08. ディスクロージャー

決算短信の見直し案

 

「非財務情報の開示」についての議論を聞くために
金融審議会ディスクロージャーWGに出席したところ、
情報開示が後退しかねない話をしていて驚きました。

このWGでは、持続的な企業価値の向上に向けて
企業と投資者の建設的な対話を促すという観点から、
開示情報の提供のあり方を有識者が議論しています。
金融審議会WGのサイトへ

議論のなかで、3つの開示書類、すなわち「決算短信」
「事業報告・計算書類」「有価証券報告書」について、
開示内容をそれぞれの目的に応じて整理しました。

決算短信の目的は「投資者の投資判断に重要な情報を
迅速かつ公平に提供する」となります。

そこで決算短信について次の提言案が示されました。

①情報についての速報性が要求され、公表前の監査は
 不要であることを明確にする。

②速報性がそれほど求められない項目(例えば、経営方針)
 については、有価証券報告書で記載することとする。

③記載を要請する事項をサマリー情報、経営成績等の概況、
 連結財務諸表及び主な注記に限定し、その他は企業が任意に
 記載できることとするなど、義務・要請事項を可能な限り減らす。

同時に示された東証の静委員による見直し案は次の通りです。
資料(静委員)

上記に沿った内容ですが、4ページが見やすいでしょう。
サマリー情報(=短信の表紙の部分)を「義務」から「要請」
としたうえで、

・財務諸表と主な注記の開示を要請していたものを、
 投資判断を誤らせる恐れがない場合には開示不要

・「継続企業の前提に関する重要事象等」も開示不要

などが示されています。

これらの整理・合理化によって、「より自由な開示を促す」
「空いた時間を投資者との対話にあてる」というのが
このWGの提言なのでしょうか。

そもそも現在の決算短信で開示義務があるのは
サマリー情報のうち、いくつかの指標だけ(監査も不要)。
あとは取引所の「要請」に基づいて記載しているもので、
有価証券報告書のような記載義務はありません。

「義務」と「要請」の違いは、WGの1回目で静委員から
説明があり、議事録では「要請」はあくまで任意と読めます。

それでも上場会社が充実した決算短信を出すのは
東証のガイドラインがあり、半ば義務として従っている
からなのか。私はそれだけではないと思います。

多くの投資家やアナリストは決算発表時に出てくる
決算短信を最も重要な情報源として捉えています。

有価証券報告書が公表されるのはだいぶ先なので、
まずは決算短信をもとに対話がなされるはずです。
だからこそ、上場会社も充実した決算短信を作成し、
公表しているのでしょう。

また、大企業では当日または数日後に決算説明会を
開いており、ここでは決算短信を予め分析したうえで
質疑応答がなされています。

投資家と企業との建設的な対話を促すという観点が
議論の出発点であるはずなのに、現在行われている
対話の重要なツールを後退させるような話になるのは、
いったいどうしてなのでしょうか。

しかも、見直し案は速報性の促進とバーターではなく、
投資家やアナリストにとって一方的に状況が悪化する
という内容です
(これ以上早くしてほしいという声は少なそうですが…)。

ご参考までにWGメンバーの名簿も挙げておきましょう。
投資者の声を代表する委員が少ないような気がします。
WGメンバー名簿

※銀座には意外なところに路地がありますね。
 写真は銀座8丁目です。

 

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楽天vsアナリスト

 

先週の火曜日(2日)に発表されたものなので、
もう話題としては過去の話になりつつありますが、
やはり「アナリスト」としては触れないわけにいきません。

JASDAQに上場している楽天が、あるアナリストのレポートに対し、
改善を要望したものの、十分な修正がなされなかったとして、
面会の経緯とともに次の一文を公表しました
(東証への適時開示というかたちで)。

「当社としては同氏による過去及び将来のレポートは当社への
 投資判断の一助とはなりえないと判断しており、投資家の皆様に
 おかれても参考とされないようお勧め致します。また、当社は今後
 同氏の取材については一切お受けしません。」

楽天のHPへ

開示内容が会社とアナリストのやり取りの経緯だけであれば、
投資家への情報としてわかるのですが、最後の一文はいただけません。

まず、アナリストレポートが投資判断の一助となるかどうかは
投資家が判断するものであり、(気持ちはわかるとはいえ、)
投資対象である会社が判断するものではありません。

そうはいっても、何度説明しても理解してくれないアナリストや
投資家もいるでしょうから、私は反論はありだと考えています。

ただし、「今後同氏の取材については一切お受けしません」
というくだりは楽天にとってマイナスでしかありません。

あくまで想像ですが、楽天はどのアナリストにも同じ水準の
情報しか提供していないと思います。
しかし、こう書いてしまったことで、市場は楽天を、
選択的に情報を出す会社だと判断せざるをえないはず。

楽天はどうして最後の一文を出してしまったのでしょうか。

せっかくなので、楽天がどのようなIR資料を使っているのか
いくつか見てみました。

楽天というと一般にはネット通販のイメージがありますが、
もはやバランスシートは金融会社そのものなのですね。
ノンバンクに加え、銀行、証券、生命保険とそろっており、
確かに金融の知識がないと分析は難しそうです。

そういえば、ソニーのアナリストも金融・保険事業の扱いに
苦心していたのを思い出しました。

楽天生命は昨年10月にグループ入りしたばかり
(旧アイリオ生命ですね)。
保険料収入、資産規模ともに300億円弱の会社ですが、
2013年度第1四半期のスライド資料を見ていたら、
MCEVを公表していて驚きました(簡易計算ベースとのこと)。

※地方鉄道シリーズ(?)第2弾は伊豆箱根鉄道。
 修善寺(写真右)に行ったときのものです。

 

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公社債の残存期間別残高

 

生保は以前から「有価証券残存期間別残高」という
データを公表しています
(大手中堅9社以外はディスクロージャー資料のみ)。

このデータを見ると、各社が保有する公社債の
残存期間を年々長期化してきたことがうかがえます。

例えば、1年以下=0.5年、1~3年=2年、3~5年=4年、
5~7年=6年、7~10年=8.5年、10年超=15年として
残存期間を推定してみましょう。

2003/3期と2013/3期の推定残存期間を比べると、

 日本生命 6.6年 → 11.7年
 第一生命 5.7年 → 12.3年
 住友生命 5.0年 → 12.2年
 明治安田 5.8年 → 12.0年

こんな感じになっています。

ただ、このところ困ったことが生じてきました。
いまや生保が保有する公社債の7、8割が「10年超」なのです。

ところが、10年超の債券がひとくくりで公表されているので、
20年債でも40年債でも同じ区分に入ってしまうのですね。

上記の推定では「10年超」を「15年」として計算しましたが、
もし「20年」で計算すると、残存期間は15年程度となります。
20年国債を中心に買っている会社と、40年国債もそこそこ
買っている会社では、残存期間はかなり異なるはず。
今の開示ではこのあたりは全くわかりません。

せっかく「有価証券残存期間別残高」を公表しているのに、
公社債の7、8割が同じ「10年超」の区分となっている。
このような現状を踏まえ、次回の決算発表までには
ぜひ「10年超」の細分化をお願いしたいです。

※左の写真は先週の父の日のプレゼントです♪

 

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ライフネット生命の情報開示

S&Pが米国債の格付けをAAAから1段階引き下げました。
米国債は日本国債と違い、自国外の保有者がたくさんいます。
ただ、日本における日本国債のように、グローバル経済のなかで
米国債に代わるものはありません。
それほどの混乱はないと思うのですが、どうでしょうか。

さて、7月30日に続き、ディスクロージャー誌の話です。

ある会合でいただいた「ライフネット生命の現状2011」を
アナリスト目線で(?)見てみました。
ライフネット生命のHP

2008年11月に開始した「付加保険料の全面開示」は、
ディスクロ誌にも掲載されています
(詳細はHPとなっています)。

任意開示の三利源損益(危険差益、費差益、利差益)は
利源分析の解説付きで推移が示されていますし、
ソルベンシー・マージン比率の説明もわかりやすく
工夫されています。

驚いたことにエンベディッド・バリュー(EV)の開示もありました。
しかもEEV(ヨーロピアン・エンベディッド・バリュー)です。
開業後3年ということを踏まえ、事業費の前提を工夫した
「均衡事業費ベース」での開示もありました。
新しい会社なので発生率や事業費の前提が安定していない
のではないかと思いますが、意欲的な取り組みだと思います。

あえてコメントするとすれば、開業後3年という新しい会社で、
かつ、急成長している(=コスト負担がかさむ)ところなので、
資金繰りの説明があるとありがたいですね。

例えば、2010年度の保険料収入18.2億円に対し、
事業費は27.2億円です。
新設会社は保険金等の支払いは少ないものの、
一般にコスト負担がかさみます。

韓国では1990年代後半に中小生保が相次いで破綻しましたが、
大半は歴史の浅い会社で、市場シェアを確保するため
コストをかけすぎたのが破綻の遠因になった模様です。

ライフネット生命のキャッシュ・フロー計算書を見れば、
有価証券の売却によるキャッシュインフローが
ネットで11.7億円あるので、概ねわかるのですが、
何かコメントがあるとよかったかもしれませんね。

※月島で「もんじゃの会」がありました。
  写真は「まぐろもんじゃ」です。

 

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保険会社のディスクロージャー誌

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2009年版の生損保ディスクロージャー誌が公表されています。
多くは「○○生命の現状」というタイトルの冊子です。

決算発表時には公表されないデータもいくつかありますし、
沿革や経営陣、経営方針といった会社情報をつかむのに
ディスクロ誌は役立ちます。

かつてはディスクロ誌を入手するのが結構大変でした。
保険業法で一般の縦覧が義務付けられているにもかかわらず、
頼んでももらえなかったり、いちいち目的を聞かれたりしました。
今は各社のHPからダウンロードすることができます。

ディスクロ誌にしか載っていないデータとしては、

 ・契約年度別の責任準備金残高(生保)
 ・契約者配当準備金明細表(生保)
 ・利息及び配当金等の分析(生保)
 ・受再保険料・出再保険料の推移(損保)
 ・出再保険料の格付けごとの割合(損保)
 ・事故発生からの期間経過に伴う最終損害見積額の推移(損保)

などなど。

このほか上場損保では、決算短信が連結中心となったため、
ディスクロ誌にしか掲載されない個別決算データもあります
(有価証券の時価情報など)。

昨年5月に開業したライフネット生命のディスクロ誌を見たところ、
三利源やソルベンシー・マージン比率(SMR)の考え方の図解、
保険料の構成についての解説、第三分野のストレステストおよび
負債十分性テストの説明などが載っていて、参考になります。

ちなみに同社のSMRは41117%(2009年3月末)でしたが、
開業初年度ですし、SMRにはビジネスリスクが反映されないため、
これは指標の限界なのでしょう。

※写真は伊豆急「リゾート21」です。

 

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EVショック

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T&Dホールディングスの2009/3期決算発表を受けて
翌日の株価が急落しました。発表後2日間で15%超の下落です。

株式アナリストではないので断言はできませんが、
EV(エンベディッド・バリュー)が予想以上に減ってしまったことが
影響したのではないかと思います。

EVは株主から見た生命保険会社の価値を示すものです。
年度末の純資産に、保有契約が将来生み出す利益を加えたもので、
会計情報を補うものとして活用されています。

T&Dが発表した2009/3末のEVは8665億円と、
前期に比べ7551億円の減少となりました。
株価下落などにより純資産が5218億円減ったうえ、
金利低下などにより保有契約価値も2333億円減ったためです。

株価下落などによる影響はともかく、金利低下による影響が
これほど大きいとは意外でした。

長期の国債利回りは1年前に比べ、それほど下がっていません。
ところが、T&Dが計算で使っている金利スワップレートは
おそらく金融市場混乱の影響で国債利回りを大きく下回ってしまい、
結果的にEVを1000億円単位で押し下げてしまいました。

多くの会社が発表しているEV(トラディッショナルなEV=TEVと言います)
とは違い、T&DのEVは「EEV」といって、できるだけ恣意性を排除し、
市場整合的な評価となるように工夫されたものです。

それでも今回のように市場が異常な動きを示すと、
「市場整合的な」評価であるEEVにも影響してしまうわけですね。
難しいものです。

EVに関してはT&D以外でも、次のような不思議な?動きがあります。
今後解読していきたいと思います。

・新契約ANPが前期比18%増、新契約高も増えたにもかかわらず、
 EVの新契約価値は前年の37億円から2億円に減少
 (東京海上日動あんしん生命)

・資産運用以外の前提条件が変わった(詳細不明)ことにより、
 EVの保有契約価値が1904億円→1820億円と減少
 (損保ジャパンひまわり生命)

・新契約ANPでも新契約高でも、第一生命はソニー生命の数倍規模ですが、
 新契約EVはあまり変わりません。
 もちろんEVは単純比較できないのですが、これをどう解釈するべきか。

・T&Dフィナンシャル生命や東京海上日動フィナンシャル生命、
 第一フロンティア生命といった変額年金を主軸とする会社の
 新契約EVがマイナスとなっているのですが、どう見るべきか。

 

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テレビ東京「NEWS FINE」に登場します

明日(16日)15:35からのニュース番組に登場予定です。
テーマは「損害保険業界」。
先週末に発表された4-12月期決算と3社統合計画が
話の中心になると思います。

NEWS FINEのHPへ

その4-12月期決算ですが、情報が限られているので
分析するのが結構大変です。
おまけに発表が13日午後に集中した(生損保とも)ので、
しばらくパニック状態でした。

今回の開示内容には不満が残りました。
例えば、9月以降の金融危機で保険会社の健全性に
関心が集まっているにもかかわらず、損保各社は
ソルベンシー・マージン比率やその内訳を公表していません
(この点、生保では一部の会社を除き、公表しています)。

有価証券の含み損益も連結ベースだけですし、
外貨建資産の残高もヘッジポジションもわかりません。

販売面では、自賠責保険の大幅値下げの影響を除いて
分析したいのですが、どうしても推計に頼らざるを得ません。
もっとも、生保は「前年同期比」がなく、単に当期の数字を
出しただけという会社が大半でした。これはひどい。

どうせ公表するのであれば、単にルールに従うだけではなく、
もう少し利用者のことを考えて出してほしいです。

 

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「保険の比較情報」はどうなったのか?

本当は昨日書こうと思っていたのですが、「3社統合報道」で飛んでしまいました^^
少し長めですが、お付き合い下さい。

金融庁の「保険商品の販売勧誘のあり方に関する検討チーム」の提言を受け、
 ・最低限の情報提供として「契約概要」「注意喚起情報」
 ・顧客ニーズに合致しているかどうかを確認する「意向確認書面」
の二つは曲がりなりにも実現しました。

ところが、最後の「適切な比較情報の提供を促す環境整備」については
結果的に放置されたままです。

 検討チームの提言はこちら↓
 「保険商品の販売勧誘のあり方に関する検討チーム」提言

そして「比較情報の提供を促す環境整備を図るための協議会」の代わりに(?)
業界団体が主催する「みんなが主役、保険商品の比較に関する自由討論会」が
2007年7月から2008年5月にかけて4回にわたり開かれたものの、
単に意見や要望を並べただけの報告書が作成され、おしまい。
あとは報告書を参考にそれぞれの立場から検討しろとのことです。

 報告書はこちら↓
 
 「みんなが主役、保険商品の比較に関する自由討論会」報告書

これで「適切な比較情報の提供」が進むなら、何もしなくても進みます。
実際、報告書を受けてまともに対応しているように見えるのは
どうも損保協会だけのようです(協会長が就任時に言及しています)。

さて、以前ご紹介した出口さんの著書「生命保険はだれのものか」に、
「約款と(年齢別の)保険料表の開示を生保会社に義務づけるべき」
とありました。

私もまずはこれだと思います。第三者が比較情報を提供しようにも、
きちんとした元データが少なすぎるのです。
他方で、すぐに保険業法第300条の「誤解させるおそれ」が持ち出され、
「比較情報を提供する第三者を規制すべきだ」となってしまいます。
規制って、それほど万能なのでしょうか?

もちろん、各社の自主的な情報開示は大いに進めていただくとして、
行政は自らが商品の審査をするだけではなく、「約款と保険料表を開示させ、
第三者が保険の比較情報を提供できる仕組みを整備する」という出口案に
私も賛成です。
具体的な保険料表の開示内容は、それこそ「協議会」で議論したらいいでしょう。

この件もやはり、「自己規律」「規制・監督」に加え、「市場規律」の3点セットで
進めていく話だと思います。

 

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米国生保の投資家向け説明会

先週(4日)上場損保の決算説明会の話を書きましたが、
米国では先週後半から今週にかけて、大手生保の説明会がありました。
ニューヨークなのでさすがに出席していませんが、
HPで音声を聞いたり、資料をダウンロードしたりできます。

このところプルデンシャル、ハートフォード、メットライフといった
米国大手生保の株価が大幅に下がり、信用スプレッドも極端に拡大しています。
このため、説明の中心は「資本」「資産内容」「流動性」についてでした。
1年前とは様変わりです。

ある会社では、「S&P500が700まで下がっても、AA水準の資本を維持できる」
というコメントがあったり(ちなみに足元の株価水準は900程度です)、
政府の資本注入プログラムへの参加を公表したりと、
かなり踏み込んだ説明がありました。

各社の説明会(特にハートフォード)を受けて、株価は急回復。
説明会はとりあえず成功だったと言えるでしょう。

米国生保の現状については、どこかでレポートを書く予定です。

 

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