「リスク」と「損失」を分けて考える

インシュアランス生保版(2023年10月号第1集)に寄稿したコラムをご紹介します。
文中に「2026年」とありますが、台湾では2026年にIFRS17号とICS(経済価値ベースのソルベンシー規制)が同時に導入される予定となっています。
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アジア生命保険振興センター(OLIS)が4年ぶりに開催した海外セミナーの講師を務めるため、8月下旬に台湾を訪問した。OLISは1967年から国内外での研修・セミナーなどを通じてアジア諸国の生命保険事業の発展に尽くしてきた財団で、アジアの生命保険会社の経営陣や監督官庁にはOLISセミナーの卒業生が数多く存在する。今回の台湾でも、セミナー後の懇親会には大手生保の経営トップが何人も集まり、保険行政の責任者との意見交換を行うこともできた。こうした人的つながりはOLISの長年にわたる継続的な取り組みの賜物であろう。

さて、懇親会で大手生保のトップどうしが中国語で真剣に意見を交わしていたので、気になってたずねてみると、IFRSとICSへの対応をどうするか、つまり、2026年に予定されている経済価値ベースに基づく新たな会計基準と健全性規制の導入に向けてどう対応するかという話だった。保険行政との意見交換でも、課題として真っ先に上がったのがIFRS・ICSの導入支援だった。
近年、台湾生保の主力商品は外貨建ての貯蓄性商品となっている。とはいえ、既存の保険負債には現地通貨建てが多く、かつ、過去に獲得した高利率契約も残っている。これに対し、台湾でも低金利が長く続き、各社は運用利回りの向上を図るため、外国公社債への投資を進めてきた。この状態のままで経済価値ベースの会計・規制を導入すると、おそらく保険負債が膨らみ、金利などのリスク評価も厳格に行われることから、資本増強が必要となるのかもしれない。

話をしていて気がついたのは、「リスク」と「損失」が混在していることだった。外国公社債への積極的な投資の理由を尋ねると、「逆ザヤとならないように」という答えが返ってくる。だが、低金利下における過去に獲得した高利率の契約は、経済価値ベースで見ればすでに損失が発生している状態であり、もはやリスクではない。そのなかで外国公社債への投資を増やすのは、損失を抱えつつ新たに外国公社債のリスクをとるという行動なので、資本への負荷が一層かかってしまう。現地通貨建ての長期債市場が非常に小さいという事情を踏まえても、損失を損失と認識しなかった結果が、バランスシートの6割前後を外国公社債が占めるという現状につながっているのではないだろうか。

日本の生命保険会社は30年前から主力商品の保障性シフト、短満期シフトを進めてきた。過去に獲得した高利率契約を抱えつつも、内部留保によって支払余力を増やし、超長期債の購入によって金利リスクを減らしてきた。とはいえ、この10年間の外貨建て資産の動向を見ると、いまだに単年度の逆ザヤをリスクとして意識しているようにも見える。果たして「リスク」と「損失」を分けて考えることができているのだろうか。
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※福岡大学でライトアップのイベントがありました。

 

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遅延の頻発

2020年4月から福岡と東京・横浜を月に1、2回は往復する生活を送っていますが、このところ飛行機(ANA)の遅延が目立つようになりました。この半年の遅延状況は以下の通りです。

4月20日(木)福岡⇒羽田22:30着=遅れなし
4月23日(日)羽田⇒福岡11:25着=遅れなし
5月11日(木)福岡⇒羽田21:25着予定が53分遅れ
5月14日(日)羽田⇒福岡16:10着予定が61分遅れ
5月25日(木)福岡⇒羽田21:25着予定が23分遅れ
5月28日(日)羽田⇒福岡11:30着=遅れなし
6月 8日(木)福岡⇒羽田21:25着=遅れなし
6月11日(日)羽田⇒福岡11:30着=遅れなし
6月22日(木)福岡⇒羽田21:25着=遅れなし
6月23日(金)羽田⇒福岡16:50着=遅れなし
7月13日(木)福岡⇒羽田21:25着予定が23分遅れ
7月17日(月)羽田⇒福岡11:25着=遅れなし
7月26日(水)福岡⇒羽田11:20着=遅れなし
7月27日(木)羽田⇒福岡16:05着予定が欠航
(天候不良のため羽田に引き返し)
8月12日(土)福岡⇒羽田11:20着=遅れなし
8月23日(水)羽田⇒福岡11:25着予定が17分遅れ
8月25日(金)福岡⇒中部17:20着予定が欠航
(飛行機の手配がつかないため)
9月19日(火)福岡⇒羽田20:15着予定が56分遅れ
9月20日(水)羽田⇒福岡20:50着予定が38分遅れ
10月 5日(木)福岡⇒羽田21:00着予定が27分遅れ

ここで言う「遅延」とは15分を超えて到着が遅れたことを指しています。
遅延の理由は全て「使用機到着遅れのため」でした。特に福岡を夜に出発する羽田便の遅延が目立ちます。
新型コロナ感染症が5月から5類感染症となり、人の移動が活発になったためなのだと思いつつ、羽田-札幌便と並んで旅客数がトップクラスの羽田-福岡便がこの状況というのは、寂しいかぎりです。コロナ前も夜の便はこれほど遅延が頻発していたのでしょうか。
ANAは2022年の定時到着率(国内線&国際線)が2年連続で世界一なのだそうですけどね。

データを探すと、国土交通省が航空輸送サービスに係る情報公開のなかで、航空会社ごとの「定時運航率」データを公表していました。定時運航とは到着ベースではなく、出発予定時間の15分以内に出発できたかどうかで、四半期ごとのデータです(最新は2023年1-3月)。

過去10年の定時運航率データを確認すると、10年前には95%程度だったものが、コロナ直前には90%を下回る水準まで悪化していました。その後コロナ禍で定時運航率が一時的に改善したものの、旅客数の回復とともに再び悪化し、コロナ前の水準に近付いています。ちなみにANAの定時運航率が悪化した時期の輸送人員に大きな変化はありませんでした。

つまり、最近の遅延頻発はコロナ後の旅行客の増加に対応できていないというだけではなく、2010年代後半以降のオペレーションに何か問題があるのかもしれません。
もっとも、JALも同じような傾向なので、航空会社だけの問題ではない可能性もありますね。

 

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損保の価格調整問題

大手損害保険会社が企業向け保険で保険料の事前調整を行っていたという問題について、9月29日のBloomberg記事「損保4社が報告書提出、調整行為の範囲など金融庁が実態解明へ」に私のコメントが載りました。

<以下引用>
福岡大学の植村信保教授は、報告書の提出を受けて調査が進めば「個社の問題ではなく、業界の問題ということが明らかになるだろう」と期待する。損保の担当者に「法令違反をしているという意識はなく、取引慣行として長年行われていた可能性がある」とみており、「経営陣が何も知らなかったということはないのではないか」と指摘。保険市場を「より透明性の高い環境に変えていくべきだ」と話す。
<引用終わり>

実のところ、取材では損害保険業界の問題だけではなく、顧客である大企業についても辛口のコメントを出しています。
というのも、ビッグモーター問題とは違い、こちらの保険契約者は企業のリスクマネジメントの一環として保険を活用してきた、いわばプロであるべき契約者だからです。なかでも、より高いガバナンス水準が求められる東証プライム市場に上場するような会社であれば、保険のことは企業内の系列代理店(実質的には特定の保険会社とその出向者?)に任せっきりというのは本来許されることではありませんし、特定の保険会社と優先的に取引してきたのであれば、その理由を株主などに合理的に説明できなければなりません。

価格調整が取引慣行として長年行われてきたのは保険会社の都合だけなのでしょうか。企業代理店が価格調整の存在をある程度知っていたケースも多いのではないかと思いますし、そうだとすると、企業サイドも好都合と考えていたのではないでしょうか。
あるいは、企業サイドが価格調整の存在を全く知らなかったとしても、料率の本格的な引き上げ局面になるまで問題が発覚しなかったのは、保険をリスクマネジメントの手段というよりは、単なるコストの一項目くらいにとらえてきたということなのでしょう。

例えば再保険市場で料率が大きく上がっても、大手損保は長年の取引関係を考慮し、元受保険料に全面的に転嫁するような対応をしてきませんでした。寡占市場といっても、例えばブローカーを使って外資系などこれまで取引のない保険会社から保険を手配することは可能でしたが、そのような動きは一部を除き、聞いたことがありません(おそらく外資系のほうが総じて料率が高いのではないかと思いますが…)。

もっとも、保険を手配するコストを抑えることができていたとしても、その代償として、企業に保険に通じた人材が育たず、総務部や人事部を窓口にして、工場や建物に財物保険をかけておしまい、といったことになっている企業が多いのではないでしょうか(統計などがないので断定はできませんが)。

保険会社の事前価格調整は許されるものではありませんが、大企業のリスクマネジメント意識の低さが、今回の問題の背景にあると私は考えています。

※日本金融学会の秋季大会が九州大学で開催されました。

 

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出国日本人数の伸び悩み

日本政府観光局の統計によると、インバウンドの回復が鮮明となっています。8月に日本を訪れた外国人旅行者は3か月連続で200万人を超え、コロナ前の2019年8月と比べて86%の水準まで回復しました。
福岡はやはり韓国からの観光客が多いようですね。たまに博多駅や天神の繁華街に行くと、ハングルの会話を耳にすることが本当に多いです。中国語もよく耳にしますが、台湾や香港の皆さんでしょうか。

他方で海外に行く日本人の数は、回復途上にあるとはいえ、2019年の5、6割にとどまっています。年代別データを確認できていないのですが、シニア層が海外旅行に依然として慎重なのと、ビジネス出張がオンラインに置き換わっていることなどが考えられます。

ただ、コロナ禍でオンライン会議などを経験して、改めてリアルの価値を再認識した人も多いのではないでしょうか。もちろん福岡を拠点にしながら東京とつながったり、取材を受けたりと、私はかなり恩恵を受けているのですが、オンラインだとどうしても情報が限られてしまいますし、新たな出会いや発見は難しいように思います。
それに海外に行かなければ円安を実感することも少ないでしょうし、日本の存在感を意識することもないでしょう。海外旅行は日本での暮らしを客観的に見ることのできるいい機会ですので、皆さん、機会を見つけて国の外に出たほうがいいと思いますよ。

※写真は韓国の市場での一コマです。

 

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サムスン生命のIR資料より

先週訪問した韓国では、今年(2023年1月)から保険会社の会計基準とソルベンシー規制が変わりました。
ソルベンシー規制は、日本のソルベンシー・マージン比率のようなRBC規制から、経済価値ベースのK-ICS(キックスと呼ぶようです)に移行し、会計基準はIFRS4号から17号になりました(より正確にはIFRS9号と17号の組み合わせ)。
日本の経済価値ベースのソルベンシー規制導入は2025年ですし、会計基準は現行のままです。台湾でもIFRS17号と新たなソルベンシー規制を導入するのは2026年となっていますので、東アジアでは韓国が先行したことになります。
もっとも、K-ICSのほうは申請すれば最長10年の移行期間が認められるそうなので、業界全体としてどれだけの会社がIFRS17号とK-ICSの世界に移行したのかは未確認です。

最大手サムスン生命のIR資料を見ると、同社は移行期間を申請せず、会計基準はIFRS17号、ソルベンシー規制はK-ICSのもとで経営管理を行っていることがわかります。

決算結果の概要(Earnings Results)を見ると、2022年までの同社は新契約年換算保険料と純利益、保険引受利益、資産運用利回り(定義は未確認)、RBC比率などを主要指標として示していました。それが2023年上半期では、新契約のCSM(契約サービスマージン)をはじめCSMの動向、保険サービス利益の内訳、資産運用利益の内訳、K-ICS比率などと、主要な指標が大きく変わりました。
とりわけCSMを経営の重要指標としているところが目を引きます。アクサやアリアンツなど欧州大手保険グループの生保事業でも今年から同様の開示が見られるので、グローバル投資家にとっては格段に比較しやすくなったと思います。

こうなってくると、今後の日本勢の動きが気になりますね。

※写真は柳川ひまわり園です。

 

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なぜ外貨建保険なのか

今週の保険代理店向けメールマガジンInswatch Vol.1200(2023.9.11)に寄稿したものを本ブログでもご紹介いたします。通算1200号なのですね。
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外貨建保険の販売管理態勢

8月29日に金融庁が公表した「2023事務年度 金融行政方針」のコラムに「顧客本位の業務運営に関する販売会社の取組状況」がありました。これは金融庁が6月末に公表した「リスク性金融商品の販売会社による顧客本位の業務運営のモニタリング結果」のうち、販売会社の主な課題を整理したものです。
このうち、外貨建一時払い保険の販売管理態勢の課題がうまくまとまっていたのでご紹介します(コラムの40ページより引用)。

<運用が目的>
・リスク・リターン・コスト等に関し、他金融商品との比較説明を未実施

<保障が目的>
・目標到達型保険で、目標到達後に保険を解約させて保障期間を断絶

<相続が目的>
・非課税枠を大きく超える保険金等の額を契約時に設定

そもそもですが、顧客にとって外貨による資産運用が目的なのであれば、まずは保険ではなく、外貨預金や外貨建て投信などが挙がるでしょう。保障を得ることが目的であれば、あえて為替リスクを顧客に抱えさせる必要があるとは思えません。相続が目的の場合も、解約してしまえば目的を達成できませんし、やはり外貨である必然性もありません。
そう考えると、顧客にとって外貨建一時払い保険でなければならない理由は見当たらず、そもそも販売管理態勢の問題ではないのかもしれません。

「外貨建て」「変額」であるべき理由を説明できるか

金融庁「リスク性金融商品の販売会社における顧客本位の業務運営のモニタリング結果」には、リスク性金融商品(投資信託、ファンドラップ、仕組債、外貨建一時払い保険)の販売の現状が載っています。対象となる金融機関は主要行等、地域銀行、証券会社等です。
保険のところを見ると、主要行等も地域銀行も継続的に一時払い保険を販売してきたにもかかわらず、主要行等の一時払い保険の預かり資産残高はほぼ横ばい、地域銀行も微増にとどまっています(7月28日配信のプロフェッショナルレポートを参照)。
運用目的だとしても、預かり資産残高が伸びていないというのは、銀行による投資信託の販売と同じ問題を抱えている、すなわち、販売会社の都合で販売や解約が行われているのではないかと疑わざるを得ません。

この問題は銀行窓販に限った話ではないと思います。近年、銀行以外のチャネルでも外貨建てや変額タイプの生命保険の取り扱いが増えていると耳にします。超長期の保障を得るにあたり、円金利の水準が依然として低い、あるいは、将来のインフレによる保険金の目減りが心配(変額タイプであればインフレヘッジになりうる)といった理由から、一定の顧客ニーズがあるのは理解できます。
ただ、チャネルとして一般の顧客に積極的に勧める商品かと言われると、私には疑問が残ります。多くの顧客が理解し、納得するような説明をするのはそう簡単ではないので、つまるところ金融リテラシーの低い顧客をターゲットにしたビジネスに陥りがちだからです。
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※写真は韓国・仁川の旧市街です。

 

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台湾で講師を務めました

アジア生命保険振興センター(OLIS)が4年ぶりに開催した海外セミナーの講師を務めるため、8月下旬に台湾を訪問しました。
OLISは私が生まれた1967年から国内外での保険セミナーなどを通じてアジア諸国の生命保険事業の発展に尽くしてきた財団です。台湾をはじめ、各国の生命保険会社の経営陣や監督官庁にはOLISセミナーの卒業生が数多くいます。今回の台湾でも、セミナー後の懇親会には大手生保の経営トップが何人も集まりました。翌日には保険行政の責任者との意見交換を行ったのですが、彼女もOLIS東京セミナーの卒業生でした。こうした人的つながりはOLISの長年にわたる継続的な取り組みの賜物であり、日本の貴重な財産ではないかと思います。

セミナーの演題は「日本の生命保険業の最近の動向」ということで、午前中に日本の生命保険市場の動向として「主力商品の変化」「歴史的低金利の影響」「新型コロナ感染症への対応」を、午後に保険規制の動向と生命保険業界の対応として「これまでの経緯」「ソルベンシー規制の見直し」をお話ししました。

台湾では海外金利の上昇で外貨建て保険の人気が高まっており、利率の低い台湾元建て保険を解約して外貨建て保険に乗り換える動きが目立つそうで、「解約⇒新規」という動きは日本の銀行窓販と似ています。
また、台湾では2026年からIFRS17号(=保険契約の国際会計基準)とICS(=経済価値ベースのソルベンシー規制)が同時に入るとのことで、日本の規制動向にも非常に関心があった模様です。午後の質疑応答は30分以上に及びました。

翌日の保険行政との意見交換では、3月下旬に調査したコロナ保険について、資本不足に陥った台湾損保のその後を聞いてみました。すると、現在のソルベンシー規制(RBC基準)を6月末に確保できなかった会社が1社あったものの、増資のめどがついていたので大丈夫だったそうです。コロナ保険の支払いも終わり、問題は概ね収束したとのこと。
ただし、別のところで、「台湾では金融持株会社グループとして生保、損保、銀行を兼営しているところが多いので、本来はIFRS・ICS対応として増資が必要なところを、コロナ保険の後始末に費やしてしまった」という声も耳にしました。

保険市場の違いを踏まえる必要はありますが、経済価値ベースの枠組みが各国でどう捉えられていて、どのような影響が出ているのか、日本にとってもいろいろと参考になることが多いです。

※台風が南にそれてラッキーでした。

 

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損害保険会社と代理店

ご承知のとおり、日本では損害保険の約9割を代理店が販売しています。8/8のブログ「損害保険代理店統計」でお示ししたように、代理店には保険販売を本業とする代理店と、自動車ディーラーや整備工場のように、他に本業があって副業として保険販売をしている代理店があります。また、多くの大企業は系列の代理店(企業代理店)を設立し、その代理店を通して保険を購入しています。
保険販売を本業とする代理店(プロ代理店)には、保険ショップのように複数の保険会社の商品を扱う乗合代理店もありますが、損害保険では特定の損害保険会社に専属またはそれに準じた代理店が主力となっている模様です。

この週末にプロ代理店の勉強会に参加して、改めて保険会社の対応や取引慣行がチャネルによって大きく異なることを確認しました。勉強会の内容はオフレコなので、以下の記述はあくまで私のコメントです。

ビッグモーター事件では、保険会社が自動車関連の代理店に対し、保険金の不正請求を見逃したかどうかはともかく、顧客紹介をはじめ様々な支援を行っていることが明らかになりました。企業代理店に対しても、各保険会社がシェアを維持・拡大するために人材を派遣したり、その企業が取り扱う商品の販売をサポートしたりしています。

他方でプロ代理店のうち、専属またはそれに準じた代理店と保険会社の関係は、自動車関連の代理店や企業代理店とは全く違っているうえ、保険会社の方針が数年ごとに変わるので、代理店の経営者が振り回されている印象です。
そもそもプロ代理店は保険会社に所属する募集人ではなく、独立した保険販売会社です。少なくとも意識ある代理店のトップは自らの経営をどうしていくか真剣に考えています。しかし、保険会社は代理店をそのように扱っているのでしょうか。例えばプロ代理店が自らの経営判断として「自動車保険(特にノンフリート)には注力しない」「顧客層を絞るため若手従業員を主体に運営する」などを実行すると、代理店手数料ポイントが下がるそうです。保険会社は手数料ポイントをどのプロ代理店にも一律に当てはめてくるからです。

ビッグモーター事件やカルテル問題が今後どのような展開になるかわかりませんが、保険会社は専業・副業にかかわらず、チャネル戦略を全体としてどのようにしたいのかをきちんと考え、外部に示す必要があると思います。

※写真は岐阜・金華山です。

 

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イタリア生保の経営危機

ニッセイ基礎研究所の中村亮一さんによる8月9日のレポート「金利の急激な上昇やインフレが保険会社の解約率等に与える影響-欧州の保険監督当局等による報告書からの流動性リスク分析結果-」を拝読して、金利上昇局面でイタリアの生命保険会社ユーロヴィータ(Eurovita)が経営危機に陥り、監督当局が同社を特別管理下に置いたということを知りました。

レポートによると、「Eurovitaは、すでに脆弱だった財務基盤が、2022 年の金利上昇等の市場の動きに伴って、さらに悪化し、資本増強が求められていたが、Cinvenが十分な資金を注入することが出来ず、業界によって救済されることになった」ということです。
Cinvenとは英国のPE(プライベートエクイティ)会社で、2016年にミュンヘン再保険グループの保険会社ERGOのイタリア事業を買収し、その後も買収により規模を拡大させていました。

生命保険会社の経営にとって金利上昇はプラスに働くことが多いはず。Eurovitaはなぜ経営危機に陥ってしまったのでしょうか。

日本とは違い、イタリアの生命保険市場では、主力商品が一時払いの貯蓄性商品(定額タイプ、期間10年以内)となっています。また、主力の販売チャネルが銀行や金融系アドバイザーというのも特徴です。近年は変額タイプの商品も一定のシェアを占め、保障性商品の提供に力を入れる会社もあったようですが、報道によると、Eurovitaは伝統的な定額タイプの貯蓄性商品の提供に集中し、マイナス金利時代に新たな株主(Civen)のもとで急速に成長した会社のようです。

2021年まではイタリアの10年国債利回りは概ね1%を下回っていました。しかし、2022年には利回りが4%台まで上昇し、保有資産(公社債)の価格が急激に下がりました。そこでEurovitaが直面したのが解約の増加です。もともと預金よりも有利ということで契約を獲得していたとみられ、金利上昇を受けて解約が増え、含み損を抱えた資産を売却せざるを得なくなった模様です。
解約ペナルティや保険商品に有利な税制の存在などが制約にならなかったのか、よくわからないところもあるのですが、金利上昇時の解約リスクを軽視していたと言うべきなのでしょう。

もっとも、Eurovitaは金利水準がまだ低かった2021年末の時点で、すでに規制が求める資本の水準が十分ではなく、監督当局(IVASS)が介入していたと報じられています。もともと財務基盤がぜい弱なところに金利上昇に伴う資金流出が生じ、株主からの十分な支援も得られず、経営危機に陥りました。
したがって、Eurovitaはかなり特異な事例であって、イタリアの生命保険会社が連鎖的に経営危機に陥るような状況ではなさそうです。とはいえ、中村レポートの次の記述は目を引きました。

「IVASSの報告書によれば、保険料収入に対する解約返戻金の割合は2022年3月の53%と比較して、2023年3 月には平均85%に達しており、特に2023年に入ってからの3か月で急激に上昇している。また、これを販売チャネル別に見た場合、(保険料収入による影響もあるが)銀行・金融アドバイザー・ブローカーを通じて販売された保険契約の数値は、保険代理店・郵便局チャネル等を通じて販売された保険契約の数値の2倍以上になっており、顕著な差異が見られている」

元の図表(PDF、36ページ)も確認しましたが、おそらく販売チャネルによって商品も加入目的も違うので、解約状況に大きな差が出たのでしょう。同じ保険事業でも、ビジネスモデルによって経営リスクが異なることがよく理解できます。

※夏はかき氷ですね!サイズが昨年より小さくなった気もしますが…

 

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主要生保の資産運用動向

2023年4-6月期決算が公表されたので、主要生保8社(日本、第一、住友、明治安田、朝日、太陽、大同、富国)の資産構成の変化をざっと確認してみました。

まずは国内公社債です。8月10日の日経「生命保険各社、国債買いに動く」(会員限定)は、タイトルとは裏腹に、4-6月の超長期国債の買い越し額が直近5年で最低水準だったというものでした。決算資料の責任準備金対応債券(取得原価ベース)を見ると、全体として買い控えという傾向はみられず、ただ、日本生命だけは残高が横ばいという状況でした。

脱線ですが、記事の中に「株高で今年度の運用が順調に進んでいるため『現金で持っていても、それほど焦る状況ではない』(大手生保の運用担当者)」という記述が気になりました。売却して実現益を出せば、今年度の目標を達成できるということなのでしょうか。

次に、外国公社債はどうでしょうか。こちらは昨年度末に続いて残高を減らした会社(第一、朝日、太陽、大同、富国)と、一転して残高を増やした会社(日本、住友、明治安田)がありました。4-6月期決算なので詳細はよくわかりませんが、ヘッジコストが高止まりしているなかで、判断が分かれたようです。

※西九州新幹線に乗りました。

 

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