11. コメント裏話など

ソニーが金融事業を分離

ソニーグループは18日、完全子会社であるソニーフィナンシャルグループを2、3年後に分離独立させるという構想を発表しました。
Bloombergの記事
NHKの記事

18日の経営方針説明会で、十時COO兼CFOは次のようにコメントしています。

「金融事業には成長投資とともに、財務の健全性も強く求められ、多くの資本を必要とします。ソニーグループ全体のキャピタルアロケーションという観点では、拡大していくエンタテインメント、イメージセンサー事業などへの投資との両立は容易ではありません」

「(パーシャル・スピンオフにより)金融各社の社名、ブランド、グループ内での位置付けなどを変えることなく、金融事業を上場し、独自の資金調達能力を備えて、中長期でのさらなる成長を指向することができると考えています」

ソニー生命の手掛ける生命保険事業が多くの資本を必要とするのは、2020年に約4000億円かけて完全子会社とした際にもわかっていたことだと思います。財務の健全性が強く求められるというのもそうです。

そう考えると、あくまで推測ですが、グループとして株主が期待する高い資本効率を達成するにはソニー生命の資本対比リターンをより高める必要があるものの、それにはソニー生命のビジネスモデルを見直さなければならず、それは困難だと判断したのではないでしょうか。
過去には「(金融事業が)リーマンショック以降のソニーが最も苦しかった時期にグループを支えた」(吉田CEOのコメント)ということはあったにせよ、それはあくまで経営陣の目線であって、株主からするとそのような「保険」はいらないということなのかもしれません。

ところで、私は本件で読売新聞の電話取材を受けまして、19日の朝刊に次のコメントが載りました。

「福岡大の植村信保教授(保険論)は『上場にあたっては経営の透明性が一段と求められる。遠藤氏(元金融庁長官の遠藤俊英氏)を起用する理由をステークホルダー(利害関係者)に、より丁寧に説明する必要がある』と指摘している」

スピンオフを中心にいろいろとコメントしているのですが、使われたのはこの部分でした。
とはいえ、スピンオフの結果、遠藤さんが上場会社のCEOとして株主と対峙し、自社の成長戦略や資本効率について説明することになるかもしれないのですね。
保険アナリストとしては、上場生保グループが増え、かつ、IFRSで決算を行うというところにも注目したいです。

※今年もきれいに咲きました!

 

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少短保険監督指針の改正案

先週末は社会人向け集中講義だったので、ブログの更新が遅れてしまいました。
2時間×3回×2日を1人で担当するというのは初体験で、講師も受講生も体力勝負でした。

ところで、金融庁が少額短期保険事業者向けの監督指針の改正案を公表しています(3/3までパブコメ受付中)。
金融庁は「財務の健全性及び業務の適切性に懸念のある少短業者を早期に把握し適切な対応を促すことがこれまでより必要となっており、モニタリング体制等を整備する観点から所要の改正を行う」としており、昨年、ペッツベスト少額短期保険とユアサイド少額短期保険の経営が破綻し、ジャストインケースがコロナ保険金の減額払いに追い込まれたことなどを受けた措置です。

改正案をみると、資金繰りに懸念がある少短業者などを対象に早期警戒制度を新設したり、流動性リスク管理態勢の着眼点に資金繰り管理を加えたりと、流動性リスク管理の監督を強化する内容となっています。

また、少短業者として登録する際の審査に当たっては、「登録希望者の事業意欲や創意工夫を阻害することが無いよう、登録制度の趣旨を踏まえた迅速かつ的確な審査を進めるものとする」としつつも、本部機能に「企業の経営管理業務に3年以上携わった経験を有する者」の配置を求め(現在は「保険業務を3年以上経験した者」を求めている)、さらに、「業務継続のための資金を確保するため、必要な時に親会社や個人オーナーなどの少額短期保険主要株主等から概ね6ヵ月間の事業費相当額程度の確実な資金調達が見込めるか」を確認するとしています。

保険事業は事前にお金(保険料)を受け取るので、一定の契約を確保できていれば、資金繰りに窮するような事態にはなりにくい業態です。しかし、確固とした事業基盤を持たずに新規参入した少額短期保険事業者の場合には、そうもいかないことがわかったのでしょう。

※先週末(1/27)の京都・銀閣寺です。

 

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入院給付金の見直し

前々回のブログでご紹介した8月20日前後のメディア対応に続き、9月1日から4日にかけて、NHK(夜9時のニュースなど)をはじめ、掲題のテーマでいくつかのメディアに登場しました。共同通信の取材にも応じたので、静岡新聞などいくつかの地方紙にコメントが出たそうです(知人に教えてもらいました)。

その共同発のコメントですが、前半部分に訂正があります(申しわけありません)。

「みなし入院給付金の特例は、新型コロナウイルス感染症が未知の病気で社会的に深刻だったタイミングで、医療機関の逼迫(ひっぱく)を回避するために保険業界が社会貢献のような形で導入した」

ではなく、

「みなし入院給付金の特例は、新型コロナウイルス感染症が未知の病気で社会的に深刻だったタイミングで、医療機関が逼迫(ひっぱく)して自宅療養者が出るなかで、保険業界が社会貢献のような形で導入した」

というコメントをしたつもりでした。これは記者さんのせいではなく、私の確認ミスです。

ちなみに後半部分はこうなっています。

「最近は軽症や無症状の感染者も多く、本来は給付金を受け取る対象か疑わしい人も受け取っていることが問題になっている。保険は加入者がお金を出し合って、いざという事態に備える仕組みだ。みなし入院の感染者全てに支払いを続けると、新規で医療保険に加入する人の保険料が値上がりしたり、販売停止につながったりして、加入者が不利益を被る恐れがある」

NHKのコメントは動画のほか、こちらで確認できます。

NEWS WEB「コロナ自宅療養で“入院保険”これからどうなる?」(9月1日更新)
サクサク経済Q&A「【詳しく】新型コロナ 入院給付金見直しって?」(9月1日公表)

コメントの中核部分はこちらになります。

「保険会社が『みなし入院』でも給付金を払うと決めたときはまだ、コロナがどんな病気で、どれくらい深刻なのかが分からなかったため、こうした対応が社会にとって役立つと考えていたのだと思う。しかし、今は症状が重くなくても、陽性と判定されればそれだけで給付金がもらえてしまう状況で、給付金をもらうためにあえて保険に加入する人も出てきている。入院給付金の原資は契約者が払う保険料で、保険料を払っている人と給付金を受け取っている人のバランスが崩れ不公平な状況になっており、正常な状態に戻すという話だと捉えるべきだ」

後段の「保険料を払っている人と給付金を受け取っている人のバランスが崩れ不公平」というのはちょっと変ですが、「保険料と給付金のバランスが崩れているうえ、保険料を負担している人たちのなかで不公平が生じている」と捉えていただければ幸いです。

ちなみに同じNHKでもNEWS WEBとサクサク経済Q&Aは別の取材でして、これは本人でないとわからないかもしれません。

念のため、今回の見直しに関する資料を挙げておきましょう。

1.金融庁「入院給付金の取扱い等に係る要請」(9月2日公表)

生命保険協会、日本損害保険協会、外国損害保険協会、日本少額短期保険協会にあてたもので、「貴協会におかれては、会員各社において、医療機関や保健所の負担軽減に十分配慮しつつ、政府による検討の方向性を踏まえた上で、いわゆる『みなし入院』による入院給付金の取扱い等について、支払対象も含め、可及的速やかに検討が行われるよう周知していただきたい」とあります。

2.生命保険協会「新型コロナウイルス感染症による宿泊施設・自宅等療養者に係る療養証明書の取扱い等について

上記の金融庁要請を受けて、「生命保険各社においては、医療機関や保健所の負担軽減に十分配慮しつつ、いわゆる『みなし入院』による入院給付金の支払対象も含めた取扱い等について、 検討が行われるよう周知しています」とあります。日本損害保険協会のリリース文も、この部分に関してはほぼ同じです(「周知」ではなく「依頼」となっていますが)。

各社の対応はおそらく検討中で、まだサイトでは確認できませんでした(5日現在)。

※熊本城の修復もだいぶ進みましたね。

 

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損保の安定経営とは

NHKニュースでコメント

19日に大手損保グループの4-9月期決算発表があり、これに合わせてNHKニュースの電話取材を受け、その日の夜9時のニュースに出演(?)しました。
火災保険の保険料がテーマでして、先ほど確認したところ、「保険料が上がるというのは、消費者としてはうれしくないが、保険会社としては妥当」「(料率を上げるのであれば)効率化が求められる」といったコメントが使われていました。

来年の自然災害がどうなるかはわかりませんが、少なくとも昨年、今年と大型の災害が続いたので、考えてみればかなりのニーズ喚起になっているはず。そのような話もしたのですが、使われなかったようです。

損保の安定経営とは

翌日の日経は「損保の災害準備金、半減」「安定経営にきしみ」という見出しで損保決算を大きく報じていました。
大手3グループの異常危険準備金が2年前に比べて半減する見通しとなり、「損保経営の安定がきしみ始めた」というものです。

確かに異常危険準備金は毎期の期間損益を安定させる効果があります。ただ、損保の「安定経営」とは、こうした見かけ上の損益が安定して推移することではなく、毎期の損益は自然災害の発生などで振れるとしても、リスクに対する支払余力に常に一定の余裕があることではないでしょうか。
自然災害リスクを事業として引き受けているのですから、損益が振れるのはむしろ当然とも言えます。それに、異常危険準備金は支払余力の一部にすぎませんので、そこだけ取り出してもあまり意味がないように思います。

再保険のハード化が進むか

NHKの取材では、「損保はリスクを再保険に出しているのに、なぜ値上げとなるのか?」という質問もありました。
「翌年の再保険料が上がるから」というのが1つの回答だと思いますが、実のところ、再保険市場が今後も料率上昇トレンドで推移するとまで言い切る自信はありません。
世界的な金融緩和のなかで再保険市場への資金流入はまだまだ続きそうなので、このところ多額の保険金支払い発生が続いたとはいえ、局地的にはともかく、全体としては思ったほどマーケットがハード化しないことも考えられます。

※写真は多摩川です。

 

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FPジャーナルに登場

日本FP協会の会報『FPジャーナル』10月号に登場しました。特集記事の「保険業界の最新動向と今後の見通しを探る(生命保険)」で私のコメントがいくつか使われています。
ただ、いま読み返してみると、やや舌足らずなところもあるので(すみません)、若干補足してみましょう。

生保市場は縮小?

冒頭に「ここ数年、生保市場は縮小しているイメージがありますが、実際はそうではありません」とあり、保有契約年換算保険料が右肩上がりで推移していることを紹介しました。
ここで言いたかったのは、生保に集まるお金が増えている(伸びたのは主に貯蓄性商品なので)ということですが、同時にこの図表からは、一般に成長市場とみられている第三分野の年換算保険料が意外に伸びていないこともわかります(記事ではそこまでコメントしていません)。

本格的な人口減少はこれから

「これまでは人口構成の変化に対応してきましたが、人口の総数が減っていく中で今後、生保業界にとって厳しい経営環境となると考えられます」というコメントにも補足が必要かもしれません。
人口構成の推移を見ると、これまでの10年、20年は、確かに生保がターゲットとしてきた保障中核層(30~40代)は縮小したものの、その上の世代はむしろ増えていましたので、ターゲットをシニア層に広げることで事業を展開することができました。しかし、これからの10年、20年は、高齢シニア層を除けばどの層も人口が減っていくという未体験の世界に突入するので、「厳しい経営環境となる」とコメントしました。
高齢化の推移と将来推計(PDF)

他の金融商品とのちがい

「株主はともかく、契約者にとって生保会社の成長は絶対ではありません」「経営リスクを抑え、経営の健全性を保ってくれればよく、契約者やFPの方々としては安全性を監督(監視…植村注)することが重要です」というコメントも、やや極端に見えたかもしれません。
これは読者がFPなので、他の金融商品とはちがい、保険では契約者が保険会社の信用リスクを負っているということを伝えようとしたものです。加入先の生保会社が破綻すると、契約者は何らかの不利益を被ります。

※お地蔵さまが縄でしばられていました。

 

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「脱・役所」の金融庁人事

週末にかけて家族旅行で札幌と旭山動物園に行ってきました。数年ぶりにスキーにも挑戦。
それにしても、動物園もスキー場も外国のかたが多くてびっくりです。

読売新聞の金融庁特集

先週28日の読売新聞にコメントが載りました。
いつもの保険関連ではなく、「脱・役所」の金融庁人事のなかで使われています。
リンクがいつまで有効かわからないので、私が関係する部分だけ引用しておきます。

---(引用はじめ)---
出席した一人で金融機関向け助言会社キャピタスコンサルティングで働く植村信保(52)は、リーマン・ショック後の2010~12年に在籍した。危機の教訓から世界中が金融機関の経営に厳しい目を向け、規制強化の流れが進んだ頃だ。

植村は元保険アナリストで保険会社の破綻事例に精通している。リーマン・ショック直後は中堅の大和生命保険が経営破綻し、金融庁は規制見直しに向けて専門家の知見を欲していた。植村は任期を当初の予定から半年延長し、2年余りをかけて経営の健全性を維持させるためのルールづくりに取り組んだ。植村は自負する。「金融庁幹部は問題の本質を理解する能力は高いが、配置換えが早く、専門性が高いとは必ずしも言えない。民間人材の知見を生かせたのではないか」
---(引用おわり)---

「植村は自負する」といった記述は記者さんの創作ですが、記事によると、大蔵省から分離して間もない1990年代後半~2000年代前半が「第1世代」、リーマン・ショックの後が「第2世代」、フィンテック時代の今は「第3世代」だそうで、私は第2世代に当たります
(ちなみに私がそのように整理したのではありません^^)。

「調整力」に偏りすぎていないか

金融庁には弁護士が約40人、公認会計士が約70人、金融機関の出身者やシステムエンジニアなどを加えると民間人材が400人近くも在籍しているそうです。
この「民間人材」には、任期が終わると民間に帰るかたと、民間から金融庁に転職したかたがいます。さらに、金融庁参与も民間人材の活用ですが、この400人に含まれているかどうかはわかりません。

もっとも、民間人材イコール助っ人という感覚は、そろそろ改められるべきではないでしょうか。
他の省庁に比べれば民間人材の活用が相当進んでいるとはいえ、民間出身者がいわゆる幹部となったケースはほとんどありませんし、官と民を行き来する「回転ドア」も、実質的には限られています。
さらに言えば、プロパーでも特定分野に専門性を持つようなかたは珍しく、海外の金融当局とはかなり違うという印象です。

記事にあるように、「権謀術数が渦巻く永田町や霞が関での調整力がなければ、日本では望ましい政策を実現できない」「専門家の正論だけでは対処できない世界は、兄貴分の財務省に一日の長がある」というのは、現実なのかもしれませんが、グローバル化が進む世界において、それで大丈夫なのかと思ってしまいます。

 

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きんざいの生保経営分析

直近の週刊金融財政事情(2019年2月4号)で「主要生保経営の現状と課題を探る」を執筆しました。
先日ご紹介した保険毎日新聞のインタビュー記事をより詳しくした感じです
(いずれも4-9月期決算を踏まえたものなので)。

インタビュー記事でも触れましたが、メーカー(商品提供会社)としての大手生保は販売チャネルの多様化に動く一方で、営業職員を主体とする販売会社としては、グループ化や業務提携により商品ラインナップの充実を図っています。

大手生保が保険ショップの買収を含め、マルチチャネル化を積極的に進めているのは、自前の営業職員チャネルだけではアクセスが難しい層が増えており、マルチチャネルに転じなければ先細りになってしまうという判断だと思います。新しい販売網はもはや営業職員チャネルの補完を超えた存在になりつつあるようです。
その一方で、大手各社の営業職員チャネルでは、他社商品を取り扱い、かつ、相応の業績を上げているケースが目立ちます。

他社商品の取り扱いがグループの範囲に収まる、あるいは補完的な分野に限られているのであれば、「メーカーによるマルチチャネル化」「販売会社による他社商品の取り扱い」の両立は可能です。でも、保険ショップやネット通販、乗合代理店といった、台頭するライバル販売チャネルに対し、それで販売会社としての競争力を維持できるかどうか。

決算分析と言いつつ、そのようなことも書いていますので、機会がありましたらご覧ください。

RINGの勉強会で金沢へ。茶屋街の近くで豆まきがあったようです。

 

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「逆ざや」の早期解消を目指すとは

きんざいにコメント

直近の週刊金融財政事情(2018.12.3)に生保決算に関する次のコメントが載りました。

「各社とも営業職員チャネルによる平準払い保険の販売が好調だったことが決算を下支えしたと考えられる」と評価しつつも、「引き続き外貨建て資産を増やす動きが見られるが、今後の金融市場の不透明感が高まっており、相場急変時に多額の損失が発生しないかどうか注意が必要」と警鐘を鳴らしている。

平準払い保険が売れても当期の会計利益には貢献しないのですが、実質的には外貨建て保険よりも重要ということで、このようなコメントになりました。

逆ざや解消には利配収入の増加が必要

三井生命が来年4月から社名を大樹(たいじゅ)生命に変更するという11月30日の日経記事に、「親会社の日本生命保険と運用ノウハウ活用などを進め、契約者に支払うお金が運用益を上回る『逆ざや』の早期解消を目指す」とありました。ニュースリリースにも他メディアの記事にも逆ざやがどうのという記述はないので、もしかしたら日経としてのコメントなのかもしれません。

確かに主要生保の多くは順ざやとなっているなかで、三井生命と朝日生命だけが逆ざや(=基礎利回りが平均予定利率を下回っている状態)です。これは両社の平均予定利率が他社よりもやや高いのと、基礎利回りがやや低いためです(三井はいずれも推計ベース)。

平均予定利率を一段と下げるには、過去に獲得した高利率契約の転換や解約を促すか、円建ての貯蓄性商品を大量に販売すれば可能です。しかし、いずれも会社価値という観点からはアウトでしょう。
逆に言えば、他社は団体年金や近年の円建て貯蓄性商品の販売で平均予定利率としては下がっていても、過去の高利率契約が残っている状況は全く同じです(追加責任準備金の積み立てをどう捉えるかは、ここでは論じません)。

他方、基礎利回りを上げるには、主な構成要素である利息配当金等収入を増やす必要があります。今の金利水準を踏まえると、円金利よりも利率の高い外国公社債と、配当の期待できる株式を購入すれば、利息配当金等収入は増えます。あるいは私募投信であれば、キャピタルゲインもインカム化できます(懐かしい響きですね)。
しかし、こうして基礎利回りを高め、逆ざやを解消しても、同時に資産運用リスクが拡大するため、経営は今よりも確実に不安定になってしまいます。株式や外国公社債を購入するために国内公社債を売却していれば、資産・負債のミスマッチに伴う金利リスクも増えているでしょう。

いくら親会社の運用ノウハウを活用できるといっても、逆ざや解消を目指すのが適切な経営戦略とはとても思えません。

外国証券への依存

ちなみに各社のディスクロージャー誌で利息配当金等収入の内訳を見ると、外債投資の拡大に伴って、外国証券の利息配当金の割合がかなり高まっていることがわかりました。
例えば2018年3月末時点において、日本生命や住友生命、太陽生命、大同生命、富国生命では、外国証券の利息配当金が利息配当金等収入の4割前後を占めています。

ここ数年の外国証券への投資拡大が順ざやに大きく貢献していることがわかるとともに、ここまで依存度が高まってしまうと、外国証券をそう簡単には売れないのではないかと心配になってしまいます。

※旧築地市場です。暫定道路ができて信号待ちが増えたので、会社が遠くなりました(涙)

 

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「戦後70年史」書評の補足

保険毎日新聞に九條守氏の「保険業界戦後70年史」の書評を寄稿したところ、あえてご指摘させていただいた部分について、氏を知る匿名のかたから「誤った認識なので謝罪し、訂正したほうがいい」というご連絡をいただき、ちょっとびっくりしました。

私があえてご指摘させていただいた部分とは、第2章第4節「生保破綻のはじまり」にある次のくだりです(本書160ページ)。

「保険料等収支状況(保険料等収入から保険金等支払金を差し引いた金額)を見ると、大半の会社はマイナスであり、『逆ザヤ』状態でした。プラスを維持している生命保険会社は、大手は日本生命保険と安田生命保険の2社、中堅生命保険会社は太陽生命保険、大同生命保険、富国生命保険の3社だけだったのです。この5社は、保険契約者に迷惑をかけず、生き残ったのです」

これに対し、私は書評のなかで、

「保険収支のマイナス、すなわち全体として資金流出が続くのは経営としてあまり望ましい話ではないが、保険会社は保険金等の支払いに備え、責任準備金を確保しているので、保険収支のマイナスは経営の健全性とは関係がなく、まして『逆ザヤ』を示すものでもない」

とコメントしました。書評のなかでこのようなご指摘をすべきかどうか悩ましいところですが、自分の専門分野でもあり、悩んだ末に書かせていただきました。
すると、

「責任準備金を積んだからといって安心な訳ではなく、資産の運用の失敗等で保険金や満期金が支払えない状況や高い予定利率で計算された責任準備金を賄う資産運用ができない状況に陥った場合は、まさしく『逆ザヤ』になってしまいます。特にその『逆ザヤ』が多額になれば、資本の部の資本金、剰余金(利益)から穴埋め補填をすることになるのですが、それもかなわない場合、保険会社は経営危機となり、最悪の場合、倒産するのです。『保険収支のマイナスは経営の健全性とは関係がなく、まして逆ザヤを示すものでもない』と述べておられるのは明らかに誤謬です」

というご指摘をいただきました。

「責任準備金を積んだからといって安心ではなく、責任準備金に対応する資産が十分確保できているかが重要」というのはそのとおりです(加えて、責任準備金そのものの十分性も問われます)。拙著「経営なき破綻 平成生保危機の真実」でも、高予定利率契約への過度な傾斜や資産運用の失敗、ロックイン方式の責任準備金の弱点など、こうした経営危機をもたらした直接的な要因を示したうえで、さらに破綻の根本的な要因を探っています。

ただし、私は書評のなかで「責任準備金を積んでいれば安心」といった話をしたのではなく、「大半の会社は保険収支がマイナスで、逆ザヤ状態だった」「プラスだった5社は生き残った」という記述についてご指摘しています。
生保決算の「保険料等収入⇒責任準備金繰入」「責任準備金戻入⇒保険金等支払金」という流れをご存じであれば、ここであえて保険収支を持ち出すことは考えにくいので、「責任準備金を確保しているので」としました。

保険収支は単にその期に入ってきた保険料収入(月払いも一時払いも含む)から、その期に出ていった保険金や給付金の支払額を差し引いただけなので、責任準備金が十分確保されていれば(もちろん、対応する資産が十分確保されている前提ですが)、マイナスが続いても、保険会社はそう簡単には経営危機に陥ったりしません。
例えば、かんぽ生命の保険収支はマイナスが続いています(2018/3期は保険料等収入が4.2兆円、保険金等支払金が6.9兆円)。大まかにいえば、過去の簡保時代の貯蓄性商品が満期となる一方、いまの低金利時代に魅力的な貯蓄性商品を提供するのは難しく、保障性商品(特約を含む)に力を入れているためです。保険収支としてはマイナスが続いていても、ソルベンシーマージンもEVも堅調であり、高格付けを維持しています。

また、本書では「逆ザヤ」(利差損)とありますが、利差損益、すなわち、運用収益(主にインカムゲイン)と予定利息の差にあたるものが損益計算書のどこに示されるかといえば、運用収益は主に「利息配当金等収入」、予定利息は「責任準備金繰入額(または戻入額)」のなかに含まれていて、少なくとも保険収支とは関係がありません。

ということで、「保険収支のマイナスは経営の健全性とは関係がなく、まして逆ザヤを示すものでもない」ことがご理解いただけるのではないかと思います。

なお、書評の最後に「本書の価値を揺るがすような話ではない」と書いたように、本書はベテラン業界人の目線で戦後70年間の日本の保険業界の歩みをまとめたものであり、とりわけ日々の業務に取り組む今の業界人が読めば、いろいろと気づきを得られるのではないかと考えています。

※写真は京都・島原です。

 

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テレビ「保険の賢い見直し術!」

8月7日の夜、BS11(イレブン)の「報道ライブ インサイドOUT」という番組に、FPの内藤眞弓さんとともに生出演してきました
(21日までこちらで視聴できます)。

今回お声掛けいただくまで知らなかったのですが、この番組は「キャスターがゲストに話を聞く」に徹した番組でした。ニュースや天気予報といった保険以外の時間はほとんどなく、VTRも入らず(CMは何回かありました)、ひたすらキャスターの問いかけにゲストが応じるというものでした。
ついでに言うと、進行表があるとはいえ、覚悟していたとおりキャスターからアドリブの質問もバンバン来ました^^

そもそもテーマが「保険の賢い見直し術」なので、こちらを専門分野としている内藤さんとは違い、私の立ち位置は微妙ですよね。
しかも、「保険業界にとって低金利の影響は?」という最初の質問で、いきなりつまづきました。私が生保経営の大変さについて「二つあります!」といって説明しようとしたところ、一つを説明しただけでキャスターが次に進めてしまうというハプニング。まあ、誰も気にしていないとは思いますが…

とはいえ、岩田キャスターは長年テレビ報道の世界でやってきたかたですし、世間の空気を知るうえでも、このような番組出演は参考になります。
視聴者は「低金利で保険料が上がった」「長寿化で保険料が下がった」「健康増進型保険とか認知症保険とか、最近は新しい保険が出ているらしい」といった情報を、意外なほど知っている(聞いたことがある)のですね。でも、あくまで断片的でバラバラな情報にすぎず、全体として何が起きているかという視点はないし、それが自分とどうつながっているかも、なかなか想像してもらえないようです。
ですから「健康増進型保険や認知症保険に入れば、老後は大丈夫なのか?」という質問があって、思わずゲスト2人とも固まってしまいましたが、視聴者目線に立つと、これはいい質問だったのだと思います。

番組では損害保険にも話題が及びました。西日本豪雨(7月豪雨)による損害保険会社への影響を聞かれ、「おそらくワースト5に入るくらいの支払額になるのでは」「でも、この規模の保険金支払いであれば経営が揺らぐなんてことはない」と言い切ってしまいました。
3メガ損保が10日に発表した7月豪雨による支払見込額の合計は約1500億円とのことで、かなり大きな金額になるようです。火災保険の支払いが多いのは当然として、自動車保険の支払いが多いのが今回の特徴かもしれません。

※BS11オンデマンドの写真も張り付けておきましょう。

 

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