05. 金融・経済全般

『決戦!株主総会』

話題の書籍『決戦!株主総会 ドキュメント LIXIL死闘の8カ月』を読みました。
LIXILの件は全くフォローしていなかったので、本書を読んで、ワンマン実力者の影響力を排し、コーポレートガバナンスを機能させるのがいかに難しいかを思い知らされた気がします。

<以下ネタバレあり>

東芝もそうでしたが、LIXILもガバナンスが機能しやすいとされる指名委員会等設置会社でした。しかし、指名委員会や取締役会のメンバーを自分に近い人材で固めることで、創業家出身の実力者は思い通りにならないプロ経営者の首を切ることができてしまいます。
株主総会で会社提案および株主提案の取締役候補を選ぶとした場面でも、ISSやグラスルイスといった議決権行使助言会社は独立社外取締役の数が多いほどいいといった、形式面を重視する姿勢を示しました。

政府主導のガバナンス改革により、2014年には約2割しかなかった「2名以上の独立社外取締役を選任した上場会社」が、短期間のうちに100%近い水準となりました。指名委員会等設置会社は引き続き少ないものの、今や全体の6割以上の上場会社が指名委員会を設置しています。
とはいえ、「社長やCEOが意中の人物を呼び出して、『後は君に任せるから』と言い、それを取締役会が追認する。日本企業の後継者選びはほとんどがそんなプロセスを辿るのだろう」(本書342ページ)というのは、例えば日経新聞の「私の履歴書」を見ていてもうかがえます。当たり前なのかもしれませんが、形だけではガバナンスは機能しないということですね。

「あとがきに代えて」で著者は、2019年の株主総会後にLIXILのガバナンス改革が進んだ要因として、次の3つを挙げています。

・創業家出身の実力者に連なる取締役が一掃されたこと
・「名ばかり社外取締役」ではなく、役割を正しく理解し、自ら手足を動かす社外取締役の存在
・指名委員や社外取締役を、執行部を含む従業員が信頼していること

問題を抱えた会社では、まずは1つめをどうやって達成するか、ですねの。

※写真は「海に最も近い駅」と言われる島原鉄道・大三東駅です。

 

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ゼロゼロ融資・42兆円の反動

元首相の銃殺というショッキングな事件が起きてしまいました。ご冥福をお祈りするとともに、私たちの社会が妙な方向に進んでいかないことを願います。

さて、以前から親交のある一橋大学の安田行宏先生がNHKクローズアップ現代に出演するということで、なぜかドキドキしながら番組を観ました
(放送は7/6でした。13日まで見逃し配信中です)。

番組の概要はこちらのサイトのとおりですが、政府による異例の中小企業政策(特に2020年5月に民間金融機関まで広げたこと)が企業と金融機関のモラルハザードを引き起こし、結局のところ国民が負担する可能性が高いのだと理解しました。

「企業にとっては借りやすい分、本来の身の丈に合わない額まで融資を受けてしまう可能性があるといいます。金融機関にとっても、確実に融資を回収できて利子も稼げるので、今の低金利時代においてゼロゼロ融資は“恵みの雨”といえます」
(安田先生のコメント部分を引用)

番組では、大阪信用保証協会による経営サポートの取り組みや、金融機関どうしの連携で貸付先の経営改善を図る動きを紹介していました。とはいえ、コロナ前から総じて経営状態の厳しい金融機関を、全くリスクを負うことのない形でゼロゼロ融資に参加させたことが危機対応として正しかったのか、国民負担が実現してしまった際には検証が必要でしょう。
そもそも長年にわたり法人税を払わないような中小企業が数多く存続できているというのが正常ではないと思います。番組でも「ゾンビ企業」というワードが出ていましたね。

※JR九州の特急「A列車で行こう」に乗りました。

 

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最新の金融システムレポート

日本銀行が21日に公表した「金融システムレポート」に、ウクライナ情勢が日本の金融システムに及ぼす影響というBOX(巻末のコラム)がありました。
本邦金融機関のロシア向け与信残高は71億ドルと限定的(トップ3はフランス、イタリア、オーストリア)で、ドルを中心とした外貨資金繰りに特段の問題はみられず、ロシア関連の債券・株式の保有も少ないことから、現時点では影響は限られているという結論でした。
もちろん、先行きには大きな不確実性があるとも述べていて、サイバー攻撃の増加にも注意が必要とのことでした。

レポートの本編で今回私が気になったのは、地域金融機関が投資信託の残高を引き続き積み増していることと(本編19ページ)、今さらではありますが、上場銀行のPBRが0.5倍を下回る水準で低迷していること(同70ページ)、つまり、株式市場からの評価が極端に低いことの2つでした。

投資信託のうち、増加が目立つのは「マルチアセット」だそうです。レポートによると「保有投資信託のうち5割程度が、海外金利系投資信託と海外金利を主たるリスクファクターとするマルチアセット型投資信託となっている」「(マルチアセット型は)リスク量の変動を適時に把握することが難しいほか、市場の変動が大きいストレス局面では、必ずしもリスク分散の効果が十分に発揮されなかった事例もみられている」とのことで、「利息配当金の増収を企図して」という発想だとしたら、ちょっと心配ですね。

金融システムレポートには「ハイライト」や「概要」もあり、本編の全体像を知りたい方はこちらが便利です。金融分野の勉強をしている学生の皆さんにも、このレポートは(簡単ではないけど)おすすめです。

※藤の花がきれいでした。

 

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日経フィナンシャルほか

連日のウクライナ危機のニュースには心が痛みます。保険会社への影響ですが、経済制裁は補償の対象外でしょうし、保険会社のロシア向け与信が大きいとも考えにくいので、まずは、金融市場動揺による影響が気掛かりです。

日経フィナンシャルに投稿

金融ビジネス向けの有料媒体である日経フィナンシャル(NIKKEI Financial)に寄稿した記事が3月8日に掲載されました。題名は「生保決算報道、『真の経営状態』に軸足を」です。

・新聞は生保決算の何を報じてきたか
・「保険料等収入」「基礎利益」が意味するもの
・誰のための報道なのか

本ブログの読者にはこれらの見出しだけでも概ね内容がわかってしまうかもしれません(笑)
とはいえ、これまでの日経フィナンシャルへの寄稿(3回)のうち、「新聞報道を批判する記事をよく日経が載せましたね」などと、これまでで反響が一番多かったです。機会がありましたらぜひご覧ください。
果たして5月の各紙の生保決算報道はどのようなものとなるのでしょうか。

決算公告の実施会社「わずか1.5%」

東京商工リサーチによると、2021年に官報で決算公告した株式会社は全体の1.5%だったそうです。
株式会社は会社法で毎年、決算公告を行う義務があります(罰則規定もあります)。ところが、254万社ある株式会社のうち、わずか4万社しか公告を行っていないというのですね。資本金の小さい株式会社の公告割合が極端に低いことから、東京商工リサーチは「小規模事業者の情報開示への認識が低い」としています。
すべての中小企業に決算公告の義務を課すべきかどうかという議論はありそうですが、少なくとも今の法令で決まっているにもかかわらず、法令違反を当局が何年も黙認しているのはどうしてなのでしょう。
この話(法人税のいびつな構造)とも関係しているのでしょうか。

※八女(やめ)福島の町並みです。静かなところでした。

 

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国民健康保険の発祥地

日経新聞の電子版で、国民健康保険のルーツが福岡にあるという記事(「健康保険、江戸期の互助が源(有料会員限定)」を読み、散歩がてら訪れてみました。場所は福岡市からほど近い、福津市です。

こちらのコラム(「発足80年を迎えた国保の大改革」)によると、国民健康保険の発祥地とされている場所は福津市のほか、埼玉県越谷市、山形県戸沢村にもあり、それぞれ由来があるとのこと。共通しているのは、昭和の初期に当時の内務省社会局が農村の支援策として公的医療保険の整備を検討していた際、これらの地域にはすでに相互扶助の取り組みが存在していて、内務省はこれらを参考にしたということです。

福津市など宗像地区には定礼(じょうれい)という仕組みがありました。福津市の図書館で見つけた「やさしい福間町の歴史」によると、この仕組みは、医者に定まった収入を約束して無医村となるのを防ぎ、貧しい人でも治療代の支払いを心配しないで医者にかかることができるようにするために始まったもので、江戸時代後期の天保年間(1830~43)までさかのぼれます。
内務省が調査した昭和初期の定礼は、各家から玄米を集め、それを診療所の医者に差し出せば、1年間無料で治療を受けられました。村のほとんどの人が加入していて、豊かな人は多くの米を提供し、貧しい人は少しの米を出せばよかったとか。

同じ定礼でも地区によって多少の違いがありました。写真の石碑がある手光・津丸地区では、明治時代に地区の人々が米を出し合って村立の医院を作り、医者を招いたそうです。他にも次のような記述がありました。

「明治時代から昭和時代にわたる60数年間、定礼医として親子2代の医師が、貧しさに耐えて医療奉仕をしてくれました(畦町地区)」

「他のほとんどの地区には1人の定礼医がいたので、村人は自由に医者を選ぶことができませんでした。しかし、内殿地区は無医村のため、他の地区の好きな医者を選んで診てもらうことができました」「他の地区のように米を出し合って治療代を負担してもらうのではなく、お金を出し合った中から自分の治療代の3割を補助してもらい、残りは自己負担でした」

(いずれも「やさしい福間町の歴史」より)

定礼は村人どうしの相互扶助というだけではなく、医師の生活保障という面もあったと考えられます。国民健康保険のルーツの1つがこのような制度だったとは、大変興味深いですね。

 

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経営者の「逃走」を止める

日経新聞の朝刊に「やさしい経済学」というコラムがあるのをご存じでしょうか(経済教室と同じ面です)。経済に関するテーマを研究者が何回かに分けてわかりやすく解説するというもので、執筆者によっては「やさしくない経済学」だったりもします(個人の感想です^^)。

8月17日からは東京都立大学の松田千恵子さんによる「新時代の企業統治」が始まりました。松田先生はかつて格付会社ムーディーズでアナリストだったかたで、2011年から現在の大学(当時は首都大学東京)を拠点に活躍されています。
1回あたり800字程度しかないコラムでコーポレートガバナンスの解説を行うのは、自分だったら途方に暮れてしまいそうですが、各回とも充実した内容で、かつ、大変わかりやすくて参考になります。

19日のコラム(3回目)では近年の日本のガバナンス改革について触れ、

 守りのガバナンス:経営者の「暴走」を止める
 攻めのガバナンス:経営者の「逃走」を止める

とありました。「逃走」という表現はこれまで思いつかなかったので、社外取締役の経験も豊富な松田先生ならではの表現なのかもしれません。そういえば松田先生は以前、別のコラムで「社外取締役」という言葉のおかしさについても書いていました。

「それ(=社外取締役という言葉)が意味を持つのは、終身雇用の下で『ウチの論理』が通用する身内を大事にしてきた企業だけだ」(2018年12月25日の日経夕刊コラム「十字路」より引用)

今回の連載はこれまでのところ、(1)経営者の暴走を防ぐ仕組み、(2)従業員を律する内部統制、(3)「攻め」の経営で成長促す、(4)未分化だった「監督」と「執行」、と続いてきました。おそらく全10回ですので、後半のコラムも楽しみにしたいと思います。

※今シーズンも各種かき氷を美味しくいただきました♪

 

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法人税のいびつな構造

今回のブログはインシュアランス生保版(2021年8月号第1集)に執筆したコラムのご紹介です(見出しはブログのオリジナルです)。
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国の税収が過去最高を更新

財務省によると、2020年度の国の税収総額が前の年度を4%上回り、過去最高を更新した。コロナショックの影響で名目GDPが4%も減ったにもかかわらず、法人税は増え、19年10月の税率引き上げ効果もあって消費税も増えた。もっとも、一般会計の歳出はコロナ対応もあって税収の2倍に膨れ上がっていて、増収効果は霞んでしまっている。

名目GDPが減っても法人税が増えたのは、「携帯電話やゲーム、自動車、食品といった産業の業績が好調」「米国や中国などの景気回復の恩恵もあり、製造業を中心に業績は底堅い」(いずれも日本経済新聞より引用)とのこと。08年のリーマンショック後には法人税が大きく落ち込んだのとは対照的である。新型コロナの影響で観光業や飲食業を中心に売り上げが大きく落ち込み、各種の中小企業支援策が実行されている状況なのに、「業績が底堅い」とはどういうことなのか。
推測を含むが、今回のコロナショックで影響を受けた中小企業は、もともと法人税をあまり納めていなかったので、税収への影響が小さかったと考えると、納得がいく。

誰が法人税を納めているか

最近公表された国税庁による令和元年度分の会社標本調査によると、利益計上法人は全体(274万社)の38%にすぎず、6割以上が欠損法人である。しかも、当年度の法人税11兆円のうち、会社数では0.6%にすぎない資本金1億円超の法人が約5割を負担し、資本金5千万円超(会社数では2.5%)まで広げると約6割を負担している。つまり、法人税の多くを負担しているのは少数の大企業であり、中小企業は法人税をあまり納めていないという実態が浮かび上がる。

このところ欠損法人の割合は年々下がっている。12年度には70%だったものが、19年度は61%となった。ただし、この間の変化は景気回復による業績の改善を示しているというよりは、高齢化に伴う廃業のほか、国税庁の尽力により、節税対策が年々難しくなってきたことも大きいように思う。経営者の皆さんにも心当たりがあるかもしれない。それでも6割の企業が法人税を納めていないというのはまともな状態ではない。

適切な支援のあり方は

こうした法人税のいびつな構造を踏まえると、政府が税収を増やすには中小企業への補助金的な支援ではなく大企業の生産性向上を支援し、かつ、消費税を支払う消費者を支援するのが合理的という結論になる。おそらく財務省はそんなことはわかっているのだろうけど、政治からの要請もあり、何かあると「中小企業支援」となってしまうのだろう。
見込みを上回った税収も、経済対策として多くが中小企業向けに使われてしまいかねない(国債の償還財源となる分を除く)。給与天引きによって確実に税金を徴収される勤め人のひがみに聞こえるかもしれないが、実際に誰が税金を納めているかを明確に示し、そのうえで税金の使い道を議論してほしい。
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※写真はハウステンボスの夜景です

 

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なぜ「他社の経営経験」なのか

7月16日(金)に日本代協 阪神ブロックWebセミナーで講師を務めました。
演題は「2020年度決算にみる大手損保グループの経営戦略」で、大手損保グループの経営が依然として市場環境の変動によって大きく振れることや、損保4社の各種指標の違いなどをご覧いただいたうえで、中期経営計画の注目点をお話ししました。いかがでしたでしょうか。

阪神ブロックといってもzoomを使ったセミナーだったので、私は福岡でスピーチを行いましたし、おそらく参加者の皆さんも各地に広がっていたのではないかと思います。懇親の場がなく、参加者の反応がわからないのは残念ですが、便利な時代になりました。

社外取締役の要件

最近、授業でコーポレートガバナンスの話をしていて、改めて気になったことがあります。
現在のコーポレートガバナンス・コードの補充原則4-11①の最後に、「独立社外取締役には、他社での経営経験を有する者を含めるべきである」とあるのをご存じでしょうか。2021年6月の改訂時に加わった文言です。
CGコード(修正履歴付きPDF)

改訂について議論したフォローアップ会議の資料によると、「独立社外取締役には、企業が経営環境の変化を見通し、経営戦略に反映させる上で、より重要な役割を果たすことが求められるため、他社での経営経験を有する者を含めることが肝要」なのだそうです。
しかし、そもそも日本のコーポレートガバナンス改革は、会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上を目指すものであり、その背景には日本企業の経営陣が適切なリスクテイクをせず、株主に求められる資本コストを上回るリターンを総じて稼げておらず、世界に差をつけられてしまっていることがあります。それなのに「他社の経営経験を有する者を含めるのが肝要」とはどういうことでしょうか。
他社の経営経験者となると、多くの場合、日本企業の社長OBなどが候補になることを想定しているのでしょう(CEO等の経験者に限られるという趣旨ではないとはありますけど…)。しかし、過去30年間の日本の経営が総じてうまくいかなかったから、政府がガバナンス改革を進めているのですよね。どうしてこのような改訂になったのでしょうか。

なお、ガバナンス特集を組んだ週刊東洋経済(2021年7月10日号)のインタビュー記事で、東レの日覺社長は「(企業によって事業や状況は全く異なるので)よその経営経験者に社外取をお願いして経営方針を相談し、「いい意見をもらった」と喜ぶトップがいるのならば、そのトップはすごくレベルが低いから今すぐ辞めたほうがいい」と語っていました。
日覺社長は「会社の大事なことは社外の人間ではなく、事業をよく理解している社内の人間で話し合って決めるべきだ」とも語っていて、私の問題意識とはやや異なるようですが、社外取締役に何を期待するのかを考えると「他社の経営経験を有する者を含めるのが肝要」という結論にならない点は同じでした。

※15分の船旅を楽しみました。

 

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ガバナンス強化で稼ぐ力を高めるには

いきなり理屈っぽい話で恐縮ですが、企業価値を測るには、ファイナンス理論では将来キャッシュフローを資本コストで割り引いて算出します。将来キャッシュフローはその企業が事業から生み出すであろう「稼ぎ」であり、資本コスト(株主資本コスト)は事業のリスクに応じて株主が要求するリターンです。

ですから、例えば第一生命グループが最近、リスクテイクのあり方を変えることで資本コストの低下を目指すという経営計画を打ち出したのは、「分子の期待値は下がってしまうかもしれないけれど、それよりも分母を小さくすることができれば企業価値が高まる」という考えに基づくものだと考えられます。

これに対し、ここ数年、政府主導で進んできた日本のガバナンス改革は、分子の稼ぐ力を高めることを目指してきました。いわゆる「攻めのガバナンス」です。とはいえ、ガバナンス改革が分子・分母どちらに働きかけることになるかは、実証分析の蓄積を待たないと、何とも言えないように思います。

例えば、東証一部では2名以上の独立社外取締役を選任する会社が、2014年度の約2割から、今や9割を超えています。監査等委員会設置会社も増え、経営における監督と執行の分離が(少なくとも形としては)だいぶ浸透してきました。
しかし、社外取締役は総じてその会社が強みとするビジネスモデルに精通しているわけではないため、株主が社外取締役に期待するのは分子を高める役割よりも、まずは不祥事の防止など分母を下げる役割を期待するかもしれません。
あるいは、もし社外取締役のアドバイスを受けた経営陣がリターンの追及に舵を切ろうとしても、株主はそれを求めるかもしれませんが、他のステークホルダーは過度なリスクテイクだとして、リターンの追及にブレーキをかけようとするかもしれません。

そう考えると、ガバナンスの強化によって分子の将来キャッシュフローを高めるには、経営陣が常にリスクを意識した経営を行うこと、つまり、リスク・リターン・資本の3つを同時にコントロールして、それをきちんと説明できることが大前提となります。ガバナンスの強化とリスクマネジメントの高度化はセットで取り組むべきです。
少なくとも、リスクマネジャーを置かず、保険を相変わらず人事部や総務部で手配しているような会社では、攻めのガバナンスは期待できないし、やるべきでもないということですね。

※写真は博多駅です。

 

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選ばない消費者

キャピタスコンサルティングの保険チーム3人で執筆した『経済価値ベースの保険ERMの本質』の第2版が出ました。
初版の発行からまだ4年弱しかたっていませんが、経済価値ベースのソルベンシー規制導入を提言した金融庁有識者会議報告書の発表(2020年)を受け、新たな記述を加えることができました。ご覧いただければ幸いです。

さて、少し前の日経MJ(日経流通新聞)に「選ばない消費者」の話が出ていて、思わず目を留めました(5月12日付)。
今の若い世代は欲しい情報をネットで検索して収集するのではなく、アルゴリズムによって自らの嗜好に合った情報がSNSで提供されるので、検索しなくても自然と集まった情報のなかから欲しいものを購入する「選ばない消費者」となりつつあるそうです。

昔はテレビなどのマスメディアから受動的に情報を得ていた消費者が、ネットの出現により「比べて購入」が一般的になりました。保険の購入もそうですよね。かつては職場や家庭を訪れた保険募集人から話を聞き、おすすめプランを購入するだけだったものが、ネットの比較サイトなどで事前に調べてから保険募集人の話を聞く(あるいは事後的に調べる)のが当たり前となりました。

ところが時代が進み、私たちは日々スマホで膨大な情報に接するようになり、欲しい情報を探し当てるのが難しくなっています。どこかに情報はあるのだけど、見つけるにはそれなりに労力がかかりますし、疲れます。
そのようななかで、SNSはAIを使って利用者の好みを把握し、好みに合った情報を優先的に示しますので、利用者はいちいち検索しなくても欲しい情報が手に入る、すなわち、「選ばない消費者」が登場するというわけです。
偏った情報しか目に触れることがないというのは私にはかなり抵抗がありますが、SNSネイティブの世代にはむしろ心地よく感じるのかもしれません。

※近所のお店でマリトッツォを発見。思わず衝動買いしてしまいました。

 

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