01. 保険経営全般

人口減少と生保経営

先週の週刊金融財政事情(2022.3.22)は「激動の生保業界」という名の特集で、インタビュー記事2本(住友生命・高田社長、金融庁・池田保険課長)と、経済価値ベースのソルベンシー規制に関する論考(あずさ監査法人の高橋隆司さん)、営業職員チャネルのデジタル化と新規制対応(編集部)、そして金融庁による外貨建て保険の共通KPIの解説という構成でした。
(先ほどようやく読みました ^^;)。

インタビュー記事のなかでは、いずれも人口減少と生保経営が取り上げられていたのですが、へそ曲がりな私にはどこかしっくりきませんでした。

人口減少によるマーケット縮小への対策として、住友生命の高田社長は「人口減少の局面においてもマーケットの広がりは一定期間見込めるだろう」としたうえで、「保険ビジネスと親和性がある新規事業や海外の保険事業など、将来的な収益源を補う収益事業の展開についても検討している」「(長期的な経営戦略について)当社としては国内事業を盤石にし、相互にシナジーを生み出せる企業や国があれば、出資を検討していくスタンスだ」と述べています。
株式会社の経営者であれば、こうしたコメントに違和感はありません。ただし、住友生命は相互会社です。会社価値の拡大を強く求めるであろう株主は存在しません。海外事業などでリスクを取って成長を追求するような経営戦略をとるのであれば、さまざまな考え方があるなかで、なぜこうしたスタンスをとるのかを語っていただきたかったですし、新たな収益事業の果実を既契約者にどう還元するかについても話してほしいです。

他方、金融庁の池田課長は、「とりわけ人口減少への対応に注目している」と述べ、「人口減少問題を経営レベルで真剣に議論している生命保険会社は少ない印象だ」「(中略)従来の中期経営計画のタイムスパンを超えた、もっと長期のメガトレンドを踏まえて、『いまからどんな手を打っていくべきか』を真剣に議論してほしい」と語っています。
確かに生命保険会社の経営者であれば、長期のメガトレンドを踏まえて自分たちが長期的にどうありたいかを考えるべきだと思います。しかし、それはあくまで経営の話であって、契約者の保護や、(保険業法にはありませんが)金融システムの安定という観点からも重要というのであれば、その説明が必要だと思います。

生命保険は公的年金のような賦課方式ではなく、責任準備金をきちんと積み立てていれば、新契約が細っても経営が揺らぐことはありません。金融庁では大数の法則が効きにくくなるほどの人口減少を想定しているのでしょうか。
仮に人口がイタリア並みの6千万人になれば、今のプレーヤーが全て生き残っているとは考えにくい(だからこそ経営者としては長期戦略が重要)ですが、金融庁にとって重要なのは保険会社ではなく契約者なので、会社の数が減っても、契約者が不利益を被らなければ問題ないはずです。
もしかしたら、金融庁は契約者への還元重視に監督の軸足を変えたのでしょうか。産業としての生命保険業が縮小すると、契約者への還元も期待できなくなるので、それなら理解できなくもありません。

せっかくのインタビューなのですから、金融庁として「とりわけ人口減少への対応に注目している」と言うのであれば、単に人口が減るから経営を真剣に考えろというのではなく、どうして金融庁がそのような問題意識を持つに至ったのか、なぜ金融庁と保険会社の温度差があるのかを語っていただきたかったです。

※福岡の桜はほぼ満開です。

 

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保険会社経営の方向性

日本共済協会の月刊誌「共済と保険」に、昨年9月の講演内容が掲載されました。
講演では大手生損保グループの2020年度決算を解説したうえで、私が注目している保険会社経営の方向性として、次の3点についてお話ししました。

(1) 足元の経営課題への対応
(2) 外部ステークホルダーを重視する経営へ
(3) デジタル社会への対応

ごく簡単に紹介しますと、まず(1)の足元の経営課題としては、生命保険会社では「出口が見えない超低金利下での商品戦略」、損害保険会社では「火災保険の収益改善」を挙げました。
次に(2)では、株主や契約者、その他債権者に対して経営戦略をきちんと説明できるような経営を指向する動きが見られるとして、具体的には第一生命ホールディングスと明治安田生命の事例を取り上げました。
最後の(3)では、同じデジタル化でも「デジタイゼーション」と「デジタライゼーション」では違うことを説明し、後者のデジタライゼーションでは保険ビジネスがこれまでと全く違うビジネスモデルになるかもしれないという話をしました。

ところで、同じ号に「業績回復で明暗分かれた生損保 ー2021年度上半期決算より-」というジャーナリスト高見和也氏の記事があり、何をもって明暗が分かれたとしているのか興味を持ちました。
読んでみると、高見氏は「業績」という言葉をかなり柔軟に使っていることがわかりました。生保では新契約年換算保険料の数字をもとに「4グループのなかでは国内での業績の回復が最も早い」「本体の業績がまだ戻りきってはいません」などと書いている一方で、損保では各社が正味収入保険料や純利益などの予想を変更したことをもって「3メガ損保グループは2021年度末の業績予想を変更」と書いています。実質的に違うものを比べて「明暗が分かれた」と言われても、読者としてはとまどってしまいますね。

上場企業が業績を上方修正したといえば、まずは利益指標の上方修正を指すのが一般的です。売上高を含むことがあっても、業績イコール売上高という人はほとんどいないと思います。
しかし、生保業界では基礎利益が登場するまで利益指標をみる習慣がほとんどなかったためか、業績という言葉が新契約など契約動向を示す言葉として使われてきたという経緯があり、それが混乱のもととなっているのではないかと思います。

※博多の櫛田神社にお参りしました。

 

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保険モニタリングレポート

金融庁は10日、「2021年 保険モニタリングレポート」を公表しました。
8月31日に公表した「2021事務年度 金融行政方針」の補足資料と重複するところもありますが、金融庁が保険行政において何を課題と考え、どのような対応をしているのか(あるいは、しようとしているのか)を知る手掛かりとなりますので、こうした取り組みは大歓迎です。

せっかくなので、2つほど紹介しましょう。

自然災害の多発・激甚化への対応

金融庁はここ数年、大規模自然災害を踏まえた損害保険会社の対応状況について毎年対話を行ってきたそうで、本事務年度も「損害保険会社において、経営レベルでの論議に基づきどのようなリスク管理を行っているか引き続き注視する」とのことです。
やや引っかかるのは、「資本・リスク・リターンのバランスを踏まえ、再保険によるリスク移転の最適化等を行う統合的リスク管理態勢(ERM)を高度化する」のが重要と考えているにもかかわらず、資本(支払余力)全体ではなく、その一部にすぎない異常危険準備金の残高に強い関心を持っているように見えることです。税金関係を除けば、異常危険準備金は会計損益のスムージングに効果を発揮するというだけで、多額の支払いが発生してしまえば、準備金の取り崩しがあってもなくても実質的な損益は同じはず。ERMの高度化を進める保険会社と当局の間にすれ違いがないといいのですが。

基礎利益の見直し

見直しを行うという話は出ていましたが、新たな計算方式の概要が初めて一般に公表されました。

・為替に係るヘッジコストを含める
・投資信託の解約損益を除外
・有価証券償還損益のうち為替変動部分を除外
・既契約の出再に伴う損益を除外
・基礎利益以外の損益と対応する再保険に関する損益を除外

2022事業年度より反映とのことで、おそらく早期に公表する会社が出てくるものと予想(期待)しています。
もっとも、「ERM視点に基づき、経営レベルで資本・リスク・リターンのバランスを図る」には、新しい基礎利益でも役に立たないのは同じです。基礎利益には資産運用リスクをとった結果のうち、利息配当金収入の部分しか反映されないですし、危険差益はほぼ既契約によるもの。営業活動の成果はプラスには反映されず、保険が売れるほど基礎利益は悪化します。
ただし、本事務年度には「経済価値ベースのリスク管理との整合性や財務会計に関する見直しの動向等も踏まえ、様々な監督会計のあり方について検討を行う」(37ページ)とありますので、ずっとこのままということはないのかもしれません(期待を込めて)。

※写真は唐津城からの眺めです。城内には入れませんでした。

 

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日経フィナンシャルに寄稿しました

日本経済新聞社が昨年立ち上げた金融専門デジタルメディア「NIKKEI Financial(日経フィナンシャル)」に生命保険会社の契約者配当について寄稿しました。タイトルは「生保、不透明な配当 企業価値を反映させよ」で、23日にアップされています。
有料媒体なので見出しだけ紹介しますと、「個人向け配当総額、非公表が多い」「利益と配当、連動しているように見えず」「1990年代後半以降、内部留保を充実」となっています。

以下では少しだけ補足を。

まず、第一生命だけが個人向け配当総額を公表していると書きましたが、決算資料のなかに「財務・業績の概況(PDF)」という資料があり、このなかで配当準備金繰入額の内訳を公表しています。
この資料は元々は記者クラブ向けに作られたものだと思いますが、第一生命HDは上場会社なので、同じものを投資家向けにも公表しているのでしょう。

生保のディスクロージャー誌のデータ編には「配当準備金明細表」があり、保険種類別の「配当金支払による減少」が載っています。2期前のデータとはいえ、ここから団体保険と団体年金保険の配当総額をつかむことができます。
このデータは配当に割り当てた額ではなく、あくまでその期に配当金として支払った額です。団体保険と団体年金保険の配当は現金で行われますし、配当金の割り当てと実際の支払いはほぼずれません。しかし、個人向けの場合、配当の割り当てと実際の支払いのずれが場合によっては大きいため、ここに載っている「配当金支払」が必ずしも配当に割り当てた金額とは言えないのです。
ですから、記事のなかでお示しした個人向けの配当総額はディスクロ誌の「配当金支払による減少」をそのまま使ったものではなく、配当準備金繰入額をベースに推計しました(団体保険と団体年金保険の「配当金支払による減少」を控除)。

2021年3月期決算では各社の個人向け配当はどうなるでしょうか。配当原資が三利源または利差ということであれば、利息配当金収入は減っているかもしれませんし、単年度で大きく動くことは考えにくいです。ただ、企業価値ということであれば、株高も超長期金利の上昇も大きくプラスに効いているでしょうし、昨年度は新型コロナ対応の副産物として死亡者数が減り、病院の患者数も減った模様です。
一時的な企業価値の拡大をただちに還元することはできないとしても、生保(とりわけ相互会社)は少なくとも何がどうなれば個人向けの配当総額が決まるのかといった目安を出していく必要があると思います。

執筆のご案内といえば、週刊金融財政事情の2021年4月20日号に書評「一人一冊」が載りました。
今回は戸田山和久先生の「『科学的思考』のレッスン 学校で教えてくれないサイエンス」を取り上げました。学生向けかもしれませんが、社会人にもおすすめです。

※写真は福岡・能古島の花畑です(パーク内)。息をのむ美しさでした。

 

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マイナス金利政策の導入から5年

今週のInswatch Vol.1071(2021.2.8)に寄稿したものです。
今週号の松本一成さんの記事を拝読して、「リスク選好」をリスクコントロール対策の1つとして捉える考え方もあるのだと知りました。同じ用語でも私とは別の概念なのかもしれませんが…ご興味のあるかたは本誌をご覧ください。
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学生の成績評価や入学試験の監督など、このところ大学教員ならではの業務に追われています。5年前とは大きな変化です。

歴史的低金利が長期化

早いもので2016年1月のマイナス金利政策導入から5年が経ちました。この政策は同年9月に「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」に修正され、長期金利の極端な低下には歯止めがかかったものの、短期金利はマイナス、超長期金利は1%を下回る低位で推移し、現在に至っています。
もともと大胆な金融緩和は短期決戦だったはずなのですが、2%の物価安定の目標には一向に到達せず、いつの間にか長期戦となってしまいました。日銀は現在、金融緩和政策の「点検」を行っていて、3月に結果を公表するとみられます。新型コロナウイルス感染症の影響もあり、足元の物価はむしろ低下傾向にありますので、今の枠組みが大きく変わることはない、というのが専門家の見方のようです。

外貨建資産へのシフトが進む

筆者は2016年当時、東洋経済オンラインに「生保、マイナス金利でリスクテイクが困難に」という記事を執筆し、金利水準の低下が多くの生命保険会社のバランスシートに悪影響を与えることや、日銀が期待する大規模なポートフォリオ・リバランス(国債投資から株式、外貨建て資産への投資にシフト)は実現しないと述べました。
現行のソルベンシー・マージン比率は金利低下の影響を適切に反映しないので、一見すると平穏な5年間だったと思われるかもしれません。しかし、この5年間に国内系生保による資本(劣後債務)調達が相次いだことからしても、マイナス金利政策を受けて圧迫された財務健全性の回復を各社が何とかして図ろうとしてきた姿が見てとれます。
ただし、この5年間に9社のうち5社が10年超の国債の残高を減らしたのは予想外でしたし、外貨建資産への投資も増え続けています。経営体力が圧迫されているなかで、資本調達をしてまで新たなリスクテイクを行うという経営判断を、どう考えたらいいのでしょうか。

「定期化」が進む?

同じ記事のなかで筆者は、国内系生保は銀行窓販を除き、すでに予定利率による影響を受けにくい商品に注力してきたことに触れたうえで、魅力ある貯蓄性商品の提供が一層難しくなっており、新たな長期保障を提供する取り組みが求められていると述べました。
新たな長期保障を提供する取り組みとしては「トンチン年金」が登場しています。とはいえ、顧客の理解を得るのが難しいためか、普及には時間がかかっているようです。その一方で、銀行窓販をはじめ、貯蓄性商品の主力は顧客が為替リスクを負う外貨建てとなりました(終身保険では低解約返戻金型も増えました)。
今の金利水準では利率保証のある長期の円建て貯蓄性商品を提供するのは難しいとみられます。ワクチン普及などにより対面営業の制約が薄れても、価格競争の進展や新たな健全性規制の導入をにらみつつ、全体としては期間限定の保障を提供する「定期化」が進んでいくのではないでしょうか。
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※近所の護国神社です。

 

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プライム市場と流通株式

本題の前にいくつかご案内です。

損保総研のセミナー

1月26日(火)の夜に損保総研の特別講座で講師を務めます。
演題は「新たな健全性規制下における保険経営のあり方 ~アカデミズムの視点も含めて~」で、今回はweb配信のみとなっています。19:00から1時間お話しして、その後質疑応答とのこと。ご関心のあるかたは(有料ですが)ぜひご参加ください。1月19日締め切りだそうです。

保険毎日新聞のインタビュー記事

業界紙・保険毎日新聞に2020年4-9月期決算についてのインタビュー記事が載りました。14日が主要生保、15日が3メガ損保グループです。
それぞれ見出しだけご紹介すると、主要生保では「金融市場の回復が追い風に」「価格変動リスクを抑える動きも」「コロナ禍で各社の強み問われる状況に」、3メガ損保では、「海外事業を国内事業がカバー」「コロナ禍の活動制限がプラスに作用」「余剰人員の活用が今後の課題に」となっています。

さてさて、本題はこちらです。
昨年末に東京証券取引所から、取引所の市場区分を見直し、現在の市場第一部、市場第二部、マザーズ、JASDAQ(スタンダード・グロース)の5区分を改め、「スタンダード市場」「プライム市場」「グロース市場」の3区分に再編するという案の発表がありました。
詳しくはこちら(市場区分の見直しに向けた上場制度の整備について(第二次制度改正事項))をご覧ください。

市場区分の見直しとともに、東証は市場における流動性(=売買実績)を確保するために「流通株式」の定義を見直し、銀行や保険会社、事業法人等が持つ株式を、保有割合に関わらず流通株式から除くことにしました(現在は上場株式数の10%以上を所有する場合に除くルール)。
プライム市場の上場基準となる流通株式比率は35%以上(スタンダードとグロースは同25%以上)なので、銀行や保険会社、事業法人が安定株主となっている銘柄はプライム市場に上場しにくく、この基準によって政策株式の売却を加速させる狙いがあるのかもしれません。

ただし、所有目的が「純投資」であれば、銀行や保険会社が保有していても流通株式として取り扱うそうです。
3メガ損保グループが保有する株式は大半が政策保有株式なので流通株式から除く一方、大手生保の保有する株式は多くが「純投資」とされているため、流通株式として扱われます。結果として、生保の株式保有が増えるなんてことにならないかどうか、注目していく必要がありますね。

※この週末の福岡は好天で何よりでした。

 

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MYミューチュアル配当

12月1日に明治安田生命から新たな社員配当「MYミューチュアル配当(PDF)」を創設するという発表がありました。内部留保への貢献度に応じた配当還元の仕組みは、生保業界初とのことで、興味深い取り組みだと思います。

公表資料によると、明治安田生命は2021年10月以降、これまで内部留保の積み立てに貢献してきた(かつ、今後も貢献が想定される)商品の契約者に対し、従来の社員配当に加えて、内部留保の一部を新たな配当として支払います。
2001年発売の「ライフアカウントL.A.」など、過去20年間くらいに発売した保障性商品が対象で、加入後20年目に最初の配当の支払いがあり、その後は10年ごととなります。

ただし、内部留保の一部を支払うといっても、蓄積してきた内部留保を取り崩すのではなく、その期に内部留保の積み立てにあてる金額の一部を新配当に回すしくみです。例えば、明治安田生命はここ数年、毎年1000億円を上回る内部留保を行ってきましたが、このうち100億円程度を配当するというイメージです。
内部留保を取り崩すのではなく、積み立てのペースを落とす(しかも控えめに)ということなので、経営陣は現状では内部留保の増強がまだ必要だと判断していることがうかがえます。相互会社の契約者としては、どの程度必要と考えているのかを知りたいところでしょう。

なお、明治安田生命が2019年度に支払った個人向け商品の配当(従来のもの)は約300億円だったそうです。決算発表の際に、団体保険や団体年金を含めた「配当準備金繰入額」しか公表していない相互会社もあり、この点に限らず、上場株式会社や一部の大手共済事業者に比べると、会社のオーナー(=社員たる契約者)に向けた情報開示には改善の余地が大きいと思います。

※博多駅です。夜はきれいなのでしょうね。

 

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千代田生命の破綻から20年

9日の日経に、明治安田生命が国際会計基準(IFRS)を採用する方針という記事が出ました。
日経新聞のサイト(有料版)へ

会社自体は今のところ何も発表していないので、真偽のほどはわかりません。ただ、記事では「(新)契約が減ると費用の計上が少なくなるので、増益要因となることが多い」「金利の動きも(IFRSでは)これまでより決算に反映される」など、現行の会計基準では生保の経営実態がわかりにくいことを示していて、これはその通りです。

実態がわかりやすく示されれば、経営破綻を回避できるとまで言い切れないにしても、経営に対する規律が効きやすくなるのは確かでしょう。

ちょうど20年前の10月に、千代田生命保険と協栄生命保険が相次いで経営破綻し、大きなニュースとなりました。特に千代田生命は大手生保の一角を占めていたこともあり、各方面に大きな衝撃を与えました。
拙著「経営なき破綻 平成生保危機の真実」では両社の破綻について検証を行いましたが、このタイミングで千代田生命の関係者のかたがご自身のブログに「千代田生命破綻の真相」をつづっていますので、ご紹介します。内容についてはコメントしませんので、ご覧いただければと思います。

文面によると、「危機を訴えたために左遷させられ」という経験をお持ちのかたのようですね。拙著でも「財務(資産運用)部門でA氏に意見を言った社員は人事で飛ばされたり、担当を外されたりした。(中略)バックに神崎社長がいて、実際に反対した数人が外されると、もう誰も止めに入らなかった」という証言を載せています。

それにしても、あれから20年ですか。月日がたつのは早いものです。

※写真は大牟田です。

 

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ところ変われば

26日の日経に「生保解約 コロナで急増(有料会員限定)」という記事が出ていました。経営者保険などを中心に生命保険の解約が増えているとのこと。
確かにエヌエヌ生命では4-6月期の解約返戻金が前年同期より27%増えているのですが、業界全体では4-6月期は1-3月期よりも解約返戻金が少なく、一部を除けば「コロナで急増」という状況ではなさそうです。
中小企業の資金繰りということであれば、保険約款貸付に注目してもよかったかもしれません。大同生命とエヌエヌ生命は増加が顕著ですし、大手4社では日本生命の増加が目立ちます
(中小企業とは関係なさそうですが、かんぽ生命も増えていますね)。

財務部門とは

ところで、どの業界にも、その業界でしか通じない用語ってありますよね。
業界外で通じないだけならいいのですが、同じ用語を別の意味で使っていることもあり、混乱のもととなってしまいます。

保険業界で典型的な事例は「財務」「財務部門」でしょうか。
私は最初の就職先が損害保険会社の財務部門だったので、財務と言えば資産運用でした。
しかし、財務といえば資産運用なのはおそらく保険業界だけで、多くの場合、財務部門は主に資金調達を担当する部門です。私がそれを知ったのは就職してしばらくしてのことでした。
保険会社は先にお金(保険料)が入ってきて、後からお金(保険金)が出ていく事業なので、事業のために外部から資金を調達する必要がありません。だから他の産業と「財務」の意味が違うのでしょう。

支社と支店

生保と損保でも違いは結構ありますね。
これも私の経験で恐縮ですが、損害保険会社(大手)では「〇〇支店××支社」なので、支店長は支社長の上司です。ところが後に生命保険会社を担当するようになって、生保では支店の代わりに「〇〇支社」となっているのに気が付きました。同じ「支社長」でも生保と損保で社内の地位が全然違います。

不思議なことに、大手損保には「本店営業〇部」「本店損害サービス〇部」はありますが、全体としては「本店」ではなく「本社」です。このあたりは歴史的な経緯もあるのでしょうね。

保険料の支払い方法も、生保の「平準払い」のことを、損保はかつて「回払い」と呼んでいました(積立保険が開店休業中なので、今はどうなのかわかりません)。
他方で「占率(せんりつ)」「P免」などは生保の用語ですね。損保でも通じるのでしょうか?

※近くにスーパーが複数あるのは便利です。

 

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2020年の生保総代会

今回のALS患者嘱託殺人はいろいろと考えさせることが多い事件だとは思います。さらに、医師免許の不正取得なんて話も飛び出しました。
ただ、この事件に限らず、捜査関係者から情報がポロっ、ポロっと出てくるのは、何だかすっきりしません。かんぽ生命の入検情報を漏らすのはダメで(絶対ダメだと思いますが)、同じく公務員である捜査関係者がメディアに情報を漏らすのはOKとされているのは、どうしてなのでしょうか。

委任状による出席が大半

さて、国内系生保のうち6社は相互会社で、いずれも7月2日に総代会を開いています。
相互会社には株主が存在せず、株主総会にあたるのが、社員(契約者)のなかから選ばれた総代が構成する総代会です。総代会では剰余金の処分、定款の変更、取締役の選任などを決議します。

6社の議事録や質疑応答の要旨が公表されたので、確認してみました。
まず例年と大きく異なるのは、リアルな主席者の数です。

日本生命 出席198名(うち委任状141名)
住友生命 出席175名(うち委任状121名)
明治安田生命 出席218名(うち委任状213名)
朝日生命 出席148名(うち委任状138名)
富国生命 出席115名(うち委任状86名)

これを見ると、明治安田生命ではリアルな出席者は5名だったということですね。
日本生命の場合、「委任状による出席者のうち、117名については、支社または東京本部(丸の内ビル)等にて、社内衛星放送を通じ総代会の審議等の状況を確認し、質問等もできる環境で参加していた」とのこと。他社にはそのような記述がないので、前向きな対応ととらえるべきなのかもしれません。ただ、ガバナンスという点では、委任状を出した後での質問にどのような意味があるのかとも思ってしまいます。

質問内容はどうか

質疑応答の要旨を見ると、どの会社でも、新型コロナウイルス感染症に関するものが非常に多かったようです。
特に6社はいずれも営業職員組織による対面販売を主力としているので、「今後の顧客対応をどう考えているか」「対面営業が難しいなか、今後の対応の方向性を説明してほしい」といった質問が相次いだ模様です。

他方で、毎回感じるのですが、社員たる契約者の関心事項であろう経営の健全性や、社員還元に関する質問は必ずしも多くはありません(なぜか商品に関する質問が多いです)。どの質問も広い意味では経営に関することなのですが、実際の数字を踏まえた損益・財務に関する質問は少ないですし、上場生保の大株主のような、経営者の姿勢を問うような厳しい質問もほとんど見かけません。

ちなみに、次のような質問や意見はありました。

「わが国では着実に高齢化が進む中で、海外で社員や契約を増やしたり、あるいは利益を得て国内に還元する戦略や取組みは極めて重要と考えます。今後もそのことを重視した経営をお願い致します」【住友生命】

「損益状況の推移について。保険料等収入が減少しているものの、保険金等支払金も減っているため、経常利益が増えていると理解しています。この収益構造に問題点や課題はないのでしょうか」【朝日生命】

詳しくは各社のサイトをご覧ください。
日本生命
住友生命
明治安田生命
朝日生命
富国生命

※海からの風で松が何となく傾いています。

 

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