東洋経済「IFRS超入門」

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今週の週刊東洋経済はIFRS(国際会計基準)特集でした。
このところ各誌でIFRS特集をしばしば見かけます。

この「IFRS超入門」の目玉の一つに、
各業態への影響についての記事がありました。
「保険」があったので、さっそく読んでみたところ...

まず、「利益が毎期ごとに大幅にブレる可能性が高い」とあります。
資産と負債のミスマッチが大きい会社であれば、それはそうでしょう。
ただ、その次がいけません。

「責任準備金の全社合計は約184兆円。つまり金利が
 わずか0.1%上昇しただけでも、業界全体で1840億円もの
 負債が減少する計算になる」

責任準備金のデュレーションが1年でなければ、
このような計算にはなりませんよね。
それしか動かなければ、みんな苦労しないですみます。
ちなみに全社合計の純資産は5.5兆円です。

「資産と負債とが十分にデュレーション・マッチングしていれば、
 負債が減少(増加)すれば、資産も減少(増加)する。
 負債が減少すれば、自己資本比率は改善する」

十分にデュレーション・マッチングしていれば、
負債が減ったぶんだけ資産も減るので、自己資本にはニュートラルです。
そのためのマッチングでしょうから。
自己資本比率の分母は、もしかしたら総資産でしょうか?
だとしたら、その比率は何を意味するのでしょうか。

いずれにせよ、「マッチングすれば金利上昇で負債が減り、
健全性が高まる」などという説明はおかしいです。

「毎期金利水準によっては大きく変動する利益と、
 その複雑な計算方法を一般の契約者や株主に
 理解してもらうのは難しい」
「少なくとも、純利益ではなく、包括利益の一部として
 計上することを、生保業界は望んでいるようだ」

これを読むと、今は利益が大きく変動しないようにも思えますが、
負債が金利変動の影響を受けない現行会計でも、
例えば損保(=長期の負債が少ない)の決算をみればわかるとおり、
すでに株価や為替動向次第で利益は大きく動いていますよね。
現行会計でも資産価格の変動により利益は大きく動くのです。

なお、私自身はすでに純利益を重視していません。
例えば減損の有無で利益水準が大きく振れてしまうからです。
クレジットアナリストだからと言われてしまうかもしれませんが...

「金融庁はすでに2009年8月にSMR見直し案を公表し、(中略)
 資産・負債が時価によって算出された資本の状況によって
 経営実態を把握し、早期に改善措置を求めていく行政側の動きと、
 今回のIFRSの動きは、内容的には同じようなもの」

これは完全に誤解ですね。
今回の金融庁の見直しはあくまで現行会計に基づいたもので、
負債は取得原価のままです。

もっと早く経済価値ベースの見直しが進むと思っていたのですが、
もう少し時間がかかりそうです。
おそらくIFRSを足並みをそろえた動きになるのでは。

ということで、突っ込みどころ満載だったのですが
(ライターさん、ごめんなさい)、記事にもあるように、
契約者配当や株主配当については確かに悩ましいところです。
もっとも、すでに株式について同じことが言えるのですが...

※写真は新横浜駅前です。丸い歩道橋ができました。

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

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