08. ディスクロージャー

保険学会の全国大会で報告

10月23日から24日にかけて、日本保険学会の全国大会がオンラインで開催されました。
オンライン開催なので、懇親会等での非公式な意見交換ができないのは残念なのですが、大会に参加しやすいというメリットはありますね。私も福岡にいながらにして報告を行うことができました。

情報開示とメディア

私は3月の九州部会に続き、全国大会でも保険会社の経営情報の伝達について報告しました。
過去20年間の決算報道を調査したところ、平時における報道内容が固定化していることを「発見」したので、その理由を探るため、主要保険会社の広報部門(およびメディア関係者)へのインタビューを行いました。その結果、報道固定化には「メディア自身によるニュースバリューの判断」「報道機関固有の事情」が影響していることが見えてきました。
報告の詳細は今後どこかでご覧いただけるかと思います。

地震リスク

今回の大会では土曜日のシンポジウム、日曜日の共通論題がいずれも地震リスクに関するものでした(金融庁の栗田監督局長による特別講演でも自然災害リスク関連の話がありました)。
シンポジウム「レジリエンスから見た地震リスクと地震保険」は個人の地震リスクと家計向け地震保険についての発表とディスカッション、共通論題「地震リスクに対する企業保険制度の課題」は企業の地震リスクとその対応状況についての発表とディスカッションという内容で、特に後者は知る人ぞ知るという内容だったかもしれません。

共通論題を聞いたうえでの私見ですが、企業の地震リスク対応が進んでいない根底には、日本企業に資本コストを意識した経営が浸透していないことや、そもそも大企業と言えども実質的に事業部門の集合体で、コーポレート部門の機能が弱いという問題があるのだと理解しました(共通論題ではそこまで突っ込んだ議論にはなりませんでしたが)。

なお、シンポジウムではお二人の先生が、地震保険の危険準備金取り崩しをもって「破綻の危機」「財政に懸念」とおっしゃっていて、この点はよくわかりませんでした。
民間準備金が取り崩されてから、官民負担スキーム修正(民間負担分を下げる)までのタイムラグの問題があるとはいえ、地震保険は超長期の収支均衡を意識したプライシングがなされ、政府が再保険というかたちでバックアップするしくみです。もし民間準備金が枯渇し、新たな準備金の蓄積まで政府負担が大半を占めるスキームになったとしても、それをもって「破綻」とみなすのは私には抵抗があります。この保険の存続可能性を問題視するのであれば、論点はリスクに応じたプライシングがなされているか、ではないでしょうか。

※ハロウィンまであと1週間ですね。

 

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ディスクロージャー誌の公表(活用編)

今週のInswatch Vol.1102(2021.9.13)に掲載されたものです。生命保険協会のサイトは何とかしていただきたいですね。ご参考まで。
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前回(8月9日号)に続いてディスクロージャー誌に関する話です。
私は以前から、生保決算報道の定番となっている「保険料等収入」という指標は、事業会社の売上高にあたるものではないし、生保の経営情報を必要とする消費者(現在および将来の契約者)に伝えるべき情報として適当ではないと主張してきました。今回はその理由を、公表されたディスクロージャー誌を使って説明してみましょう。

保険料収入の多くは既契約によるもの

一部の会社を除いて、保険料収入の多くを占めているのは次年度以降保険料、つまり、当年度よりも前に獲得した契約から得られた保険料です。
論より証拠。ディスクロージャー誌に掲載されている日本生命と第一生命の数字を見てみましょう
(2020年度の個人保険・個人年金保険の合計。単体ベース)。

<日本生命> 
初年度保険料   0.5兆円
次年度以降保険料 2.5兆円
合計       3.0兆円

<第一生命> 
初年度保険料   0.1兆円
次年度以降保険料 1.4兆円
合計       1.5兆円

こうした数値は決算発表時点では入手できません。保険料収入は当年度に保険料として入ってきたお金というだけなので、業績や販売力を示すものではないことがよくわかります。各社のその年度の業績を知りたいのであれば、保険料収入ではなく、新契約年換算保険料のほうがより適切だと言えます。

預かり資産の受け入れは売上高なのか

こちらの数字もご覧ください。20年度における大手4社(日本、第一、住友、明治安田)合計の保険料収入の内訳です。この数字も各社のディスクロージャー誌で入手しました。カッコ内は19年度との差額です。

保険料収入  11.1兆円(▲0.6兆円)
 個人分野   7.9兆円(▲0.4兆円)
 うち一時払  0.8兆円(▲0.4兆円)
 団体年金   2.2兆円(▲0.2兆円)

ディスクロージャー誌で確認すれば、20年度に保険料収入が減少したのは個人分野(個人保険、個人年金)の一時払保険料が減ったことと、団体年金保険の保険料が減ったことだと説明できます。
一時払の生命保険は貯蓄性の極めて強い商品ですし、団体年金は企業年金向けの資産運用商品です。したがって、20年度に保険料収入が減ったのはコロナ禍で販売が制約されたからというよりは、低金利などの影響で受け入れた額(≒貯蓄保険料)が減ったためだとわかります。
銀行の決算発表で、預金の残高を示すことはあっても、当年度の預金受け入れ額を示し、前年度と比べて増えた、減ったと一喜一憂するようなことはありません。同じように生保の決算でも、保険料収入は貯蓄保険料の増減で数値が大きく変わってしまうので、顧客基盤の大きさの手掛かりにも、成長性を表すことにもなりません。預かり資産の規模が重要というのであれば、総資産を見るべきです。

誰が保険料収入にこだわっているのか

調査したところ、全国紙では15年以上もの間、生保決算の主要指標として「保険料等収入」を掲載しています。これだけ続くということは、大手をはじめとした生保業界がこの状況を許容しているのでしょう。実のところ、金融庁も半期ごとに公表している決算概要のなかで「保険料等収入」を掲載し、動向を説明しています。

もしかしたら、会計(損益計算書)の一項目だから数値が信頼できる、比較可能性があると皆さん考えているのでしょうか。
しかし、いくら「数値が信頼できる」「比較可能性がある」といっても、その数値が表している内容に意味がなければ指標として不適切です。ディスクロージャー誌を活用することで「保険料等収入」がどのような指標なのかご理解いただけたと思います(ちなみに「等」は再保険収入です)。会計上の「保険料等収入」を重要指標としてそのまま使い続けるのは、そろそろ終わりにしたほうがいいのではないでしょうか。

なお、ディスクロージャー誌(名称は「○○生命の現状」「アニュアルレポート」「統合報告書」など)は各社のサイトのほか、生命保険協会のサイトにも一括掲載されています。後者は大変便利なのですが、執筆にあたり確認したところ、なぜか肝心のデータ編が掲載されていない会社もあるようなので、その際には個社サイトへのアクセスが必要です。
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※佐賀県小城市は「羊羹王国」なのだそうです。

 

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ディスクロージャー誌の公表

今週のInswatch Vol.1097(2021.8.9)では保険会社のディスクロージャー誌について書きました。ご参考までにブログでもご紹介します。
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前回は1回目のワクチン接種(モデルナ)での副反応についてお伝えしましたが、2回目ではちょうど24時間後に微熱が出て、それが9時間くらい続きました。熱があっても体調は良好で、食欲もあります。接種した左腕の筋肉痛のほか、なぜか腰の右側が痛くて、これらはまだ数日続きそうです。副反応は個人差が大きいですね。ご参考まで。

生損保がディスクロージャー誌を公表

早いもので、今年も保険会社のディスクロージャー誌が出揃う時期となりました(会社によっては「統合報告書」となっています)。さっそく、いくつかの会社のディスクロ誌をざっと確認したところ、近年のコーポレートガバナンス改革の一環として上場会社が情報開示の拡充を求められていることなどを踏まえ、前半の「本編」の記述を大幅に見直した会社があるようです(例えば明治安田生命など)。
ただし、後半の「データ編」の記述には大きな変化はなさそうです。こちらは新たなソルベンシー規制の導入(2025年の予定)とともに掲載内容の充実が図られることを期待することにします。

なぜ経営情報が必要なのか

そもそも保険会社の経営情報が市場関係者だけでなく、保険の利用者にもなぜ必要とされているのか、改めて考えてみましょう。
事業会社の場合、その会社の商品やサービスの利用者だからといって、それを提供する会社の経営内容を知る必要はあまりありません。会社の経営内容が悪化すると、商品やサービスの内容や品質が悪化する可能性もありますが、あくまでも間接的な影響です。ですから、事業会社の経営情報を必要としているのは専ら株主などの市場関係者となります。
これに対し、保険会社の場合、会社の経営内容はいわば商品・サービスの一部となっています。もし、保険会社の経営が傾けば、将来の保障(補償)が危うくなり、破綻した場合には利用者が損失を被ります。さらに、有配当契約であれば、利用者は保険会社の経営内容に応じた配当を期待できます。ですから保険会社の経営情報を必要としているのは市場関係者だけでなく、利用者(現在および将来の保険契約者)にも必要なのです。
だからこそ、保険業法第111条で経営情報の公衆縦覧が規定され、毎年ディスクロージャー誌が公表されています。

経営情報はどう伝わるか

とはいえ、平時に保険会社の経営内容に関心を寄せる利用者は少ないのではないでしょうか。保険の利用者は保障(補償)を得るために保険会社と契約しているので、株主などの市場関係者と違い、保険会社の経営情報を自ら得ようという動機に乏しく、平時であれば、おそらく保険会社の信用リスクを負っているという意識もありません。この20年間、個人分野の配当が低く抑えられてきたこともあり、配当を期待して生命保険に加入した人もごくわずかでしょう。
メディアによる情報伝達も20年前に比べるとかなり減っていて、かつ、画一的なものとなっています。保険会社の決算発表を継続して報道している全国紙の記事を確認したところ、近年の生保決算は「保険料等収入」と「基礎利益」、損保決算は「正味収入保険料」と「当期純利益」を報じるパターンが圧倒的に多く、情報源として不十分な状態が続いています。

ディスクロージャー誌の分量は多く、読みこなすのは大変です。しかも、経営データとして十分な内容かといえば、特に生保については外部環境や経営実態等の変化に開示項目が追いついていないと感じます。
とはいえ、保険の利用者にとって有用な情報が掲載されているのは間違いありません。例えば「業績ハイライト(主要な経営指標を掲載)」「直近5事業年度における主要業務の状況」をフォローすれば、その会社の大まかな経営内容がつかめますし、会社によってはESR(経済価値ベースの健全性を示す指標)や「重要リスク」などの情報も公表しています。保険販売に関わるかたは、平時からこれらの情報に接しておくべきではないでしょうか。
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※写真は福岡・篠栗町にある山王寺です。

 

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保険経営の報道は難しいのか?

今週の日経新聞による保険会社に関する報道です。

グループ内再保険

再保険で損益変動抑制 第一生命HDが新会社 ※有料会員限定」(1月7日)

第一生命グループがバミューダに再保険会社を設立するという記事です。「金利の上下に伴う損益変動リスクの抑制に乗り出す」「グループ内で、保険に対して保険をかける『再保険』の引き受けを近く始める。再保険の仕組みを使って損益への影響を和らげる」という説明があるのですが、グループ内でリスクをやり取りしても、実質的な損益変動の抑制にはならないのではないかと疑問に思いますよね。

グループ内に再保険会社を設立するという話は、実のところ昨年11月の機関投資家・アナリスト向け決算・経営説明会で示されていて、質疑応答(PDF)のなかで、グループ内に再保険会社を設立するメリットの説明がありました。
ですから、記事のような不思議な説明にはならないはずなのですが、記者さん自身の問題なのか、あるいは取材に応じた広報部門がうまく伝えなかったということなのでしょうか。

火災保険の損益

火災保険 赤字2000億円超 ※有料会員限定」(1月8日)

大手損保4社の2021年3月期の火災保険の損益が、自然災害の被害が比較的少なかったにもかかわらず、2000億円を超える赤字となる見通しで、収益性の改善が急務となっているという記事です。

火災保険の収支が厳しいというのはその通りです。記事が示すように再保険料の上昇は大きく、4-9月期の出再保険料(火災)は4社合計で前年同期よりも400億円以上増えています。各社とも元受保険料に再保険の上昇分をどれだけ反映できるかが課題となっています。

ただ、火災保険の損益として保険引受利益をそのまま使って説明するというのは、さすがにミスリードではないでしょうか。保険引受利益は「保険料収入から保険金の支払額とかかった事業費を差し引いた」(記事より引用)ものではなく、保険引受収益から保険引受費用と保険引受に係る営業費および一般管理費などを差し引いたもので、保険料と保険金&事業費を比べた指標(コンバインドレシオなど)ではありません。
特に大きな違いは、保険引受利益は異常危険準備金の増減と、長期火災保険や地震保険などの責任準備金の増減によって大きく左右されるということです。

記事には過去の保険引受利益の推移が図表で示され、「火災保険の損益は11年連続赤字」とあります。しかし、この図表を見て、いくら再保険料が増えたとはいえ、今年度の赤字が、過去最大の保険金を支払った2018年度に匹敵する赤字になるというのを不思議に思わなかったのでしょうか。これは、2018年度には多額の異常危険準備金の取り崩しがあったため、保険引受利益がかさ上げされているのに対し、今年度は異常危険準備金が積み増し(=保険引受利益のマイナス要因)となるからです。
念のため過去の火災保険のコンバインドレシオを確認すると、赤字の年度が多いのは同じですが、2015年度は1社を除き黒字(コンバインドレシオが100%未満)でした。同じ年度の保険引受利益が1000億円を超える赤字となったのは、異常危険準備金の積み増しと、期間短縮前のかけ込みで長期火災保険の責任準備金が急増したことが主な要因とみられます。
保険引受利益を使ったのは記者さんの判断なのか、あるいは、どこかの保険会社の広報部門があえてこの数値を提供したのでしょうか。

マスメディアの役割は大きい

私はマスメディア(特に日経)を目の敵にしているのではなく、むしろその逆で、保険マーケットにとってマスメディアの役割は非常に重要だと考えています。
保険会社が提供する商品・サービスは保険会社の経営内容にも左右されるため、保険会社は事業会社とは違い、投資家だけでなく、契約者(消費者)に対しても経営情報を伝える必要があります。他方で契約者(消費者)が保険会社の経営情報を普段から積極的に集めるというのは現実的ではなく、結局のところマスメディアに頼ることが多いはず。ですから、経営情報の仲介者であるマスメディアの役割がより高まる方向に持っていきたいのですが、どうしたらいいのでしょうね。

 

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株式の保有状況

9月末に生命保険会社のディスクロージャー誌がようやく出そろいました。
新たな開示はないかと探してみると、日本生命が「株式の保有状況」を初めて開示していました。
日本生命のサイトへ

参考までに他の相互会社では、明治安田生命は以前から開示があり、住友生命や朝日生命、富国生命は非開示のようです
(住友生命はかつてどこかで見たような気もするのですが…)。

「株式の保有状況」は有価証券報告書への記載を求められている項目で、上場株式会社ではない日本生命や明治安田生命は任意の情報開示となります。

各社の概要は次のとおりです。

【日本生命】
・純投資目的以外の上場株式 14銘柄、4,629億円
・純投資目的の上場株式 1,503銘柄、7兆1,536億円

【第一生命】
・純投資目的以外の上場株式 3銘柄、861億円(みなし保有株式を含む)
・純投資目的の上場株式 2,666銘柄、3兆0,473億円

【明治安田生命】
・純投資目的以外の上場株式 1銘柄、462億円
・純投資目的の上場株式 -、3兆3,718億円

【太陽生命】
・純投資目的以外の上場株式 35銘柄、2,014億円
・純投資目的の上場株式 19銘柄、1,337億円

【大同生命】
・純投資目的以外の上場株式 72銘柄、2,070億円
・純投資目的の上場株式 75銘柄、549億円

T&Dグループと他の会社で政策保有株式についての考えかたが違っているようですね。
ちなみに3メガ損保グループは保有株式の大半を純投資目的以外としています。
各社の純投資目的の上場株式は、三井住友海上が2銘柄、あとは0となっています。

※西鉄電車でランチの旅を楽しんできました。

 

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独自の利益指標

9月20日の日経新聞に「増える独自の利益指標(リンクは有料会員限定)」という記事が載りました。IFRSを採用する企業で「事業利益」「コア営業利益」といった独自の利益指標を開示する企業が増えているというレポートで、武田や三菱ケミカル、アサヒグループなどの事例を紹介しています。
ただ、「比較しにくい難点も」「市場関係者からは懸念の声が上がっている(経営者にとって都合の良いものができる、など)」「IFRSを策定するIASBも企業間で指標を比較しにくいのは問題だとして、対策に乗り出した」など、なんだか否定的なトーンなのが気になりました。

記事をよく読むと、「会計原則に基づかない独自指標を開示する会社が増えている」という話と、「IFRSでは損益計算書のフォーマットを細かく規定していない(原則主義なので)」という話がごっちゃになっているのですね
(全体として「細則主義の日本基準がいい」と主張しているようにも読めます)。

独自指標の開示について、市場関係者は本当に懸念しているのでしょうか。
会計上の指標では事業特性をうまく説明できないということは、IFRSでも日本基準でもよくある話です。身近なところでは損保の「グループ修正利益」がありますね(6月のブログで取り上げています)。
投資家が知りたいのは期間損益そのものではなく、企業価値を評価するうえでの手掛かりです。記事中のコメントにあるように「会社によっては利益を良く見せたいとのインセンティブが働くので見極める必要がある」というのはそのとおりですが、会計ベースの指標しか信じられないということはないと思います。

後者の「原則主義と細則主義のどちらがいいか」という話については、確かに原則主義のIFRSでは企業の裁量に委ねられるところがあるため、開示にばらつきが出るのはデメリットと言えるのかもしれません。しかし、細則主義はルールが詳細に決まっているからこそ、形式さえ整えればいいという発想になり、かえって本当の姿を示さなくなるという欠点があることを忘れてはならないと思います。

※バンコク高架鉄道の優先席です。イラストがかわいいですね。

 

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情報開示が変わる

記述情報(非財務情報)の開示

成長戦略の一環として政府が進めてきたコーポレート・ガバナンス改革ですが、ここにきて情報開示についても進展が見られます。

昨年6月の金融審議会「ディスクロージャーWG報告」を受けて、1月末に「企業内容等の開示に関する内閣府令」が改正され、上場会社に対し、財務情報とともに記述情報(非財務情報)の充実を求めることになりました。
さらに、記述情報の開示についての考え方をまとめたガイダンスとして、金融庁は記述情報の開示に関する原則(案)を公表しています。

「非財務情報」ではなく「記述情報(非財務情報)」としたのは、「財務情報」のほうを貸借対照表や損益計算書といった金商法の「財務計算に関する書類」で提供される情報に限定し、それ以外の開示情報を対象と整理したためかもしれません。
この定義だと、記述情報は財務情報とは別のものではなく、財務情報を補完するものであることがより明確になります。

リスクの羅列ではダメ

記述情報のうち、「事業等のリスク」について確認してみましょう。
このリスク情報は2003年3月期から有価証券報告書に記載されてきました。ただ、WG報告にもあるように、考えられるリスクの羅列となっている記載が多く、それぞれのリスクの重要性や、それらを経営陣がどう捉えているのかは、外部からは全くわかりませんでした。

東京海上HDの事例
SOMPO HDの事例
第一生命HDの事例

これに対し、改正府令が求める開示は、「主要なリスクについて、顕在化する可能性の程度や時期、対応策を記載するなど、具体的に記載すること」「リスクの重要度や、経営方針・経営戦略等との関連性を踏まえ、わかりやすく記載すること」です。
また、「記述情報の開示に関する原則(案)」には望ましい取り組みとして、「取締役会や経営会議において、そのリスクが企業の将来の経営成績等に与える影響の程度や発生の蓋然性に応じて、それぞれのリスクの重要性をどのように判断しているかについて、投資家が理解できるような説明をすることが期待される」などとあります。

非上場の保険会社も検討を

WG報告書には、「一部の我が国企業においては、そもそも経営戦略・財務状況・リスク等について十分に議論されていないとの指摘もなされている」と書かれています。
経営で十分に議論していなければ、開示ができないのは当たり前です。保険会社ではいかがでしょうか。

一連のガバナンス改革の対象となるのは上場会社なので、相互会社をはじめ、非上場の保険会社には適用されません。
しかし、保険会社は投資家として、上場会社に情報開示の充実を求める立場でもあります。
少なくともコーポレートガバナンス・コードに任意に対応している会社であれば、今回の開示情報の充実に対しても、ステークホルダーに自社への理解を深めてもらうべく、積極的に取り組んでいくべきではないでしょうか。

※写真はのと鉄道で保存している鉄道郵便車です

 

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企業の情報開示

企業情報の開示や提供のあり方について検討してきた金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループの報告書が公表されました。

政策保有株式の追加開示に注目

コーポレートガバナンス・コードとは違い、こちらは規制そのものに直結する話です。
例えば役員報酬については、経営陣の報酬内容・体系と中長期的な企業価値向上が結びついているかどうかという観点から開示の見直しが進められそうですし、政策保有株式に関しては、開示対象の拡大や買い増し理由の記載、純投資と政策投資の違いの説明などが求められるようになりそうです。

他方で、経営戦略・ビジネスモデル、MD&A、リスク情報などの開示に関しては、昨年12月の事務局説明資料で示された「日本の現状」に対し、WGの回答は「開示内容について具体的に定めるルールを整備するとともに、ルールへの形式的な対応にとどまらない開示の充実に向けた企業の取組みを促すため、開示内容や開示への取組み方についての実務上のベストプラクティス等から導き出される望ましい開示の考え方・内容・取り組み方をまとめたプリンシプルベースのガイダンスを策定すべきである」といった指摘にとどまりました。
何かに的を絞った議論でないと、こうしたWGでは話が先に進まないのかもしれません。

「超同質集団」

ところで、最近話題になった日経記事「変わる経団連、変われぬ経団連」「経団連、この恐るべき同質集団(有料会員向け)」も、企業のディスクロージャーを活用したものですね。
正副会長19人が全員男性・日本人で転職経験がなく、1人を除き首都圏の大学出身で、最も若い人で62歳という超同質集団が、雇用制度改革や人事制度改革などに本気で取り組めるのかといった内容で、書いたご本人も年齢以外はこの集団と同質だったというオチもありました。

経済メディアには、日本経済が衰退すると新聞等が売れなくなり、広告も得にくくなるということで、もしかしたら広い意味で日本企業の中長期的な価値拡大を促す動機があるのかもしれません。また、ディスクロージャーが進むなかで、経済メディアがうまく活用してくれると、資本市場にとってもプラスの効果が期待できるでしょう。
話題の記事も、多様性を説く経団連のトップの実情を示すいい記事だったと思います。

経済メディアのあり方は

ただし、明日発表される予定の決算数値を今朝の新聞に載せることは、かつての価値観では特ダネとして称賛されたのかもしれませんが、考えてみれば、1日早く決算データの一部を世の中に示すことにどのような価値があるのでしょうか。
多くの人にとって迷惑なだけだと思いますし、仮に株価が動いたとして、喜ぶのは短期的スタンスの投資家であって、中長期的な投資家には余計な仕事が増える(かもしれない)だけです。ここを改めないと、経済メディアが政府から規制される日も近いかもしれません。

※先週の写真ですが、乗り物(?)2題。

 

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コンプライでもエクスプレインを

生損保決算は分析途上ということで、別の話を。

大学のガバナンス不在が取り沙汰されていますが、日本企業のコーポレートガバナンス改革もまだまだ道半ばという印象です。コーポレートガバナンス・コードの改訂(もうすぐ公表されると思われます)や、経産省CGS研究会(第2期)が5/18に発表した「第2期中間整理-実効的なコーポレートガバナンスの実現に向けた今後の検討課題」など、新たな取り組みや課題整理が次々に出てくるのも、形は整えても魂が込められていないという現状があるのでしょう。

コーポレートガバナンス・コードは法令ではなく、上場企業に求められる行動規範であり、それぞれの原則を実施(コンプライ)してもいいし、実施しないのであれば、その理由を説明(エクスプレイン)すればいい、というものです(コンプライ・オア・エクスプレイン)。
ところが、東証が集計したコーポレートガバナンス・コードへの対応状況(2017年7月時点)を見ると、一部の原則を除いて圧倒的に「コンプライ」が多くなっています。

しかし、例えば先日のブログ「いつまで『社長が社長を選ぶ』なのか」で紹介したような、98%のコンプライにもかかわらず、確認してみると実態は違っているということが、徐々に見え始めています。

公表内容のボイラープレート化(=ひな型的で具体性を欠く記述)も目立ちます。先週末に参加した日本ディスクロージャー研究学会の大会では、業種の異なる3社の役員報酬に関するディスクロージャーが、全く同じ文言となっているケースが紹介されていました。おそらく外部の専門家によるひな型をそのまま使っているのでしょう。

コーポレートガバナンス・コードの「コンプライ・オア・エクスプレイン」は、実施すればいいというものではなく、自らのコーポレートガバナンスを確認し、ステークホルダーに理解してもらうためのものだと思うのですね。
それなのに、コンプライしているという事実と、紋切り型の記述(それも開示項目のみ)しか出さないとなると、外部からは評価のしようがありませんし、内部規律も働かないでしょう。コンプライでもエクスプレインが必要なのです。
(その意味で、上場保険会社のERM関連情報の開示は参考になると思います)。

非財務情報の開示には、引き続き課題がたくさんありますね。

※写真は横浜市大です。横須賀のワインを初めて飲みました。

 

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非財務情報を巡る勘違い

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日経夕刊の十字路というコラムに載った
「非財務情報を巡る勘違い」を興味深く
読みました(17日)。
首都大学東京の松田千恵子先生による
ものです。
日経のサイトへ(有料版)

内容はタイトルの通りで、非財務情報として
開示が求められているのは、企業の将来に
向けた方針であり、どのように企業価値向上
を果たすかが重要なのに、そうなっていない
というものです。

「勘違いした統合報告書には、無味乾燥な数値実績と、きれいごとっぽい慈善活動だけが脈絡なく並んでいる。(中略) これでは投資家ならずとも、利害関係者としてその企業が将来をどう考えているのか判断しようがない」

何とも痛切なコメントですが、実のところ私も
似たように感じることがあります
(数値実績を無味乾燥とは思いませんが…)。

特に、近年ESG(環境・社会・ガバナンス)情報
が注目されているためか、非財務情報というと
環境保護や社会貢献関連の情報が目立つなど、
財務情報とは別の情報として捉えられやすい
のかもしれません。

日本IR協議会による実態調査などを見ると、
企業が「勘違い」しているのではなさそうですが、
非財務情報をどのように開示し、理解してもらうか
悩んでいる状況がうかがえます。

そこで思い当たるのが、上場保険会社による
「ERM関連情報の開示」の積極的な開示です。

ERM関連情報なので、リスクテイクの方針など、
経営の考え方を提示するのが一般的ですし、
こうした非財務情報を補うため、内部で活用する
独自の指標やそのターゲット水準、感応度分析
といった財務情報も公表しています。

つまり、経営がどのように企業価値の持続的な
拡大を目指そうとしているかを、非財務情報と
財務情報を結び付けて説明しているのですね。

もちろん、利用者としてまだまだ思うところは
ありますが、保険業界のこうした取り組みは
非財務情報の開示に悩む他業界にとっても
参考になるのではないでしょうか。

なお、関連する日本公認会計士協会の報告書
を見つけましたので、リンクしておきます。
日本公認会計士協会のサイトへ

※高校のOB会で再び横浜の崎陽軒本店へ。
 旧制中学の卒業生もお二人いらっしゃいました。

 

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