02. 保険会社の経営分析

自動車保険の苦戦

今週のInswatch Vol.1168(2023.1.16)に寄稿した拙文をこちらでもご紹介します。同じ号で牧野司さんが最近話題のChatGPTを取り上げていますね。
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営業成績速報より

大手損害保険会社は投資家・アナリスト向けに月次の営業成績速報を公表しています。昨年12月までの累計(前年比)はご覧のとおりでした。

 東京海上日動  一般計:103.4%  自動車: 99.4%
 三井住友海上  一般計:103.1%  自動車: 99.0%
 あいおいND  一般計:103.5%  自動車:100.2%
 損保ジャパン  一般計:103.8%  自動車: 99.6%

各社とも一般計では3%程度の増収で、主に火災保険と海上保険がけん引役となっています。このうち火災保険に関しては、長期契約が昨年10月から5年に短縮となり、いわゆる駆け込み需要が営業成績を押し上げた効果もあったとみられます。加えて、料率引き上げによる影響もありそうです。
なお、12月の東京都区部の消費者物価指数が40年ぶりに4%台に達したことが話題になりましたが、上昇に寄与した主な内訳のなかに「火災・地震保険料(前年同月比6.2%)」という品目もありました。

他方で最大種目の自動車保険では、各社とも苦戦していることがうかがえます。12月単月で見ると、各社とも小幅ながら増収となっているものの、上半期の減収を挽回するほどの勢いはありません。料率引き下げが一段落しつつあるとはいえ、肝心の台数が伸びていないとみられ、コロナ禍の3年で最も厳しい営業成績となる可能性が高まっています。

自動車保険の収支も悪化

トップラインばかりでなく、自動車保険は収支も急速に悪化しているおそれがあります。昨年度決算では損害率が予想に反してコロナ前の水準まで戻らず、各社とも良好な収支を確保しました。ところが、4-9月期決算では一転して損害率が上昇に転じ、MS&AD傘下2社の損害率はコロナ前の水準を上回りました。自然災害による影響(上半期はひょう災があった)を除いたEI損害率です。
分母の収入保険料の伸びに期待ができないなかで、懸念されるのは物価上昇による影響です。申し上げるまでもなく、自動車保険の保険金は定額給付ではなく実損てん補なので、原材料費や人件費の上昇によって修理費が膨らむと、保険会社が支払う保険金も増加します。11月の決算発表時点では、各社とも「インフレの影響はまだ出ていない」とコメントしていましたが、さすがに足元では影響が出ているのではないでしょうか。今後の決算発表などに注目したいと思います。
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※写真は東京・湯島天神と不忍池です。

 

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生保のヘッジ外債投資

少し前ですが、財務省が12月8日に公表した「対外及び対内証券売買契約等の状況」によると、7-9月に続き、10月以降も生命保険会社による外国証券の売り越しが続いているようです。上半期決算データや下半期の運用計画報道を踏まえると、ヘッジコストが高水準となっているなかで、主に為替ヘッジ付き外債(ヘッジ外債)の売却が続いているのではないでしょうか。

そもそも各社がヘッジ外債をどう位置付け、4-9月期にどう動いたのか、公表資料から探ってみましょう。

【日本生命】
・かねてから一般勘定資産の約7割を円金利資産に投資する方針を打ち出していて、IR資料によると、ヘッジ外債はリスク性資産ではなく円金利資産という位置付け。
・4-9月期はヘッジ外債よりもオープン外債を大きく減らしたように見える。

【第一生命】
・IR資料には「ヘッジ外債は円金利資産の代替として投資を行ってきた」とある。
・4-9月期には「リスク・リターンの観点からヘッジ外債の大幅な削減を実施(IR資料)」。決算データからも確認できる。

【住友生命】
・IR資料によると、一般勘定は運用目的に応じてALM運用、バランス運用の2つに区分して運営しており、ヘッジ外債は両方に組み入れ(円金利資産とは扱っていない模様)。
・7-9月期に外国公社債が減っているが、ヘッジ外債ではなさそう。報道によると下半期はヘッジ外債を減らす方針とのこと。

【明治安田生命】
・決算説明資料には資産構成やALMに関する説明がない。
・4-9月期にはヘッジ外債を大幅に減らし、オープン外債を増やしたように見える。

【富国生命】
・決算説明資料には「収益性が低下したヘッジ付外債の売却およびオープン外債化を進めた」、運用計画報道でも「ヘッジ外債のオープン化」という記述があった。決算データからもヘッジ外債の大幅な削減が確認できる。

富国生命のように、リスクテイクを行う中期方針のなかで外債投資を行い、為替ヘッジを機動的に行うなかでヘッジ外債を保有するといった会社は例外で、多くは円金利資産、あるいは円金利資産の代替としてヘッジ外債を保有しているようです。
しかし、超長期の円金利負債を抱える生命保険会社にとって、ヘッジ外債が円金利資産の代替になるというのは無理があるように思います。一時的には負債の金利リスクのヘッジ効果があるとしても、今回のようにヘッジコストの上昇で売却を迫られるようなこともあるので、追加的なリターンを狙う独立したカテゴリーとして取り扱うべきではないでしょうか。

※主役交代の準備が進んでいました。下鴨神社にて。

 

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実質資産負債差額の弊害

以前のブログで、2016年3月期決算において実質資産負債差額(実質純資産額)が1年前より増えているのは生保の経営実態を反映しておらず、金利水準の低下によって健全性はむしろ悪化していると書きました。2022年9月期決算ではそれとは反対のことが生じました。

実質資産負債差額を公表していない会社も多いので、ソルベンシーマージン総額に有価証券含み損益をすべて反映させ、かつ、負債性資本調達手段等(劣後債務など)を控除した数字を見てみました。すると、実質的な健全性に大きな変化がないか、改善したにもかかわらず、この半年間で数値が大きく減った会社が目立ちました。しかも、いくつかの会社ではおそらく実質資産負債差額がほぼなくなったこともうかがえました。
現行のソルベンシー規制において、実質資産負債差額はソルベンシーマージン比率(SMR)とともに早期是正措置の発動基準となっています。金融庁はSMRが0%を上回っていても、実質資産負債差額が負の値となる場合には、業務停止命令を出すことができます。
ただし、実質資産負債差額から、満期保有目的債券および責任準備金対応債券の時価評価額と帳簿価額の差額を除いた額が正の値となり、かつ、流動性資産が確保されている場合には、原則としてこの区分の措置はとられないこととなっています。
詳しくはこちらをご参照ください。

12月16日に金融庁が公表した「業界団体との意見交換会において金融庁が提起した主な論点」によると、金融庁は生命保険協会に対し、次のような話をしたようです(11月18日に開催)。

「特に、海外金利上昇に加え、国内の超長期債金利も上昇傾向にあり、各生命保険会社が保有する債券の評価損が拡大している。こうした中、生命保険会社の財務の健全性に直ちに問題が生じるとは考えていないが、一部の保険会社において、実質資産負債差額が減少するなどの影響が生じていると認識している」

「こうした市場環境を踏まえ、各生命保険会社においては、適切なALM管理を行うとともに保険金支払いに備えた十分な流動性資産を確保することが重要であり、金融庁としては、各生命保険会社における資産の運用状況や運用に係る適切なリスク管理の高度化について、引き続き緊密に意見交換をしていきたい」

2022年9月期決算で各社の実質資産負債差額が大きく減ったのは、主に内外金利の上昇によって資産含み損益が急減したためです。実質資産負債差額は資産のみが時価評価で、保険負債の評価はいわば取得原価ベースなので、本来は金利上昇で経営内容が改善した会社が多いはずなのに、ALMの一環として長期債を保有している会社ほど数値が減ってしまいました。
もちろんALMの観点からは、低金利の時期に獲得した契約が、金利上昇時に解約となる可能性を無視することはできません。しかし、SMRに加えて実質資産負債差額の確保を求めるということは、すべての保険負債が一気になくなっても耐えうる資産を確保するように求めることなので、規制として明らかに行きすぎです。一定の流動性を確保すれば十分であって、おそらく金融庁もそう考えていると思いたいです。

私はかなり前から実質資産負債差額の廃止を主張してきました(例えばこちら(PDF)の10ページ)が、今回の決算をきっかけに、議論が進むことを期待しています。

なお、今回の決算では保険負債とは関係なく、海外金利の上昇によって保有する外国証券の時価が下がり、実質資産負債差額が大きく減ったという会社もありえます。こうした疑念が生じるのは、外貨建ての保険負債がどの程度あるのか公表されていないためでして、業界ないしは金融庁は早期に手を打つべきだと思います。

※京都御所のガイドツアーに参加しました。おすすめですよ。

 

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金利が上がったから金利リスクを削減?

インシュアランス生保版(2022年12月号第1集)に寄稿したコラムをご紹介します(見出しはブログのオリジナルです)。その後、経営方針の説明はありましたでしょうか?
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生保の資産運用計画

10月下旬に大手生命保険会社の資産運用計画(下半期)に関する報道があった。各社は半年ごとにマスメディア向けの運用方針説明会を行っていて、報道はこれを受けたものである。
このうち、説明会の内容(なぜか一般には情報公開されていない)を比較的そのまま報じていると思われるロイターとブルームバーグの記事をみると、大手生保はいずれも国内債券への投資を増やす計画となっていた。ここで言う国内債券は主として超長期債であり、多くの生保にとって超長期債の購入は安全資産への逃避ではなく、超長期の保険を提供してきたことに伴って抱えている金利リスクを減らす取り組みを意味している。

金利上昇は経営にポジティブなはずだが

記事に載った各社のコメントをそのまま紹介しよう。
「30年が1.5%程度に来ており過去数年と比べるとかなり投資しやすい環境(日本生命・10月24日のブルームバーグ)」「1%台後半であれば追加的な投入も検討できる」(住友生命・10月25日のロイター)」「今の時点ではそれなりに投資妙味がある、買って良い水準だと認識している(明治安田生命・10月25日のロイター)」。いずれも金利が上がったので超長期債への投資を増やすという内容だった。

各社が抱えている金利リスクとは、金利水準が下がると損失を被る(会社の価値が減ってしまう)リスクである。ということは、上半期の金利上昇により、大手生保の会社価値はむしろ高まっているはずだ。それにもかかわらず、各社は金利リスクの削減を加速すると言い、健全性のさらなる改善に舵を切ろうとしていることになる。

経営方針の説明が必要

第一生命のように経営として中長期的なリスク構成の見直しを打ち出し、金融関連のリスク削減を進めているのであれば、そのなかでのペースメイキングであると理解できる。しかし、そのような説明もなく「金利が上がったからリスク削減を進める」と言われても、何をしたいのか外部観察者からは全くわからない。
健全性が回復した現時点でもリスク削減が必要だというのであれば、そもそも回復する前にリスク削減を加速しなかった理由を説明してほしい(結果オーライということか?)。あるいは、もともと健全性に不安はなかったが、ここからリスク削減を加速することで、余剰となった資本を保険契約者等に還元する方針に転換したということか。余剰資本を海外M&Aなど新たな戦略的投資に回すという選択肢もありうるとはいえ、特に相互会社の場合、社員(契約者)がそうした経営方針を望んでいるとは考えにくい。

大手生保はガバナンス改革を進めているのであれば、形を整えるよりも、こうした局面で重要な経営方針を会社の内外にきちんと説明できることのほうが重要ではないだろうか。
このコラムは上半期決算の発表前に書いているので、掲載時には各社がすでに経営方針をきちんと説明していると期待したい。
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※トロッコ列車に乗りました。

 

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コロナと損保決算

最近発表された3メガ損保の決算資料やIR資料を眺めていると、損保グループでもコロナ関連の給付金支払いがかなりの金額で発生していることがわかります。

まず国内生保事業では、あんしん生命が約90億円、MSA生命が113億円、ひまわり生命が218億円の給付金支払いがありました。大半がみなし入院に伴う支払いだと考えられます。

これに加え、国内損保事業でも給付金支払いが発生しています。東京海上日動が220億円、三井住友海上が206億円、あいおいニッセイ同和が86億円、損保ジャパンが131億円です
(4社合計で643億円)。
種目別には「傷害保険」となっていますが、主に医療保険ではないかと。

(12/2加筆)
損保で医療保険を扱っている場合にはそうですが、傷害保険でも感染症特約などがあり、「主に医療保険」というのはあまり正確な表現ではなさそうです。 

さらに目を引くのは、台湾での損失計上です。東京海上グループは通期で960億円の関連損失、MS&ADグループは同200億円の支払いを見込むと発表しています。
台湾では2021年以降、損保業界によるコロナ保険の販売が広がっていたようです。ところが台湾政府は今年4月、それまでのゼロコロナ政策からウィズコロナ政策に転換し、感染者数が急増したため、台湾の損保業界全体が多額の支払いを迫られることになりました。東京海上グループが49%分を出資していた新安東京海上も増資が必要な状況となり、9月末に株式を追加取得して子会社にしました。

なお、自動車保険の損害率が顕著に上昇している(特にEIベース)のは、コロナの影響(交通量の回復)のほか、ひょう災など自然災害による支払いが多かったためです。とはいえ、自然災害を除くベースでみても、MS&ADの2社の損害率はコロナ前の水準を上回るところまで戻っており、今後の動向に注目です。

※写真は朝の岡山城です。

 

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上場生保の決算発表から

上場保険グループの4-9月期決算が発表されましたので、このうち生保(上場生保と損保の生保子会社)の注目指標をざっと眺めてみました。

4-9月期の生保事業は、①コロナ関連給付金支払いの影響、②内外金利上昇およびヘッジコスト上昇の影響、③円安の影響などなど、久しぶりに注目材料が目白押しです。加えて、それぞれの影響がどこにどのような形で出てくるのかにも注目です。
とはいえ、上場保険グループの決算資料をまだざっと眺めただけなので(すみません)、ここでは2点だけコメントしておきます。

1つは①に関して。第三分野にあまり注力してこなかった大同生命とソニー生命を除き、損益計算書の「給付金」が前年同期の1.5倍程度に増えています。9月下旬に支払い基準の見直しを行わなかったら、通期ではすごいことになっていたでしょう。

もう1つは②のうち、内外金利上昇の影響で「実質純資産(実質資産負債差額)」が大きく減っていることです。
現行のソルベンシー規制において、金融庁はソルベンシー・マージン比率とともに実質純資産の確保を求めています。ただし、実質純資産は単純に時価ベースの資産から負債(資本性の高いものを除く)を差し引いて計算するので、金利リスク削減のために超長期債を保有していると、この4-9月期のように超長期金利が上昇すると、数値が減ってしまいます(負債はいわば簿価ベースなので)。
金利上昇によって、経済価値ベースでは健全性が改善しているはず(フルヘッジであれば横ばい)なのに、現行基準ではむしろ悪化するように見えてしまうということで、私はかねてからこの指標を速やかに廃止すべきと主張してきたのですが…金融庁やメディアが妙な反応をしないことを期待します。

今週中には非上場の生保決算が概ね出そろうのではないでしょうか。

※写真は福岡城址です。秋ですね。

 

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生保の下半期運用方針

1週間ほど前に、主要生保がメディア向けに下半期の運用方針説明会を開いたようで、それによると、「ヘッジ外債の投資妙味が薄れている」(ロイター記事より)ことからヘッジ付外債の残高を減らす一方、超長期債(円建て)への投資を増やすとのことでした。

ただし、コメントをよく見ると、超長期債の購入にあたり「負債コスト」(おそらく平均予定利率)を強く意識している会社がいくつかあるようで、どこか違和感を感じました。「個人保険も団体年金も同じどんぶり勘定?」ということではないでしょうけど、「平均予定利率を上回るから金利リスクの削減ができる」という考えが、私にはしっくりこないのですね。
というのも、円金利の上昇によって経済価値ベースのソルベンシーは増加しているはず。リスクへの耐久力が高まってからリスク削減を加速するというのはどうしてなのでしょうか。決算発表の際にはぜひご説明いただきたいです。

他方で、上半期の注目ポイントの1つは為替ヘッジコストの急上昇による影響です。ヘッジ付外債は円債の代替ではなく、海外の長短金利差などをリターンの源泉とした投資です。金融市場の動向次第でうまくいくときもあれば、失敗するときもあります。この上半期はヘッジコストが急上昇(ざっくり1%⇒4%)したため、同じ年限の円債よりも利回りが相当悪化したものとみられます。
もちろん、外部環境の変化を受けて、機動的な対応ができた会社もあったかもしれません。とはいえ、日銀の金融システムレポートによると、大手9社のヘッジ付外債は10年前から倍増し、2021年度末には30兆円を超えています。上半期に損失覚悟で売却を進めたとしても、全体として厳しい結果となった可能性があります。運用方針説明会で記者さんはそうした質問をしなかったのでしょうか?

※この週末は日本保険学会の年次大会でした。

 

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生保の2022年度4-6月期業績(続き)

2022年6月末の大手生保(日本、第一、住友、明治安田)のソルベンシーマージン比率(SMR)を確認したところ、水準自体に全く問題はないものの、他社に比べて住友生命の低下幅が大きいことに気がつきました。

日本 1043%(△ 16%ポイント)
第一  886%(△ 21%ポイント)
住友  688%(△121%ポイント)
MY 1023%(△ 38%ポイント)

( )は2022年3月末との差

4-6月期決算でもSMRの分子・分母の内訳や有価証券の時価情報は公表されています(デリバティブ取引の開示は一部の会社のみ)。これによると、住友生命のSMR低下は、分子の「ソルベンシーマージン総額」の減少が他社よりも大きかったことと、分母の「リスクの合計額」が増えたこと(日本生命と第一生命は減少、明治安田生命は微増)によるものとわかります。

分子の減少は「その他有価証券評価差額金」の減少、つまり、その他有価証券区分の含み損益が減ったことが大きいです。4-6月期には海外金利が上昇した影響で、外国公社債の含み損益が減りました。これは4社に共通しています。加えて住友生命の場合、このところ増やしてきた「外国株式等」の含み損益の減少も目立ちます。ただし、今の開示ではこの詳細はわかりません。

分母のほうは、日本生命と第一生命が外国公社債の残高を減らしたのに対し、住友生命と明治安田生命は増やしています。とはいえ、明治安田生命の資産運用リスク相当額が微増にとどまり、住友生命が増加している理由は、残念ながら今の開示ではわかりません(外国証券の関係ではないかと思いますが…)。住友生命に限らず、各社はもう少し外国証券に関する情報開示を進めてほしいところです。まあ、デリバティブ関連であれば9月期に何かわかるかもしれませんね(株式のヘッジポジションの関係とかであれば)。

なお、準大手では富国生命のSMRが82%ポイント下がっていますが、分子のソルベンシーマージン総額が減った最大の要因は国内公社債の含み損益が減ったことでした。富国生命は保有する国内公社債の大半を「その他有価証券」区分としているため、金利上昇の影響を受けたとみられます。経済価値ベースでみれば、全く違った動きとなっているのでしょう。

※写真は東京・大手町の某ホテルからの景色です。

 

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生保の2022年度4-6月期業績

新聞報道はどうして生保の保険料収入へのこだわりが強いのでしょうか。4-6月期決算を報じた記事「第一生命、保険料収入で日本生命抜く(有料記事)」では、主要会社の保険料等収入のランキングを載せています。毎度のことながら、この数字で何かを語ることの無意味さを示しておきましょう。

・保険料等収入は単にその期に受け取った保険料ということで「売上高」ではない
 (平準払い商品では過去に獲得した契約の保険料が多い)
・貯蓄性の強い商品の影響を強く受ける(特に一時払い商品と団体年金)

この4-6月期は外貨建て保険の販売が増えたのは確かですが、同時に解約返戻金が急増しているのにも注目です。一時払いの外貨建て保険の主要チャネルは金融機関なので、円安・海外金利上昇を受けて「解約による利益確定」「新たな契約の加入」が同じところで行われた可能性があります。「販売が増えた」だけではなく、そこにも触れてほしかったです。

給付金支払いの動向も確認してみました。先日確認した損保系生保(あんしん、MSA、ひまわり)の主力チャネルは代理店です。営業職員チャネルを主力としている生保でも給付金の支払いがかなり増えていて、今のところチャネルによる差は明らかではありません(8/16追記:保有ANP対比でみると営業職員チャネルの「支払率」が高いように見えますね)。少なくとも、昨年度1年間の支払いを大きく上回る入院給付金の支払いが4-6月期だけで生じていることが確認できました。

※くろちゃんの本名は「あそ くろえもん」なのですね。特急あそぼーい!の車内にて。

 

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大手損保の2022年4-6月期の業績

5日に大手損保グループの2022年4-6月期決算発表がありました。

「自動車保険の支払いが増えたので減益」(日経)とあったので、数字を確認してみたところ、確かに発生保険金は増えていますが(損保ジャパンはEIベース損害率から推測)、6月に発生したひょう災の影響が大きかった模様です。通常であれば、自然災害による支払いが多いのは火災保険ですが、この4-6月期に関しては、自動車保険が自然災害による発生保険金の6割を占めました。
ただし、4-6月期は例年損害率が低い傾向にあることを踏まえると、自然災害を除くベースでもそこそこ支払いが多かったと言えるのかもしれません。

コロナ感染拡大の影響もみられます。
グループ各社の生保子会社(あんしん、MSA、ひまわり)では、給付金の支払いが急増しています。MSAとひまわりは給付金支払いがそれぞれ前年同期の1.5倍に増え、あんしんも26%増でした(同社は支払備金の増加が目立ちます)。損保の傷害保険の支払いも増えているようです。
海外事業でも、東京海上グループは台湾政府の政策変更(ゼロコロナからウィズコロナへ)に伴う感染者の急増で、7-9月期に500億円以上の損失を計上すると公表しました。日本でもそうですが、コロナ感染症は保険会社にとって、疾病そのものリスクよりも政策リスクが大きいようです。

※福岡よりも暑かった!(1週間前の写真です)

 

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