先週の週刊金融財政事情(2022.3.22)は「激動の生保業界」という名の特集で、インタビュー記事2本(住友生命・高田社長、金融庁・池田保険課長)と、経済価値ベースのソルベンシー規制に関する論考(あずさ監査法人の高橋隆司さん)、営業職員チャネルのデジタル化と新規制対応(編集部)、そして金融庁による外貨建て保険の共通KPIの解説という構成でした。
(先ほどようやく読みました ^^;)。
インタビュー記事のなかでは、いずれも人口減少と生保経営が取り上げられていたのですが、へそ曲がりな私にはどこかしっくりきませんでした。
人口減少によるマーケット縮小への対策として、住友生命の高田社長は「人口減少の局面においてもマーケットの広がりは一定期間見込めるだろう」としたうえで、「保険ビジネスと親和性がある新規事業や海外の保険事業など、将来的な収益源を補う収益事業の展開についても検討している」「(長期的な経営戦略について)当社としては国内事業を盤石にし、相互にシナジーを生み出せる企業や国があれば、出資を検討していくスタンスだ」と述べています。
株式会社の経営者であれば、こうしたコメントに違和感はありません。ただし、住友生命は相互会社です。会社価値の拡大を強く求めるであろう株主は存在しません。海外事業などでリスクを取って成長を追求するような経営戦略をとるのであれば、さまざまな考え方があるなかで、なぜこうしたスタンスをとるのかを語っていただきたかったですし、新たな収益事業の果実を既契約者にどう還元するかについても話してほしいです。
他方、金融庁の池田課長は、「とりわけ人口減少への対応に注目している」と述べ、「人口減少問題を経営レベルで真剣に議論している生命保険会社は少ない印象だ」「(中略)従来の中期経営計画のタイムスパンを超えた、もっと長期のメガトレンドを踏まえて、『いまからどんな手を打っていくべきか』を真剣に議論してほしい」と語っています。
確かに生命保険会社の経営者であれば、長期のメガトレンドを踏まえて自分たちが長期的にどうありたいかを考えるべきだと思います。しかし、それはあくまで経営の話であって、契約者の保護や、(保険業法にはありませんが)金融システムの安定という観点からも重要というのであれば、その説明が必要だと思います。
生命保険は公的年金のような賦課方式ではなく、責任準備金をきちんと積み立てていれば、新契約が細っても経営が揺らぐことはありません。金融庁では大数の法則が効きにくくなるほどの人口減少を想定しているのでしょうか。
仮に人口がイタリア並みの6千万人になれば、今のプレーヤーが全て生き残っているとは考えにくい(だからこそ経営者としては長期戦略が重要)ですが、金融庁にとって重要なのは保険会社ではなく契約者なので、会社の数が減っても、契約者が不利益を被らなければ問題ないはずです。
もしかしたら、金融庁は契約者への還元重視に監督の軸足を変えたのでしょうか。産業としての生命保険業が縮小すると、契約者への還元も期待できなくなるので、それなら理解できなくもありません。
せっかくのインタビューなのですから、金融庁として「とりわけ人口減少への対応に注目している」と言うのであれば、単に人口が減るから経営を真剣に考えろというのではなく、どうして金融庁がそのような問題意識を持つに至ったのか、なぜ金融庁と保険会社の温度差があるのかを語っていただきたかったです。
※福岡の桜はほぼ満開です。