08. ディスクロージャー

保険経営の報道は難しいのか?

今週の日経新聞による保険会社に関する報道です。

グループ内再保険

再保険で損益変動抑制 第一生命HDが新会社 ※有料会員限定」(1月7日)

第一生命グループがバミューダに再保険会社を設立するという記事です。「金利の上下に伴う損益変動リスクの抑制に乗り出す」「グループ内で、保険に対して保険をかける『再保険』の引き受けを近く始める。再保険の仕組みを使って損益への影響を和らげる」という説明があるのですが、グループ内でリスクをやり取りしても、実質的な損益変動の抑制にはならないのではないかと疑問に思いますよね。

グループ内に再保険会社を設立するという話は、実のところ昨年11月の機関投資家・アナリスト向け決算・経営説明会で示されていて、質疑応答(PDF)のなかで、グループ内に再保険会社を設立するメリットの説明がありました。
ですから、記事のような不思議な説明にはならないはずなのですが、記者さん自身の問題なのか、あるいは取材に応じた広報部門がうまく伝えなかったということなのでしょうか。

火災保険の損益

火災保険 赤字2000億円超 ※有料会員限定」(1月8日)

大手損保4社の2021年3月期の火災保険の損益が、自然災害の被害が比較的少なかったにもかかわらず、2000億円を超える赤字となる見通しで、収益性の改善が急務となっているという記事です。

火災保険の収支が厳しいというのはその通りです。記事が示すように再保険料の上昇は大きく、4-9月期の出再保険料(火災)は4社合計で前年同期よりも400億円以上増えています。各社とも元受保険料に再保険の上昇分をどれだけ反映できるかが課題となっています。

ただ、火災保険の損益として保険引受利益をそのまま使って説明するというのは、さすがにミスリードではないでしょうか。保険引受利益は「保険料収入から保険金の支払額とかかった事業費を差し引いた」(記事より引用)ものではなく、保険引受収益から保険引受費用と保険引受に係る営業費および一般管理費などを差し引いたもので、保険料と保険金&事業費を比べた指標(コンバインドレシオなど)ではありません。
特に大きな違いは、保険引受利益は異常危険準備金の増減と、長期火災保険や地震保険などの責任準備金の増減によって大きく左右されるということです。

記事には過去の保険引受利益の推移が図表で示され、「火災保険の損益は11年連続赤字」とあります。しかし、この図表を見て、いくら再保険料が増えたとはいえ、今年度の赤字が、過去最大の保険金を支払った2018年度に匹敵する赤字になるというのを不思議に思わなかったのでしょうか。これは、2018年度には多額の異常危険準備金の取り崩しがあったため、保険引受利益がかさ上げされているのに対し、今年度は異常危険準備金が積み増し(=保険引受利益のマイナス要因)となるからです。
念のため過去の火災保険のコンバインドレシオを確認すると、赤字の年度が多いのは同じですが、2015年度は1社を除き黒字(コンバインドレシオが100%未満)でした。同じ年度の保険引受利益が1000億円を超える赤字となったのは、異常危険準備金の積み増しと、期間短縮前のかけ込みで長期火災保険の責任準備金が急増したことが主な要因とみられます。
保険引受利益を使ったのは記者さんの判断なのか、あるいは、どこかの保険会社の広報部門があえてこの数値を提供したのでしょうか。

マスメディアの役割は大きい

私はマスメディア(特に日経)を目の敵にしているのではなく、むしろその逆で、保険マーケットにとってマスメディアの役割は非常に重要だと考えています。
保険会社が提供する商品・サービスは保険会社の経営内容にも左右されるため、保険会社は事業会社とは違い、投資家だけでなく、契約者(消費者)に対しても経営情報を伝える必要があります。他方で契約者(消費者)が保険会社の経営情報を普段から積極的に集めるというのは現実的ではなく、結局のところマスメディアに頼ることが多いはず。ですから、経営情報の仲介者であるマスメディアの役割がより高まる方向に持っていきたいのですが、どうしたらいいのでしょうね。

 

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株式の保有状況

9月末に生命保険会社のディスクロージャー誌がようやく出そろいました。
新たな開示はないかと探してみると、日本生命が「株式の保有状況」を初めて開示していました。
日本生命のサイトへ

参考までに他の相互会社では、明治安田生命は以前から開示があり、住友生命や朝日生命、富国生命は非開示のようです
(住友生命はかつてどこかで見たような気もするのですが…)。

「株式の保有状況」は有価証券報告書への記載を求められている項目で、上場株式会社ではない日本生命や明治安田生命は任意の情報開示となります。

各社の概要は次のとおりです。

【日本生命】
・純投資目的以外の上場株式 14銘柄、4,629億円
・純投資目的の上場株式 1,503銘柄、7兆1,536億円

【第一生命】
・純投資目的以外の上場株式 3銘柄、861億円(みなし保有株式を含む)
・純投資目的の上場株式 2,666銘柄、3兆0,473億円

【明治安田生命】
・純投資目的以外の上場株式 1銘柄、462億円
・純投資目的の上場株式 -、3兆3,718億円

【太陽生命】
・純投資目的以外の上場株式 35銘柄、2,014億円
・純投資目的の上場株式 19銘柄、1,337億円

【大同生命】
・純投資目的以外の上場株式 72銘柄、2,070億円
・純投資目的の上場株式 75銘柄、549億円

T&Dグループと他の会社で政策保有株式についての考えかたが違っているようですね。
ちなみに3メガ損保グループは保有株式の大半を純投資目的以外としています。
各社の純投資目的の上場株式は、三井住友海上が2銘柄、あとは0となっています。

※西鉄電車でランチの旅を楽しんできました。

 

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独自の利益指標

9月20日の日経新聞に「増える独自の利益指標(リンクは有料会員限定)」という記事が載りました。IFRSを採用する企業で「事業利益」「コア営業利益」といった独自の利益指標を開示する企業が増えているというレポートで、武田や三菱ケミカル、アサヒグループなどの事例を紹介しています。
ただ、「比較しにくい難点も」「市場関係者からは懸念の声が上がっている(経営者にとって都合の良いものができる、など)」「IFRSを策定するIASBも企業間で指標を比較しにくいのは問題だとして、対策に乗り出した」など、なんだか否定的なトーンなのが気になりました。

記事をよく読むと、「会計原則に基づかない独自指標を開示する会社が増えている」という話と、「IFRSでは損益計算書のフォーマットを細かく規定していない(原則主義なので)」という話がごっちゃになっているのですね
(全体として「細則主義の日本基準がいい」と主張しているようにも読めます)。

独自指標の開示について、市場関係者は本当に懸念しているのでしょうか。
会計上の指標では事業特性をうまく説明できないということは、IFRSでも日本基準でもよくある話です。身近なところでは損保の「グループ修正利益」がありますね(6月のブログで取り上げています)。
投資家が知りたいのは期間損益そのものではなく、企業価値を評価するうえでの手掛かりです。記事中のコメントにあるように「会社によっては利益を良く見せたいとのインセンティブが働くので見極める必要がある」というのはそのとおりですが、会計ベースの指標しか信じられないということはないと思います。

後者の「原則主義と細則主義のどちらがいいか」という話については、確かに原則主義のIFRSでは企業の裁量に委ねられるところがあるため、開示にばらつきが出るのはデメリットと言えるのかもしれません。しかし、細則主義はルールが詳細に決まっているからこそ、形式さえ整えればいいという発想になり、かえって本当の姿を示さなくなるという欠点があることを忘れてはならないと思います。

※バンコク高架鉄道の優先席です。イラストがかわいいですね。

 

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情報開示が変わる

記述情報(非財務情報)の開示

成長戦略の一環として政府が進めてきたコーポレート・ガバナンス改革ですが、ここにきて情報開示についても進展が見られます。

昨年6月の金融審議会「ディスクロージャーWG報告」を受けて、1月末に「企業内容等の開示に関する内閣府令」が改正され、上場会社に対し、財務情報とともに記述情報(非財務情報)の充実を求めることになりました。
さらに、記述情報の開示についての考え方をまとめたガイダンスとして、金融庁は記述情報の開示に関する原則(案)を公表しています。

「非財務情報」ではなく「記述情報(非財務情報)」としたのは、「財務情報」のほうを貸借対照表や損益計算書といった金商法の「財務計算に関する書類」で提供される情報に限定し、それ以外の開示情報を対象と整理したためかもしれません。
この定義だと、記述情報は財務情報とは別のものではなく、財務情報を補完するものであることがより明確になります。

リスクの羅列ではダメ

記述情報のうち、「事業等のリスク」について確認してみましょう。
このリスク情報は2003年3月期から有価証券報告書に記載されてきました。ただ、WG報告にもあるように、考えられるリスクの羅列となっている記載が多く、それぞれのリスクの重要性や、それらを経営陣がどう捉えているのかは、外部からは全くわかりませんでした。

東京海上HDの事例
SOMPO HDの事例
第一生命HDの事例

これに対し、改正府令が求める開示は、「主要なリスクについて、顕在化する可能性の程度や時期、対応策を記載するなど、具体的に記載すること」「リスクの重要度や、経営方針・経営戦略等との関連性を踏まえ、わかりやすく記載すること」です。
また、「記述情報の開示に関する原則(案)」には望ましい取り組みとして、「取締役会や経営会議において、そのリスクが企業の将来の経営成績等に与える影響の程度や発生の蓋然性に応じて、それぞれのリスクの重要性をどのように判断しているかについて、投資家が理解できるような説明をすることが期待される」などとあります。

非上場の保険会社も検討を

WG報告書には、「一部の我が国企業においては、そもそも経営戦略・財務状況・リスク等について十分に議論されていないとの指摘もなされている」と書かれています。
経営で十分に議論していなければ、開示ができないのは当たり前です。保険会社ではいかがでしょうか。

一連のガバナンス改革の対象となるのは上場会社なので、相互会社をはじめ、非上場の保険会社には適用されません。
しかし、保険会社は投資家として、上場会社に情報開示の充実を求める立場でもあります。
少なくともコーポレートガバナンス・コードに任意に対応している会社であれば、今回の開示情報の充実に対しても、ステークホルダーに自社への理解を深めてもらうべく、積極的に取り組んでいくべきではないでしょうか。

※写真はのと鉄道で保存している鉄道郵便車です

 

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企業の情報開示

企業情報の開示や提供のあり方について検討してきた金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループの報告書が公表されました。

政策保有株式の追加開示に注目

コーポレートガバナンス・コードとは違い、こちらは規制そのものに直結する話です。
例えば役員報酬については、経営陣の報酬内容・体系と中長期的な企業価値向上が結びついているかどうかという観点から開示の見直しが進められそうですし、政策保有株式に関しては、開示対象の拡大や買い増し理由の記載、純投資と政策投資の違いの説明などが求められるようになりそうです。

他方で、経営戦略・ビジネスモデル、MD&A、リスク情報などの開示に関しては、昨年12月の事務局説明資料で示された「日本の現状」に対し、WGの回答は「開示内容について具体的に定めるルールを整備するとともに、ルールへの形式的な対応にとどまらない開示の充実に向けた企業の取組みを促すため、開示内容や開示への取組み方についての実務上のベストプラクティス等から導き出される望ましい開示の考え方・内容・取り組み方をまとめたプリンシプルベースのガイダンスを策定すべきである」といった指摘にとどまりました。
何かに的を絞った議論でないと、こうしたWGでは話が先に進まないのかもしれません。

「超同質集団」

ところで、最近話題になった日経記事「変わる経団連、変われぬ経団連」「経団連、この恐るべき同質集団(有料会員向け)」も、企業のディスクロージャーを活用したものですね。
正副会長19人が全員男性・日本人で転職経験がなく、1人を除き首都圏の大学出身で、最も若い人で62歳という超同質集団が、雇用制度改革や人事制度改革などに本気で取り組めるのかといった内容で、書いたご本人も年齢以外はこの集団と同質だったというオチもありました。

経済メディアには、日本経済が衰退すると新聞等が売れなくなり、広告も得にくくなるということで、もしかしたら広い意味で日本企業の中長期的な価値拡大を促す動機があるのかもしれません。また、ディスクロージャーが進むなかで、経済メディアがうまく活用してくれると、資本市場にとってもプラスの効果が期待できるでしょう。
話題の記事も、多様性を説く経団連のトップの実情を示すいい記事だったと思います。

経済メディアのあり方は

ただし、明日発表される予定の決算数値を今朝の新聞に載せることは、かつての価値観では特ダネとして称賛されたのかもしれませんが、考えてみれば、1日早く決算データの一部を世の中に示すことにどのような価値があるのでしょうか。
多くの人にとって迷惑なだけだと思いますし、仮に株価が動いたとして、喜ぶのは短期的スタンスの投資家であって、中長期的な投資家には余計な仕事が増える(かもしれない)だけです。ここを改めないと、経済メディアが政府から規制される日も近いかもしれません。

※先週の写真ですが、乗り物(?)2題。

 

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コンプライでもエクスプレインを

生損保決算は分析途上ということで、別の話を。

大学のガバナンス不在が取り沙汰されていますが、日本企業のコーポレートガバナンス改革もまだまだ道半ばという印象です。コーポレートガバナンス・コードの改訂(もうすぐ公表されると思われます)や、経産省CGS研究会(第2期)が5/18に発表した「第2期中間整理-実効的なコーポレートガバナンスの実現に向けた今後の検討課題」など、新たな取り組みや課題整理が次々に出てくるのも、形は整えても魂が込められていないという現状があるのでしょう。

コーポレートガバナンス・コードは法令ではなく、上場企業に求められる行動規範であり、それぞれの原則を実施(コンプライ)してもいいし、実施しないのであれば、その理由を説明(エクスプレイン)すればいい、というものです(コンプライ・オア・エクスプレイン)。
ところが、東証が集計したコーポレートガバナンス・コードへの対応状況(2017年7月時点)を見ると、一部の原則を除いて圧倒的に「コンプライ」が多くなっています。

しかし、例えば先日のブログ「いつまで『社長が社長を選ぶ』なのか」で紹介したような、98%のコンプライにもかかわらず、確認してみると実態は違っているということが、徐々に見え始めています。

公表内容のボイラープレート化(=ひな型的で具体性を欠く記述)も目立ちます。先週末に参加した日本ディスクロージャー研究学会の大会では、業種の異なる3社の役員報酬に関するディスクロージャーが、全く同じ文言となっているケースが紹介されていました。おそらく外部の専門家によるひな型をそのまま使っているのでしょう。

コーポレートガバナンス・コードの「コンプライ・オア・エクスプレイン」は、実施すればいいというものではなく、自らのコーポレートガバナンスを確認し、ステークホルダーに理解してもらうためのものだと思うのですね。
それなのに、コンプライしているという事実と、紋切り型の記述(それも開示項目のみ)しか出さないとなると、外部からは評価のしようがありませんし、内部規律も働かないでしょう。コンプライでもエクスプレインが必要なのです。
(その意味で、上場保険会社のERM関連情報の開示は参考になると思います)。

非財務情報の開示には、引き続き課題がたくさんありますね。

※写真は横浜市大です。横須賀のワインを初めて飲みました。

 

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非財務情報を巡る勘違い

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日経夕刊の十字路というコラムに載った
「非財務情報を巡る勘違い」を興味深く
読みました(17日)。
首都大学東京の松田千恵子先生による
ものです。
日経のサイトへ(有料版)

内容はタイトルの通りで、非財務情報として
開示が求められているのは、企業の将来に
向けた方針であり、どのように企業価値向上
を果たすかが重要なのに、そうなっていない
というものです。

「勘違いした統合報告書には、無味乾燥な数値実績と、きれいごとっぽい慈善活動だけが脈絡なく並んでいる。(中略) これでは投資家ならずとも、利害関係者としてその企業が将来をどう考えているのか判断しようがない」

何とも痛切なコメントですが、実のところ私も
似たように感じることがあります
(数値実績を無味乾燥とは思いませんが…)。

特に、近年ESG(環境・社会・ガバナンス)情報
が注目されているためか、非財務情報というと
環境保護や社会貢献関連の情報が目立つなど、
財務情報とは別の情報として捉えられやすい
のかもしれません。

日本IR協議会による実態調査などを見ると、
企業が「勘違い」しているのではなさそうですが、
非財務情報をどのように開示し、理解してもらうか
悩んでいる状況がうかがえます。

そこで思い当たるのが、上場保険会社による
「ERM関連情報の開示」の積極的な開示です。

ERM関連情報なので、リスクテイクの方針など、
経営の考え方を提示するのが一般的ですし、
こうした非財務情報を補うため、内部で活用する
独自の指標やそのターゲット水準、感応度分析
といった財務情報も公表しています。

つまり、経営がどのように企業価値の持続的な
拡大を目指そうとしているかを、非財務情報と
財務情報を結び付けて説明しているのですね。

もちろん、利用者としてまだまだ思うところは
ありますが、保険業界のこうした取り組みは
非財務情報の開示に悩む他業界にとっても
参考になるのではないでしょうか。

なお、関連する日本公認会計士協会の報告書
を見つけましたので、リンクしておきます。
日本公認会計士協会のサイトへ

※高校のOB会で再び横浜の崎陽軒本店へ。
 旧制中学の卒業生もお二人いらっしゃいました。

 

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執務室の施錠と情報公開

 

経済産業省が情報管理を徹底するため、
2月27日から全ての執務室を施錠したところ、
報道機関から猛反発を受けているようです。

「密室化は不信を招く」(朝日)
「異常な情報管制の発想」(毎日)
「世耕氏には記者が『敵』なのか」(読売)

各紙の社説の見出しです。
最初に「執務室の施錠は情報公開の後退」
というニュースを見たときは、3月1日なのに
エイプリルフールなのかと思いましたが、
そうではなかったようです。

なぜこのタイミングなのかという点、あるいは、
メモを取る職員の同席という新ルールには
疑問を感じるとはいえ、セキュリティの強化と
情報公開は別の話ということに尽きるかと。

むしろ、多くの中央官庁の執務室が「施錠なし」
ということに驚きました。

確かに、私がかつて勤務していた金融庁でも、
その数年前までは施錠がなく、外部のかた
(金融機関関係者が多い)が急に入ってきて
あわてて机上の資料を隠すこともあったとか。

毎日新聞の社説(2日)に、

「機密情報を扱う機会が多い外務省や防衛省、
 警察庁などでも執務室を施錠しているのは
 一部の部局にとどまる」

とありますが、国民のための情報管理が
それで大丈夫なのかと心配になりました。

朝日新聞の社説(4日)には、

「行政機関と民間企業には大きな違いがある。
 企業が自らの利益を増やそうとするのに対し、
 行政はあくまで国民生活に資すべき存在だ」

とあり、密室化は不信を招くとしています。

でも、行政の執務室に報道機関がいつでも
入れる環境が、開かれた行政の実現のために
どうして必要なのでしょうか。
職員がサボらずちゃんと働いているかどうかを
監視しようとでもいうのでしょうか。

「政策立案の面から見ても、外部と壁をつくり、
 接点が減ってしまっては、むしろマイナスだろう。
 省外の知見や批判を積極的に取り込んでこそ
 政策は洗練され、納得度も増すはずだ」

という記述もありますが、ここで言う「外部」とは
一部の報道関係者に限られます。というのも、
中央官庁の建物内に簡単に入れるのは、
IDカードを持つ国家公務員と、記者クラブという
常駐先のある一部の報道関係者だけだからです。

同じ報道関係者でも、フリージャーナリストが
経産省に行っても、誰かのアポイントがなければ
執務室はおろか、普通は建物にも入れません
(広報が対応してくれるかもしれませんが)。

つまり、この記述は、政策立案の面で一部の
報道関係者の知見や批判を取り込むべきだと
言っていることになりますね。

さらにおかしいのは、執務室の施錠を情報公開の
後退というのであれば、そもそも建物内に誰もが
自由に入れないことも当然、問題視すべきですが、
そのような論調が一切見られないことです。

報道機関には行政の情報公開姿勢をチェックし、
行政の広報機関のようになってしまわないよう、
がんばってほしいと応援しているつもりですが、
今回の件は、残念ながら私には、既得権益を
守ろうとしているようにしか見えません。

※写真は川崎大師です。

 

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日本版FD規制の導入

 

FD規制とはフェア・ディスクロージャー規制、
すなわち、上場企業などが公表前の内部情報を
第三者に提供する際、同じ情報を他の投資家にも
出さなければならない、というものです。

日本ではFD規制がまだ導入されていません。
ただし近年、上場企業が証券会社のアナリストに
未公表の業績情報を提供していた事件などがあり、
金融審議会の作業部会が日本版FD規制を検討し、
昨年12月に規制導入を求める報告を行いました。
金融庁のサイトへ(2016/12の金融審報告)

報告書では、規制導入による積極的意義として、

「発行者側の情報開示ルールを整備・明確化する
 ことで、発行者による早期の情報開示を促進し、
 ひいては投資家との対話を促進する」

「アナリストによる、より客観的で正確な分析及び
 推奨が行われるための環境を整備する」

などと述べられているのですが、その一方で、
以前から導入に伴う副作用として、

「(FD規制導入で)企業が情報を提供することに
 消極的になるのではないかとの指摘や、報道
 機関やアナリストによる正当な取材活動等が
 困難になるのではないか」

といった懸念も示されています。
金融庁のサイトへ(2016/4の金融審報告)

2月20日に公表された日本IR協議会による
上場企業を対象にしたアンケート調査の結果も
規制による副作用が心配されるものでした。
調査結果(PDF)

Q:FDルール導入により、貴社の情報開示に
  どのような影響があるとお考えですか

  大きく影響する 8.0%
  やや影響する 43.9%
  変化なし     31.4%
  わからない   16.7%

Q:影響すると回答した企業の具体的な理由

  情報開示に消極的・保守的になる  24.1%
  開示実務の負担が増加する      13.6%
  線引きの判断が必要となる      13.0%
  規制対応や指針・方針の見直しが  11.7%
  必要となる
  中長期的な対話が促進される     1.9%

もし、FD規制の対象となる重要情報の範囲が
よくわからないままだと、規制を強く意識した場合、
「全員に伝える」か「誰にも伝えない」かの二択に
なってしまうのでしょうか(極論ですが)。

とはいえ、確かに下記の線引きは難しそうです。

 「発行者または金融商品に関係する未公表の
  確定的な情報であって、公表されれば発行者
  の有価証券の価額に重要な影響を及ぼす蓋
  然性があるもの」【規制対象】

 「他の情報と組み合わさることによって投資判断
  に影響を及ぼし得るものの、その情報のみでは、
  直ちに投資判断に影響を及ぼすとはいえない
  情報(いわゆるモザイク情報)」【規制対象外】

やはり、FD規制導入後に企業の情報開示が
後退する可能性をある程度は覚悟すべき
なのかもしれません。

ただ、ガバナンス改革として政府が進めてきた
「建設的な対話の促進」は基本的に1対1の対話を
念頭に置いているのだと思います。

企業が求める建設的な対話には、「重要情報」
「モザイク情報」なんてことは些細な話であり、
必要なのは広い視野と深い分析力、というように
有識者の皆さんは考えているのかもしれません。

しかし、広い視野と深い分析力を持つには、
いろいろ話を聞き、知識のストックを増やすことが
不可欠です。

決算データを読むにしても、自分だけで考えるのと、
企業の担当者とやりとりしながら考えるのでは、
理解がだいぶ違います。

FD規制が結果としてそのようなやりとりの場を
なくしてしまうようなことにならないといいですね。

先日取り上げた「顧客本位の業務運営」にも
共通する話ですが、情報の出し手や事業者への
規律を促し、あとはアナリストやFP等におまかせ、
というだけでは片手落ちではないでしょうか。

※慶大・深尾光洋教授の最終講義に参加しました。

 

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社外取締役インタビュー

 

昨日(7/30)のNHKドラマ「百合子さんの絵本」
第二次世界大戦中、スウェーデン駐在武官として
諜報活動を行っていた小野寺夫妻の話でした。

価値ある情報を送っても、東京では活用されない。
戦後の座談会のシーンも、いかにもという感じ。

キャストが香川照之、薬師丸ひろ子だったので
見ごたえのあるドラマでしたね。

なお、先日ご紹介した「大本営参謀の情報戦記」にも、
ヤルタ会談でのソ連参戦決定を伝える小野寺電が、
大本営作戦課で握り潰されていたことが記されています。

情報と言えば、2016年版のディスクロージャー誌
(または統合報告書)が各社のサイトにアップされつつ
あります。

最近の特徴として、ここ数年のガバナンス改革を反映し、
報告書に「社外取締役インタビュー」を掲載する会社が
増えているようです。

2016年版を確認したところ、大手保険グループでは
第一生命と明治安田生命が社外取締役インタビューを
載せていました。

ご参考までに、インタビューの項目は次の通りです。

<第一生命 ジョージ・オルコット氏(慶大教授)>
 ・日本企業および第一生命のガバナンスを
  どう評価しているか

 ・取締役会における社外取締役の役割

 ・グローバル企業においてガバナンス面で
  考えていくべきことは何か

<明治安田生命 服部重彦氏(島津製作所相談役)>

 ・これまでの当社のコーポレートガバナンスの
  取り組みをどう評価しているか

 ・筆頭社外取締役として果たすべき役割は何か

メガ損保グループの2016年版報告書は未公表ですが、
2015年版の損保ジャパン日本興亜HDの報告書には、
社外取締役4名からのメッセージがありました
(東京海上HDは社外監査役インタビューがありました)。

ちなみに、メガバンクの報告書には、3グループともに
社外取締役インタビューが掲載されています
(みずほは取締役会議長メッセージ)。

インタビューを掲載しても、情報として役に立たない、
形だけのアピールで意味がない、という声もありそうです。

ただ、インタビューを受ける社外取締役にとっては
いい意味でのプレッシャーとして機能するのではないかと
私は前向きに受け止めています。

※いつものように個人的なコメントということでお願いします

※久しぶりにプロ野球観戦に行きました。
 野球よりもファンの観戦(観察)が面白かったです^^

 

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