15. 執筆・講演等のご案内

夢の共演!?

6月22日開催の「RINGの会オープンセミナー」に登壇するという話を4月21日のブログでご案内しましたが、週刊東洋経済の中村正毅記者に加え、週刊ダイヤモンドの藤田章夫記者もお迎えして、3人で損保問題について鼎談することになりました。

東洋経済の中村記者は早くからビッグモーター問題やカルテル問題に注目し、SOMPOホールディングスの調査報告書にもX社として掲載されたほか、最近も損保業界の取引慣行に関する記事を発表しています。
ダイヤモンドの藤田記者は保険業界に長くかかわり、毎年の保険特集を楽しみにしている業界人も多いと思います。今年の特集は「保険 vs 新NISA」という意表を突いたものでしたが、読むと納得の企画でした。

オープンセミナーの参加者は主に保険代理店と保険会社の役職員なので、お二人とも、もしかしたら敵地に乗り込むような気持ちかもしれません。
とはいえ、損保問題について客観的な立場から話ができる貴重な方々ですし、長く保険業界をウォッチしているだけあって、単なる批判では終わらない深みがあります。
当日は3人で大いに語りたいと思いますので、ぜひ横浜のセミナー会場でお会いしましょう。私も今から楽しみです。

※ソウルで鰻を食べました!

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

ブログを読んで面白かった方、なるほどと思った方はクリックして下さい。

ESR規制と生保の資産運用

簡易保険加入者協会の委託研究として2022年度から関わってきた「ESR規制と生命保険会社の運用に関する研究会」の報告書が同協会サイトで公表されました。
この研究会は経済価値ベースのソルベンシー規制と生命保険会社の資産運用について、若手を含めた研究者で議論を行うというもので、私が座長を務めました。報告書は前半(第1部)が議論の主な内容、後半(第2部)は議論を踏まえた若手研究者の報告要旨となっています。

座長としてこだわったのは、規制以前の話として、そもそも生命保険会社は顧客に何を提供していて、それにはどのような資産運用が必要となるのかをメンバーで確認することでした。「そこから話をするのか!」と心配する向きもあったそうですが、実際の保険会社の姿を議論の出発点にしてしまうと、どうしてもバイアスがかかると考えたためです。

毎回メンバーどうしの議論が活発に行われ、議論の主な内容は「第6章:本研究会での主な議論・論点」としてまとめていますので、ご覧いただければと思います。
保険会計に関しては、もっと時間があれば「業績とは何か」「会計情報で誰が何を見たいのか」という議論をしたいところでしたが、時間切れで両論併記のようになっています。
他方でメンバーの意見が一致したのが、研究者から見ても「現状の情報開示は不十分」という話で、第5章の最後に以下のコメントを示しています。

・この研究会でわかったのは、データがあまりにも出てきていないということ。開示の底上げが必要で、特定の一部の会社のみが開示しているという状態では研究を進めようがない。

・新たな規制の第3の柱については外部関係者が声をあげないと、どうしても金融庁と業界の検討が中心になってしまい、業界からは積極的に開示したいという声は出にくいので、結果として妥協案的なものにまとまってしまう可能性がある。

・なぜ開示が重要かということを訴えていかなければならない(エージェンシー理論)。単に我々が知りたいというだけではなく、生命保険会社というインフラを機能させるためには開示がないといけない。

・「これだけリターンがありました、でも、これを作り出すためにこれだけのリスクがありました」というように、リスクとリターンを両方開示するといい。

・金融庁の報告書に掲載されている、「各リスクにおける更なる内訳の開示について、会社の戦略的ポジションが明らかとなる情報が含まれる場合、競争上の不都合が生じるおそれがある」という保険会社からの意見について、「競争上の不都合」とは何に対して言っているのか理解できない。

このような厳しい声が研究者からあがっていることを、生命保険業界や金融庁はわかってほしいです。

※キャンパスにいろいろなキッチンカーが出店しています。

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

ブログを読んで面白かった方、なるほどと思った方はクリックして下さい。

金融庁が有識者会議を設置

損保問題の有識者会議に関して、保険代理店向けメールマガジンInswatch Vol.1228(2024.4.8)に論考を寄稿しました。当ブログでもご紹介いたします。
————————————
昨今の保険金不正請求問題(いわゆるビッグモーター問題)および保険料調整行為問題(同カルテル問題)を受けて、金融庁が「損害保険業の構造的課題と競争のあり方に関する有識者会議」を立ち上げ、3月26日に第1回の会合がありました。
金融庁はYouTubeでの動画配信(アーカイブなし)のほか、当日の資料を公表しています。
そこで「事務局(=金融庁)説明資料」と「日本損害保険協会説明資料」を比べてみました。

そこから見えたのは、金融庁による厳しい見解です。2つの問題の背景には構造的なものがあるため、金融庁は個社や業界の自主的な取り組みだけでは是正が難しいと認識しています。
着地点はまだ見えませんが、是正に向けた何らかの制度改正が行われ、保険流通に関わる皆さんの業務に影響が及ぶと考えておくべきかと思います。

保険金不正請求問題

損保協会の説明資料では、主な要因として「保険金支払管理態勢が不十分」「効率的な損害調査の実施の弊害」「修理工場による不適切な保険金請求」「一部代理店によるコンプライアンス意識の不足」を挙げ、それぞれについての対応状況を説明しています。さすがに損保協会としても単なる個社問題とはとらえていないことがうかがえます。

これに対し、金融庁の説明資料では真因分析として、行政処分の対象である損保ジャパンおよびSOMPOホールディングスの「営業優先・上意下達の企業文化」「内部統制機能の欠陥」「リスク認識の甘さ」を挙げています。行政処分の対象はあくまで個々の会社なので、そのような書きぶりになっています。
ただし、「(有識者会議で)ご議論いただきたい事項」には、次のような記述があります。

・大規模乗合代理店への実効的な指導・監督の確保
・大規模乗合代理店との関係に左右されない支払管理態勢
・大規模乗合代理店などの適切な評価
・(兼業の)乗合代理店による比較推奨の適切な実施
・損害保険代理店による利益相反が生じる業務禁止または防止措置の実施
・(保険料調整行為問題との共通論点として)代理店への本業支援のあり方
・(同)保険会社および代理店への実効的な監督・検査

裏を返せばこれらは構造的な課題であって、個社または業界の取り組みだけでは解決が難しいとする金融庁の見解がよくわかります
(最後の「実効的な監督・検査」は庁内の保険行政への理解・認識不足とそれに伴うリソース不足を有識者に指摘してほしいのかもしれません)。

保険料調整行為問題

損保協会の説明資料では、主な要因を「他社との接触機会が増加」「保険契約引受時に行ってはいけない行為が曖昧」「独禁法に関する啓発取組みの不足」「代理店を含むコンプライアンスリスク管理体制が不十分」としているので、対応策は考え方・留意点の提示や教育の徹底などが中心です。

これに対し、金融庁の説明資料では、行政処分に至った問題点として「企業保険分野における環境要因」「営業担当者への強いプレッシャー」「独禁法等に関する不十分な教育・監督」「コンプライアンス・顧客本位の意識の欠如」を挙げています。
さらに「(有識者会議で)ご議論いただきたい事項」は次の通りです。

・共同保険における適正な競合環境の整備
・保険契約以外の要素を反映した取引慣行の是正
・リスクに応じた適正な保険料を提示できる保険引受管理態勢の確立
・企業内代理店のあるべき姿
・独禁法等の遵守に向けた法令等遵守態勢の確立

こちらは業界と金融庁の見解の違いがより鮮明です。起きたことは独禁法違反などですが、金融庁は法令等の遵守にとどまらず、企業向け保険の取引慣行や企業内代理店にもメスを入れようとしています。
————————————
※福岡城址(舞鶴公園)の桜です。何とか間に合いました。

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

ブログを読んで面白かった方、なるほどと思った方はクリックして下さい。

フィリピンの生命保険市場

フィリピンのマニラを訪問し、OLIS(アジア生命保険振興センター)の海外セミナーの講師を務めました。このセミナーはもともと2019年1月に開催される予定だったのですが、マニラ近郊の火山が噴火したため、直前に中止となってしまい、その後コロナ禍を経て、ようやく開催にいたりました。

講演にあたりフィリピンの生命保険市場について多少調べ、さらに現地で監督当局や生命保険協会の話を聞いたところ、「GDP対比での保険料の割合が低い(1%強)」「ユニットリンク型の貯蓄性商品が中心(全体の7割)」「マイクロインシュアランスが普及」「2025年強制採用のIFRSの準備が進んでいない(もともとは2023年だった)」「いくつかの会社では最低維持資本の達成が課題となっている」といった特色があるとわかりました。
フィリピンはASEAN諸国の中で最もコロナ禍の影響が大きく、ロックダウン期間も長かったそうで、保険ビジネスにも大きな影響があったとみられます。本来は2022年までに達成すべき最低維持資本の達成がいまだに課題となっていたり、IFRSの適用を2025年に延期したりというのも、もしかしたらコロナ禍が影響しているのかもしれません。

セミナー会場のマカティ市はマニラ首都圏のなかでも特別なエリアで、金融機関の高層ビルとショッピングモールがたくさんあって、先進国とほとんど変わりません(ただし警備員が多いのと、爆発物チェックが頻繁にありました)。ホテルの部屋から見えた住宅街も高級な感じでした。
しかし、この地区だけが別世界のようで、マカティを離れると新興国らしい光景が広がっていました。生命保険を購入する層が現時点では限られているのも理解できます。

保険の話から外れますが、わずかな滞在でも、マニラ首都圏は交通インフラが極めて貧弱だとわかりました。幹線道路が限られているので、大渋滞が当たり前のようです。高速鉄道は大活躍しているものの、通勤時間にはキャパをはるかに超える乗客であふれかえっていました。マニラに住む私の友人は、渋滞がひどいのでバイク(スクーター)で通勤しているとのことでした。車線があってないような道も多く、常に交通事故の危険と隣り合わせです。
他方で、カトリックの国で信仰心の篤い人が多いとか、米国統治の影響からかファストフードが発達しているとか、休憩のたびに食事をとるとか、興味深い特徴もたくさん見つかりました。

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

ブログを読んで面白かった方、なるほどと思った方はクリックして下さい。

大手生保の資産運用動向

保険代理店向けメールマガジンInswatch Vol.1224(2024.3.11)に大手生保の資産運用動向についての考察を寄稿しました。当ブログでもご紹介しますね。
————————————

生保資産構成の2つの特徴

四半期開示(6月と12月)は情報が限られるとはいえ、保険契約動向と資産構成の変化をある程度把握することができます。例えば、大手生命保険会社4社(日本、第一、住友、明治安田)の過去5年程度の資産構成の推移を確認すると、2つの傾向が見えてきます。
1つは、責任準備金対応債券区分の国内公社債の残高を増やしてきたことです。この区分は保険会社だけに認められた会計処理の方法で、資産と負債のデュレーション・マッチングの実行を前提に、時価評価しなくてもいい区分となっています。この区分の公社債が増えているということは、生命保険会社が保有する超長期の保険負債の金利リスクをヘッジしようという動きが続いているということになります。
金融庁は2025年度に経済価値ベースのソルベンシー規制を導入する予定です。現行のソルベンシーマージン比率には反映されにくい金利変動の影響が、新たな規制では直接反映されるようになります。一時に比べれば長期金利も多少は上昇しているなかで、各社が超長期債を購入することで金利リスクを抑える取り組みを進めていると見られます。

外国株式等の増加

もう1つは、外国証券のうち「外国株式等」の残高を増やしてきたことです。価格変動の影響を受けない取得価額ベースで見た場合、4社合計の国内株式残高が8兆円程度でほぼ横ばいなのに対し、外国株式等はこの5年間で7兆円近く増え、直近では約12兆円となっています。
ただし、各社が海外の株式投資を加速してきたのかというと、どうもそうではなさそうです。この「外国株式等」には株式のほか、オルタナティブ投資と言われるヘッジファンドやプライベート・エクイティ(PE)、外国籍のファンドなども含まれています。「クレジット・オルタナティブ資産の積み増し(日本生命)」「高い収益率が期待できるインフラエクイティやPEファンド等へ投資(住友生命)」といったIR資料の記述や報道内容から判断すると、外国企業の株式投資よりもオルタナティブ投資を拡大してきたのではないかとうかがえます。
一般にオルタナティブ投資は株式などの伝統的な資産との相関が低く、保有資産全体のリスク分散に有効とされています。他方で流動性が低く、現金化しにくいという特徴もあります。

オルタナ投資の現状は不透明

問題はこうしたオルタナティブ投資を(おそらく)大きく増やしてきたにもかかわらず、ごく一部を除き、全く開示されていないことです。
T&Dホールディングスは傘下の大同生命と太陽生命の保有する「外国株式等」の内訳を公表しています。これを見ると、両社ともヘッジファンドとPEが外国株式等の3割程度を占め、外国社債投信も一定規模を占めているとわかります。しかし、T&Dのように外国株式等の内訳を示している会社は数社しかありません。
リスク分散の観点などからオルタナティブ投資を増やしてきたのは理解できるとしても、その現状を外部に示さない経営姿勢は理解できません。そもそも方針や計画を自ら示しているのですから、現状を開示しても「競争上の不都合が生じるおそれ」などないはずです。
————————————
※シエナまで足をのばしました。

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

ブログを読んで面白かった方、なるほどと思った方はクリックして下さい。

保障性商品の販売不振

このところ気になっている生保営業職員チャネルの保障性商品の販売低調について、保険代理店向けメールマガジンInswatch Vol.1220(2024.2.12)に寄稿しました。当ブログでもご紹介します。
————————————

決算発表の注目点

今週は主な保険会社の決算発表(2023年度第3四半期)が予定されています。損害保険会社では特に、国内の自動車保険、火災保険の収支動向に注目したいと思います。
他方、生命保険会社で気になるのは、営業職員チャネルによる保障性商品の新契約動向です。例えば日本生命グループでは、23年度上半期に営業職員チャネルの新契約年換算保険料(個人保険・個人年金)が増加したものの、IR資料によると、日本生命単体の個人向け保障性商品の販売は大幅に減った模様です。第一生命グループでも、営業職員チャネルによる新契約年換算保険料(同)は大きく伸びている一方、第一生命の商品に限れば前年同期比でマイナスが続いています。

死亡保障の販売は難しい

日本生命の営業職員チャネルの増収は、昨年1月に予定利率を引き上げた一時払い終身保険の販売拡大が大きいとみられます。第一生命では、兄弟会社である第一フロンティア生命の米ドル建て商品などの販売が増収に寄与しました。両社ともに、顧客ニーズの強い貯蓄性商品の販売にチャネルがやや傾斜してしまい、死亡保障などの保障性商品の提供が不振に陥っている構図が見てとれます。
生命保険の販売に携わっている皆さんにとって、「生命保険(個人向けの死亡保障)」「医療保険」「貯蓄性商品」のうち、最も売るのが難しいのはどれでしょうか。顧客基盤によって異なる答えとなることもありえますが、一般的には生命保険の提供が最も難しいと思います。生命保険の本来のニーズは遺族保障であり、保険金を受け取るのは加入者自身ではありません(医療保険や貯蓄性商品は自分が受け取れます)。貯蓄性商品には「お金が増える」といった楽しみもありますが、生命保険が役に立つ場面を想像するのは楽しいことではありません。だからこそ、営業職員をはじめ、対面チャネルによってニーズを掘り起こし、加入の決断を促すという販売手法がとられ、保障性商品の普及が進みました。

過去の事例

一時払いの貯蓄性商品への傾斜に伴い、保障性商品の販売力が弱まった例として、2000年に経営破綻した協栄生命のケースをご紹介しましょう。
協栄生命は特定の企業グループに属していなかったこともあり、教職員団体や各種の同業組合などと提携し、その団体の共済制度として主に保障性商品を提供していました。ところが、他社を後追いする形で1987年から一時払い養老保険の販売に踏み切り、しかも、他社が販売を抑えるようになってからもしばらく売り続けました。これには顧客基盤である提携団体からの強い販売要請に加え、「営業職員が保障性商品を売る力が落ちており、1万人体制を達成するために一時払い養老保険に走った」(当時の本社スタッフの証言)など、貯蓄性商品に傾斜した影響で営業現場の販売力が衰退していたという事情もあったそうです。
チャネルのあり方として、顧客ニーズの強いものを提供すべきというのが正論かもしれません。ただし、ドアノックツールとしての貯蓄性商品の販売にとどまらず、主力商品として新人層からベテラン層までが、比較的売りやすい貯蓄性商品に走り、保障性商品の販売力が落ちてしまうと、時間がたつほど復活が難しくなるということをこの事例は示しています。

*参考文献:植村信保『経営なき破綻 平成生保危機の真実』
————————————
※写真は太宰府天満宮です。

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

ブログを読んで面白かった方、なるほどと思った方はクリックして下さい。

生命保険会社の情報開示

先週は東京で某再保険会社のセミナーでお話をする機会がありました。テーマは損保関連ではなく、経済価値ベースのソルベンシー規制に関するものです。
参加者には生命保険会社のCFOやCROが多かったこともあり、今後のソルベンシー規制として求められる情報開示だけではなく、現状において早急に開示すべき項目についても「直訴」しました。

1.国内公社債の7割を「10年超」が占めているにもかかわらず、その内訳が示されていない

資産・負債のミスマッチに伴う金利リスクを減らすため、各社が多額の超長期債を保有していることはわかります。しかし、10年以内は細分化して示しているのに、肝心の10年超を一くくりで示したままというのは理解できません。
なお、上場会社(第一生命HD、T&D HD)は10年超を2つに分けて開示しています。

2.外国証券に関する情報開示が少ない

メディア向けの資産運用方針の説明にはしばしば「オルタナティブ投資」が出てきます。ところが、ディスクロージャー誌などを探しても開示はありません(上場会社はIR資料で開示)。これらは外国証券のうち「外国株式等」に含まれます。

3.外貨建負債に関する情報が開示されていない

銀行窓販をはじめ、近年では外貨建ての保険を提供している会社が目立ちます。ところが、保険負債に占める外貨建て保険の手掛かりはほとんどありません。外貨負債の情報がないと、外部からALMの現状をつかむのが極めて難しくなります。同じ外債投資でも、外貨負債のリスクヘッジ目的と、追加リターン獲得目的とではリスクに対する考えが全く異なるからです。
先週お話した3つのなかで、これが最も深刻かもしれません。

このブログでも何度か同じ話をしていると思います。しかし、20年以上経ってもそのままというのは一体どういうことなのでしょうか。
市場規律を軽視するということは、つまるところ第1の柱でガチガチに縛られたいということになるのですが。

※もう梅がかなり咲いていました。横浜・大倉山にて。

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

ブログを読んで面白かった方、なるほどと思った方はクリックして下さい。

SOMPO報告書の低評価

金融庁によるSOMPOグループに対する行政処分に関してメディアにコメントが載ったので、備忘録としてご紹介します。
金融庁サイト(行政処分について)
SOMPOホールディングスのサイト

Bloomberg(1月26日)

SOMPO桜田氏が引責辞任、『痛恨の極み』と謝罪-不正請求問題」のなかで、次のコメントが載りました。
-----------
福岡大学の植村信保教授は「ビッグモーターの保険金不正請求問題の被害者は、自動車保険の加入者すべて。損害額を判断しにくい立場にある加入者と保険会社との信頼関係で成り立つ保険の仕組みを揺るがすような深刻で大きな問題だ」と指摘。「個社の問題で終わらせず、代理店との関係など保険全体の仕組みを業界挙げて見直していく必要がある」との見方を示した。
-----------
個社だけではなく「業界を挙げて」というコメントです。
そうは言っても実際に対応するのは個社なのですが、SOMPOグループが公表した再発防止策の方向性にある「代理店管理態勢の強化」として何をしていくのかが示されていないのは、ちょっと気になるところです。

産経新聞(1月26日)

ガバナンス機能不全で経営陣を刷新 SOMPO、問われる信頼回復」の最後にちょっとだけコメントが出ています。
-----------
福岡大の植村信保教授は「失った信頼を回復するにはやれることはすべてやらないといけない」と指摘する。
-----------
何だかよくわからないコメントですね(すみません)。
企業文化全般について話をしたのではなく、今回発覚した自動車関連業の保険代理店との不適切な取引慣行に関して、再発防止につながることを実行すべしという趣旨のコメントでした。

ところで、SOMPOホールディングスが設置した社外調査委員会の調査報告書(中間報告書を含む)について、弁護士、ジャーナリストから成る「第三者委員会報告書格付け委員会」が評価を公表し、委員8名のうち4名がD(最低評価)、4名がF(不合格)という低い評価をしました。

Fとした委員の個別評価を見ると、「事実認定の正確性・深度に重大な疑義がある上に、原因分析に関する説得力が不足している」「SJ、SHD の BM 対応は、損害保険そのものへの信頼を大きく貶めた。にもかかわらず、報告書ではそれに対する SJ、SHD の組織的な問題点追及が浅く、具体的かつ説得力のある改善策、再発防止策を提示しておらず、社会の損害保険への信頼回復につながっていない」などなど。
委員の中で最も保険業界に詳しいとみられる野村修也委員(評価D)は、「調査委員会の中に保険に関する専門性の高い委員を配置しなければ、SHDないしSJから提供される情報のバイアスに気づかない危険性が高い」「誰を調査対象にしてどのような調査が行われたかに関する部分が『別紙』とされ、非公表になっている」「本件の真因を考えるに当たっては、『修理』という保険事故及び損害査定に深く関わる業者が同時に保険代理店を兼ねるといった構造的問題と、その種の保険代理店との向き合い方に潜む歪みを分析することが何より重要であった(=なされていない)」「再発防止策は、本件に特有な事実認定や真因分析と必ずしもリンクしておらず、どんな不祥事でも書けるような内容にとどまっており、教訓を得にくい内容になっている。」などと厳しいコメントをしています。

近年、不祥事が起きた会社では社外委員からなる調査委員会を設置し、調査報告書の公表をもって一件落着という流れがあるように思います。本件を含め、こうした調査報告書には役に立つ情報も多く、私もしばしば活用しているのですが、以前このブログでも書いたように、原因究明が不十分なものもあると考えておくべきでしょう。

※福岡県代協でスピーチをしました。

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

ブログを読んで面白かった方、なるほどと思った方はクリックして下さい。

保険料調整行為の調査結果

保険代理店向けメールマガジンInswatch Vol.1216(2024.1.15)に寄稿した記事を当ブログでもご紹介します。
————————————
新年にあたり、自分がいつから本誌への寄稿を始めたのか調べてみたところ、初回は2001年4月でした。ざっと確認すると、外部寄稿者のなかで3番目に長く連載を続けているようです。とりあえず休載の予定はありませんので、本年も引き続きよろしくお願いいたします。

金融庁による行政処分

既報の通り、金融庁は昨年12月26日に大手損害保険会社4社に対し、行政処分(業務改善命令)を出しました。保険料調整行為など独占禁止法に抵触すると考えられる不適切行為等について、業務改善計画の策定・提出・実行を求めるというものです。
金融庁は行政処分とともに、「大手損害保険会社の保険料調整行為等に係る調査結果について」という資料を公表しました。大手損保各社はそれぞれ調査委員会を設置し、不適切な行為について調査を行っていて、今回の公表によって調査結果(の一部)が初めて明らかになりました。
金融庁のサイトへ

広範囲かつ継続的

まず、不適切な行為が例外的なものではなく、広範囲かつ以前から行われてきたことが示されています。金融庁が4社からの報告を集計したところ、不適切行為等があるとされた保険契約者は576先に上り、その半数以上は2020年以前から続いているとわかりました。
とりわけ自然災害の多発などにより料率引き上げが急務となった2018年あたりから、不適切行為等が始まった案件が増えています。

調査によると、不適切行為等の目的として最も多かったのが「現状維持(幹事、シェア等)」で、全体の50%を占めました。他社からの打診に応じたというのも39%あり、この2つが主要な行動類型となっています。
なお、企業保険の入札では複数の保険種目を対象にすることが多いという理由から、種目別のデータは示されていません。そもそも企業がどのような保険に加入しているかというデータがないのは、ちょっと残念です。

多くは「不適切」認識なし

問題となった契約について違法だという認識は7%、違法ではないが不適切だと認識していたケースは26%でした。裏を返せば、67%の取引は不適切という認識がなかったということです。他社からの打診に応じたというケースであっても、「悪いことだと認識していたが応じた」という回答はかろうじて過半数(53%)にとどまっています。
これらを踏まえると、「不適切だとわかっていても、やむを得ない」というよりは、シェアを維持するための通常の行動として保険料調整が行われてきたことがうかがえます。

企業向け保険に関する公開情報は非常に少なく、今回の調査では保険会社側の取引実態の一端が示されたにすぎません。企業側はどのような部門がどのようなスキルを持って担当しているのか、保険会社による株式保有や営業協力が取引にどのような影響を与えているのかなど、取引慣行の適正化を図るには、実態をさらに明らかにすることが必要だと思います。
————————————
※写真は宇都宮のLRT(路面電車)です。

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

ブログを読んで面白かった方、なるほどと思った方はクリックして下さい。

保険負債がマイナスに!

今週の保険代理店向けメールマガジンInswatch Vol.1212(2023.12.12)では、IFRS(国際財務報告基準)に関する話を書きました。当ブログでもご紹介します。
————————————

保険会社の負債

事業会社に比べると、保険会社の財務諸表はかなり特徴的です。なかでも生命保険会社ではバランスシート(貸借対照表)の負債が大きく、その大半を責任準備金などの保険負債が占めています。事業会社の負債は銀行借り入れなど債権者から受け入れた資金なのに対し、保険会社の負債は加入者(保険金受取人)に将来支払うであろう保険金や給付金、解約返戻金などを計上したものです。
ところが今年度に入り、なんと保険負債がマイナスという生命保険会社が現れました。

保険負債がマイナス

ライフネット生命の決算短信でバランスシート(2023年9月末、連結ベース)を確認すると、負債の大半は繰延税金負債となっていて、保険契約負債がほとんどありません。他方で資産のなかに「保険契約資産」という見慣れない項目があって、291億円も計上されています。

財政状態の説明には、次のような記述があります。

「保険契約は一般的には負債として計上されるものの、当社グループは以下の表『保険契約負債の内訳』のとおり、個人保険の保険契約負債はマイナスとなることから保険契約資産として計上しています」

参考までに、同社の2023年3月期の決算短信では、負債530億円のうち保険契約準備金(大半が責任準備金)が509億円を占めていました。どうしてこのようなことが起きたのでしょうか。

IFRSの採用

理由は、ライフネット生命が今年度から会計基準としてIFRS(国際財務報告基準)を採用したことと、同社の歴史が比較的浅いうえ、保有契約が平準払いの保障性商品だけで、満期保険金や解約返戻金がないことです。

やや専門的になりますが、ライフネット生命の決算短信やIR資料などを参考に説明します。
これまでの会計基準(日本基準)では、契約獲得時の保守的な予定死亡率や予定利率に基づいて算出した責任準備金などを保険負債として計上していました。これに対し、IFRSでは保守性を排除し、会社が最善と考えた前提に基づいて将来キャッシュフローの現在価値を計算し、これに「リスク調整」と「CSM」を加えたものを保険負債として計上します(リスク調整とCSMの説明はとりあえず省略します)。

将来キャッシュフローの現在価値とは、将来の支出(保険金支払額など)の現価から将来の保険料収入の現価を差し引いた金額です。平準払いの「定期保険」「終身医療保険」「就業不能保険」「がん保険」を主力とするライフネット生命の場合、会社が最善と考えた前提に基づいて将来キャッシュフローを計算したところ、おそらく今後の支出が保険料収入を下回る状態が何年も続くのでしょう。全体で見て将来の支出が将来の保険料収入を下回る計算結果となり、保険負債がマイナスになりました。つまり、この前提によれば、同社はいわば加入者への借金を負っていないことになります。

ただし、保険負債がマイナスだから儲かるということではなく、収益性を見るには、先ほど説明を省略したCSMの動きに注目してください。CSMは将来利益を表す負債で、CSMが増えていけば将来利益も総じて増えていきます。
ライフネット生命のCSMは、2023年3月末の836億円から9月末には875億円に増えていることがIR資料からわかります。

保険会計のあり方が問われる

IFRSを採用すれば、財務諸表の利用者は、日本基準では把握できなかった生命保険会社の財政状態をつかむことができるようになります。
ただし、日本ではIFRSの採用は強制ではなく、あくまで任意です。このため、今後はIFRSを採用した会社と、引き続き日本基準でのみ決算結果を公表する会社が併存することになります。さらに、2025年度に経済価値ベースのソルベンシー規制が導入されると、「IFRSの財政状態」と「日本基準のバランスシート」に「経済価値ベースのバランスシート」が加わり、利用者は消化不良に陥ってしまうかもしれません。

これまで本誌でもしばしば取り上げてきたように、保険会社の経営内容を把握するうえで日本基準には問題が多いという現状があります。そろそろ日本の保険会計のあり方について、本格的に方向性を打ち出すべき時期に来ているのではないでしょうか。
————————————
※今月はあと二回、東京に行きます。

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

ブログを読んで面白かった方、なるほどと思った方はクリックして下さい。