02. 保険会社の経営分析

新設保険会社の健全性指標

null null

とある会合で、保険会社の健全性指標
(ソルベンシー・マージン比率などですね)
について議論をする機会があり、そのなかで

「新しい会社のソルベンシー・マージン比率は
 総じて高いけど、健全性を把握する指標として
 役に立つのか」

という話になりました。

私の結論は、「単年度の比率だけを見ても、
あまり健全性の手掛かりにはならない」です。

当然ながら、事業を始めたばかりの会社は
保有契約が少ないため、保険引受リスクや
資産運用リスクが自己資本に比べて小さく、
ソルベンシー・マージン比率(以下SMR)は
高くなります
(1年後に大きく下がることはありますが…)。

しかし、考えてみれば、そもそも新設会社は
ビジネスモデルが確立できていないため、
事業そのもののリスクが非常に大きいはず。
ただ、このリスクを数値で表すのは困難です。

ですので、SMRでは新しい会社の健全性は
うまく示されていないと考えるべきでしょう。

では、基礎利益や当期損益はどうかといえば、
これらも残念ながらあまり役に立ちません。

特に生保事業では、新しい会社のように
保有契約に対して新契約のウエートが大きい
会社の場合、基礎利益や当期損益が小さく
出る傾向があります。
これは、新契約を獲得する際、販売経費など
コストがかさむため、売れば売るほど利益が
圧迫されてしまうためです。

それでは何を見たらいいのかという話ですが、
そもそも新設会社の経営リスクは大きいという
認識をお持ちいただいたうえで、「良質な契約を
順調に獲得しているか」なのでしょう。

契約数が少なければ初期投資の回収が遅れる
ばかりでなく、死亡率や発生率が安定せず、
収支の振れが大きくなってしまいます。

とはいえ、単に契約を増やせばいいのではなく、
良質な契約でなければ、数年後の収支が著しく
悪化することもありえます。
保有契約の動向とともに、新契約EVや発生率
など、契約の質の手掛かりとなる指標を探し、
ウォッチしていくことのが現実的でしょう。

なお、歴史の浅い会社では初期投資がかさみ、
歴史の長い会社とは資金繰りの構造が異なる点
にも注意が必要です(油断できないという意味)。
再保険を積極的に活用しているのであれば、
再保険活用の目的や出再先の信用リスクなども
注目事項です。公表資料だけでは難しいですが…

※写真は東海道・薩?(さった)峠です。

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

ブログを読んで面白かった方、なるほどと思った方はクリックして下さい。

金融庁が提起した主な論点

null null

今年から金融庁のサイトで、「業界団体との
意見交換会において金融庁が提起した論点
を公表するようになり、生命保険協会および
日本損害保険協会のものが出ています
(保険は2月以来の公表です)。

事務年度の終盤に行われた会合なので、
行政の取り組みの一端がうかがえます。

例えば[生命保険協会]を見ると、
「持続可能な収益構造等に関するモニタリング」
として、各社のコスト構造や保有契約の収益構造
について、次のような分析結果を示しています。

・全体の事業費に占める固定的な経費(ランニング
 コスト)の割合が多くの社で70%前後となっている
 など、販売が伸び悩んだ場合におけるコスト構造
 の弾力性は高くないと考えられる。

・いずれの社も保有契約全体で見れば、経済的
 ショックが起こらないという前提のもとでは
 今後も健全性を確保できる見込みであった。

・内部留保が更に蓄積されていった場合、資産
 運用高度化等を通じて利益を確保し、逆ザヤ
 契約からの損失をカバーすることや、内部留保
 の蓄積により健全性を維持することに加えて、
 利益や内部留保の一部を配当などによって保険
 契約者へ還元することをより意識すべき局面が
 いずれ訪れることとなる。

市場が縮小してもビジネスモデルが成り立つかを
見るには、新契約で利益を確保し続けることが
できるかも大事だと思うのですが、そこについては
特段言及はなかったようです。

「全体の事業費」も気になりますね。ここで言う
事業費とはどのような数字なのでしょうか。

まあ、さすがに損益計算書の事業費そのものでは
ないですよね。そうだとすると、保有契約に対する
新契約が多い会社は固定的な経費の割合が低く、
「コスト構造の弾力性が高い」となってしまうので。

「保有契約全体で見れば・・・今後も健全性を確保」
という記述も気になります。ストレスシナリオ下でも
現行会計ベースの利益を持続的に確保できる
という意味でしょうか。

文中に「逆ザヤ契約からの損失をカバー」とあり、
あくまで現行会計ベースの利益や内部留保の話を
しているようですが、他方で両協会の[共通事項]
の「統合的リスク管理の高度化」を見ると、

・(前略)持続的な成長性や収益性に資する態勢が
 整備・運用されているかという観点から、統合的
 リスク管理に係るモニタリングを実施した。

・リスク対比リターン指標であるROR(リターンオン
 リスク)の管理等を通じ、全社ベースでリスクと
 リターンのバランスを取る取組みが徐々に浸透し
 てきているが、セグメント別や商品別等の詳細な
 区分での取組みは今後の課題。

とあり、こちらの「リターン」は現行会計ベースとは
考えにくいです(リスクと対比するものなので)。

片や「持続可能な収益構造」、こちらは「持続的な
成長性や収益性」ということなのですが、果たして
両者の関係はどうなっているのか、話を聞いた
生命保険会社の首脳は混乱したかもしれません。

いずれにしても、おそらく詳細は「金融レポート」に
掲載されるのではないかと予想されますので、
楽しみに待ちましょう。

※写真は「宮城の小京都」村田の町並みです。

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

ブログを読んで面白かった方、なるほどと思った方はクリックして下さい。

生保決算

null null

ある生保の決算説明会で専門紙の記者から
次のように聞かれました。

「減収減益という結果だけど、話を聞くと、
 資産運用を積極化し、配当も出している。
 今回は果たしてどんな決算だったのか?」

報道では「マイナス金利が響き、減収」などと
保険料収入が減ったことばかりが注目され、
あとは基礎利益の解説が多少あるだけ。
確かに決算がよかったのか悪かったのか
これでは悩むのも無理はありません。

会社価値という観点から単純に1期前
(2016年3月末)と2017年3月末を比べると、
主に第三分野の保有契約積み上げに加え、
長期金利や株価の上昇により、ポジティブと
言うべきなのでしょう。

例えば各社が公表するEVを見ると、いずれも
数値が拡大しています
(日本、朝日、富国は非公表)。

ただし、金利のミスマッチは総じて広がり、
外貨建資産など資産運用リスクも増えてます。

また、各社とも保障性商品の販売に一段と
舵を切ったと思いきや、保険料収入の減収は
銀行窓販をはじめ一時払商品によるもので、
平準払の個人年金など(=収益性は低い)は
相当売れた模様です。

しかも、期中にはイールドカーブが極端に
フラット化し、健全性に余裕がなくなりました。
各社は劣後調達などに動きましたが、
再び金利が下がれば依然厳しいと思います
(もちろん個社による違いはありそうですが)。

ですので、「総じて厳しい決算だった」という
生保首脳のコメントは減収だからではなく、
基礎利益が減ったからでもありません。

メディアへの苦言となってしまいますが、
「保険料収入」では、必ずしも主力ではない
一時払の貯蓄性商品の動きだけを説明する
ことになってしまうので、販売動向を伝えたい
のであれば、他の指標を使い、各社が主力と
する営業職員チャネルや主力商品の動きを
解説すべきでしょう。

基礎利益(≒3利源)に関しても、もともとは
逆ざやを他の差益でカバーしていることを
示すために開示されるようになったものであり、
これで期間損益を語るのは無理がありますし、
ここまで外債投資が増えると、もはや何を
表しているかわからなくなっています
(外債投資で利息配当金収入が増えるため)。

せっかく各社が年換算保険料やその内訳、
EVや新契約価値などを示しているのですから、
記事ではこれらを活用してほしいです。
有力メディアが「保険料収入」と「基礎利益」に
こだわり続けると、保険会社の経営判断にも
悪影響を及ぼしますので。

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

ブログを読んで面白かった方、なるほどと思った方はクリックして下さい。

大手生保の中期経営計画

 

先週、日本生命と明治安田生命が中期経営計画
(日本生命は新計画への切替)を発表しています。

上場保険会社では半年ごとのIRミーティング等で
経営計画に関する詳細な説明があるのですが、
相互会社は入手できる情報が限られているので、
これらは経営の考えを知る貴重な機会です。

いずれもマイナス金利政策下での厳しい環境が
続くなかで新たに策定した計画ということで、
私が気になった部分をご紹介します
(全体像はそれぞれのリンク先をご覧ください)。

<日本生命>
2017-2020年度 中期経営計画 【PDF】

2015年度からの3カ年計画の途中ですが、
マイナス金利政策下での歴史的低金利を受け、
事業戦略を見直し、新たな中計を策定しました。

成長戦略として「超低金利下での収益性向上」
の実現を掲げ、

超低金利下で顧客ニーズと収益性の両立を
前面に打ち出しています
(具体的な取り組みは今後でしょうか?)。

「超低金利下でも着実な成長を果たすべく、
 経営戦略の根幹にERMを位置付けて経営」

というERMに関する説明もあり、

「グループベースに加えて、保険子会社ごと、
 領域ごとに経済価値指標を用いたPDCAを実施」

「経済価値ベースでの収益性・効率性・健全性
 管理を強化」

と、経済価値ベースでの管理を強調しているのも
注目です。

<明治安田生命>
MYイノベーション2020 【PDF】

「明治安田NEXTチャレンジプログラム」に続く
新たな3カ年計画です。

明治安田生命にとっても超低金利の影響は、
決して小さくないと思うのですが、発表資料には
超低金利を意識した記述はほぼ見られません
(あえてそうしているのかもしれません)。

2019年度目標値として今回から新たに、

「資本効率指標(RoEEV):年平均6%程度を
 安定的に確保」

「経済価値ベースのソルベンシー比率(ESR)
 :160%以上」

が加わりました。

日本の上場保険会社の大半がこれらの指標を
自主的に公表し、アナリストや投資家との対話に
活用していますが、おそらく明治安田生命も
何らかの指標を公表していくのでしょう。

ただし、注記を見ると、それぞれ
「2016年度末見込の運用環境に基づく数値」
「想定運用環境を前提とした数値」とありまして、
市場変動の影響は目標値の対象外だそうです。

中計に沿って、資産運用収益力を強めたり、
ERMでリスク・リターン運営を行ったりしても、
資産運用によるリスクテイクは、実現益として
純資産を積み上げないと、目標達成には貢献
しないはず(インカムゲインを除く)。

運用強化のターゲットはクレジット投融資なので
これでOKという割り切りなのかもしれませんが、
ステークホルダーであれば、もう少し説明が
ほしいでしょうね。

※写真は岡山県の港町・牛窓です。

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

ブログを読んで面白かった方、なるほどと思った方はクリックして下さい。

生保の第3四半期決算

 

生保の第3四半期(2017年4-12月期)決算が
出そろいました。

報道では4-12月期の減収減益を伝えるものが
多かったようですが、10-12月期に限って見れば、
トランプ相場による株高や円安の恩恵を受け、
それほど悪い四半期ではなかったようです。

EVを公表している上場会社の数値からも、
悪い決算ではなかったことがうかがえます。

ただ、外貨建資産のウエートが一段と高まり、
大手生保では一般勘定資産の20~30%に
達しています。

さて、例によって、10-12月期の保険料収入を
引き算して確認してみました。

大手は日本、第一、明治安田が減収となる一方、
住友は7-9月期を上回る保険料収入となりました。
同社の新契約年換算保険料を確認すると、
個人年金が7-9月期を上回る水準で売れています。
逆張り戦略なのでしょうか?

銀行窓販の保険料収入も総じて細っているようで、
第一フロンティアや三井住友海上プライマリー
といった窓販専門会社の減収が目立ちました。

※写真は韓国南西部の港町、木浦です。
 旧東本願寺が残っていました。

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

ブログを読んで面白かった方、なるほどと思った方はクリックして下さい。

生保の4-9月期決算から

 

東京に初雪の降った24日、非上場生保の
4-9月期決算発表がありました。

マイナス金利政策後の経営環境を受け、
各社がどのような戦略をとっているのか。
トップラインだけを見ても、各社の方針が
結構違うことがうかがえました。

例えば、大手4社の保険料等収入
(個人保険分野)はご覧の通りです。

 日本 15310億円(▲1434億円)
 第一  9342億円( +270億円)
 住友 14967億円(+4104億円)
 明安  8765億円(▲3292億円)

 第一フロンティア生命 5406億円
             (▲4513億円)
  ( )は前年同期差

日本生命の減収は銀行窓販が大半を占め、
営業職員チャネルは個人年金の増収により
むしろ増収の模様です。
ブログでも取り上げた「長寿生存保険」も
寄与しているとみられます。

第一生命は単体増収、連結減収です。
窓販に特化した第一フロンティア生命の
販売抑制が連結減収に反映しています。
単体の増収は個人年金が大きいようです
(年換算保険料が倍増)。

住友生命は保険料収入を大きく伸ばしました。
銀行窓販も増収のようですが、資料によると
平準払の個人年金の販売増加が主因とのこと。
若年層を取り込むため、入り口のツールとして
個人年金を販売し、次の保障性商品に
つなげる戦略なのでしょう。

明治安田生命は銀行窓販、営業職員ともに
減収となりました。特に銀行窓販の主力は
円建商品なので、販売抑制を強めたのでしょう。
営業職員でも平準払いに注力したとのことで、
第三分野の年換算保険料は二ケタ増です。

いつも目の敵にしている(?)保険料等収入も
このように使うと役に立ちますね。
もちろん、トップライン以外でも今回はいろいろ
見どころがあるようです。

※都心で雪景色は見られませんでしたが、
 朝の交通機関は大変なことになっていました。

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

ブログを読んで面白かった方、なるほどと思った方はクリックして下さい。

損保グループの決算発表

 

3メガ損保の2016年度第2四半期(4-9月期)
決算発表がありました。

前年同期に比べ自然災害が少なかったことや、
前年に見られた火災保険の駆け込みの反動減
などが公表資料からうかがえます。
政策株式の継続的な売却も確認できますね。

それにしても、近年の相次ぐ買収により、
海外事業の存在感は一段と大きくなりました。

例えば東京海上グループの正味収入保険料
(連結ベース)の内訳は次のとおりです。

 東京海上日動 10586億円(62%)
 日新火災      709億円( 4%)
 海外保険会社  5593億円(33%)
 合計       17008億円

生命保険料でも、全体で4344億円のうち
海外保険会社が1467億円を占めています。

MS&ADグループはアムリン買収が寄与し、
海外収入が一気に増えました。
以下が連結正味収入保険料の内訳です。

 MSI        7566億円(41%)
 ADI        6094億円(33%)
 海外保険会社  4514億円(25%)
 合計       18393億円
  
SOMPOグループは他の2グループに比べると
海外事業のウエートは限られています。
連結正味収入保険料の内訳は次のとおり。

 損保ジャパン日本興亜  10874億円(85%)
 海外連結子会社      1673億円(13%)
 合計             12795億円

ただし、エンデュランス買収が実現すると、
通年で2000億円程度の正味収入保険料が
加わることになります。

かつての国内損保事業に集中していた状態、
すなわち、日本の自然災害リスク(地震、台風)
による影響が非常に大きかった姿に比べると、
リスク分散が進んだのは確かでしょう。

あとは買収先がリスクをコントロールしながら
中長期的に投資に見合うリターンを上げることが
できるかどうか。
持株会社の経営管理がいかに機能するかが
問われるのだと思います。

※福井ではトラム(路面電車)が普通の鉄道に
 乗り入れていました。

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

ブログを読んで面白かった方、なるほどと思った方はクリックして下さい。

解約返戻金の推移

 

生保の四半期開示を時系列でみると、いくつかの会社で
2013年頃から解約返戻金が高水準で推移していました。
ただ、昨年後半から減少に転じ、ピークは過ぎた模様です。

解約返戻金が多かったのは、オリックス(ハートフォード)、
エヌエヌ(旧アイエヌジー)、三井住友海上プライマリー、
東京海上日動フィナンシャル、マニュライフ、などなど。

この顔ぶれは、かつて銀行チャネルで変額個人年金の
販売上位だった会社ですね。

第二次安倍内閣が発足した2012年末の少し前からの
株価上昇で、2000年代前半に購入し、元本割れしていた
変額年金の時価が元本を上回るまで回復したのでしょう。

最低保証があるのに解約するのは、預金代替として
変額年金を購入していた契約者が、再び元本割れとなる
事態を嫌ったのかもしれませんし、あくまで想像ですが、
銀行に勧められ、他の商品に切り替えたのかもしれません
(変額年金を買うときも銀行に勧められたはずですし…)。

このあたりの現場情報がわかれば、手数料開示などの
議論をするに際し、参考になりそうですね。

それでは、高水準だった変額年金の解約返戻金が、
昨年後半あたりからなぜ落ち着いたのでしょうか。

2万円だった日経平均株価が16000円まで下がったように、
変額年金の時価が再び下落した影響はありそうです。

直近の2016年4-6月期は、その前の期に比べると
株価下落の影響はマイルドだったはずなのですが、
解約が落ち着いているにもかかわらず、変額年金の
資産残高は前の期並みに減っています
(時価下落以外の影響も考えられますが…)。

あるいは、時価が回復したら現金化したいという契約者は
概ね解約してしまい、年金として受け取ろうという層が
残っているという可能性もありますね。

このあたりの契約者行動は、おそらく日本の変額年金の
輸入元である米国とは同じではないように思います。

※築地市場の正門にあった移転案内が撤去されていました。
 環状2号の工事はどうなってしまうのでしょう(写真右)。 

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

ブログを読んで面白かった方、なるほどと思った方はクリックして下さい。

マイナス金利政策の副作用

 

けさ(13日)の日経1面「マイナス金利、3000億円減益」
という記事をご覧になったでしょうか。

あくまで報道ベースですが、マイナス金利政策により
3メガバンクの損益が3000億円の悪影響を受けるという
調査結果を金融庁がまとめたということです。

この記事の最後にさらっと次の記述がありました。

「長期運用で影響が表れにくい保険会社も、マイナス金利に
 入った長期国債などの変動影響を時価で評価したところ、
 1年間で自己資本比率が半分に減った社もあった」

ここでいう「自己資本比率」の分母・分子の定義は
記事ではわかりませんが、減益(でも黒字)どころか、
「自己資本比率が半分に減った」ですからすごい話です。

記事の「保険会社」は、普通に考えれば生保でしょうね。

ちなみに、最近発表された2016年4-6月期の生保決算
を確認しても、マイナス金利の副作用を示すような結果は
見当たりません。

ただ、いくつかの上場生保の投資家向け資料には、
この調査結果を裏付けるようなデータが載っています。

例えば、第一生命のEV(エンベディッド・バリュー)は
マイナス金利政策の影響のない2015/3の約6.0兆円から、
直近の2016/6には3.7兆円に減っています
(いずれも超長期金利の補外に終局金利を用いた方法)。

T&Dグループは四半期ごとにEVとともに、ESR
(経済価値ベースのソルベンシー比率)を公表しています。
分母のリスク量に対し、分子の時価資本がどの程度あるかを
示した指標です。

これを見ると、T&DグループのESRは、2015/12月末の210%から、
直近の2016/6末には130%に下がったことがわかります
(終局金利を採用した場合には162%)。

ソニー生命のESRも、2015/12末には173%だったものが、
2016/6末は95%(終局金利採用ベース)となりました。

上場していない生保は手掛かりをあまり出していません。
とはいえ、国内系生保の商品戦略や資産運用・ALM戦略に
大きな違いは見られないため、上場生保で起きていることは、
非上場生保でも同じように発生しているとみるのが妥当でしょう。

したがって、「時価評価で見た自己資本比率が半減」というのは、
半減かどうかはともかく、一部の例外的な話ではなく、
業界全体で健全性が圧迫されていると考えるべきでしょう。

※いつものように個人的なコメントということでお願いします

※写真は函館・倉庫街近くで見つけた和洋折衷住宅。
 1階が和風、2階が洋風という函館特有の建物です。

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

ブログを読んで面白かった方、なるほどと思った方はクリックして下さい。

生保の健全性指標

 

前回に続き、生保決算と実態のギャップについて。

2016年3月期決算で最も実態から乖離した指標は
「実質純資産額」(または「実質資産負債差額」)
だったように思います。

この指標はソルベンシー・マージン比率とともに
行政監督上の指標(=早期是正措置の発動基準)
となっていて、もし数値がマイナスとなった場合には、
当局は業務停止命令を出すことができるという
重要度の高い指標です
(ただし、ALMと流動性を考慮した措置があります)。

実質純資産額は時価ベースの資産の合計から
負債の合計(資本性の高い負債を除く)を差し引いて
算出します。

全ての保有区分の有価証券含み損益が反映される
一方、ソルベンシー・マージン比率では支払余力として
考慮される劣後ローンは、こちらでは反映されません。

 参考:生命保険会社のディスクロージャー

2016年3月期決算では、株価下落にもかかわらず、
各社とも実質純資産額が1年前よりも増えました。

例えば明治安田生命の公表資料を見ると、
株式と外国証券の含み損益は▲9378億円でしたが、
実質純資産額は6163億円も増えています。

同社のソルベンシー・マージン比率の分子
(支払余力)は▲3851億円減っているのに、
実質純資産額が増えたのは、全ての保有区分の
公社債含み損益が反映されるためです。

公社債含み損益は全体で約1.5兆円増えています。
その内訳は次の通りです。

 その他有価証券(公社債): +1483億円
 満期保有目的債券     : +3422億円
 責任準備金対応債券   : +1.0兆円

同社にかぎらず、生保が保有する超長期債の多くは
「満期保有目的債券」か「責任準備金対応債券」なので、
日銀のマイナス金利政策を受けた金利低下によって
債券価格が上昇し、実質純資産額を押し上げました。

しかし、生保が超長期債を大量に保有しているのは
超長期の保険負債の金利リスクをコントロールする
ためなので、保有する超長期債の価格が上がり、
実質純資産額が増えたからといって、決して喜ばしい
状況ではありません
(保険負債の価値はもっと増えているので)。

そのことは生保の経営者もよく理解しているはずで、
例えば、昨年から今年にかけて複数の国内系生保が
外部から劣後債務の調達を行い、支払余力の水準を
引き上げようとしていることからもうかがえます。

もっとも、EVやESR(経済価値ベースの資本十分性)を
公表していない会社の場合、金利低下による影響を
外部から判断する手掛かりがほとんどありません。

いくら自己資本の絶対額を示されても、果たして
会社が望ましいと考えている健全性を確保できている
のかどうかわかりませんので、手掛かりとなる情報を
ぜひ開示してもらいたいものです。

※日比谷公園のバラがきれいでした。

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

ブログを読んで面白かった方、なるほどと思った方はクリックして下さい。