保険経営の報道は難しいのか?

今週の日経新聞による保険会社に関する報道です。

グループ内再保険

再保険で損益変動抑制 第一生命HDが新会社 ※有料会員限定」(1月7日)

第一生命グループがバミューダに再保険会社を設立するという記事です。「金利の上下に伴う損益変動リスクの抑制に乗り出す」「グループ内で、保険に対して保険をかける『再保険』の引き受けを近く始める。再保険の仕組みを使って損益への影響を和らげる」という説明があるのですが、グループ内でリスクをやり取りしても、実質的な損益変動の抑制にはならないのではないかと疑問に思いますよね。

グループ内に再保険会社を設立するという話は、実のところ昨年11月の機関投資家・アナリスト向け決算・経営説明会で示されていて、質疑応答(PDF)のなかで、グループ内に再保険会社を設立するメリットの説明がありました。
ですから、記事のような不思議な説明にはならないはずなのですが、記者さん自身の問題なのか、あるいは取材に応じた広報部門がうまく伝えなかったということなのでしょうか。

火災保険の損益

火災保険 赤字2000億円超 ※有料会員限定」(1月8日)

大手損保4社の2021年3月期の火災保険の損益が、自然災害の被害が比較的少なかったにもかかわらず、2000億円を超える赤字となる見通しで、収益性の改善が急務となっているという記事です。

火災保険の収支が厳しいというのはその通りです。記事が示すように再保険料の上昇は大きく、4-9月期の出再保険料(火災)は4社合計で前年同期よりも400億円以上増えています。各社とも元受保険料に再保険の上昇分をどれだけ反映できるかが課題となっています。

ただ、火災保険の損益として保険引受利益をそのまま使って説明するというのは、さすがにミスリードではないでしょうか。保険引受利益は「保険料収入から保険金の支払額とかかった事業費を差し引いた」(記事より引用)ものではなく、保険引受収益から保険引受費用と保険引受に係る営業費および一般管理費などを差し引いたもので、保険料と保険金&事業費を比べた指標(コンバインドレシオなど)ではありません。
特に大きな違いは、保険引受利益は異常危険準備金の増減と、長期火災保険や地震保険などの責任準備金の増減によって大きく左右されるということです。

記事には過去の保険引受利益の推移が図表で示され、「火災保険の損益は11年連続赤字」とあります。しかし、この図表を見て、いくら再保険料が増えたとはいえ、今年度の赤字が、過去最大の保険金を支払った2018年度に匹敵する赤字になるというのを不思議に思わなかったのでしょうか。これは、2018年度には多額の異常危険準備金の取り崩しがあったため、保険引受利益がかさ上げされているのに対し、今年度は異常危険準備金が積み増し(=保険引受利益のマイナス要因)となるからです。
念のため過去の火災保険のコンバインドレシオを確認すると、赤字の年度が多いのは同じですが、2015年度は1社を除き黒字(コンバインドレシオが100%未満)でした。同じ年度の保険引受利益が1000億円を超える赤字となったのは、異常危険準備金の積み増しと、期間短縮前のかけ込みで長期火災保険の責任準備金が急増したことが主な要因とみられます。
保険引受利益を使ったのは記者さんの判断なのか、あるいは、どこかの保険会社の広報部門があえてこの数値を提供したのでしょうか。

マスメディアの役割は大きい

私はマスメディア(特に日経)を目の敵にしているのではなく、むしろその逆で、保険マーケットにとってマスメディアの役割は非常に重要だと考えています。
保険会社が提供する商品・サービスは保険会社の経営内容にも左右されるため、保険会社は事業会社とは違い、投資家だけでなく、契約者(消費者)に対しても経営情報を伝える必要があります。他方で契約者(消費者)が保険会社の経営情報を普段から積極的に集めるというのは現実的ではなく、結局のところマスメディアに頼ることが多いはず。ですから、経営情報の仲介者であるマスメディアの役割がより高まる方向に持っていきたいのですが、どうしたらいいのでしょうね。

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

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