今週のInswatch Vol.1176(2023.3.13)に寄稿した記事をご紹介します。保険会社のコーポレートガバナンスに関するものです。
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外資系生保への行政処分
昨年7月のマニュライフ生命保険に続き、金融庁は2月17日にエヌエヌ生命保険に対する行政処分(業務改善命令)を出しました。
本誌2月20日号が報じたとおり、両社への業務改善命令は「節税保険」に関するものです。ただし、金融庁は両社において、保険本来の趣旨を逸脱した商品開発や募集活動そのものだけではなく、これらが経営陣の関与(または黙認・看過)のもとで行われてきたことを問題視しています。背景には営業を優先し、コンプライアンスやリスク管理、内部監査等を軽視する企業文化を醸成してしまったことがあるとも指摘しています。
つまり、不適切な商品開発や保険募集の推進はあくまでも結果であって、根本的な問題は経営管理(ガバナンス)にあるという判断です。
ガバナンス強化に努めていたはずだが
両社の組織形態を確認すると、マニュライフ生命は指名委員会等設置会社、エヌエヌ生命は監査等委員会設置会社でした。
マニュライフ生命は国内の生命保険会社として初めて、2003年7月に委員会等設置会社に移行しました(現在の指名委員会等設置会社)。経営の執行と監督が明確に分離された形態で、従来の監査役会設置会社に比べるとガバナンス強化に有効とされています。しかし、金融庁は「取締役会傘下の監査委員会は基本的な役割および責任を十分果たしていない」などと厳しく評価しました。
エヌエヌ生命も監査・監督機能およびガバナンス強化のため、2016年6月に監査等委員会設置会社に移行しましたが、金融庁から今回、「経営体制の見直しを含む経営管理(ガバナンス)態勢の抜本的な強化」を求められています。
2015年に発覚した東芝の不祥事と同じく(東芝は委員会等設置会社でした)、いくら形式面を整えても、ガバナンス強化につながるとは限らないという事例になってしまいました。
ガバナンスの死角
ガバナンスがうまく機能しなかったのは、外資系の金融機関に固有の統治構造があるのかもしれません。
外資系のように支配株主が存在している会社では、教科書的に言えば、所有(株主)と経営が分かれていないので、経営が株主の期待どおりに行動しないという問題は本来生じにくいはずです。ところが、その事業が現在または将来のグループ利益成長に不可欠というほどの存在ではない場合、グループ本社(または地域統括会社)としては、とりあえず一定の数字(≒利益)さえ出してくれれば十分であり、日本のビジネスモデルがどうなっているか、どうやって業績をあげたか、といったところまでは関心を持たないことも十分ありえます。そうなると経営は株主から評価されるために、株主が求める目先の数字をあげることに集中しがちです。
日本の保険会社でも、例えば、数千億円かけて買収した米国の子会社と、規模が小さく成長性もあまり見込めない海外子会社を、おそらく同レベルの経営資源を使って管理しようとはしないでしょう。
このような構図は保険会社に特有のことではありません。とはいえ、事業会社とはちがい、金融機関の顧客(保険契約者や銀行預金者)は単なる顧客ではなく、金融機関の債権者なので、経営危機の影響を直接受けてしまいます。それにもかかわらず、顧客には通常、自らが保険会社や銀行の債権者であるという自覚はないので、経営への規律付けに多くを期待できません(事業会社の代表的な債権者は銀行であり、規律が働きやすい)。いわば「ガバナンスの死角」というべき状況が生じやすいと考えられます。今回の行政処分のように、監督当局による経営への規律付けが最後の砦となるのかもしれません。
もっとも、金融庁が監督権限を持っているのは日本の保険会社に対してなので、所属するグループの本社や地域統括会社に有効な対応を求めることが実質的にできるのかといった、なかなか悩ましい問題もありそうです。
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※写真は京都のシェアショップ(昼はカフェ、夜はレストラン)です。
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