13. 保険マスコミ時評

週刊ダイヤモンドの保険特集

ランキング以外も充実

今年の保険特集は例年よりもやや遅いタイミングでの刊行でしたが、例年にも増して力作だったという印象です。
プロローグの節税保険では、短期払いスキームというタイムリーな話題のほか、過去の経緯も紹介しています。外貨建て保険の記事にも「保険会社シェア」「銀行が受け取る商品カテゴリー別手数料額」があり、代理店の記事には損保代理店の図解や新手数料体系の分析があるといった、ファクトに基づいた情報を提供しようという姿勢に好感を持ちました
(もちろんデータが正しいという前提で)。

それにしても、これだけの特集なのにスタッフの名前がわずか2人しか出ていないというのも驚きでした。怪奇現象が起きるのもわかります(編集後記を参照)。

緩和型コラムも健在

実のところ個人的に保険特集で最も楽しみにしている記事は、「掲載基準緩和型コラム」という小ネタだったりします
(すみません、本文も読んでいますよ^^)。

今回は畑中元金融庁長官の話とか、地面師グループに元セールスレディ、ADIとトヨタの関係といった、「だからどうなの」という話ではあるのですが、楽しく拝読しました。おそらく骨太の本文があるからこそ、こうした小ネタが生きるのでしょう。
拡大版のコラム「代理店周辺のうわさ話」も関係者にはウケたのではないでしょうか。こうしたメーカー(保険会社)と乗合代理店の関係は将来的にどうなっていくのでしょうね。

見かけと実態のギャップ

自分の原稿についても多少触れておきましょう。
「最高益は見せ掛けにすぎない 生保経営の真実に迫る」というもので、以前のブログでご紹介したように、決算発表報道で示される「保険料等収入」と「基礎利益」では、マイナス金利政策の副作用に苦悩する生保経営の本当の姿は見えてこないという内容です。

少しだけ裏話をしますと、元の原稿のタイトル案は「最高益は見かけにすぎない」だったものが、編集の過程で「最高益は見せ掛けにすぎない」となっていたのに、ボーっとしていてそのまま返してしまい、今になって多少反省しています。「見かけ」と「見せ掛け」ではニュアンスが違いますよね。
本文を読めばわかりますが、保険会社が決算をお化粧しているという趣旨ではありません。

経営者は表面的な会計数値を重視するのでしょうか。
例えば、5月24日に開かれたMS&ADのIR説明会の質疑応答要旨に次のコメントが出ています。

「株主の皆さまへの還元の原資がグループ修正利益であり、基本的に重視する指標は、グループ修正利益です。一方で、マスメディアでの報道等でとりあげられるのは財務会計利益であることもあり、また、財務会計上の利益を重視する投資家もおられることから、マネジメントとしては財務会計利益も重視しています」

異常危険準備金の取り崩しによって高水準となった会計利益が経営実態の手掛かりになるとは考えにくいのですが、「マスメディアに取り上げられるから」という(おそらく)経営トップのコメントをどう受け止めたらいいのでしょうか。
これはメディアに変わってもらうしかないのかもしれません。

※2月の金沢駅の写真もアップ。

 

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責任準備金組入率とは?

毎日新聞の投書欄に「保険批判への反論も載せて」という保険関係者による投書がありました(11日)。
ビジネス誌による生命保険特集に掲載されている保険コンサルタントや評論家による商品評価の内容が、独自の視点による一刀両断といった内容ばかりで、しかも、的外れの内容があまりに多いので、せめて保険会社の言い分も載せるべきという内容でした。
保険数理のプロに「読む度にため息が出る」と言わせてしまうような記事が例えばどのような内容なのか、興味がありますね。心当たりが全くないわけではありませんが…

やや話がずれてしまいますが、私もこの週末に日吉駅の書店(ローカルですみません)で思わずため息が出てしまいました。
保険関係のコーナーにはなぜか三田村さん(大手生保の出身だそうです)というかたの書籍ばかりが並んでいて、いずれも保険会社を見極める指標として「責任準備金組入率(積立率)」を薦めていました
(個社ごとに指標の推移が載っていました)。

ここで言う「責任準備金組入率(積立率)」とは、損益計算書の保険料等収入に対し、経常費用の1項目である「責任準備金等繰入額」の占める割合です。
この数字が概ね40%あれば健全な財務力がある会社と考えられ、数字が低い会社は積み立てるべき責任準備金を積めていないとのこと。
思わずのけぞってしまった読者も多いかもしれませんが、このかたは少なくとも10年以上前から同じ主張を続けています。

当期の保険料等収入と責任準備金等繰入額を比べて何がわかるのでしょうか。
シンプルに説明すれば、保険会社は当期の保険料等収入のうち将来支払う見込みの部分を責任準備金として繰り入れる一方、責任準備金を取り崩す(戻入する)ことで、当期の保険金や給付金の支払いに充てています。ただ、繰入額と戻入額はネット表示なので、満期や解約などが多ければ責任準備金等繰入額が小さくなったり、収益として責任準備金戻入額が計上されたりします。さらに言えば、保険料等収入も、貯蓄性商品の販売により大きく変動します。

ですから、組入率(積立率)が小さいのは、単にその期の保険金等支払金が相対的に大きかったというだけであり、積み立てるべき責任準備金を積めていないわけでは決してありません。
2000年前後に破綻した会社の数字がいずれも小さかったので、この数字を重視しているのかもしれませんが、当時は生保への信用不安が解約の増加につながり、責任準備金の戻入が大きくなったという話です。高水準の解約が続いているので指標が低水準で推移しているというのであればまだしも、単にこの数字の大小をもって生保の健全性を見極めるというのは、どう考えても無理があります。

ということで、今回は「ため息が出る」話でした。

※ビュースポットに立つと富士山が見えました

 

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医療保険の値下げ

16日の日経「医療保険 シェア競争(有料会員限定)」について。

4月の標準生命表改定で平均余命が全般的に伸び、入院や手術の可能性が高まることから、第三分野商品の値上げが必要と言われていたにもかかわらず、実際には保険料を据え置いたり、一部の商品では値下げになったりしているという記事でした。

値上げが難しい競合環境

記事では値上げとならなかった背景として、「医療保険を巡る競争が激しくなっている」「高齢化や医療費の高騰が進むなか、医療保険へのニーズは高まっている」などとありましたが、ニーズが高まっているのであれば、値下げまでしてシェアの確保に走る必要はなさそうです。
医療保険は成長分野と言われつつも、競争が激しく、なかなか値上げができない環境にあるということなのだと思います。特に代理店チャネルでは単品で販売されることが多く、どうしても他社の商品と直接競合する場面が多いのでしょう。

物価上昇率2%を目指した日銀による大規模な金融緩和にもかかわらず、世の中の値上げに対する抵抗が非常に強いということの表れなのかもしれません。

死亡率は一要素にすぎない

では、保険会社はどうして保険料を下げることが可能なのか、保険会社が身を削っているのか、という点も気になりますよね。

保険会社が身を削っているかどうかは正直、手掛かりが少なすぎてわかりません。ただ、医療保険では、死亡率は医療保険の保険料を決める一要素にすぎず、入院や手術の発生率など、他の要素も大きいことは挙げられます。
例えば、入院給付金が日額5000円、手術給付金は20倍(入院の場合)という典型的な医療保険の場合、「平均在院日数は20日程度?(再入院を踏まえれば、もう少し長い?)」「手術を伴う入院は全体の1/3程度?」なんて考えていくと、医療保険といいつつ、入院給付を中心とした保険であると推測されます。入院に関しては、平均在院日数がどんどん短くなっているので、保険会社はこの点では助かっている(=値下げの余地がある)はずです。

医療保険の比較は難しい

保険料の払込方法も関係がありそうです。
例えば同じ終身医療保険でも、60歳まで保険料を払う商品と終身払いの商品を比べると、平均余命が伸びる影響を大きく受けるのは、前者の60歳までしか保険料が保険会社に入ってこない商品のほうです。後者も平均余命が伸びて給付の可能性は高まりますが、保険会社が受け取る保険料も増えると見込まれます。

それにしても、ひと口に終身医療保険といっても、会社ごと、商品ごとにスペックが微妙に違いますね。本当の意味での価格競争にはなっていないような気もします。

※熊本に行ってきました。2年前の地震で傾いた城内の建物がこの6月の大雨で倒壊したとか。

 

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企業の情報開示

企業情報の開示や提供のあり方について検討してきた金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループの報告書が公表されました。

政策保有株式の追加開示に注目

コーポレートガバナンス・コードとは違い、こちらは規制そのものに直結する話です。
例えば役員報酬については、経営陣の報酬内容・体系と中長期的な企業価値向上が結びついているかどうかという観点から開示の見直しが進められそうですし、政策保有株式に関しては、開示対象の拡大や買い増し理由の記載、純投資と政策投資の違いの説明などが求められるようになりそうです。

他方で、経営戦略・ビジネスモデル、MD&A、リスク情報などの開示に関しては、昨年12月の事務局説明資料で示された「日本の現状」に対し、WGの回答は「開示内容について具体的に定めるルールを整備するとともに、ルールへの形式的な対応にとどまらない開示の充実に向けた企業の取組みを促すため、開示内容や開示への取組み方についての実務上のベストプラクティス等から導き出される望ましい開示の考え方・内容・取り組み方をまとめたプリンシプルベースのガイダンスを策定すべきである」といった指摘にとどまりました。
何かに的を絞った議論でないと、こうしたWGでは話が先に進まないのかもしれません。

「超同質集団」

ところで、最近話題になった日経記事「変わる経団連、変われぬ経団連」「経団連、この恐るべき同質集団(有料会員向け)」も、企業のディスクロージャーを活用したものですね。
正副会長19人が全員男性・日本人で転職経験がなく、1人を除き首都圏の大学出身で、最も若い人で62歳という超同質集団が、雇用制度改革や人事制度改革などに本気で取り組めるのかといった内容で、書いたご本人も年齢以外はこの集団と同質だったというオチもありました。

経済メディアには、日本経済が衰退すると新聞等が売れなくなり、広告も得にくくなるということで、もしかしたら広い意味で日本企業の中長期的な価値拡大を促す動機があるのかもしれません。また、ディスクロージャーが進むなかで、経済メディアがうまく活用してくれると、資本市場にとってもプラスの効果が期待できるでしょう。
話題の記事も、多様性を説く経団連のトップの実情を示すいい記事だったと思います。

経済メディアのあり方は

ただし、明日発表される予定の決算数値を今朝の新聞に載せることは、かつての価値観では特ダネとして称賛されたのかもしれませんが、考えてみれば、1日早く決算データの一部を世の中に示すことにどのような価値があるのでしょうか。
多くの人にとって迷惑なだけだと思いますし、仮に株価が動いたとして、喜ぶのは短期的スタンスの投資家であって、中長期的な投資家には余計な仕事が増える(かもしれない)だけです。ここを改めないと、経済メディアが政府から規制される日も近いかもしれません。

※先週の写真ですが、乗り物(?)2題。

 

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週刊ダイヤモンドの保険特集

遅まきながら週刊ダイヤモンド毎年恒例の保険特集を読みました。

「プロが薦める【最新】保険商品ランキング」「岐路に立つ保険代理店」といった各企画は、一見すると他誌の類似企画と同じように思えます。ところが読んでみると、さすが週刊ダイヤモンドという記述が随所に見られます。とりわけ保険流通に関わるかたには必見の内容ではないでしょうか。

今年の保険特集で個人的に面白かったのは、記事のあちこちにある「掲載基準緩和型コラム」という小さな囲み記事と、特集の締めくくりに掲載された遠藤さん(金融庁監督局長・遠藤俊英さん)のインタビュー記事でした。

コラムのほうは、これを面白いと思うかどうかは個人差があるでしょうね。
例えば、決算発表の延期が続いているエヌエヌ生命について「金融庁が『あいつらナメてますね』とあきれ顔」なんて記事があるかと思えば、SOMPOホールディングスの副社長と三菱UFJ銀行の新頭取が同窓生で仲がいいとか、「このハゲぇー」の前衆院議員が少額短期保険制度の基礎を作ったとか、何というか、どうでもいいと言われればその通りなのですが、おそらく長年この業界をウォッチしていないと書けないものも多そうです。

遠藤局長のインタビュー記事は、商品ランキング、インシュアテック、保険代理店と読み進めてきた読者には、あれっ?、という印象ではないでしょうか。
大手生保をはじめとした国内系生保は、本誌が取り上げた商品比較からも、保険ショップが台頭する世界からもやや距離を置いたところにいるようですが、このインタビューでは見事にこちらに切り込んでいます。

「常識的に考えて相互会社形態のまま、無制限に企業買収を進めていくというのは、保険契約者に対して今後説明がつくんですかということになります」
「(契約者還元の透明性を高めるべきという質問に対し)本当にそうだと思いますよ。相互会社ってそういう存在ですからね」

結構重みのあるコメントかもしれませんね。

※生演奏を聴きながら美味しい料理をいただきました。一ツ木町倶楽部です。

 

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投信販売の本質

 

2017年末の公募投信の純資産残高が過去最高を更新したそうです。株高による時価上昇や日銀によるETF買い入れのほか、海外株式に投資するタイプの投信への資金流入も顕著だったとか。

「フィデュ―シャリ―・デューティーとは言うものの、投信販売の本質的な部分が変わるわけではない。当行では、20代の行員が高齢のお客さまのところに足しげく通い、かわいがってもらいながら『お願いセールス』で買っていただくというスタイルが定着している(後略)」
「『フィデュ―シャリ―・デューティー宣言』を出してからは、表向きの販売姿勢は変わっているが、根底にある人とのつながりで買っていただくという実態は変わらない」

「確かに、本質的な部分は変わっていないのかもしれないね。かたちのうえでは丁寧に商品説明をして、お客さまもご納得いただいたうえでサインをしていただくが、行員もお客さまもお互い複雑な商品設計を理解できるわけがない」
「わからないうえで、『手数料は高いかもしれないが・・・』『ハイリターンを狙えるなら・・・』という、稼ぎたい両者の思いが合致して売買が成立している」
「当局からは顧客本位で販売するよう言われるが、お客さまだって手数料が高かろうが『儲かればそれでよし』という気持なのだから、一概に売手だけを責めるのは筋違いではないか」

週刊金融財政事情(2018.1.15)の人気コラム「支店長室のウラオモテ」から引用させていただきました。
このコラムは銀行支店長の覆面対談(本当に対談しているかどうかは不明)なのですが、現場の声を代弁したものとして、出しているのでしょう。

一概に売り手だけを責めるのは筋違い、というのは同感するところがあります。金融リテラシー向上など顧客の主体的な行動を可能とする環境づくりや、顧客にアドバイス等を行う担い手の多様化への取り組み(いずれも金融審議会が求めています)はどうなったのかと思います。

しかし、行員も顧客も理解できない商品を人間関係で売るのが投信販売の本質と言われてしまうと、やはり私には抵抗がありますね。
もちろん、金融商品といえども、顧客が価格面だけで選ぶとはかぎりません。例えば顧客が住宅ローンを選ぶ際、貸出金利の低いA銀行ではなく、金利は少しだけ高いけど、いつも相談に乗ってくれる担当者のいるB銀行の住宅ローンを選ぶ、というのはよくあることでしょう。

ですが、顧客が金融商品に何を求めているかを踏まえると、行員が理解できない金融商品を親密な顧客に提供するというのは、もしかしたら、それが投信販売の実態なのかもしれませんが、本来やってはいけないことでしょう
(もちろん、行員がどのレベルまで理解すべきかという議論があるとは思います)。

裏を返すと、理解できない商品だからこそ、本部が勧める商品を何の疑問も持たずに提供できるという面があるのかもしれません。ウソを隠し通すのは結構大変なことですが、もともと知らなければ隠す必要もありませんので。

そうだとすると、当局が金融リテラシー向上のターゲットとすべきなのは消費者ではなく、まずは販売担当者なのかもしれませんね。

※左と右は同じ建物です。東海道新幹線の大倉山トンネル近くにあります。
 建物からは下の写真のような景色が見えます。

 

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生保の資産運用計画

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生保各社がメディアに示した「資産運用計画」
に関する記事がいくつか出ていましたので、
日経(有料版)と東洋経済のものを見てみましょう。

「生保マネー 背水の脱・国債依存」(日経)

各社が発表した部分はともかく、どうも初めから
「脱・国債」を主張したい記事のように感じました。

確かに、全10社ともオープン外債投資に前向きで、
国内債券は10社中6社で減らすと発表したようです。

だからといって、書かれているような、

「運用利回りを確保するために外国債券や社債など
 国債以外の資産に資金を移さざるをえない」

「為替と信用リスクをとった運用を目指さなければ
 立ち行かない現状」

「マイナス金利が長期・安定運用の前提を突き崩した
 今、生保は脱・国債を迫られている」

と決めつけるのはどうかと思うのですね。

生保の国債投資は、国債が安全資産だからでは
ありませんし、超長期国債への投資が多いのは、
日本独自の「責任準備金対応債券」区分があり、
格付けと利回りが相対的に高いからというのは
さすがに無理があります。

保険負債の円金利リスクをヘッジしようとすると、
社債市場等の規模が小さい日本では、どうしても
超長期国債を保有することになるからです。

記事のなかにも、「長期の負債を持つ生保は、
金利変動による損失を抑えるため、満期保有を
前提にした債券を多く持たざるを得ない」という
記述があるのですが...

他方、さすがに外貨建資産がここまで増えると、
「これ以上増やしてもいいのか?」と考えるのが
第三者としては普通の反応だと思うのですね。
しかし、「リスク適切管理と機動的運用が必須」
とのこと。

「機動的なヘッジ」の必要性を否定はしませんが、
為替リスクを取っておいて、損失は発生させない
(つまりリターンだけを確実に確保)なんてことが
常にできるものなのでしょうか。

「大手生保の運用担当は市場をどう見ているか」
(東洋経済)

生保6社(大手4社とかんぽ生命、太陽生命)の
運用計画と市場動向見通しを紹介したものです。
なぜこの6社なのかはわかりません。

こちらは警戒モードというか、「今すぐに生保各社の
経営が大きく揺らぐことはないが、低金利の長期化は
生保の経営体力をじわじわと奪いつつある」で始まり、

「今年度も国内の超低金利とボラティリティ(変動性)
 の高い為替相場に悩まされそうだ」

とまとめています。

テーマである「運用担当者の相場感」については、

・ヘッジコストの上昇が見込まれ、ヘッジ外債は慎重
・当面は低金利環境が継続するが、金利上昇も警戒
・為替は幅の広いレンジ相場。大きく振れる展開も

といった紹介でした。

なお、いずれの記事でも引用しているのが、
日銀が4月に公表した金融システムレポートの
「生保資産構成の国際比較(日、独、英、米)」です。

先日のブログでは書きませんでしたが、
65ページからのBOX1に4か国の保険商品構成や
資産構成などを比べた図表が掲載されています。

ただ、記事では各国の資産構成だけを見て、
「(日本は)他国に比べると国債への偏りが歴然」
(日経)という記述になっています。

国債が多いのは確かなのですが、他国にしても、
米国は特別勘定を除けば債券(国債、社債、MBS)
ばかりですし、ドイツもユニット・リンクと投信が
対応すると考えると、残りはやはり金利ものが
中心ということになります。
英国はユニット・リンクと実績配当商品なので、
資産構成を比べてもあまり意味がありません。

逆に言うと、図表からは、変額商品でもないのに、
為替リスクや株式リスクをそこそこ取っているのは
日本だけということがわかるのですが…

ちなみに日銀は、日本以外で保険市場と投信の
つながりが強まっていることや、日本でヘッジ外債の
ウエートが高まっていることから、金融市場の混乱が
保険に波及しやすくなっていると指摘しています。

※写真はウラジオストク駅。シベリア鉄道の終点です。

 

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長寿生存保険

 

2016年3月期の生保決算が発表されつつあります。
マイナス金利政策による超長期金利の低下を受けて、
各社ともEVが減っているようです。

さて、今回は決算ではなく、日本生命が4月に発売した
「ニッセイ長寿生存保険」を批判する記事について。

記事の言う、「生命保険業界内で物議を醸している」
という話はともかく、このような誤った理解が広がるのは
不幸なので、取り上げることにしました。

記事のタイトルは、「日本生命、ボロ儲けか…平均寿命で
死ぬと契約者が約5百万円損する保険販売」。

記事のエッセンスは次のようなものです。

・平均寿命まで生きた場合でも、年金の受取総額は
 保険料の支払い総額よりも少なく、損失が出る。

・5年保証期間以降に亡くなると、死亡保険金などの
 支払いは一切行われず、ギャンブル的要素が強い。

・契約者が自らの寿命を賭けて一か八かの勝負をする
 ような保険であり、胴元となる日生がボロ儲けを狙って
 いると疑われてもおかしくない。

この記事を書いたライターのかたには、長寿への備え、
イコール貯蓄という思い込みがあるようです。
ですから、払い込んだ保険料を平均寿命になっても
回収できないのはとんでもない、となるのでしょう。

しかし、日本生命がニュースリリースで説明するように、
この保険のコンセプトは「長生きしたら支払う」というもの。
貯蓄で備えようという商品ではないのですね。
長寿生存保険のリリース(PDF)

一般的な生命保険(死亡保障)では、万一死亡した際、
遺族に保険金が支払われます。

加入者は死亡リスクへの備えとして保険に入るので、
もし契約期間内に死亡せず、保険金を受け取れなくても、
「保険料を支払ったのに保険金を受け取れないのは
おかしい」とはならないわけです(終身保険を除く)。

これに対し、この保険は万一、想定外に長生きした場合
年金が支払われるもので、長生きリスクへの備えです。

加入者は、例えば90歳を超えて長生きした場合の備え
として保険に入るのであって、遺族保障は目的外です。
長生きしなければ受け取れない(5年保証部分を除く)のは、
この保険の目的を考えると当然なのです。

ですから、年金の受取総額と保険料の支払い総額を
比べるという発想がそもそも違うのですね。

もちろん、長生きリスクに対し、貯蓄で備える方法も
あります(というか普通に行われています)。

しかし、自分が何歳まで生きるかわからないので、
多め多めにお金を貯めておく必要があり、結果として
多額の貯金を残して亡くなることになってしまいます。

そう考えると、貯蓄ではなく、いわば掛け捨ての保険で
想定外に長生きするリスクに備えようという発想は、
きわめて合理的ではないでしょうか。

よりシンプルな商品を考えれば、例えば90歳を超えたら
保険金を受け取れるような、掛け捨ての保険なのでしょう。

もっとも、記事にあるように、「長生きしなければ保険金が
一切受け取れないのは、自らの寿命を賭けたギャンブル」
という見方は根強いのかもしれません。

「私は長生きする自信がないから入らない」という声も
聞こえてきそうです。

ただ、同じことを死亡保障で考えてみると、
「私は〇歳までは死にそうにないから入らない」
と言っていることになります。

自動車保険だと、「私は事故を起こさないから入らない」
ということになりますね。

保険とはそういうものです。

リスクが無視できるほど小さい(あるいは自力で対応可能)
と思えば、わざわざ保険に入る必要はありませんし、
リスクが無視できないと思うのであれば入ったほうがいい、
そのような判断になるのではないでしょうか。

老後破産という話もしばしば耳にするなか、貯蓄以外に
長生きリスクに備える商品があるのは歓迎すべきことだと
私は思います。

この商品を批判するのであれば、何らかの根拠の元で、
「長生きリスクを過大に見積もった料率になっている」
というのならわかりますが、払い込んだ保険料の総額と
受け取る年金総額を比べて「元が取れない」という
批判をするのは的外れでしょうね。

ちなみに、この保険で5年保証期間を設けているのは、
何ももらえないという不満を少しでも解消するためでしょう
(そうでないと当局が認可しなかったのかもしれません)。

長寿リスク対応だけであれば、例えば80歳くらいまでは
給付が何もなくてもいいのかもしれませんが、
そこまで長寿リスク対応に徹した商品ではありません。

なお、解約返戻金が低い期間を設けることで、
年金財源を少しでも大きくしようとしているのも注目です。

※左の写真はエストニアの国会議事堂、右は中央銀行です。

 

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2015年版 生保・損保特集

 

毎年恒例の生保・損保特集(週刊東洋経済の臨時増刊)が
今年も発売されました。

縁あって今回も寄稿しています。タイトルは、

「大型M&Aがゴールではない 海外展開で問われるERM経営」。

加速する保険会社の海外事業展開を、ERM経営という
観点から考えてみたものです。具体的には、

・海外事業で積極的なリスクテイクを行うという経営判断が
 いかになされたのか
・海外大型M&Aの実行段階
・買収先をグループのメンバーとして経営体制に組み込む
 「ポストマージャー」におけるERM経営の関わり

の3つの局面を想定しています。
機会がありましたら、ご覧いただけるとうれしいです。

自分の原稿はさておき、今回の特集号は総じて好印象です。
まず、保険ショップの近未来図を予測した、石井秀樹さんの
「改正業法で地殻変動 保険ショップは三極化へ」をはじめ、
参考になる記事がいくつかありました。

また、メディアにみられる傾向として、それが全体のなかで
どの程度の影響を持つ話なのかを示さず、各社の取り組みを
そのまま記事にしたようなものが結構ありますよね。
これに対し、この特集号では全般的にきちんとファクトを
示そうとする姿勢がうかがえます。

例えば、銀行窓販の記事には過去10年の売れ筋商品の
推移が載っていますし、営業職員改革の記事では、
採用数や平均給与等の推移を示しています。
メガ損保の海外事業戦略でも、海外事業の収入・利益を
示したうえで、事業を支える組織や制度を紹介しています。

巻末の「生保・損保各社主要データ」が復活したのも、
うれしいですね。ここでしか取れないデータもありましたし。

何十年も続いている保険特集号ですので、
「保険業界の今がわかる」ものが続くといいですね。

※こちらの写真も大連です。ちょっと郊外に行くと、
 このような高層マンションがあちこちにありました。

 

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個人契約者の増配

 

11日の日経1面トップは、日本生命が個人契約者の配当を
7年ぶりに増やす方針を固めたという記事でした。
他の大手生保も増配を検討しているとのことです。

過去にも増配報道の不思議さについてコメントしましたが、
決算発表の際にも「増配」が取り上げられるでしょうから、
今のうちに疑問点を2つ挙げておきましょう。

疑問1:「増配総額」だけで「配当総額」はいいのか?

今回の各紙報道は「増配総額は約30億円」とあるものの、
配当総額がどの程度になるかの報道がありません。

これが株主配当であれば、増配もさることながら、
利益のうち配当還元がどの程度なのか注目されるはず。

それでは、前年の大手生保の個人向け配当総額は
いったいいくらだったのか。実は公表されていません。

相互会社では、剰余金処分額に「社員配当準備金」があり、
配当財源として社員配当準備金にあてた金額はわかります
(例えば昨年度の日本生命は2017億円)。

ただし、ここには団体保険、団体年金の配当も含まれていて、
両者がそこそこ大きな金額を占めているのです。

ディスクロ誌には「社員配当準備金明細表」という表があり、
保険種類ごとに当期の配当金支払がわかるのですが、
直近決算の支払額が掲載されるのは次のディスクロ誌です。

また、「当期の配当金支払」は必ずしも当期の配当所要額では
ないので、個人向け保険ではこれを配当所要額とみなすのは
ちょっと厳しいのではないかと思います。

ということで、配当準備金の内訳を公表してほしいのですが、
大手生保のなかで内訳を公表しているのは第一生命だけ。
保険マスコミの皆さまに期待しましょう。

疑問2:生保の配当はどうやって決まるのか?

日経だけではなく他紙も含め、増配の理由として、

「株高や円安で資産運用収益が増え、保有契約数の反転など
 本業の改善も確実になったと判断」

とほぼ同じ書きぶり。円安・株高の恩恵というわけです。

ただ、ここで言う「資産運用収益」とは何でしょうか。
基礎利益に注目するのであれば利配収入なのでしょうし、
円安・株高で資産価値が上がり、売却益をあてるのかも
しれません(まあ、増配総額30億円ですしね)。

いずれにしても、何がどうなったら生保は配当を増やすのか。
基礎利益なのか当期剰余なのか、あるいは支払余力なのか。
いくら経営の裁量で決められるとはいえ、株主配当に比べると
あまりに手掛かりがないと感じるのは私だけでしょうか。

そのようななかで、

「生保の増配は株や外貨建て商品を持たない保険の契約者にも
 円安や株高の好影響が及ぶ」(日経)

とは、ちょっと強引な感じがしますね。

日本生命の昨年12月末のソルベンシーマージン総額は
12.6兆円(前期末比+3.2兆円)に達しているのですから。

※写真は娘の作品です(中3家庭科)。
 親バカということでご容赦下さい^^

 

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