12. セミナー等の感想

企業文化を変えるのは難しい

金曜日の夜たまたまテレビをつけたら、ガイアの夜明けというテレビ東京の番組がビッグモーターを取り上げ、現社長への密着取材(のような演出?)をしていました。創業者親子が7月以降、世間に全く姿を見せないなかで、現在の社長が奮闘しているのがわかったとはいえ、過去との決別を判断するには早すぎるというか、材料が限られているように思いました。
というのも、株主問題は未決着で、当時の幹部が一掃されたということもないなかで、企業文化がそう簡単に変わるとはとても考えられないからです。

残念ながら同じことが、損害保険業界を揺るがしている企業向け保険料の事前調整問題にも言えそうです。
以前、保険会社のERM経営をどのように実践・実行していくかについて、大手損保グループ3社のリスクマネジャーと保険研究者で検討し、2015年1月に『保険ERM経営の理論と実践』(損害保険事業総合研究所・ERM研究会編)として発信したことがあります。
本書の第4章では、主に日本の大手損害保険会社グループの現状を踏まえつつ、あるべき方向性を示しました。最近読み返したところ、リスクベース・プライシングについて次の記述がありました(いずれも本書114ページ)。

「たとえば、企業物件において長年にわたり大事故が発生しないことも多く、その場合保険料引き下げ圧力がかかることが一般的に考えられるが、数十年に一度といった大事故・災害を考慮すると、十分な適正保険料が収受できないことも考えられる」

「保険料規模はだれにでもわかりやすい指標であり、マスコミ等がこの順位があたかも会社の優劣のように取り上げるので、マーケットシェアを優先した営業戦略が正当化されやすいという面もある」

「保険市場の競争環境下で、リスクに見合った適正な保険料を設定することがむずかしい状況にあるのも理解できるが、日本でも各社におけるERMカルチャーの浸透とともに、保険料設定においても商品の収益性評価においても、リスクベース・プライシングの考え方の浸透が図られていくことが望ましい」

企業向け保険の取引慣行やインハウス代理店について直接触れてはいないものの、当時から「競争環境」「シェア優先の営業戦略」によって適正保険料が設定できていないという問題意識があり、リスクに基づいた判断を行うといったERMカルチャーや、リスクベース・プライシングの考え方の浸透が不十分だと認識していたことがうかがえます。
しかし、その後「ERM」という言葉がグループ内に広く浸透したとしても、少なくとも企業向け保険の現場にはERMカルチャーが浸透していなかったことがわかってしまいました。

ちなみにテレビ番組のラストは「潰れたほうがいいんですかね」というビッグモーター現社長の言葉で締めくくられていました。

※写真は志賀島の金印公園です。

 

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RIS2023全国大会を開催しました

11月13日のブログでご案内したRIS(全国学生保険学ゼミナール)2023の全国大会を12月2日、3日に福岡大学で開催しました。

当日はリスクと保険を学ぶ12大学14ゼミナール、200名を超える大学生が福岡大学に集結し、これまでの研究成果を報告しました。今年は4年ぶりに懇親会を行うことができたので、植村ゼミのシャイな学生たち(?)も他大学との交流を楽しめたようです。

RISの特徴の1つは保険業界を中心に、毎年多くの実務家が参加して、報告への質問・コメントをいただいていることです。当日は福岡開催にもかかわらず、30名以上の実務家の皆さんにご参加いただきました。ありがとうございました。

さて、備忘録として、当日の運営について少しだけ記録しておきます。
今回は現地幹事として「できるだけ簡素に」「リアルな交流を重視」というコンセプトのもとに準備を行いましたが、実のところ250名もの規模の会合を仕切るのは初めての経験でしたので、やってみて初めて分かったことも多々ありました。

まず、予想していたよりも参加者の移動に時間がかかりました(懇親会会場への移動など)。これは人数の多さだけではなく、荷物が多かったためです。遠方からの参加者が多く、しかも真冬の寒さだったため、大きな荷物とかさばるコートを抱えての移動となり、どうしても時間がかかってしまったのですね。
もちろん報告会場でも懇親会でも荷物スペースを確保していたのですが、報告会場では2階まで階段で上がっていただくことになり、懇親会では荷物スペースへの通路が狭くて、いずれも大変だったと思います。

RISは外部の業者さんを使わず、教員の手弁当で運営しています。そのため、今回は私なりにいろいろと考えたうえで、対面参加のみとさせていただきました。「リアルな交流を重視」というコンセプトに沿ったと言えばその通りなのですが、同時に複数の会場で報告を行うので、対面・オンライン併用は物理的に難しいと判断したためでもあります。
その結果、各教室にPC対応者を張り付けなくても運営できるはずだった(マイク係は配置しました)のですが、準備段階では大丈夫だったスライド投影がうまくいかなくなったり、マイクが突然切れたりして、その度に報告者の皆さんや座長の先生に自ら対応していただくことになってしまいました(そこに私がいれば対応しましたが、分身はできませんので)。
オンライン対応がなくてもPC担当のゼミ生を張り付ける、そのためには事前にゼミ生に機器の使い方を教える、程度の労力はかけるべきだったかもしれません。

当日は25の報告がありました。例年と同じく1報告あたり1時間(討論・質疑応答を含む)としたため、同時に最大4報告を行う時間帯もありました。毎年、特に実務家の皆さんから「同時に複数の報告があって残念」という声を耳にしていたので、個人的には検討してみたのですが、例えば1報告あたりの時間を40分にすると、同時に2または3報告にはできるものの、RISのよさである討論・質疑応答を犠牲にすることとなり、なかなか悩ましいです。

うっかりしていたのが「ゴミ問題」です。250名もの参加者がいて、しかも土日は学食や周囲の飲食店が休みなので、昼食を各自で持参するようにお願いしていました。こちらでお弁当を用意するとなると、人数確認や運搬などかなりの作業となり、「できるだけ簡素に」というコンセプトから外れてしまうためです。
それにもかかわらず、持参した昼食を250名の参加者が一斉にとると、ゴミが大量に出ることをすっかり忘れていました。福岡大学では土日の清掃はないので、何もしないとゴミ箱があふれてしまいます。
そう気がついたのが日曜日の朝で、代表幹事の根本先生に「どうしましょう!」と相談したところ、先生は全く動じることなく、「ゴミ箱にはたいてい予備の袋が入ってますよ」と、実際にゴミ箱を開け、予備の袋を見つけてくれました。あとはゴミ箱の分散利用を呼び掛けたうえで、いくつかのゴミ箱の袋を入れ替えることで問題は解決しました(「手伝います」と声をかけてくれた学生たちもいて、これはうれしかったですね)。

ということで、現地幹事としての大会運営は私にもいい経験になりました。ご協力いただいた全てのかたに御礼申し上げます。

※いかにも手弁当という感じですね(笑)

 

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マイクロ保険

10月28日から29日にかけて、日本保険学会の年次大会がありました。今年度は久しぶりに懇親会も開かれ、にぎやかな大会となりました。

初日のシンポジウムのテーマ「先端医療と保険」には、報告者として同僚の伊藤先生が登壇したにもかかわらず所用により私は参加できず(すみません)、2日目の共通論題「マイクロ保険の現状と課題」に参加しました。
マイクロ保険(マイクロインシュアランス)について私はあまり馴染みがなかったのですが、ニッセイ基礎研究所の片山さんの資料によると、2022年現在、加入者は34か国、2億人超で、導入する地域が増えているとのことでした。

報告を聞いて、私は次のような理解をしました。正しいかどうかは自信がありません…

・マイクロ保険も通常の保険もしくみは同じ
・マイクロ保険は低所得者・貧困層などを加入対象としており、通常の保険にはない存在意義を持つ
・加入対象の特性から小口かつ保険料滞納リスクなどがあり、さらに保険事業への理解も低いことから、極力コストを抑えつつ、加入者を引き付ける(引き留める)ための工夫がないと持続可能な事業になりにくい

事業者目線からすると、「採算ベースに乗りにくい保険事業が技術革新によって実現できるようになった」というのはわかります。
他方で「採算ベースに乗らない保険事業をあえて行う」というのはどう考えたらいいでしょうか。他の事業があって、社会貢献あるいは市場参入のためのコストとしてとらえればいいのでしょうか(株主など他のステークホルダーが許容する範囲において)。こちらを保険事業と言っていいのか、私には疑問です。

複数の先生が「アグリゲーター」と呼ばれる非保険業の事業体について触れていました。この事業体が関わるマイクロ保険と、無尽や頼母子講といった共同体の互助金融を比べた議論はありそうですね。

※写真は会場の京都産業大学です。

 

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近況報告

佐賀で出張授業(10月20日)

佐賀市にある県立高校の1年生に出張授業で「リスクと保険」の話をしてきました。
高校に入学してまだ半年の生徒でも「ビッグモーター」事件は浸透しているのですね(スライドを見せたら「わぁ」と声が上がりました)。
ただし、事件を知っていても「車をわざと壊して不正にお金を受け取った」くらいの理解ですので、保険のしくみを説明したうえで、ビッグモーター事件のどこが問題なのかをお話ししました。

佐賀は博多駅から特急で40分という近さにもかかわらず、町の中心部に行ったのは今回が初めてでした。
駅から30分ほど歩くと佐賀城跡があって、本丸御殿が再建されています。写真のレトロな洋館は旧古賀銀行の本店です。現在は歴史民俗館・カフェレストランとして使われています。

RIS九州ブロック中間報告会(10月22日)

西南学院大学で九州の4大学のゼミが報告会を行いました。
今の植村ゼミ3年生は、2年生の12月に学内の報告会を経験しているとはいえ、他流試合は初めて。しかも、研究はどの班もまだまだゴールが見えない状況です。それでも他大学の報告を目の当たりにしたり、実務家からアドバイスをいただいたりしたなかで、何かを得ることができたのではないかと思います。ここからの約1か月が勝負なので、がんばりましょう。

RIS2023の全国大会は12月2日、3日に福岡大学で行います。今回は対面のみの開催で、久しぶりに懇親会もあります。
申し込みが始まりましたので、リスクと保険を学ぶ学生にご関心のある方はぜひご参加願います。お申し込みはこちらです。

東洋経済『生保・損保特集』に寄稿

毎年恒例の週刊東洋経済の臨時増刊『生保・損保特集』が本日発売されたようです。
今回は久しぶりに執筆しました(新しいソルベンシー規制について)。業界人だけではなく、保険業界に関心のある学生にも理解できるように書いたつもりなのですが、どうでしょうか。

 

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ビジネス教育研究会

大学の同僚のお誘いで、「地方大学におけるビジネス教育研究会」に参加しました。会場は静岡県立大学でした。
この研究会は、主に東京以外の比較的規模の大きい大学で学部生教育を担う教員が、最近取り組んだ授業等の内容を紹介したり、学生の変化について意見交換を行ったりするものです(私の理解が正しければ)。コロナ禍のオンライン開催を経て、久しぶりの対面開催とのことで、当日は7名の先生によるプレゼンテーションがありました。対面開催だと懇親会で続きをやれるので、ありがたいですね。

研究会の内容は基本的にオープンになっていないようなので、私の感想を多少述べてみます。
この3年間といえば、やはりコロナ禍が大学教育に与えた影響を無視できません。単に授業をデジタル化したということにはならず、授業のスタイルも目線も変更を迫られました。
私も講義やゼミの目線をどの水準に置くのがいいのか今でも試行錯誤しているところですが、オンラインだとどうしても標準的なものを提供することになり、面識のない上位層の学生をオンラインでガンガン鍛えるなんてできなかったでしょう。

身近に海外留学や海外旅行の経験者がいないことによる影響についての示唆もありました(ある先生のプレゼン内容の一部として)。もちろん、海外留学にしても何にしても、「誰かが行くから私も!」「僕も!」というものではないでしょう。しかし、身近に経験者がいなければ、そもそも「海外」が選択肢に入ってこないおそれがあります。知らないことは選びようがありません。
海外に限らず、学生時代における各種の経験の少なさは、コロナ禍の大きな弊害と言えるかもしれません。まあ、多くの学生がかなりの時間をスマホでの動画視聴やゲーム、あとはアルバイトに費やしているのは、コロナ禍とは関係ないでしょうけど、意識の高い上位層(という表現が適切かどうかはともかく)には、気の毒だったと思ってしまいます。

※静岡といえばお茶とウナギですね

 

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RIS2022全国大会に参加

この週末(12月3日、4日)は全国学生保険学ゼミナール(RIS)2022全国大会でした。今年は13大学・25チームが研究発表を行い、福岡大学の植村ゼミからも2チームが登壇しました。3年生ゼミの活動の柱がこのRIS全国大会での発表だったので、教員としては何とかここまでたどりつくことができて、ホッとしています。

植村ゼミの報告テーマは「地震保険の加入動向」「コロナで苦しむ学生向けの保険」でした。せっかくなので、それぞれについて簡単にご紹介します。

1.地震保険の加入動向

もともとは「地震保険の普及率が低いのはなぜか」という素朴な問題意識から始まりました。まず、火災保険付帯率の都道府県別データに加え、損害保険料率算出機構・日本地震再保険のご協力で入手した地方別データをいくつかの切り口で分析したところ、全国平均とは大きく異なる推移をしている県を見つけました。

・熊本県:震災後に付帯率が急上昇
・静岡県:地震リスクが大きいのに付帯率が停滞
・高知県:保険料が上がっても高水準の付帯率

そして、これらの原因を文献だけではなく、保険の販売現場への質問やインタビューなどを通じて探りました(ご協力いただいた皆さん、ありがとうございました)。リスク認知の難しさや保険販売者(銀行やハウスメーカー)への働きかけの重要さなど、私も勉強になりました。

2.コロナで苦しむ学生向けの保険

「うちの先生(植村)が言うように、コロナは深刻な病気ではなくなったので、保険金(給付金)を支払わなくて当然なのかもしれないけれど、今でもコロナにかかって経済的に苦しくなる学生はいるはずで、このままでいいのだろうか」という私への反発(?)がこのテーマを選んだ動機のようです(多少盛っています)。

保険会社が撤退したコロナ保険を学生が実現しようというのですから、保険としての突っ込みどころは満載です。それでも、対象となる福大生100人にニーズ調査を行い、他大学の感染データを調べることで福大データが異常値ではないと確認し、さらに、可能なかぎり安く補償を提供するために大学とのタイアップを考え、学生課に突撃(インタビューを実施)するなど、がんばって行動してくれました。

ゼミ生たちは他大学との質疑応答や実務家からのアドバイスなど、この2日間で多くの刺激を受けたのではないでしょうか。対面参加だったので、他大学との交流も多少はできたのかもしれませんね。4年生もオンラインで討論者の役割を果たしてくれて、助かりました。

※会場は慶應義塾大学の三田キャンパスでした。

 

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保険専門団体の年次大会

今週のInswatch Vol.1160(2022.11.14)に寄稿した拙文をブログでもご紹介します。
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保険産業に深い関わりのある専門団体として、「日本アクチュアリー会」「日本保険学会」があります。先週の飛び石連休に両団体の年次大会がそれぞれ開催され、私も参加してきました。

アクチュアリーとは

皆さんは「アクチュアリー」をご存じでしょうか。
保険販売の現場や損害査定の場面など、保険産業は総じて人と人との生々しいやり取りに満ちあふれています。でも、皆さんが提供している保険のしくみそのものは、確率・統計の技術を駆使して成り立っています。将来の保険金支払いを確実なものとするため、日々活躍しているのがアクチュアリーです。
一般的には、難関と言われる資格試験に合格し、日本アクチュアリー会の正会員・準会員となった人のことをアクチュアリーと呼びます。

例えば、保険会社の取締役会は、「責任準備金が適切に積み立てられているか」「保険事業の継続性に問題はないか」などを確認するため、アクチュアリー(正確には日本アクチュアリー会の正会員で、一定の業務経験があるアクチュアリー)を「保険計理人」として選任しなければなりません。
また、生命保険会社は法令により、政府が定めた標準死亡率をもとに責任準備金を積み立てる義務がありますが(標準責任準備金制度です)、この死亡率を作成しているのは日本アクチュアリー会です。

なお、アクチュアリーが活躍するフィールドは保険会社(商品開発や責任準備金の計算など)だけではありません。将来の不確実な事象を評価するのが専門なので、企業年金やリスクマネジメント、最近ではデータサイエンスの分野など、活躍の場面が広がっています。

日本保険学会とは

他方、日本保険学会は社会科学系では最も古い歴史と伝統のある学術団体の1つです。「保険に関する研究と保険研究者相互の協力を促進し、かつ、国内外の関係学会、関係団体との連絡および交流を図ること」を目的としています。

学会員には法律系の研究者と、経済・商学系の研究者の両方がいます。例えば、同じ「自動運転車の普及」をテーマに取り上げても、法律系の研究者であれば、「事故発生時の責任関係はどうなるのか」「被害者はどう救済されるのか」などに関心を持つでしょうし、経済・商学系の研究者は、「保険産業にどのような影響を与えるのか」「保険の役割はどうなるのか」などを研究します(あくまでイメージです)。

こう書くと、なんだか敷居が高そうに見えてしまいますね。実は学会員の7割近くが保険産業に関わる実務家でして、学会では大学研究者と保険実務家が広く交流し、活発な意見交換を行っています。
私自身も、2020年からは大学研究者に該当しますが、それ以前から保険実務家として年次大会のパネルディスカッションに登壇したり、機関誌『保険学雑誌』に寄稿したりしてきました。

気候変動リスクへの対応

先週開催された両団体の年次大会では、いずれも多くの興味深い報告・パネルディスカッションが行われました。そのなかで、比較的近いテーマもあり、私はその両方に参加してみました。
日本アクチュアリー会の「あしたのために、その一:気候変動リスクマネジメント アクチュアリーもやもや解消レシピ」という、ちょっと変わったタイトルのパネルディスカッションは、気候変動リスクに対応する際の「もやもや感」を解消しようというものでした。リスク評価の専門家でも、最近の気候変動リスクをめぐる世界的な動きについては、どこか釈然としないものを抱えているのですね。

他方で、日本保険学会のシンポジウム「社会課題の解決に向けた保険の意義と課題」では、実務家から気候変動リスク対応などに関する国際的な議論の説明と、保険会社・共済団体によるSDGsへの取り組み状況の紹介がありました。
話を聞いていて、「経営としてSDGsへの取り組みをどう位置付けているのか」「契約者や株主はこのような取り組みをどう評価しているのか」など、いろいろ考えることができたのは大きな収穫だったと思います
(「もやもや感」は残りますが・・・)。
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※写真は京都・真如堂です。

 

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あんしん!ジャイアン保険

知人のSNS投稿によると、9月24日のテレビ朝日『ドラえもん』は「あんしん!ジャイアン保険」だったそうです。気になったのでアニメを観たところ、こんなストーリーでした。

未来の保険「なんでも保険」は、自分の考えた保障(補償)を保険屋さんロボットに相談すると、プランを提案してくれるというものです(保険屋さんロボットの名前が「なんでも保険」なのかもしれません)。のび太は「なんでも保険」に相談し、ジャイアンから殴られたり、蹴られたりしたら保険金を受け取れる保険に入りました。保険料は1日10円です。
加入後すぐにジャイアンに殴られたのび太は保険金を受け取り、そのお金で読みたかったマンガを買うことができました。

これに味をしめたのび太は保険料を2倍にして、お金をたくさん受け取ろうと画策します。しかし、わざわざジャイアンにからみにいっても暴力を振るわれない日々が続きます。保険料の負担でおこづかいが底をついたのび太は、ジャイアンが落書きしたしずかちゃんの本や、保険に入る前にジャイアンに壊されたラジコンカーなどで保険金を請求するのですが、保険屋さんロボットに支払いを拒否されてしまいます(ロボットは過去の出来事を確認できるのです)。最後は不正まがいの手段に出るのび太でしたが、これも失敗。契約を破棄した直後にジャイアンにボコボコにされるというオチでした。

アニメ『ドラえもん』の主な視聴者は小学生ですよね。よくできた話だと思いました。「もしもの時の強い味方」というキャッチフレーズから始まり、ドラえもんがのび太に「(毎日の保険料は)結構な出費だよ」とクギを刺すシーンもありました。長い間使っているうちに壊れたものや、保険に入る前の事故は補償の対象外だというのも保険の基本的な話ですよね。「保険はもしもの時の味方であって、保険で儲けようとするのはダメなんだよ」というメッセージになっています。
アニメにはありませんでしたが、もしのび太の画策が成功し、ジャイアンにわざと殴られた場合には、保険屋さんロボットはどう対応したのでしょうね。

ところで「なんでも保険」はどうやってジャイアン保険を引き受けているのでしょうか。暴行シーンを過去にさかのぼって確認できるので、不正な保険金請求を防ぐことはできます。ただし、のび太がリスクの高い行動をとることを防ぐシーンはありませんでしたので、モラルハザードの発生は避けられません。加入後ののび太の行動はモラルハザードそのものでしたよね。
プライシングは難しそうですが、ジャイアン個人の行動履歴を分析するというのではなく、全国のいじめっ子の詳細な暴行データ、あるいは詳細な被害データが入手可能な世界になっているのかもしれません(事件にはならないレベルまでの詳細な情報を第三者が入手できる社会で暮らしたいかどうかはともかく)。
もっとも、ドラえもんはもう何十年も放映されているので、ジャイアンとのび太が登場するシーンを分析すれば、保険料を決められるような気もしますね。

※日曜日は稲刈りの日、でした。福岡市内にて。

 

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ゼロゼロ融資・42兆円の反動

元首相の銃殺というショッキングな事件が起きてしまいました。ご冥福をお祈りするとともに、私たちの社会が妙な方向に進んでいかないことを願います。

さて、以前から親交のある一橋大学の安田行宏先生がNHKクローズアップ現代に出演するということで、なぜかドキドキしながら番組を観ました
(放送は7/6でした。13日まで見逃し配信中です)。

番組の概要はこちらのサイトのとおりですが、政府による異例の中小企業政策(特に2020年5月に民間金融機関まで広げたこと)が企業と金融機関のモラルハザードを引き起こし、結局のところ国民が負担する可能性が高いのだと理解しました。

「企業にとっては借りやすい分、本来の身の丈に合わない額まで融資を受けてしまう可能性があるといいます。金融機関にとっても、確実に融資を回収できて利子も稼げるので、今の低金利時代においてゼロゼロ融資は“恵みの雨”といえます」
(安田先生のコメント部分を引用)

番組では、大阪信用保証協会による経営サポートの取り組みや、金融機関どうしの連携で貸付先の経営改善を図る動きを紹介していました。とはいえ、コロナ前から総じて経営状態の厳しい金融機関を、全くリスクを負うことのない形でゼロゼロ融資に参加させたことが危機対応として正しかったのか、国民負担が実現してしまった際には検証が必要でしょう。
そもそも長年にわたり法人税を払わないような中小企業が数多く存続できているというのが正常ではないと思います。番組でも「ゾンビ企業」というワードが出ていましたね。

※JR九州の特急「A列車で行こう」に乗りました。

 

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活版印刷の発明と海上保険

この週末(25日)は日本保険学会九州部会の例会があり、福岡大学での対面&オンライン(zoom)開催でした。こちらから当日のプログラムやレジュメをご覧いただくことができます(確か期間限定だったと思います)。

2人の報告者のうち、最初に登壇した神戸大学の若土先生の報告「活版印刷技術が及ぼした中世海上保険証券への影響」は、『海事交通研究』第70集に掲載されたこちらの論文(PDF)のアップデートだったようです。中世イタリアをはじめ、スペイン、ポルトガル、オランダ、ドイツなど、これだけの古文書(主に保険証券)を発掘するにはかなりの労力がかかったのではないでしょうか。

『海事交通研究』の論文を拝見したところ、15世紀にグーテンベルクが発明した活版印刷技術が、それまで全て手書きだった海上保険証券の定型部分に導入されていったことを、文献だけではなく、若土先生自らが収集した史料をもとに検証したものでした。

グーテンベルクの活版印刷技術は火薬、羅針盤とともに「中世の3大発明」の1つと言われ、その後のヨーロッパ社会に大きな影響を与えました。この技術を使えば写本よりも早く、安く、大量に読み物を作ることができるので、情報が広く一般に普及するようになります。確かにこれは革命的です。
ただ、海上保険の保険証券を早く、安く、大量に印刷する必要はなさそうなので、両者がどう結びつくのかが疑問でした。これに対し、本論文では16世紀末のアムステルダムで保険証券の定型部分に活版印刷が利用されたことについて、2つの理由を挙げています。

「登記の手間の削減や保険手続きの簡素化や迅速化といった時代のニーズに対応できるよう、恐らく証券書面の統一化を図るため証券上の定型的な部分に活版印刷技術を導入していったのではないかと筆者は考えている」

「取引市場のエリアが拡大し(中略)有力商人たちは企業化しネットワーク網が広がり、契約した重要な補償内容を現地・本部のいずれでも確認できる需要が強まり、証券の定型部分を活版印刷によって記載する動きに繋がったのではないかとみている」

いずれもまだ仮説のようですが、興味深いですね。僭越ながら研究が進み、活版印刷技術と保険の関係がより明らかになることを期待しています。

※アジサイにもいろいろな種類があるのですね。

 

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