02. 保険会社の経営分析

なぜ「経済価値ベースの評価」なのか

インシュアランス生保版(11月号第1集)に執筆した記事のご紹介です。
金融庁が公表した「これまでの実践と今後の方針」を受けたものとなっています。
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動的な監督として経済価値評価を採用

金融庁が公表した「金融行政のこれまでの実践と今後の方針(平成30事務年度)」を読むと、保険会社を取り巻くリスク等に関するモニタリングのなかに、動的な監督として「資産・負債を経済価値ベースで評価する考え方を検査・監督に取り入れていく」という記述を見つけた
(104ページ)。

生命保険会社の経営管理やリスク管理に携わっていないかたには「経済価値ベースで評価する考え方」といってもあまりピンとこないかもしれない。資産・負債を経済価値ベースで評価するとは、市場価格に整合的な手法で評価することであり、もっと噛み砕いて言えば、時価評価のことである。
現行の会計では資産の一部が時価評価される一方、負債の大半は取得原価で評価されている。資産が時価変動で動いても負債は固定されたままであり、それに基づいて計算されるソルベンシー・マージン比率は、支払余力や経営リスクを十分にとらえていない。

金利リスクをどう捕捉するか

ここまで読んでも、やはり自分には関係がないと思うかもしれないが、金融庁が業界団体との意見交換会で次のようにコメントしているのをご存じだろうか。

「わが国の生保は国際的にも突出した金利リスクを有していると認識」
「現行の監督の枠組みでは金利リスクの捕捉が不十分」

日本の伝統的な生命保険は超長期にわたり利率保証があるものが多かったため、生保会社が抱える金利リスクは非常に大きい。生保はその一部を、超長期国債などを購入することでカバー(ヘッジ)してきたものの、それでも金利リスクが突出しているという指摘である。
言い換えれば、今の800%、900%といった高いソルベンシー・マージン比率(経営リスクの4~4.5倍の支払余力を持つという意味)は「虚像」であり、だからこそ金融庁は、超低金利がニューノーマル化するなかで、将来にわたる健全性を確保する動的な監督として経済価値ベースの評価を取り入れるのだろう。
生保としては、リスクヘッジが難しいのであれば、少なくとも新たなリスクテイクには慎重にならざるを得ない。

経済価値ベースでみると…

中堅生保が相次いで経営破綻した時代から約20年がたち、当時の状況をご存じないかたも増えていよう。生保破綻の本質的なところは経営者や経営組織の問題に行き着くとはいえ、直接的には高金利の時代に個人年金など超長期の貯蓄性商品の販売に傾斜し、過度な金利リスクを抱えた状況のまま金利水準が下がってしまい、経営体力を蝕むようになったことが破綻の一因である。
当時、経済価値ベースの評価が普及していれば、経営管理の担当部門は経営陣に対し、より明確な形で警鐘を鳴らせただろうし、監督当局も早期警戒が可能だったはずだ。

今の生保の健全性に問題があるとまで言うつもりはないが、経営内容にそれほど余裕があるわけではないことを、業界関係者であれば知っておいたほうがいいだろう。
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※写真は新選組ゆかりの八木家です。

 

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生保の外国証券投資

日銀が金融システムレポートを公表

日本銀行が年2回公表している「金融システムレポート」は、日本の金融システムの現状と課題を知るうえで必読です。
22日(月)公表のレポートでは、金融システムの安定性に関し、「全体として、わが国の金融システムは安定性を維持していると判断される」としているものの、

・人口・企業数の継続的な減少や低金利利環境の長期化に伴って、金融機関の基礎的収益力の低下が続いている。

・金融機関の損失吸収力には相応のばらつきがあり、これとの対比でミドルリスク企業向けや不動産業向けの貸出、有価証券投資などで積極的にリスクテイクを行っている金融機関では、信用コストや有価証券関連の損失に伴う自己資本の下振れが大きくなる可能性がある。

といった分析結果が示されています。

生保の資産運用動向

レポートには「機関投資家による金融仲介活動(27ページ~)」として、次のような記述がありました。

・低金利環境が続くなか、利回りの低い国内債の買い入れを抑制しつつ、相対的に利回りの高い外債やファンド投資などを増加させている。

・均してみればヘッジ比率は横ばいで推移しており、為替リスクのエクスポージャーを拡大させる動きも限定的である。

・低金利環境が長期間続くもとでも、保険会社が過度なリスクテイクに向かわない背景には、期間収益が比較的安定していることが挙げられる。

保険会社が総じて過度なリスクテイクに向かっていないというのはその通りだと思いますが、他方で金融庁のサイトを見ると、生命保険協会との意見交換会(7/20実施分)で、当局は「外国証券へのシフトを強める動きは、多くの生保会社において共通するが、特に中小会社にその傾向が強い会社が見られる」と言及しています。

外貨建負債の開示が必要

各社の第1四半期末の資産構成を確認すると、確かに一般勘定に占める外貨建資産の割合が大きい会社がいくつもあって、なかには5割を超えている会社も見つかりました(三井住友海上プライマリー、第一フロンティア、メットライフ、マスミューチュアル)。
これらの会社をはじめ、外貨建資産の割合が大きい会社では、外貨建てで貯蓄性のある保険を主力としているところも多いようなので、総論としては、台湾の生保のように、低金利環境のなかで外国証券投資に活路を見出しているということではなさそうです。

ただし、以前も述べたように、外貨建負債の金額がディスクロージャーの開示項目となっていないので、個社ベースでは何とも言えません。
金融庁は本事務年度でも中小会社の資産運用のモニタリングを強化するとのことですが、情報開示を促すことも必要ではないでしょうか。


※かつての築地市場でみかけました

 

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相次ぐ自然災害の発生

直近のinswatch Vol.949(2018.10.8)に執筆した記事のご紹介です。
「相次ぐ自然災害でも保険会社の経営は大丈夫なのか」という話を書いています。
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自然災害の頻発

今年は不幸にも比較的大規模な自然災害が相次いで発生する年となってしまいました。6月の大阪北部地震、7月豪雨、9月の台風21号、北海道胆振東部地震、台風24号と続いた大規模災害では、いずれも事故受付件数が数万件あるいは数十万件に上っています。
災害が広範囲におよび、全ての都道府県で何らかの被害が出ている状況なので、損害保険会社では損害調査担当の職員(および経験者)だけでなく、全社的な応援体制で支払い業務にあたっていると聞きます。

保険会社の経営は大丈夫なのか

金融庁は「これらの自然災害は、国内損害保険会社の財務内容に大きな影響を与えるおそれがある」(7月の日本損害保険協会との意見交換会における金融庁コメント)ことから、保険会社の引受方針や再保険手配等によるリスク軽減策などに注目している模様です。
保険会社の財務面に与える影響をどう見るかですが、家計向け地震保険は決算への影響はなく、費用保険と企業向けのみです。7月豪雨は9月12日の時点で1657億円の支払い見込みですが、まだ膨らむかもしれません。事故受付件数が非常に多い台風21号と、直近の24号(25号も?)をどう見るかにもよりますが、場合によっては、年度別の支払い額が過去最高となった2004年(7449億円)に匹敵することもあるのかもしれません。

とはいえ、ソルベンシー規制では伊勢湾台風(再現期間70年)に相当する規模の台風災害を想定しています。1991年の台風19号(支払い保険金は5680億円)から単純に換算すると約8900億円となりますが、現在の契約状況を踏まえると、より大きな金額を保険会社に求めているはずです(地震リスクと比べて大きいほうを採用)。
さらに言えば、保険会社は自らのリスク管理として、例えば再現期間200年など、ソルベンシー規制よりも厳しい基準で自然災害リスクを想定するのが一般的です。

ご参考までに、損保業界が保有する国内株式は約7.5兆円あります。株価が1年間で2割下がるのは、再現期間としてはせいぜい10年程度と考えられますが、これで1.5兆円もの経済損失が発生します。業界数値の多くを占める3メガ損保に関しては、自然災害リスクよりも株価下落リスクのほうが大きいと言えそうです。

決算数値は支払いの進捗次第で変わる

以上から、自然災害が相次いだとはいえ、総じて保険会社の健全性を揺るがすような話にはならないというのが私の現時点での見立てです。ただし、決算(損益計算書)には相応の影響が出てきます。
特に9月に発生した自然災害は、事故受付だけで保険金等の支払いに至っていないケースが多いとみられます。この場合、保険会社は見込み額を支払備金として計上しなければならず、これが損益を圧迫します。その後支払いが進み、火災グループの正味損害率が50%を上回れば、異常危険準備金を取り崩し、収益として計上することになります。
この結果、今年度の決算では、上半期は支払備金の計上が損益を圧迫し、下半期は異常危険準備金の取り崩しで増益、といったものになるのかもしれません。

損益計算書から自然災害による影響を見るのは難しく、むしろバランスシートを中心に確認したほうがよさそうです。
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※写真は「スイスの美しい村」グアルダです。

 

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高利率契約の動向

生保の破綻が相次いだ時代から20年近くたち、逆ざや問題なんて過去の話と思われるかもしれません。でも、このようなデータをご存じでしょうか。

先日公表された大手生保のディスクロージャー誌によると、予定利率の高かった1986年度から1995年度にかけて獲得した個人保険・個人年金保険の責任準備金は、10年前とほぼ変わらない水準で残っていることがわかりました(大手4社の合算値)。

さすがに1985年度以前の契約では、加入時から30年以上たっているので、責任準備金は10年前の50%まで減っています。例えば1980年に35歳だった人は、2018年には73歳です。80年代前半までの契約は死亡などにより消滅するケースが増えているのでしょう。

ところが、1986年度から1995年度となると、例えば1990年に35歳だった人は、2018年には63歳なので、死亡などにより契約が消滅するペースは緩やかです。しかも予定利率が高いので、責任準備金が一向に減らないという状況と考えられます。
特に1991年度から1995年度の契約は、足元でも責任準備金が増え続けていますし、ボリュームとしても全体の2割弱を占めているのです。

平均予定利率を見てしまうと、予定利率の低い団体年金で押し下げられているうえ、2000年代に各社が銀行などを通じて貯蓄性の強い商品を多く販売したことで、かなり下がっています。
しかし、現実には過去の負の遺産(契約者からすればお宝契約)の負担が未だに大きいということが、今回のディスクロ誌から確認できました。

※「せんば山にはタヌキがおってさ♪」の「せんば」に行きました。

 

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なぜ「ポートフォリオ変革」なのか

23日に横浜で開催されるRINGの会オープンセミナーは「満員御礼」だそうです。私は第1部のコーディネーターを務めますので、パネリストの興味深い話が引き出せるよう、準備を進めているところです。
さて、週の途中ですが、直近のinswatch Vol.932(2018.6.11)に寄稿しましたので、ご紹介しましょう。

なぜ「ポートフォリオ変革」なのか

3メガ損保や上場生保では、決算発表後の5月下旬に投資家・アナリスト向けの経営説明会を開いています。決算結果の説明だけではなく、経営トップ自らが今後の経営戦略を伝える機会となっていて、業界関係者にも役に立ちそうです。

各社の説明資料はこちらで入手できます。
 東京海上 
 MS&AD 
 SOMPO 

新中計で「ポートフォリオ変革」を掲げる

3メガ損保グループのうち、東京海上とMS&ADでは今年度から新たな中期経営計画がはじまり、今回の説明会でも中心テーマとなりました。
東京海上グループの重点課題には、「ポートフォリオの更なる分散」「事業構造改革(=販売チャネルの変革・強化など)」「グループ一体経営の強化」の3つが挙げられています。また、MS&ADグループの重点戦略は、「グループ総合力の発揮」「デジタライゼーションの推進」「ポートフォリオ変革」の3つです。
両グループとも業界再編や大規模買収により今の姿になったので、グループベースでの経営を強めようというのは自然な流れでしょう。その一方で、いずれも自らの「ポートフォリオ」、すなわち、収益・リスク構造のバランスをさらに変えようとしているのはどうしてなのでしょうか。

リスクポートフォリオの偏り

ヒントは各グループが開示している「リスク量の内訳」にあります。
保険会社では自らが抱える経営リスクを、例えば200年に1回の確率で発生しうる損失額などとして金額に置き換え、健全性の確保や資本効率の向上に活用しています。
東京海上の資料によると、リスク量として最も大きいのは「国内損保(資産運用)」で、全体の3割強を占めています。MS&ADでも国内損保の資産運用リスクがグループのリスクポートフォリオの3割強となっていますし、SOMPOでは自然災害リスクを抑えているためか、国内損保の資産運用リスクが5割弱に達しています(いずれも2017年度末)。地震や台風といった自然災害リスクを抱える損保グループで最も大きい経営リスクが資産運用のリスクというのは、考えてみれば不思議な話です。
言うまでもないかもしれませんが、国内損保の資産運用リスクの多くは、営業目的などで保有する国内株式によるものです。

海外事業拡大が本質ではない

中長期的な投資家の目線からすると、自然災害リスクは保険事業の収益の源泉であり、保険引受リスクのコントロールに強みがあると考えているからこそ、保険会社に投資します。
近年の国内勢による積極的な海外保険会社の買収には、日本に偏った事業ポートフォリオを分散するという意味もあると思います。もっとも、保険引受リスクの分散であれば再保険でも対応可能なので、海外M&Aをしなければ投資家がいい評価をしないというものではありません。
各グループともに事業ポートフォリオの分散を掲げ、海外事業の拡大を図るとしていますが、グローバル経営による成長を目指したいという経営者の判断によるものなのでしょう。

ところが、最大の経営リスクが国内株式保有によるものという現状を踏まえると、損保グループの経営者は、保険引受事業よりも日本株の保有のほうが高いリターンを安定的に上げられると考え、資本を最も多く使っていることになります。
ただし、株式投資に何か特別な強みを持っているのでなければ、投資家としては自分で株式投資を行ったほうが、少なくとも税金の分だけ有利なはずです。「特別な強み」など存在するのでしょうか。

政策株式保有を正当化するのは難しい

損保が保有するのは、いわゆる政策保有株式なので、株式を保有することで大企業から保険料を得ている面があります。しかし、かつての規制料率時代とは違い、コマーシャル分野は収入保険料を確保すれば利益が得られるという事業ではなくなりました。もはや株式投資における「特別な強み」とは言えません。
例えば、MS&ADは政策株式のROR(リスク対比リターン)を7~8%程度と示していますが、これは保険引受利益と配当をリターンとしたものだそうです。株価の変動を考えると、安定的に7~8%のリターンを上げられるものではありません。
損保グループの経営者もこうした状況を十分理解しているからこそ、中期経営計画の3本柱の一つに「ポートフォリオの変革」を掲げ、実行しようとしているのでしょう。

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inswatchは保険流通業界向けのメールマガジンです。
私は2か月に1度のペースで寄稿しています。

※久しぶりに札幌スープカリーを食べました。

 

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契約者への配当還元

6月8日の日経新聞によると、昨年度決算を受けた大手生保4社と富国生命の増配額は合計で521億円になるそうです。
ここで言う「増配額」とは個人保険・個人年金保険の契約者向け配当の増加分のことを指すのだと思いますが、毎度のことながら、これだけだとレベル感が全然わかりません。そこで、かなりラフではありますが、開示情報をもとに試算してみました。

非常に慎重な還元スタンス

この5社の配当準備金繰入額の合計は5905億円でした。団体保険の配当はディスクロージャー誌から過去の実績を見たうえで、ざくっと約3700億円と置き、団体年金の配当は各社が公表した配当率を参考に、これまたざくっと840~850億円とすると、個人保険・個人年金保険の配当は1300億円程度ということになります。
つまり、前年度の800億円弱から521億円増えて、1300億円程度になったということで、5社のソルベンシーマージン総額が2.1兆円増え、危険準備金繰入など内部留保だけでも1兆円近い水準を増やしたのに比べると、非常に慎重な配当姿勢だということがうかがえます。

もっとも、第一生命の契約者配当は日経によると「横ばい」とのことですが、同社は配当準備金繰入額の内訳を公表していて、個人向けは64億円増えています。他方、住友生命は「110億円の増配」と説明していますが、個人向けの配当準備金繰入額を推計すると、10億円程度しか増えていません。
おそらく何らかの入り繰りがあるのでしょうけど、各社は配当還元についてもっと情報を出さないと、余計な不信感を与えてしまうのではないでしょうか。

団体保険の配当はコスト扱い

なお、私はいろいろなところで基礎利益の限界みたいな話をしていますが、契約者配当との関係で言えば、団体保険の契約が大きい会社ほど基礎利益が大きくなる傾向があります。団体保険では危険差益の大半を配当することになっていて、いわば事後的な保険料の調整が行われているので、この部分はコストとして基礎利益から控除したいところです。
上記試算の数字を使えば、5社合計の基礎利益2.1兆円のうち、約3700億円がかさ上げされているということになりますね。

※写真は「手づくり和菓子教室」の私の作品です。運よくこちらに当たりました。

 

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マイナス金利政策後の生保経営

2018年3月期の生保決算をざっと確認しました(まだ国内系だけです…)。
大方のメディアは相変わらず保険料収入と基礎利益にしか関心がなさそうなので、私は大規模金融緩和の副作用を探ってみようということで、マイナス金利政策が始まった2年前と比べてみました。

各社の経営リスクは総じて増える傾向にあるとうかがえる一方、基礎利益は増えていても、多くの会社が実行してきた「外部調達を含め、金利低下でダメージを受けた支払余力を高めつつ、内外金利と為替リスクを取る」という経営行動は必ずしも会社価値を増やすことにつながらなかった、というのが現時点での総括となりそうです。

2016年3月期と比べると、各種準備金の積み増し(国内系8社で約2兆円増)と外部調達(同1.2兆円増)を行う一方、この間、資産長期化を概ねストップし(例外あり)、外貨建資産を増やしています。
しかし、国内金利は低水準のままであり、対米ドルでは円高が進み(生保の外貨建資産は米ドル建てが多い)、海外金利の上昇も著しく、ヘッジコストも上がっているとなると、この期間にかぎればリスクテイクが裏目に出ているように見えます(株価上昇で相殺されていますが)。

当然ながらリスクをとれば必ずリターンが上がるものではなく、リスクテイクが裏目に出ることもあります。問題は外部ステークホルダーがこのような経営を期待しているのかどうか、あるいは、経営陣が考え方をきちんと説明しているかどうかだと思います。
この点で、上場会社はそれなりに説明しているのに対し、相互会社による考え方の説明は少ないですね。今後の情報開示に期待しましょう。

※出張でソウルに来ています。

 

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少短保険会社の不適切会計

公文書改ざんの次は、事務方トップのセクハラですか。一般企業に比べると、組織としての中央官庁の体質は10~20年くらい遅れているというのが私の実感でしたが、一連の対応を見ていると、まさにそうだと改めて思いました。

個人負担で保険金支払い

さて、連日大きなニュースが相次ぐなかで、「保険金支払いに個人資産充当」という冗談のようなニュースがあったのをご覧になったでしょうか。保険料ではなく保険金です。

糖尿病でも入れる保険を提供することで知られるエクセルエイド少額短期保険が、2013年秋から2014年1月にかけ、幹部の個人資産を保険金支払いに充てる不適切な会計処理を行っていたと発表しました。会社の資産減少で保険金の支払いが遅れていたため、当時の社長で大株主でもある創業者が保険金部長(当時)に個人負担を求めたとのことです。
同社のサイトへ

加入者数の伸び悩み

そんなに苦しかったのかと同社の経営情報を確認しようとしたところ、例によってディスクロージャー誌はサイトにアップされておらず、財務内容の手掛かりは決算公告だけでした。

エクセルエイドは2007年7月に営業を開始しています。2008年度の事業計画では、第5期(2011/3期)の黒字転換、第6期(2012/3期)の累損解消を見込んでいたようです。
しかし、加入者数が見込みどおりに伸びなかったと見られ、損益計算書が公表されるようになった2011/3期は黒字決算でしたが、その後は113条繰延資産(=新契約費の資産計上)の影響を除くと実質赤字が続きます。

問題の不適切会計が行われた2014/3期(過年度修正後)の決算データを見ると、確かに苦しい状況がうかがえます。
その前年度から113条が使えなくなったこともあり、2期連続の赤字決算となりました。累積損失は5億円に達し、純資産から113条繰延資産を除くとわずか0.1億円です。同社はそれまでも累計5億円以上の増資を行ってきており、さらなる増資が難しくなっていたのかもしれません。

その後はコスト削減を進めたことなどにより、2016/3期からは実質黒字となっています。しかし、保険料収入が2.3億円、加入者数が6000件程度にとどまっていることが、引き続き最大の経営課題なのでしょう。

なぜ簿外処理が可能だったのか

それにしても不思議なのは、どうしてそのような会計処理ができてしまい、かつ、なかなかバレなかったのかという点です。
保険金・給付金の支払いを社員が負担し、決算数値がよくなるということは、加入者からの請求をなかったことにするとか、会社以外のシステムから会社名で保険金支払いを行うとかの異例な処理が行われたと考えられます。

少額短期保険会社とはいえ内部監査の担当者はいたでしょうし、保険計理人もいます(外部委託かもしれませんが)。資本金3億円以上であれば外部監査も必要です。
2014/3期の保険金・給付金0.9億円に対し、保険金部長が個人負担したという112件/0.1億円は同社にとって決して小さい数字には思えないのですが。

※写真は明治神宮です。ここも外国人観光客が多いところなのですね。

 

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金利敏感株に明暗

16日の日経・マーケット総合面に「金利敏感株に明暗」という見出しの記事があり、「保険上昇/電力・不動産は軟調」という株式市場の動きを伝えていました。
ただし、「米金利の上昇を受けて保険株が上昇」「生損保はともに外国債券の保有額が多く、海外の金利が上昇すれば中長期的に運用益が増加する」という説明は、さすがに無理があるように思います。

米金利上昇と生保経営

ちょうど14日から15日にかけて主要生保の4-12月期決算が公表されましたので、こちらのデータも参考にしながら確認してみましょう。
生保のバランスシートで米金利上昇の影響を直接受けるのは、保有している米国の公社債と、グループで展開する米国の保険事業です。このうち後者の保険事業については、一般的に米国生保では以前からマッチング型のALMが浸透しているため、金利変動の影響をそれほど受けないと考えられます。

問題は前者の公社債です。最近でこそ外貨建ての商品提供が目立つようになってきたとはいえ、保険負債の大半は円建て、かつ、固定金利の長期保証ですので、生保の外債運用は負債とのマッチング目的ではなく、純粋に資産運用でリターンを目指す取り組みです。

生保の外債投資は増加基調

2017年9月末と12月末を比べると、一部の会社を除き、外貨建資産の増加基調が続いており、いまや一般勘定資産の2~3割が外貨建資産という状況です。
このうち、ヘッジ外債(為替ヘッジを行っている公社債)については米金利上昇の影響を受けにくいことも考えられますが、少なくとも為替ヘッジのない米国公社債は金利上昇によって価格が下落し、中長期的に運用益が増加するとか言う前に、今の時点でやられているはずですね。

保険株(特に生保)が金利敏感株であるという見方に異論はありません。米欧の中央銀行に続き、日銀も金融緩和の出口に向かい、金利の上昇基調が見込まれるようになれば、生保経営にとってプラスに働きます。
ですが、同じ金利上昇でも、円建ての保険負債を大量に抱える日本での金利上昇と、資産運用でリターンを目指す米国での金利上昇では、日本の生保経営に対する影響は正反対と捉えたほうがよさそうです。

※この週末(17~18日)は横浜・大倉山の梅まつりでした。

 

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損害保険統計号から(inswatch原稿のおまけ)

今週のinswatchに「損害保険統計号から」という記事を寄稿しました。後日こちらでも紹介したいと思いますが、ボリュームの関係で書かなかったことを、私の備忘録を兼ねて残しておきましょう。

ダイレクト自動車保険

inswatchでは3メガ損保や外資系損保の市場シェアを改めて確認しました。
加えてダイレクト系の元受シェアも見たところ、29社ベースの全種目合計(地震・自賠を除く)では5.6%、自動車保険では7.7%となっていました(2016年度)。昨年10月の産経新聞に出ていた「自動車保険全体の8%程度」を検証できました。

この「7.7%」という数字をどう見るかです。
ダイレクト自動車保険は20年前の1997年にはじまり、10年前の2007年度の元受シェアは4%弱でしたので、徐々にシェアを確保してきているといったところでしょうか。ただし、自動車保険には企業向けも含まれることから、個人向けにかぎればちょうど1割くらいを占めるようになったと考えられます。
都市と地方、あるいは世代によっても、ダイレクト自動車保険の普及度合いは違うのでしょう。

日本の消費者は価格差があっても簡単には動かなかったとはいえ、今後もダイレクト保険のシェアは高まっていくのではないでしょうか。
ネット通販のさらなる普及のほか、事故が起きにくくなると、今の付加保険料の水準を維持するのは徐々に難しくなるでしょうから、代理店が主力に据える商品ではなくなっていくのかもしれません。

元受と正味の違い

また、元受正味保険料と正味収入保険料を比べてみて、格付会社から金融庁に移った時のことを思い出しました。
格付会社で担当していた損保会社は大手から中堅規模ののフルライン会社ばかりで、元受保険料と正味保険料の差がそれほどありませんでした。しかし、金融庁がモニタリングの対象としているのは損害保険会社免許を持つすべての会社なので、50社以上にもなります。
こちらをご覧いただくと、特定分野に特化した会社がたくさんあることがわかります。

加えて、再保険政策も会社によって大きく異なります。特に外資系の場合、元受のかなりの部分を出再するケースが目立ちます。
2016年度データを確認すると、例えばこの1月に富士火災と合併したAIU保険は、元受正味保険料が2511億円、正味収入保険料が648億円ということで、元受保険料の7割以上を出再しています。

アリアンツ火災はもう少し複雑で、元受正味保険料71億円と受再正味保険料75億円の大半を出再しているため、正味収入保険料はわずか1億円です。
元受保険料のほとんどを出再してしまうということは、日本の拠点は実質的に引受リスクを負わないということになります。出再先が海外であれば日本の保険行政の力が及ばない(及びにくい)ので、一般的にはモニタリングが難しいと思われます(もちろんアリアンツに何か問題があるという意味ではありません)。

いずれにしても、生保会社を含め、外資系保険会社では再保険が多用される傾向があり、分析には注意が必要ですね。

※写真は六本木です。光の色が突然白から赤に変わり、びっくりしました。

 

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