06. リスク管理関連

企業はリスクを極力避けるべきか

突然ですが質問です。
「大企業は社会的な役割が大きいので、リスクは極力回避すべき」というのは正しいでしょうか?

特に社会人であれば、リスクをとらなければリターンを得られないことをご存じなので、「社会的役割が大きい」という言葉に惑わされず、多くのかたに「正しくない」と答えていただけるように思います(あくまで自分の経験からですが)。

ところが、「リスクにはリターンを得るためにとるリスクと、事業に付随して生じるリスクの2種類がある」と説明したうえで、

「大企業は社会的な役割が大きいので、リターンの源泉となるリスクだけを抱え、事業に付随して生じるリスクは極力回避すべきである」というのは正しいでしょうか?

こう質問すると、結構な割合で「正しい」と答えるかたが出てくるようです。
「社会的な役割が大きい」という文言に引きずられるためか、損失しか発生しないリスクはできるだけ避けたほうがいいと考えてしまうようです。

リスクコントロールによってリスクを軽減するにしても、保険などのリスクファイナンスよってリスクを移転するにしても、対応にはコストがかかります。企業はリスクを避けるためにコストをいくらでもかけることができるかといえば、決してそのようなことはありません。
事業に付随して生じるリスクについても、その効用がコストを上回らなければ企業価値を損ねてしまうので、極力回避するというのは正しくありません。

こう書くと、当り前じゃないかと言われそうです。ただ、学生だけでなく、事業会社のかたと話をするとゼロトレランス、つまり、損失発生を一切許容しないという思想を強く感じることがあるのですね。これだと「リスクは極力回避すべき」となってしまいがちです。結果的にはコスト見合いで対応策がとられているにもかかわらず。

経営陣が「不祥事は絶対に起こしてはならない」「サービス提供を一瞬なりとも中断してはならない」という考えのもとで事業を行うのは理解できます。しかし、現実には不祥事やサービス中断の可能性をゼロにすることはできませんし、コストをかけるにしても限度がありますので、ゼロトレランスという考えはむしろ経営を思考停止に陥らせてしまいかねません。

それよりも、経営としてそのリスクにどの程度対応していると考えているかを明らかにしておく(=リスクアペタイトを明確にしておく)ことが大切ではないでしょうか。経営として重要なリスクに関しては、リターンの源泉となるリスクだけでなく、損失しか発生しないリスクについても、リスクのとりかたを明確にしておくべきだと思います。

※大型書店の店頭には並んでいるのに、なぜかここ数日、アマゾンや楽天では買えない状態が続いているようです(3日現在)。お求めのかたは大型書店のほか、例えば版元の中央経済社のサイトなどをあたっていただければ幸いです。

 

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COCOA不具合の報告書

新型コロナウイルスの接触確認アプリ「COCOA」で不具合が発生し、4か月もの間、陽性者との接触を通知していなかった問題で、厚生労働省が16日に調査報告書を公表しました。同省が設置した内部の調査・検討チームによるもので、同省職員や委託事業者などCOCOA関係者33名にヒアリングを行ったそうです。

COCOAの契約は、HER-SYS(ハーシス)という保健所や自治体、医療機関などの情報共有を行うためのシステム(以前、連絡にFAXを使っているなんて報道がありましたよね)の開発・運用保守の追加契約として締結され、昨年6月にアプリがリリースされました。
ところが、陽性者との濃厚接触だけでなく、単なる接触があっただけでも通知が出てしまう不具合が発生したため、9月に改修したところ、今度は必要な通知・表示まで出なくなってしまい(Android版において)、それが結果として4か月も続いてしまいました。接触確認アプリとしては致命的なミスだと思うのですが、そもそもアプリがそれほど普及していないので、あまり大きな騒ぎになっていないのかもしれません。

不具合が4か月間も見逃された原因について、報告書はいろいろと指摘しています。
・適切なテストが実施されなかった
・頻発する不具合への対応等に追われていた
・発注者である厚労省職員がプロジェクト全体を適切に管理できていなかった
・関係者の役割分担が不明確だった などなど

これらの指摘はその通りなのでしょう。ヒアリングでは「体制強化を申し出ていたが、聞いてもらえなかった」「人がどんどん入れ替わるので、ノウハウをインプットしてもすぐリセットされてしまう」「厚生労働省は直接システム関連の業務を発注するようなスキルが足りない気がする」といった声も出ています。
ただ、報告書を読んだ感想としては、政府がアプリの普及にもっと本腰を入れて取り組んでいれば、こんなことにはならなかったのではないかとも思いました。アプリが広く普及しなければ感染拡大の防止に役立たないのは当初からわかっていたことで、だからこそ私もすぐにダウンロードしたのですが、思い起こせば政府がダウンロードを積極的に促したのは最初のうちだけではなかったでしょうか。残念ながらダウンロード数は今でも3,000万件にも達していないという状況です。
厚労省や委託事業者を責めるのは簡単ですが、今回といい、ワクチン契約の件といい、もっと根源的な要因があるように思えてなりません。

※博多駅の書店(紀伊国屋書店)で拙著発見!

 

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CGコードの改訂

4月6日にコーポレートガバナンス(CG)コードの改訂案が公表されました。
公表資料はこちら

改訂のポイントとして挙がっているのは、次の項目です。

・取締役会の機能発揮(プライム市場における独立社外取締役の選任など)
・企業の中核人材における多様性の確保
・サステナビリティを巡る課題への取組み
・上記以外の主な課題

東京証券取引所が準備を進めているプライム市場に関するものが目立ちますが、私が注目したのは、取締役会等の責務として初めて「ERM」が加わったことです。
これまでも基本原則4の「経営陣幹部による適切なリスクテイクを支える環境整備を行うこと」のもとで、補充原則4-3④に取締役会が監督に重点を置くべきものとして「先を見越したリスク管理体制の整備」がありました。これが今回の改訂案では「先を見越した全社的なリスク管理体制の整備」となり、取締役会が監督すべきものとなりました。ERMという用語こそ登場しないものの、過去の資料や議事録(例えば3月9日)からすると、ERMを意識した記述と考えられます。
資料・議事録はこちら

日本のCGコードは、経営者による過度なリスクテイクを抑えるというよりは、取るべきリスクをきちんとテイクするように促す、いわば攻めのガバナンスです。そのなかでERMが取り上げられたというのは自然な流れだと思います。

※写真は柳川の川下りです。

 

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事業会社のリスク情報

今週のInswatch Vol.1075(2021.3.8)に寄稿したものをご紹介いたします。
写真は以前訪れた武雄市図書館です。盛況も納得の楽しい図書館でした。
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リスク情報の開示を充実する動き

昨年7月の本誌では、上場保険グループの「事業等のリスク」を取り上げました。「事業等のリスク」は上場会社が有価証券報告書に記載することになっている項目です。従来はリスクの羅列となっていて、あまり参考にならなかったものが、昨今のコーポレート・ガバナンス改革により内容が充実してきたとお伝えしました。
こうしたリスク情報の開示や内容の充実を求められているのは保険会社だけではなく、すべての上場会社が対象となっています。金融庁は情報開示の充実を促すためにサイトで具体的な事例を公表していて、2月16日に「事業等のリスク」の開示例を追加しました。

リスクの重要度合いを示す

金融庁が2020年度の「事業等のリスク」の好事例として取り上げたのは11社で、東京海上とSOMPOの保険グループ2社のほかは事業会社でした(コニカミノルタ、エヌ・ティ・ティ・データ、J.フロント、LIXIL、ヤマハ、不二製油、味の素、ソニー、三菱商事)。
事業会社における取り組みとして目立つのは、重要と考えるリスクをどう特定し、どのように対応しているかを示したものです。
例えばいくつかの会社では、リスクの重要性を判断するために、縦軸を影響度、横軸を発生可能性としたリスクマップを作成し、活用しているという記載がありました。別の会社では、特定した重要リスクそれぞれについて対応の方向性を示しているほか、そのリスクを誰が管掌しているかという情報も載せ、責任の所在を明らかにしていました。

事業会社のリスク認識が変わる

有価証券報告書のリスク情報は主に投資家やアナリストに向けたものですが、誰でも簡単に入手し、活用することができます(私がアナリストを始めたころは紙ベースのものしかなかったので、今はいい時代になりました)。
上場会社は必ずしも日本を代表する少数の大企業だけではなく、第一部に限っても2194社もあります(2月26日時点)。これらはグループベースですので、実際の会社の数となるとさらに多くなります。
リスク情報の開示は、単なるリスクの羅列であれば担当者の作文でも済んでしまいますが、開示を充実させるとなると、経営者はいよいよリスクと正面から向き合い、リスクマネジメントに真剣に取り組む必要が生じます。企業のリスクマネジメントを支援する保険産業にとっては追い風です。
まともな経営者であれば、リスクマネジメントへの取り組みのなかで、保険の出番も増えるはず。保険の手配は総務部か人事部の仕事という時代がようやく終わるかもしれません(期待を込めて)。
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「リスクコミュニケーションの現在」

新型コロナウイルスへの政府の対応やワクチン接種をめぐる社会の反応などを見ると、私たちは過去からあまり学べていないのではないかと考えてしまいます。

放送大学のテキスト『リスクコミュニケーションの現在』(平川秀幸・奈良由美子編著)には、10年前の原発事故後のリスクコミュニケーションについての記述があります。
事故後、福島では放射性物質による汚染や健康被害のリスクが問題となりました。政府や専門家は、自分たちが考える以上に住民が放射線リスクを深刻にとらえるのは、知識が不足しているからと考え、住民に向けて多くの情報を発信しました。
しかし、科学的に正しい情報を発信すれば住民のリスク認識が変わるかといえば、そうではなかったのです。そこには「信頼」が大きく関係していました。それまで安全と言われてきて、そう信じていた原子力発電所によって日常生活が突然奪われた人々は、政府や東京電力、そして科学者を信頼できなくなりました。いったん信頼が崩壊してしまうと、いくら科学的な情報を伝えても、住民のリスク認識を改めることはなかなかできません。

リスク比較の難しさも浮き彫りになりました。本書では「放射線リスクよりも喫煙による発がんリスクのほうが高い」という説明に対し、4割の人が嫌悪感を示したという結果とその理由を紹介しています。

・喫煙者ではないのに喫煙と比較されても意味がない
・生活のなかにはすでにたくさんのリスクがあるのに、そこに上乗せされたのだから、小さいと説明されても拒否感がある
・科学の不確実性を軽視しているのではないか
・小さいリスクだから受け入れろという説得に聞こえてしまう

新型コロナウイルス感染症対策分科会にはリスクコミュニケーションの専門家もいますし、尾身茂会長もリスクコミュニケーションの重要性について繰り返しコメントしています。それでも、専門家でも異なる見解がありえる科学的事象を、専門家ではない人々が理解し、行動につながるようなコミュニケーションをはかるのは難しいということなのでしょう。

 

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団体年金保険の予定利率

コロナ禍で休退学、5千人超」というニュースが話題になりましたが、よく見ると、コロナ禍でも大学を休学したり退学したりする人は今のところ増えていないというニュースなのですね。
調査によると、前年同期に比べて退学者が減り、休学者は海外留学要因を除けばほぼ横ばいでしたので、コロナがなければこの「5千人超」が休退学しなかったかどうかは微妙です。ただし、コロナの影響が長期化するほど経済的に困難な学生が増えるでしょうから、文科省が大学等に対し、引き続き学びの支援を求めるのはよくわかります。

団体年金の予定利率で対応分かれる

NHKや読売新聞の報道によると、第一生命が団体年金保険(一般勘定)の予定利率を来年10月に1.25%から0.25%に引き下げる一方、日本生命、住友生命、明治安田生命の3社は顧客企業への影響を考慮し、来年度も利率を維持するとのことです。
NHKのサイトへ

第一生命がなぜこのタイミングで引き下げを決めたのかはわかりません(むしろ決断が遅かったようにも思えます)。ただ、個人向け保険の標準利率がすでに0.25%以下となっている時に、他社はどうして予定利率1.25%(解約控除がなければ0.75%)の団体年金保険を続けることができるのでしょうか。

なぜ利率を維持できるのか

1.25%/0.75%の予定利率を確保するには、それなりの資産運用リスクを抱える必要があります。例えば、団体年金区分(一般勘定)の資産構成を公表している第一生命は、2020年9月末時点で国内株式(全体の7.4%)や外貨建資産(同35.2%)などで資産運用リスクをとっていました(他社も一般向けに公表してほしいのですが…)。
他方、個人向け保険(特に保障性の強い商品)であれば、危険差益や費差益といった保険関係の利益の獲得が期待できます。しかし、団体年金保険はこれらが非常に小さく、しかも資産運用がうまくいけば顧客に配当として多くを還元するので、個人向け保険よりも収益性が高いとは言えません。

以上から、個人向け商品に比べ、予定利率が1.25%/0.75%の団体年金保険はリスクに見合うリターンが得られる商品とは考えにくいのですが、さらに問題があります。それは、負債の評価(特に契約期間の見込み)が難しいという点です。
顧客にとっては運用商品(もっと言えば、金利の高い現預金のようなもの)なので、金利水準が上がれば解約が増えるでしょうし、おそらく今の低金利が続けば、予定利率が1.25%/0.75%の商品はそのまま継続となりそうなので、保険会社にとってALMが非常に難しいと想像できます。

リスクに見合ったリターンが得られにくく、ALMも難しいとなると、各社は相互会社の社員に対し、予定利率が1.25%/0.75%の団体年金保険を続ける説明が必要だと思います。少なくとも「顧客に影響があるから」という理由では納得できないでしょう。

<12月21日追記>
明治安田生命が2024年度以降に引き下げる方向という日経報道がありました。(報道が正しいとして)2024年度とはだいぶ先ですが、何を基準にして決めようとしているのか興味深いです。

※神社の境内でマルシェをやっていました。

 

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「基礎から理解するERM」

今回は新刊のご案内です。中央経済社から「基礎から理解するERM」という書籍が発行されました。編著者の武蔵大学の茶野努先生、一橋大学の安田行宏先生をはじめ、私を含む10人の執筆者によるものです。

本書は2015年に発行された「経済価値ベースのERM」を大幅に改訂し、かつタイトルも改めたものです。「経済価値ベースのERM」では主に保険業を中心に扱っていましたが、今回の「基礎から理解するERM」は銀行業に精通する執筆陣が新たに加わり、以下の構成となりました。

第1章 ERMとは何か、どこへ進むのか?
第2章 リーマンショックの背景とバーゼル規制強化
第3章 保険ソルベンシー規制の国際動向と生保経営への影響
第4章 リスク計測・管理手法の変遷と課題
第5章 銀行の流動性創出機能について-流動性リスクとリスク管理の観点から-
第6章 地方銀行におけるリスク管理への取り組み
第7章 生命保険会社のERM-銀行との比較を通じて-
第8章 損害保険会社のERM-自然災害リスク管理を中心に-
第9章 保険会社によるERM関連情報の開示
第10章 CROによるERM論

第10章の「CRO」はSOMPOホールディングスの伊豆原さんです。SOMPOホールディングスはIR資料や有価証券報告書でERM関連情報を積極的に開示している会社ですが、本章は同社のERMについての考え方がよく理解できる内容となっていて、興味深く拝見しました。

私が担当したのは第9章で、5年前に執筆したものを多少改訂したものです。多少の改訂ですんでしまったのは、この間、日本では上場保険グループによる投資家向けの任意開示を除き、ERM関連情報の開示にほとんど進展がなかったことを意味しています。経済価値ベースのソルベンシー規制の方向性が示されたことですし、数年後には進展がみられることを期待しています。

※秋ですね。

 

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保険会社にとっての「重要なリスク」とは

インシュアランス生保版(2020年8月号第2集)に執筆したコラムです。
有価証券報告書で思い出しましたが、今年はまだ保険会社のディスクロージャー誌が出揃っていませんね(8月26日現在)。

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大手保険会社では、保有するリスクを各社の内部モデルを使って可能なかぎり定量的に把握し、経営体力としての自己資本(時価ベース)と対比したうえで、リスクの取り方をコントロールする実務が定着している。このうち3メガ損保グループでは、数年前からリスク量と資本のバランスとともに、リスク量の内訳を公表している。これを見ると、自然災害に伴う多額の保険金支払いなど、一見大きそうに見える損害保険(保険引受)のリスクよりも、多額の政策保有株式に代表される資産運用関連リスクや生命保険事業の金利変動リスクが大きいという実態がわかる。

他方、昨今のコーポレート・ガバナンス改革の一環として記述情報(非財務情報)の開示の充実が求められるようになり、有価証券報告書のリスク情報の記載に変化が見られるようになった。3メガ損保グループの有価証券報告書には、いずれもグループ経営に重大な影響を及ぼすとして特定したリスクが載るようになり、従来のいわば「考えられるリスクの羅列」から一変した。

特に高く評価したいのはSOMPOホールディングスの開示である。同社は特定した27の重大リスクを公表するだけではなく、それぞれのリスクを発生可能性と影響度を評価した「ヒートマップ」として図示し、さらにリスクへの対応状況を説明している。
ヒートマップを見ると、発生可能性は中程度(100年に1回以上)だが、発生した際の影響が極めて大きい(経済的損失で言えば5千億円以上)リスクとして、「経済環境の悪化」「パンデミック」を挙げている。後者の「パンデミック」には、もちろん新型コロナウイルス感染症が及ぼす影響が含まれている。注意したいのは、ここで示されているのは新型コロナ禍としてすでに実現している損失ではなく、これから起こりうる影響であるということだ。同社では「リーマンショック級の市場変動」「企業倒産の増加等の環境変化による支払い拡大」「経済停滞に伴う保険需要の減少や損害率の変化等」「各事業の継続に不可欠な業務の中断」といった多方面かつ長期にわたる影響を想定し、対応を進めていることがわかる。

この2つに比べれば影響度はそこまで大きくはない(経済的損失で言えば500憶円以上)10のリスクのうち、発生可能性が比較的大きい(10年に1回またはそれ以上)ものとして「大型システム開発プロジェクトの遅延等」を挙げ、発生可能性の評価不能なリスクとして「顧客情報漏えい」「サイバー集積リスク」を挙げている。大型システム開発の影響がここまで大きいとは意外に感じるかもしれないが、まさに経営を左右する投資ということになる。

こうしたリスクプロファイルの把握が経営にどう生かされるのか、私たちは対話を通じて確認していく必要があるだろう。
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※この夏もフルーツかき氷を味わうことができました♪

 

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有価証券報告書の新たな開示

inswatch Vol.1041(2020.7.13)に寄稿した記事のご紹介です。
定性的な開示は定量的な開示と合わせて見ることで理解が深まりますね。

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上場会社の有価証券報告書に「事業等のリスク」という項目があります。従来の記載は、いわば「考えられるリスクの羅列」となっていて、あまり参考にならなかったのですが、昨今のコーポレート・ガバナンス改革の一環として次年度から開示の充実が求められるようになり、前倒しで記載内容を見直す動きがあります。
主な上場保険グループの「事業等のリスク」を確認してみましょう。

東京海上ホールディングス

従来とは異なり、最初にグループ経営におけるリスク管理の考え方(リスクベース経営)を説明したうえで、定性的リスク管理と定量的リスク管理に分け、それぞれ図表を使って具体的な取り組みを紹介しています。
なかでも定性的リスク管理では、これまでのリスクの羅列ではなく、経営レベルで論議し、特定した11の「重要なリスク」と、それぞれにおける主な想定シナリオを示しています。

MS&ADインシュアランスグループホールディングス

前半でリスク管理方針とその体制、ERMをベースにしたグループ経営について説明し、後半でグループの主要なリスクを紹介しています。
定量的な記載が少ないという感もありますが、後半の主要なリスクでは、経営が管理すべきリスクとしてとらえている「グループ重要リスク」に加え、経営が認識すべき「グループエマージングリスク」についての言及もありました。

SOMPOホールディングス

従来のリスクの羅列から記載内容が一変しました。最初にリスク管理の全体像(戦略的リスク経営)を示し、次に、具体的にどのようなリスクコントロールを行っているかを説明しています。自己資本管理についてはコントロール手法だけでなく、実際の管理状況も数値で示しています(決算説明資料でも開示)。
主要なリスクの記載も充実しました。「重大リスク」を示すだけでなく、ヒートマップ(発生可能性・影響度)を使ったリスクの評価を行ったうえで、対応状況の説明があり、さらに新型コロナ関連の記載も別途見られます。

第一生命ホールディングス

経営に重要な影響を及ぼす可能性のある予見可能なリスクとして選定した「重要なリスク」とその選定プロセスの説明が加わりましたが、従来の記載内容と大きく変わってはいません。
他方で第一生命ホールディングスは、決算説明会で定量的なリスクプロファイルや今後のリスクテイク方針の詳細な説明を行っており(説明資料は同社サイトで公表)、次年度は有価証券報告書の記載内容もさらに充実するのではないでしょうか。

T&Dホールディングス

もともと他社よりも記載内容が充実しており、中核生保子会社の事業基盤や収支構造、規制内容に関する具体的な説明までありました。
今回はリスク管理体制に関する説明を加え、あとは従来のものをやや簡素化したという内容です。おそらく次年度にはより充実した記載内容となることが期待されます。

ソニーフィナンシャルホールディングス

記載の形式は従来どおり、リスクを羅列していくものでした。ただし、新型コロナ関連に加え、ソニーによる完全子会社化が計画されているため、記載内容にはかなりの変化が見られました。

かんぽ生命保険

今回から主なリスクを「最も重要なリスク」「重要なリスク」「上記以外のリスク」に分けて開示するようになりました。
記載内容には一定の役職以上の執行役に対するアンケート結果や、リスク管理委員会・経営会議での協議結果などが反映されているとのことで、全部で21ページにも及びます。

いかがでしたでしょうか。せっかく上場会社がコストをかけて開示を充実しても、利用されなければ意味がありません。保険会社のステークホルダーは投資家だけでなく、保険販売にかかわる皆さんも、保険会社の従業員も含まれますので、これらの情報を保険会社(特に経営者)との対話に使ってみてはいかがでしょうか。
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※大学の周辺には池がいくつもあります。

 

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パンデミックのリスク

保険会社がパンデミックや感染症について予め想定していたのかどうか、上場保険グループの「事業等のリスク」を2018年度の有価証券報告書で確認してみました。

生損保で傾向にちがい

興味深いことに、生保を中心としたグループと損保を中心としたグループで傾向が異なっていました。
生保を中心としたグループでは、主に大規模災害に関するリスクとして、感染症の流行に伴う多額の保険金等の支払い発生をリスクとしてとらえています
(第一生命HDでは資産の流動性リスクについても触れています)。

生保にかぎらず、有価証券報告書の記載がグループのリスク管理とどこまで整合的なのかという疑問はありますが、日経新聞のインタビュー記事によると、第一生命では「感染症のストレステストとして、新型インフルエンザで入院患者200万人、死亡者数64万人の想定で、保険金の支払いに問題がないかをシミュレーションしている」そうです。

他方、損保を中心としたグループでは、主に事業中断に関するリスクとして、パンデミック発生時の事業中断をリスクとして取り上げています。
ただし、東京海上HDでは特定した11の重要なリスクの1つにパンデミックがあり、経済的損失額や発生頻度といった要素だけではなく、業務継続性やレピュテーションの要素も加えて総合的に評価を行っているとのことです(MS&AD HDでは「新型(強毒性)インフルエンザ大流行」が2019年度のグループ重要リスクの1つとなっています)。

このシナリオを想定していたか

新型コロナウィルス流行が保険会社経営に与える影響は、パンデミック発生時のストレスシナリオとして各社が考えていたものよりも、はるかに複合的であり、かつ、継続的と言えるのではないでしょうか。
多額の事業中断リスク等を補償として引き受けていれば別ですが、生損保ともに保険金等の支払いで苦しむような事態はおそらくなさそうです(ただし、金融市場変動の影響により損失を被るおそれは多々あります)。

もっとも、ここまではいわば想定どおりですが、新型コロナの流行は世界的に広がっていて、事業を各地に分散していても逃げ場がありません。しかも、流行が収まるまで一定の時間がかかり、その間は役職員や保険代理店の行動が制約されるうえ、そもそも社会全体で行動が抑えられてしまいました。
今になって思えば、そこまで想定したストレスシナリオが必要だったということになりますね。リスク管理は奥が深いです。

※学生が全くいないキャンパスです
 (許可を得て入構しています)

 

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