12. セミナー等の感想

CERA研修

 

ERM(エンタープライズ・リスクマネジメント)の国際資格である
CERA資格の認定要件としてCERA研修が週末に開催され、
一コマ講師を務めました。

「日本の状況を踏まえたERM実務に関連する知識・技術の習得等」
がCERA研修の目的なので、講義では中堅生保の破綻研究や
これまでの業務経験を踏まえ、事例紹介を中心に話したのですが、
いかがでしたでしょうか。

もっとも、研修の中心は講義ではなく、グループワークでした。

出された課題についてまず自分で答案を作成します。
次にそれをグループ全員で討議したうえで意見をまとめ、
全員の前で代表者が発表し、講師がコメントします。
このようなグループワークが1日半で4つもありました。

いずれの課題も高度かつ実際にありそうなものばかり。
かなり付加価値の高い研修だったのではないかと思います。
受講者の皆さんも熱心に参加していたようですね
(というか、かなり大変だったのでは...お疲れさまでした)。

※くまもんも受講していました(うそです)

 

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Open Discussion Forum

 

日本アクチュアリー会(国際関係委員会)主催の
Open Discussion Forumでスピーチをしました(7日)。

このフォーラムは、
「日本で活動する外国人アクチュアリーと日本人アクチュアリーとが
 英語でのディスカッションを行なう公開討論会」
 (日本アクチュアリー会のHPより)ということで、
昨年に続き今回が2回目なのだそうです。

確かに日本と海外ではアクチュアリーの業務とされている内容に
なぜか違いがあるように思えますので、このような試みは
プロフェッシャルの団体として大変いいことだと思います。

しかし、いざ自分が登場するとなると冷や汗ものでした。

スピーチそのものは事前準備で何とかなりますが、
問題は質疑応答です。英語そのものは何とかわかったとしても、
相手が何を聞きたいのか、わからないことが結構あるのですね。
皆さんはそのような経験ありませんか。

さて、私はERM Sessionに登場し、「ERM and Regulation」という
テーマで20分ほど話をしました。そして質疑応答タイム...
...私への質問はなく、無事お役御免となりました^^;

同じERM Sessionで大手再保険グループRGAのERMについて
スピーチがあり、米国拠点のグループでも再保険会社は
やはり進んでいるんだなあと興味深く拝聴しました。

米国の投資家は一般にUS-GAAPベースの利益と株主還元に
関心があり、実際、RGAの投資家向け説明会資料をみても
ERMやリスクベースの話はあまり出てこないようです。

それでもRGAでは10年以上前からERMの構築を進め、
経済資本も計算し、さらに進化を続けているとか。
会場からの質問もRGAのかたに集中していました

私も「pricing actuary」「valuation actuary」という言葉に反応し、
つい横から質問してしまいました。

先日ある外資系保険会社のトップと話をしていた際に
「valuation actuaryが厳しいのでダンピングなどできない」
という話を聞いたところだったので、おっ、と思ったのです。
日本の会社に「valuation actuary」はいるでしょうか?
(スペルミスを修正しました)

まあ、受け身で質問を待つよりも、自分から出て行ったほうが、
つまり「守り」より「攻め」のほうがいいのではないかという
作戦でもありました^^

※いつものように個人的なコメントということでお願いします

※写真は会場のトリトンスクエアと、勝鬨橋から見た築地市場です。

 

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アジア保険関係者との対話

 

生保の中間決算(上半期報告)が発表されています(28日)。

大手で注目は明治安田生命でしょうか。
株式評価損に目が行きがちですが、米国RMBSの増加、
「その他有価証券」から責任準備金対応債券へのシフトなど、
いろいろと動きがみられました。

とはいえ、まだ全体を見ていないので、
週末にでももう少しコメントしようと思います。

ところで、最近、アジア各国の保険関係者に対し、
日本の保険市場や保険行政の動向について
話をする機会が何回かありました。

私が先月まで保険行政でソルベンシー規制の検討や
ERMの推進にわっていたこともあり、これらに関連する質問が
多かったのですが、それでも質疑応答を通じ、
彼らの関心事項が浮かんできました。

最もよく聞かれた質問は、低金利に関するものです。

「歴史的低金利が続く日本で、生保はどうやって経営しているのか」
「長期にわたる低金利が保険市場にどのような影響を与えているか」
「低金利で生保経営が厳しくなるなかで、行政は何か支援をしたのか」

などなど。
いまや欧米だけではなく、アジア各国でも金利水準が低下し、
保険会社の経営が厳しくなっていることが伺えます。

もうひとつ、興味深いというか、回答が難しい質問として、
「財務の健全性と消費者保護のいずれに軸足が置かれているのか」
というものがありました。

保井俊之さんの著書「保険金不払い問題と日本の保険行政」では
日本の保険行政について、

 ・戦前、戦中、高度成長期と続いたコントロール(統制)指向の行政
 ・1999年からのコンティンジェンシー(危機管理)指向の行政
 ・2005年からのコンプライアンス(法令遵守)指向の行政
 ・2008年からのコンバージェンス(目標集束)指向の行政

という整理がなされており、実感できるところです。

しかし、財務の健全性か消費者保護かと二択で問われると、
「どちらも重視している」としか答えようがありません。
いろいろと説明しましたが、納得してもらえたかどうか。

日本では中堅生損保の相次ぐ破綻(=契約者負担あり)を経て、
かつ、銀行預金のペイオフも解禁されています。

これに対し、アジア各国の保険市場では、
多くがコントロール指向の強い行政の下にあるため、
契約者保護と言うと財務の健全性確保ではなく、
消費者目線の政策のことがイメージされるようです。

※写真は築地市場で活躍する運搬車「ターレー」です。
 大きなハンドルの後ろに立って運転します。

 

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巨大災害・巨大リスクと保険

 

この週末に日本保険学会・年次大会のシンポジウム
「巨大災害・巨大リスクと保険」がありました(21日)。
昨年はパネリストだったので、今回は気楽に参加できました^^

今回のシンポジウムではパネリストが7人(!)だったので、
パネルディスカッションよりも報告が中心という感じでしたが、
例えば企業の巨大災害リスク管理状況や再保険市場の動向など、
いろいろと勉強になりました。
日本保険学会のHPへ

2011年は東日本大震災やタイの洪水、ニュージーランドの地震など
自然災害に伴う保険金支払いが過去最大規模に膨らんだのですが、
世界の再保険者の資本はわずかしか減らなかったのですね。

このため、一部を除き、再保険市場はハード化しなかったようです。
自然災害モデルの普及をはじめ、再保険者のリスクマネジメントが
進化したことが背景にあるのかもしれません。
近年はマーケットサイクルも小さくなっているとか。

大学の先生がたは地震保険制度への関心が強いようで、
パネルディスカッションでは専ら地震保険の話に集中しました。
確かに財務省の地震保険PTも進行中ですし、
参加された皆さんには身近に感じるテーマなのでしょう。

ただ、官と民の綱引きのような議論に終始するのではなく、
社会システムとして巨大災害・巨大リスクにどう対応するべきか、
そのなかで保険制度はどうあるべきか、といった大きな議論でも
よかったのではないかと感じました。

※会場は日大商学部でした。校舎が新しくなり、
 私が教えていた時とは大違いです(写真)。

 

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出版を祝う会

ベストセラー「医療保険は入ってはいけない」の著者である、
FPの内藤眞弓さんの新刊出版をお祝いする会がありました。

本のタイトルは「お金のプロがすすめるお金上手な生き方」。
保険の見直しや投資についてのノウハウ本ではなく、
「保険や貯蓄、投資等を通じてお金について考えましょう」
という本でした。

各章の表題を見ると、

 「保険貧乏にサヨウナラ」
 「どんぶり勘定とあくせく節約にサヨウナラ」
 「保有する暮らしにサヨウナラ」
 「やらされる『投資』にサヨウナラ」
 「医療保険依存症にサヨウナラ」
 「お金に振り回される暮らしにサヨウナラ」

と「サヨウナラ」が6つも並んでいます。

「サヨウナラ」のあと、何と「コンニチハ」なのか。
それは読者のためにとっておきましょう。

出版を祝う会には、金融や出版関連だけではなく、
幅広い分野から集まっていたようです。女性が多かったですね。
普段お会いする機会のないような皆さんと話をすることができましたし、
トークショーも新鮮でした。

どなたかが二宮尊徳の言葉として、
「道徳なき経済は犯罪」「経済なき道徳は寝言」
を紹介していたのが印象的でしたね。

この言葉はどうも出典が明らかではないようなのですが、
前半だけでなく、後半も同じくらい重要なのだと思いました。

※写真は武蔵大学3号館。
 大正時代(1923年)にできた歴史的建築物です。

 

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東日本大震災発生から1年

 

あれから1年といっても、過去を振り返るというよりは、
まだまだ現在進行形という感じがします。

さて、1周年ということで、日本保険学会関東部会は10日、
特別シンポジウム「東日本大震災と保険」を開催しました。

第1部は「実務家からの報告」ということで、日本損害保険協会、
生命保険協会、JA共済連からのスピーチ。
第2部は4人の保険研究者からの報告。
最後に登壇者全員によるパネルディスカッションという構成でした。

パネルディスカッションの時間が短かったのは残念ですが、
それでも研究者と業界のやり取りは、私自身がいろいろと考える
きっかけとなり、ありがたかったです。

例えば、早稲田大学の大塚英明先生は次のように主張します。
・政府は地震保険ではなく、被災者生活再建支援制度の枠組みで
 関与すべき(=政府は地震保険からは手を引く)
・JA共済ができることを損保はなぜできないのか

これに対し、損保協会の栗山泰史さんは反論します。
・日本の地震リスクの出再先は政府以外にない
・損保の責任額は大きく、かつ、共済のような閉じた世界ではない 

他にも「支払いトリガー」や「セットとして別売り」への疑問など、
栗山さん、お疲れさまでした、といったところでしょうか^^

死亡や失業などヒトのリスクに対しては各種の公的保障があります。
しかし、住まいについては被災者生活再建支援制度(最大300万円)
くらいしかありません。
そこで、この制度を住宅再建支援に広げるという議論はありそうです。
ただ、それがどの程度現実的な話なのか、私にはよくわかりません。

他方、現在の地震保険制度は政府が関与しているとはいえ、
加入者の保険料ですべてを賄う仕組みとなっています。
長い期間で考えれば、政府は引受リスクを負っているのではなく、
タイミングリスクを受けていると考えるべきなのでしょう。

栗山さんの肩を持つというわけではありませんが、
「(民間の枠組みで)JA共済ができるのだから、損保もできるはず」
というのは、現状の国際再保険市場をみるとなかなか厳しそうです。

家計地震のリスクを再保険市場に出していない現状でさえも、
日本の自然災害リスクに対する再保険カバーの安定的な確保は
損保にとって死活問題になっています。

言い換えれば、日本の損保は国際再保険市場への依存度が
非常に高いという事業構造になっているのです。

また、今回の地震保険支払金額は1.2兆円に上ったとはいえ、
都市部が少なかったため、この金額で済みました。
首都直下型では3兆円、関東地震では5.5兆円となるそうです。

他方、JA共済が今回8400億円もの支払いとなったのは、
もちろん建物更生共済で地震リスクを引き受けているからですが、
顧客基盤が都市部ではないという面も大きそうです。

日本の損保が自然災害リスクの引受能力をさらに高める余地は、
私にはあると思います。自社のリスク許容度を踏まえたうえで、
ビジネスとしてどのリスクをどの程度選好するのかという話です。

しかし、被災者支援を安定的に提供できるほどのキャパシティーを
政府ではなく、国際再保険市場に求めるというのは、
あまり現実的な話ではないように思えます。

※いつもの通り個人的なコメントということでお願いします。

※横浜の伊勢山皇大神宮です(1月)。
 皆さん何をお祈りしたのでしょうね。

 

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ア会の年次大会

 

日本アクチュアリー会の年次大会がありました(8&9日)。

プログラムを見ると、「ERM」や「経済価値ベース」に関する
テーマが例年以上に多かったように思います。
ただ、今年は直前に想定外の仕事が入ってしまったため、
実のところほとんど顔を出すことができず、残念でした。

唯一きちんと聞けたのが、最後の時間帯に行われた
「ECを計算すればERMとして充分か?」でして、
これが非常に興味深い講演でした。

講演者の住谷貢さんはアクサ生命のCFOです。
実際にERMを行っている立場からのスピーチということもあり、
説明が具体的、かつ、説得力がありましたね。

話を伺うと、保険会社のリスク管理には保険数理よりも
むしろファイナンスの知識が必要なように思えました。
リスク管理のツールとしてデリバティブの知識は必須とのことです。

「リスク・ポリシー」の話も納得でした。
「取るリスクと取らないリスクを選別」を突き進めると、
結局のところ「コアビジネスは何か」という話になります。
ERMが経営そのものであることがよくわかりますね。

※写真のトンネルは東横線の横浜と反町の間にあったもの。
 右の写真はかつて反町駅があった場所です。
 

 

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保険をめぐる二つの世界

 

昨日(5日)明治大学で、日本保険・年金リスク学会(JARIP)の
研究発表大会がありました。

保険や年金に関する様々な研究発表がありましたが、
最も刺激的だったのは、一橋大学・米山高生教授の
特別講演ではなかったでしょうか。

タイトルとなっている「保険をめぐる二つの世界」とは、
「伝統的な保険論」と「リスクマネジメント&保険」です。

「伝統的な保険論」は供給者の視点に立っており、
収支相等の原則からはじまる保険論です。
予定調和的な世界を前提にしており、
価格は保険数理による決定論的な世界で決まります。

これに対し、「リスクマネジメント&保険」は需要側から
マーケット(=自由競争)を前提に考えるものです。
予定調和ではなく不確実な世界であり、
価格は確率論的な世界で決まります。

そして、
「伝統的な保険論では解決できない問題や苦手とするテーマも
 需要側からマーケットを前提に考えると解決できる」

「今後の保険教育は伝統的な保険論(保険数理を含む)に加え
 リスクマネジメント&保険、金融工学、コーポレートファイナンス
 の4領域が主軸になる」

というのが先生の結論だったようです。

保険数理の専門家がリスクの専門家になれるかどうか。
アクチュアリー会でも話していただいたらいいかもしれませんね。

※写真は第三京浜の高架橋なのですが、格付けに見えてしまいます^^

 

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JARIPフォーラム

開催中に大震災に見舞われ、やむなく中断した
日本保険・年金リスク学会(JARIP)主催のフォーラム
「ソルベンシーⅡと保険会社のERM」ですが、
2カ月たって再度開催することができました(23日)。

今回私はパネリストのほか、恥ずかしながら基調講演を務めました。

パネリストの顔ぶれは、明治大学の松山直樹さんを除けば
週刊金融財政事情の誌上座談会と同じです。
もともとはリアルな座談会の後、誌上座談会に突入する予定でしたが、
これは仕方がありません。

モデレータの森本祐司さんが挙げた論点を再度ご紹介しましょう。

1.ソルベンシーⅡ、特に経済価値ベースの評価を基準にした
  自己資本比率規制が、保険会社のERMにどのような影響を
  与えると考えるか。

2.経済価値ベースの規制の導入=保険会社ERMの進展と
  なるのか?懸念点はないか?

3.ERMのサクセスファクター/望ましいERMの実現に向けて
  優先的に実施すべきは?

私以外のパネリストの皆さんは、実際に保険会社のなかで
ERMを実践している、あるいは実践してきたかたなので、
体験に基づいた話は大変参考になります。

水を飲む気のない馬に、水を飲ませることはできません。
飲む気にさせるにはどうしたらいいか。
いろいろな方法を考えていく必要がありそうです。

ご参考までに、本日(24日)こちらが公表となりましたので、
リンクしておきます。 → 金融庁のHPへ

※あくまで個人的なコメントということでお願いします。

 

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大震災発生のとき

今回の大震災で被災されたかたには、心よりお見舞い申し上げます。

地震発生のとき、私は日本保険・年金リスク学会(JARIP)の
「ソルベンシーⅡと保険会社のERM」フォーラムに参加するため、
東京・丸の内の日本工業倶楽部3階大ホールにいました
(パネリストとして登場する予定でした)。

開催を告知してからわずか3日間で締め切りという人気で、
会場には大勢の参加者がぎっしり座っていました。

3人目のスピーカーとして東京海上のTさんが登場してから
10分くらいでしょうか。実のところ、それほど大きい揺れとは
感じなかったのですが、ゆっくりした揺れだなあとは思いました。
スピーカーのTさんも異変に気づき、話を中断。

しばらくしてから、どなたか(たぶんホールの係の人)から
「シャンデリアの下にいる人は離れて下さい」という声。
この会館は経済界のクラシックな社交場という雰囲気で、
大ホールの高い天井には見事なシャンデリアがあるのです。

皆さんがあわてて席を離れた直後のことです。
大きく揺れていたシャンデリアの1つが壊れ、一部が落下しました。
もし誰も声をかけず、そのまま下に人がいたらと思うとぞっとします。

実のところ私は「まさかこの程度の揺れで落ちることはないだろう」
と考えていたので、本当にびっくりしました。

結局、フォーラムは中止となり、私はパネリストから帰宅難民へと
立場が大きく変わってしまったのですが、いざ事が起きてしまうと、
状況を正確に判断し、的確な対応をすることがいかに難しいかを
思い知りました。

 

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