損保決算のインタビュー記事

生保に続き、損保についても保険毎日新聞にインタビュー記事が載りました(23日)。
「損保会社2018年度上半期決算の評価 植村信保氏(保険アナリスト)に聞く 重要な自然災害リスクの見極め」というもので、決算を踏まえた大手損保グループ経営の現状を次の3点で整理しました。

自然災害多発の影響が上半期決算に大きく影響した

・各社の支払い余力の水準やリスク管理体制を踏まえれば、1兆円規模といえども健全性を揺るがすほどのものではない。

・多発した自然災害をどう捉えるべきか、保険会社の見方は分かれている。災害発生のトレンドが変わってきているという見方もあれば、確率上は数十年に1回しか発生しないようなことが起きたとはいえ、あくまで想定の範囲内という見方もある。

・今後の自然災害リスクをどう捉えるかによって、保険会社としての備えもプライシング戦略も大きく変わってくるため、この見極めが非常に大事になる。

自然災害を除き、国内損保事業は堅調に推移した

・主力の自動車保険では、損害率が若干上がり気味ではあるものの、収支残を十分確保できている。過去の料率引き上げや等級制度の見直しが効いていて、今のところ安定している。

・今後の自動車保険の収支を悪化させる要因として、消費税率の引き上げと、債権法(民法)の改正による法定利率の引き下げがある。足元の料率引き下げトレンドに加え、火災保険の料率引き上げも見込まれている中で、この二つの要因をどこまで自動車保険の料率に反映できるだろうか。

国内損保事業への依存度が徐々に下がっている

・今回の上半期決算は、事業や地域の多角化が進んだことを実感させるものでもあった。3メガ損保グループの通期業績予想(連結純利益)がいずれも黒字かつ増益なのは、異常危険準備金の取り崩しに加え、国内生保事業や海外保険事業による下支え効果も大きい。

・特に国内生保事業は、会計上の貢献度は小さく見えるものの、保有契約もEVも拡大傾向が続き、グループ経営を支える存在となっている。

・海外事業展開については、買収による拡大だけでなく、業績の立て直しや事業再構築などの動きも起きている。買収時にどんなに慎重に見極めたとしても、その後想定外のことが起きやすい。東京海上グループが再保険事業を売却したのも非常に興味深い動きと受け止めている。

機会がありましたらご覧ください。
保険毎日新聞のサイトへ

※築地を歩くと古い建物に出会います

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

ブログを読んで面白かった方、なるほどと思った方はクリックして下さい。

保険行政はなぜ破綻を防げなかったのか

ご案内が遅くなりましたが、日本保険学会の機関誌である「保険学雑誌」の最新号(第643号)に論文が掲載されています。タイトルは「近年の日本の保険行政における健全性規制の動向とその考察」で、1年半前に行った九州部会での発表をもとに、その後の情報をアップデートしつつ、まとめたものです
(アブストラクトのみ閲覧可能です)。

拙著「経営なき破綻 平成生保危機の真実」では、2000年前後に生じた中堅生保の連鎖的な破綻について、厳しい外部環境だけではなく、経営内部の問題が大きかったことを明らかにしました。ただ、自由化以前の保険行政による影響力の大きさを踏まえると、当時の保険行政がなぜ破綻を防げなかったのかという点について、もっと触れるべきだったのかもしれません。

今回の論文では、前半でこの問題を取り上げ、次のように整理しました。

・純保険料式責任準備金と株式含み益への依存を柱とした健全性確保の枠組みを続ける一方、1980年代に複数回の予定利率の引き上げや高水準の契約者配当を認めてしまったうえ、ロックイン方式の弱点を見過ごした。
・財務内容の手掛かりとなる経営指標が生保の経営実態を十分に反映していなかったため、問題を抱えた生保への対応が遅れた。
・1995年の保険業法改正でソルベンシー・マージン比率を導入する際、生保経営の深刻な状況を踏まえ、緩やかな基準としたことが裏目に出た。

保険会社に対する規制は1995年の保険業法改正の前後で対比されることが多いと思います。
しかし、健全性規制に注目すると、業法改正で整備が進んだというよりは、護送船団時代の不備が明らかになるなかで、リスクベースの新たな規制を導入しても十分機能せず、自己規律の活用という新たな取り組みも含め、いまでも試行錯誤が続いていると言えそうです。

※新車の「えのしま号」で藤沢へ(少し前ですが)

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

ブログを読んで面白かった方、なるほどと思った方はクリックして下さい。

生保決算のインタビュー記事

17日の保険毎日新聞にインタビュー記事が載りました。
「生保会社2018年度上半期業績の評価 植村信保氏(保険アナリスト)に聞く、外貨建資産が経営に大きく影響」というものです。骨子は次のとおりです。

「一般勘定の資産構成で外貨建て資産の占める割合は決算のたびに高まり、会計上の利益でも外貨建て資産の影響が大きくなっている」

「運用リスクを高めているとはいえ、健全性の面では大きな変化は見られない。新契約価値の積み上げに加え、この上半期には株価が上昇し、長期金利も若干だが上昇。円安も進んだため、生保のリスクテイクがプラスに働き、支払い余力の増強につながった」

「商品・販売面を見ると、外貨建て保険、特に貯蓄性の強い商品が売れたかどうかで各社の保険料収入が大きく変動するのが目立つほか、収益性が高く、会社価値拡大を支えている保障性商品の販売は比較的堅調であった模様だ」

「近年の保険会社のグループ化や業務提携の動きが販売面に表れていることも注目される」

機会がありましたらご覧ください。
保険毎日新聞のサイトへ

※写真は旧万世橋駅です。

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

ブログを読んで面白かった方、なるほどと思った方はクリックして下さい。

責任準備金組入率とは?

毎日新聞の投書欄に「保険批判への反論も載せて」という保険関係者による投書がありました(11日)。
ビジネス誌による生命保険特集に掲載されている保険コンサルタントや評論家による商品評価の内容が、独自の視点による一刀両断といった内容ばかりで、しかも、的外れの内容があまりに多いので、せめて保険会社の言い分も載せるべきという内容でした。
保険数理のプロに「読む度にため息が出る」と言わせてしまうような記事が例えばどのような内容なのか、興味がありますね。心当たりが全くないわけではありませんが…

やや話がずれてしまいますが、私もこの週末に日吉駅の書店(ローカルですみません)で思わずため息が出てしまいました。
保険関係のコーナーにはなぜか三田村さん(大手生保の出身だそうです)というかたの書籍ばかりが並んでいて、いずれも保険会社を見極める指標として「責任準備金組入率(積立率)」を薦めていました
(個社ごとに指標の推移が載っていました)。

ここで言う「責任準備金組入率(積立率)」とは、損益計算書の保険料等収入に対し、経常費用の1項目である「責任準備金等繰入額」の占める割合です。
この数字が概ね40%あれば健全な財務力がある会社と考えられ、数字が低い会社は積み立てるべき責任準備金を積めていないとのこと。
思わずのけぞってしまった読者も多いかもしれませんが、このかたは少なくとも10年以上前から同じ主張を続けています。

当期の保険料等収入と責任準備金等繰入額を比べて何がわかるのでしょうか。
シンプルに説明すれば、保険会社は当期の保険料等収入のうち将来支払う見込みの部分を責任準備金として繰り入れる一方、責任準備金を取り崩す(戻入する)ことで、当期の保険金や給付金の支払いに充てています。ただ、繰入額と戻入額はネット表示なので、満期や解約などが多ければ責任準備金等繰入額が小さくなったり、収益として責任準備金戻入額が計上されたりします。さらに言えば、保険料等収入も、貯蓄性商品の販売により大きく変動します。

ですから、組入率(積立率)が小さいのは、単にその期の保険金等支払金が相対的に大きかったというだけであり、積み立てるべき責任準備金を積めていないわけでは決してありません。
2000年前後に破綻した会社の数字がいずれも小さかったので、この数字を重視しているのかもしれませんが、当時は生保への信用不安が解約の増加につながり、責任準備金の戻入が大きくなったという話です。高水準の解約が続いているので指標が低水準で推移しているというのであればまだしも、単にこの数字の大小をもって生保の健全性を見極めるというのは、どう考えても無理があります。

ということで、今回は「ため息が出る」話でした。

※ビュースポットに立つと富士山が見えました

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

ブログを読んで面白かった方、なるほどと思った方はクリックして下さい。

東京医大の第三者報告書

年末に公表された東京医科大学の第三者委員会「第二次調査報告書」「第三次調査報告書(最終報告書)」を読んでみました
(ちなみに、年明けに文部科学省が再調査を指導したとのことで、これが「最終」ではなくなりました)。
東京医科大学のサイトへ

これまでに判明していた「属性調整(=女子および多浪生に不利な扱い)」「個別調整(=特定者に対して加点)」に加え、第三次調査報告書には、「医学科入試において問題漏洩が行われた疑いがある」「個別調整と東京医大への寄付金との間には、何らかの関連性があった可能性がある」「入試に関する依頼(仲介の依頼を含む)と、依頼を受けた者に対する謝礼との間には、何らかの関連性があった可能性がある」と、さらなる疑惑を提示しています。
さらに、看護学科の入試では、国会議員の依頼を受け、試験結果の上位29人を飛び越えて補欠者となり、最終的に合格となった事例を明らかにしました。

医学部人気のなかで、今回の件が東京医科大学および附属病院の事業運営にどの程度のダメージとなるのかはわかりません。
しかし、世の中の人々が何となく存在するのではないかと思っていた「裏口入学」が本当に行われていたということで、社会に対する悪影響はかなり大きいのではないかと考えています。

※富士山が雲に隠れてしまいました。

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

ブログを読んで面白かった方、なるほどと思った方はクリックして下さい。

2018年末のミャンマー

前回に続いてミャンマーの話です。

保険市場は黎明期

新聞報道によると、年明け早々にミャンマー政府が保険分野への外資企業の参入を認めると発表したそうです。
ミャンマーでは2012年まで国営の保険事業が市場を独占し、その後民間にも開放されたものの、外資の参入は例外(日系3社がティラワ経済特区限定の免許を取得)を除き、認められてきませんでした。
しかし、ミャンマーの人口(5000万人超)に比して保険市場の規模は非常に小さく、1人あたりGDPが同じような水準にあるカンボジアやラオスよりも普及率が低いようなので、外資導入によりテコ入れを図ろうとしているのだと考えられます。

ちなみに、スイス再保険の統計でミャンマーは調査対象外となっていますが、2017年から2018年にかけてミャンマー政府の保険アドバイザーを務めていたJICA齊藤氏(金融庁から派遣)のレポート(PDF)を読むと、これは規模の問題というよりは、統計が整備されていないためだと思いました。
レポートによると、保険監督に従事する職員は少なく、生保の責任準備金は直近年度の純保険料収入の10%といったもので、ソルベンシー規制は存在せず、保険会社には保険数理人が存在しないといった状況のようです。


※中央郵便局で見かけました

慢性的な交通渋滞

自動車保険もまだまだ普及していない状況ではありますが、ヤンゴンの市内はすでに自動車であふれていました。渋滞は東南アジアでも有数とのことで、ガイドブックにも「日中~夜は渋滞がひどい」なんて書いてあります(渋滞しないのは早朝と深夜だけという意味なのでしょう)。
人口が700万人を超える都市で、東京や大阪のような鉄道網がほとんど整備されておらず、南北を結ぶ幹線道路も見たところ2つしかないのですから、モータリゼーションが進めば慢性的な渋滞となるのは必然かもしれません。

町で見かける車の大半は日本車でした。
ミャンマーは右側通行の国なのに、走っているのは右ハンドルの日本の中古車ばかり。日本の中古車といえばロシアのウラジオストクを思い浮かべますが、2012年ころからミャンマーに向かったのですね。結果として、日本の中古車が渋滞を引き起こしているということになります。
ただし、昨年から右ハンドル輸入規制が入り、数年後には左ハンドルの車が優勢になっているかもしれません。バスについては、日本の中古バスが活躍していたのは昔の話で、ヤンゴンではすでに左ハンドルのバスに切り替わっていました。

なお、東南アジアの他の都市と違い、ヤンゴンではバイクが走っていません。バイクの走行が禁止されているとのことで、地方に行けばバイク天国なのかもしれません(未確認です)。


※環状線はリニューアル工事中でした

中国とインド

ミャンマーを地図で見ると、北東は中国と接し、北西はインドと接していることがわかります。これが端的に現れているのが食文化です。

ミャンマーの典型的な料理といえば、いわゆる「カレー」なのですね。私も滞在中、何回かカレー料理を食べました。
同時に麺料理も豊富です。朝食の定番はモヒンガーというスープ麺ですし、シャン族の料理店で食べた麺はあっさりしていて、日本にもありそうな味わいでした。

この地理的条件は、おそらく今後の経済発展にも影響してくるのでしょう。


※ホテルで食べたモヒンガーです

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

ブログを読んで面白かった方、なるほどと思った方はクリックして下さい。

ヤンゴンの近代遺産

あけましておめでとうございます。本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。

ミャンマーの中心都市ヤンゴンへ

年末に休暇を取って、ミャンマーの中心都市ヤンゴンに行ってきました(ちなみにミャンマーの首都はネーピードーです)。
2011年の民政移管以降、経済発展著しいミャンマーを実際に見たかったことのほか、ヤンゴン(旧ラングーン)にはかつて英国の植民地だった時代の建物がたくさん残っているというのが魅力でした。

例えば上の写真に見えるコロニアル建築は、1900年に建てられたヤンゴン地域裁判所です(現役の裁判所には見えませんでしたが…)。
港に近いこの場所は第二次世界大戦で日本軍の爆撃を受けていて、この建物も裏側の一部が壊れたままとなっています。

こちらは同じパンソダン通りにある、1906年にユダヤ商人が立てた商業ビルです。
ミャンマーというと仏教国のイメージですが、当時のヤンゴンにはイギリス人が政策的に連れてきたインド人のほか、様々な国・地域から人々がやってくる国際都市だったことがうかがえます。

ただし、どちらのビルも、あまりメンテナンスをしないまま使い続けてきたため、かなり老朽化が進んでいました。
外見もそうですが、建物の中に入ると、当時のエレベーターが朽ち果てていたり、なんというか非常に悲しい状態でした。

近代遺産を後世に残す

ヤンゴンに植民地時代の建物が多く残っているのは、これらを積極的に保存しようとしてきたためではなく、ミャンマーの経済発展が遅れたため、過去のストックをそのまま活用してきたためです。でも、このままではこうした近代遺産は老朽化で壊れてしまうか、あるいは、経済発展に伴う再開発で消えてしまうかでしょう。

このような状況に危機感を持ち、保存活動をしているグループを見つけました。Yangon Heritage Trust(YHT)という団体です。私は今回、YHTが主催する近代遺産をめぐるウォーキングツアーに参加しました(ツアー費用の一部がYHTの活動資金となります)。
ガイド氏は、こうした活動を通じてミャンマーの人々に近代遺産の価値を理解してもらい、経済発展と歴史的建物の保存を両立させたいと語っていました。


※こちらは現役の中央郵便局

他方で、比較的規模の小さい歴史的建造物についても、単にそのまま使い続けるというのではなく、その建物の価値を生かして使おうという取り組みが徐々に始まっているようです。
例えば、昨年オープンした「Burma Bistro」というレストランは、植民地時代に建てられたビルの2階にあり、外見からは想像できないような、おしゃれで居心地のいい空間でした。


※入り口はこんな感じですが…


※食事もサービスもよかったです

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

ブログを読んで面白かった方、なるほどと思った方はクリックして下さい。

ミスコンダクトの原因

12月16日の夜に札幌の直営店アパマンショップ平岸駅前店が起こした爆発事故の影響で、運営会社の親会社APAMANの株価が大きく下がりました。
たまたまある研究会で「保険会社のコンダクトリスク」について議論したばかりだったので、保険会社ではありませんが、今回のミスコンダクトについて考えてみました
(コンダクトリスクについては、例えばこちらの11ページあたり(PDF)をご覧ください)。

直接の原因

なぜ爆発事故が起きたのかといえば、直接の原因はショップの従業員が店内で消臭スプレー缶約120 本の廃棄処理を行い、ガスが充満している状態で湯沸かし器を点火したためです。
APAMANのIRサイトへ

従業員が可燃性ガスの危険性を認識していれば、換気しない室内で消臭スプレーを一気に噴出するようなことはせず、爆発事故も起きなかったでしょう。
再発を防ぐには「従業員に可燃性ガスの危険性について教育する」「可燃性のないスプレーに切り替える」などの対応が考えられます。

しかし、「なぜ160本もの消臭スプレーがあり、このうち120本をなぜ一気に処分する必要があったのか?」を考えると、今回のミスコンダクトの原因はもっと根が深そうです。
ここからは報道等を参考に、あくまで仮定のモデルケースとして検討してみましょう。

ミスコンダクトの真の原因は

運営会社の社長によると、2日後に店舗の改装があり、荷物整理の一環としてスプレーの在庫処分をしたとのこと。なぜこれだけの在庫があったのでしょうか。

まず、本来は時間をかけて行うべき消臭サービスをショップがきちんと実施していなかったことが考えられます。社長は会見で「(消臭)サービスを実施していなかったことが一因」と話したそうです。
2018年9月期(APAMANは9月決算)のIR資料(PDF)を見ると、1年前に比べ、賃貸管理戸数が急増したことがわかります(前期比+26%)。過去最大級の増加だそうです。個別店舗の状況まではわかりませんが、現場では業務が回っておらず、消臭サービスを実施する時間を節約したかったのかもしれません。
そうだとすると、本部が適切なリソースを投入せずに賃貸管理の獲得に走ってしまったことが、在庫発生の原因と言えるでしょう。

構造的に在庫が積み上がるようになっていたことも考えられます。
同じIR資料には、付帯・関連サービスの粗利が増えたとあり、ここには除菌消臭剤も含まれています。本部は付帯商品や関連サービスの拡大を推進しているそうです。
その結果、現場には消臭サービスを付帯するプレッシャーが強くかかり、やむをえず消化しきれないほどのスプレーを抱えることになってしまう。実のところ、本部の知らないうちに、このような状況が全国で蔓延していた…(あくまで想像です)。
そうだとすると、ビジネスモデルそのものに問題がある、あるいは、収益至上主義といった企業文化の問題ということも考えられます。

ダメージは大きい

リスクの特定が難しい「コンダクトリスク」ですが、事が起きてしまうとダメージは非常に大きいです。
APAMANの時価総額はわずか数日で162億円(14日終値ベース)から128億円(同21日)へと一気に減ってしまいました。コンダクトリスクの恐ろしさを改めて感じます。

※写真は横浜・みなとみらい地区のイルミネーションです。

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

ブログを読んで面白かった方、なるほどと思った方はクリックして下さい。

外貨建て保険の販売動向

11/25のブログで「外貨建て保険に注目するのであれば、いくら売れたのかという各社の数字を掲載してほしい」と書きました。その後、多少の情報を見つけたのでご紹介します。

銀行窓販は外貨建てが圧倒

まず、12日の日経「外貨建て保険 利回り見える化(有料会員限定)」に掲載されたように、銀行など金融機関チャネルでの一時払い保険の販売は、直近では約9割が外貨建てとなっている模様です。
銀行窓販でトップクラスの市場シェアを持つ第一フロンティア生命のデータからも、外貨建て保険へのシフトがうかがえます。
第一生命HDのIR資料(PDF)

2016年のマイナス金利政策で金利水準が一段と下がった結果、円建ての一時払い商品が消滅してしまい、代わりに外貨建て保険が台頭したかたちです。

一時払以外の保険でも

一時払い以外でも、いくつかの会社が外貨建て保険の販売に関する情報を出しているのを見つけました。

ソニー生命は親会社のIR資料のなかで、商品別の新契約年換算保険料を継続的に載せています。
直近の資料(PDF)によると、2018年度上半期では、外貨(米ドル)建てが全体の約2割、一時払いを除けば14%となっています。

英語になりますが、外資系3社の販売動向もありました。
グラフを見たところ、2017年の新契約年換算保険料のうち、プルデンシャル生命では約4割、ジブラルタ生命でも3、4割が外貨(米ドル)建て保険だった模様です。
Prudential FinancialのIR資料(PDF)

メットライフ生命では、2018年上半期の新契約年換算保険料の77%が外貨建て(2017年は同68%)で、割合としては一時払いが多いとはいえ、平準払いの外貨建て保険だけでも全体の26%を占めています。なお、年換算保険料の定義が日本のものと異なるので、ご注意ください。
MetLifeのIR資料(PDF)

外貨建て保険というと一時払いというイメージがありましたが、会社によっては様子が異なるようですね。

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

ブログを読んで面白かった方、なるほどと思った方はクリックして下さい。

「業績の安定」とは

直近のinswatch Vol.958(2018.12.10)に執筆した記事「『業績の安定』とは何を意味するのか」のご紹介です。損害保険会社の経営について書いています。
---------------

支払い額は過去最大に

自然災害に伴う損保業界の保険金支払いが、前回(10月8日)の本誌で、「場合によっては、年度別の支払い額が過去最高となった2004年(7449億円)に匹敵することもあるのかもしれません」と書いたところ、ご承知のとおり、これを大きく上回る1兆円規模の保険金支払いとなることが判明しました。
ただし、自然災害の発生トレンドをどう見るか、つまり、まだ過去のトレンドの延長線上と言えるのか、あるいは、地球温暖化などの影響でトレンドが変わってしまったと見るべきなのかは、見解が分かれている模様です。

日経新聞の社説

ところで、11月24日の日本経済新聞に「損保は異常気象対策を万全に」という社説が載ったのをご存じでしょうか。
「災害が相次ぐ日本を地盤とする日本の損保は、保険金支払い能力を盤石にするのはもちろん、業績を安定させるあらゆる努力が欠かせない」としたうえで、業績安定のため、損保業界が異常危険準備金の税制優遇拡大を求めていることと、火災保険の料率引き上げを目指していることを紹介しています(後者については「コスト削減の徹底が前提」だそうです)。
ここで言う「業績」とは、決算における純利益のことです。事業として自然災害リスクを積極的に引き受けている保険会社にとって、本当に「業績の安定」が欠かせないのでしょうか。

「業績」は会計ルールに左右される

自然災害に伴う多額の支払いが見込まれる状態で決算を迎えた9月期決算では、3メガ損保の国内損保事業が赤字または大幅減益となりました。前回書いたように、9月に発生した自然災害は支払いに至っていないケースが多いため、異常危険準備金の取り崩しがほとんどなかったためです。
他方で通期の決算では、支払いが進み、異常危険準備金を取り崩すため、「業績」予想は総じてそれほど悪くありません。
損保の経営にとっては(税制優遇の話を除けば)同じ自然災害により発生した支払い義務なのに、会計ルールがそうなっているというだけで、「9月期の業績は悪化」「通期では安定」というのはおかしな話ですが、社説をはじめ、メディアの多くは(結果として)こうとらえているようです。

似たような話は保有する国内株式についても生じます。
有価証券の減損を、3メガ損保のように30%ルール(期末日の時価が取得原価に比べて30%以上下落したものを対象)の会社と、原則通り50%ルールを適用している会社では、同じ銘柄の株価が下落しても、「業績」に与える影響が大きく異なることがあります。

「業績の安定」という見方をやめるべき

もし本当の意味で業績を安定させるのであれば、異常危険準備金を追加的に積んだり、保険料の値上げを理解してもらうべく踏み込んだコスト削減を行ったりしても大きな効果はありません。むしろ、日本の自然災害のようなリスクの大きい引き受けをしなければいいという結論になります。
モノラインであれば別ですが、総合的な保険会社であれば、自らの存在意義を考えた際、自然災害リスクを引き受けないという選択は考えにくいでしょう。少なくとも現時点では事業として成り立つと考えているからこそ、各社は風水災害のリスクの引き受けを続けているのだと思います。

そうだとすると、日本の損保は何年かに1回は多額の支払いが発生するのが普通の状態ということになります。もちろん、会社としてリスク分散やリスクヘッジを進め、経営を安定させる(すなわち、経済価値で見た損益の振れを経営陣が想定したレベルに抑え、資本コストを小さくする)という戦略はあります。しかし、メディアが「業績を安定させるあらゆる努力が欠かせない」などと無理に毎期の決算の安定を求め、それに応じたりすると、かえって経営を歪めることになりかねません。

※丸の内で見かけたクリスマスツリーです。

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

ブログを読んで面白かった方、なるほどと思った方はクリックして下さい。