01. 保険経営全般

最近のインタビュー記事

2023年もあっという間に過ぎつつあります。
個人的にはこれだけメディアに登場したのは、2000年代前半の生保危機以来かもしれません。
長年の保険業界ウォッチャーとしては、物事の表面をなぞるのではなく、より本質に迫る解説やコメントを心がけていく所存です(機会があれば)。

年末にインタビュー記事がいくつか出ていますので、こちらでご紹介します。

1.産経新聞「損保大手4社の事前価格調整、水面下で横行 信頼回復に道険しく」(12月26日)

金融庁が26日に大手損害保険会社に対する行政処分と保険料調整行為等に係る調査結果を公表したのを受けたものです。
この調査結果は予想通りの結果とはいえ、組織的かつ法令違反の自覚がないまま不適切な取引が継続的に行われていたことが示されています。

2.日経フィナンシャル「経営理解する社外取締役を 金融庁も体制強化必要」(12月28日)

有料媒体なので購読者限定ですが、先日寄稿した日経新聞・経済教室「曲がり角の損保経営 収入・シェア偏重体質改めよ」をさらに深掘りしたようなインタビュー記事になっています。
経済教室では「社内で当然視される取引慣行に疑問を投げかけるのは執行への過剰干渉ではなく、社外取締役の重要な役割だ」と書きました。こちらのインタビュー記事では最近のガバナンス研究を踏まえ、社外の目を機能させるには人選が重要になるとも述べています。

3.日刊自動車新聞「指針 流通・アフター業界 ビッグモーター問題をみる」(12月20日)

こちらも有料記事です。「損保の営業支援 政府で議論を」という副題が付いています。

以上になります。それでは皆さま、来年もよろしくお願いいたします。

※今年も家族みんなで栗きんとんを作りました

 

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曲がり角の損保経営

すでにご覧になったかたも多いかもしれませんが、11月23日の日経『経済教室』に「曲がり角の損保経営~収入・シェア偏重体質改めよ(有料会員限定)」という論稿が載りました。

『経済教室』への寄稿は3回めとなります。1回めは2001年11月20日の「生保契約者の保護充実を」、2回目は2008年8月22日の「生保経営統治向上急げ」で、いずれも格付投資情報センター(R&I)のアナリスト時代に書いたものです。2001年当時は保険会社への調査でも取材を受ける時でも自分が年下ということが圧倒的に多かったのですが、それから22年たったいま、相手が年下のほうが多いかもしれませんね。

さて、改革の方向性として、経済教室では次のように述べています。

・筋論からすると、保険金をビジネスとして受け取る会社に保険代理店を委託してはならない

・加入者のいまの利便性を今後も維持すべきだと考えるならば、保険会社の営業部門と損害調査部門の壁を高くしたり、損害調査の透明性を高めたりすることで、信頼回復に努めるほかない

・保険会社は代理店政策のダブルスタンダードを改め、大型兼業代理店やインハウス代理店にも保険業務の専門性を求め、それを公に示すことが不可欠

・社外の目を活用し、経営内部に染み付いた不適切なコンダクトを発見し、是正できる体制を構築

「筋論を通すと大きな混乱が生じる」と書いたものの、あくまで「当面は」という話です。利便性に関しても、考えてみればそれほど不便にはならないかもしれません。実は19日の産経新聞「「兼業代理店」は利益相反か ビッグモーター問題で〝不正の温床〟と指摘」のなかで、「(自動車関連業者への代理店委託を禁止すると)顧客が不便になる可能性がある」とコメントしてしまったものの、自賠責保険はどの保険会社でも共通なので、例えば保険業界がスマホアプリなどで加入者への支援を行えば、それほど不便を強いることにはならないでしょう。任意保険の加入率維持は課題となりそうですが、こちらもDXの出番かもしれません。

それでも筋論を通すのが難しいとなると、なかなか決定打はなく、信頼回復のためにできることは何でもやるという姿勢が必要でしょう。それくらい深刻な問題だと私は考えています。

保険会社の営業部門と損害調査部門の壁を高くする一環として、保険事故の損害調査を行うアジャスターに期待する声も耳にします。ただし、どうやって保険会社におけるアジャスターの地位と権限を高めればいいか、かなり工夫が必要だと思います。
業界ウォッチャーの方々と意見交換していたら、損害調査の透明性を高めるために作業現場を可視化するというアイディアが出てきました。具体的には保険事故に関する作業をすべて保険会社が録音・録画するというもので、警察による取り調べの可視化と同じ発想です。近年の日本社会はプライバシーよりも記録を通じた安心を優先するようになっていますし、自動車関連でもドライブレコーダーが急速に普及しています。まじめに仕事をしている修理工場を守ることにもなりますので、DXの活用という意味でも検討に値するかもしれません。

※このところ順調です。

 

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「リスク」と「損失」を分けて考える

インシュアランス生保版(2023年10月号第1集)に寄稿したコラムをご紹介します。
文中に「2026年」とありますが、台湾では2026年にIFRS17号とICS(経済価値ベースのソルベンシー規制)が同時に導入される予定となっています。
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アジア生命保険振興センター(OLIS)が4年ぶりに開催した海外セミナーの講師を務めるため、8月下旬に台湾を訪問した。OLISは1967年から国内外での研修・セミナーなどを通じてアジア諸国の生命保険事業の発展に尽くしてきた財団で、アジアの生命保険会社の経営陣や監督官庁にはOLISセミナーの卒業生が数多く存在する。今回の台湾でも、セミナー後の懇親会には大手生保の経営トップが何人も集まり、保険行政の責任者との意見交換を行うこともできた。こうした人的つながりはOLISの長年にわたる継続的な取り組みの賜物であろう。

さて、懇親会で大手生保のトップどうしが中国語で真剣に意見を交わしていたので、気になってたずねてみると、IFRSとICSへの対応をどうするか、つまり、2026年に予定されている経済価値ベースに基づく新たな会計基準と健全性規制の導入に向けてどう対応するかという話だった。保険行政との意見交換でも、課題として真っ先に上がったのがIFRS・ICSの導入支援だった。
近年、台湾生保の主力商品は外貨建ての貯蓄性商品となっている。とはいえ、既存の保険負債には現地通貨建てが多く、かつ、過去に獲得した高利率契約も残っている。これに対し、台湾でも低金利が長く続き、各社は運用利回りの向上を図るため、外国公社債への投資を進めてきた。この状態のままで経済価値ベースの会計・規制を導入すると、おそらく保険負債が膨らみ、金利などのリスク評価も厳格に行われることから、資本増強が必要となるのかもしれない。

話をしていて気がついたのは、「リスク」と「損失」が混在していることだった。外国公社債への積極的な投資の理由を尋ねると、「逆ザヤとならないように」という答えが返ってくる。だが、低金利下における過去に獲得した高利率の契約は、経済価値ベースで見ればすでに損失が発生している状態であり、もはやリスクではない。そのなかで外国公社債への投資を増やすのは、損失を抱えつつ新たに外国公社債のリスクをとるという行動なので、資本への負荷が一層かかってしまう。現地通貨建ての長期債市場が非常に小さいという事情を踏まえても、損失を損失と認識しなかった結果が、バランスシートの6割前後を外国公社債が占めるという現状につながっているのではないだろうか。

日本の生命保険会社は30年前から主力商品の保障性シフト、短満期シフトを進めてきた。過去に獲得した高利率契約を抱えつつも、内部留保によって支払余力を増やし、超長期債の購入によって金利リスクを減らしてきた。とはいえ、この10年間の外貨建て資産の動向を見ると、いまだに単年度の逆ザヤをリスクとして意識しているようにも見える。果たして「リスク」と「損失」を分けて考えることができているのだろうか。
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※福岡大学でライトアップのイベントがありました。

 

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イタリア生保の経営危機

ニッセイ基礎研究所の中村亮一さんによる8月9日のレポート「金利の急激な上昇やインフレが保険会社の解約率等に与える影響-欧州の保険監督当局等による報告書からの流動性リスク分析結果-」を拝読して、金利上昇局面でイタリアの生命保険会社ユーロヴィータ(Eurovita)が経営危機に陥り、監督当局が同社を特別管理下に置いたということを知りました。

レポートによると、「Eurovitaは、すでに脆弱だった財務基盤が、2022 年の金利上昇等の市場の動きに伴って、さらに悪化し、資本増強が求められていたが、Cinvenが十分な資金を注入することが出来ず、業界によって救済されることになった」ということです。
Cinvenとは英国のPE(プライベートエクイティ)会社で、2016年にミュンヘン再保険グループの保険会社ERGOのイタリア事業を買収し、その後も買収により規模を拡大させていました。

生命保険会社の経営にとって金利上昇はプラスに働くことが多いはず。Eurovitaはなぜ経営危機に陥ってしまったのでしょうか。

日本とは違い、イタリアの生命保険市場では、主力商品が一時払いの貯蓄性商品(定額タイプ、期間10年以内)となっています。また、主力の販売チャネルが銀行や金融系アドバイザーというのも特徴です。近年は変額タイプの商品も一定のシェアを占め、保障性商品の提供に力を入れる会社もあったようですが、報道によると、Eurovitaは伝統的な定額タイプの貯蓄性商品の提供に集中し、マイナス金利時代に新たな株主(Civen)のもとで急速に成長した会社のようです。

2021年まではイタリアの10年国債利回りは概ね1%を下回っていました。しかし、2022年には利回りが4%台まで上昇し、保有資産(公社債)の価格が急激に下がりました。そこでEurovitaが直面したのが解約の増加です。もともと預金よりも有利ということで契約を獲得していたとみられ、金利上昇を受けて解約が増え、含み損を抱えた資産を売却せざるを得なくなった模様です。
解約ペナルティや保険商品に有利な税制の存在などが制約にならなかったのか、よくわからないところもあるのですが、金利上昇時の解約リスクを軽視していたと言うべきなのでしょう。

もっとも、Eurovitaは金利水準がまだ低かった2021年末の時点で、すでに規制が求める資本の水準が十分ではなく、監督当局(IVASS)が介入していたと報じられています。もともと財務基盤がぜい弱なところに金利上昇に伴う資金流出が生じ、株主からの十分な支援も得られず、経営危機に陥りました。
したがって、Eurovitaはかなり特異な事例であって、イタリアの生命保険会社が連鎖的に経営危機に陥るような状況ではなさそうです。とはいえ、中村レポートの次の記述は目を引きました。

「IVASSの報告書によれば、保険料収入に対する解約返戻金の割合は2022年3月の53%と比較して、2023年3 月には平均85%に達しており、特に2023年に入ってからの3か月で急激に上昇している。また、これを販売チャネル別に見た場合、(保険料収入による影響もあるが)銀行・金融アドバイザー・ブローカーを通じて販売された保険契約の数値は、保険代理店・郵便局チャネル等を通じて販売された保険契約の数値の2倍以上になっており、顕著な差異が見られている」

元の図表(PDF、36ページ)も確認しましたが、おそらく販売チャネルによって商品も加入目的も違うので、解約状況に大きな差が出たのでしょう。同じ保険事業でも、ビジネスモデルによって経営リスクが異なることがよく理解できます。

※夏はかき氷ですね!サイズが昨年より小さくなった気もしますが…

 

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「質疑ゼロ」の生保総代会

14日の保険毎日新聞に「生損保決算を読み解く」というインタビュー記事が掲載されました。今回が生命保険会社だったようなので、おそらく明日にでも損害保険会社に関するコメントが出るのではないかと思います。

さて、7日の日経記事「『質疑ゼロ』の生保総代会 配当に透けるガバナンス不全(有料会員限定)」をご覧になったでしょうか。相互会社各社が7月上旬に総代会を開催したタイミングをとらえ、「金融庁が株主のいない相互会社形態をとる生命保険会社のガバナンスに厳しい目を向けている」と報じました。記者さんがんばっていますね。

この記事が引用した契約者配当に関する記述や図表は、金融庁が6月末に公表した「2023年 保険モニタリングレポート」本文の27~29ページのものです。
記事では日本生命や住友生命の総代会で総代から(事前質問はあったものの)当日の質問・意見がなかったことを問題視しているようですが、金融庁はレポートで「総代会等における質疑応答が少ないこと自体が問題ではない」としています。
ただし、次のようにも述べています。

「健全性向上のための経営努力の成果として、相互会社において内部留保が積み上がっていく中で、配当政策に関する分かりやすい丁寧な説明とともに、保険契約者等のステークホルダーとの間で活発な対話が行われることは、相互会社のガバナンス向上の観点からも望ましい」

「相互会社における保険契約者への契約者配当に関する情報提供のあり方や、資本の維持と契約者配当のバランスを取ることを通じたガバナンス向上の重要性について、相互会社と建設的な対話を行っていく」

つまり、相互会社では配当政策について、経営陣が保険契約者等のステークホルダーに対して十分な情報提供を行っておらず、ステークホルダーとの活発な対話も行われていないのは、ガバナンスの面で問題であると指摘しているように読めます。

このところ保険会社のガバナンスに関する研究を進めていることもあって、上場株式会社と相互会社を比べてみたところ、内部留保の増減トレンドは明らかに違っていて、相互会社は総じて右肩上がりです。他方で上場株式会社(第一生命HD、T&D HD)の株主還元(現金配当と自己株式取得)が増加トレンドなのに対し、相互会社による契約者還元は横ばいから微減となっています。
しかも、日経記事や金融庁レポートが掲載した配当準備金繰入額の多くは団体保険と団体年金の配当所要額で、個人向けは全体の1/4程度というイメージで、こちらも増加トレンドではなさそうです。もっとも、総代会の議案書などを探しても、配当割り当て方法の詳細な説明はあっても、個人向けにいくら割り当てるかという配当総額の情報は見当たりません。団体保険・団体年金の配当は実質的に裁量の余地がないので、個人向けでどの程度配当するのかという情報は極めて重要だと思うのですが。

保険会社にとって資本がどれだけ必要なのかという議論は、現在抱えているリスクに対してどの程度まで備えておくか、つまり、どの程度の損失まで見込んでおくかという議論に終始しがちです。しかし本来は、リスクをどこでどの程度とるべきかという議論が先にあって、その次にそのリスクに対してどの程度備えるかという議論があるはずです。

こうした議論がステークホルダーとできているかどうか。金融庁がそこまで指摘しているかどうかはともかく、ガバナンスが効いた状態とは、経営陣が決めたリスクのとり方や内部留保・社外還元のあり方について、透明性と説明責任が果たされている状態だと思います。それにはこれらを議論できるだけの情報が提供され、かつ、議論ができる「監督者」が存在して初めて成り立つのではないでしょうか。
この「監督者」の役割を現在の総代に求めるのはなかなか難しそうですが、少なくとも社外取締役には担っていただきたいものです。あるいは、新たな工夫を考えてもいいのかもしれません。

資本の有効活用は近年、上場株式会社が株主等から強く求められるようになっていることです。相互会社でも同じではないかと思います。

※15日のRINGの会オープンセミナーは大盛況だったようですね。
 RING会員の皆さん、お疲れさまでした。

 

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大手損保のカルテル事件

私のゼミでは年に数回、金融・保険分野の実務家をゲストとしてお招きしています。
先週(22日)は福岡財務支局の永松さんに金融リテラシー向上をテーマにした授業をお願いしました。その様子がニッキンオンラインで紹介されています(こちら)。
グループワークには福岡信用金庫の若手職員にも加わっていただき、中身の濃い授業になりました。関係者の皆さま、ありがとうございました。

さて、東急向けの保険契約で保険料の調整行為が行われていたというカルテル事件が発覚しました。
幹事会社である東京海上日動をはじめ、共同保険に関わっていた保険会社が関与を認め、リリースを公表しました
三井住友海上あいおいニッセイ同和損保ジャパン)。

共同保険とは、複数の保険会社が分担してリスクを引き受けるもので、保険会社は引受割合に応じて責任を負います(連帯責任ではありません)。顧客の意向で入札が行われるのが一般的で、本件では顧客が入札時の保険料水準に疑念を持った(4社の保険料が同水準だった)ことを契機にカルテルが発覚したそうです。

東京海上日動によると、複数の社外弁護士を起用した特別調査委員会を設置し、事実関係の確認に努めているとのことです。
現時点でわかっていることとして、4社とも東急の株式を政策目的で保有し、最も保有数が多い東京海上日動が主幹事を務めているという話があります。ただし、上位10社を占めるほどの大株主ではありません。

東京海上日動 4,388,338株(2023/3末)
三井住友海上 1,467,105株(2022/3末)
あいおいND   913,814株(2022/3末)
損保ジャパン 3,235,785株(2023/3末)

ところで、各社のリリースにも報道にも「代理店」が出てこないのはどうしてなのでしょうか。
一般的には大企業向け保険の多くが直扱い、すなわち、保険会社が企業に直接販売する、というのではなく、企業がグループ内に設立した企業代理店(機関代理店)を通した契約となっています。東急グループにも東急保険コンサルティングという専業保険代理店があり、2022年3月期の売上高は17.4億円に上ります。
保険料率が自由化される以前であれば、大企業といえども保険会社と価格交渉する余地がなかったので、企業は代理店を作り、保険会社から代理店手数料を受け取るのが合理的だったのかもしれません。しかし、料率が自由化された今では、価格交渉によって保険料が減ると、企業代理店の収入も減ってしまいます。もちろん企業からすれば、優先すべきは自らのリスクマネジメントを効率的に行うことであり、そのための専門人材(リスクマネジャー)も必要なのですが、他方で企業代理店は総じて企業OBの受け皿となっていて、専門的な仕事は保険会社の営業担当社員や保険会社からの出向者が行っていたりします(東急グループの話ではなく、あくまで一般論です)。
このような市場慣行があるなかで今回の件が生じたのかどうかはわかりません。ただ、大企業向け損害保険の世界は外部から見て謎が多いのは確かです。

※写真は東京・新橋駅です。

 

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週刊ダイヤモンドに寄稿

6月5日発売の週刊ダイヤモンドに「台湾・損保のコロナ保険危機 リスク管理上の二つの教訓」という論文を寄稿しました。紙媒体のほか、有料会員はダイヤモンドオンラインでも読むことができます。

ダイヤモンドオンライン(有料会員限定)
前編
後編

以前このブログでもご紹介したとおり、コロナ保険を大々的に提供していた台湾の損害保険会社が、政府の政策変更によって相次いで資本不足に陥るという「事件」が発生しました。2022年のコロナ保険の収入保険料が業界全体で約250億円(円換算)だったのに対し、支払保険金はなんと約1兆円(同)に達しました。東京海上グループが2022年度決算で台湾コロナ保険に伴う損失を約1000億円計上したのもこの事件によるものです。

この事件を表面的にとらえると、政府のゼロコロナ政策がずっと続くと過信した台湾損保業界が目先の販売拡大に走り、突然はしごを外されてひどい目にあったという話です。とはいえ、この失敗から学ぶべきことも多いと思います。
論文では、「リスクマネジャーは政策変更リスクを常に意識し、リスクへの感度を高めなければならない」「業界全体が一つの方向に向かっているときに、自社だけが別の行動をとるにはどうしたらいいか」という2つの教訓を示しました。詳細はぜひ週刊ダイヤモンドまたはダイヤモンドオンラインをご覧ください。

なお、論文では行政の対応について、「当局がコロナ保険の販売を促したかどうかについては証言が分かれたが、業界をうまく指導できなかったとはいえるだろう」と書きました。日本もそう言われていますが、台湾の保険当局もコロナ禍における保険業界としての積極的な取り組みを求めたようです。「(ゼロコロナ政策が続いているなかで)コロナ保険の提供をやめようとした会社がいくつかあったが、当局がいい顔をしなかった」という証言もありました。参考までに記しておきます。

 

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保険料等収入は売上高ではない

このブログでは何度も指摘していますが、生命保険会社の保険料等収入は売上高ではありません。しかし、今回も主要紙は、保険料等収入を生保の売上高として生保決算を報じました。

日経「生保の売上高指標の一つである保険料等収入は主要16社で約37兆6000億円と2割近く増えた」

朝日「外貨建て商品の売れ行きが好調で、扱いの多い第一生命は売上高にあたる保険料等収入で日本生命を抜き、8年ぶりに首位に立った」

読売「生命保険大手4社の2023年3月期連結決算が24日出そろい、売上高にあたる保険料等収入で、第一生命保険が日本生命保険を上回った」

毎日「米国など海外金利の上昇に伴い、外貨建て保険の販売が増えたことから、売上高に当たる保険料等収入は4グループとも増収だった」

(いずれも5月25日の朝刊より引用)

保険料等収入を売上高として決算結果を語るのがなぜダメなのか。

例えば、第一生命(単体)の前期の保険料等収入は約2.2兆円、第一フロンティア生命も約2.2兆円でした。
しかし、第一生命は保険料を月々受け取る契約が大半なので、おそらく2.2兆円のうち2兆円は前期に販売したものではなく、それ以前に獲得した契約からの保険料収入です。
他方、第一フロンティア生命は保険料を契約時に一括して受け取る商品を主に提供する会社なので、2.2兆円はほぼ前期に販売した契約からの保険料収入です。
両者を合計した数値に「売上高」としての意味があるでしょうか。

別の例を示しましょう。
例えば前期に保険金額1000万円の終身保険を一時払いで販売した場合、一時払い保険料が950万円だとしたら、前期の保険料収入は950万円です。
同じく前期の3月に保険金額1000万円の終身保険を月払いで販売した場合、毎月の保険料が15,000円だとしたら、前期の保険料等収入は15,000円です。
つまり、全く同じ保障の生命保険を販売しているのに、一括払いだと保険料収入は950万円、3月に販売した月払いだと15,000円ということになります。これらを合計して何が語れるというのでしょうか。

参考までに私が2022年に保険学雑誌に投稿した論文「保険会社の情報開示とメディアの役割」が公表されましたので、こちらもご覧ください。保険料等収入に関しては148ページ以降で触れています。

保険料等収入に注目するのであれば、前期は保険料等収入を伸ばした会社(おそらく一時払いによる)では、解約返戻金も増えている傾向があるので、その背景を報じてほしいです。おそらく外貨建ての保険に関する動きだと思うのですが、公表資料からははっきりしたことがわからないので、メディアの出番ではないかと思います。

※写真は鹿児島の仙厳園(磯庭園)です

 

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ソニーが金融事業を分離

ソニーグループは18日、完全子会社であるソニーフィナンシャルグループを2、3年後に分離独立させるという構想を発表しました。
Bloombergの記事
NHKの記事

18日の経営方針説明会で、十時COO兼CFOは次のようにコメントしています。

「金融事業には成長投資とともに、財務の健全性も強く求められ、多くの資本を必要とします。ソニーグループ全体のキャピタルアロケーションという観点では、拡大していくエンタテインメント、イメージセンサー事業などへの投資との両立は容易ではありません」

「(パーシャル・スピンオフにより)金融各社の社名、ブランド、グループ内での位置付けなどを変えることなく、金融事業を上場し、独自の資金調達能力を備えて、中長期でのさらなる成長を指向することができると考えています」

ソニー生命の手掛ける生命保険事業が多くの資本を必要とするのは、2020年に約4000億円かけて完全子会社とした際にもわかっていたことだと思います。財務の健全性が強く求められるというのもそうです。

そう考えると、あくまで推測ですが、グループとして株主が期待する高い資本効率を達成するにはソニー生命の資本対比リターンをより高める必要があるものの、それにはソニー生命のビジネスモデルを見直さなければならず、それは困難だと判断したのではないでしょうか。
過去には「(金融事業が)リーマンショック以降のソニーが最も苦しかった時期にグループを支えた」(吉田CEOのコメント)ということはあったにせよ、それはあくまで経営陣の目線であって、株主からするとそのような「保険」はいらないということなのかもしれません。

ところで、私は本件で読売新聞の電話取材を受けまして、19日の朝刊に次のコメントが載りました。

「福岡大の植村信保教授(保険論)は『上場にあたっては経営の透明性が一段と求められる。遠藤氏(元金融庁長官の遠藤俊英氏)を起用する理由をステークホルダー(利害関係者)に、より丁寧に説明する必要がある』と指摘している」

スピンオフを中心にいろいろとコメントしているのですが、使われたのはこの部分でした。
とはいえ、スピンオフの結果、遠藤さんが上場会社のCEOとして株主と対峙し、自社の成長戦略や資本効率について説明することになるかもしれないのですね。
保険アナリストとしては、上場生保グループが増え、かつ、IFRSで決算を行うというところにも注目したいです。

※今年もきれいに咲きました!

 

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外資系生保のガバナンス

インシュアランス生保版(2023年3月号第4集)に寄稿したコラムをご紹介します。3月13日にInswatchに寄稿したコラムと同じく、外資系生保のガバナンスについて書きました。
他の視点として、グループの採用する統治スタイル(中央集権型/分権型)も関係してくると思います。
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2013年以降、政府が成長戦略の一環として進めてきた日本のコーポレートガバナンス改革は、主として上場会社を対象にしている。
日本では支配株主を有する上場会社も少なくないとはいえ、総じて言えば、上場会社では所有(株主)と経営が分かれており、経営が株主の期待どおりに行動しないという問題(狭い意味でのエージェンシー問題)を解消するため、社外取締役の活用や指名委員会等の設置など、ガバナンスを強める取り組みを行ってきた。上場会社が取り組むべき行動原則を取りまとめた「コーポレートガバナンス・コード」では、会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の創出には従業員や顧客、取引先、債権者、地域社会といった様々なステークホルダーとの適切な協働が不可欠としているものの、基本的には株主からの経営への規律付けを念頭に置いている。

ところで生命保険業界に目を転じると、株主のいない相互会社は5社に限られる一方、全28社・グループのうち、実に20社・グループが特定の親会社・グループの傘下にあり、支配株主を持たない保険会社の数は少ない。親会社の傘下にある保険会社では、経営は親会社の選んだ経営者が担うので、所有と経営が実質的に分かれておらず、前述のような狭義のエージェンシー問題は生じにくい。
事業会社に比べると、保険会社など金融機関のガバナンスには大きな特徴がある。それは、株主以外からの経営規律が働きにくいことである(規制当局を除く)。事業会社の債権者といえば銀行や社債の投資家だが、保険会社の債権者の多くは契約者であり、単なる顧客ではない。だからこそ、保険会社の経営が破綻してしまうと、契約者が損失を被ることになるのだが、経営危機時を除き、契約者は通常、加入している保険会社経営への関心は低く、情報も劣位にある。

こうした特徴は支配株主の有無とは関係がない。ただし、親会社を持つ保険会社では、親会社である株主からの規律が働きやすいがゆえに、かえって契約者の利益が守られにくい面もあるのではないか。
グループにおける当該事業の重要性によって、子会社の経営に求める管理水準には違いが見られる。例えば、日本の事業がグループの中核を占めるほど重要であれば、子会社の持続的な成長には契約者をないがしろにするような経営は本来ありえないはず。しかし、それほどの重要性がなく、関心も低ければ、グループとしては一定の数字さえ出してくれれば十分であり、そうなると子会社の経営者は求められた数字を出すことに集中する。最近、外資系生保が相次いで行政処分を受けたのは、背景にこのような構図がある。

上場会社や相互会社のガバナンスだけではなく、親会社を持つ保険会社のガバナンスを強めるにはどうしたらいいかも真剣に考える必要がありそうだ。
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※東京の桜もきれいでした。

 

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