損害保険統計号から(inswatchに掲載)

直近のinswatch Vol.915(2018.2.12)に執筆した記事のご紹介です。
他の記事では、小林俊幸さん(イーアライアンス/イーブレイン)の「ライフプランって良い結果ばかりじゃないでしょ!?」が印象に残りました。

損害保険統計号から

最新版の「インシュアランス損害保険統計号」(保険研究所)が手元に届きました。昨年度のデータなので、もう少し早く刊行されるとありがたいのですが、業界分析にあたり、個社の財務データを横比較で把握できるなど、生命保険統計号とともに重宝しています。
今回はこの統計号を使い、日本の損保業界の姿を探ってみましょう。

3メガ損保の高シェアは不動

直近の統計号には元受会社として28社が掲載されていました。非掲載のチューリッヒを含め、改めて市場シェアを確認すると、3メガ損保グループに所属する会社が元受保険料の85%前後を押さえているとわかりました。これは10年前とほぼ変わらない水準です。
これに対し、外資系の元受シェアは1割弱で、10年前に比べるとやや下がり気味です。ダイレクト保険のシェアが年々高まっているとはいえ、今やダイレクト保険9社(セゾンを含めると10社)のうち、外資系は3社のみ。この分野でも3メガ損保グループが目立ちます。

自動車保険に限ると、昨年度は2ケタ成長を果たした会社が4社ありました(朝日火災、セゾン、SBI、イーデザイン)。
このうちSBIとイーデザインはダイレクト自動車保険の新興勢力、セゾンは数年前からSOMPOグループの通販会社として、やはりダイレクト自動車保険で業績を伸ばしています。
もう1社の朝日火災は近年、長期分割払い契約が可能な自動車保険を、比較推奨型代理店などに向けて投入し、急成長しています。

代理店手数料率は強含み

次に、事業費内訳表に「代理店手数料等」という項目がありますので、こちらを確認してみましょう。

決算発表で公表される「諸手数料及び集金費」には出再または受再に係る手数料が含まれています。このため、出再の多い会社では事業費が小さくなる傾向があります(出再手数料は出再先から受け取るものなので)。
例えば、昨年度のAIU(現AIG)の諸手数料及び集金費は207億円のマイナスでした。当然ながら同社の代理店手数料がマイナスということはありません。AIUは元受保険料の7割以上を出再していたため、受け取る手数料が752億円に上り、事業費を吸収していました(ただし、出再により正味の付加保険料も小さくなります)。

元受保険料に対する代理店手数料(直販社員の募集費を含む)の割合は、大手の場合、16~17%となっています。10年前と比べると、おそらく代理店の皆さんの実感とは異なり、むしろやや高まっているようです。手数料率の低い代理店が減ったことが一因と考えられます。

負の遺産も存在

1年契約が中心とはいえ、損保会社の負債の多くは責任準備金です。このうち、実質的には支払余力として考慮すべき異常危険準備金を除いた「普通責任準備金」のなかには、未経過保険料のほか、会社によっては今でも生保のような長期の円金利負債(払戻積立金)を抱えています。

元受28社のうち、昨年度末時点で普通責任準備金に占める払戻積立金のウエートが4割以上の会社は、東京海上日動(43%)、損保ジャパン日本興亜(42%)、三井住友海上(46%)、共栄火災(45%)、朝日火災(79%)の5社でした。
大手3社の払戻積立金の大半は、1990年代前半に販売した年金払積立傷害保険と考えられます。高金利時代に提供したものなので予定利率(保証利率)が高く、大手損保のいわば負の遺産となっています(加入者にとってはお宝契約ですね)。
中堅2社については、それぞれのビジネスモデルと関係がありそうです。

なお、長期契約といえば、2015年上半期に駆け込み販売があった長期火災保険を思い起こします。前年の統計号をざっと見たところ、責任準備金が増えたとはいえ、貯蓄性の強い商品ではないため、規模としては限られているようです。
ただし、最長36年契約でしたので、提供した損保会社は数十年先までの自然災害リスクを抱えていることになります。仮に風水災害のリスクが高まっていった場合には、どこかの時点で負債を再評価(=損失を計上)しなければなりません。
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私は2か月に1度のペースで寄稿しています。

※沖縄に「赤道」という地名があるのですね(「あかみち」です)。下の写真も沖縄ならでは。

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

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