生保リテール戦略

6月18日号の週刊金融財政事情は「人生100年時代の生保リテール戦略」という特集でして、大手生保4社の商品開発責任者が自社の健康増進型保険や関連サービスについて語り、インシュアテックの第一人者である弁護士の増島雅和さんが寄稿しています
(そのあとの「規制のサンドボックス」でもPolicyPalが紹介されていますね)。

私も「超低金利と技術革新が迫るチャネル戦略の再構築」というタイトルで執筆しましたので、機会がありましたらどうぞご覧ください。

ちなみに本稿の図表として、「専属チャネルと乗合チャネルの違い」を出してみましたが、いかがでしょうか。

【専属チャネル(営業職員など)】
・高価格だが(保険会社いわく)充実した特定会社の保障をパッケージで提供
・信頼できる相手から話を聞いて買いたい(=受け身的)
・既契約市場(重ね売りや紹介など)
・乗合チャネルに比べれば商品開発・価格競争は緩やか
・営業職員の大量採用・大量脱落構造あり

【乗合チャネル(保険ショップなど)】
・保険会社から独立した立場から、シンプルで低価格(に見える)複数会社の商品を提供
・比べて買いたい(=自発的)
・イメージとしては都市部の20~40代
・商品開発・価格競争が激しい
・比較推奨販売に関する規制対応が重要

ところで、本誌を読み進めていくと、人気コーナー(?)「支店長室のウラオモテ」にこんな記述が…

「(ネット銀行で住宅ローンを)申し込まれるお客さまは、損得だけのシビアな判断をされる浮気性の方々。多くのお客さまは、一生の買い物だから返済に困ったときに銀行の担当者と会って相談できるかどうかを心配されている」

「浮気性の方々」とはしびれる表現ですが、「旧世界」の本音と不安を感じます。年間4万2000円の差額を乗り越えることのできる人間力はすごいと思いつつ、技術革新が進み、情報格差も解消していくなかで、いつの間にか「浮気性の方々」が増えていくような気もします。

 

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なぜ「ポートフォリオ変革」なのか

23日に横浜で開催されるRINGの会オープンセミナーは「満員御礼」だそうです。私は第1部のコーディネーターを務めますので、パネリストの興味深い話が引き出せるよう、準備を進めているところです。
さて、週の途中ですが、直近のinswatch Vol.932(2018.6.11)に寄稿しましたので、ご紹介しましょう。

なぜ「ポートフォリオ変革」なのか

3メガ損保や上場生保では、決算発表後の5月下旬に投資家・アナリスト向けの経営説明会を開いています。決算結果の説明だけではなく、経営トップ自らが今後の経営戦略を伝える機会となっていて、業界関係者にも役に立ちそうです。

各社の説明資料はこちらで入手できます。
 東京海上 
 MS&AD 
 SOMPO 

新中計で「ポートフォリオ変革」を掲げる

3メガ損保グループのうち、東京海上とMS&ADでは今年度から新たな中期経営計画がはじまり、今回の説明会でも中心テーマとなりました。
東京海上グループの重点課題には、「ポートフォリオの更なる分散」「事業構造改革(=販売チャネルの変革・強化など)」「グループ一体経営の強化」の3つが挙げられています。また、MS&ADグループの重点戦略は、「グループ総合力の発揮」「デジタライゼーションの推進」「ポートフォリオ変革」の3つです。
両グループとも業界再編や大規模買収により今の姿になったので、グループベースでの経営を強めようというのは自然な流れでしょう。その一方で、いずれも自らの「ポートフォリオ」、すなわち、収益・リスク構造のバランスをさらに変えようとしているのはどうしてなのでしょうか。

リスクポートフォリオの偏り

ヒントは各グループが開示している「リスク量の内訳」にあります。
保険会社では自らが抱える経営リスクを、例えば200年に1回の確率で発生しうる損失額などとして金額に置き換え、健全性の確保や資本効率の向上に活用しています。
東京海上の資料によると、リスク量として最も大きいのは「国内損保(資産運用)」で、全体の3割強を占めています。MS&ADでも国内損保の資産運用リスクがグループのリスクポートフォリオの3割強となっていますし、SOMPOでは自然災害リスクを抑えているためか、国内損保の資産運用リスクが5割弱に達しています(いずれも2017年度末)。地震や台風といった自然災害リスクを抱える損保グループで最も大きい経営リスクが資産運用のリスクというのは、考えてみれば不思議な話です。
言うまでもないかもしれませんが、国内損保の資産運用リスクの多くは、営業目的などで保有する国内株式によるものです。

海外事業拡大が本質ではない

中長期的な投資家の目線からすると、自然災害リスクは保険事業の収益の源泉であり、保険引受リスクのコントロールに強みがあると考えているからこそ、保険会社に投資します。
近年の国内勢による積極的な海外保険会社の買収には、日本に偏った事業ポートフォリオを分散するという意味もあると思います。もっとも、保険引受リスクの分散であれば再保険でも対応可能なので、海外M&Aをしなければ投資家がいい評価をしないというものではありません。
各グループともに事業ポートフォリオの分散を掲げ、海外事業の拡大を図るとしていますが、グローバル経営による成長を目指したいという経営者の判断によるものなのでしょう。

ところが、最大の経営リスクが国内株式保有によるものという現状を踏まえると、損保グループの経営者は、保険引受事業よりも日本株の保有のほうが高いリターンを安定的に上げられると考え、資本を最も多く使っていることになります。
ただし、株式投資に何か特別な強みを持っているのでなければ、投資家としては自分で株式投資を行ったほうが、少なくとも税金の分だけ有利なはずです。「特別な強み」など存在するのでしょうか。

政策株式保有を正当化するのは難しい

損保が保有するのは、いわゆる政策保有株式なので、株式を保有することで大企業から保険料を得ている面があります。しかし、かつての規制料率時代とは違い、コマーシャル分野は収入保険料を確保すれば利益が得られるという事業ではなくなりました。もはや株式投資における「特別な強み」とは言えません。
例えば、MS&ADは政策株式のROR(リスク対比リターン)を7~8%程度と示していますが、これは保険引受利益と配当をリターンとしたものだそうです。株価の変動を考えると、安定的に7~8%のリターンを上げられるものではありません。
損保グループの経営者もこうした状況を十分理解しているからこそ、中期経営計画の3本柱の一つに「ポートフォリオの変革」を掲げ、実行しようとしているのでしょう。

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inswatchは保険流通業界向けのメールマガジンです。
私は2か月に1度のペースで寄稿しています。

※久しぶりに札幌スープカリーを食べました。

 

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契約者への配当還元

6月8日の日経新聞によると、昨年度決算を受けた大手生保4社と富国生命の増配額は合計で521億円になるそうです。
ここで言う「増配額」とは個人保険・個人年金保険の契約者向け配当の増加分のことを指すのだと思いますが、毎度のことながら、これだけだとレベル感が全然わかりません。そこで、かなりラフではありますが、開示情報をもとに試算してみました。

非常に慎重な還元スタンス

この5社の配当準備金繰入額の合計は5905億円でした。団体保険の配当はディスクロージャー誌から過去の実績を見たうえで、ざくっと約3700億円と置き、団体年金の配当は各社が公表した配当率を参考に、これまたざくっと840~850億円とすると、個人保険・個人年金保険の配当は1300億円程度ということになります。
つまり、前年度の800億円弱から521億円増えて、1300億円程度になったということで、5社のソルベンシーマージン総額が2.1兆円増え、危険準備金繰入など内部留保だけでも1兆円近い水準を増やしたのに比べると、非常に慎重な配当姿勢だということがうかがえます。

もっとも、第一生命の契約者配当は日経によると「横ばい」とのことですが、同社は配当準備金繰入額の内訳を公表していて、個人向けは64億円増えています。他方、住友生命は「110億円の増配」と説明していますが、個人向けの配当準備金繰入額を推計すると、10億円程度しか増えていません。
おそらく何らかの入り繰りがあるのでしょうけど、各社は配当還元についてもっと情報を出さないと、余計な不信感を与えてしまうのではないでしょうか。

団体保険の配当はコスト扱い

なお、私はいろいろなところで基礎利益の限界みたいな話をしていますが、契約者配当との関係で言えば、団体保険の契約が大きい会社ほど基礎利益が大きくなる傾向があります。団体保険では危険差益の大半を配当することになっていて、いわば事後的な保険料の調整が行われているので、この部分はコストとして基礎利益から控除したいところです。
上記試算の数字を使えば、5社合計の基礎利益2.1兆円のうち、約3700億円がかさ上げされているということになりますね。

※写真は「手づくり和菓子教室」の私の作品です。運よくこちらに当たりました。

 

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金利リスク対応の違い



前回のブログ
ではソウルの写真だけでしたが、ソウルで開かれた韓国金融学会で、日本金融学会からの派遣者として報告をしてきました。

韓国での発表なので、世界的な超低金利のなかで、日本、台湾、ドイツ、そして韓国の大手生命保険会社の経営行動を探るというケーススタディにしました。
発表内容はどこかでお伝えする機会があると思いますが、なぜこの4か国かというと、いずれも生保市場の規模が大きいうえ、長期にわたり利率を保証する商品が生保市場の中心だったため、保険会社が資産と負債のミスマッチを抱えやすいという点で共通しているためです。

日本の大手生保が提供する主力商品は、かつてに比べると終身部分が非常に小さく、総じて期間10年程度の保障性商品の組み合わせとなっています。ただし、過去に獲得した契約による影響が依然として大きいので、金利リスクを抱えた状態が続いているのですね。
他方、今の金利上昇が長続きしないとなると、他の3か国はより深刻な状況に見えます。ドイツでは会計上も追加責任準備金の負担が年々膨らみますし、台湾では外資系生保の撤退や中小生保の経営破綻が相次いでいます。韓国は2000年代以降、利率変動型商品にシフトしてきたのですが、これらには最低保証があり、過去の高利率契約とともに生保の負担となっているようです。

こうして国際比較をしてみると、限られたディスクロージャーからでも経営行動の違いが見えてきて、興味深いです。

※写真は全州の韓屋村です。路地に入ると静かな世界が広がっていました。

 

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マイナス金利政策後の生保経営

2018年3月期の生保決算をざっと確認しました(まだ国内系だけです…)。
大方のメディアは相変わらず保険料収入と基礎利益にしか関心がなさそうなので、私は大規模金融緩和の副作用を探ってみようということで、マイナス金利政策が始まった2年前と比べてみました。

各社の経営リスクは総じて増える傾向にあるとうかがえる一方、基礎利益は増えていても、多くの会社が実行してきた「外部調達を含め、金利低下でダメージを受けた支払余力を高めつつ、内外金利と為替リスクを取る」という経営行動は必ずしも会社価値を増やすことにつながらなかった、というのが現時点での総括となりそうです。

2016年3月期と比べると、各種準備金の積み増し(国内系8社で約2兆円増)と外部調達(同1.2兆円増)を行う一方、この間、資産長期化を概ねストップし(例外あり)、外貨建資産を増やしています。
しかし、国内金利は低水準のままであり、対米ドルでは円高が進み(生保の外貨建資産は米ドル建てが多い)、海外金利の上昇も著しく、ヘッジコストも上がっているとなると、この期間にかぎればリスクテイクが裏目に出ているように見えます(株価上昇で相殺されていますが)。

当然ながらリスクをとれば必ずリターンが上がるものではなく、リスクテイクが裏目に出ることもあります。問題は外部ステークホルダーがこのような経営を期待しているのかどうか、あるいは、経営陣が考え方をきちんと説明しているかどうかだと思います。
この点で、上場会社はそれなりに説明しているのに対し、相互会社による考え方の説明は少ないですね。今後の情報開示に期待しましょう。

※出張でソウルに来ています。

 

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コンプライでもエクスプレインを

生損保決算は分析途上ということで、別の話を。

大学のガバナンス不在が取り沙汰されていますが、日本企業のコーポレートガバナンス改革もまだまだ道半ばという印象です。コーポレートガバナンス・コードの改訂(もうすぐ公表されると思われます)や、経産省CGS研究会(第2期)が5/18に発表した「第2期中間整理-実効的なコーポレートガバナンスの実現に向けた今後の検討課題」など、新たな取り組みや課題整理が次々に出てくるのも、形は整えても魂が込められていないという現状があるのでしょう。

コーポレートガバナンス・コードは法令ではなく、上場企業に求められる行動規範であり、それぞれの原則を実施(コンプライ)してもいいし、実施しないのであれば、その理由を説明(エクスプレイン)すればいい、というものです(コンプライ・オア・エクスプレイン)。
ところが、東証が集計したコーポレートガバナンス・コードへの対応状況(2017年7月時点)を見ると、一部の原則を除いて圧倒的に「コンプライ」が多くなっています。

しかし、例えば先日のブログ「いつまで『社長が社長を選ぶ』なのか」で紹介したような、98%のコンプライにもかかわらず、確認してみると実態は違っているということが、徐々に見え始めています。

公表内容のボイラープレート化(=ひな型的で具体性を欠く記述)も目立ちます。先週末に参加した日本ディスクロージャー研究学会の大会では、業種の異なる3社の役員報酬に関するディスクロージャーが、全く同じ文言となっているケースが紹介されていました。おそらく外部の専門家によるひな型をそのまま使っているのでしょう。

コーポレートガバナンス・コードの「コンプライ・オア・エクスプレイン」は、実施すればいいというものではなく、自らのコーポレートガバナンスを確認し、ステークホルダーに理解してもらうためのものだと思うのですね。
それなのに、コンプライしているという事実と、紋切り型の記述(それも開示項目のみ)しか出さないとなると、外部からは評価のしようがありませんし、内部規律も働かないでしょう。コンプライでもエクスプレインが必要なのです。
(その意味で、上場保険会社のERM関連情報の開示は参考になると思います)。

非財務情報の開示には、引き続き課題がたくさんありますね。

※写真は横浜市大です。横須賀のワインを初めて飲みました。

 

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問題は含み損なのか

いろいろあって週末にブログを更新できなかったので、遅ればせながらちょっとだけ。

18日のロイター記事「金融庁、地銀に有価証券運用の含み損の適切な処理を要請=関係筋」をみて、違和感を覚えました。

記事には、「金融庁が、全ての地方銀行に対し、外債などの有価証券の運用で抱えた含み損を放置せず、適切に処理するよう求めたことがわかった。複数の関係者が18日、明らかにした。同庁は、有価証券運用の含み損を自己資本や年間コア業務純益などの期間収益の範囲内にとどめることが望ましいとの見解を伝えている」とあります。
確かに、2月に開かれた金融庁と地銀・第二地銀との意見交換会には、主な論点として「含み損に対する対応が検討されていない例が見られた」「中には、今期(30年3月期)のコア業務純益予想額に匹敵する水準まで評価損が拡大している銀行も見受けられた」「(前略)含み損に対する対応が十分に検討されていない例があるとすれば、問題であると考えている」とありました。

しかし、資産運用によるリスクテイクと言ったときの「リスク」とは、含み損の発生ではなく、保有資産価格の変動です。取得価額がいくらであろうと、含み損があろうとなかろうと、資産価格が10%下がれば、それは損失の発生です。
含み損はリスクテイクのバッファーである「経営体力」の一部なので、含み損を抱えていても、経営体力全体としてリスクテイクできる状態であれば、問題はないはずです(地銀の「自己資本」に含み損益が入っていない可能性はありますが…)。

「健全性を維持できるよう、リスクテイクに見合った運用・リスク管理態勢の構築に向けた対話を行う」のはいいとしても、銀行勘定の金利リスクに関する新規制が始まろうというなかで、本当に報道のとおり、有価証券の含み損に焦点を当てた対話を行い、損切りを促すのでしょうか。
まさかとは思いますが、ALM目的で多額の超長期債を保有する生命保険会社にとっても、これは他人事ではありませんね。

※写真は台湾大学(旧台北帝国大学)です。台湾生保では外国証券が保有資産の5割以上を占めています。

 

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日本の世帯構造の変化

台湾の保険コンファレンスではアジアの人口構成の急激な変化への対応もテーマの一つでした。
足元では65歳以上の人口割合は日本が26.6%とダントツで高いのですが、今後は韓国、シンガポール、タイ、そして中国が急速に追いついていくと見込まれています
(図表にはありませんが、台湾は足元の14%から急上昇し、なんと2055年には日本を抜いてトップに立つとみられています)。


内閣府「高齢社会白書(平成29年版)」より

各国の高齢化が進むスピードは日本を上回るので、生命保険市場はもちろん、社会全体に大きな影響を与えるのは間違いありません。低金利とともに、日本の経験が役立つこともありそうです。

もちろん、現時点では日本が世界有数の高齢社会となっていて、同時に世帯構造も大きく変わってきています。
9日に公表されたニッセイ基礎研究所・久我尚子さんのレポート「増え行く単身世帯と消費市場への影響(1)」によると、高齢化や未婚化などにより家計消費における単身世帯の存在感が高まっているとのことでした。

夫婦2人と子どもから成る、いわゆる典型的な核家族の割合が小さくなっていることはよく知られるようになりました。直近の実績値である2015年をみると、夫婦2人と子どもの核家族世帯は全体の26.8%にすぎません。これに対し、単身世帯はすでに34.5%を占め、2040年には全体の4割を占めるようになります。
「単身世帯」というと若年男女、つまり結婚前の独身男子や女子というイメージが強いかもしれません。しかし、本レポートによると、若年層(=35歳未満)が単身世帯の過半数だったのは1980年代までで、すでに2015年の時点で60歳以上の高齢世帯が単身世帯の4割強を占め、さらに20年後には過半数を超えます。

これだけの変化が起きているのですから、保険市場への影響もはかりしれません。
というか、かつて日本で死亡保障を中心とした生命保険が売れたのは、生産年齢人口が増えるとともに、夫を稼ぎ手とした夫婦2人と子どもの核家族が世帯の中核を占めていて、かつ、死亡リスクがそれなりに意識されていた(1950年代ぐらいの日本人の寿命は諸外国よりも短かった)、といった好条件が重なっていたからなのでしょう。
これらの条件がすべて変わってしまっているなかで、当時のビジネスモデルが通用しなくなっているのは当然かもしれません。

久我さんのレポートは第一弾とのことなので、さらなる単身世帯市場の分析が楽しみです。

※写真は台北郊外の深抗老街です。
 ここは豆腐料理で有名なところで、週末は大勢の人でにぎわいます。

 

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台湾での国際保険セミナー

連休後半は台湾の保険安定基金(TIGF)が主催する国際保険セミナーでスピーチをしてきました。TIGFは日本の保険契約者保護機構に相当する組織で、破綻時の支援などセーフティネットの役割を果たしています。

コンファレンスのテーマは「保険業の持続的成長と発展」という広範なもので、アジア共通の急激な高齢化やコーポレートガバナンスの問題、世界的な規制動向のほか、何といっても多かったのはフィンテック(インシュアテック、レッグテック=デジタル技術を活用した金融規制)に関するスピーチやディスカッションでした。
なかでもシンガポールの保険スタートアップとして知られるポリシーパル(PolicyPal)の創業者である葉(Yap)CEOによるサンドボックス制度(*)の活用や次のステップの話は興味深かったです。

*サンドボックス制度(Regulatory Sandbox)とは、参加者や期間を限定して、新技術やサービスを試行錯誤する機会を設けることで、イノベーションを促す取り組み。

それにしても感じるのは、この分野での日本勢の存在感の低さです。台湾という日本に近く、かつ、日本に親近感をもってくれているところでの開催にもかかわらず、現地スピーカーによる日本関連の言及は皆無でした(他国からの参加者もほぼ同じです)。
確かに日本勢による事例として語れる内容はそれほど多くないのかもしれませんが、ここまで注目されていないとは、ちょっとしたショックでした。

※私はマイナス金利政策下における日本の保険会社の対応状況について話をしました。

 

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物価2%の達成時期を削除

ご承知のとおり、日本銀行は4月27日の金融政策決定会合で、これまで「経済・物価情勢の展望」(展望レポート)に記述していた2%の物価目標の達成時期の見通し(1月の展望レポートでは「2019年度頃になる可能性が高い」としていた)を削除しました。

異次元緩和政策を始めた2013年4月に「2年程度の期間を念頭に置いて、できるだけ早期に実現」と発表してから早くも5年がたち、もはや実質的には長期戦になっていました(この間、達成時期が何度も延期されてきました)。
とはいえ、この記述を削除したということは、日銀自身が「できるだけ早期に実現」の未達成を認めたということになるのでしょう。

金利上昇に賭ける

物価2%を達成していれば、さすがに10年国債利回りが0%程度とか、30年国債利回りが1%未満とかいう状態ではなくなっているはず。ですから、特に2016年以降、金利水準の低下で会社価値が圧迫されたなかでも、超長期債購入による金利リスクの削減を中断していた生命保険会社があったとしたら、今の超低金利を「政策的」「短期的」なものと判断したのだと考えられます。

言い換えれば、そのような会社はここ数年、金利上昇に賭けたリスクテイクを行っていたというわけで、期待通りに金利が上がれば、実質的な会社価値の拡大が見込めるという経営判断をしたのでしょう(そう理解しなければ説明がつきませんよね)。

ところが、日銀が物価2%の達成時期の見通しを示さなくなり、名実ともに短期決戦の旗を降ろしてしまいました。
マイナス金利政策の導入から数えても2年以上たつなかで、「政策的」はともかく、少なくとも「短期的」なものという判断は残念ながら結果的に誤りだったことになります。

リスクテイクの結果をどう総括

金利上昇に賭けた保険会社は、金利が上がらなかった(右肩上がりの金利曲線だったので、実質的には低下した)ことに対する総括が必要ではないでしょうか。

このところ日本企業に対し積極的なリスクテイクが求められています。しかし、リスクテイクした結果をきちんと評価し、失敗の原因を明らかにしたうえで、次の経営判断につなげなければ、ERMもガバナンス改革も絵に描いた餅でしかありません。「株高、円安なのでOK」というのでは総括になりません。

最近報道された生保の2018年度の資産運用計画からは、私には金利リスクテイクの総括をうかがうことはできませんでした(消去法で国債回帰という報道はありましたが…)。
今後何らかの手掛かりが外部に出てくるでしょうか。

※GW後半は台北出張なのです。写真は日本人で賑わう氷屋さん。

 

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