このブログでは何度も指摘していますが、生命保険会社の保険料等収入は売上高ではありません。しかし、今回も主要紙は、保険料等収入を生保の売上高として生保決算を報じました。
日経「生保の売上高指標の一つである保険料等収入は主要16社で約37兆6000億円と2割近く増えた」
朝日「外貨建て商品の売れ行きが好調で、扱いの多い第一生命は売上高にあたる保険料等収入で日本生命を抜き、8年ぶりに首位に立った」
読売「生命保険大手4社の2023年3月期連結決算が24日出そろい、売上高にあたる保険料等収入で、第一生命保険が日本生命保険を上回った」
毎日「米国など海外金利の上昇に伴い、外貨建て保険の販売が増えたことから、売上高に当たる保険料等収入は4グループとも増収だった」
(いずれも5月25日の朝刊より引用)
保険料等収入を売上高として決算結果を語るのがなぜダメなのか。
例えば、第一生命(単体)の前期の保険料等収入は約2.2兆円、第一フロンティア生命も約2.2兆円でした。
しかし、第一生命は保険料を月々受け取る契約が大半なので、おそらく2.2兆円のうち2兆円は前期に販売したものではなく、それ以前に獲得した契約からの保険料収入です。
他方、第一フロンティア生命は保険料を契約時に一括して受け取る商品を主に提供する会社なので、2.2兆円はほぼ前期に販売した契約からの保険料収入です。
両者を合計した数値に「売上高」としての意味があるでしょうか。
別の例を示しましょう。
例えば前期に保険金額1000万円の終身保険を一時払いで販売した場合、一時払い保険料が950万円だとしたら、前期の保険料収入は950万円です。
同じく前期の3月に保険金額1000万円の終身保険を月払いで販売した場合、毎月の保険料が15,000円だとしたら、前期の保険料等収入は15,000円です。
つまり、全く同じ保障の生命保険を販売しているのに、一括払いだと保険料収入は950万円、3月に販売した月払いだと15,000円ということになります。これらを合計して何が語れるというのでしょうか。
参考までに私が2022年に保険学雑誌に投稿した論文「保険会社の情報開示とメディアの役割」が公表されましたので、こちらもご覧ください。保険料等収入に関しては148ページ以降で触れています。
保険料等収入に注目するのであれば、前期は保険料等収入を伸ばした会社(おそらく一時払いによる)では、解約返戻金も増えている傾向があるので、その背景を報じてほしいです。おそらく外貨建ての保険に関する動きだと思うのですが、公表資料からははっきりしたことがわからないので、メディアの出番ではないかと思います。
※写真は鹿児島の仙厳園(磯庭園)です