イールドカーブの低下

 

日本銀行は16日の金融政策決定会合で
追加的な金融緩和措置の実施を見送りました。

ただし、今後とも「物価安定の目標」の実現のために
必要な場合には、「量」・「質」・「金利」の 3 つの次元で、
躊躇なく、追加的な金融緩和措置を講じるとのことです。

「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」により、
金利水準は大きく下がりました(特に超長期ゾーン)。

<財務省:国債金利情報から>
          2015.3.31   2016.3.31   2016.6.16
 10年金利    0.398% ⇒ -0.049% ⇒ -0.208%
                   (-0.447)    (-0.159)
 20年金利    1.133% ⇒  0.441% ⇒  0.103%
                   (-0.692)    (-0.338)
 30年金利    1.357% ⇒  0.547% ⇒  0.148%
                   (-0.810)    (-0.399)
 40年金利    1.464% ⇒  0.632% ⇒  0.194%
                   (-0.832)    (-0.438)

この結果、生保各社が公表するEVは、3月末から
さらに下がってしまいます(大手で▲数千億円?)し、
商品戦略も、もしかしたら抜本的な見直しが必要に
なるのかもしれません。

長期にわたり利率を保証するという点で大変なのは
年金も同じです。

確定給付企業年金の予定利率は2%以上のところが
多いようですから、予定利率を引き下げるところが
増えていくのではないでしょうか。

危うい金融商品なども出回っていそうですよね。

黒田総裁は同日の記者会見で、

「マイナス金利政策の効果は、実体経済面にも徐々に
 波及してきており、今後、より明確になっていくのでは
 ないかと思っています」

と述べ、イールドカーブの引き下げが実質金利を下げ、
実体経済を刺激する効果があるとしています。

これに対し、全国銀行協会の國部会長は16日の会見で、

「足元では、設備投資など企業の前向きな動きは
 まだ出てきていない」

「企業が設備投資をするときには、もちろん金利も一つ
 のファクターであるが、国内で設備投資をする場合は、
 日本経済の期待成長率がある程度見込めないと
 設備投資をしないということだと思う」

とコメント。そもそもマイナス金利政策の波及経路は

「円安あるいは株高という経路によって消費であるとか
 投資を刺激し、実体経済の拡大を狙うものと思っている」

という見方なので、今の円高・株安基調のなかでは
実体経済へのポジティブな影響は期待できないという
ことなのでしょう。

また、金融庁の人事情報を探していたら、麻生大臣が
14日の会見で次のようなコメントをしているのを発見。

「(ヘリコプターマネーに関する質問に対し、)今現在でも
 問題なのは、お金があるないという話ではなく、実体経済に
 おける需要の絶対量が不足しているところが問題なのですから、
 そういった意味で金利を安くしたからといって特に需要がなければ、
 そのお金は生きてこないというのは、これまでで既に証明は
 終わっていると思いますけれども」

失言の多いかたではありますが、これは強烈です。

そうはいっても、2%の物価目標から程遠い現状を見れば、
日銀による「金利も」「量も」という緩和政策は今後も続くのでしょう
(=やめる理由がありません)。

長期の保障を提供する主体にとって非常に厳しい政策だと
いうことを、日銀はどこまで認識しているのでしょうか。

※築地の青果市場です。スイカがたくさんありました。

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

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執筆・講演のご案内など

 

今週は日本銀行の金融政策決定会合ですね
(15日~16日)。
生命保険協会の筒井会長は10日の定例会見で、
「追加緩和策としては、マイナス金利や国債購入枠の
拡大ではなく、ETFの買い入れを増やすことが望ましい」
と語ったそうですが、果たしてどうなるでしょうか。

さて、今回は執筆・講演のご紹介・ご案内です。

【講演】金融ファクシミリ新聞社セミナー

「ソルベンシー規制強化など保険ERM経営を取り巻く
環境の変化と保険業界の対応」というタイトルで
講師を務めます。7月4日(月)の13:30からです。

金融ファクシミリ新聞社のセミナー講師を務めるのは
約3年ぶりとなります。

この間、ソルベンシー規制のほうは、海外を中心に
いろいろな動きが見られました。
保険業界の対応状況はどうなっているのでしょうか。

ご関心のあるかたはこちらをご覧ください。

【執筆】週刊金融財政事情の書評

このところ四半期ごとに書いている「一人一冊」です。
今回は「未来型国家 エストニアの挑戦」をチョイス。
(旅の準備として読んだ本ということがバレバレですね^^)

5月7日のブログでご紹介したように、独立回復後の
エストニアはIT立国化を進め、いまや世界が注目する
デジタル社会を実現しています。

本書がクラウドファンディングによって誕生した
というのも興味深い裏話です。

ところで、今回から書評の掲載場所が変わっていて、
「営業店コーナー」というピンク色のページになりました。
だからといって、編集部から特段のリクエストはなく、
今のところ、どんな本を選んでもいいと言われています
(この書評は評ずる本を自分で選ぶのです)。

【執筆】 weekly inswatch への執筆

保険代理店向けメールマガジンinswatchへの寄稿です。
今回は3メガ損保が国内損保事業の成長性、収益性を
どう見ているのかについて取り上げました。

ここ数年間と違い、収入保険料の伸びは鈍化し、
コンバインドレシオの低下にもあまり期待できない
という厳しい見方をしていることがうかがえました。

月曜配信ですので、機会がありましたらご覧ください。

なお、inswatchのサイトにもバナー広告がありますが、
以前ご紹介した「RINGの会オープンセミナー」の
申込締切が近づいています(6/22まで)。

改正保険業法施行後の保険流通現場の生の情報に
触れるいい機会だと思いますので、こちらもぜひどうぞ。
RINGの会 オープンセミナー

※義父の「歌の発表会」の応援に新宿へ。
 昭和の歌謡曲を堪能(?)しました。

 

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生保の健全性指標

 

前回に続き、生保決算と実態のギャップについて。

2016年3月期決算で最も実態から乖離した指標は
「実質純資産額」(または「実質資産負債差額」)
だったように思います。

この指標はソルベンシー・マージン比率とともに
行政監督上の指標(=早期是正措置の発動基準)
となっていて、もし数値がマイナスとなった場合には、
当局は業務停止命令を出すことができるという
重要度の高い指標です
(ただし、ALMと流動性を考慮した措置があります)。

実質純資産額は時価ベースの資産の合計から
負債の合計(資本性の高い負債を除く)を差し引いて
算出します。

全ての保有区分の有価証券含み損益が反映される
一方、ソルベンシー・マージン比率では支払余力として
考慮される劣後ローンは、こちらでは反映されません。

 参考:生命保険会社のディスクロージャー

2016年3月期決算では、株価下落にもかかわらず、
各社とも実質純資産額が1年前よりも増えました。

例えば明治安田生命の公表資料を見ると、
株式と外国証券の含み損益は▲9378億円でしたが、
実質純資産額は6163億円も増えています。

同社のソルベンシー・マージン比率の分子
(支払余力)は▲3851億円減っているのに、
実質純資産額が増えたのは、全ての保有区分の
公社債含み損益が反映されるためです。

公社債含み損益は全体で約1.5兆円増えています。
その内訳は次の通りです。

 その他有価証券(公社債): +1483億円
 満期保有目的債券     : +3422億円
 責任準備金対応債券   : +1.0兆円

同社にかぎらず、生保が保有する超長期債の多くは
「満期保有目的債券」か「責任準備金対応債券」なので、
日銀のマイナス金利政策を受けた金利低下によって
債券価格が上昇し、実質純資産額を押し上げました。

しかし、生保が超長期債を大量に保有しているのは
超長期の保険負債の金利リスクをコントロールする
ためなので、保有する超長期債の価格が上がり、
実質純資産額が増えたからといって、決して喜ばしい
状況ではありません
(保険負債の価値はもっと増えているので)。

そのことは生保の経営者もよく理解しているはずで、
例えば、昨年から今年にかけて複数の国内系生保が
外部から劣後債務の調達を行い、支払余力の水準を
引き上げようとしていることからもうかがえます。

もっとも、EVやESR(経済価値ベースの資本十分性)を
公表していない会社の場合、金利低下による影響を
外部から判断する手掛かりがほとんどありません。

いくら自己資本の絶対額を示されても、果たして
会社が望ましいと考えている健全性を確保できている
のかどうかわかりませんので、手掛かりとなる情報を
ぜひ開示してもらいたいものです。

※日比谷公園のバラがきれいでした。

 

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生保決算は底堅かった?

 

主要生保の2015年度決算が出そろいました。

今回の決算は、現行会計ベースの各種指標
(基礎利益やソルベンシーマージン比率など)
だけを見ていると、「底堅かった」という見方に
なるようです。

確かに基礎利益を見ると、大手生保4社合計で
約2兆円を確保(特殊要因を除くベース)しており、
前期より減ったとはいえ、▲3%にとどまりました。

しかし、基礎利益が微減だったからといって、
底堅い決算だったと言うのは、私には抵抗があります。

基礎利益 ≒ 三利源なので、危険差益、費差益、
利差損益の合計です。

このうち危険差益と費差益の大半は、過去に獲得した
保有契約から当年度分が計上されます。

ですので、すでに保有契約が大きい会社の場合には、
変額年金の最低保証対応などの特殊要因を除けば、
1年で大きく変わることはありません。

また、利差損益は予定利息と利息配当金等収入の
差額です。キャピタル損益などは含まれませんので、
こちらも保有資産を大幅に動かすようなことがなければ、
急に増えたり減ったりしません。

ですから、基礎利益は前の年から大きく動かないのが
普通であって、マイナス金利政策の影響がほとんど
出てこないのは当然なのです。

貸借対照表やソルベンシーマージン比率にも
マイナス金利政策の影響は限定的にしか出てきません。

負債の大半を占める責任準備金は契約獲得時の
予定利率で評価されています(いわば簿価評価です)し、
保有する超長期債の多くも、やはり簿価評価です。
このため、金利が下がっても動かないのですね。

他方、生保の企業価値の手掛かりとなる指標に
エンベディッド・バリュー(EV)があります。
こちらは次のようになっています
(2016年3月末。いずれもグループベース)。

 日本  非公表
 第一  4.6兆円(前期比▲22.4%)
 住友  2.5兆円(前期比▲31.4%)
 MY   3.4兆円(前期比▲38.0%)
 T&D   1.9兆円(前期比▲17.8%)
 かんぽ 2.7兆円(前期比▲22.4%)

会社により算出手法や前提条件が異なるため
単純に比べることはできませんが、各社とも
EVを大きく減らしていて、普通ではない事態が
発生していることがわかります。

減少の主な要因は金利水準の低下など、
経済前提と実績の差異によるものです。

EVをめぐっては様々な議論があるようですし、
EVだけで判断すべきと言うつもりはありません。

ただ、現行会計ベースではほとんど見えてこない
金利低下による生保経営へのインパクトを知る
手掛かりとして、EVは非常に重要だと思います。

※久しぶりにサントリーホールに行きました。
 右の写真はコンサート前の腹ごしらえ^^

 

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3メガ損保の決算発表から

 

20日に3メガ損保の決算発表がありました。

2014年度までのような株高、円安の恩恵はなく、
国内では自然災害の影響もそこそこありましたが、
各社とも90%台前半のコンバインドレシオを維持し
(国内損保事業)、海外事業も貢献しました。

ただし、自動車保険の台数伸び悩みは変わらず、
9月期に比べると、単価上昇も鈍っているようです。

 TMNF: 台数 +1.5%、単価 +1.8%、保険料 +3.3%
 MSI :  台数 +0.4%、単価 +2.5%、保険料 +3.0%
 ADI :  台数▲1.1%、単価 +2.7%、保険料 +1.5%
 SOMPO:台数▲0.5%、単価 +2.7%、保険料 +2.2%

 *TMNF=東京海上日動、MSI=三井住友海上
  ADI=あいおいニッセイ同和
  SONPO=損保ジャパン日本興亜

火災保険では、10年超の長期契約の販売停止を受け、
昨年9月までの駆け込みの影響が通期でも見られます。

もちろん、下期だけを見れば減収となっています。
特に駆け込みの影響が大きかったMSIとADIの減収が
目立つようです。

なお、いくつかのメディアで、「長期火災が利益を押し上げ」
という趣旨の記事を見かけましたが、これは間違いです。

確かに長期火災の収入保険料は大きいのですが、
未経過部分(付加保険料を含む)を責任準備金として
繰り入れる必要があります。他方で代理店手数料は
保険料に比例して支払われるため、当期の会計利益は
むしろマイナスとなってしまうのです
(異常危険準備金の繰入負担もありますね)。

金利低下の影響についても見てみましょう。
損保事業は金利低下の影響を受けにくそうですが、
メガ損保はいずれも生保を中核事業の一つとしており、
金利低下が無視できない状況となっているようです。

例えば、東京海上Gの事業別利益を見ると、
2015年度の国内生保事業は▲1881億円でした。
あんしん生命のMCEVが金利低下の影響を受け、
大きく減ったことが主因です。

また、SOMPOでは内部管理用のリスク量の内訳を
公表しており、ひまわり生命のMCEVと併せて見ると、
国内生保事業の健全性が急低下したことがわかります
(MCEV/リスク量の数値を推計)。

いずれも会計利益にはほとんど表れないとはいえ、
金利低下がメガ損保にとってマイナスに効いていることが
うかがえます。

※エストニアの列車はオレンジ色の最新型でした(写真左)。
 右の高速船に乗ると、フィンランドから2時間弱で到着です。

 

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長寿生存保険

 

2016年3月期の生保決算が発表されつつあります。
マイナス金利政策による超長期金利の低下を受けて、
各社ともEVが減っているようです。

さて、今回は決算ではなく、日本生命が4月に発売した
「ニッセイ長寿生存保険」を批判する記事について。

記事の言う、「生命保険業界内で物議を醸している」
という話はともかく、このような誤った理解が広がるのは
不幸なので、取り上げることにしました。

記事のタイトルは、「日本生命、ボロ儲けか…平均寿命で
死ぬと契約者が約5百万円損する保険販売」。

記事のエッセンスは次のようなものです。

・平均寿命まで生きた場合でも、年金の受取総額は
 保険料の支払い総額よりも少なく、損失が出る。

・5年保証期間以降に亡くなると、死亡保険金などの
 支払いは一切行われず、ギャンブル的要素が強い。

・契約者が自らの寿命を賭けて一か八かの勝負をする
 ような保険であり、胴元となる日生がボロ儲けを狙って
 いると疑われてもおかしくない。

この記事を書いたライターのかたには、長寿への備え、
イコール貯蓄という思い込みがあるようです。
ですから、払い込んだ保険料を平均寿命になっても
回収できないのはとんでもない、となるのでしょう。

しかし、日本生命がニュースリリースで説明するように、
この保険のコンセプトは「長生きしたら支払う」というもの。
貯蓄で備えようという商品ではないのですね。
長寿生存保険のリリース(PDF)

一般的な生命保険(死亡保障)では、万一死亡した際、
遺族に保険金が支払われます。

加入者は死亡リスクへの備えとして保険に入るので、
もし契約期間内に死亡せず、保険金を受け取れなくても、
「保険料を支払ったのに保険金を受け取れないのは
おかしい」とはならないわけです(終身保険を除く)。

これに対し、この保険は万一、想定外に長生きした場合
年金が支払われるもので、長生きリスクへの備えです。

加入者は、例えば90歳を超えて長生きした場合の備え
として保険に入るのであって、遺族保障は目的外です。
長生きしなければ受け取れない(5年保証部分を除く)のは、
この保険の目的を考えると当然なのです。

ですから、年金の受取総額と保険料の支払い総額を
比べるという発想がそもそも違うのですね。

もちろん、長生きリスクに対し、貯蓄で備える方法も
あります(というか普通に行われています)。

しかし、自分が何歳まで生きるかわからないので、
多め多めにお金を貯めておく必要があり、結果として
多額の貯金を残して亡くなることになってしまいます。

そう考えると、貯蓄ではなく、いわば掛け捨ての保険で
想定外に長生きするリスクに備えようという発想は、
きわめて合理的ではないでしょうか。

よりシンプルな商品を考えれば、例えば90歳を超えたら
保険金を受け取れるような、掛け捨ての保険なのでしょう。

もっとも、記事にあるように、「長生きしなければ保険金が
一切受け取れないのは、自らの寿命を賭けたギャンブル」
という見方は根強いのかもしれません。

「私は長生きする自信がないから入らない」という声も
聞こえてきそうです。

ただ、同じことを死亡保障で考えてみると、
「私は〇歳までは死にそうにないから入らない」
と言っていることになります。

自動車保険だと、「私は事故を起こさないから入らない」
ということになりますね。

保険とはそういうものです。

リスクが無視できるほど小さい(あるいは自力で対応可能)
と思えば、わざわざ保険に入る必要はありませんし、
リスクが無視できないと思うのであれば入ったほうがいい、
そのような判断になるのではないでしょうか。

老後破産という話もしばしば耳にするなか、貯蓄以外に
長生きリスクに備える商品があるのは歓迎すべきことだと
私は思います。

この商品を批判するのであれば、何らかの根拠の元で、
「長生きリスクを過大に見積もった料率になっている」
というのならわかりますが、払い込んだ保険料の総額と
受け取る年金総額を比べて「元が取れない」という
批判をするのは的外れでしょうね。

ちなみに、この保険で5年保証期間を設けているのは、
何ももらえないという不満を少しでも解消するためでしょう
(そうでないと当局が認可しなかったのかもしれません)。

長寿リスク対応だけであれば、例えば80歳くらいまでは
給付が何もなくてもいいのかもしれませんが、
そこまで長寿リスク対応に徹した商品ではありません。

なお、解約返戻金が低い期間を設けることで、
年金財源を少しでも大きくしようとしているのも注目です。

※左の写真はエストニアの国会議事堂、右は中央銀行です。

 

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エストニア再訪

 

連休を利用し、バルト三国のエストニアを訪れました。

エストニアはフィンランドのすぐ南にあります。
ヘルシンキから高速船でわずか1時間半ほどで
エストニアの首都タリンに到着しました。

タイトルに「再訪」とあるように、私は独立回復直後の
1992年秋にエストニアを訪問しています。

当時のエストニアは旧ソ連から独立を回復したものの、
物がない、お金(外貨)がない、ガスもないという状況。
ひどいインフレで、確か空港で2万円ほど両替したら、
札束を二つも渡されました。

その後エストニアは民主化と市場経済化を着実に進め、
特にITとバイオに集中することで、経済を立て直します。
2004年には目標だったEU加盟を実現させました。
さらに、2011年には通貨としてユーロを導入しています。

短期間の旅行者でも、この24年間でエストニアが
大きく変化したことがわかりました。

前回は札束を抱えての旅でしたが、今回はカードがメイン。
もちろんキャッシュも使えますが、クレジットカードは
どの店でも、少額でも簡単に使えました
(ただし、残念ながらJCBはあまり普及していないようです)。

また、交通機関などはネット決済のほうが有利でした。
IT立国化を進めているだけあって、どこでもネットが使えます。
ITインフラが生活の一部となっているようです
(エストニアではオンライン選挙も実現しています)。

 
左の写真は24年前のスーパーマーケット。
同じような場所に今はショッピングセンターがありました
(首都タリンではなく、大学町タルトゥです)。

 
(タルトゥの中心街。同じ場所です)

 
(同じくタルトゥ。行列のできる本屋だったところが、託児施設になっていました)

治安は格段によくなったように感じます。
当時は町を歩くと、ヒマそうにした人たちが大勢いて、
雰囲気はいまひとつでした。

暗くなったら外を歩かないほうがいいとも言われました
(11月だったので4時には暗くなってしまうのですが...)。

今回は夜10時でも女性が一人で普通に歩いていました。
日本とあまり変わらないレベルではないでしょうか。
治安だけでなく、食事も格段においしくなりました。

他方で、あまり変わっていないこともあります。

当時、建物の老朽化は進んでいましたが、
ゴミが少なかったという印象があります。
今回も同じことを感じました。

旧市街の町並みの美しさも変わりません。
タリンでは中世の建物が今も現役です。

ガイドックによると、国民性は「陽気とは言えない」
とのことですが、親切な人たちだと感じます。

目的の建物を探してウロウロしていると、
「何かお探しですか」と声を掛けられました
(何回もありました)。

今回タルトゥ大学で、前回会った先生のお弟子さんと
会えたのも、たまたま案内してくれた方のおかげでした。

 

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標準利率の設定

 

国債利回りがマイナスになったことを受けて、
金融庁は標準利率の算出に関する係数や
ソルベンシーマージン比率のリスク相当額
(予定利率リスク)のリスク係数を整備するそうです。
金融庁のサイトへ

いずれも、これまで設定されていなかった
マイナスゾーンの係数を設けるというもので、
従来の枠組みを大きく変える案ではありません。

まあ、標準利率がマイナスになり得る点は
過去にない大きな変化なのかもしれません…

予定利率リスクのほうから取り上げると、
今回の案によれば、予定利率が0%以下の部分は
リスク係数が0なので、予定利率リスクが存在しない
ということになります。

とはいえ、経済価値ベースのソルベンシー規制を
検討しているなかで、このような対応となるのは
わからないでもありません。

他方、標準利率については、安全率の整備に
とどまらず、指標となる国債利回りについても
見直すという考えはなかったのでしょうか。

今のルールでは、指標となる国債利回りは
一部を除き、10年国債利回りです。

他方、大手生保の保有する公社債の7、8割は
10年超の超長期国債であって、10年国債を
ALMの中心に据えている会社はありません。

つまり、生保のALMと責任準備金のルールが
ズレてしまっているのですね。

こうなってくると、責任準備金が積み上がる商品を
今後も提供し続けるのかという話になってきます。

週刊ダイヤモンドでも書きましたが、
マイナス金利は生保の資産運用面だけではなく、
営業戦略への影響も大きいことがわかります。

※写真は台北郊外にある三峡の町並みです。
 「牛角」というクロワッサン風のパンが名物だとか。

 

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台北でスピーチ

 

先週は台北で開催された保険会社のセーフティネット
(日本では保険契約者保護機構)の国際組織が主催する
会議に出席し、スピーチを行いました。
IFIGSのサイトへ

会議の前半は保険会社の経営破綻がテーマでした。

私は、過去の日本の生保破綻の経験を伝えるとともに、
超低金利下における生保の経営戦略(資産運用と商品)
を説明しました。

他にもオーストラリア当局のかたが、2001年に破綻した
HIH社の話をしたり、地元台湾の保険安定基金からも
相次ぐ保険会社の経営破綻について紹介があったりと、
興味深い内容が多かったです。

特に台湾では、2009年に生損保2社、2014年に生保2社の
経営が行き詰まり、この1月にも生保が1社破綻しています。

台湾でも歴史的な低金利が続くなかで、ALMを重視せず、
高い利回りを求めてリスクの高い資産運用に走った結果、
うまくいかずに資本不足に陥るケースが多いようです。

そして、背景にはコーポレートガバナンスの問題が
存在するという指摘がありました。

台湾生保が低金利で苦しんでおり、外貨建資産へ傾斜
していると過去にブログで書いたことがあります。
外貨建資産が増加(台湾)

当時に比べ、外貨建負債の割合が増えている会社も
あるようですが、外貨建資産への傾斜は一段と進み、
株式や不動産の割合も日本より高いようです
(長期債市場が未発達という事情もあります)。

また、当局から過去に資本不足を指摘された会社が
その後もなかなか資本増強できていないという話も
聞きました。

ですので、台湾の皆さんから個人的に話を聞くと、
1月の生保破綻が最後とは誰も考えていないようで、
日本の1990年代後半を彷彿させます。

なお、会議の後半は保険会社の破綻処理と
セーフティネットの役割がテーマでした。

・破綻処理をいかにスムースに行うか
 (日本からもPGF生命の根立さんが登壇)

・破綻会社の契約者をどこまで保護すべきか
 (例えば台湾では契約者負担を求めていません)

・保険会社と銀行のセーフティネットの運営主体は
 共通のところがいいか、別々のほうがいいか

などが主な論点に上がっていて、こちらも興味深い
内容ばかりでした。

※休憩時間にはいつもお菓子や果物が並んでいました。

 

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金利低下と退職給付債務

 

熊本地震の被害が広がっており、心が痛みます。
日本は地震の巣なのだと改めて思い知らされました。

ところで、週刊ダイヤモンドの保険特集号が出たようです。
私もマイナス金利政策下での生保経営について
寄稿していますので、機会がありましたらご覧ください。

マイナス金利政策による生保経営への影響といえば、
「保険料の値上げや販売停止」もさることながら、
「超長期の保障提供が難しくなった」、言い換えれば、
「生保のバランスシートが実質的に毀損している」と、
いくつかの媒体でコメントしてきました。

同じような話が、企業の財務を圧迫する要因として
表面化しつつあります。
それは企業の年金・退職金に関するものです。

大和ハウス工業が退職給付債務の割引率変更に
伴う影響額を特別損失として計上する見込みとなり、
2016年3月期決算の業績予想を下方修正しました
13日公表)。

同社は金利市場の動向を受け、主な割引率を
前年の1.7%から0.8%に引き下げたそうです。
この結果、退職給付債務が849億円増えることと
なりました。

14日の日経によると、同社は期間20~30年程度の
超長期債券を基準に割引率を決めているとのこと。

11日にはLIXILグループも業績予想の修正を公表し、
そのなかで国内子会社の退職給付債務に関して
金利低下に伴い損失が発生すると示しています。

12日の日経によると、同社は20年国債利回りなどを
参考に割引率を決めており、前年の1.6%から下げた
ことで、約100億円の営業損失が発生した模様です。

この2社は、前年の割引率がやや高かったうえ、
債務の増加分(正確には「数理計算上の差異」)を
発生時に一括償却する会計処理を採用しているため、
決算への影響が大きくなっています。

数理計算上の差異を数年かけて処理する会社では
決算への影響はそこまで大きく出ないとは思いますが、
金利低下で退職給付債務が膨らむ点は同じなので、
あとは会計処理が異なるだけです。

生保の保険負債も、企業の退職給付債務も、
将来の支払いに備えた準備という点は共通なので、
会計への影響は区々とはいえ、金利水準が下がると、
現時点で認識すべき債務が増えてしまうことが
おわかりいただけるのではないかと思います。

※軽井沢の万平ホテルです。宿泊は初めてでした。

 

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