再保険への理解が進むか

 

報道によると、大手損保3グループの東日本大震災での
支払見込額は6000億円近くに達します(地震保険を除く)。

しかし、公表された正味の支払見込額は2000億円程度です。
差額の約4000億円の大半は再保険でカバーされるのでしょう。

JA共済連の建物更生共済は家計向けの地震リスクを持つので、
JA共済の支払見込額は6500億円に達するとか。

ただ、「農林金融2004・4」によると、「一事故で2500億円を
超える損害部分に対する額について再保険会社から
再保険金が支払われることになっている」そうですから、
スキームが変わっていなければ、やはり正味の支払額は
限られるのでしょう。

再保険というと、一般になじみがないだけでなく、
金融・保険業界関係者や学識経験者の間でも
色眼鏡というか、あまり理解されていないように感じることが
多々ありました。

大成火災が海外再保険取引に伴う損失発生で破綻した事件も
そうした状況に拍車をかけたのかもしれません。

しかし、今回の震災は再保険の重要性を再確認する
いい機会になったのではないでしょうか。

保険会社も再保険を所与のものとして扱うのではなく、
リスク管理のなかにきちんと組み込むようになるといいですね。

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

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主要生保の決算発表

 

主要生保の2011年3月期決算が出そろいました。
報道とは少し違う視点からコメントしてみましょう。

保険料等収入で明治安田生命が第一生命グループを
逆転したことが話題になっていますが、
一時払い商品の販売しだいで大きく変わるので、
あまり意味があるとは思えません。

私が注目したのは営業職員数の減少です。

ここ数年、主要生保は営業職員チャネルの改革に取り組み、
職員を数年かけてじっくり育てる姿勢を打ち出していました。
そのためか、主要生保の営業職員数は2008年3月期を底に
増加傾向にありました。

ところが2011年3月期の職員数は、前期に比べ大きく減っています
(8社合計で21.4万人 → 20.4万人)。
現場で何が起きているのか気になるところです。

震災の影響がそれほど大きくなかったため(?)、
報道ではソルベンシー・マージン比率の新基準も注目されました。

「基準の厳格化 → 株式売却」といった思い込みに近い
報道が目立つなかで、ロイターは一味違う記事を出しています。

記事によると、住友生命は「特別の行動を取ることは考えていない」、
日本生命も「従来のスタンスを大きく変えることなく、資産運用していきたい」
と述べたとのこと。
これを見ると、各社の目線はすでに新基準への対応ではなく、
その先にあることが伺えます。

ロイターのHPへ

他方、「規制強まり体力低下」という見出しをつけたのが朝日新聞。
最もしてほしくない誤解を全国紙がやってしまいました。

比率の算出基準が厳しくなった、つまり、モノサシが変わったのであって、
保険会社の体力が変わったわけではありませんよね。

朝日新聞のHPへ

「従来の基準より6割ほども下がった」、というのも変です。
1000%前後のものが600%前後に下がったのですから、
「4割ほども下がった」あるいは「従来の基準の6割ほどに下がった」
のはず。

あまり難しい話ではないと思うのですが。

※写真は募金活動をしていた宮城県登米市の中学生たちから
 いただいたカードです。修学旅行のプログラムとして
 自分たちで募金活動を企画したとか。いい話ですね。

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

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JARIPフォーラム

開催中に大震災に見舞われ、やむなく中断した
日本保険・年金リスク学会(JARIP)主催のフォーラム
「ソルベンシーⅡと保険会社のERM」ですが、
2カ月たって再度開催することができました(23日)。

今回私はパネリストのほか、恥ずかしながら基調講演を務めました。

パネリストの顔ぶれは、明治大学の松山直樹さんを除けば
週刊金融財政事情の誌上座談会と同じです。
もともとはリアルな座談会の後、誌上座談会に突入する予定でしたが、
これは仕方がありません。

モデレータの森本祐司さんが挙げた論点を再度ご紹介しましょう。

1.ソルベンシーⅡ、特に経済価値ベースの評価を基準にした
  自己資本比率規制が、保険会社のERMにどのような影響を
  与えると考えるか。

2.経済価値ベースの規制の導入=保険会社ERMの進展と
  なるのか?懸念点はないか?

3.ERMのサクセスファクター/望ましいERMの実現に向けて
  優先的に実施すべきは?

私以外のパネリストの皆さんは、実際に保険会社のなかで
ERMを実践している、あるいは実践してきたかたなので、
体験に基づいた話は大変参考になります。

水を飲む気のない馬に、水を飲ませることはできません。
飲む気にさせるにはどうしたらいいか。
いろいろな方法を考えていく必要がありそうです。

ご参考までに、本日(24日)こちらが公表となりましたので、
リンクしておきます。 → 金融庁のHPへ

※あくまで個人的なコメントということでお願いします。

 

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大手損保の決算発表

大手損保3グループの決算発表がありました(19日)。

朝日新聞では決算発表に絡め、
「保険金支払い2.3兆円 震災で損保・共済」
という記事を掲載し、他のメディアも、

「大手損保 震災で赤字や減益に」(NHK)
「東京海上など2社減益 NKSJ赤字転落」(毎日)
「地震保険 重い負担」(産経)

と大震災の影響を報じています。

確かに国内の自然災害による保険金支払額は
過去最大級の見通しですが、大手損保の経営体力には
大きな影響を与えなかったと総括できそうです。

まず、業界全体で9700億円とされる「地震保険」の支払いは
危険準備金を事前に積んでおり、決算へはニュートラルです。

企業向け地震特約など「地震保険」以外の発生保険金は
大手3グループで約2000億円でした。

小さい数字ではないにせよ、過去最大ではありません。
台風災害が頻発した2004年度の発生保険金は
正味ベースで5000億円を超えています。

大震災の発生後、一時的に暴落した株価が戻ったのも
ラッキーでした。
有価証券含み損益への影響はざっと見て▲8500億円程度。
リーマンショックの2008年度は3兆円以上の減少でした。

むしろ心配なのは、自動車保険の収支悪化に
全く歯止めがかからないことです。
自動車保険のコンバインドレシオが100%を下回った
大手損保は1社もなく、軒並み悪化しました。

正味収入保険料(除く自賠責)の5割以上を占める
最大種目である自動車保険の赤字構造が
定着してしまった感があります。

※写真は松崎の旧家です。
 「内国生命病災保険」という会社があったのですね。

 

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一時払終身保険のALM

 

報道によると、明治安田生命の銀行チャネルを通じた
一時払終身保険の収入保険料が1兆円を超えたそうです
(2010年度)。
記事では住友生命や日本生命の商品も紹介されています。

他方、第一生命グループは定額の一時払終身保険ではなく、
同じ一時払いでも変額終身保険に力を入れているとか。
死亡保険金は保証されていますが、解約返戻金は
運用成果に左右されます。

同じ大手生保でも銀行窓販の販売戦略がここまで異なるのは
非常に興味深いですね。

興味深いといえば、記事のなかにも、
「金利上昇時に解約が殺到する可能性が高く、リスク管理が難しい」
とあるように、私も一時払終身保険のALMは気になるところです。

営業職員チャネルによる平準払いの終身保険と違い、
銀行チャネルを通じた一時払終身保険には、
「一時払い」「銀行チャネル」「高齢層」「貯蓄重視」
などの特徴がありそうです。

平準払いの終身保険であれば、予定利率が低い契約でも
おそらく契約者の多くは保障目的で加入しているので、
金利上昇時に解約が殺到する可能性は低いでしょう。

ですから金利リスクを減らすには、マッチング戦略が
基本となるように思います(解約等への考慮も必要ですが)。

他方、銀行に勧められて一時払終身保険に加入した場合、
金利上昇時にどのような行動がとられることになるのでしょう。
解約返戻金が一時払い保険料を上回った状況であれば、
銀行は顧客に他の商品への乗り換えを勧めそうです。

しかし、例えば相続対応として加入した面が強ければ、
思ったほどは解約に動かないのかもしれません。

つまり、保険会社は超長期の金利リスクの管理をしつつ、
顧客の持つ解約オプションにも備える必要があるわけです。
しかも、顧客がそのオプションを行使するかどうかは
金融市場の動向だけでは決まりません。

果たして各社がどのようなALMを構築しているのか、
非常に興味がありますね。

※写真は鶴見川の源流の泉です。
 ボランティアのかたが案内してくれました。

 

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東電のリスク情報の開示

 

決算短信には「事業等のリスク」というリスク情報の開示があり、
「投資者の判断に重要な影響を及ぼす可能性があると考えられる
事項」を記載することになっています。

公的管理下に置かれることになった東京電力の開示を見ると、
原発事故に直接言及するような記述は見当たりませんでした
(2010年3月期)。

ただ、リスク情報の最初の項目である「(1)電気の安定供給」には、

「自然災害、設備事故、テロ等の妨害行為、燃料調達支障などにより、
 長時間・大規模停電等が発生し、安定供給を確保できなくなる可能性
 があります。その場合、復旧等に多額の支出を要し、当社グループの
 業績及び財政状態は影響を受ける可能性があるほか、社会的信用を
 低下させ、円滑な事業運営に影響を与える可能性もあります」

という記載があり、今回の事態はこれに該当すると見るべきでしょうか。

東京電力のHPへ

他の電力会社はどうかというと、例えば中部電力も、
2010年3月期は東京電力と同様でした。
「(3)その他のリスク ①操業トラブル」のなかで、

「地震・台風等の大規模な自然災害、事故やテロ行為等により、
 当社及び当社が受電している他社の供給設備にトラブルが
 発生した場合には、業績は影響を受ける可能性がある」

と書いてあるだけでした。

しかし、2011年3月期には「(2)①供給設備の停止」が設けられ、
原発事故を踏まえた浜岡原発についての記載がありました。

中部電力のHPへ

関西電力は2011年3月期でも、前年とあまり変わっていません。

「⑦操業リスクについて」で、

「台風や地震・津波などの自然災害や事故、コンプライアンス上の
 問題等により、当社の設備および当社が受電している他社の
 電源設備の操業に支障を生じた場合、当社グループの業績は
 影響を受ける可能性があります」

とあるだけです。もっとも、リスク情報の冒頭に、

「今後、東日本大震災を契機とした、経済状況やエネルギー・
 環境政策の変化などの影響を受ける可能性があります」

という記載がありました。

リスク情報は単に投資家のために開示するというよりは、
まずは経営が自社のリスクプロファイルをきちんと把握し、
それを投資家にも開示するというのが本来の姿です。

しかし、電力会社はここで書かれている情報を
経営で活用しているのでしょうか?

「電気の安定供給」「操業トラブル」に記載された内容だけでは、
あまりに粗くて使いようがないと思うのですが。

※今回も伊豆の写真。かつての通勤・通学電車との再会です。

 

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特別勘定の運用利回り

 

大手生保6社の団体年金特別勘定の運用利回りが
2010年度は▲2.64%と、前年度(+18.59%)から
大幅に悪化したそうです(10日の日経)。

国内株式の下落(インデックスでは▲9%)と円高が
主な要因と思われます。

過去5年分の運用利回りは、次の通りです。

 2006年度 + 5.18%
 2007年度 ▲14.81%
 2008年度 ▲22.41%
 2009年度 +18.59%
 2010年度 ▲ 2.64%

参考までに、R&I年金ユニバース・パフォーマンス
(厚生年金基金、企業年金基金等の時間加重収益率)
の推移も見てみましょう。

 2006年度 + 4.55%
 2007年度 ▲ 9.74%
 2008年度 ▲17.02%
 2009年度 +14.18%
 2010年度 ▲ 0.60%

生保特別勘定ほどではないにせよ、こちらも乱高下の激しい
運用成果です。

この記事の見出しには、

 「株価下落、生保離れ加速も」

とありますが、さすがにこれは証拠不十分でしょう。
運用の巧拙を判断するのは意外に?難しいものです。

生保各社はグループ内に投資顧問会社を持っているので、
そこと利回りを比べてみたら面白かったかもしれませんね。

※こいのぼり2題。左は松崎の花畑、右は三鷹台です。

 

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「DENIAL(否認)」

 

GWの読書から。
邦題は「なぜリーダーは『失敗』を認められないか」。

ハーバード・ビジネススクールのリチャード・テドロー教授が、
「否認」が原因で経営危機に陥った有名企業の事例を
紹介しています。

否認とは、ある不愉快な現実に対し、本当ならひどすぎる、
だから本当のはずはない、と考える無意識の心の動き。
しかし、否認しても不都合な現実は消えません。
制御不能なまでに増殖し、企業を根底から覆すことになります。

「目の前の現実を認めない」という態度。
この「否認」は人間の本能の一部であり、
あらゆる個人、あらゆる組織に起こりうる現象です。

本書でテドロー教授は、否認を避けるための
8つの教訓を示しています。
当たり前のことばかりに見えるかもしれませんが、
実際の事例からの分析なので説得力があります。

1.危機を待ってはいけない

2.無視したり、否定したり、理屈をこねたり、ねじ曲げたりしても
  現実は変わらない

3.権力は人を狂わせる

4.最高意思決定者が聞く耳を持つこと

5.長期的な視野に立つ

6.相手をバカにしたり、呼び名をかえたりする傾向には要注意

7.真実を語る

8.たいていの人間は、たとえ間違っていようと
  過去の常識にしがみつこうとする

各章の事例は米国企業とはいえ、フォードやコカコーラ、
IBMなど、有名企業ばかりなので興味深く読めました。

※写真は前回ご紹介した松崎の岩科学校です。

 

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松崎のなまこ壁

 

西伊豆の松崎に行ってきました。
なまこ壁の建物が残っているところです(写真)。

松崎は今でこそ西伊豆の小さな町にすぎず、
私は漁業の町かと思っていたのですが、
明治時代には養蚕業で繁栄した歴史がありました。

古くから早場繭の産地として知られていたようですが、
養蚕業の近代化をはかるため、あの富岡製糸場に学び、
明治9年には松崎製糸場が設立されています。
松崎の早場繭相場は各地の繭価の標準となったそうです。

高価で手間のかかる「なまこ壁」の建物は、
松崎がいかに繁栄していたかを物語っているのですね。

しかし、各地に鉄道網が発達すると、海上交通が主体の松崎は
徐々に競争力を失っていきます。
さらに、関東大震災により横浜で保管中の生糸が被災した
ダメージが大きかったようです。

ところで、話は現代へと変わります。

平成の市町村合併で、南伊豆地区でも6市町村で
合併する構想が持ち上がりました。

かつては1万人を超えていた松崎町の人口は
約7500人まで減っています。
これといった産業はなく、観光客も減少気味です。

伊豆地区最古の小学校が松崎にあり(明治13年完成)、
その建物は国の重要文化財に指定されているのですが、
隣接する小学校は数年前に廃校になってしまいました。

しかし、松崎町の議会は合併を否決してしまいます。
いくつかの組み合わせが浮上し、住民投票も実施
(合併に前向きな声が多数を占めた)しているのですが、
議会は2009年に合併せずという結論を出しました。

一介の旅行者にはわからない事情があるのでしょう。
ただ、シニア層にはかつての繁栄の記憶が強く残っており、
松崎の名前を捨てられなかったという話を聞きました。

町並みの背景にはいろいろなエピソードがあるのですね。

 

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震災後の経済構造の変化

 

少し前の話で恐縮ですが、12日の日経夕刊のコラム
「震災が加速する経済の構造変化」は、
非常によくまとまっていて、頭の整理になりました。
執筆者はJPモルガン証券の菅野雅明さんです。

長い文章を書くほうが大変と思われがちですが、
限られたスペースで簡潔に述べるほうが難しいのですね。

さて、菅野さんは、今後予想される経済の変化について
次の4点を挙げています。

1.日本企業の海外生産比率の上昇

 ・日本企業は企業活動の地理的リスク分散の観点から
  海外シフトを一層加速させる。

2.財政悪化の加速

 ・地域復興のためには、赤字国債発行による財政出動は
  必要だが、同時に一部増税による財源手当てについても
  あらかじめ合意しておく必要がある。

3.デフレ脱出・インフレ傾向への転換

 ・今後供給網の回復の遅れからボトルネックが生じ、
  局所的な需給逼迫を背景に価格の上昇を引き起こしやすい。

4.迎合主義の台頭の可能性

 ・大災害の後には人々のストレスが高まり、「口に苦い良薬」は
  政策の選択肢から外される傾向が強まる。

考えてみれば、3を除けば震災による変化というよりは、
それ以前からの動きが震災で加速されるというものです。
つまり、ソフトランディングを実現するために残された時間は、
震災でより短くなったと理解すべきでしょう。

※写真は町田市の「尾根緑道」です(24日)。
 かつてここは戦車のテストコースだったとか。

 

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