03. 保険市場の動向

国がちがえば主力商品もちがう

inswatch Vol.1019(2020.2.10)に寄稿した記事をご紹介します。
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ドイツ生保市場の変化

保険の国際的な規制を決めるIAIS(保険監督者国際機構)で2017年まで事務局長を務めた河合美宏さんが最近、日本経済新聞(電子版)へ寄稿した文章のなかで、ドイツでは低金利と新たな健全性規制への対応として、生保業界の主力商品が変化したという紹介がありました。
伝統的な利率保証のある長期の貯蓄性商品(養老保険や個人年金保険)から、利率保証が限定(既払い保険料のみ保証)される一方で、伝統的な商品よりも高いリターンが期待できる「ハイブリッド年金保険」という投資性商品にシフトしたというのですね。

主力は個人年金

ドイツ生保の商品構成については、金融庁の「経済価値ベースのソルベンシー規制等に関する有識者会議」第3回の資料に掲載されています。
資料によると、ドイツ生保は定期保険や就業不能保険などの保障性商品も取り扱っているものの、個人年金のように老後に備えた貯蓄性商品を中心に提供していることがわかります。ユニットリンク型(変額型)は意外に普及しておらず、その点は日本と共通しているようです。

これに対し、日本で個人年金保険は生保の主力と言えるほど提供されていません。例えば、2018年度の個人分野の新契約年換算保険料(約3兆円)のうち、個人年金保険は17%(0.5兆円)を占めるにすぎません。新契約件数では、個人分野に占める割合は6%まで下がります。
保険料収入や新契約件数などを総合的にみて、日本の生保市場は死亡保障や生前給付保障、医療保障といった保障性商品が中心と言えるでしょう。

生保市場は地域性が強い

ドイツ以外の国でも、生保といえば貯蓄性商品(または投資性商品)というところは多いようです。
例えば、イギリスで生命保険といえば一時払いの個人年金保険ですし、最低保証のない変額タイプの商品や実績配当型の商品が多くなっています。年金開始前(ペンション)と開始後(アニュイティ)で商品が分かれているのも特徴です。米国も保険料収入で見れば個人年金保険の割合が大きく、大手生保グループの多くは自らを金融サービス事業者と規定しています(他方で米国では健康保険を民間保険会社が提供)。

生保市場は地域性が強く、国や地域によって特性がかなり異なっています(これは販売チャネルについても言えることです)。主力商品をちょっと比べただけでも、同じ「生命保険」「生命保険会社」とはいえ、日本の常識が世界でも同じとは限らないことがよくわかります。
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※大人の修学旅行 in 歌舞伎町。
 由緒あるバーにおじゃましました。

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

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わりかん保険

日本でもP2P保険がデビュー

インシュアテックのスタートアップ企業であるjustInCase(ジャストインケース)が28日に「わりかん保険」の取り扱いを始めました。
日本初のP2P保険ということで、IT技術を利用した助け合いの実現と、保険料が後払い(かつ低廉)なのが従来の保険にはない特徴です。
政府のサンドボックス制度を活用した実証実験の案件でもあります。

相互宝の加入者は1億人

P2P保険は日本では初めての試みですが、中国には「相互宝」などの成功事例があり、ジャストインケースも参考にしたそうです。
相互宝はアリババグループ傘下のアント・フィナンシャルが運営するP2P保険で、がんを含む重大疾病保障を提供しています。アリペイ(スマホ決済)で加入を受け付けたところ、サービスを始めてからわずか1年間で加入者数が1億人を超えました。
(ちなみにライバルのテンセントは「水滴互助」というP2P保険を提供しており、こちらも加入者が8000万人に達しているそうです)。

若年層に受け入れられるか

「相互宝」が短期間にこれだけ多くの加入者を獲得したのは、アリペイという中国で最も普及した決済プラットフォームを活用したサービスだからでしょう。相互宝では加入手続きも保険料の支払いも給付金の受け取りも、すべてアリババ経済圏のプラットフォームで完結します。
ジャストインケースはこうしたプラットフォームを持たない代わりに、提携企業の力を借りることで加入者を集めようとしています。まずはこの1年間が勝負なのでしょうね。

「相互宝」の存在意義は、会員向けに安い保障を提供している点だけでなく、これまで保険加入機会がなかった層(農村や地方都市に住む層)に保障を提供しているところです。
ジャストインケースの価格設定をみると、やはり保険加入機会に乏しい若年層を取り込もうとしているように見えます。
確かに、助け合いを感じられる仕組みや運営の透明さは、今の20代、30代にフィットしているようです。今の若い人たちは、「がんになった加入者がいなかったので、保険料がゼロ円だった」よりも、「がんになった加入者が○人いたので、保険料をみんなで××円ずつシェアした」という体験のほうに価値を感じるかもしれませんね。

※梅が咲いていました。大倉山公園です。

 

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自賠責保険の値下げ

先週、自賠責保険の料率引き下げについて某テレビ局から取材の打診があったのですが、あえなくキャンセルとなってしまいました
(取材を受けたのに使われなかったという話ではありません)。
せっかくなので、備忘録としてここでも少し書いておこうかと思います。

基準料率を16.4%引き下げ

自賠責保険の基準料率は4月から16.4%下がることになりました。報道によると、平均して年2000円程度の値下げとなるそうです。

内訳は次のとおり。
 <純保険料>
 水準是正による改定:△8.5%
 滞留資金活用による改定:△14.1%
 <付加保険料>
 社費(人件費、物件費など):△1.7%
 代理店手数料:+3.8%

詳しくはこちら(自賠責保険審議会)をご覧ください。

自賠責は値下げ、任意は値上げ

自賠責保険の料率が下がる一方で、任意の自動車保険の料率は上昇傾向にあります。
23日の日経には、「損保大手4社(東京海上日動火災保険、損害保険ジャパン日本興亜、三井住友海上火災保険、あいおいニッセイ同和損害保険)の任意加入の自動車保険料は1月に約3%の水準で引き上げられた」とありました。

同じ自動車保険なのに、どうして反対の動きなのかというと、補償内容がちがうからですね。
自賠責保険は対人賠償責任(死亡と傷害)のみ補償するのに対し、任意の自動車保険は対人賠償のほか、対物賠償、人身傷害・搭乗者傷害、車両の損害と広くカバーします。

2017年度に支払われた任意保険の保険金のうち、対人賠償は19%にすぎず、対物賠償と車両保険で全体の70%を占めていました。
損害保険料率算出機構によると、対物賠償の保険金の約5割、車両保険の保険金の約8割が修理費とのこと。最近の自動車には安全装置など高価な部品が増えているので、死亡事故は減っているのですが、支払い1件あたりの修理費は増加傾向が続き、これが任意保険の料率に影響しています。

昨年10月の消費増税も任意保険の料率引き上げ要因です。
保険料に消費税はかかりませんが、修理費には消費税がかかるので、増税分を値上げしなければ、保険会社の負担がかさんでしまいます。

人口減の影響はこれから

こうしてみると、当面は任意保険の料率引き下げは考えにくそうですが、人口動態を踏まえると、これまで概ね横ばいだった契約台数が減少基調に向かい、収入保険料の増加は徐々に厳しくなると見られます。
これまでの10年間は、総人口が2008年をピークに減少に転じたとはいえ、自動車保険の加入対象である18歳以上の人口は増加基調でした。しかし、今後は減少に転じますし、増えるのは75歳以上人口なので、車を運転できなくなる人も増えていきます。

しかも、1世帯あたりの保有台数の伸びはすでに止まっています。「一家に一台から一人一台へ」という流れは2007年ころまでの話であって、この10年間は世帯当たりの台数が横ばいのまま、軽自動車へのシフトが続いています。

企業向け自動車保険は人口動態よりも景気動向に左右されますが、個人向けに関しては厳しいマクロ環境が見込まれます。

※写真は日産スタジアムです。

 

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企業向け損害保険

開示情報が少ない

15日付の日経朝刊に載った3メガ損保グループのトップインタビュー(有料会員限定)を読むと、3人のうち2人が企業向け保険の料率が低いことを示唆するコメントをしていました。

柄沢社長(MS&AD HD)「火災保険は老朽化が問題で、インフラを更新したところは保険料を下げていく。(中略)企業の防災体制によっては大幅な値上げが必要になる」

桜田社長(SOMPO HD)「日本の企業保険は世界的にみて保険料が競争的すぎる。背景には、様々な保険の損益を顧客ごとに合算している面がある」

同じ火災保険でも、個人向けと企業向けではリスク特性が異なりますので、それぞれを分析したいのですが、残念ながら情報開示が非常に少なく、企業向けの保険料が競争的と言われても、確認するすべがないというのが現状です。
ディスクロージャー誌でわかる企業向け保険の情報は、賠償責任保険(収支やロストライアングルを開示)くらいではないでしょうか。

算出機構のデータ

業界全体の火災保険については、損害保険料率算出機構の火災保険・地震保険の概況に新契約の件数と保険料が出ているので、一般物件および工場物件の過去8年分の推移を確認してみました。

これによると、新契約件数が2012年度から2015年度あたりまで年々増加し、単価(保険料÷件数)も上昇傾向だったことがわかりました。2011年に東日本大震災やタイ大洪水があり、その後、保険を購入する企業が増え、料率も引き上げやすかったのかもしれません。
もっと過去にさかのぼりたいのですが、残念ながら算出機構のサイトで確認できたのは過去8年分だけでした。

スイス再保険のレポート

企業向け損害保険に関する情報を探していたら、スイス再保険の「日本の企業向け保険市場(PDF)」というレポートを見つけました。

これによると、日本の企業保険の元受保険料は4.5兆円で、日本の損保市場の48%を占めているとのこと。48%はやや高いような気もしますが、そこはスイス再保険の知見なのでしょう。

2017年度は企業保険の約4割(40.2%)を自動車保険(自賠責を含む)が占め、賠償責任保険(19.6%)、企業向け財物保険(18.4%)と続きます。
市場の特徴としては、「自然災害へのエクスポージャーが高い」「保険付保が不十分な日本企業が多く、とりわけ事業中断リスクへの備えが不足している」「多くの日本企業では、リスク軽減を目的とするリスク評価と対策のベストプラクティスを構築できていない」などとありました。

※今年も香川のお雑煮をいただきました。
 白味噌にあんこ入りのお餅です。

 

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FPジャーナルに登場

日本FP協会の会報『FPジャーナル』10月号に登場しました。特集記事の「保険業界の最新動向と今後の見通しを探る(生命保険)」で私のコメントがいくつか使われています。
ただ、いま読み返してみると、やや舌足らずなところもあるので(すみません)、若干補足してみましょう。

生保市場は縮小?

冒頭に「ここ数年、生保市場は縮小しているイメージがありますが、実際はそうではありません」とあり、保有契約年換算保険料が右肩上がりで推移していることを紹介しました。
ここで言いたかったのは、生保に集まるお金が増えている(伸びたのは主に貯蓄性商品なので)ということですが、同時にこの図表からは、一般に成長市場とみられている第三分野の年換算保険料が意外に伸びていないこともわかります(記事ではそこまでコメントしていません)。

本格的な人口減少はこれから

「これまでは人口構成の変化に対応してきましたが、人口の総数が減っていく中で今後、生保業界にとって厳しい経営環境となると考えられます」というコメントにも補足が必要かもしれません。
人口構成の推移を見ると、これまでの10年、20年は、確かに生保がターゲットとしてきた保障中核層(30~40代)は縮小したものの、その上の世代はむしろ増えていましたので、ターゲットをシニア層に広げることで事業を展開することができました。しかし、これからの10年、20年は、高齢シニア層を除けばどの層も人口が減っていくという未体験の世界に突入するので、「厳しい経営環境となる」とコメントしました。
高齢化の推移と将来推計(PDF)

他の金融商品とのちがい

「株主はともかく、契約者にとって生保会社の成長は絶対ではありません」「経営リスクを抑え、経営の健全性を保ってくれればよく、契約者やFPの方々としては安全性を監督(監視…植村注)することが重要です」というコメントも、やや極端に見えたかもしれません。
これは読者がFPなので、他の金融商品とはちがい、保険では契約者が保険会社の信用リスクを負っているということを伝えようとしたものです。加入先の生保会社が破綻すると、契約者は何らかの不利益を被ります。

※お地蔵さまが縄でしばられていました。

 

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保険法のシンポジウム

インシュアランス生保版(2019年9月号第4集)にコラムを執筆しましたので、ご紹介します。
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保険学会で登壇

10月26、27日に関西大学で開催される日本保険学会の全国大会で、シンポジウム「保険法10年の経験と今後の課題」に登壇することになった。

おそらく読者の皆さんがコンプライアンス等で意識する法律としてまず頭に浮かぶのは保険業法であろう。保険業法は保険会社に対する監督について定めたものであり、保険契約者等の保護を目的としているが、契約当事者間のルールについて定めたものではない。これに対し、08年に制定された保険法は保険契約に関する一般的なルールを定めたもので、「保険契約の締結から終了までの間における、保険契約における関係者の権利義務等が定められている」(生命保険文化センターHPより引用)。
もっとも、保険法にも保険契約者等の保護が規定され、これらは片面的強行規定(法律の規定よりも保険契約者等に不利な内容の約款の定めを無効とする規定)とされているので、契約者保護という点で両者は共通したところがある。

保険市場の変化

保険契約の締結という観点から過去10年間の保険市場を振り返ると、銀行や保険ショップといった、保険会社から実質的に独立した販売チャネルの台頭と、16年の改正保険業法の施行により、保険会社に加えて保険募集人も対象にした新たな保険募集の基本的ルールが創設されたことが挙げられよう。

例えば、生命保険文化センター「生命保険に関する全国実態調査(平成30年度)」によると、直近加入契約の加入チャネルが大きく変化したことが示されている。営業職員チャネルが最大シェアであることに変わりはないが、平成21年調査の68%から平成30年調査では54%に低下した。その一方で、銀行・証券会社・保険代理店を合計すると、9%だったものが23%まで拡大した(いずれもかんぽ生命を除く)。
1社専属で保険専業の営業職員と、他の金融商品とともに保険も提供する銀行、あるいは消費者の比較ニーズに応える形で品ぞろえを誇る保険ショップでは、同じ保険者(保険会社)と保険契約者の契約であっても、その距離感は異なるだろう。10年前に制定された保険法はこうした市場の変化に対応したものとなっているだろうか。

次の10年

さらに、次の10年間を踏まえると、技術革新の進展による影響を無視できない。もしビックデータ等の活用により、情報の非対称性(保険会社は加入者の情報を知らない)が限りなく解消するとしたら、告知の有無を問う必要がなくなるかもしれないし、むしろ保険会社がリスクを保険料率にきちんと反映しているかどうか(不当に高い保険料となっていないか)が問われるのかもしれない。
契約者同士でグループを作り、リスクをシェアするP2P保険のように、これまでの保険契約法では想定していないようなサービスも登場しつつある。

シンポジウムではこうした過去および将来の保険市場の変化について、実務家として議論のたたき台を示せればと考えている。
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少短保険会社への行政処分

ペッツファーストへの行政処分

金融庁の「実践と方針」に、「検査・監督の過程において、法令等に定められた最低基準についての不備が複数の業者に認められ」「根本原因の一つとして、業者において適切なガバナンスが働かず、業容拡大が最優先とされた状況が認められた」とあったので、具体的な内容を知りたいと思っていたところ、5月のエイ・ワン少額短期保険への行政処分に続き、ペッツファースト少額短期保険への行政処分が公表されました。

内容は「決算状況表等の虚偽記載」ですが、読むと信じられないようなことが書いてあります
(以下は私が要約したもの)。

・当社で唯一、保険会社に勤務経験のある代表取締役に業務全般を任せきりにしている。
・代表取締役は、自らが試算したソルベンシー・マージン比率が健全性基準を下回ることが判明したため、架空の契約データを作成し、意図的に未経過保険料を過大計上し、ソルベンシー・マージン比率をかさ上げした。
・決算業務を担当している経営管理部は、データと証拠書類の突合を行っていない。
・内部監査担当は、決算業務に係る監査を行っていない。
・保険計理人や非常勤監査役も、十分な検証を行っていない。

同社には10月18日から3か月間の業務停止命令が出されるとともに、業務改善命令が出されました。
少額短期保険会社は年々増えており、すでに100社を超えました。しかし、このような経営管理レベルの会社も含まれているということを、残念ながら認識しておく必要がありそうです。

認可特定保険業に関する新たな動き

関連して、知人から気になるニュースを耳にしました。
少額短期保険業は、根拠法のない共済への対応として、2005年の保険業法改正で誕生しました。根拠法のない共済は、保険会社になるか、少額短期保険会社になるか、あるいは廃業するかを迫られました。
ただ、その後(2010年)の保険業法改正で「認可特定保険業」という制度ができ、保険会社にも少額短期保険会社にも移行していなかったところが、「当分の間」認可特定保険業者として保険業を続けることができるようになりました
(公益法人として保険事業を行っていたところも対象)。

認可特定保険業には新規参入はできません。ところが報道(有料会員限定)によると、中小企業向けの労働災害の共済に新規参入を認める法案を通そうという動きがあるとのこと。
認可特定保険業を将来的にどうするかという課題をそのままにしたうえで、特定分野だけに新たな共済事業を認めるようにする(行政はおそらく金融庁ではないのでしょう)というのは、にわかに理解しがたいものがありますね。

※お参りした甲斐がありました。

 

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損保代理店の現状

4-6月期決算の分析はこれからということで、今回は別の話題を。
日本損害保険協会が7月30日に発表した2018年度の損害保険代理店統計を確認してみました。

緩やかな減少が続く

2018年度末の代理店数は18.0万店で、緩やかな減少傾向が続いています。
2000年代に比べ、2010年代の減少ペースが緩やかなのは、廃止となる代理店が2000年代よりも少ないためです。
保険会社の再編が進んだ2000年代の代理店廃止率(=前期末代理店数に対する廃止数の割合)は毎年10%台前半でした。しかし、2010年代は概ね8、9%程度で推移していて、保険業法の改正を受けて代理店の淘汰が加速しているということは今のところなさそうです。

代理店の集約が進んだことで、1店当たりの保険料は拡大傾向が続いています。
代理店数と代理店扱いの元受保険料を単純に比べると、2009年度に3386万円だったものが、2018年度は4901万円となりました。専業代理店1店当たりの募集従事者数も6.0人(2009年度)から9.3人(2018年度)となっています。
ただし、一部の大型代理店が数値を押し上げているのか、あるいは全体として大型化が進んでいるのかは、これらの統計だけでは何とも言えないところです。

新設代理店の減少

他方で、新設代理店数が1万店を割り込んでしまった(8935店)という気になるデータもありました。
代理店の新設率(=前期末代理店数に対する新設数の割合)は、委託型募集人制度の廃止という特殊要因があった2014年度を除き、6%前後で推移してきましたが、2017年度は5.2%に下がり、2018年度はさらに4.8%に下がってしまいました。

保険会社による乗合代理店の買収や、流通大手に代表される異業種からの新規参入が時々ニュースとなりますが、いずれも資金力を持つ大手企業によるものです。
新たに損保代理店をやろうという事業者は、数としては少なくなっていることがうかがえます。

※写真は横浜・みなとみらいです。

 

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終身保障の現状

inswatch Vol.989(2019.7.15)に寄稿したものです。
7月7日のブログの続きと言えるかもしれません。
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新たな健全性規制を懸念する声

金融庁が検討している新たな健全性規制について生保業界から、「規制の数値目標の達成を目指す行動が、顧客の期待に反するものになりかねない」「契約期間の長い終身保険などは販売の見直しにつながる可能性がある」など、新たな健全性規制の導入によって長期の保障が提供できなくなるという声が出ているようです(7月5日の日経新聞から引用)。
新規制が長期の生保商品に与える影響に関するコメントは私のブログをご覧いただくとして、規制導入への懸念を表明するほど保険会社は長期の保障を提供しているのでしょうか。

終身保険は主力商品と言えるか

長期保障の典型は終身保険です。過去10年間の個人保険の種類別新契約件数の推移を確認すると、終身保険は常に全体の2割前後を占め、医療保険とともに生保商品の主力であるように見えます。
2018年度の終身保険シェアは18%と、前年度から2ポイント下がりましたが、これは定期保険の販売が好調だったため(経営者向け保険でしょうか?)で、終身保険の新契約件数はほぼ横ばいでした。

しかし、このなかには主に銀行などで提供されている一時払いの終身保険が含まれています。各社の資料等からざくっと推測すると、全体の1/3~半分近くを占めると思われます。これらは終身保障ニーズへの対応というよりは、預金代替の貯蓄性商品として販売されていて、顧客はシニア層が多いとみられます。しかも、円金利の低下を受けて、一時払い終身保険の大半は外貨建てです。
残る終身保険についても、国内系生保の場合、主力商品の定期化(10年更新など)が一段と進んでいて、顧客に提供する保障パッケージのなかに、終身保険部分の保険金額は数十万円のみというケースも珍しくありません。例えば、ある大手生保の平均保険金額は51万円でした(2017年度の終身保険)。

個人年金保険も長期の保険ですが、終身の個人年金保険はあまり売れていないようです。
個人年金全体の新契約件数も縮小気味で、2018年度の個人年金保険の新契約100万件(外貨建てや変額年金を含む)は10年前の2/3、ピーク時の1/3です。

以上を踏まえると、外部環境(特に超低金利)の制約から、多くの会社はすでに長期の保障ニーズを満たすような生命保険・個人年金保険をあまり提供していない(特に円建てでは)というのが実態のようです。

終身医療保険への疑問

医療保険にも終身タイプが多いと考えられます。定期タイプを更新していくのと比べると、終身タイプは保険料が上がらないのがメリットと受け止められているようです。
こちらも終身保障ということで、金利低下の影響を受けるのは確かです。しかし、終身保険とはちがい、多くの会社が終身医療保険を提供し続けているのは、発生率の変動に備えた保守的な料率となっていることや、「解約返戻金がない」「保険料が終身払い」といったことなどが関係しています。

ただ、顧客本位に考えた場合、終身医療保険は本当にニーズにかなったものなのでしょうか。
死亡保険や個人年金とは違い、医療保険は時間がたつと技術革新などにより保障内容が陳腐化してしまいます(毎年新たな医療保険が次々に登場していますよね)。かつては主流だった入院時の保障を主眼とした終身医療保険に加入した人は、その後の変化(例えば入院日数の短期化など)に直面しても、変化によるメリットを享受するには、基本的に今の保険を解約して新たな医療保険に入り直すしかありません。
しかも、単品商品の大半が無配当なので、保守的な料率を設定した結果、発生した危険差益の還元を受けることもできません。

だいぶ前に疑問を呈したことがあるのですが、医療保険といえば終身医療保険というのは一見顧客ニーズを反映しているようで、実は会社にとって都合がいいものとなっているのではと考えてしまいます。
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※今年も慶大で講師を務めました。

 

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生保に資本積み増し促す

5日の日経・金融経済面に「生保に資本積み増し促す 金融庁『低金利』で新規制検討」という記事が出ました。
「金融庁は保険会社に対し、自己資本の積み増しなどを求める新規制の検討に入った」なんて書いてあると、まるで金融庁が近年の金利低下を受けた新たな規制を検討しているみたいですが、そうではなく、2007年の金融庁報告書が示した段階的なソルベンシー規制見直しの第二弾がようやく実現に向かうという話です。

電子版にコメント

実は紙版と電子版では記事が微妙に違っていて、電子版(有料会員限定)には私のコメントが載っています。
紙版ではスペースの関係で最後の部分がカットされてしまったみたいでして、その部分は次のとおりです。
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(前略)キャピタスコンサルティングの植村信保氏は「今後は時価評価を意識した経営管理が求められる」と話す。
一方で業界では反対論も根強い。富国生命保険の鳥居直之取締役は「規制の数値目標の達成を目指す行動が、顧客の期待に反するものになりかねない」と警戒する。規制が先行した欧州の生保では、予定利率を保証する商品の販売停止や保有契約の売却が相次いだ経緯がある。」
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「業界では反対論も根強い」とありますが、すでに多くの保険会社では検討される規制(経済価値ベースのソルベンシー規制)と同じ考え方による経営管理を導入しています。
私のコメントも、「今後は『ますます』時価評価を意識した経営管理が求められる」のほうが正しいのでしょう。

規制強化に備えた動きとして記事で紹介されている日本生命の自己資本強化ですが、清水社長のコメントをよく読むと、将来の規制云々ではなく、金利水準が一段と下がり、それが長続きしそうなので、自己資本を増やすというものです。
第一生命のリスク移転も新たな規制検討を意識したというよりは、経済価値ベースでの経営管理の一環としてリスク削減に取り組んだものです。
第一生命HDのIR資料(PDF)(17~18ページ)

つまり、6月12日のブログなどで書いたように、生保の経営環境は非常に厳しいので、新規制の検討とは別に、資本増強やリスク削減をしないと健全性を維持できないという経営判断があるのだと思います。

長期商品への影響

さらに、この記事で気になったのが、新たな規制が導入されると、「契約期間の長い終身保険などは販売の見直しにつながる可能性がある」「特に契約期間が長い商品では、運用リターンを高められなければ『商品開発が難しくなりかねない』」といった、長期商品の販売見直しについて繰り返し懸念が示されていることです。

でも、本当にそうなのでしょうか。

仮に、「保険金額が1000万円を超える死亡保険の提供を禁止する」「米ドル建て保険の提供を禁止する」といった規制が検討されているのであれば、「1000万円を超える死亡保障ニーズに応じられなくなる」「米ドル建て保障へのニーズに応じられなくなる」という懸念を繰り返すのは理解できます。
しかし、検討されている規制(経済価値ベースのソルベンシー規制)は現行のルールを制限しようというものではありません。現行のソルベンシーマージン比率ではうまく把握できていない保険会社の経営リスクをより捉えられる規制に見直そうというものです。

いわばモノサシの感度をよくしようとする内容なので、新たな規制になると長期商品が提供できないというのであれば、いまでも提供できないはずなのです。
言い換えれば、新たな規制のもとでは提供できないような長期商品を提供している会社は、経営リスクに対し、(おそらくわかっていながら)目をつぶっていることになります。

もし、時間がたてば外部環境がよくなる(=だから経済価値ベースの規制は弊害が大きく、顧客の期待に応えられなくなる)というのであれば、結果としてそのような考えをとっていた生保経営や保険行政が、過去にはどういう結末を迎えたか、破綻した日産生命や協栄生命の事例を私の本などでもう一度確認していただければと思います。

※週末は毎年恒例RINGの会オープンセミナーでした
 (今年は第1部だけの参加となってしまいましたが…)

 

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