15. 執筆・講演等のご案内

平成時代の社会変化と生命保険のニーズ

寄稿の紹介が続きますが、今週の保険代理店向けメールマガジンInswatch Vol.1204(2023.10.16)に寄稿したものです。

<参考資料>
グラフで見る世帯の状況 ※最新版は有料のようです
専業主婦世帯と共働き世帯
50歳時の未婚割合の推移

なお、日本の未婚化について、ニッセイ基礎研究所の天野さんによるレポートを見つけました。ご参考まで。
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世帯構造の変化

皆さんにいくつか質問です。まず、現在の日本では何人世帯が最も大きな割合を占めているかご存じでしょうか。
正解は2人世帯でして、世帯数全体の約3割を占めています。次に多いのは1人世帯で、全体の4分の1くらいです。1970年代から80年代にかけて最も大きな割合を占めていたのは4人世帯だったので、これだけでも平成時代の30年間に日本の世帯構造が大きく変わったことがわかります。

次の質問です。2022年現在、専業主婦世帯と共働き世帯の割合はどの程度でしょうか。
正解は約3:7で、共働き世帯が多数派となっています。1980年代までは共働き世帯のほうが少数派でしたが、90年代に両者の割合がほぼ同じとなり、2000年代以降、共働き世帯の割合が高まりました。
もっとも、女性雇用者の約5割が非正規雇用であり、年齢が高いほど非正規雇用の割合が高まる傾向にあります。

もう1つ質問です。2020年において、50歳時の男性の未婚割合、つまり、50歳時点で一度も結婚をしたことのない人の割合はどれくらいでしょうか。
正解は28.3%です(計算方法の違いにより25.7%という数字も公表されています)。ちなみに女性は17.8%です。30年前の1990年には男性が5.6%、女性が4.3%でして、年々割合が高まり、今や4人に1人を超す男性が50歳時点で結婚経験がありません。
日本は婚外子の割合が2%強と少ないので、結婚しなければ子どもが生まれないということになります。

生命保険の事業環境は激変

いかがでしょうか。平成という時代は、日本の世帯構造が大きく変化した時代だったことが改めてわかります。
これらの影響を多くの産業が受けているのですが、とりわけ生命保険業界には猛烈な影響がありました。遺族保障のニーズが強いであろう夫婦2人・子ども2人で妻が専業主婦の4人世帯は、もはや少数派となってしまいました。シニアの2人世帯は「そろそろ生命保険から卒業」でしょうし、共働きの2人世帯では、普通に考えれば、子どものいる専業主婦世帯に比べて遺族保障のニーズは小さいはずです。1人世帯にいたっては、親が受取人となる生命保険に加入する人は少ないでしょう。

他方で、どの世帯においても、老後の生活保障ニーズはますます強まっていると考えられます。他の金融機関・金融商品との激しい競争を覚悟したうえで魅力的な資産形成手段の提供に活路を求めるのか、あるいは、生命保険会社が得意としている(はずの)死亡率等を使った長生きリスクへの対応を強めるのか。
いずれにしても事業環境の激変に対し、生命保険会社が国内でできることはまだまだあると思います。
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※福岡タワーの影が砂浜に!

 

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「リスク」と「損失」を分けて考える

インシュアランス生保版(2023年10月号第1集)に寄稿したコラムをご紹介します。
文中に「2026年」とありますが、台湾では2026年にIFRS17号とICS(経済価値ベースのソルベンシー規制)が同時に導入される予定となっています。
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アジア生命保険振興センター(OLIS)が4年ぶりに開催した海外セミナーの講師を務めるため、8月下旬に台湾を訪問した。OLISは1967年から国内外での研修・セミナーなどを通じてアジア諸国の生命保険事業の発展に尽くしてきた財団で、アジアの生命保険会社の経営陣や監督官庁にはOLISセミナーの卒業生が数多く存在する。今回の台湾でも、セミナー後の懇親会には大手生保の経営トップが何人も集まり、保険行政の責任者との意見交換を行うこともできた。こうした人的つながりはOLISの長年にわたる継続的な取り組みの賜物であろう。

さて、懇親会で大手生保のトップどうしが中国語で真剣に意見を交わしていたので、気になってたずねてみると、IFRSとICSへの対応をどうするか、つまり、2026年に予定されている経済価値ベースに基づく新たな会計基準と健全性規制の導入に向けてどう対応するかという話だった。保険行政との意見交換でも、課題として真っ先に上がったのがIFRS・ICSの導入支援だった。
近年、台湾生保の主力商品は外貨建ての貯蓄性商品となっている。とはいえ、既存の保険負債には現地通貨建てが多く、かつ、過去に獲得した高利率契約も残っている。これに対し、台湾でも低金利が長く続き、各社は運用利回りの向上を図るため、外国公社債への投資を進めてきた。この状態のままで経済価値ベースの会計・規制を導入すると、おそらく保険負債が膨らみ、金利などのリスク評価も厳格に行われることから、資本増強が必要となるのかもしれない。

話をしていて気がついたのは、「リスク」と「損失」が混在していることだった。外国公社債への積極的な投資の理由を尋ねると、「逆ザヤとならないように」という答えが返ってくる。だが、低金利下における過去に獲得した高利率の契約は、経済価値ベースで見ればすでに損失が発生している状態であり、もはやリスクではない。そのなかで外国公社債への投資を増やすのは、損失を抱えつつ新たに外国公社債のリスクをとるという行動なので、資本への負荷が一層かかってしまう。現地通貨建ての長期債市場が非常に小さいという事情を踏まえても、損失を損失と認識しなかった結果が、バランスシートの6割前後を外国公社債が占めるという現状につながっているのではないだろうか。

日本の生命保険会社は30年前から主力商品の保障性シフト、短満期シフトを進めてきた。過去に獲得した高利率契約を抱えつつも、内部留保によって支払余力を増やし、超長期債の購入によって金利リスクを減らしてきた。とはいえ、この10年間の外貨建て資産の動向を見ると、いまだに単年度の逆ザヤをリスクとして意識しているようにも見える。果たして「リスク」と「損失」を分けて考えることができているのだろうか。
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※福岡大学でライトアップのイベントがありました。

 

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なぜ外貨建保険なのか

今週の保険代理店向けメールマガジンInswatch Vol.1200(2023.9.11)に寄稿したものを本ブログでもご紹介いたします。通算1200号なのですね。
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外貨建保険の販売管理態勢

8月29日に金融庁が公表した「2023事務年度 金融行政方針」のコラムに「顧客本位の業務運営に関する販売会社の取組状況」がありました。これは金融庁が6月末に公表した「リスク性金融商品の販売会社による顧客本位の業務運営のモニタリング結果」のうち、販売会社の主な課題を整理したものです。
このうち、外貨建一時払い保険の販売管理態勢の課題がうまくまとまっていたのでご紹介します(コラムの40ページより引用)。

<運用が目的>
・リスク・リターン・コスト等に関し、他金融商品との比較説明を未実施

<保障が目的>
・目標到達型保険で、目標到達後に保険を解約させて保障期間を断絶

<相続が目的>
・非課税枠を大きく超える保険金等の額を契約時に設定

そもそもですが、顧客にとって外貨による資産運用が目的なのであれば、まずは保険ではなく、外貨預金や外貨建て投信などが挙がるでしょう。保障を得ることが目的であれば、あえて為替リスクを顧客に抱えさせる必要があるとは思えません。相続が目的の場合も、解約してしまえば目的を達成できませんし、やはり外貨である必然性もありません。
そう考えると、顧客にとって外貨建一時払い保険でなければならない理由は見当たらず、そもそも販売管理態勢の問題ではないのかもしれません。

「外貨建て」「変額」であるべき理由を説明できるか

金融庁「リスク性金融商品の販売会社における顧客本位の業務運営のモニタリング結果」には、リスク性金融商品(投資信託、ファンドラップ、仕組債、外貨建一時払い保険)の販売の現状が載っています。対象となる金融機関は主要行等、地域銀行、証券会社等です。
保険のところを見ると、主要行等も地域銀行も継続的に一時払い保険を販売してきたにもかかわらず、主要行等の一時払い保険の預かり資産残高はほぼ横ばい、地域銀行も微増にとどまっています(7月28日配信のプロフェッショナルレポートを参照)。
運用目的だとしても、預かり資産残高が伸びていないというのは、銀行による投資信託の販売と同じ問題を抱えている、すなわち、販売会社の都合で販売や解約が行われているのではないかと疑わざるを得ません。

この問題は銀行窓販に限った話ではないと思います。近年、銀行以外のチャネルでも外貨建てや変額タイプの生命保険の取り扱いが増えていると耳にします。超長期の保障を得るにあたり、円金利の水準が依然として低い、あるいは、将来のインフレによる保険金の目減りが心配(変額タイプであればインフレヘッジになりうる)といった理由から、一定の顧客ニーズがあるのは理解できます。
ただ、チャネルとして一般の顧客に積極的に勧める商品かと言われると、私には疑問が残ります。多くの顧客が理解し、納得するような説明をするのはそう簡単ではないので、つまるところ金融リテラシーの低い顧客をターゲットにしたビジネスに陥りがちだからです。
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※写真は韓国・仁川の旧市街です。

 

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損害保険代理店統計

今週の保険代理店向けメールマガジンInswatch Vol.1196(2023.8.7)に寄稿したものを本ブログでもご紹介いたします。
業界データという点では、業界紙にももっと頑張っていただきたいですね。
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代理店数の減少傾向が続く

日本損害保険業界はこの7月末に、2022年度の損害保険代理店統計を公表しました。
22年度末の代理店実在数は15.6万店(前年度末比▲2.7%)と、このところ年3%程度の減少が続いています。新設・廃止の状況を見ると、コロナ禍で廃止数が増えたということはなく、新設数が少ないことが全体の減少に影響しています。
他方、22年度は損害保険の募集従事者数が7.9%も減り、200万人を割り込みました。ただし、減少した15.8万人のうち10.4万人が運輸・通信業なので、何か特殊要因がありそうです。

種目別・チャネル別データの開示が不十分

このところビッグモーター問題などでメディアの取材を受ける機会が増えています。そこで感じるのは、記者さんの多くが残念ながら保険代理店についてほとんど知識を持っていないという現実です。
例えば、「日本では損害保険(元受正味保険料)の9割を代理店が販売している」「保険販売を本業とするプロ代理店と、他に本業があって副業として保険販売をしている代理店がある」「特定の保険会社の商品しか扱わない専属代理店と、複数の保険会社の商品を扱う乗合代理店がある」といった説明をしたうえで話をしないと、ビッグモーターが保険代理店の象徴のように取り上げられ、「消費者の知らないところで保険会社と代理店が好き放題やっている」というトーンで報道されかねません。

ところが私が、「自動車保険を販売しているのはビッグモーターのような自動車関連業の代理店だけではなく、保険専業の代理店の販売シェアも大きい」と説明したくても、この代理店統計に載っている保険募集チャネル別のデータは代理店数と募集従事者数だけで、扱保険料がありません。代理店数で見ると自動車関連業の代理店が全体の5割強を占めているのですが、このなかには小規模のモーターチャネルが数多く含まれているのでしょうから、扱保険料でも5割強ということはないでしょう。
他方で「専業・副業別」「法人・個人別」「専属・乗合別」という統計には代理店数、募集従事者数に加えて扱保険料データも出ています。数のうえでは8割を占める副業代理店が扱保険料の6割を占めていることや、数では23%しかない乗合代理店が扱保険料の7割を占めていることはわかっても、もう少し代理店の属性や種目を細分化していただかないと、保険市場の現状がよくわかりません。

業界全体が不審の目で見られかねない

現在、個社で販売チャネル別の収入保険料データを示しているのは、私の知るかぎりでは東京海上日動(東京海上ホールディングス)だけです。全種目合計ではありますが、22年度の保険料(営業統計保険料)のうち、ディーラーが19%、整備工場が8%でした。
SOMPOホールディングスは2017年度まで損保ジャパン日本興亜(当時)の販売チャネル別・種目別の営業成績(収入保険料)を公表していました。これによると、自賠責保険ではディーラーが42%、整備工場等が45%を占め、自動車保険ではディーラーが23%、整備工場等が16%となっていました。
こうした情報開示がないと、メディアの注目を集めるような現場情報に世の中が左右されてしまい、場合によっては大混乱を招くような規制が導入されてしまうことにもなりかねません。損害保険業界として静観するのではなく、まずは情報開示を進めるのが得策ではないでしょうか。
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※今年もオープンキャンパスで講師を務めました。

 

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クローズアップ現代ほか

ビッグモーターの保険金不正請求問題でNHK「クローズアップ現代」をはじめ、いくつかのメディアに登場しました。備忘録を兼ねてこちらにまとめておきます。

クローズアップ現代(NHK)

7月26日夜の番組「ビッグモーター不正の深層 中古車販売大手でなにが」にゲスト出演しました。前回の出演から約6年ぶりでして、相変わらず生放送は緊張します。
今回も、桑子キャスターも参加する打ち合わせを1時間しっかり行い、だからといって事前に決められた台本に沿って話すことを求められるのではなく、番組の限られた時間で何を伝えるかを全員で丁寧に検討しました。
見逃し配信(8月2日夜まで)が終わっても、こちら(放送記録)で内容をしばらくは確認できそうです。

読売新聞

27日の朝刊「違反認定 険しい道/ビッグモーター/保険販売 金融庁も聴取へ」にコメントが載りました。私のコメント部分だけ引用させていただきます。

・福岡大の植村信保教授(保険論)は「利害が交錯する代理店と損保の関係を根本から見直す問題に発展しかねない」と指摘する。

Nスタ(TBS)

電話取材があり、27日の番組中で私のコメントが使われています。今のところこちらで確認できますね。

「損保会社による厳しいチェックが重要」
「利害が交錯する代理店と損保の関係を業界全体で見直す必要がある」

東京新聞

まだ紙面を確認していませんが、28日に「出向元の責任は?悪質ビッグモーターと損保ジャパンの密接ぶりを示す「37人」と「副社長」」がネット配信され、そのなかにコメントが載りました。私のコメント部分だけ引用させていただきます。

・福岡大の植村信保教授(保険論)は「損保会社が不正を知っていたなら、水増しされた損害額と分かった上で保険金を支払ったことになり問題だ」と話す。さらに「多くの保険を販売したビッグモーターに対し、損保側が強く出られなかった可能性もある」とも述べる。

・不正の背景には、ビッグモーターという一つの社内に車を整備して保険金を受け取る部門と、自動車保険を販売する部門があると語り「切り離した方がいいのではないか」と指摘。一方で「今回と同種の不正が他の中古車販売業者などにもないかなど、確認することが必要ではないか」と強調した。

「切り離したほうがいい」というのはちょっと変なコメントですが(確認が甘くてすみません)、保険金をビジネスとして受け取る会社に本来は代理店委託しないほうがいいし、それが変えられないのであれば、保険会社の保険金支払い部門と営業部門をしっかり遮断して、営業部門の影響が支払部門に及ばないようにする必要があるという意味です。

日曜報道 THE PRIME(フジ)

日曜朝の報道番組で、橋下徹さんがレギュラーコメンテーターを務めています。オンラインでの取材があり、30日の「ビッグモーター不正・損保は被害者か」のなかで私のコメントが使われています。番組内でどのようなやり取りがあったのかは確認できていません。

「有力代理店である大手の車販売会社・整備工場に対し、損保会社の立場は弱い」
「外部の目線を入れるなどして、保険金の不適切な支払いができないような工夫が必要」

長くなりましたが、以上です。

 

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金融庁の保険モニタリングレポート

こちらのブログに続き、今週の保険代理店向けメールマガジンInswatch Vol.1192(2023.7.10)でも「保険モニタリングレポート」を取り上げました(金融庁サイトへのリンクを加筆しました。以下、ご紹介いたします。
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金融庁は6月末に「2023年 保険モニタリングレポート」を公表しました。このレポートは2021年に取りまとめを開始し、今回が3年目となります。金融庁が保険業界をどのように見ていて、どのような保険行政に取り組んできたかを知るうえで貴重な情報となっています。

過去の長期契約が足かせに

損害保険会社との「ビジネスモデル対話( 10ページ~)」の主なテーマは「火災保険の収益改善等」「旅行保険特化の損害保険会社」「ペット保険特化の損害保険会社」「(昨事務年度のフォローアップとして)デジタル戦略・チャネル戦略」でした。このうち最もページ数を割いたのが、恒常的に損失が発生している火災保険の収益改善についてです。
まず、過去に契約した長期契約が構造的に赤字状態になっており、火災保険全体の収益引き下げ要因になっていることが示されています。当然ながら既契約には料率引き上げ効果が及びません。金融庁は今後の料率引き上げに関して、「例えば、新規契約に適正利益を超えた割高な保険料を適用することで、長期契約での赤字を穴埋めするなどといった、保険商品としての合理性・妥当性を欠くものとならないように留意する必要がある」と各社にクギを刺しています。

「2000年代に発生した保険金不払い問題の反省から、各損害保険会社においては、契約者・代理店にとっての分かりやすさの向上や従業員の事務ミス防止を目的に商品のオールリスク化、無免責化、実損てん補化を進めてきた。近年はこれらが保険料アップの一因にもなっており、免責金額の導入や高額化など、見直しの機運が見られる(後略)」というのも気になる記述です。料率引き上げの影響を少しでも緩和するため、揺り戻しが起きているというのですね。
なお、損害率を悪化させている「その他の要因」として、「特定修理業者による影響」「水漏れ損害の増加」「破汚損の増加」に加え、先日の決算発表・IR説明会で注目した「企業火災保険における大規模事故の増加」も挙げられていました。

代理店ヒアリングから引用

顧客本位の業務運営について(39ページ~)では、「営業職員管理態勢の高度化」「保険代理店管理態勢の高度化」「公的保険制度を踏まえた保険募集」「外貨建保険の募集管理等の高度化」などが挙がっていました。
このうち損害保険代理店に関しては、金融庁(財務局)が実施した代理店ヒアリングの結果の一部を示しています。当局は「(代理店手数料ポイントや代理店統廃合の推進に関する)こうした課題は、損害保険会社と保険代理店との民民間の委託契約に基づくものであり、その在り方については当事者間でよく話し合い解決すべき事項であるが」としつつも、「代理店手数料ポイント制度の設計・運用や代理店統廃合が一方的な対応とならないよう、保険代理店の意見をしっかり聴取する等、引き続き、丁寧な対応に努めるよう促した」と述べています。
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※写真は夜の大濠公園です。

 

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保険負債の透明性が低すぎる

インシュアランス生保版(2023年7月号第1集)に寄稿したコラムをご紹介します。今回もしっかり「主張」させていただきました。
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損害保険と比べた生命保険の特徴として、契約期間が長いという点が挙げられる。生命保険会社が提供している医療保険も終身が主流となっているようである。これらの保険を提供する生命保険会社は、いわば遠い将来の約束を果たすために存在している。
このように書くと、生命保険に関わる皆さんは「いまさら何を言っているの?」と首を傾げるかもしれない。では、この5、6月に公表された決算関連資料から、皆さんは生命保険会社が抱えている保険負債の長さを把握できるだろうか。答えはノーである。

もし「そもそも被保険者がいつ亡くなるかわからないのだから、保険会社がいつ約束を果たすのかなんて事前にわかりようがない」とお考えであれば、保険の仕組みを勉強しなおすことをお勧めしたい。死亡率や発生率が概ねわかっているからこそ保険会社は保険料を決め、保障を提供できている。言い換えると、保険会社は保有する契約について、将来のどの時点でどの程度の支払いが発生するのか概ねわかっていて、それに合わせて資産運用を行っている。資産運用と保険引受は車の両輪ではなく、まず保険引受があって、それを全うするために資産運用がある。

資産と負債をどの程度対応させるかは各社の経営判断による。ただし例外を除き、各社は販売時に将来支払う保険金額が決まっている円建ての商品を主力としてきたため、その結果として何十年も先まで円の固定金利(予定利率)を保証している。ちょっと考えただけでも大変なビジネスだとわかるが、問題はその大変さを外部から知る手掛かりがほとんどないことにある。

実は1社だけ、この情報を直接外部に示している会社がある。第一生命ホールディングスは2年前から投資家向けの説明資料のなかで、第一生命の資産・保険負債のキャッシュフロー構造という図表を公表し、今後5年ごとの保険収支見込みなどを示している(最新版は5月29日公表資料の26ページに掲載)。
この図表を見ると、第一生命では現時点で50年先までの保険金支払いを見込んでいて、30年までのところは円金利資産で対応し、そこから先は金利変動のリスクをほぼそのまま抱えていることがわかる。過去に獲得した高利率の契約は今後20年くらいまでのところにあって、円金利資産をあてて金利リスクを小さくしたうえで、負債の高利率を賄うための別の方法を模索しているとみられる。こうした情報開示があって、初めて市場との建設的な対話が成り立つのだと思う。

遠い将来の約束を果たすのがどの程度大変で、それに対して経営がどう対応しているのかという情報は契約者にとっても重要である。こうした情報開示なしに「自己資本を積み上げました」「金利リスクを削減しました」と言っても説得力はない。第一生命に続く保険会社はいつ現れるのだろうか。
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※つかの間の晴天でした。このところ雨ばかりです。

 

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大手損保の国内事業戦略

最初にご案内です。6月28日の夜(18:00-19:00)に損保総研の特別講座で講師を務めます。演題は「保険会社経営の今後を探る ~最近の環境変化を踏まえて~」でして、ここ数年、定点観測的にお話をしているものです。
今回も対面ではなく、オンラインによるライブ配信ですので、ご関心のあるかたはぜひお申し込みくださいね。

さて、今週の保険代理店向けメールマガジンInswatch Vol.1188(2023.6.12)に寄稿したコラムをご紹介します(IR資料へのリンクを加筆しました)。
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3メガ損保グループはそれぞれ四半期ごとに投資家・アナリスト向けに決算説明会(電話会議を含む)を開催しているほか、半期ごとにグループ戦略を説明するIRミーティングを行っています。
直近のIRミーティングが5月下旬にありましたので、今回は各グループによる国内損害保険事業の取り組み方針の概要を紹介します(詳細な情報は各社のIRサイトで確認できます)。

東京海上(5月24日開催)

東京海上グループは「国内損保事業でNo.1の成長とマーケット対比優位な収益性を実現している」とアピールしたうえで、着実な保険引受利益の成長のために次の5点にフォーカスすると説明しています(資料はこちらです)。

・自動車保険の収益維持
・火災保険の収益改善
・新種保険の拡大
・事業効率の向上
・新たなビジネスモデル

事業効率の向上に関して、現在の中期経営計画(2021~23年度)では約400億円のデジタル投資を行い、社内事務を徹底的に削減することでコンバインドレシオの改善を図るとしています。今回のIRでも、事務量削減の進捗状況と、それによって生まれた資源の再配分について定量的な説明がありました。

MS&AD(5月25日開催)

MS&ADグループは企業価値向上への取り組みとして、国内損保事業の主要戦略として次の4点を掲げています(資料はこちらです)。

・自動車保険の利益維持
・火災保険の利益改善
・新種保険の利益拡大
・事業費の削減

事業費の削減については、2022年度からのグループ中期経営計画で打ち出した1プラットフォーム戦略(ミドル・バック部門の共通化・共同化・一体化)の進捗状況を示しました。例えば、一部SCでの同居やコンタクトセンターの拠点同居(関西)が順次始まっていくそうです。

SOMPO(5月26日)

SOMPOグループからは「事業環境の悪化を踏まえ、収益回復に向けた新たなアクションを開始する」という説明がありました(資料はこちらです)。事業環境の悪化とは、インフレによる保険金増加や激甚自然災害の頻発化などのことです。収益回復に向けた新たなアクションとしては、以下を示しています。

・踏み込んだ収益改善策(火災保険・自動車保険・新種保険)
・更なる生産性向上策

更なる生産性向上策としては、商品の統廃合・簡素化による物件費の削減と組織体制の最適化によって、5年後の事業費率を31%台に下げる方針を打ち出しています(直近は33.9%)。

チャネル戦略への言及なし

こうして見ると、自動車保険の収支悪化にどうやって歯止めをかけるか、火災保険を赤字体質からどうやって脱却させるか、事業費のうち社費(人件費と物件費)をどうやって削減するか、というのが国内損保事業についての共通した関心事項だとわかります。
他方で国内損保事業のビジネスモデルの根幹をなす、代理店を軸としたチャネル戦略に関する記述は各グループともにほぼ見当たりませんでした。各社は中計で、「代理店システムの刷新等により、代理店の顧客接点および営業力を高度化」「オンライン商談等を活用した新たな募集モデルの構築」(いずれも東京海上グループ)、「代理店の高品質化・自立化を中心とした販売網構造改革に注力」(SOMPOグループ)などを掲げ、各社の代理店あたり収入保険料も着実に増加しているのですが、全く言及がないというのは不思議な気がします。
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週刊ダイヤモンドに寄稿

6月5日発売の週刊ダイヤモンドに「台湾・損保のコロナ保険危機 リスク管理上の二つの教訓」という論文を寄稿しました。紙媒体のほか、有料会員はダイヤモンドオンラインでも読むことができます。

ダイヤモンドオンライン(有料会員限定)
前編
後編

以前このブログでもご紹介したとおり、コロナ保険を大々的に提供していた台湾の損害保険会社が、政府の政策変更によって相次いで資本不足に陥るという「事件」が発生しました。2022年のコロナ保険の収入保険料が業界全体で約250億円(円換算)だったのに対し、支払保険金はなんと約1兆円(同)に達しました。東京海上グループが2022年度決算で台湾コロナ保険に伴う損失を約1000億円計上したのもこの事件によるものです。

この事件を表面的にとらえると、政府のゼロコロナ政策がずっと続くと過信した台湾損保業界が目先の販売拡大に走り、突然はしごを外されてひどい目にあったという話です。とはいえ、この失敗から学ぶべきことも多いと思います。
論文では、「リスクマネジャーは政策変更リスクを常に意識し、リスクへの感度を高めなければならない」「業界全体が一つの方向に向かっているときに、自社だけが別の行動をとるにはどうしたらいいか」という2つの教訓を示しました。詳細はぜひ週刊ダイヤモンドまたはダイヤモンドオンラインをご覧ください。

なお、論文では行政の対応について、「当局がコロナ保険の販売を促したかどうかについては証言が分かれたが、業界をうまく指導できなかったとはいえるだろう」と書きました。日本もそう言われていますが、台湾の保険当局もコロナ禍における保険業界としての積極的な取り組みを求めたようです。「(ゼロコロナ政策が続いているなかで)コロナ保険の提供をやめようとした会社がいくつかあったが、当局がいい顔をしなかった」という証言もありました。参考までに記しておきます。

 

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感染症リスク引き受けの難しさ

週末は一橋大学で対面開催された日本金融学会の春季大会に参加していた(つまり東京にいた)ので、ブログはInswatchに寄稿したコラムのご紹介です。
今週のInswatch Vol.1184(2023.5.15)に掲載されました。
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「みなし入院」への支払いが終了

ご承知のとおり、5月8日から新型コロナウイルス感染症の法律上の位置付けが5類感染症となったことを受けて、各保険会社はいわゆる「みなし入院」でも入院給付金を支払う特例措置を終了しました。
社会的要請に応える形で2020年4月に導入したこの特例措置ですが、感染力の強いオミクロン株の登場によって感染者数が急激に増えてしまい、例えば生命保険業界だけで約1兆円という多額の給付金を支払う結果となりました。生保業界全体の保険金等支払金は年間30兆円前後、21年度末の純資産は約27兆円なので、健全性が揺らぐような支払いではないにせよ、22年度決算を圧迫したのは間違いありません。

感染症リスクの特徴

支払いがここまで増えた理由の1つは、変異株の出現による感染者数の増加を事前に予想できなかったことが挙げられます。ウイルスが変異するということは知られていても、それがどのタイミングでどの程度感染者数を増やすのかを事前につかむのは、現在のところ不可能だと思います。
保険会社にとって感染症は、保険として引き受けるのが非常に難しいリスクです。保険を提供するには、保険金や給付金を支払うべき出来事の発生率をある程度把握したうえで、契約者から集める保険料を決める必要があります。新型コロナは文字通り「新型」なので、参考となる過去の観測データはありませんでしたし、過去に生じた他の感染症の事例を参考にしたとは思いますが、限界があります。
加えて、保険会社は通常、発生率の不確かさを補うため、様々な工夫をしています。例えば生命保険や自動車保険では、大数の法則を活用するため、リスクを広く大規模に引き受けることで、発生率の安定を図っています。ところが感染症の場合、いくらリスクを広く大規模に引き受けても、感染が広がってしまえば感染者が一気に増えてしまい、大数の法則が働きません。グローバル展開をしていても、世界的な流行ともなれば、リスク分散の効果も得られません。

1兆円をどう見るか

保険会社は「みなし入院」への支払いを検討するに際し、頭を抱えたのではないでしょうか。新たにコロナ保険を販売するのではなく、既存の医療保険の保障対象を広げるという話なので、リスク管理に失敗した場合の影響は甚大なものとなりえます。
おそらく各社はストレステストを実施したのではないかと想像します。ただし、どこまで深刻なストレスシナリオを設定できたでしょうか。感染者数が1日数百人という時点で、1日2万人以上が新たに感染するという事態を織り込むことができたかどうか。できたとしても、自社だけが特例措置を行わないという経営行動に踏み切れたかどうか。
そう考えると、やや遅れたとはいえ昨年9月に「みなし入院」への支払い対象を絞ることに成功し、結果として約1兆円の支払いにとどまったのは、もちろん関係者の努力があったにせよ、不幸中の幸いだったと言えるのかもしれません。
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※前回に続きソウルの写真です。

 

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