書評『育児とキャリアの共存戦略』

週刊金融財政事情(2026年2月24日号)に載った書評「一人一冊」を当ブログでも紹介します。今回は『育児とキャリアの共存戦略 女性医師26名が語るジレンマ構造』を取り上げました。

以下、引用となります。
————————————

女性医師は「招かれざる同僚」なのか

1990年代以降、日本社会は家族構成の面で大きく変わった。単身世帯や2人世帯が増えただけではなく、一家の稼ぎ手が1人という、いわゆる専業主婦世帯も劇的に減った。労働政策研究・研修機構の「早わかり グラフでみる長期労働統計」によると、専業主婦世帯と共働き世帯の数は90年代に逆転し、2024年では夫と妻のいる世帯の7割強を共働き世帯が占めている。
その一方で、性別役割分業を前提とした枠組みや慣行は社会に根強く残り、女性のキャリア形成の壁となっている。これは、非正規雇用の割合が女性雇用者の5割を超えていることを見ても明らかであろう。なお、男性の非正規割合は2割強だ。
著名ファイナンシャルプランナーの内藤眞弓さんは、女性医師に焦点を当て、この問題をミクロの視点から明らかにした。

高学歴で専門性の高い医師という職業を選んだ女性でも、キャリア形成の過程で壁にぶち当たる。思い起こせば、18年に発覚した医学部不正入試問題(複数の大学で女子受験者などを不利に扱っていた)が起きた背景には、医療現場のニーズがあった。
「入試合格者はいずれ系列の大学病院で働くことになるため、出産や子育てで医療現場を離脱する可能性の高い女性は、できれば増やしたくない」(本書「はじめに」から引用)という大学の思惑だ。
医学部卒業後、研修医は性別に関係なく訓練の機会を与えられるものの、専門医となるには医療機関で当直(診療時間外での勤務)やオンコール(急患に備えた待機)の義務を果たさなければならない。それが難しい医師は居場所を失い、意図せざるキャリア転換を迫られる。言うまでもなく、そのケースは圧倒的に女性が多い。

本書は学術論文をベースにしており、専門用語の理解がやや難しいところもある。しかし、26人もの女性医師へのインタビューとそのキャリア形成に及ぼした影響の分析は、非常に読み応えがあった。女性医師たちは出産後に家庭領域と職場領域のトレードオフの関係に直面している。そして、労働環境や上司・同僚との信頼関係といった職場領域の資源に恵まれない場合、伝統的なジェンダー規範に従い、自らのキャリアを軌道修正して乗り越えようとしている。この分析結果にはハッとさせられた。
読者の多くが所属するであろう金融業界も、この問題と無縁ではない。頻繁な転勤など、かつて自らが甘受してきた環境や制度を変えるのは抵抗があるかもしれない。しかし、時代はすでに変わっているのだ。
————————————
※写真は名古屋市市政資料館です。

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

ブログを読んで面白かった方、なるほどと思った方はクリックして下さい。