金融財政事情の書評(一人一冊)をこちらでもご紹介します。今回取り上げた書籍は大瀬留美子さんの『ソウル おとなの社会見学』です。
9月24日のブログは、この最後の1行(インバウンドの復活に比べ、日本人出国者数の回復は鈍い)を書くために調べたものでした。
以下、引用となります。

旅に出れば見えてくるものがある

20年ほど前、希代の教養人として知られる出口治明さん(立命館アジア太平洋大学学長)と初めてお会いして、意気投合したことがあった。金融界では珍しい歴史学科出身の私が、「格付けアナリストとしてタテ(歴史)とヨコ(地理)を軸に考え、旅に出ることを心掛けている」と話すと、出口さんは大いに共感してくださった。もっとも出口さんは世界1,200都市を訪れている方なので、「意気投合」と言うのはおこがましいかもしれない。

旅に出ることをお勧めするのは、当然ながら「事件は現場で起きている」からであり、実際に足を運ぶとさまざまな気付きを得られるからである。私たちはコロナ禍でオンラインのありがたさとともに、リアルで会うことのメリットも再認識した。
とはいえ、旅に出て何かを見てやろうと思っても、予備知識次第で見えるものがまったく違う。通常のガイドブックに頼るのもいいが、本書のような「短期間の滞在では気付きにくく、興味を持たなければ通り過ぎてしまうテーマの鑑賞ポイントとうんちくをたくさん詰め込んだ」(本書から引用)書籍に巡り合うと、それまで見えなかったものが見えるようになるから不思議だ。

例えば本書では、ソウルの「渋い喫茶店」をテーマの一つに挙げている。ソウルの町を歩くと至る所にしゃれたカフェがあり、おいしいコーヒーやデザートにありつける。しかし、渋い喫茶店とはそのような所ではない。何十年も続く老舗のタバン(茶房)と呼ばれる喫茶店で、コーヒーはインスタントだったりする。ハングルの壁もあり、知らなければ通り過ぎてしまうだろう。
また、都市部の河川や水路を地中化した暗渠(あんきょ)も興味深いテーマである。ソウルの都市化に伴い、多くの河川が暗渠化された一方、近年では暗渠となっていた川を、市民の憩いの場として復元した所もある。それぞれに経緯があって、著者のうんちくがふんだんに盛り込まれているのがいい。

旅に出るのを勧めるもう一つの理由は、自分の日常を客観的に見ることができるからである。ソウルは日本から近いといっても、外国である。本書を読んでソウルの町歩きを楽しむと、おのずと日本の現状と比べたくなるだろう。それに海外に行けばいやでも円安を実感するし、日本の存在感がどの程度なのかを考えるきっかけにもなる。
インバウンドの復活に比べ、日本人出国者数の回復は鈍い。そろそろ積極的に海外に出るときではないだろうか。

※この3連休は福岡大学の学園祭(七隈祭)でした。

 

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近況報告

佐賀で出張授業(10月20日)

佐賀市にある県立高校の1年生に出張授業で「リスクと保険」の話をしてきました。
高校に入学してまだ半年の生徒でも「ビッグモーター」事件は浸透しているのですね(スライドを見せたら「わぁ」と声が上がりました)。
ただし、事件を知っていても「車をわざと壊して不正にお金を受け取った」くらいの理解ですので、保険のしくみを説明したうえで、ビッグモーター事件のどこが問題なのかをお話ししました。

佐賀は博多駅から特急で40分という近さにもかかわらず、町の中心部に行ったのは今回が初めてでした。
駅から30分ほど歩くと佐賀城跡があって、本丸御殿が再建されています。写真のレトロな洋館は旧古賀銀行の本店です。現在は歴史民俗館・カフェレストランとして使われています。

RIS九州ブロック中間報告会(10月22日)

西南学院大学で九州の4大学のゼミが報告会を行いました。
今の植村ゼミ3年生は、2年生の12月に学内の報告会を経験しているとはいえ、他流試合は初めて。しかも、研究はどの班もまだまだゴールが見えない状況です。それでも他大学の報告を目の当たりにしたり、実務家からアドバイスをいただいたりしたなかで、何かを得ることができたのではないかと思います。ここからの約1か月が勝負なので、がんばりましょう。

RIS2023の全国大会は12月2日、3日に福岡大学で行います。今回は対面のみの開催で、久しぶりに懇親会もあります。
申し込みが始まりましたので、リスクと保険を学ぶ学生にご関心のある方はぜひご参加願います。お申し込みはこちらです。

東洋経済『生保・損保特集』に寄稿

毎年恒例の週刊東洋経済の臨時増刊『生保・損保特集』が本日発売されたようです。
今回は久しぶりに執筆しました(新しいソルベンシー規制について)。業界人だけではなく、保険業界に関心のある学生にも理解できるように書いたつもりなのですが、どうでしょうか。

 

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平成時代の社会変化と生命保険のニーズ

寄稿の紹介が続きますが、今週の保険代理店向けメールマガジンInswatch Vol.1204(2023.10.16)に寄稿したものです。

<参考資料>
グラフで見る世帯の状況 ※最新版は有料のようです
専業主婦世帯と共働き世帯
50歳時の未婚割合の推移

なお、日本の未婚化について、ニッセイ基礎研究所の天野さんによるレポートを見つけました。ご参考まで。
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世帯構造の変化

皆さんにいくつか質問です。まず、現在の日本では何人世帯が最も大きな割合を占めているかご存じでしょうか。
正解は2人世帯でして、世帯数全体の約3割を占めています。次に多いのは1人世帯で、全体の4分の1くらいです。1970年代から80年代にかけて最も大きな割合を占めていたのは4人世帯だったので、これだけでも平成時代の30年間に日本の世帯構造が大きく変わったことがわかります。

次の質問です。2022年現在、専業主婦世帯と共働き世帯の割合はどの程度でしょうか。
正解は約3:7で、共働き世帯が多数派となっています。1980年代までは共働き世帯のほうが少数派でしたが、90年代に両者の割合がほぼ同じとなり、2000年代以降、共働き世帯の割合が高まりました。
もっとも、女性雇用者の約5割が非正規雇用であり、年齢が高いほど非正規雇用の割合が高まる傾向にあります。

もう1つ質問です。2020年において、50歳時の男性の未婚割合、つまり、50歳時点で一度も結婚をしたことのない人の割合はどれくらいでしょうか。
正解は28.3%です(計算方法の違いにより25.7%という数字も公表されています)。ちなみに女性は17.8%です。30年前の1990年には男性が5.6%、女性が4.3%でして、年々割合が高まり、今や4人に1人を超す男性が50歳時点で結婚経験がありません。
日本は婚外子の割合が2%強と少ないので、結婚しなければ子どもが生まれないということになります。

生命保険の事業環境は激変

いかがでしょうか。平成という時代は、日本の世帯構造が大きく変化した時代だったことが改めてわかります。
これらの影響を多くの産業が受けているのですが、とりわけ生命保険業界には猛烈な影響がありました。遺族保障のニーズが強いであろう夫婦2人・子ども2人で妻が専業主婦の4人世帯は、もはや少数派となってしまいました。シニアの2人世帯は「そろそろ生命保険から卒業」でしょうし、共働きの2人世帯では、普通に考えれば、子どものいる専業主婦世帯に比べて遺族保障のニーズは小さいはずです。1人世帯にいたっては、親が受取人となる生命保険に加入する人は少ないでしょう。

他方で、どの世帯においても、老後の生活保障ニーズはますます強まっていると考えられます。他の金融機関・金融商品との激しい競争を覚悟したうえで魅力的な資産形成手段の提供に活路を求めるのか、あるいは、生命保険会社が得意としている(はずの)死亡率等を使った長生きリスクへの対応を強めるのか。
いずれにしても事業環境の激変に対し、生命保険会社が国内でできることはまだまだあると思います。
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※福岡タワーの影が砂浜に!

 

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「リスク」と「損失」を分けて考える

インシュアランス生保版(2023年10月号第1集)に寄稿したコラムをご紹介します。
文中に「2026年」とありますが、台湾では2026年にIFRS17号とICS(経済価値ベースのソルベンシー規制)が同時に導入される予定となっています。
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アジア生命保険振興センター(OLIS)が4年ぶりに開催した海外セミナーの講師を務めるため、8月下旬に台湾を訪問した。OLISは1967年から国内外での研修・セミナーなどを通じてアジア諸国の生命保険事業の発展に尽くしてきた財団で、アジアの生命保険会社の経営陣や監督官庁にはOLISセミナーの卒業生が数多く存在する。今回の台湾でも、セミナー後の懇親会には大手生保の経営トップが何人も集まり、保険行政の責任者との意見交換を行うこともできた。こうした人的つながりはOLISの長年にわたる継続的な取り組みの賜物であろう。

さて、懇親会で大手生保のトップどうしが中国語で真剣に意見を交わしていたので、気になってたずねてみると、IFRSとICSへの対応をどうするか、つまり、2026年に予定されている経済価値ベースに基づく新たな会計基準と健全性規制の導入に向けてどう対応するかという話だった。保険行政との意見交換でも、課題として真っ先に上がったのがIFRS・ICSの導入支援だった。
近年、台湾生保の主力商品は外貨建ての貯蓄性商品となっている。とはいえ、既存の保険負債には現地通貨建てが多く、かつ、過去に獲得した高利率契約も残っている。これに対し、台湾でも低金利が長く続き、各社は運用利回りの向上を図るため、外国公社債への投資を進めてきた。この状態のままで経済価値ベースの会計・規制を導入すると、おそらく保険負債が膨らみ、金利などのリスク評価も厳格に行われることから、資本増強が必要となるのかもしれない。

話をしていて気がついたのは、「リスク」と「損失」が混在していることだった。外国公社債への積極的な投資の理由を尋ねると、「逆ザヤとならないように」という答えが返ってくる。だが、低金利下における過去に獲得した高利率の契約は、経済価値ベースで見ればすでに損失が発生している状態であり、もはやリスクではない。そのなかで外国公社債への投資を増やすのは、損失を抱えつつ新たに外国公社債のリスクをとるという行動なので、資本への負荷が一層かかってしまう。現地通貨建ての長期債市場が非常に小さいという事情を踏まえても、損失を損失と認識しなかった結果が、バランスシートの6割前後を外国公社債が占めるという現状につながっているのではないだろうか。

日本の生命保険会社は30年前から主力商品の保障性シフト、短満期シフトを進めてきた。過去に獲得した高利率契約を抱えつつも、内部留保によって支払余力を増やし、超長期債の購入によって金利リスクを減らしてきた。とはいえ、この10年間の外貨建て資産の動向を見ると、いまだに単年度の逆ザヤをリスクとして意識しているようにも見える。果たして「リスク」と「損失」を分けて考えることができているのだろうか。
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※福岡大学でライトアップのイベントがありました。

 

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なぜ外貨建保険なのか

今週の保険代理店向けメールマガジンInswatch Vol.1200(2023.9.11)に寄稿したものを本ブログでもご紹介いたします。通算1200号なのですね。
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外貨建保険の販売管理態勢

8月29日に金融庁が公表した「2023事務年度 金融行政方針」のコラムに「顧客本位の業務運営に関する販売会社の取組状況」がありました。これは金融庁が6月末に公表した「リスク性金融商品の販売会社による顧客本位の業務運営のモニタリング結果」のうち、販売会社の主な課題を整理したものです。
このうち、外貨建一時払い保険の販売管理態勢の課題がうまくまとまっていたのでご紹介します(コラムの40ページより引用)。

<運用が目的>
・リスク・リターン・コスト等に関し、他金融商品との比較説明を未実施

<保障が目的>
・目標到達型保険で、目標到達後に保険を解約させて保障期間を断絶

<相続が目的>
・非課税枠を大きく超える保険金等の額を契約時に設定

そもそもですが、顧客にとって外貨による資産運用が目的なのであれば、まずは保険ではなく、外貨預金や外貨建て投信などが挙がるでしょう。保障を得ることが目的であれば、あえて為替リスクを顧客に抱えさせる必要があるとは思えません。相続が目的の場合も、解約してしまえば目的を達成できませんし、やはり外貨である必然性もありません。
そう考えると、顧客にとって外貨建一時払い保険でなければならない理由は見当たらず、そもそも販売管理態勢の問題ではないのかもしれません。

「外貨建て」「変額」であるべき理由を説明できるか

金融庁「リスク性金融商品の販売会社における顧客本位の業務運営のモニタリング結果」には、リスク性金融商品(投資信託、ファンドラップ、仕組債、外貨建一時払い保険)の販売の現状が載っています。対象となる金融機関は主要行等、地域銀行、証券会社等です。
保険のところを見ると、主要行等も地域銀行も継続的に一時払い保険を販売してきたにもかかわらず、主要行等の一時払い保険の預かり資産残高はほぼ横ばい、地域銀行も微増にとどまっています(7月28日配信のプロフェッショナルレポートを参照)。
運用目的だとしても、預かり資産残高が伸びていないというのは、銀行による投資信託の販売と同じ問題を抱えている、すなわち、販売会社の都合で販売や解約が行われているのではないかと疑わざるを得ません。

この問題は銀行窓販に限った話ではないと思います。近年、銀行以外のチャネルでも外貨建てや変額タイプの生命保険の取り扱いが増えていると耳にします。超長期の保障を得るにあたり、円金利の水準が依然として低い、あるいは、将来のインフレによる保険金の目減りが心配(変額タイプであればインフレヘッジになりうる)といった理由から、一定の顧客ニーズがあるのは理解できます。
ただ、チャネルとして一般の顧客に積極的に勧める商品かと言われると、私には疑問が残ります。多くの顧客が理解し、納得するような説明をするのはそう簡単ではないので、つまるところ金融リテラシーの低い顧客をターゲットにしたビジネスに陥りがちだからです。
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※写真は韓国・仁川の旧市街です。

 

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損害保険代理店統計

今週の保険代理店向けメールマガジンInswatch Vol.1196(2023.8.7)に寄稿したものを本ブログでもご紹介いたします。
業界データという点では、業界紙にももっと頑張っていただきたいですね。
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代理店数の減少傾向が続く

日本損害保険業界はこの7月末に、2022年度の損害保険代理店統計を公表しました。
22年度末の代理店実在数は15.6万店(前年度末比▲2.7%)と、このところ年3%程度の減少が続いています。新設・廃止の状況を見ると、コロナ禍で廃止数が増えたということはなく、新設数が少ないことが全体の減少に影響しています。
他方、22年度は損害保険の募集従事者数が7.9%も減り、200万人を割り込みました。ただし、減少した15.8万人のうち10.4万人が運輸・通信業なので、何か特殊要因がありそうです。

種目別・チャネル別データの開示が不十分

このところビッグモーター問題などでメディアの取材を受ける機会が増えています。そこで感じるのは、記者さんの多くが残念ながら保険代理店についてほとんど知識を持っていないという現実です。
例えば、「日本では損害保険(元受正味保険料)の9割を代理店が販売している」「保険販売を本業とするプロ代理店と、他に本業があって副業として保険販売をしている代理店がある」「特定の保険会社の商品しか扱わない専属代理店と、複数の保険会社の商品を扱う乗合代理店がある」といった説明をしたうえで話をしないと、ビッグモーターが保険代理店の象徴のように取り上げられ、「消費者の知らないところで保険会社と代理店が好き放題やっている」というトーンで報道されかねません。

ところが私が、「自動車保険を販売しているのはビッグモーターのような自動車関連業の代理店だけではなく、保険専業の代理店の販売シェアも大きい」と説明したくても、この代理店統計に載っている保険募集チャネル別のデータは代理店数と募集従事者数だけで、扱保険料がありません。代理店数で見ると自動車関連業の代理店が全体の5割強を占めているのですが、このなかには小規模のモーターチャネルが数多く含まれているのでしょうから、扱保険料でも5割強ということはないでしょう。
他方で「専業・副業別」「法人・個人別」「専属・乗合別」という統計には代理店数、募集従事者数に加えて扱保険料データも出ています。数のうえでは8割を占める副業代理店が扱保険料の6割を占めていることや、数では23%しかない乗合代理店が扱保険料の7割を占めていることはわかっても、もう少し代理店の属性や種目を細分化していただかないと、保険市場の現状がよくわかりません。

業界全体が不審の目で見られかねない

現在、個社で販売チャネル別の収入保険料データを示しているのは、私の知るかぎりでは東京海上日動(東京海上ホールディングス)だけです。全種目合計ではありますが、22年度の保険料(営業統計保険料)のうち、ディーラーが19%、整備工場が8%でした。
SOMPOホールディングスは2017年度まで損保ジャパン日本興亜(当時)の販売チャネル別・種目別の営業成績(収入保険料)を公表していました。これによると、自賠責保険ではディーラーが42%、整備工場等が45%を占め、自動車保険ではディーラーが23%、整備工場等が16%となっていました。
こうした情報開示がないと、メディアの注目を集めるような現場情報に世の中が左右されてしまい、場合によっては大混乱を招くような規制が導入されてしまうことにもなりかねません。損害保険業界として静観するのではなく、まずは情報開示を進めるのが得策ではないでしょうか。
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※今年もオープンキャンパスで講師を務めました。

 

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クローズアップ現代ほか

ビッグモーターの保険金不正請求問題でNHK「クローズアップ現代」をはじめ、いくつかのメディアに登場しました。備忘録を兼ねてこちらにまとめておきます。

クローズアップ現代(NHK)

7月26日夜の番組「ビッグモーター不正の深層 中古車販売大手でなにが」にゲスト出演しました。前回の出演から約6年ぶりでして、相変わらず生放送は緊張します。
今回も、桑子キャスターも参加する打ち合わせを1時間しっかり行い、だからといって事前に決められた台本に沿って話すことを求められるのではなく、番組の限られた時間で何を伝えるかを全員で丁寧に検討しました。
見逃し配信(8月2日夜まで)が終わっても、こちら(放送記録)で内容をしばらくは確認できそうです。

読売新聞

27日の朝刊「違反認定 険しい道/ビッグモーター/保険販売 金融庁も聴取へ」にコメントが載りました。私のコメント部分だけ引用させていただきます。

・福岡大の植村信保教授(保険論)は「利害が交錯する代理店と損保の関係を根本から見直す問題に発展しかねない」と指摘する。

Nスタ(TBS)

電話取材があり、27日の番組中で私のコメントが使われています。今のところこちらで確認できますね。

「損保会社による厳しいチェックが重要」
「利害が交錯する代理店と損保の関係を業界全体で見直す必要がある」

東京新聞

まだ紙面を確認していませんが、28日に「出向元の責任は?悪質ビッグモーターと損保ジャパンの密接ぶりを示す「37人」と「副社長」」がネット配信され、そのなかにコメントが載りました。私のコメント部分だけ引用させていただきます。

・福岡大の植村信保教授(保険論)は「損保会社が不正を知っていたなら、水増しされた損害額と分かった上で保険金を支払ったことになり問題だ」と話す。さらに「多くの保険を販売したビッグモーターに対し、損保側が強く出られなかった可能性もある」とも述べる。

・不正の背景には、ビッグモーターという一つの社内に車を整備して保険金を受け取る部門と、自動車保険を販売する部門があると語り「切り離した方がいいのではないか」と指摘。一方で「今回と同種の不正が他の中古車販売業者などにもないかなど、確認することが必要ではないか」と強調した。

「切り離したほうがいい」というのはちょっと変なコメントですが(確認が甘くてすみません)、保険金をビジネスとして受け取る会社に本来は代理店委託しないほうがいいし、それが変えられないのであれば、保険会社の保険金支払い部門と営業部門をしっかり遮断して、営業部門の影響が支払部門に及ばないようにする必要があるという意味です。

日曜報道 THE PRIME(フジ)

日曜朝の報道番組で、橋下徹さんがレギュラーコメンテーターを務めています。オンラインでの取材があり、30日の「ビッグモーター不正・損保は被害者か」のなかで私のコメントが使われています。番組内でどのようなやり取りがあったのかは確認できていません。

「有力代理店である大手の車販売会社・整備工場に対し、損保会社の立場は弱い」
「外部の目線を入れるなどして、保険金の不適切な支払いができないような工夫が必要」

長くなりましたが、以上です。

 

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金融庁の保険モニタリングレポート

こちらのブログに続き、今週の保険代理店向けメールマガジンInswatch Vol.1192(2023.7.10)でも「保険モニタリングレポート」を取り上げました(金融庁サイトへのリンクを加筆しました。以下、ご紹介いたします。
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金融庁は6月末に「2023年 保険モニタリングレポート」を公表しました。このレポートは2021年に取りまとめを開始し、今回が3年目となります。金融庁が保険業界をどのように見ていて、どのような保険行政に取り組んできたかを知るうえで貴重な情報となっています。

過去の長期契約が足かせに

損害保険会社との「ビジネスモデル対話( 10ページ~)」の主なテーマは「火災保険の収益改善等」「旅行保険特化の損害保険会社」「ペット保険特化の損害保険会社」「(昨事務年度のフォローアップとして)デジタル戦略・チャネル戦略」でした。このうち最もページ数を割いたのが、恒常的に損失が発生している火災保険の収益改善についてです。
まず、過去に契約した長期契約が構造的に赤字状態になっており、火災保険全体の収益引き下げ要因になっていることが示されています。当然ながら既契約には料率引き上げ効果が及びません。金融庁は今後の料率引き上げに関して、「例えば、新規契約に適正利益を超えた割高な保険料を適用することで、長期契約での赤字を穴埋めするなどといった、保険商品としての合理性・妥当性を欠くものとならないように留意する必要がある」と各社にクギを刺しています。

「2000年代に発生した保険金不払い問題の反省から、各損害保険会社においては、契約者・代理店にとっての分かりやすさの向上や従業員の事務ミス防止を目的に商品のオールリスク化、無免責化、実損てん補化を進めてきた。近年はこれらが保険料アップの一因にもなっており、免責金額の導入や高額化など、見直しの機運が見られる(後略)」というのも気になる記述です。料率引き上げの影響を少しでも緩和するため、揺り戻しが起きているというのですね。
なお、損害率を悪化させている「その他の要因」として、「特定修理業者による影響」「水漏れ損害の増加」「破汚損の増加」に加え、先日の決算発表・IR説明会で注目した「企業火災保険における大規模事故の増加」も挙げられていました。

代理店ヒアリングから引用

顧客本位の業務運営について(39ページ~)では、「営業職員管理態勢の高度化」「保険代理店管理態勢の高度化」「公的保険制度を踏まえた保険募集」「外貨建保険の募集管理等の高度化」などが挙がっていました。
このうち損害保険代理店に関しては、金融庁(財務局)が実施した代理店ヒアリングの結果の一部を示しています。当局は「(代理店手数料ポイントや代理店統廃合の推進に関する)こうした課題は、損害保険会社と保険代理店との民民間の委託契約に基づくものであり、その在り方については当事者間でよく話し合い解決すべき事項であるが」としつつも、「代理店手数料ポイント制度の設計・運用や代理店統廃合が一方的な対応とならないよう、保険代理店の意見をしっかり聴取する等、引き続き、丁寧な対応に努めるよう促した」と述べています。
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※写真は夜の大濠公園です。

 

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保険負債の透明性が低すぎる

インシュアランス生保版(2023年7月号第1集)に寄稿したコラムをご紹介します。今回もしっかり「主張」させていただきました。
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損害保険と比べた生命保険の特徴として、契約期間が長いという点が挙げられる。生命保険会社が提供している医療保険も終身が主流となっているようである。これらの保険を提供する生命保険会社は、いわば遠い将来の約束を果たすために存在している。
このように書くと、生命保険に関わる皆さんは「いまさら何を言っているの?」と首を傾げるかもしれない。では、この5、6月に公表された決算関連資料から、皆さんは生命保険会社が抱えている保険負債の長さを把握できるだろうか。答えはノーである。

もし「そもそも被保険者がいつ亡くなるかわからないのだから、保険会社がいつ約束を果たすのかなんて事前にわかりようがない」とお考えであれば、保険の仕組みを勉強しなおすことをお勧めしたい。死亡率や発生率が概ねわかっているからこそ保険会社は保険料を決め、保障を提供できている。言い換えると、保険会社は保有する契約について、将来のどの時点でどの程度の支払いが発生するのか概ねわかっていて、それに合わせて資産運用を行っている。資産運用と保険引受は車の両輪ではなく、まず保険引受があって、それを全うするために資産運用がある。

資産と負債をどの程度対応させるかは各社の経営判断による。ただし例外を除き、各社は販売時に将来支払う保険金額が決まっている円建ての商品を主力としてきたため、その結果として何十年も先まで円の固定金利(予定利率)を保証している。ちょっと考えただけでも大変なビジネスだとわかるが、問題はその大変さを外部から知る手掛かりがほとんどないことにある。

実は1社だけ、この情報を直接外部に示している会社がある。第一生命ホールディングスは2年前から投資家向けの説明資料のなかで、第一生命の資産・保険負債のキャッシュフロー構造という図表を公表し、今後5年ごとの保険収支見込みなどを示している(最新版は5月29日公表資料の26ページに掲載)。
この図表を見ると、第一生命では現時点で50年先までの保険金支払いを見込んでいて、30年までのところは円金利資産で対応し、そこから先は金利変動のリスクをほぼそのまま抱えていることがわかる。過去に獲得した高利率の契約は今後20年くらいまでのところにあって、円金利資産をあてて金利リスクを小さくしたうえで、負債の高利率を賄うための別の方法を模索しているとみられる。こうした情報開示があって、初めて市場との建設的な対話が成り立つのだと思う。

遠い将来の約束を果たすのがどの程度大変で、それに対して経営がどう対応しているのかという情報は契約者にとっても重要である。こうした情報開示なしに「自己資本を積み上げました」「金利リスクを削減しました」と言っても説得力はない。第一生命に続く保険会社はいつ現れるのだろうか。
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※つかの間の晴天でした。このところ雨ばかりです。

 

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