金曜日の夜たまたまテレビをつけたら、ガイアの夜明けというテレビ東京の番組がビッグモーターを取り上げ、現社長への密着取材(のような演出?)をしていました。創業者親子が7月以降、世間に全く姿を見せないなかで、現在の社長が奮闘しているのがわかったとはいえ、過去との決別を判断するには早すぎるというか、材料が限られているように思いました。
というのも、株主問題は未決着で、当時の幹部が一掃されたということもないなかで、企業文化がそう簡単に変わるとはとても考えられないからです。
残念ながら同じことが、損害保険業界を揺るがしている企業向け保険料の事前調整問題にも言えそうです。
以前、保険会社のERM経営をどのように実践・実行していくかについて、大手損保グループ3社のリスクマネジャーと保険研究者で検討し、2015年1月に『保険ERM経営の理論と実践』(損害保険事業総合研究所・ERM研究会編)として発信したことがあります。
本書の第4章では、主に日本の大手損害保険会社グループの現状を踏まえつつ、あるべき方向性を示しました。最近読み返したところ、リスクベース・プライシングについて次の記述がありました(いずれも本書114ページ)。
「たとえば、企業物件において長年にわたり大事故が発生しないことも多く、その場合保険料引き下げ圧力がかかることが一般的に考えられるが、数十年に一度といった大事故・災害を考慮すると、十分な適正保険料が収受できないことも考えられる」
「保険料規模はだれにでもわかりやすい指標であり、マスコミ等がこの順位があたかも会社の優劣のように取り上げるので、マーケットシェアを優先した営業戦略が正当化されやすいという面もある」
「保険市場の競争環境下で、リスクに見合った適正な保険料を設定することがむずかしい状況にあるのも理解できるが、日本でも各社におけるERMカルチャーの浸透とともに、保険料設定においても商品の収益性評価においても、リスクベース・プライシングの考え方の浸透が図られていくことが望ましい」
企業向け保険の取引慣行やインハウス代理店について直接触れてはいないものの、当時から「競争環境」「シェア優先の営業戦略」によって適正保険料が設定できていないという問題意識があり、リスクに基づいた判断を行うといったERMカルチャーや、リスクベース・プライシングの考え方の浸透が不十分だと認識していたことがうかがえます。
しかし、その後「ERM」という言葉がグループ内に広く浸透したとしても、少なくとも企業向け保険の現場にはERMカルチャーが浸透していなかったことがわかってしまいました。
ちなみにテレビ番組のラストは「潰れたほうがいいんですかね」というビッグモーター現社長の言葉で締めくくられていました。
※写真は志賀島の金印公園です。