「非財務情報の開示」についての議論を聞くために
金融審議会ディスクロージャーWGに出席したところ、
情報開示が後退しかねない話をしていて驚きました。
このWGでは、持続的な企業価値の向上に向けて
企業と投資者の建設的な対話を促すという観点から、
開示情報の提供のあり方を有識者が議論しています。
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議論のなかで、3つの開示書類、すなわち「決算短信」
「事業報告・計算書類」「有価証券報告書」について、
開示内容をそれぞれの目的に応じて整理しました。
決算短信の目的は「投資者の投資判断に重要な情報を
迅速かつ公平に提供する」となります。
そこで決算短信について次の提言案が示されました。
①情報についての速報性が要求され、公表前の監査は
不要であることを明確にする。
②速報性がそれほど求められない項目(例えば、経営方針)
については、有価証券報告書で記載することとする。
③記載を要請する事項をサマリー情報、経営成績等の概況、
連結財務諸表及び主な注記に限定し、その他は企業が任意に
記載できることとするなど、義務・要請事項を可能な限り減らす。
同時に示された東証の静委員による見直し案は次の通りです。
資料(静委員)
上記に沿った内容ですが、4ページが見やすいでしょう。
サマリー情報(=短信の表紙の部分)を「義務」から「要請」
としたうえで、
・財務諸表と主な注記の開示を要請していたものを、
投資判断を誤らせる恐れがない場合には開示不要
・「継続企業の前提に関する重要事象等」も開示不要
などが示されています。
これらの整理・合理化によって、「より自由な開示を促す」
「空いた時間を投資者との対話にあてる」というのが
このWGの提言なのでしょうか。
そもそも現在の決算短信で開示義務があるのは
サマリー情報のうち、いくつかの指標だけ(監査も不要)。
あとは取引所の「要請」に基づいて記載しているもので、
有価証券報告書のような記載義務はありません。
「義務」と「要請」の違いは、WGの1回目で静委員から
説明があり、議事録では「要請」はあくまで任意と読めます。
それでも上場会社が充実した決算短信を出すのは
東証のガイドラインがあり、半ば義務として従っている
からなのか。私はそれだけではないと思います。
多くの投資家やアナリストは決算発表時に出てくる
決算短信を最も重要な情報源として捉えています。
有価証券報告書が公表されるのはだいぶ先なので、
まずは決算短信をもとに対話がなされるはずです。
だからこそ、上場会社も充実した決算短信を作成し、
公表しているのでしょう。
また、大企業では当日または数日後に決算説明会を
開いており、ここでは決算短信を予め分析したうえで
質疑応答がなされています。
投資家と企業との建設的な対話を促すという観点が
議論の出発点であるはずなのに、現在行われている
対話の重要なツールを後退させるような話になるのは、
いったいどうしてなのでしょうか。
しかも、見直し案は速報性の促進とバーターではなく、
投資家やアナリストにとって一方的に状況が悪化する
という内容です
(これ以上早くしてほしいという声は少なそうですが…)。
ご参考までにWGメンバーの名簿も挙げておきましょう。
投資者の声を代表する委員が少ないような気がします。
WGメンバー名簿
※銀座には意外なところに路地がありますね。
写真は銀座8丁目です。
※いつものように個人的なコメントということでお願いします。
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